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4E201

TES大好き、もきゅがスカイリムの物語をお届けします

◆Chapter 2-17: それぞれの道

2018
20

イェアメリス達が目を覚ますとアルヴォア達は既に帰宅しており、テーブルを囲んでなにやら話し込んでいる最中だった。昨晩、アグリと共に留守をすることになり、暖炉に掛かったシチューをかき混ぜていたところまでは覚えているのだが、その後の記憶があやふやだ。寝ぼけてぼーっとする頭を振ると彼女は、村人達が山賊の侵入に備えて警戒していたことを思い出した。


暖炉のパチパチという音だけが鍛冶屋の家の中で響いていた。


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「アルヴォアさん?」


皆一様に疲れた顔をしている。山賊はどうなったのだろう? 挨拶の代わりに出てきたのは問いかけの言葉だった。


「やられたよ」
アルヴォアは起きてきた客を一瞥すると、リンゴを一口囓った。その横で、妻のシグリッドは手慣れた様子で朝食の仕度に取りかかっている。今朝のリバーウッドはちょっとした騒ぎに包まれていた。


「リバーウッド・トレーダーに盗みが入ったらしい」


「襲撃されたの?!」


「いや、ちょっと違うんだ」


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昨晩から村人たちは夜通し交代で見張りに努め、賊の侵入に備えていた。平時の夜よりも格段に警戒が高まっていたのは確かなはずだった。その警戒の中、山賊が村に侵入してきたという。"してきたという"と言う曖昧な表現になるのは、その山賊達を誰も目にしていないからであった。


「山賊って言うから、文字通り襲撃を予想していたんだが、どうやら姿を隠す薬を使って忍び込んだらしいんだ。カイネに感謝すべきことに、幸い怪我人とかは出なかった。だが、しっかりと仕事はされていったよ。それにしても、盗みとは・・・」
鍛冶屋の主人は、少し拍子抜けしたような、一方で安堵したような微妙な顔をしていた。


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「どこが狙われるか分かっていれば、もう少し手の打ちようもあったんだけどな」
しれっとした顔で悔しがってみせたアーセランは、山賊が村に現れるかも知れない事は伝えていたが、肝心の彼らの狙い、ルーカンの店、そして金の爪のことは黙っていた。


「あんたたちが聞いてきた"韋駄天"のあだ名は伊達じゃなかったよ。荒事にはならなかったが、まんまと奪われた。いま村のもんがあたりを捜索してる」


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「あんたじゃないの?」


「ええーっ?!!」
イェアメリスに疑われて、アーセランは飛び上がった。その様子がいささか常軌を逸しているように見え、イェアメリスは疑念を深めた。


「まさか、あんたと同じ技使う山賊がいたなんてね・・・」
イェアメリスは小声で呟くと、他の者に気付かれないようにアーセランを突っついた。


「えっ? えっ? 俺取っちゃいねぇよ」


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アーセランもはどもる。この小柄なボズマーは、商船に密航するときも、ソリチュードに停泊している船に忍び込んだときも、透明化の薬を使っていた。どちらも彼女の薬を使ってだ。イェアメリスが指摘したのはそのことだったのだが、アーセランは自分が金の爪を盗んだと勘違いされたかと思ったのであった。


「誰のこと言ってるのよ。あっ、もしかして本当にあんた盗んだんじゃないでしょうね?」


「バっ、バカ言うなよ。俺っちそんなことしねえって!」


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「ふ~ん」イェアメリスは疑惑のまなざしでアーセランを見た。「あんた、前科あるからね」


「違うって、あれは自分の正当な荷物を取り返しただけだろ!」


「二人とも、何ブツブツ言ってるの?」
アグリが不思議そうに見ているのに気付くと、これ以上詮索されてはたまらんとばかり、アーセランは口を貝のようにつぐんでしまった。


(こっ、この女っこ。なんて勘が鋭いんだよ・・・)


「ふぅん・・・、まあいいわ、あれ? そういえば、何か忘れてるような・・・あたし。ねぇ、メリス、盗みが入ったのって・・・」


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リバーウッドの小事件が起きた現場、そこに関係のある何かが昨日あったはずだ。アグリは顎に手を当てると、昨日の出来事を思い出している風だ。


「ルーカン・・・、ルーカン? バレリウス?」


「何?」


「どうしたんだ?」
イェアメリスもアグリに倣って昨日のこと・・・リバーウッドに来てからの出来事を反芻する。急に黙り込んだエルフの娘二人が変な様子なので、皆が注目し始める。そして、しばらく黙り込むと、イェアメリスは素っ頓狂な声を出した。


「そうよ! 手紙! 思い出した。あれ、どうしよう・・・」
彼女は困ったようにアグリを見た。子供達を探すのと山賊騒ぎで完全に頭から飛んでしまっていたが、スヴェンとファエンダルの手紙を彼女は持っていたのだった。


「手紙?」
アルヴォアとシグリッドも興味を惹かれたように集まってくる。イェアメリスは昨日、ドルテとフロドナーを探しに行ったとき、ルーカンの妹、カミラに片思いする二人の村人に無理矢理渡されたものだ。


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「・・・でね、こんなことがあったのよ。あたしは旅人だから、都合が良いんですって」
テーブルの上に二通の手紙を並べて、昨日の出来事を話した彼女は、困ったようにリバーウッドの住人を見た。


「あいつら、村が大変なときに、また碌でもないことを・・・」
アルヴォアが呆れたようにこぼすと、朝食の仕上げをしながらシグリッドも話に加わってきた。


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カミラを巡る二人の男の三角関係。小さい村ではゴシップは娯楽だ。シグリッドは心持ち楽しそうに、二人の若者を比べはじめた。


「ノルドの若者・・・スカルド(戦士詩人)の卵のスヴェンと、ボズマーの若者・・・弓師で木こりのファエンダルかぁ。・・・そうねぇ。あたしだったらファエンダルかしら。スカルドは儲からないもの。嫁いでも苦労するのが目に見えてるわ」


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シグリッドの言うとおり、スカルドはノルドの若者ならば一度は憧れる職業だが、収入は安定しない。


戦いと言っても古のサーガのように王と英雄、試練と栄光、美女と魔物・・・などと関わるわけでもなく、金のために何処かに傭兵として加わったり、下手をすると山賊崩れになったりする。詩人業の方も渡り鳥のようなものだ。


戦士詩人と言えば聞こえは良いが、妻は家に残されて別の仕事を持たなければならないのが殆どであった。


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「まあ、あたしはうちの人が一番。鍛冶屋に勝る仕事はないわ」
生々しいスカイリムの家庭事情を聞かされて、イェアメリスはもやもやしてきた。島では何とか一人で生きて来た。しかしどこか別の地でアスヴァレンと二人、どんな生活をするのか、いやむしろできるのか、未来の姿を頭の中で描いてみようとしても全く浮かんでこない。・・・そもそも一緒に生活できるのかも想像できない。もやもやは深くなるばかりだった。


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「はいはい、ごちそうさま」アグリはおばののろけを聞き流すと、アルヴォアにも聞いてみることにした。「おじさまはどっちの味方なの?」


「味方も敵もないだろう」


アルヴォアは困ったような顔で男性陣を見た。アスヴァレンはいつも通り無関心。アーセランは一生懸命ラディッシュのシチューを凝視、ハドバルも急に足の包帯が気になりだしたようだ。誰もが自分に振らないでくれ、とあらぬ方を見ている。


仕方なく、彼は口を開いた。


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「他人の恋に口を挟むなんて、真のノルドとしては相応しくないが・・・俺はどちらかと言われるなら、スヴェンだな」鍛冶屋は少し考えた末、妻とは違う相手を選んでみせた。


「イ・フレにかけて。どうして?」
アグリは食いついてきた。イェアメリスも少し興味を引かれ、鍛冶屋の次の言葉を待つ。
鍛冶屋は少し真面目な顔になって続けた。


「人間とエルフの間には超えられない壁があるだろ」


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「なに、それは」


「・・・寿命だ。カミラにとってファエンダルは一生に一度の男かもしれんが、ファエンダルの長い人生の中でカミラはほんの一瞬の女、出来事だ」


驚いたアグリがかみついた。
「そ・・・それって、あたし達のことを言ってるわけ?! あたしハドバルがおじいちゃんになって、し・・・死ぬときだって、一緒に死ぬもん!」


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「アグリ・・・そんなこと言わないでくれ」
ハドバルは照れたような、困惑したような、そして少し寂しそうな複雑な表情をした。
「俺は自分が死んでもその先アグリ、お前が生きて幸せになってくれればと思ってる」


「あなたたちも、たっぷりごちそうさま。・・・やっぱりねぇ、他人の恋話なんてしても良いこと何もないわ」
イェアメリスはこっそりアスヴァレンを盗み見た。


(あんなに愛されているなんて・・・いいなぁ・・・。この人は・・・間違ってもそんなこと言わないだろうなぁ)


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矛先が完全に自分から外れたとみて、アーセランが再び口を開いた。


「メリスちゃん、何変な顔してんの?」


「う、うん・・・今の聞いてたら、あたしは・・・、どれぐらい生きるのかな、って思っちゃって」


「混血は最終的には母親の寿命を受け継ぐんじゃねぇのか?」


アルトマーとブレトンの狭間で揺れる娘は首を振ると、ボズマーに説明した。


「いいえ、違うわ。混血は最終的には母親の種族の肉体特性を受け継ぐ・・・、のであって、魂に関しては別らしいわ。だから。どうなるかなんてわからない」


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「わかった、つまり・・・アスヴァレンのダンナを追い越してばあさんになっちまうかも知れないって心配してるんだな」


「なっ、なっ・・・なによ。何てこというの! あんたって人は黙っていると何かしでかすし、口を開けばろくなこと言わないわね!」


「黙って居ると何かしでかすことにかけちゃ、メリスちゃんも相当なもんだとおもうけど?」


イェアメリスはニヤニヤしているボズマーに指を突きつけた。
「もういい! あんたはカブを見てなさい、カブを」


「今日のはカブじゃねぇぜ、ラディッシュ、な」


「カブでもダイコンでもどっちでもいいわよ!」


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「おっ、こわ~、今しているのは寿命の話しじゃなくって、手紙の話しだろ? イ・フレにかけて・・・メリスちゃんいつもみたいに安請け合いしたんだろ?」


「安請け合いって何よ! それにこの手紙は無理矢理渡されたの」


「って、二通もかよ・・・安請け合いかお人好しか知らねぇけど、ちょっと隙ありすぎんじゃねえの?」


「むぐっ・・・」


アーセランは呆れたように手のひらを上にして肩をすくめた。
「で、結局どうすんの。手紙、カミラって女に渡すんか?」
冷静に突っ込まれて、再びイェアメリスとアグリは顔を見合わせた。


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「何もせずに立ち去るのがいいだろうな・・・」
寡黙な錬金術師の思わぬ発言に、全員が声の主に注目する。
ずっと黙ってはいたが、話は聞いていたようだ。


「えっ?」


「アルヴォアも言ってただろう? 他人の色恋だ。何かしたら、誰かが気まずくなるのは避けようがない。幸い俺たちは通り過ぎてゆく旅人だ。手紙なぞ握りつぶして黙って消えればいい」


「アスヴァレンのダンナ・・・あんた賢者か!」


「どうせ今日、発つ身だ」


イェアメリスは微妙な顔だ。
「あたしはどうなるわけ。なんて言うか・・・この村通る度に手紙のこと思い出すのはイヤだわ。・・・アグリ、あなたカミラさんとは仲がいいんでしょ?」イェアメリスはいいことを思いついた、とばかり、新しい友人を見た。
「手紙があったことだけこっそりと伝えてあげればいいじゃない。女同士話のネタにしたらいいわ。カミラさんも求婚されるなら、相手がどのような男たちかを少し知っておいても損じゃないでしょ」


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ハドバルの妻は情けない顔になった。半笑いで後ずさる。
「い、い、いや・・・そうなんだけどね・・・でも・・・関わり合いたくないわ。あたし今後もリバーウッドに住むわけだし、居づらくなったりするの嫌だもん」


二人はそれぞれ味方を捜そうと、自分の身内に訴えかけた。
「自分たちの悪巧みが功を奏さないまま、何がどうなったのか分からない状態でやきもきさせとけばいいのよ。スヴェンとファエンダルにはそれぐらいがいい薬だわ」とアグリが言えば、


「でもっ! ・・・やり方はどっちも幼稚で酷いけど、二人とも真剣なのだけは間違いないわ」とイェアメリスが返す。


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収拾が付かない様子を見て、アルヴォア、シグリッドは揃ってアスヴァレンを見た。
「俺を見るな」


「あんたが一番分別ありそうに見えるから」


引っ込みが付かなくなったイェアメリスは、アスヴァレン達を無視してそう宣言した。
「とにかく、村を出るまでに手紙は片付けますからね」


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彼女は何か考えがあるのか、猛烈な勢いで朝食を平らげはじめるのだった。




・・・




イェアメリスは嫌がるアグリを連れて、リバーウッド・トレーダーにやってきた。商人として店の品揃えが気になるとかで、何故かアーセランも付いてきている。


リバーウッド・トレーダーはアルヴォアの家の道を挟んだ斜め向かいだ。この村唯一の雑貨店で、独自のルートでシロディールから輸入した産品や、スカイリムで有用な雑貨、乾物など一部の食料品なども扱う。彼女たちが驚いたことに、昨晩盗みが入ったばかりだというのに、もう営業を再開している逞しさだ。


食事の後、自身の旅準備もそこそこに、勢いに任せて出てきたイェアメリスは、手紙の件を片付けてしまおうと意気込んでいた。しかしいざ来てみるとどう切り出したらいいか分からず、二つの手紙をそれぞれの手に持って、扉の前でもじもじしはじめた。


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「・・・とは言ったものの、どうしたらいいのかしら・・・どうしよう・・・、アグリはどう思う?」


アグリは一緒に来てしまった事を明らかに残念がっており、気乗りのしない顔をしている。
「どうしようって、あなたアスヴァレンさんに反抗したいだけでしょ? 子供なんだから、もう」


「むぐっ・・・。アグリだって大して変わらない歳なのに・・・。いいわ、言い出しっぺだし、あたしが持ってく。でもアグリも着いてきてね」


「え~、ホントに行くの?」


「いいから、行くわよ」
彼女が声高らかに宣言した時、横を男が一人すり抜けていった。野宿をしていた兜の男、ヒェルムであった。


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「あ、ヒェルムさん? 買い物?」


「おはよう。ナベ返しに行ったら居なかったけど、こんなところにいたんだな。ああ・・・ヘルゲンから逃げるときにいろいろ持ってきたものを何か売って、準備をしようと思って」


彼女たちは、兜の男と共に、雑貨屋に足を踏み入れた。
薄暗い店内の右側にはカウンターが有り、乾物系の食材から酒や薬品、簡単な武器防具までが並んでいる。


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そのカウンターの中で、髪を短く刈り込んだ男が神経質そうな顔をしていた。あまり雑然さを感じないのは、インペリアルの几帳面さからだろうか。


店に入った彼女たちを出迎えたのは若い女の声であった。
店主と話している。客だろうか? 彼女たちは女の用事が済むまで脇で様子を見ることにした。


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「サマーセット島からの輸入品は一切売らないのよね、ルーカン?」


「残念だが無理だ」


「その、考えていたの・・・特別な品物を色々と揃えた方がいいって。そうすればもっと・・・"幅広い"お客に満足してもらえるわ」


「前にもこんな話をした。俺達は乾物を売っている。サルモールにもコネはない。それだけだ」


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「ええ、分かったから。この場所をもう少し・・・楽しめる場所にしましょうよ。あっ! そうだルーカン、大売出しをしたらどうかと思うの。値段を半分にして、曲芸師も手配して。新しいお客がたくさん来てくれるかも。あっ、シロディールと違って、この辺りにも曲芸師って居るのかしら?」
どうやら店主の身内の様だ。一生懸命アイディアを説明している。


「セール? 新規の客を獲得するために? カミラ、リバーウッドの誰もがここで買い物をしている。客はもう増やせない」


「うーん・・・そうね、じゃあ少し遠出してみたらどうかしら? 商品を外で売るのよ。新しいお客を取り込むためにね。ホワイトランの市場なんてどう? きっとお客さん多く集まるわ」


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「その間だれが店の番をするんだ? お前に、泥棒と客の区別がちゃんとつくのか?」


店主はうんざりと言った顔で妹を見た。「・・・カミラ、本当に? 他にやる事がないのか? 盗みが入ったばかりなんだぞ。いくらでも仕事を見つけられると思うが・・・」


どうやら店主がルーカン、そして話しているのは客ではなく、彼女たちが会いに来たカミラのようだ。

一緒に店に入ったアーセランは、首を振ってため息をついた。


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「ありゃぁ・・・、ダメだな。商売ってもんを分かってない」


酷評するボズマーをイェアメリスはじろっと見る。
「あんたはどうなのよ、大商人"志望"のアーセランさん?」


ボズマーの商人は胸を張った。
「まあ見てなって、近いうちに・・・」


「近いうちに、なぁに?」


「い、いやいや。何でもねぇよ、何でも」


「あやしい・・・」


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ボズマーはあらぬかたを見て目線を逸らした。すると、そのうちカウンターの兄妹はまた喧嘩を始めてしまった。


「誰かどうにかしないと!」感情を昂ぶらせたカミラの声が響く。
インペリアルの男はそれに負けじと言い返す。


「だめだと言ったろ! 冒険も、芝居も、盗賊を追いかけるのも駄目だ!」


「それで、何をするつもりなの? 聞かせてもらいましょう!」


「もう話は終わった」


「はぐらかさないで、ルーカン!」


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ルーカンは妹にそっぽを向くと、彼女たち客に気付いた振りをし、声をかけてきた。
妹との話を切り上げるダシに使われた格好だ。


「ああ、客か。長々と聞かせてしまって悪かった。何を耳に入れたか知らないが、リバーウッド・トレーダーはまだ開店している。遠慮無く買い物してくれ」


「何かあったの?」


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「ああ、確かに多少の・・・窃盗があった。だが売るものは、まだたくさんある。盗賊は一つのものだけを狙っていた」ルーカンは顔を曇らせると、愚痴を漏らした。「装飾品だ、純金のな。ドラゴンの爪の形をしている」


アーセランの耳がピクリと動く。


アグリとアーセランも隅っこに立って彼の話を聞く。いつもの様に朝起きて開店の準備をしようとしたら、爪がなくなっていることに気付いたらしい。侵入者の痕跡や物音は全くなかったという。
兜の男はイェアメリスたちと顔を見合わせた。


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「手伝おうか?」


驚いた様にルーカンが聞き返す。
「本当か?」


男は兜の下で軽く笑った。
「ああ、とりあえず、俺にはすべきことがあるわけでも無い。行く当てが定まるまでもう少しこの村に滞在してみようと思っている。よければ手伝おう」


「ありがたい! シロディールからの最新の積み荷に金貨が入っている予定だ。爪を取り戻してくれたらやるよ」


イェアメリスは雑貨屋の言葉に思わず割り込んだ。


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「ちょっとまって、シロディールから荷は届かないわよ、ペイルパスが封鎖されているもの」


「おい、なんだって。俺を担ごうとしているんじゃないだろうな? ん? お前は誰だ?」


「あたしはイェアメリス。東帝都社の錬金術師よ」


「東帝都社? ああ、あの血も涙もない強欲集団か。で、どうしてそれを知ってる?」


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東帝都社のような巨大な商業組織は、ルーカンのような小売りから見たら恐ろしい相手のようだ。


「ペイルパス峠を見てきたところだから・・・。この人も一緒に」


イェアメリスは兜の男をチラリと見た。すると彼も頷く。


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彼女たちはこれまで見てきたスカイリム南部国境の様子・・・サルモールと帝国兵によって鎖国されている状況をルーカンに語って聞かせた。


自分たちが囚人だったと言うことは伏せたが、ドラゴンの襲来とヘルゲンの滅亡は、インペリアルの店主を大いに驚かせ、怯えさせた。


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「ま、まあ。積み荷の金貨以外にも謝礼にできるものはある。あんた、まだ気が変わったりしてはいないんだろう?」ルーカンは期待する様に兜の男の様子を伺った。


「ああ、で、どこに向かったら爪を取り返せるのだったかな」


「盗賊を追うなら、村の北西にあるブリークフォール墓地へ向かうべきだ」


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「どうしてそこだと分かるんだ?」


アーセランがたずねた。自分の荷物が盗まれたわけではないが、少し焦ったような顔をしている。それもそのはず、彼は韋駄天のアーヴェルたちのもくろみを正確に知っており、金の爪がやがて自分の手元に来るように画策していた。


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「ああ、今朝アルヴォアのところの客人のダンマーが、追跡の呪文とやらで調べてくれたんだ。そうしたら痕跡が村の裏山を上って行ってるという。あの先にあるのはブリークフォール墓地しかない。まったく、山賊共のたまり場としちゃぁおあつらえ向きだよ」


「ちぇっ・・・ダンナかよ。余計なことを・・・」


「アーセラン、どうしたの? 何か言った?」


「い、いや・・・何でもねぇよ」


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「あなた最近、おかしいわ」
一緒に旅をしながら着々と儲けの企みを進めているアーセラン。イェアメリスの方はそんな事情は何も知らなかった。


すると、横で聞いていた店主の妹が、皮肉交じりに口を開いた。
「ルーカン、これがあなたの計画なの?」


「そうだ。これで行かなくてもよくなったのでは?」


「本当に? でもここにいる新人の助手さんには案内役が必要みたいね」
カミラはヒェルムの兜を指さした。ルーカンは怒鳴りかけて、思いとどまったように途中でやめると、妹に諭すように言った。


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「ふぅ、いや・・・八大神にかけて、いいだろう。でも分かってるな、村はずれまでだぞ。それ以上行っちゃいかん。日が暮れる前には帰る。フロドナー達の鬼ごっこと同じルールだからな」


店主が妹とやり合っているのを笑うと、兜の男はカウンター横の商品を見始めた。
「でもその前に買い物をしていいか?」


「もちろんだとも! リバーウッド・トレーダーはなんでも揃う雑貨店だ。必要なものは大抵置いてるよ」商機とばかりに商品説明を始めるルーカンを尻目に、イェアメリスはここに来た目的を思い出した。
アグリに目配せすると、村はずれまでのちょっとした冒険にウキウキしている妹の方に近づく。


「あなた・・・カミラよね」


「ええ、アグリのお友達? 頑固な兄が失礼しちゃってごめんなさいね。ルーカンもショックだったと思うの」


「大丈夫。あたしたち旅人だけど、この村にはずいぶん良くしてもらっているわ。金の爪のことは残念ね」


「ええ、でもあの助手さんが、きっと取り返してくれるわよ。そうでしょ」カミラはルーカンから買い物をしている兜の男を指さすと、にっこりと笑った。


「で・・・、こんな時になんだけど、あなたにちょっと話があって・・・」
イェアメリスは意を決すると切り出した。カミラが首をかしげる。


「あたしに? 何処かで会ったかしら?」


「いいえ、あたしとあなたは初対面よ。スヴェンとファエンダルは知ってるわよね」


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イェアメリスの言葉に、カミラの目は心持ち期待する様に輝いた。
「ええ、スヴェンは女の子の頬を染めさせる方法を心得ているの。ファエンダルはいつも取れたての獲物や木彫り細工をくれるわ。二人とも私にとても親切にしてくれる」カミラは笑みを浮かべて二人の男のことを説明した。




「あの・・・、ちょっと言いにくいのだけど・・・」
イェアメリスはそういうと一枚の手紙をカミラに差し出した。


「ファエンダルから? おかしいわね。今まで手紙をくれた事なんてないのに」


読んでいる彼女が次第にプルプルと震えだす。


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=*=*=*=*=*=
親愛なるカミラ


確かに私は何度もあなたの家を訪れているし、我々は少しずつ親密な関係になっているのかもしれないが、私に対して抱いている欲求はすべて捨ててほしい。
私は高貴なる純血のボズマーだ。インペリアルを娶ることで我が血を汚すのは決して許されない。だが我々は真の友でいられるはずだ。私はそう願っている。
アルドメリ自治領でのあなたの民の役割を理解しているのであれば、同様に私のことも尊重してほしい。


心を込めて
ファエンダルより
=*=*=*=*=*=


「な、何なのこれは? 本当はこんな風に思っていたの?!」
イェアメリスには、カミラが肩を怒らせるのが手に取るように分かった。


「それなら、こう伝えて・・・長耳野郎は二度と店に顔を出すなって。もう歓迎されないとね」


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「まっ、! まってまって!」
やっぱり思った通りになった。イェアメリスは慌ててカミラを押しとどめた。
「その前にこっちも見て!」
雑貨屋の妹にもう一通の手紙を渡す。


同じようにしばし目を通すと、カミラは信じられないといった表情になった。


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=*=*=*=*=*=
親愛なるカミラ


あなたを我が物としたい、
あなたに私の服と、私の細い金髪を洗ってもらいたい、
私の家の暖炉で料理をしてもらいたい、
そして私が留守の間、家の手入れをしてもらいたい


愛を込めて
スヴェンより
=*=*=*=*=*=


「これは何? もしあの間抜けが自分の汚い家を本気で掃除してもらえる気でいるなら、こっちだって・・・」
雑貨屋の妹は目を白黒させると、手紙をくしゃっと握りつぶした。
「スヴェンに母親なら別にいるはずと伝えて。もう話したくもないの」


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頭に血が上っているカミラは、しばらく憤慨していたが、やがて、やけに冷静に自分を覗き込んでいる二人のエルフに気付くと、尋ねてきた。


「ねぇ、これ、どういうこと? 二人の手紙が同時に・・・?」


イェアメリスとアグリは、それ以上喋らずに吟味の時間を与える。そして少しの間の後、状況が理解できたカミラは、やがてぽつりと言った。


「つまり・・・このスヴェンの手紙はファエンダルが、ファエンダルの手紙はスヴェンが書いた、と言う事ね」


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「ええ、正解」


そして吹き出した。


「ぷっ・・・、あの人たち・・・まるで子供ね」


「ごめんなさい、嫌な思いをさせちゃって・・・」
イェアメリスは、まるで自分がした悪戯を咎められているかの様に、ばつの悪い顔をして再びカミラに弁解した。
「そのまま握りつぶして放っておこうかとも思ったのだけど、持っているのも気分悪いから・・・あの・・・あの人たちも悪気があるわけじゃ無くて、必死なんだと思うの・・・」


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そのあと三人の娘は、笑い話とばかりに、何があったのか種明かしをした。道で顔を合わせたときに手紙を託された一部始終を話した。


「ありがとう。教えてくれて。・・・うん、結果的には知って良かったと思うわ。盲いたまま男たちの手管に乗らなくて済んだもの」


年の近いカミラは、話すうちにすぐに打ち解けた。


「イェアメリス、あなた、この辺りの出身じゃなさそうね。あたしも人のことは言えないけど」


「ええ。ハイロックのブレトンよ。カミラさんたちはインペリアルよね」


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「カミラでいいわ・・・、そうよ、帝国地域から来たの。兄のルーカンと仕事をするためにね。さっきペイルパスが封鎖されているって言ってたけど。シロディール側もひどい状態よ。サルモールとの戦争で・・・すべてがメチャクチャだわ。よりよい生活を求めて、スカイリムにやってきたの。その結果がどう? また戦争よ。それにドラゴンですって? ・・・あたしはただ良き夫を見つけて、家族を作りたいだけなの」
そして三人の中で唯一結婚しているアグリをうらやましそうに見る。


「アグリ・・・ホントあなたがうらやましいわ。あの二人が、ハドバルさんみたいな頼りがいのある夫になれるのはまだ何年も必要そうだし・・・その頃には戦争も終わってるかも・・・」


しばらく女同士で話していると、ヒェルムの買い物も済んだ。彼女たちの方は今日これからホワイトランに向かわなければならないし、アスヴァレンも待たせている。イェアメリスたちは店を出ることにした。


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「頼んだぞ! ルーカン・バレリウスから盗みを働くなと盗賊どもに思い知らせろ!」


片手を上げて応えたヒェルムの隣には、宣言したとおりカミラがついてきている。


「ブリークフォール墓地へ行くには、村を抜けて橋を渡らないといけないの」


「あの山までは遠いのか?」


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兜の男は、昨晩からずっと眺めてきたブリークフォールの山を見ると、案内役の娘に尋ねた。


「橋から北西方向に昇ると、墓地に着くわ。でも気をつけて、あそこに潜んでいる盗賊どもはイカれてるに違いないわ。ああいう古い墓地はトラップやトロールで溢れているし、他にも何があるか分かったものじゃないのよ」


「そうだぜ、止めた方がいいって」
アーセランはさり気なく制止にまわってみたが、男の決意は固い様であった。記憶を無くしているため、なにか当座の明確な目標を持ちたいのかも知れない。


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「でも、なぜルーカンの金の爪だけを盗んだのかしら。だって、同じくらい価値のある物は店にいくらでもあるのに」


(大丈夫かな・・・あいつらには、爪をフェルグロウまで届けてもらわねぇとならないんだが・・・)


唯一その理由を知っているアーセランは、これ以上は口を閉ざすことにした。付き合いが長いせいか、イェアメリスは最近アーセランのちょっとした悪事の兆候に敏感になっている。兜の男の存在は計算外だったが、これ以上変に誘導するのは怪しまれるに違いなかった。


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「さて・・・そろそろあたしは兄妹のところに戻った方が良さそうね。待たされると腹を立てるの。ほんと子供なんだから・・・」


「あなたの周り、色々大変そうね」


「はは。そうだ、イェアメリスの彼も、今度紹介してよね」


「この娘の彼、かっこいいのよぉ」
アグリが茶化しに回る。


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「か、か、彼? こ、こんどね・・・」
急に振られて胸をバクバクさせ、面白そうにアグリに観察されながら、イェアメリスはカミラと別れたのであった。


「結局・・・全部ぶちまけちゃったわね」


「あは、は、は・・・」
帰り際、イェアメリスは、アグリと並んで歩いていた。すると先ほどまでの話題の中心であった一人、スヴェンとすれ違う。


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「あ、君! 手紙は渡してくれたかい?」


声をかけてくるスカルドの卵に、イェアメリスは余裕を持って冷たい一瞥で応じた。


「キナレスにかけてあんた達、そんなことしてる場合じゃないでしょ。ドラゴンが来るかも知れないのよ?」


スヴェンはあくまで呑気だ。
「あんたも母さんみたいなことを言うんだな。それに、達ってだれだよ」


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「どっ、どうでもいいでしょ。それより・・・あなたのお母さんの方がよっぽどまともな感覚だと思うわ。ノルドなんでしょ? そんなことで好きな女の人を守れるの? 偽手紙書いて歌とか歌ってる場合じゃないでしょうに」


「わ、わ! 急にどうしたんだよ。大きな声出すなって。誰かが聞いたらどうすんだ・・・」スヴェンは慌てて辺りを見回した。幸い早朝のため人出も少なく、声を荒げた彼女たちに注目する者はいなかった。
「ドラゴンなんて伝説だろ? もう何世紀も見たヤツなんて居ないはずじゃないか」


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「あっきれた、そんなんじゃ自分の身さえも守れないわよ。それより・・・、カミラさんに見舞いの一つでも持っていったらどうなの? リバーウッド・トレーダーが大変なことになってるのは知ってるでしょ」


「フ、フン、そんなこと旅人に言われなくたって、分かってるさ」


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これぐらいにしておこう・・・最近カッとなり易くなっているのを自分でも感じていたが、言い出したらいくらでも皮肉っぽい言葉が浮かんでくる。これ以上話していると、せっかく引き受けた、ホワイトランに危機を伝えに行くと言った気持ちにケチが付く。そんなことではアスヴァレンに"それ見たことか"と言われてしまうだろう。


ここは平穏な村だが、危機が無いわけではない。ドラゴンがいつ戻ってくるかも分からないのだ。
これ以上、危機感のない若者と話すのは自分のために良くない。イェアメリスは口を噤むとツンとそっぽを向き、すたすたと歩き去った。




・・・




慌ただしく準備を済ませると、すぐに出発の時間はやってきた。
また村に来た時に立ち寄る約束をすると、彼女は世話になったアルヴォア夫妻にお礼を告げる。
リバーウッドは宿場町ではないから定期馬車がいない。ソリチュードに向かう馬車はホワイトランまで行って掴まえないとならなかった。朝のうちに出発すれば昼過ぎには着くだろう。どちらにせよホワイトランには行かなければならないのでちょうど良い。


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出発する一行の脇で兜の男もまた、荷物をかついで別方面に向かおうとしていた。


「ヒェルムさん、ブリークフォール墓地に行くのね? 一人で大丈夫なの?」


「ああ、昨日一晩考えていたのだが、どうやら俺は戦士だったらしい。・・・俺が何者か、まだ思い出すことはできないが、少しこの地に腰を落ち着けて、できることからやっていこうと思う」


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「そう・・・一緒には行けないけど・・・」


「やっぱ、止めといた方がいいんじゃね? 一人で山賊相手ってのは無謀だろ」


「アグリが教えてくれたんだ。墓地と途中の監視塔を山賊が根城にしているらしいんだが、その裏をかく道があるらしい。ルーカンのところで強力な解毒剤も買ったし、イェアメリスに湿布や包帯の使い方も教わった。気をつけるのは、魔法ぐらいだな。あとは・・・、俺の腕次第か」


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「ヒェルムさん、強そうだもんね」


「ショールにかけて、そうであると良いがな」


(うーん、困ったな・・・)
兜の男に金の爪を手に入れて欲しくないアーセランは、心の中で呟いていた。


(コイツもただ者じゃなさそうだ・・・最悪、金の爪はこの兜野郎がうまく取り返しちまうかも知れねぇな・・・そんな予感がするぜ・・・)
イェアメリスが見送る横で、ボズマーの商人はそんなことを考えていたのだった。。


「充分気をつけてね!」


「ああ、お前たちも、達者でな」


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微妙な顔をしているボズマーには気づかず、兜の男は片手を上げると村の反対側に向かって去って行った。


(イヤイヤイヤ・・・。初心に返ろう。一つは・・・サファイアの爪はもうこの鞄の中、俺っちのもんだ・・・次は当初の予定通り、フェルグロウの方をしっかり手に入れねぇとな。金の爪はついでの話だ。山賊共が売りに来ればラッキーぐらいに思っておこう。二兎を追うものなんとやら、だ)




・・・




アグリは村の外れまで見送りに来てくれた。
「ごめんねメリス。仕事を押しつけるみたいになっちゃって・・・」


「いいの。あたしが言い出したことだから。街の偉い人に伝えるだけだし」


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「近くまで来た時は、必ず寄ってよ!」


「うん、そうする」


「今回は出来なかったけど、次来た時は家に招待するから!」
二人は軽く抱き合った。


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この先、イェアメリスたちがリバーウッドにまた訪れるかは分からない。それはアグリもよく分かっていた。
名残りを惜しむ時間が流れたが、いつまでもそうしては居られない。やがてイェアメリスは吹っ切る様に前を向いた。


「ハドバルさんにもよろしくね。じゃ、行くわ!」


ニルンルートの買い付けまではうまくいったが、スカイリムの内戦に巻き込まれて、ヘルゲンまでずいぶんと時間を無駄にしてしまった。帰り道とはいえ、まだ旅路は途中。ソリチュードに帰り着いて、今度こそ呪いを何とかしなければならない。


「メリスちゃん、これな」


アーセランが忘れるな、と言うように荷物を地面に下ろす。そうだ、リバーウッドまでという約束だった。何度も地面を踏みつける様に足首をたしかめる。

大丈夫、もう足首の痛みも全くない。


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彼女は荷物を肩にかけようと、左手を伸ばした。


(・・・)


「あれ?」


(・・・)


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荷物を掴もうとした手が空を切る。何度か掴もうとしてしくじり、慌てて右手で持ち直した。


・・・左手が他人のもののように感じられ、うまく荷物との距離を測れないのだ。


(呪いが進むと・・・こうなるわけ?)


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その瞬間否応なく、フラッシュバックのように島での最後の夜が思い起こされる。呪いに掛かった日。手首に宿った呪いの光。・・・自分は何のために島を飛び出したのか、何のために旅をしているのか。


何度か手を握ったり開いたりしてみると、ちゃんと指は動く。キルクモアで最初の呪いに掛かった時、左手の先の感覚が無くなったが、あれは一時的なものだった。これまで旅の間、気にしたことはなかったが、再びこの症状が出た。しかも今度は前より酷い。肘から先の感覚が無い・・・


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(早く・・・早く何とかしないと・・・)


幸い、今の出来事に気付いた仲間は居ないようだ。別れに際して名残惜しむ一瞬の間と思われたのか、怪しむ者はいない。彼女は表情を引き締めると、ホワイトランに向けて一歩を踏み出すのだった。




・・・




お世話になったアルヴォアの小屋を後にしてリバーウッドを出発したイェアメリスたちは、ホワイトランへ向かっていた。村を出た先でホワイト川は傾斜を深め、川幅も狭くなる。彼女たちの下る坂道の右手を急流となって流れる川は激しく水しぶきを上げており、程よい湿気を木々に与えていた。日差しは強く、頬を撫でてゆく風は冷たい。


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イェアメリスは無意識に左手を擦りながら、共に行く仲間たちの様子をなんとなく眺めていた。アーセランは荷物をイェアメリスに返し、身軽になって鼻歌交じりに景色を楽しんでいる。ヘルゲンでは人が沢山死んだ、あんな出来事があったのになんて脳天気な、とイェアメリスはまた皮肉を口にしそうになったが、少し考えるとぐっと飲み込んだ。


憎まれ口を叩いてしまう悪い癖。みんな頑張って自分を救おうとしてくれたからいまここに居られる。努力してくれたのはアーセランも同じだった。


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考え毎をしているのを見透かされたのだろうか、ぼーっとしていると思われたようで、こちらが口を開く前にアスヴァレンの方から冷やかしが飛んできた。


「アズラにかけて、あまり気を抜くと事故に遭うぞ」


「ぬっ・・・抜いてなんか無いもん」


ここぞとばかりにボズマーも乗ってくる。
「そうそう、頭からも色々抜け落ちちゃってるんじゃねぇの? あの兜のおっさんみたいに」


「余計なお世話よっ」


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彼女は左手の指を一度思いっきり開くと、ぎゅっと拳を握った。・・・動かなくなったわけじゃない。感覚が無いだけだ。考えないようにしよう。頭の中から呪いの恐怖を追い出すように首を振ると、辺りの様子に注意を向ける。


山の陰に入ったからでもあるが、ここまで来るとヘルゲンの煙はもう見えない。リバーウッドで一晩を経て、ようやくこの辺りの平穏さにも慣れてきた。盗賊騒ぎがあったとは言え、州都ホワイトランの直近と言うことで、このあたりは街道の治安もすこぶる良い。少なくとも命の心配はしなくて良さそうだ。
言われたとおりの滝を越えて更に北上すると、彼女たちはやがて見覚えのある場所に出た。いや、戻ってきた。


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二つの街道が交差する十字路・・・東西に延びる、ソリチュードからホワイトランを通ってウインドヘルムに続く主街道と、南北に延びるシロディールのシルバーロード、ペイルパスの延長で、ドーンスターまで向かう縦街道。この二つが交わる場所であった。


既にホワイトランの城壁は正面の視界いっぱいに広がっていた。そして反対側の左手側にはスカイリム有数の蜂蜜酒産地が広がっている。前回通りかかった時、テルミンが寄り道して買い込んだ店、有名なホニングブリュー蜂蜜酒の醸造所だ。


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(テルミンもジャ・ラールさんも、ここ蜂蜜酒に目がなかったわね・・・)


”なぁに、こういう縁が残ってた方が、また再会もできるってもんだ”
女戦士と別れる時、アルフレドから踏み倒した蜂蜜酒代の話をネタに笑い合った言葉を、彼女は口の中で繰り返した。


(テルミン・・・)
イェアメリスは別れた仲間の顔を思い浮かべると、遠く後ろの世界のノドを振り返る。


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(ハミングはちゃんと彼女の言うこと聞いてるかしら・・・)


ブリークフォール墓地に山賊を追いに行った兜の男とも別れた。


(ヒェルムさん・・・不思議な人だったわ)


足に怪我をしたハドバルを託したアグリは、亭主を前に久しぶりに張り切って料理の腕を振るっているのだろうか? それともあわてて家の掃除をしているのだろうか。


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(アグリ・・・また、会えるよね・・・)


彼女たちは、いつの間にか三人にまで減っていた。イェアメリス、アスヴァレン、そしてアーセラン。ハイロックからの密航騒ぎで貨物船から放り出され、スカイリムに始めて足を踏み入れた時の顔ぶれと同じだ。


十字路の中央に立って大きな伸びをすると、彼女は四方を見回した。空気がとても気持ちいい事にあらためて気がつく。囚われの身からやっと解放されて久しぶりの清々しさと、すこしだけ、ほんの少しだけだが自分の時間を取り戻せた気がした。


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街道の左右に広がる農地で作業をする人々の姿。この時期は黄昏の月から星霜の月にかけて収穫するリーキの、二回目の植え付けの季節だ。今年最後の仕込みに従事する農夫達の姿を見ながら、イェアメリスはぼんやりと数えてみる。
島を出てからひと月半。もうあと数日で降霜の月も終わる。その間、あまりに多くの出来事に遭遇した彼女には、船に飛び乗った日のことが遙か昔のように感じられた。


そんな彼女の気持ちを余所に、少し離れた道端では、アーセランとアスヴァレンが縁石に腰掛けて話し込んでいた。


「なあ、メリスちゃんのことだけどよ・・・」


「どうした?」


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アーセランは声を落とした。


「ダンナ知らないと思うけど、メリスちゃん、どうも病気にかかってるみたいなんだ」彼は自分の知っている秘密を仲間に伝えておこうと考えていた。


水浴びに行った後、ホワイトラン城門横の池で倒れていたイェアメリス。その身体に這う禍々しい痣疵。

疵の中に明滅する禍々しい光・・・ボズマーの小男は、カジートキャンプで介抱される彼女をのぞき見た事をアスヴァレンに打ち明けた。


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「どういう訳であんな傷を抱えてるか知らねぇし、病状とかもよく分からねぇけどよ、側に居るなら気をつけてやって欲しいと思ってね。メリスちゃん、抱え込むからな・・・」


「ふむ・・・。このことは?」


「ああ? もちろん彼女は知らねぇよ」ボズマーはわざと小狡い顔をして見せた。「無くなっちまったあの仮面、あれを試している時にたまたま見て知ったんでね、言い出しにくかったんだ」


「そうか。心に留めておこう」
錬金術師は仮面については言及せず、情報だけ受け取って頷いた。イェアメリスが寄ってくるのに気がついてアーセランに口を噤むように合図をする。


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「ねぇねぇ、何話してるの?」


イヴァルステッドでは皆の前でイェアメリスの疵の話をしようとしてえらいことになった。大げんかになり、イェアメリスはそのせいで脚を挫き、結果ダークウォーター・クロッシングでウルフリックと共に囚われてしまった。因果の連鎖とは言え、その遠因を作ってしまった事をアーセランは覚えていた。ここはステンダールの沈黙だ。


・・・話してしまったあとでは身も蓋もないが、そんなことを考えてアーセランははぐらかした。
「なぁに、男同士の話だよ。なっ、ダンナ」


「ああ、そうだな・・・」


「なによ、やなかんじ・・・」


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二三歩離れて適当にごまかすアーセランを睨むと頬を膨らませる。しかし、何かいつもと違う雰囲気を感じ取ったのか、イェアメリスは不安そうに小柄なボズマーの名を呼んだ。


「アーセラン?」


先ほどの彼女と同じように、十字路の中央に立って四方を見回したアーセランは、ぐるりと一周したあと北の方を見ている。ホワイトランは西の方角なのだが・・・
彼はイェアメリスと同じように大きな伸びをすると、一言呟いた。


「じゃあ、俺っちもそろそろ行くかな」


ビックリしてイェアメリスは聞き返した。
「行くって、そっちはドーンスターよ?」


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イェアメリスはアスヴァレンを見た。長身のダンマーはもう知っているらしく頷いただけだ。


「俺っちもそろそろ自分の道を行こうかなって」


「そんな! あんなに行きたがってたのに・・・ホワイトランで一旗揚げるんじゃなかったの?」
前に通りかかったとき、先を急ぐイェアメリスと、ホワイトランに入城したがるアーセランは喧嘩になった。やっと戻ってきたというのに、今度は違う方に行くという。一体どうしてしまったのだろう。


「ああ、その気持ちは変わってねぇぜ。でもまぁ、先に行くところもできたしな」


「どこへ行くつもりなの?」


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アーセランは必死なイェアメリスの顔を見て、しばし考え込むと口を開いた。
「ん~・・・、まあ、いいか話しても。フェルグロウってところさ。ちょっと商機があってな」


「商機?」


「おっと、それ以上は秘密だ」
おうむ返しに聞いてくるイェアメリスを制すと、アーセランは逆に聞き返してきた。
「そう言えばメリスちゃん、あの薬・・・あの、ソリチュードで調合してくれたヤツ」


「えっ?」


「まだ残ってるかい?」
彼女はソリチュードの戒厳令で入城できない待ちぼうけの間、泊まった宿で彼のために透明化の薬を調合したことがあった。


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イェアメリスは首をかしげながら荷物を開けると、あったあった、まだ一本残っている。取り出すとアーセランが手を伸ばしてきたので、わざと届かないように薬を遠ざけてみせた。「・・・まさか、透明化が必要になるような、悪いこと企んでいるんじゃないでしょうね、その、フェル・・・なんとかってところで」


「ちがうって、ちゃんとした取引だって!」


「怪しいわ・・・」


アーセランは鼻を鳴らすと、彼女からひったくるように薬を受け取って、自分のサックにしまい込んだ。そして閉じようとして、何か別のものを見つけたようだ。


「あっ、そうそう、この薬、結局使わなかったな」
火炎の薬だ。ウルフリックと共に捕まって護送されているイェアメリスを、抜け道の休憩所で救出しようとしたときに準備したものだ。


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「それは何?」


「ダンナが調合した火炎の薬だよ」
イェアメリスが興味深そうに覗き込んできたので、アーセランは説明してやった。休憩所はで怪しげな魔女に邪魔され、ヘルゲンではアーセランが火を放つまでもなく、アルドゥィンのせいで町は大火に見舞われた。火炎の薬は結局使われないまま、サックの中にしまいこまれて延々アーセランと一緒に旅をしてきたのだった。


「で、そんときな、気味が悪い魔女がいてよ。例の・・・、灰の化け物を生み出すんだ」彼は話ついでにそのまま、魔女が薬品を死体に振り掛けて、死体兵士を生み出した事を語る。


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「嘘じゃねぇよ。テルミン姐さんとアスヴァレンのダンナが揃って見たって言うんだ。な」


ボズマーは確認するように錬金術師を見る。アスヴァレンもうなづいているから本当なのだろう。アーセランは、追跡行の途中で出会った魔女・・・ブラックブラッド略奪団の首領の横にいた女の話をした。その魔女が、イェアメリスの救出を邪魔したというのだ。


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「でもあたし、そんな女の人知らないわ」


「そうなんだよな。メリスちゃんも知らないとしたら、なんであの女、帝国軍の用心棒みたいなことしてたんだろう? グーンラウグの一味なのに・・・」


アスヴァレンは首を振った。
「メリスじゃない・・・おそらく狙われたのは俺だ」


「へ?」


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アスヴァレンは自らのローブを指差した。彼が纏っているのは複雑な文様の描かれた、モロウウィンドの五大家のひとつ、テルヴァンニのローブだ。


「よくわからぬがあの女、テルヴァンニ家に恨みがあるような素振りだった・・・。メリスを救出させないためではなく、俺個人の妨害をしたのかもしれぬ」


アスヴァレンは末席とはいえテルヴァンニ家の人間だ。そして錬金術に傾倒して100年以上実験第一の日々を送ってきた。

どこかで一人二人の恨みを買っていてもおかしくはない。


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イェアメリスの方はイェアメリスの方で、ニューグラド砦の牢獄に囚われていた時にちょっかいを出してきたサルモールの女魔術師を思い出していた。


「その魔女・・・サルモールのローブを着てたって言ったわよね。胸に変な石埋め込んでなかった? あの、島で見た、マジカを集めるっていう鉱石」


「いや、服に隠れていたのでそれは見ていないが」


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イェアメリスはそのときの状況をなるべく正確に思い出そうと務めた。
「でもたしか、グーンラウグを待たせるからとかなんとか言ってたわ。最近よく聞くけど、グーンラウグって誰?」


錬金術師とボズマーは顔を見合わせた。


「同じ奴だな・・・」


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「少し整理するか・・・」アスヴァレンが三人の話をまとめる。


「あの女はサルモールの魔女だ。メリスが言うことが本当なら、なぜかは分からないが、キルクモア島で俺たちが見つけた、マジカを循環させる鉱石を身体に埋め込んでいる。そして更に、メリスが島の難破船から手に入れた灰の化け物を生み出す薬も持っていた」


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「俺っちが乗り合わせたあの難破船だな?」


「あたしを捕らえた連中ね」


「メリスちゃん、良く捕まるよな」


「ほっといてよ・・・」


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「あの船はブラックブラッド略奪団の奴隷商船だった」


長身の錬金術師は続ける。


「そして派閥は違うが、魔女と一緒にいたグーンラウグもブラックブラッドの首領の一人だ。魔女は略奪団の手下ではなく、連絡係か客分か、そんなものだろう。サルモールとあの略奪団には何らかの繋がりがあるようだな」


「ファーランや、ハーフィンガルの雪道で見た灰の化け物、そしてメリスが見たというキルクモアで薬を浴びて化け物になったサルモール・・・またサルモールか・・・」


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「なんだか怖いわ」


仲間には告げていないが、これから彼女はまた、自らサルモールの手中に飛び込んでいこうとしている。

エランディルに命じられたニルンルート30株を届けなければならない。


そして今度こそ呪いを解除してもらわなければ・・・


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それぞれの思いを抱いてしばらく三人は押し黙ったが、アーセランが手に持った火炎の薬を返そうとしていたのをアスヴァレンが押し戻すのを見て、また時が動き出した。


「構わん、持っていけ。一人で行動するなら、そう言ったモノが必要な時が来るかもしれん。何なら、もう二三本やろうか?」


「いいの?」


「餞別だ。スカイリムは旅人に優しい土地ではないからな。・・・まぁ、お前のことだから滅多なことはないと思うが」


「へっ、ダンナ達もね。俺っちは大丈夫。溺れ死んでも生き返ったし、竜司祭もやっつけたし。アルドゥインからだって生き延びたんだ」アーセランの軽口はいつでも健在だ。


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「アズラにかけて俺の記憶が確かならば・・・蘇生させたのはメリス、竜司祭を倒したのはアルフ、ドラゴンと剣を交えたのは俺だったはずだが・・・」


「こまけぇこたぁいいんだよ・・・」


そういうとアーセランは、再びエルフの娘のほうを振り返った。


「メリスちゃんは餞別くれたりしねぇのか? あ、できたら・・・無音化、海探の薬も欲しいんだけどよ・・・」


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「え? え? は・・・?」
毒気を抜かれたような顔をした彼女は、やがてその内容を理解するとまくし立てた。「何言ってるの。さっき透明化の薬あげたばかりでしょ。どんだけ厚かましいのよ。逆にこっちが貰いたいぐらいだわ・・・」言いながら彼女は思い出したように手を叩く。


「そうそう、思い出したわ! 借金はいつ清算してくれるの?」


「え? そんなのあったっけ? もうチャラだろ、チャラ」


「ファーランで貸したマントのお金を貰ってないわ」


「えー?! なにぃー! いつの話しだよ、それ、細けぇな」


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「余計なお世話よ! 商人は記憶力、見積もり力、交渉力が大事なの」


「いやいやいや、メリスちゃん錬金術師だろ、一応・・・」


「一応ってなによ!」
腰に手を当てて、彼女はアーセランに詰め寄った。


「かーっ! ・・・同じアルトマーでも、もう少しこう、なんか可愛げがあって包容力あるっての? そういった女いないもんかねぇ」


「あんたねぇ、それをあたしの目の前で言うのってどういう意味よ」
イェアメリスの眉尻がつり上がる。


「さぁ? 考えすぎじゃね?」


「むぐっ・・・ひっどーい!」


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わざとらしく目線を泳がせたあとアーセランは、彼女の顔を見てにやりと笑った。
「お! それだそれ。いつもの顔に戻ったな。いっつもアスヴァレンのダンナと同じ難しい顔してたら、人が寄りつかなくなっちまうぜ」


「な、なによ」


膨れる彼女をかわしながら、アーセランは荷物を背負いなおした。
「さ、もう行くぜ。達者でな」


「・・・」


やはり気は変わらないらしい。


「わかったわ・・・。でも、命は大事にしなさいよ」


「それはこっちの台詞だぜ・・・」ボズマーはそっぽを向くと声を落とした。「メリスちゃんも身体大事にしろよ。あの・・・傷がなんなのか分からねぇけど」


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「?!」


「ん、ああ・・・ちょっと見ちまったからな。ホワイトランでのあれ」


「そう・・・」


「誰か、信頼できそうな医者か何かに見てもらった方がいいぜ」


「う、うん・・・」イェアメリスは素直にうなずいた。「アーセラン、また会える?」


ボズマーは笑って請合った。


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「多分な。フェルグロウから帰ったら、しばらくはホワイトラン周辺を拠点に活動してみるつもりだ。竜語も分かる俺様だし、トレジャーハントの仲間に入れてもらうのも悪かぁねぇな」


アーセランは片手を挙げると、北に向かって歩き出した。


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「墓泥棒じゃないの~?」


イェアメリスは精一杯、強がるように茶化してみせる。


「そういう言い方やめろって。アグリちゃんが怒るぜ。トレジャーハント。トレジャーハントだ」


アーセランはもう振り返らなかった。彼が橋を渡り終えて、その影がみえなくなるまで、イェアメリスは立ったまま見送るのだった。


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※リンクポイント・・・『注釈1』を参照 )




・・・




ホニングブリュー蜂蜜酒醸造所の前を歩きながら、イェアメリスは足元の小石を蹴飛ばした。


「そうよね・・・、彼らには彼らの目的も生き方もあるものね。いつまでもあたしの旅に一緒、というわけにはいかないか・・・」自分に言い聞かせるように口に出しては見たものの、やはり寂しいものは寂しい。


今ホワイトランに向かうのは二人きり。本来ならば喜んでもいい状況だったが、思いもかけず、次々と仲間が別の道に進んでゆくのを見て、イェアメリスは少ししょげていた。


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「アーセランも・・・、テルミンもアルフさんも、リサードさんもジャ・ラールさんも・・・、レオナールさんも・・・、もっと一緒に旅できるものだと思ってたわ・・・」


嵐の晩、貨物船に飛び乗って泣きながら抱きついた相手、長身のダンマーは変わらず隣にいる。しかし、それさえも、瞬きをした次の瞬間にはいなくなってしまうのではないか、そんな怖れを今は感じていた。砂上の楼閣なのではないかと。


「・・・どうした?」


彼女はおずおずと、連れの袖に手を伸ばすと、消えてしまわないようにと掴んだ。


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「アスヴァレン・・・あなたは・・・、いなくならないわよね?」


泣きそうなエルフの娘が覗き込んでいるのを見ると、ダンマーの錬金術師は軽く笑った。
「そうだな。もうしばらく行くのも悪くない。直す方法も探さねばならんからな。このスカイリムで手がかりが見つかりそうな気がする」


「えっ? えっ?」
アスヴァレンにも呪いの傷のことがばれてしまっているのだろうか。彼女は動悸を感じて息を飲んだ。


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「ああ、折れたアトモーラの楔を直す手がかり・・・アトモーラ由来のものであれば、スカイリムは縁深いだろう」


「剣の話?」


「そうだ。剣の話だが?」
きょとんとして見かえす彼女を見るアスヴァレンの顔を見て、イェアメリスはあきらめのため息を吐き出した。


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「そう、そう、そうよね、剣は大事だわ。あた・・・」
また反射的に憎まれ口をたたきそうになって、ぐっと飲み込む。


「ん? どうした」


「なんでもない!」


イェアメリスは連れを引き離すように大股で歩き出した。困惑したような声が聞こえると、アスヴァレンが追ってくる気配を背中に感じる。・・・とりあえず今はこれでいい。ついてきてくれるだけで十分だ。


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右手にホワイトランの城壁、そしてそのところどころの放水口から流れ落ち、堀の代わりとなっている小川。流れは先ほどの十字路の下でホワイト川と合流している。


西に向かって歩く彼女たちの左手にはブリークフォールの山々。あの山には今ごろ兜の男ヒェルムが向かっているはずだ。ルーカンの店から奪われた金の爪を取り戻しに、古代ノルドの墓地に乗り込む。


結局、分かったのはノルドということだけ。兜の男が何者であるかは分からずじまいだった。屈強な戦士にも見えるし、物腰も落ち着いている。そのうち記憶を取り戻せば、ひとかどの英雄としてその名を聞くことになるかもしれない。
山賊の根城に一人で向かっていったが、不思議と心配な気持ちは湧き上がってこなかった。なぜかは分からないがむしろ、彼なら問題ないだろう、そんな風に感じられてならなかった。


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「ずいぶん冷え込むな。作物の育成にはよくない。いいわけがない」


道から外れた畑の脇で男たちが話している。
「そうだな。今年は寒くなるのが例年より早い。うちの農場も昨日から藁をかぶせ始めたところだ」


一人は農民風、一人は帝国軍の革鎧を着込んでいるが兵士には見えない。二言三言かわして男たちは別れ、その一人、帝国鎧の男が道に戻ってきた。堂々とした体躯で少し威厳を纏ったような、中年の男だ。
帝国軍野営地では娼婦と間違われた。ダークウォーター・クロッシングではストームクロークと間違われて逮捕された。ヘルゲンでは処刑までされそうになった。ハドバルのような理解のある人間もいたが、彼女はこの旅の中で帝国軍が苦手になっていた。そしてまたここに帝国軍の鎧を着た男だ・・・彼女はまた悪いことが起こるのではないかと身をこわばらせた。


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ここで無視するのもおかしい。既にそんな距離まで男は来ていた。イェアメリスは不器用な笑顔を作ると会釈した。


「こ、こんにちは」


男は少しの間、彼女を値踏みするように見て口を開いた。


「・・・レイ・メーンか、バトル・ボーンか?」


ノルド訛りの強いシロド語をよく聞き取れずに、彼女は聞き返した。


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「えっ、バトル・ボーン・・・?」


すると帝国鎧の男はしたりといった顔で相好を崩すと、気さくな感じで話しかけてきた。
「ハッハ! やはりそうじゃないかと思ったんだ。・・・ならば、この出会いに感謝しよう。見た瞬間、あんたは頭が切れそうだって分かったよ」


「え? え?」
どうやらなにか勘違いされてしまった様だ。彼女は困惑した顔をアスヴァレンに向けた。相棒の目に、"そのままにしておけ"という光を読み取った彼女は、訂正しない方が良さそうだと理解して止めた。


「あなたは?」


「俺はイドラフ。バトル・ボーン一族の者だ」


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バトル・ボーンは、ホワイトランの名家の一つだった。
スカイリムでは古代の戦争を経て竜司祭達が姿を消したが、アトモーラから持ち込まれたクランと呼ばれる氏族の文化は第四期に入った今でも残っており、集落の基本単位を構成している。セプティム朝の時代を経て多くの外来人の流入があった現在でも、氏族は街やホールドの有力者・・・シロディールで言う貴族のように各地で力を揮っていた。


リフテンのブラック・ブライア家、イーストマーチのシャッター・シールド家やストーン・フィスト家、マルカルスのシルバー・ブラッド家などがこのスカイリムではよく知られている。サレシ農場で知り合ったインガン・ブラックブライアも有力な氏族に名を連ねる一人であった。


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「夫婦で旅かね? ご婦人。ホワイトランに?」


「ええっ?! ふ、夫婦・・・ですって?」
イェアメリスはビックリして連れを振り返った。アスヴァレンは無表情だ。
このイドラフ、随分と早とちりの多い男のようだ。エルフの二人連れは珍しいのか、彼は興味を持ったようにイェアメリスたちと並んで歩き始めた。嫌な顔も出来ずに、脇に変な汗をかく思いを彼女は味わった。


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「俺は農場の見回りを終えて、屋敷に戻るところだ。一緒の方向だな。ところで、構わなければ、どんな用事で?」


旅人二人はは顔を見合わせた。しんみりした別れが続いたばかりで、新たな連れが欲しい気分ではなかった。しかしホワイトランに詳しそうな地元の人間と話すのも悪くない。方角も同じようだし変に突き放したり無視したりするのもおかしい。二人はこの男としばらく一緒に行ってみることにした。


帰路の旅路を急ぐ彼女であったが、ホワイトランには寄らなければならない。首長にドラゴンの知らせを届け、東帝都社の事務所ではブラッキーに手紙を残し、更にアブルサ・サレシのためにジャズベイ・ブドウを手配しなければならない。いつの間にかホワイトランでやらなければならないことが溜まっていた。


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とりあえず、”ドラゴンが来た”などと言っても信じてもらえないだろう。いくら彼女が正直とは言っても、下手すれば気が触れていると思われかねない。曖昧に切り出すことにした。


「リバーウッドから・・・伝言があるのだけど・・・」
イェアメリスは言ってからしまった、と思った。彼女は村人でも役人でも、そして名の知れた傭兵でもない。ドラゴン話ほどではないにしても、どう見ても村とは無関係そうな旅人だし、伝言を持ってくるなどという話もおかしい。しかも書簡も身の証を立てるものも何もなく口伝で・・・。アスヴァレンに反発して衝動的に買って出た仕事だが、彼女はあまりに準備がなさ過ぎたことを今ごろになって反省した。


「伝言? 誰に?」


「し、首長に・・・」


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案の定、イドラフは一歩引いて、あからさまな警戒を見せた。
「首長?」しかしすぐに元の様子を取り戻し肩の力を抜く。「まさか害を与えようとしている・・・わけないか」代わりに、ますます二人に興味を持ったという顔になった。ただでさえ目立つとアグリに言われた彼女は、裁定を待つ者のように縮こまった。


「暗殺の類いなら、こんな目立つエルフにはやらせんよな」


「あたし達暗殺者なんかじゃないわ」


ホワイトランに害をなす者かと勘違いしたイドラフの反応は、至極当然のものであった。


「ハハ・・・すまん。最近この辺りも物騒でな。ウルフリックが上級王を殺してから、スカイリムはおかしくなってきた。ホワイトランにも見かけん奴等が最近多くて、神経質になってるんだ。・・・だが、あり得んよな。お前たちは目立つ、暗殺者向きじゃない」


「エルフだからってこと?」


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「いや、ショールの間にかけてその帽子がな」イドラフは笑って彼女の頭を指さした。「そんな変な帽子被るのは旅芸人か道化師ぐらいだろ?」


「むぐっ・・・」


(お気に入りなのに・・・)


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少し気分を害した彼女は、せめて何か取り返せればと、首長への面会の可能性を探ってみた。


「イドラフ・・・さん、はホワイトランの偉い方?」どう聞いていいか分からなかった彼女は、期待を込めてそのまま言ってみた。


「ハッハ! 我らに近づいてくるおべっか使いとは違う! 実に違う。面白いご婦人だ。単刀直入でいい!」
イドラフは剛毅に笑うと、少し胸を張った。


「首長ほどではないが、名家と呼ばれるものに属しているといってもいいだろう。バトル・ボーン・・・名誉ある一族だ」


各州の首長は慣例として、氏族の中から選出される。上級王を決めるムートほどきっちりと制度化はされていないが、有力氏族の代表会議が州での縮小化されたムートの役割を担っていた。上級王の御座が置かれ帝国軍の本拠地でもあるソリチュードは別だが、他のホールドでは多かれ少なかれ、この古代からのノルドの風習が受け継がれていた。


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ホワイトランにはオラフ王の血筋であると言われている現首長のバルグルーフを始め、農場を持ち、独自の兵を動員できるバトル・ボーン一族、グレイ・メーン一族、ジョルバスクルに居を構える同胞団などの家々がある。バトル・ボーンはその中でも現在もっとも勢いのある一族だった。


「首長宛てとは・・・さぞかし重要な伝言なのだろうな」


彼女の脳裏にはヘルゲンでの出来事が次々と浮かんだ。


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内容を知りたそうにしているのが伝わってくるが、自分のためにもここで漏らしてしまうわけには行かない。


(会って、話さなければならな。ヘルゲンで何があったかを・・・)


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イェアメリスはイドラフに提案した。「報告の場で一緒に聞いていただく分には何も問題ないわ」


「ふむ・・・、では街までご一緒させてもらおう、ご夫人」


「だから夫婦じゃ・・・」否定しかけた彼女は、言葉を引っ込めた。「夫婦・・・」もごもごと口の中で反芻した彼女は、まんざらでもない顔になってしまうのを必死に隠しながら連れを盗み見た。


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アスヴァレンはいつもの無表情でホワイトランの城壁を眺めている。


(黙っていて否定しないってことは、肯定?)


サレシ農場に向かって出発した道を逆に辿り、彼女たちはバトル・ボーンの男と一緒にホワイトラン目指して歩む。


「最近、帝国軍が攻勢に出てな・・・」イドラフは少し興奮を見せた。「テュリウス将軍はソリチュードから逃走したウルフリックを捕らえるため、イーストマーチに軍を進めたんだ。ヴァルトヘイムを越えて、アモル砦を落とす勢いだって言うぞ」
どうやら、バトル・ボーンの家門は帝国軍支持のようであった。イドラフの装備も帝国軍のそれだ。本当の帝国軍でなかったことに胸を撫で下ろした彼女だったが、こんな鎧を着ていると言うことは、相当傾倒しているのだろう。


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彼は今度は連れのダンマーに目を向けた。


「おまえさん、いい体躯をしているな。帝国軍はお前のようなものを必要としている。どうだ?」
ノルドとの混血であるアスヴァレンはイドラフよりも背が高く人目を引いた。


「本気で帝国軍に入るべきだと思っているのか?」


「ああ、もちろん! ウルフリックの本性は分かりきっている。自分が上級王になりたい。そのために同胞の屍を築き続けているんだ」


ウルフリックの評については少し異論もあったが、まさかその本人と一緒に捕まっていたとも言えず、彼女はただ頷くだけに留めておいた。


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「帝国は帝国で、サルモールと繋がりがあるって言われているが?」
アスヴァレンの問いに、イドラフはさもありなんと忌々しげに吐き捨てた。


「ああ、あの腹立たしい耳長ども・・・その頃、俺はまだ子供だった。今の年齢だったら黙ってはいなかっただろうな」


「なぜサルモールはタロス信者を逮捕できるのだ? あの、白金協定とかいうもののせいか?」
アスヴァレンはスカイリムに来てから各所で聞かれるようになった時事を口にした。「具体的には、どういう内容だったのだ?」


イドラフはホワイトランへの道がてら、自分の解釈を交えて白金協定について語った。その二人のやり取りに、イェアメリスも横でおとなしく耳を傾けながら歩いた。


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「ブレイズの解体・・・まあ、今は皇帝の親衛隊はペニトゥス・オクラトゥスが受け持っておるし、俺達には何の影響もない。ただ解体と言えば聞こえが良いが、現実は残党狩りみたいになってる]


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「見つかり次第捕らわれて処刑されているから、ブレイズの連中にとっちゃぁこの条項は災厄そのものだろうな。噂によると、ブルーマにある彼らの本拠地・・・曇王の神殿もアルドメリの討伐部隊に急襲されて破壊されたらしい。今となっては過去の組織だよ」


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彼は顔を上げると遠く南の山、ブルーマの方角を指し示した。


イェアメリス達は、つい四日ほど前にその途中のペイルパスをくぐりかけたことを思い出していた。そんな思いを抱いていることにイドラフは気付くべくもなく、次の内容について語りはじめた。


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「ハンマーフェル南部の割譲・・・これが実は意外と厄介だ。普通に考えれば既に実効支配も及ばない、手放していた領土に対してこんな宣言をさせるなど、何の意味もないと思うが、あんたはどう思う?」イドラフは試すように問いかけてきた。


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「ふむ・・・レッドガードは反アルドメリの急先鋒にして最前線と聞く。彼らとノルドの間に反目の種を蒔くのが目的ではないか?」


「ハッハ!さすがだな。やはり俺の目に狂いはない。お前たちは馬鹿じゃぁないな」


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イドラフは嬉しそうに吠えると、景気づけに蜂蜜酒を一杯あおった。こういうところはいかにもノルドだ。


「最後の一つは?」


「タロス崇拝の禁止・・・」イドラフは苦々しげに言った。


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「今スカイリムでいろいろ問題になっているやつだな」


「ああ、そうだ。あの忌々しいサルモール共が俺たちの土地を我が物顔で歩き回って、単にタロスを信仰しているってだけで人々を逮捕して回ってる。こんな有り様じゃ、ストームクロークみたいなのが生まれてくるのも無理はない。全く、厄介な協定だよ!」


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「お前は、他のノルドのように激昂しないのだな」


とんでもない、と彼は首を振った。
「激昂? してるさ。ただし心の中でな。・・・バトル・ボーンは多くの民を抱えている。いくら喧嘩っ早いノルドでも、少しは脳みそ絞って知恵を働かせないと、大家族は食わせていけないさ」


「ふむ・・・」アスヴァレンは少し見直したといった表情で、この大味なノルドを見た。「なぜ皇帝はタロス崇拝禁止を呑んだのだろうな・・・」


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「タロスにかけて、皇帝の頭の中を見たわけじゃぁないが、それはきっと、ここと中央の温度差だ。・・・ほら、セプティム時代ならいざ知らず、今の皇帝はミード家だろ。大戦が終結した時点で既に、セプティムが滅びたオブリビオンの動乱から170年以上経っていたから、現皇帝もタロスのことをそこまで重視しなかったんだろう。実際、帝国の他の場所では大した問題になっていないしな。あんたの国でもそうだろ?」


確かに、もともとタロスを崇めていなかったモロウウィンドやハイロックでは、九大神として唱える神の名が一つ減ったくらいで、白金協定はそれ程深刻には受け止められていない。アスヴァレンやイェアメリスのように、協定に疎い者が多いのがその事実を物語っていた。


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「だが、ここは違う。ここでは地元民も巻き込んでたくさんの怨恨を引き起こしている。ジェラール山脈のこっち側・・・北のスカイリムでは今でも神と言えばタロス。タロスこそが神なんだ」


「それなのに、お前は帝国寄りなんだな」


「ハッ、当然だ。ノルドはいつも帝国を支持してきたし、赤輪の戦いで武勲をあげたのも我らの父祖だ。帝国はいつもスカイリムと関係が悪くなかった。タロス崇拝の復活を願う気持ちはもちろんあるが、スカイリムをバラバラにして、内戦で帝国を破滅に追いやる理由にはならない。そこまでの価値なんかストームクロークにはないさ」


「サルモールが手を引いているとは思わないのか?」


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イドラフは眉をひそめた。
「起こるべくして起こった戦争だと? 耳長どもに誘導されたと言いたいのか?」


アスヴァレンは手近なところにエルフが見当たらなかったため、自分とイェアメリスを指さしてみせた。
「お前の言う耳長・・・長命な連中はノルドやインペリアルとは違った思考をするものだ。出生率の違いもあるが、短命種よりも極端に種族の減少を恐れる。国や軍として連中は常にその点を考慮して行動原理としている。俺がサルモールだったら、帝国の武器庫であり兵士の供給元であるスカイリムは征服するのではなく、内乱で数を減らして潰すのが一番の策と考えるが」


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彼は期せずして、サルモールの司令官達と同じ考えを披露して見せた。


「確かにあんたの言うとおりだ・・・それにオレたちノルドが喧嘩っ早いのも確かだが・・・、それでもウルフリックが裏切り者だとは思いたくないな。ストームクロークは敵だが、サルモール憎しのあまり、まとめて帝国も敵視している、それ以上ではない、ないはずさ」


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イドラフは地方氏族に過ぎなかったが、さすがスカイリムの中心都市ホワイトランの有力者と言うだけあり、様々なことを知っていた。


「ホワイトランはどういった立場なんだ? その・・・内戦に関してと言う意味でだが」
アスヴァレンは行きの道で"静かなる月の野営地"を通った時、そこにキャンプしている帝国軍がホワイトラン城内への駐留を拒まれていたことを例に出した。


「中立だ。帝国寄りのな。ストームクロークに傾倒しているグレイ・メーンのような馬鹿な連中も居るが、概ね、というかまだ、ここは平和な方だよ」


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・・・話しているうちにそのホワイトランの城門が見えてきた。


一行は前に泊まった見覚えのあるラムズヘッド亭の前を通りかかった。続いて姿を現した外門には、この前押し問答をした少女の衛兵、リズの姿は見あたらない。今日は当番ではないのかも知れなかった。


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誇らしげにはためくホワイトランの旗を見ながら第一の外門を通過すると、物見櫓に囲まれた緩やかな上り坂がカーブを描いている。

跳ね橋を潜ると彼女たちは内門前の中庭に出た。


前回アルフレドと一緒に追い返された場所だ。


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中庭の様子をぐるりと見渡すと、イドラフがつかつかと歩き出した。門に向かうかと思っていたが逆だ。今まで登ってきた坂道を見下ろすことのできる見張り台のほう。目で追った先には、見知らぬ男女が腰掛けていた。


「それはちょっと想像をたくましくしすぎだよ、オルフィナ。俺達がお互いどう思ってるかなんて誰も知らないさ」


「でも、ジョン・・・あっ!」


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女性の方が気付いて声を上げる。続いて腰掛けている男の方も表情を強ばらせた。まずいところを見られた、という顔だ。何が起こるのかとイェアメリスは見守った。


「ジョン、お前は自分の立場を分かっているのか?」


「兄貴・・・家同士の争いなんて俺には関係ないさ。あんなの、オヤジとヴィグナーの意地の張り合いだろ」女と逢い引きしていた男はイドラフを兄と呼んでいる。同じバトル・ボーン一族の者だろうか。


「お前の言うことは間違っていない。だが、この女の家はストームクロークについてしまった。ここでは睨み合うだけだが、戦場にいけば互いに死人も出る。意地とか言う段階ではなくなってきてるのがどうして分からん」


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「俺がオルフィナと会おうが会うまいが、それこそ戦争に影響なんてないだろ。俺はスカルド(戦士詩人)だ。家は大事だが、それに縛られるつもりはない」


イドラフは頭が痛い、と言うように吐き出した。
「ジョン、お前は何も分かっていない」


「何がだよ、兄貴」


「いいか、俺はバトル・ボーンの次期家長、そしてお前はそれを補佐すべき弟・・・スカルドだかなんだか息巻くのはいいが、家の中枢にいる人間であることには変わりない。同じように彼女もグレイ・メーンの家の中では中心に近い位置にいる」


「・・・なにが言いたいんだよ」


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「我々、そして奴らもまだホワイトランの中では表面上、紳士的に振る舞っている。・・・しかし両家には末端まで、多くの、様々な家族・・・仲間がいる。金目当ての者も、それこそ、その日暮らしの者も」


「だから・・・なにが言いたいんだよ・・・」


「そういう連中がバトル・ボーン憎しとお前を襲ったとしよう。スカルドのお前は自分の身を守れるかも知れないが、彼女はどうだ? グレイ・メーンの女は、バトル・ボーンの者に襲われて身を守れるのか? お前の見ていないところで」


「それは・・・」


イドラフは弟、ジョンの肩に手を置いた。
「そういうことだ。気に入らんかも知れんが、そういう時期なんだ。今回は俺だから良いが、オヤジだったら鉄拳の一発や二発じゃ済まなかったところだぞ。・・・こんな近くで逢い引きするぐらいならマルカルスぐらいまで出奔してからやってくれ。ホワイトランの近くで、両家の目の前ではやるな」


「・・・分かったよ、兄貴」


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イドラフに釘を刺されると、ジョンとオルフィナは二言三言交わし、そそくさと離れた。言われた言葉のせいだろうか、ジョンは内門の中に消えてゆくオルフィナを心配そうに見送っている。そして自分は兄に背を向けると、反対側に歩き去った。きっと、ラムズヘッドあたりで一盃ひっかけるのだろう。


「・・・すまんな、見苦しいところを見せた」


イドラフは身内の恥をさらけ出したかのように、疲れたような顔を見せた。この男は見かけとは裏腹に、案外と苦労人なのかも知れない。


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「さぁ、中に入ろうじゃないか!」


気を取り直したように声を張ると、バトル・ボーンの男は二人を連れて内門に向かうのだった。




・・・




イドラフの導きで、イェアメリスと連れは門を潜った。ホワイトランの城内に入るのは初めてだ。


「正義のステンダールにかけて、有力者のコネがあるなら、手形なんてどうでも良くなる・・・って、アーセランの言ってた通りね」


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バトル・ボーンの男は豪快に笑った。
「でもお前たち、当然手形は持ってるんだろう?」


「もっ、もちろん!」


彼女は青くなって、慌てて荷物に手を突っ込んだ。よくよく考えたら、アーセランに長いこと荷物を預けていたのだ。大事なものの一つや二つがなくなっていてもおかしくない。しかし、改めてみるとなくなっているものはなさそうだ。彼女の手形はちゃんと入っていた。財布の中身はあとでちゃんと確認しよう・・・ほっと胸を撫で下ろすと同時に、彼女は喧嘩仲間が居なくなったのを寂しく思った。


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城門を潜るとすぐにアーチ型の橋が架かっていて、下には小型の運河のような流れが走っている。ホワイトランは丘の上に作られた街で、その頂上に位置する首長の宮殿、ドラゴンズリーチの周辺から湧きだした水が小川となり、あちこちに引かれている。小規模ながら地下には下水道も存在するらしい。それらの一つがこの橋の下を流れていた。


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道の脇、家々の敷地などあちこちに常緑樹が植えられ、冬の最中ではあるが街の中は緑が溢れている。ソリチュードが石の都であったのに対し、ホワイトランは緑の街と言っても過言ではなかった。


橋を越えてすぐ右側が"戦乙女の炉"、ホワイトランでも有名な鍛冶屋だ。そして左斜め奥には"酔いどれハンツマン"という酒場が建っている。




「エイドエイアン! 進み具合はどうだ?」


イドラフは戦乙女の炉で槌をふるっている女性を見つけると声をかけた。鍛冶の女性は手を止めると額の汗を拭い、バトル・ボーンの男に否定的な視線を返した。


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「ゼニタールの金床にかけて、これが進んでいるように見えて?」


「いくらかかろうが金は払う。だが、帝国軍兵士にはもっと剣が必要だ」


「私だけじゃ、そんな規模の注文には応じられないわ。頑固なプライドを捨てて、エオルンド・グレイ・メーンに助けを求めたらどう?」
エオルンドというのは誰だろう? ホワイトランにはスカイフォージという有名な炉があるらしいが、ここがそうでないのなら、街にはまだ別の鍛冶屋があるのかも知れない。イェアメリスはそんなことを考えながら周囲を見回していた。


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「はっ! そんなことするなら、ウルフリック・ストームクロークにひざまずく方がましだ。・・・それに、グレイ・メーンは帝国軍のために剣を作ったりしない」


「お好きにどうぞ。私がやるわ。でも奇跡は期待しないで」


バトル・ボーンの男は鍛冶屋にはっぱをかけると、イェアメリスたちに向き直った。


「何時ストームクロークが攻めてきてもおかしくないからな。捕らえられたウルフリックを奪還するために、奴らこの地を戦場にするかもしれん」


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どうやらウルフリックが帝国軍に捕まった情報までは伝わっているらしい。

しかしさすがに、その後ヘルゲンで処刑の最中にドラゴン騒ぎに乗じて脱出したという最新情報は知られていなかった。


そうしていると、往来の真ん中を塞ぐ彼女たちに、老婆が近づいてきた。イェアメリスは道を譲ろうと一歩脇によける。


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避けたつもりだったのだが、手を引かれて声をかけられた。


「おや、旅人さんかぇ? もしかして、占いのためにこのオラヴァに会いに来たんだね」
ホワイトランの住人だろうか? この女性もイドラフと同じように、勘違いして話しかけてきたのかも知れない。


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「えっ・・・あの・・・」


「あいにくだけど、今は気分が乗らないんだ。・・・その気にさえなれば、確かに未来を占う事ができるんだけどねぇ。でも今日は力が最高潮に達してないんだ」
どうやら占いを生業にしている女性のようだ。答えに困ったイェアメリスに構わず、老婆は一方的にしゃべり続ける。


「あんた、変わった相をしてるから、また別の機会に運勢を見てあげるよ。お茶占い、手相占い、水晶占い・・・そうだ!"頭蓋穿孔"なんてのもあるよ。ハハハ」


アスヴァレンの耳がピクリと反応した。
「頭蓋穿孔?」


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「ああ、修行中にハグ達に教えてもらったのさ。額の骨にちょっとした孔を開けてやるとね、脳圧が下がって、頭の働きが活発になるのさ。抑圧されていた力が解放されることもあるよ。デイドラやエイドラ、シシスの声が聞こえるようになったって言う者もおる。・・・どうじゃね?」


「ふむ・・・面白そうだな・・・」


まさか、冗談でしょという顔でイェアメリスは連れを見た。・・・が、錬金術師の目は真剣だった。
「アスヴァレン、やめなさいよ。頭に穴開けるなんて」


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「実に興味深い・・・」


「アスヴァレンってば!」
彼女は老婆の前から動こうとしない連れを無理矢理引き剥がすと、とにかく老婆から離れようとする。目配せをして面白そうに笑っているイドラフの様子からして、旅人と見ては掴まえて怪しげな占いを勧誘する、名物ばあさんのようであった。


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街での用事に取りかかろうと歩き始めたとき、今度はレッドガードと肩が当たってしまった。


「わっ、ごめんなさい」


豪華な服を着たレッドガードは立ち止まると、彼女をじろじろと見る。そして口を開いた。


「見かけない顔だが・・・雲地区には頻繁に行くのか?」


「雲地区?」


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男は、聞き慣れない単語に首をかしげるイェアメリスを見ると、にんまりと笑って見下すような目になった。


「おっと、バカな質問だったな。もちろん、行かないに決まって・・・うぐっ!」


「・・・!」


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彼女を馬鹿にした男は、軽く吹っ飛ぶと、身体を折ってうずくまった。


・・・横で見ていたイドラフが、レッドガードの鳩尾に軽く拳をお見舞いしたのだ。


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「バトル・ボーンの客人に何か用か? ナゼーム」


「くっ・・・」


「下らん嫌味をまき散らしてないで、貴様も畑を耕して、少しは首長の役に立ったらどうだ?」


男は忌々しげにイドラフを睨んだ。
「フ、フン・・・。バトル・ボーンの成り上がり者が。我がチルファロウ農場の産出は、いずれお前たちの農場を超えるからな。みていろよ」


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喧嘩になるかと思われたが、ナゼームと呼ばれた男は負け惜しみを言うとそそくさと去って行った。呆気にとられて見送った彼女たちに、イドラフは笑いかけた。


「なぁに、ヤツは旅人や田舎者を見つけると、嫌味を言わずにはいられない小物よ。ま、気にすることはない」


「お、大きな街だけあって、いろいろな人がいるのね・・・」


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「どんな街にもああ言うやつはいる。残念なことにな。だがあんなヤツばかりじゃないからな。ホワイトランを代表して、それは俺が保証する。それより・・・」彼は街の奥の方を指さした。「ここから真っ直ぐ進めば市場がある。その左手の階段を上ると風地区。更に丘の頂上に辿り着いたら、ちょうどヤツの言っていた雲地区。首長の宮殿、ドラゴンズリーチだ」


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イドラフは次の邪魔が入らないようにと、道の端に二人を導いて、そこで説明した。


「さっきの人が言ってた雲地区って言うのが、ドラゴンズリーチのあるところなのね。・・・でも首長が、あたし達みたいな旅人ごときに会ってくれるのかしら? 雲の上の人なんでしょ」


身の証をどう立てるか、そろそろ真面目に考えなければならない。東帝都社の証明書は島に置いてきてしまった。何らかの代わりの身分証明を手に入れられないものかしら・・・。彼女はそんな風に考えていた。


「ハッハ。雲地区というと名前は大層だが、本当に雲の上って程ではないさ」


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イドラフはよく知っているような素振りで表現した。

「それにバルグルーフ首長は気さくで有名な方だ。夕方にはお気に入りの酒場に降りてくる。ほら、それが正面向こうの方に見える酒屋・・・バナード・メアだ」


「そんな自由な首長だと護衛は大変でしょうね。・・・そっか、酒場でなら話すこと出来るかも!」


「俺もあとで顔を出す。バナード・メアは宿も兼ねてるから、夜そこで落ち合おう。タロスにかけて、せっかく知り合ったんだ。蜂蜜酒でも酌み交わそうじゃないか」


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(ノルドってみんな蜂蜜酒なのね・・・)


イドラフはそう言うと一旦去って行った。
彼女は現在時刻を確認しようと空を見上げる。まだ太陽は中天に近い、昼を少し回ったという時間だ。・・・リバーウッドからホワイトランまで旅してきたが、少し離れた郊外といったぐらいの距離なので、思ったほど時間は経っていなかった。彼女たちは、夕方まで先に別の用を済ますことにした。


昼食にちょうどおあつらえ向きの料理が、道端の屋台で供されている。ローストされた鹿肉で、とてもいい匂いが彼女たちの鼻腔をくすぐった。思わず釣られそうになったが、まずは用事だ。後ろ髪を引かれる思いでその場をあとにすると、彼女たちは東帝都社の事務所に向かった。ここには観光に来たわけではないのだ。


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目的とする東帝都社の事務所は、城門横の左手に存在した。よく知っている大きな船の看板が掲げられている。


事務所の奥では役夫たちが雑談をしている。カウンターの方も客が居らず閑散としていた。港町のソリチュードとちがって内陸のホワイトランでは運送先に合わせた馬車への積み荷の載せ替えと、街の商人相手の集配業務が殆どだが、どちらも早朝で終わってしまう。次に忙しくなってくるのは夕方のため、残りの半日、職員はヒマなのだ。
彼女は見知らぬ土地にようやく自分の拠り所を見つけたかのように、カウンター越しに声をかけた。


「こんにちは! 景気はどう?」


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職員達は変な時間に現れたイェアメリスを一瞬訝しんだが、ヒマをどう潰そうか毎日苦労していたためすぐに、歓んで歓迎ムードに切り替わった。退屈を紛らわしてくれる客は貴重だ。


「悪くねぇよ。少し前から武器の注文が急に増えて大繁盛だ。ファルクリースのロッドや、そこの"戦乙女の炉"だけでは手が足りずに、今度リバーウッドのアルヴォアにも発注しようか考えてるところだ」


東帝都社は帝国軍の御用達だ。・・・内戦の影響だろうか。先程のエイドリアンも帝国向けの剣を打っていた、今は武器防具が売れ筋のようだ。


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「アルヴォアは前に・・・"エルフにぶち込む剣だったらいくらでも作るが、ストームクロークとは言え同胞を傷つける武器を作るのは気が引ける"って言っててな。後回しにしてたんだが、今回の増産に対応するため、今はそれどころじゃなくなってきてるんだ」
現地採用の職員もノルドの男であった。男は、イェアメリスの耳に気がついて慌てて言った。
「・・・おっと、すまない。エルフと言ってもあんた達みたいなのじゃなくて、サルモールのことだと思ってくれよ」


彼女は気にしていないと軽く流すと、先ほど仕入れたばかりの情報を確かめてみた。
「ホワイトランには、もう一つ鍛冶屋がいるって聞いたけど・・・協力してくれないの?」


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「ああ、スカイフォージか。あそこは・・・フォージマスターのエオルンド・グレイ・メーンが同胞団と関係が深いからなぁ・・・。あいつら同胞団は基本的に政治不干渉だ。帝国にもストームクロークにも武器は売らないさ」


「そうなのね。ところで・・・」
彼女は自分も社員であることを名乗ると、アブルサ・サレシと約束したジャズベイ・ブドウの発送を手配した。さすがに州都であるホワイトランは備蓄も豊富にあり、大半は行き先が決まっているが一部は小売りにも対応してくれる。別の農場から取り寄せなくても即日発送出来ると聞いて胸を撫で下ろし、彼女は代金を支払った。


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次は証明書の再発行だ。首長と会うために身の証を立てるものが欲しい。ここがいちばん可能性が高い。

私書証明の番号と名前、そして登録する時に伝えてあるいくつかの個人情報を照合して、イェアメリスが社員であることはすぐに確認できた。しかしそこから先で躓いてしまった。


「すまんね。証明書は総括の居る事務所じゃないと発行できないんだ」


「なんとかならないの?」


「規則だからな、こればかりはね。スカイリムだと、ヴィットリア・ヴィキ総括のソリチュード港まで行ってもらわなきゃならんね」


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「ソリチュードぉ?」


確かにこれから向かおうとしている先だが、行って帰ってバルグルーフに伝言、と言うわけにも行かない。首長との面会はぶっつけ本番で行くしかなさそうだ。バナード・メアに行っての手順を想像し、職員の前で首をひねっていると、聞き覚えのある声が飛んできた。


「あら! あなた・・・イェアメリスじゃない」


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振り向いたイェアメリスの目に入ってきたのは、小柄な女性の姿だった。
「あ、スクゥーマの衛兵さん!」


「ちょっ?! 何てこというのっ!」少女の衛兵は少し慌てたようにカウンターにやって来ると、彼女の口を塞いだ。「リズよ」そして声を落とす。「スクゥーマなんて言っちゃ駄目。そんなの知れたら、隊長にこっぴどく怒られるんだから」


帝都社の職員が訝しげに見ているのをごまかすように、イェアメリスは少女に微笑んだ。
「あ、ごめんなさい。あの時は助かったわ」


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今日は非番なのだろうか。リズは普段とちがい、鎧姿ではなかった。
「あれから、身体の調子はどうなの? 旅の目的? 仕事・・・はうまく行ってるの?」


「あまり変わらないわね。仕事も途中。色々と巻き込まれちゃって」
当たり障りのない返事を返していると、少女は思い出したように口を開いた。


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「イェアメリス・・・あなた、妹が居るわよね」


「えっ、えっ? どうして知ってるの?!」


「だってここに来たもの。ソリチュードの鍛冶屋、ベイランド親方の孫弟子さんなんでしょ? 姉さんを探してるって。"メリス姉ちゃん・・・やっと追いつける!"って喜んでたわ」


「それ! いつのこと?」


「二週間ほど前・・・あなたたちがここを発った次の日よ? あなたは東のサレシなんとかに向かったって教えてあげたんだけど」リズは彼女の顔を覗き込んできた。「・・・って、会ってないの?」


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入れ違いだった。


「でもどうして、あの子スカイリムに来てるのかしら?」
ブラッキーは難破船の奴隷商人一味を排除する戦いの後、島の鍛冶屋、ウンガーに弟子入りしていた。島で留守番している筈の彼女が何故、自分を追って来ているのだろう? すぐに戻ると言って、いつまでも戻ってこない自分を探しに、島を出たのだろうか・・・
イェアメリスの方は、ブラッキーが家の地下室で他ならぬ彼女の秘密を知り、慌てて姉を追って出航したことは知らなかった。


「他・・・、他には何か言ってなかった?」


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「う~ん、エリクくんとか、もう一人若いのとか、変なおじさんとか・・・あまり旅に向いてなさそうな顔ぶれだったけど特には・・・あ、アルフくんの手紙を頼りにホワイトランに来たって言ってたわね」


「だれか俺を呼んだか?」


背後から声がして振り返ると、イェアメリスは目を丸くした。懐かしい顔が立っている。懐かしいと言ってもわずか一週間弱だが、仲間が次々と離脱していくのを見送ってきた彼女には嬉しい顔だった。


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「アルフさん!」
「アルフくん!」


同時に呼びかけ、二人の女性は顔を見合わせると笑った。傭兵アルフレドが風地区から降りてきたところだった。ホワイトランを根城にする彼は剣こそ帯びているが、いつもと違って町の人と同じような服装をしている。一人ではなく彼には連れがいた。イェアメリスはその、アルフレドと一緒に歩いてきた人物に興味を引かれた。妊娠しているのだろうか、まだそれほど目立たないが、よく見ると少しお腹が大きいように見える。旅すがら、何度か話しに出てきたクラリスという人かしら? イェアメリスは軽く会釈した。


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「メリスちゃん! アスヴァレン! いつここに?」


「今着いたところよ。あ、その人がクラリスさんね」イェアメリスは微笑んだ。「噂はアルフさんから何度も伺ってるから他人のような気がしないけど、はじめまして」お辞儀をする。確か彼女も錬金術師と言っていた。内に秘めた活発さが隠しきれないような、リバーウッドのアグリ、ドルテ義姉妹に似た雰囲気だ。


「あなたがイェアメリスね。リズが、"アルフ君は綺麗なエルフの女の人と冒険に出た"って噂してたから、気になってたの」アルフレドのパートナーは悪戯っぽい笑みを浮かべて、冗談を飛ばしてきた。


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イェアメリスはぷっと吹き出す。
「アルフさん、リズちゃんにスイートロールあげなかったのね。口止め料」


「あ、ああ・・・」
女三人に囲まれて窮地に立たされた傭兵は、助けを求めるようにダンマーの錬金術師を見たが、アスヴァレンはいつも以上に無表情を装っている。


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「こちらの方がアスヴァレンさんね。あたしはクラリス。あなたの弟子さんと同じで、錬金術師見習いよ。必要なものがあったら、お店まで来てね。市場に面している"アルカディアの大釜"という錬金術店で働かせてもらってるの」しっかりと店の宣伝を付け加える。
アスヴァレンは少しだけ表情を緩めると、急に賑やかになった面々を見回した。アルフレドも意気投合した仲間との再会に喜びを隠そうとせず、残りのメンバーを探そうときょろきょろしている。


「あれ? アーセランはどうしたんだ? テルミンも。ああ・・・あいつらのことだから、また街を物色しているんだな。ジャ・ラールたちはリフテンに向かったんだよな」
イヴァルステッドで別れたアルフレドは、その先で何があったのかまだ知らない。イェアメリスは少し寂しそうに微笑んだ。


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「彼らとは、別れたわ。それぞれやることができたの」


落ち着きの中に少し愁いを含んだ顔を見て、傭兵は彼女の顔を見返した。
「そうなのか?! ・・・あとで詳しく聞かせてくれ。にしても、メリスちゃん、なんか少し大人っぽくなったな」


「そーんなこと言ってると、クラリスさんに叱られるわよ」
「そうそう、女は一週間で化けるものなの」


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リズも加わって、アルフレドはこれは敵わんと戯けて降参して見せた。


「話が盛り上がっているところ悪いんだが・・・」
賑やかに話していると、東帝都社のカウンターから職員が声をかけてきた。


「あんたの番号・・・。さっきのもう一度見せてくれないか?」
その声でイェアメリスは、仲間との再会で忘れかけていたもう一つの用事を思い出させられた。一旦しまった私書通信の番号を書いた証明書を取り出すと、職員に提示する。帝都社の職員は、渡された紙を見て記憶を呼び覚まそうとしている。


「この番号・・・、どこかで見た様な・・・あっ、そうそう。これだ」
職員はそう言うと、奥の整理棚をごそごそやり始めた。そしてしばらくすると、奥の方で帳簿らしきものを眺めながら声を張り上げた。
「この番号に該当する手紙が二通あるよ、見るかい?」


「二通・・・? 見せて!」


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職員は頷くと、検索した二通の手紙を持って現れた。ドキドキしながら一通目を開く。中を見ると、イェアメリスは、気の抜けた様な顔になった。すぐ隣のアスヴァレンが興味深そうに覗き込む。


「メリス、どうだ?」


「あたしが書いたものだわ」手紙は、彼女がイヴァルステッドでしたため、帰り道のアルフレドに託したものであった。「・・・ということは、アルフさん、ちゃんと届けてくれたのね」


「当然だろ」


職員はその様子を見て付け加えた。
「あんたあの手紙の差出人だね? そこに居る傭兵のアルフが持ってきた手紙はちゃんと各地に送っておいたからな」


「ありがとう」


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「もう一通は?」
彼女は職員に礼を言うと、アスヴァレンに促されてもう一通の手紙を開く。
期待通り、ブラッキーからの私書通信であった。


「やった! ブラッキーからだわ!」
興奮してアスヴァレンの方を見たイェアメリスは、読んでみろと促されて視線を手紙に戻した。そして読み進む。・・・読み進むにつれて、彼女の形の良い眉はひそめられていった。
「たしかにブラッキーから・・・なんだけど。なんか・・・」首をかしげるイェアメリスをみて、今度はアスヴァレンが手紙を手に取った。


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「どれ・・・、・・・・・・。お、おぅ・・・」
曖昧な声。


文面を見たダンマーはしばらく固まっていた。しばらく硬直したようになった後、ようやく口を開く。


「これを・・・あいつが書いたのか?」


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=*=*=*=*=*=


姉上


姉上が島を出港せる後、部屋をしたためたれば伝ふべき用件見つかりき。
ここに内容は書きて他人に伝ふるよしにはいかねば、直接会とて話さむと追ひかけゆきき。ソリチュードにて姉上のよすがを見つけ、アルフといふ傭兵と共にホワイトランへ向かひし事を知りし我は、追ひかくるためにおなじく内陸に向かふことにせり。
ホワイトランで追いつけざりしため、なほ東に進むことに決めき。この文を見けらば、居場所を残したまへ。我はそこに向かふことにす。


親愛なる妹ヨリ


=*=*=*=*=*=


「しかも・・・かなりの達筆だな・・・」
二人は首をかしげた。イェアメリスは釈然としない表情のまま、職員に尋ねた。


「ね、ねぇ、この手紙を置いていったのはどんな子? あたしより年下に見える、小柄な少女じゃなかった? 黒い髪の」


「う~ん、どうだろうな。手続きのときは別の職員だったから、俺にはなんとも」


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「でも番号は同じよね。間違いかしら・・・」


彼女はアスヴァレンを見た。


「これ本当にブラッキーの手紙? それとも誰かのいたずら? あの子、何か悪いものでも食べたのかしら・・・」


「文体はともかく、書いてあることは至極まっとうだが・・・」


それもそのはず、手紙はジャースが代筆したものであった。彼は200年以上前の小説家だ。ウォーヒン・ジャースの代表作はその時その時代の言葉で、何回も翻訳され直して現代に伝わっている。この手紙はその原文と同じで、今の言葉とはかけ離れた表現や言い回しが使われており、イェアメリスには理解しかねた。
齢200歳を超える学者であるアスヴァレンは、研究がら過去の文献には造詣が深い。難なく読み取ることができたようだ。


「ふむ・・・何処かの長生きなアルトマーにでも代筆させたのかもしれんな・・・」


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姉の部屋を片付けていたら何か見つけた。それを伝えるために島を出て、ソリチュードで手がかりを見つけてホワイトランまでやってきたがすれ違ってしまった。手紙を見たら居場所を教えて欲しい、そんな内容であった。
アスヴァレンに翻訳してもらった彼女は、困ったように手紙を見た。


「でも・・・、あたしたちは進まなくちゃいけないし・・・」


「行くなら、あいつの言うように連絡を残して置いた方が良さそうだな」
ブラッキーがどうしてスカイリムに来たのかは気になるが、ここで待つわけにも行かなかった。


ずいぶんと時間を無駄にしてしまった。当座の危険が去った今、呪いを解くという本来の目的に取り組まなければならない。・・・イェアメリスは自分で背負い込んでしまったとは言え、ホワイトランでの用事を早いところ済ませて発ちたかった。


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もうあんな苦しみは味わいたくない。次の刻限までにソリチュードに辿り着いて、呪いを何とかしなければ・・・
妹からの手紙に後ろ髪引かれる思いであったが、彼女は決意を新たにするのだった。



(18話に続く)



※注釈1 (リンクポイント)


長らく一緒に旅を続けてきたアーセラン君、ここで一旦イェアメリスたちと袂を分かちました。

彼は物語のあとの方でまた出てきます。そして再合流の時までに彼もイェアメリス達同様、様々な冒険に遭遇します。

そんな彼の活躍を見たい方はこちらで続きが読めますヾ(๑╹◡╹)ノ"


LUCIEN-HOUSE
~ロリクステッドの小さな家~


1話 旅立ち

2話 怪しいボズマー 以下つづく・・・


4e201では、お世話になっている「くろみみ」さんのアーセラン君の物語となるべく整合性を保つように、前日譚という形でクロスオーバーしてきました。

フェルグロウに行ったあと何が起こるのか、彼の商売は成功・・・いや、軌道に乗るのか?


アーセラン君視点は、正確には第2話に接続しますが、ぜひぜひ第1話から見に行って下さい!




※使用modほか


・Alforttes Followers - JP Custom Voice Follower( Nexus 76823 )
  お世話になっているAlfortさんのフォロワー

  今回はアルフくん再登場に加え、街の住人としてクラリスちゃんに出演いただきましたヾ(๑╹◡╹)ノ"


・GCE NPCs Replacer( Nexus 58536 )
  フォロワーとNPCを美化するリプレイサーmod。
  今回はこの中からバルグルーフ首長を使わせていただきました^^


・Superior Lore-Friendly Hair - HD textures( Nexus 36510 )
  バニラの髪型をハイレゾ化するmod
  これでイドラフもかっこいいおっさんに(゚∀゚)/


・Cloaks of Skyrim( Nexus 12092 )
  クロークやマントをスカイリム全土にばらまくmodです。
  派閥毎にデザインも違い、NPCもちゃんと装備。
  戦利品などからも入手できるようになり雰囲気満載です


・Beyond Skyrim - Bruma( Nexus 84946 )
  ・・・シロディールの最北部を追加する大型mod
  今回はかつてのブレイズの本拠地、曇王の神殿を使わせて頂きました。


・The Gray Cowl of Nocturnal( Nexus 64651 )
  ハンマーフェルやオブリビオンなど、多彩な舞台で展開されるノクターナルの灰色頭巾にまつわる盗賊のクエストです。
  今回はアリクル砂漠、町(ベン・エライ)の景観に使わせて頂きました。



6 Comments

芋だん子  

No title

リバーウッドで「メリスちゃん手紙2通とも渡しちゃうの!?」と焦りましたが、丸く収まって良かった(*´ω`*)

前回までのお話で改めて、処刑寸前から竜の出現までがたった1日の出来事なんだと思うと、メリスちゃんじゃないけど長い1日だと思いました。

恋人選びのエピソードに、既婚未婚でのスカイリム結婚感が出てて面白かったです。この世界での現実味というのかな。

最後にもらった手紙が古典の文章っぽくて「確かに200年も前の人のならそうなるな~」って笑いました(*´ω`*)

ホワイトランで再会した仲間とのお話、また楽しみに待ってます。

2018/08/30 (Thu) 09:26 | EDIT | REPLY |   

もきゅ  

>芋だん子さん
ファンタジーの中の「リアリティ」とか「納得性」って、難しいですよね。
自分が女子で、もしノルドの男と結婚するとしたらw、ってかなり悩んで考えましたw

Tesシリーズの場合は世界設定(ロア)がかなり作り込まれているので、それに乗っかればある程度は表現できるのですが、ゼロからだと凄い難しいです。
別の一次創作もオフラインで暖めていますが、ほとんど調べ毎の積み重ねみたいな感じですw
人文科学、社会科学、自然科学、形式科学、の4つ全てに精通していないとマトモにならないので、世界を作る神様になるのも大変ですよε-(・д・`;)フゥ…ww

古文は学生時代に一番苦手な教科だったことはナイショ…w Webの力を十二分にお借りしました(゚∀゚)」アヒャ

2018/09/16 (Sun) 22:29 | EDIT | REPLY |   

sasa.  

こんにちわ~

今回もじっくりと読ませて頂きました。いつもながら丁寧な進行でどっぷり浸れますね。嵐の前の静けさ...といったフェーズでしょうか。

アグリちゃんとの女子会みたいなやりとりには尊みがありましたし、
長らく一緒に旅してきたアーセランとのお別れはうるっと来そうになりました。
(とてもいいキャラ)

それにしてもブレイズの本拠地といいハンマーフェルといい、
やはりskyrimは現行TESだけあってなんでもありますね。

妹とはいつ会えるのか、そしてメリスの呪いはどんなふうに影響していくのか...

次回も楽しみにしております(≧◇≦)

2018/09/17 (Mon) 15:29 | EDIT | REPLY |   

アーク  

No title

ようやく最新話に追い付いた。
馴染みのリバーウッドとホワイトランになごむ(笑)

そして、ナゼームの扱いよ...結局雲地区ってなんなのかな?
貧民街とかそんな意味なのかと考えてたんだけど。
多分差別用語なんだろうとは思う。

誤字発見

兜の男に金の爪を手に入れて欲しくなかいアーセランは、心の中で呟いていた。

欲しくなかい→欲しくない

2018/09/19 (Wed) 11:37 | EDIT | REPLY |   

>sasa.さん  

コメントありがとうございます。
ちょっと緊迫したシーンが続きましたからね。ようやく一周してホワイトランまで帰ってきました。
現時点で第2部は2/3ほど進んだ計算になります。
これまではアーセラン君の狂言回しとしての推進力を借りて話を転がしてきましたが、ここから先はセットアップ済みの事件や状況を動力に、クライマックスに向けて加速していきたいと思います~

次回も(もう公開しちゃった後ですけどw)お楽しみに~ヾ(๑╹◡╹)ノ"

2018/10/20 (Sat) 20:34 | EDIT | REPLY |   

>アークさん  

お返事遅くなりました。
やっぱりゲーム内で見慣れた場所に来るとちょっと落ち着きますよね。
いろいろと斜め上に予想を外しに行くのが好きなので、ナセームの扱いはどうしようか迷いました。結果、様式美の方を優先することに。・・・どこか別の世界で彼が活躍するお話もありますよ、きっと・・・たぶん・・・w

誤字指摘ありがとうございました~ヾ(๑╹◡╹)ノ"

2018/10/20 (Sat) 20:35 | EDIT | REPLY |   

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