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4E201

TES大好き、もきゅがスカイリムの物語をお届けします

◆Chapter 2-16: 嵐の前

2018
15

瓦礫となったヘルゲンからドラゴンが去ってしばらくした後・・・


砦に避難して様子を伺っていたイェアメリス達は、恐る恐る外に出てきた。疲れた顔をした彼女たちは誰もが、火事の煙と煤にまみれて真っ黒だ。


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砦の内部に進めば井戸か水源があるはずであったが、奥に入れば先に進んだウルフリック達と再び遭遇する可能性がある。そうでなくてもあんなことがあったばかりで、今砦の中にはどのような者達が入り込んでいるか分からない。彼女たちは砦に長居するのは辞め、外に出ると代わりに雪で顔を洗い、手足の汚れを落とすことにした。幸いヘルゲンはスカイリムでも比較的標高の高い場所に位置している。辺りは白く、雪に不便することはなかった。


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何人かの兵士が残っていたのはさすがだが、彼らもテュリウス将軍の命がなければとっくに逃げ散っていたに違いない。運の悪いその兵士たちは門を監視していたが、何度も不安そうな表情で空を見上げ、ちょっとした物音にも怯えていた。

当然ながら馬車など影も形もない。ここからソリチュードまで、とても歩いて旅する気分になれなかったが、この有り様では他の手段を見つけられる望みも限りなく薄そうだ。


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まずは馬車を掴まえられる、どこか別の街まで徒歩で行くしか手はない。イェアメリスたちは、この地に詳しいハドバルに案内を頼み、ジェラール山脈の裾野を北に下ることに決めた。


一行の中にハドバルを見つけた兵士達は、ほっとしたような表情を見せる。彼らが言うには、生き残りをとりまとめたテュリウス将軍は彼らを監視役として残すと、ファセンディル軍団長の駐留するニューグラド砦に退いていったらしい。そこで一旦軍を再編し、市民救助の部隊を派遣するとのことであった。


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「じゃあな、メリス。あたい達はこっちだ」
兵士達はハドバルとの会話を終えると、首の後ろに重りがついたかのように揃って空を見上げる姿勢に戻ってしまう。
そんな様子を尻目に、テルミンは別れを切り出した。ヘルゲン砦の東を指す。その後ろにはハミング少年がひっついていた。彼女は両親を失ったこの少年を、これからリフトの山奥に住む親戚のフローキのところに連れて行くという。


ハドバルをチラリと見ると、少し気になって小声で女戦士に確認する。
「テルミン・・・ストームクロークに戻るの?」
ヘルゲン脱出の道連れとなるハドバルは、ストームクロークと敵対する帝国軍の士官だ。


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「いんにゃ。それはねぇ・・・と思う。兵士に向いてないのはよく分かったからな。やっぱ、指示されて戦うんじゃなくて、相手は自分で決めてぇじゃん? 軍を離れてメリス達と旅してみたらドラゴンとか竜司祭とか、なんだか面白そうなこといっぱいあったし、同じ戦うなら、内輪のノルド相手よりもそっちの方が楽しいだろ?」


「面白そうって、あなた・・・まさかあんなドラゴンに挑むって言うの?」


「かつてのノルドの英雄は倒したっていうぜ? ま、今のアタイじゃ無理だろうけど、なんかやり方あるんだって、きっと。それを目標にすんのも悪くねぇかもな」


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イェアメリスはドラゴンの恐ろしさを目の前で見てきたばかりだ。とてもテルミンのように楽観的にはなれなかった。


「とはいえ、まずはこのぼうずだ。無事に家族に会わせてやらねぇとな」
そう言って鼻をこする。口には出さないが、彼女なりに別れを惜しんでいるのがその仕草から感じられた。


「メリスにはまだ借りは返してないからな。必要なときにはいつでも呼んでくれ、何を置いても行くぜ」
そして景気づけに一杯、蜂蜜酒をあおるが、その手がふと止まる。


「どうしたの?」


「あ、借りといえばこれ・・・アルフの兄さんに蜂蜜酒代、借りたままだった・・・」


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「そんなこと言っても、アルフさんの方が先に行っちゃったじゃない」彼女は笑った。「踏み倒しちゃったわね」


「メリス達だって、宿代を踏み倒したことあるって言ってたじゃん」


「あ、あれはアスヴァレンが荷物を盗まれたから慌ててやむなく・・・」


「なぁに、こういう縁が残ってた方が、また再会もできるってもんだろ?」
テルミンはからからと笑うと、問題ないと言うように手を振ってみせた。


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「また、きっと、会えるよね?」

イェアメリスは彼女の決意が固いのを見て、引き留めこそしなかったが、急な別れをまだ飲み込みきれずにいた。


「ああ、ボウズを送った後はいったん、カイネスグローブに戻るよ。だけど、またふら~っと旅に出たくなるのは間違いない。アタイじっとしてらんない性分だから」


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そうして、少年を連れたテルミンは去って行った。


気のいい旅の仲間だった女戦士の突然の離脱にイェアメリスはしょんぼりしたが、かといってここで、いつまでもじっとはしていられない。二人の姿が見えなくなると自分たちも下山を始めた。


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標高が下がるにつれて周囲の雪は姿を消し、針葉樹の緑と冬に抗う下生えが主な景色に取って代わる。先ほどまでヘルゲン周辺に集っていた異様な雲は霧散しており、空には初冬の清々しい青色が戻ってきていた。しかし街からは未だ火災の煙が立ち上り続けている。・・・ジェラール山脈に穿たれた災厄の楔、そこから噴き上がる黒煙はどれだけ離れてもヘルゲンがどの方角にあるかを主張してやまなかいのだった。




・・・




「ホイっ、これ。返すぜ」


アーセランは大きく伸びをすると、パンパンに膨らんだサックをイェアメリスに向けた。彼女がヘルゲンまで護送されている間、荷物番としてサックを管理していたのは彼だった。中にはこの旅の大事な目的である、買い付けたニルンルート三十株が詰まっている。


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「なに、ちょっと、これ、重いわ!」
急にずしりとした重荷を背負わされた彼女は、すぐに荷物をアーセランに押しつけた。「あたし足が治ったばかりなのよ。持ってやろうとか思わないわけ?」内心では荷物が戻ってきたことを嬉しく思っていたのだが、口を突いて出てくるのは反対の言葉だった。


「もう充分持ってやったじゃねぇか」


「そんなこと言っても、重いんだもん」


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小柄なボズマーは、ため息一つつくと、大きな荷物を揺すった。
「しゃーないな。あとちょっと。リバーウッドまでだぞ。そっから先は自分で持つって約束するなら、持ってやる」


「はーい!」


「返事だけはいいな、まったく」


ここまで来てもまだヘルゲンの煙は見える。ドラゴンはいなくなったとはいえ、まだどんな危険が潜んでいるかもしれない。イェアメリスは虜囚の身体的ストレスから解放されると、今度は心の中で不安がむくむくと頭をもたげてくるのを感じていた。


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「・・・アルフさんやジャ・ラールさんたち、レオナールさんは無事よね」
彼女は確認するように、自分たちが下ってきたジェラール山脈を振り返った。


「あいつらはヘルゲンに向かってたわけじゃねぇからな。アルフの兄さん、ネコ、レッドガードのすげえおっさん、どいつもこいつも殺しても死ななさそうな奴等ばかりだ。アスヴァレンのダンナ除いて、俺っち達のほうがよっぽど大丈夫じゃねぇって」


「そ、そうよね」
顔を上げると、連れの錬金術師と目が合った。アスヴァレンはいつものつかず離れずの距離で、物静かに佇んでいる。


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(モロウウィンドに帰ると言っていたのは・・・やめたのかしら・・・?)


本当であれば今ごろ彼女も、ニルンルートの束を抱えてウインドヘルムからソリチュードに向かう船に乗っているはずだった。アスヴァレンはそこで別れて故郷に戻る、そう言っていた。
・・・捕縛されてから解放されるまでの囚人生活、ドラゴンの襲来と人々の死、仲間との再会と別れ、多くの出来事が二人に襲いかかったが、その間彼は彼女を見捨てず、常に追い続けてくれた。思考が整理できずにぐるんぐるん回っていたイェアメリスだったが、変わらず黙々とついてくるダンマーの姿を見て、少しだけ気持ちが安らぐのを感じた。


彼らはおしゃべりながらも、足元に影が落ちる度に立ち止まり、そして空を見上げた。先程の兵士達同様、いまだ上空を死の翼が舞っているのではないかと、どうしても気になる。


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「ふぅ・・・もう居なくなったみたいだな。だが戻ってくるかも知れない。グズグズしている場合じゃないぞ」
先導するハドバルも同じように空を確認し、大きく息を吐きだすと、アスヴァレンの折れた剣を指さした。
「ここから一番近い街はリバーウッドだ。・・・町というより、村かもな。俺のおじさんが鍛冶屋をやってる。そこのあんた、もしかしたらその折れたという剣を直せるかも知れないぜ」


錬金術師は首を振った。
「無理だ。これは特殊な素材で出来ているからな」


「まあ、それでも他のことでお前たちに手を貸してくれるはずだ」


ハドバルの故郷はヘルゲンにほど近い、ホワイト川上流の村、リバーウッドだった。山道だが、慣れている者であれば半日もあれば着く。
彼女たちはドラゴンをやり過ごすためにずいぶん長いこと、ヘルゲン砦に息を潜めていたと思っていた。しかし外に出てみればまだ日は中天を少し越えたばかり。真昼の時間帯であった。気の遠くなるように感じられたヘルゲンでの時間は、実際には午前中の数時間に過ぎなかったという事実に、彼女たちは改めて驚ろかされた。


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リバーウッドの農民達はその日に収穫した川魚や農作物を夜までに行商人に卸す。行商人達は夜明け前に出発してヘルゲンに向かい、遅めの朝市で売る。そして昼頃に出発して夕方には村に帰ってくる。
そういった巡回パターンが成り立つほどの近隣の村だった。一行が向かっているこの時間帯は、本来であれば市を終えてリバーウッドに帰る行商人を見かけても良いはずだったが、いま街道を歩く影は他にいない。ヘルゲンで災難に巻き込まれた者も相当数いるに違いなかった。


「ショールにかけて、俺自身、お前たちが居なければここまで来られなかったかも知れないな」
帝国軍の隊長補佐は、イェアメリスが追いつくのを待った。


「一緒に、息を潜めていただけだけどね」
ドラゴンは本当にどこかに飛び去ってしまったようだ。ようやく、当座の危険はなさそうだと判断し、イェアメリス達も少し警戒を解きはじめる。


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「そうは言うが、君らが止めてくれなければ、ウルフリックと勇敢に戦って今ごろ俺はソブンガルデにいたかもしれん。奴と刺し違えることができるなら、それも悪くなかったが・・・」


「そんなこと言っちゃダメよ」
ノルドはどうしてこうなのだろう。すぐに命を投げ出そうとする。イェアメリスは非難するようなまなざしをハドバルに向けた。「奥さんいるんでしょ?」


「ああ、まだあいつを悲しませるには早いよな」


「そうよ、ハドバルさんまだ若いもん」


「行こうじゃないか。リバーウッドに隠れれば、一息つけるだろう」


ハドバルは一瞬立ち止まり、少し休みながら他の仲間が追いつくのを待っている。顔をしかめているところを見ると、痛めた足が響いたようだ。他の仲間が追いつく間、同じく先頭を歩いていた兜の男が北の山を指さす。興味を引かれたようだ。


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「あの向こうに見える建物、あれは何だ?」


この素性の分からない道連れも、彼女とおなじく処刑の寸前で命拾いした。彼も同じようにドラゴン襲撃の災難から生き延びたのだから、力を持った男なのかも知れない。かなりの強運の持ち主だ。
追いついてきたアスヴァレンとアーセランも、兜の男の視線にならって一緒に向こうの山を見上げた。


「あれはブリークフォール墓地といって、かつての竜教団の遺跡の一つさ。どうして? 気になるのか?」
竜教団、という言葉に一瞬アーセランは反応して続きを期待したが、残念ながらハドバルはそれ以上は詳しく知らないようであった。


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「いや・・・あの形、ドラゴンが羽根を休めるように作られているのかと思えてな・・・」


「子供の頃、あれのせいでよく悪夢を見たもんだ。ドラゴンは居なかったが、ドラウグルは夜、窓から入りこもうと山をこっそり下りてくる。そう言い聞かされてきたんだよ」彼は冗談めかしていった。「ドラウグルって見たことあるか? 埋葬された死者のことをこんな風に言っちゃ何だが・・・」


追いついたイェアメリスは大きく頷いた。


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「同感・・・。ウルフスカルって言う洞窟で遭遇したけど、何度も見たいものではないわね」


「今では子供に言うことを聞かせるための大人の方便だって分かる。まあ、それでも正直言って俺は、あの見た目があまり好きじゃないよ・・・うっ」
小石に足を取られて、ハドバルは片膝をついた。痛めた足では踏ん張りがきかないようだ。ここで無理しても仕方がないため、彼女たちはブリークフォール墓地を遠目に望みながら、小休止を取ることにした。


ハドバルの為に、イェアメリスは薬草を擦った湿布薬を調合してやった。薬を擦り込んだ包帯をきつめに縛るとき、隊長補佐は少し顔をしかめたが、何とか立ち上がって歩きを再開することはできそうだ。


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「ちょっと固く縛ったから、リバーウッドに着いたら解いてね」


「すまないな、あとちょっとなんだが・・・」


アーセランはハドバルに手を貸してやった。
「この前のメリスちゃんと一緒だな」


「そうね。あたしの時ほど酷くはなさそうだけど、癖になると良くないから、村に着いたらしっかりと休まないと」


「ああ、でも今は先を急ごう。あのドラゴンは今も上からオレたちを見ているような気がするんだ。ああ、まだ到底信じられない・・・本物の、生きたドラゴンだなんて・・・」


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アスヴァレンも遠くの遺跡を興味深そうに眺めている。
「ドラゴンは大昔に死に絶えたものだと思っていたが」


「同感だよ。もしストームクロークが見つけたか目覚めさせたかしたのなら、戦局は悪い方へと向かうかもな」


「考えすぎよ」
イェアメリスは首を振った。「あなたたちのおかげで九日間、いえ、十日間もストームクロークと一緒に引き回されたけど、そんな素振りも話も全くなかったわ」


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ハドバルはそれでも反論してくる。
「それは謝るって・・・しかし、ただの偶然とも思えないんだ。だってそうだろ? 何世紀もの間、誰も見たことがなかったドラゴンが、ウルフリックが処刑されようとしたそのときに攻撃してくるなんて」


「そうは言っても、あの人、タロスに誓ってそれは無い、って言ってたじゃない」
砦の内部に避難している時、まさにその質問そのものをウルフリック本人にしていた。そして当然のことながらウルフリックはドラゴンとの関与を否定していた。


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「ウルフリックの言うことは信用できない。あいつはタロス崇拝を方便に使ってる。だまし討ちで上級王を殺害したようなヤツだぞ。それに・・・シャウトを使えるって言うじゃないか。ノルドの声秘術を使えるって言うのなら、ドラゴンに関わる何らかの秘密を持っていてもおかしくない。反乱軍がドラゴンを使役しているとしたら、奴等を止められるのはテュリウス将軍しかいない」


「だから、それは考えすぎだって・・・ハドバルさん、ちょっと疲れてるのよ」
帝国の隊長補佐は疑心暗鬼になっているようだった。


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「あいつ、やっぱりストームクロークとは関係ないと思うぜ」
不意にアーセランが発した言葉に、彼女たちは一斉に振り向いた。


ボズマーは聞き慣れない言葉を発してみせた。
「Zu'u lost daal」


「なに、それは・・・どこの国の言葉?」


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アーセランは彼女の問いには答えず、続けた。


「Zu'u Alduin, zok sahrot do naan ko lein」
「Kel drey ni viik」
「Zu'u lost daal」


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「我はアルドゥイン。最強の一族の長。星霜の書によって滅ぼせたと思うのは間違いだ・・・、そう言ってた」


ピンと来ないイェアメリスに代わって、声を張り上げたのは隊長補佐であった。
「アルドゥィンだってのか?!」


「ああ、そう言ってた」


「何? その、アルドなんとかっていうのは・・・ハドバルさん、知っているの?」


「ああ、ノルドの言い伝えに詳しい者ならみんな知ってるさ。・・・終末をもたらすもの、世界を喰らうもの・・・」


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兜の男も興味を引かれたように注目していた。ハドバルは言葉を継いだ。
「正直・・・おとぎ話だと思っていた。それに、この目で見た今でも、心の何処かではドラゴンなんかいなかったと否定してしまいたい気持ちでいっぱいだよ」彼は日が燦々と降り注ぐ街道上にもかかわらず、薄ら寒い何かを感じたように身震いした。


「それにしてもアーセラン、竜の言葉が分かるの?!」


ボズマーの商人は、自分でも嫌そうに頷いた。


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「・・・ああ。あの仮面を被ってからいろいろな声が聞こえると思ってたんだが、空耳じゃなかったんだ。あの竜が何を言っていたのか、何故か俺には分かっちまうんだ。変なことに巻き込まれなきゃいいんだが・・・」


どう返していいか分からなくて彼女は、驚きの表情のまま黙り込んだ。仲間も同じように、何も発しない。しかし神妙そうに見えたアーセランは、数瞬後にはいつもの顔つきに戻っていた。


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「・・・ま、スカイリムには竜教団やドラゴン由来の遺跡もいっぱいあるって言うし、それらを探索するにあたって奴等の言葉が分かる、これ程役に立つものはねぇよな」
重苦しい雰囲気を払拭するように、軽い感じで茶化してみせる。


「これってすごい武器だぜ。どんなトレジャーハンターよりも俺っち有利じゃん。こりゃぁ増々、スカイリムに腰を据えなきゃならねぇことになったな」


アスヴァレンがフッと笑う。
「・・・呆れるほど前向きだな」


「ま、悩んでも仕方ないじゃん?」
その仕草に金縛りを解かれたように、イェアメリスも息を吐き出した。
アーセランはつづら折りの下り坂の少し先に踊り場を見つけると、既に眼に入った別の物に興味を移していた。「ってか、あれなんだい?」


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ハドバルが彼の目線を追い、何を指し示しているのか得心すると口を開いた。
「ああ、あれか。大立石だな」


「隊長さんよ、あんたは居なかったが、たしか、行きの道にもあったぜ。あれはなんてったっけ、儀式の石碑?」


「俺は隊長ではない。ああ、儀式の石碑はホワイトランの兵士が守ってるヤツだな。・・・ここも特別な場所だが、そんな危険なものじゃない。むしろ恩恵だよ」
ハドバルは街道馬車の御者のごとく案内した。「スカイリム各地に点在する13柱の古代大立石のうち、この3本を"大守護石"というんだ。試してみるかい?」
向こうに見えるイリナルタ湖と、その上空に浮かぶ浮遊島がまるで引き立て役の様に三本の石碑の背景を彩っている。ここは平時にはスカイリムでも有数の観光名所となっている場所であった。


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「でも、大立石って、たしか星座を持たない者にしか反応しないのよね?」
三本寄り添うように立ち並ぶ石柱を興味深げに観察したイェアメリスは、行きの道でアルフレドが話してくれた逸話を思い出していた。
"星座に対応した13の大立石には、太古の英雄たちの力が宿っているという言い伝えがある。そして、選ばれた者が石碑に触れると星座の守護を受けられる。本来、守護星座は生まれた時に月に応じて自動的に定まるのだが、稀にその星座を持たないものが生まれるらしい。その者は大立石に触れることで個別の秘められた力を受けることができる”そんな話だった。


「行って、自分の目で確かめろ」


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イェアメリスは恐る恐る、そして期待半分、目星をつけた石碑の一つに手を触れてみた。


「・・・」


「やっぱり反応しないわ」
無反応な石碑を少し恨めしそうに見た彼女は残念そうに呟いた。自分の生まれ月は覚えていないが、彼女は既に星座を持っている様だ。


「魔術師か。まあそうなるよな。エルフだし」


「なによ、不満そうね」


ハドバルは笑って肩をすくめると、おなじく無反応の石碑に手を当てているアーセランを見た。彼は盗賊の石碑を選んでいた。


「あなた、商人目指してるんじゃなかったわけ? とうとう本性が出たのね?」


「言ってろ。・・・ゼニタールにかけて、ちょうどいいのがねぇんだから仕方ないだろ」


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続いて石に触れる兜の男を見て、ハドバルは驚きの表情を見せた。


兜の男が触れると、石碑は星座の模様を浮かび上がらせたのだ。


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光の筋が一直線に天に立ち昇っている。いや、見方によっては天から注いだ光の筋が石碑に灯りを灯しているようにも見える。やはりこの男は特異な星の下に生まれた者の様だ。


一行は戸惑う兜の男をまじまじと観察した。


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「戦士か、いいぞ! 俺が見つけた時、やっぱりあの馬車に乗っているべきじゃなかったんだ!」
ハドバルは満面の笑みだ。


「なんだか調子いいわね・・・」
反応しなかった彼女は、むくれて頬を膨らませる。


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「石碑が反応する様子は滅多に見れないんだ。あんなことがあったが、やはり彼もただ者じゃないって事が証明されたわけだ」


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「ふーん。まあいいけどよ」


早くも石碑から興味が失せたアーセランは、既に次の物に目を移していた。

「で、とうとう見えてきたあれがリバーウッドってやつかい?」


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雲間から降り注ぐ太陽光に目を細めながら、ハドバルにたずねる。街道は大守護石の先、ホワイト川に併走して北東に向かっていたが、橋の上から見ると少し先で道を塞ぐ様に木造の扉があるのが見えた。


「いや、あれは州境だな。ここまではファルクリース。その先はホワイトラン領だ」
今まで越えてきたものと比べて長閑な感じがしたため村の入り口かと思ったが、どうやら関所の様だ。


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「そっか。ってことは・・・オレたち、ホワイトランからイーストマーチ、リフト、ファルクリースと来て、世界のノドの周りをぐるりと一周して来ちまったんだな」
感慨深げにアーセランが呟く。


「なんにせよ、一緒に来てくれて嬉しいよ。もうすぐリバーウッドだ」


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イェアメリスはそれを聞いて複雑な顔をしていた。
「そうね・・・早く、早くソリチュードに戻らなくちゃ・・・」


状況に翻弄され、気がついたらアーセランの言うとおり、世界のノドを一周していた。本来の目的を思い出すため、自分に言い聞かせる様に口を開く。


「さぁ、おしゃべりはもういいわ。行きましょ」




・・・




今まで関所にはあまりいい思い出がなかった彼女たちは少々身構えて望んだのだが、ファルクリース=ホワイトランの州境はあっけないほどすんなりと通り抜けることが出来た。


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ドラゴン出現の騒ぎはまだここまでは伝わっていない様だ。肩すかしを食らって気が抜けた一行はそのまま歩いて、夕方少し前には無事、リバーウッドに到着した。


「ハドバルさん、足は大丈夫?」


「ああ、何とか持ってくれたよ・・・それにしても、ここは静かなものだな。来てくれ、俺のおじさんだ」
耳を澄ますとホワイト川のせせらぎの音、鍛冶屋の槌が鋼を打つ音、木々のざわめきの音、調和の取れた落ち着いた音が耳をくすぐる。そして視界に広がるのは、森と川を生活の中心としたささやかな村の光景であった。木造と藁葺きを組み合わせた家が街道の左右に点在し、中州には製材所らしき小屋が建てられている。対岸の岩壁には、ひときわ目立つカイネの巨大な女神像が彫られていた。
故郷の島のモック村と大して変わらない、山と樹と水に囲まれた雰囲気。ハドバルが言う通りの静かな村に、イェアメリスは自然と心が和むのを感じた。


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しばらく故郷を眺めたあと、ハドバルは案内を再開した。
村の中央に向かって一歩を踏み出すと、その調和を引き裂くような老婆の声が響き渡たった。入り口近くの家の軒先で、ノルドの老婆が唾を飛ばしているのだ。


「ドラゴンだ! ドラゴンを見たんだ!」


「え? 今度はなんだよ、母さん?」
側にいた青年が少し慌てた様にリュートを下ろす。そしてきょろきょろと周りを伺って、イェアメリスと目が合うと、老婆をたしなめはじめた。


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「それは山みたいに大きくて、夜みたいに真っ黒だった。墓地の向こうへ飛んでいったよ」


「ドラゴンだって? 勘弁してくれよ。母さん。只でさえ最近物忘れが多いんだから、そんな風じゃ、村の人にイカれたと思われるよ」
村の親子だろうか。おそらく老婆はヘルゲンから飛び去ったアルドゥインを目撃したのだろう。しかし青年は取り合う様子もない。・・・無理もない、現に見てきた自分たちでさえ信じられず、漸くその存在を信じ始めたばかりなのだから。


「そんな夢みたいな話を聞くよりも他にやることがあるんだから」


「今に分かる! あれはドラゴンだった! 皆殺しにされれば、お前も信じるだろうよ!」


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皆殺し・・・まさにヘルゲンでそれが起きたばかりだ。この平和に見えるリバーウッドにも危険が迫っている。イェアメリスは老婆に加勢しかけた。しかし言葉が発せられる前に仲間に止められてしまった。

アスヴァレンもハドバルも首を振っている。


「気持ちは分かるが、無闇に言って回らない方がいい」


「どうして?」


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ハドバルの代わりにアスヴァレンが顎をしゃくった。
「見ていただろう。話したら、大騒ぎになるか、もしくはああやって老婆のように狂人扱いされるか、どちらかだ」


「でも・・・」


「彼の言うとおりだ。まずはおじさんに相談しよう」


「わ、分かったわ・・・」


渋々引き下がると、彼女はハドバルについて村の奥に進んだ。槌の音がどんどん大きくなってくる。


ハドバルの伯父のアルヴォアはリバーウッドで鍛冶屋を営んでいた。村を貫く街道の左手に溶鉱炉が見える。その先の小屋から伸びた雨除けの下が彼の作業場だ。ハドバルはまずは話を聞いてくれる身内に伝えようと、作業場の中にいるはずの親戚を探した。


「あなた!」


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声がすると作業場から細身の女性が飛び出してきた。鍛冶屋のようには見えない・・・それに、鍛冶屋は叔父さんだったはずだ。
耳が尖っているところを見ると、エルフの様だ。アーセランと同じボズマーだろうか。人懐っこい笑顔を浮かべて駆け寄ってきた彼女は、ハドバルの前で止まった。


「ははっ、アグリ。元気にしてたか? どうしておじさんのところに?」


「もちろん! エンバーシャードの近くで新しい鉱脈見つけたから、サンプルをおじさまに見てもらっていたところなの」一行は彼女がハドバルの妻であることをすぐに理解した。


「また冒険ってやつか? 危険な事していたんじゃないだろうな・・・」


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「冒険って言わないで。あたしがやってるのはトレジャーハントって何度も言ってるでしょ。・・・大丈夫よ。兵士のあなたの方がよっぽど危険だわ。でもよかった! こんなに早く帰ってくるなんて聞いてなかったわ。ああ、ハドバル!」


一行の目を気にすることもなく、アグリと呼ばれた女性は夫に抱きつく。無意識にうらやましそうに見てしまったイェアメリスは、ハドバルと目が合って慌てて視線を逸らした。こっそりもう一度見ると、隊長補佐も少しばつが悪そうに妻を離すところだった。


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ここではじめてアグリは、夫が連れてきた面々に気がついた。
「この人達は? ・・・兵士さんには見えないけど・・・」


イェアメリスをはじめ、アスヴァレンもアーセランも兜の男も、どこからどう見ても兵士には見えない。荷物を背負っているから、百歩譲って行商人がいいところだ。


「ああ、彼女たちとは軍務の途中で知り合ってね。実はヘルゲンで・・・」


子供達が道でちょろちょろしている。その中に年の離れた従妹を見かけてハドバルは口ごもった。さっき自分が言ったばかりだ。やはりアルヴォアの家に入ってから話した方がいいだろう。


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「待って・・・、コスチューム? 本気なの?」


「そうだよドルテ。毛皮と木の枝を白く塗って、スタンプに結びつけるんだ。即席のフロストバイト・スパイダーさ!」


「フロドナー・・・あなたのイヌがフロストバイト・スパイダーだなんて、誰も信じないわ。もし信じたとしても・・・殺そうとするだけよ。それじゃ大したいたずらにはならないわ」


アグリとイェアメリスは、自分たちの周りを動き回る子供達を目で追った。少年の方は自分の提案が却下されたので、少し不満そうだ。


「ああもちろん、じゃあ何をする?」


少女は屈託のない笑顔を少年に向けた。
「それじゃあ・・・鬼ごっこ! あなたが鬼よ!」


「おい、ひきょうだぞ! スタンプ、捕まえろ!」


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アグリは見下ろすと、飼い犬に追跡を命じる少年の肩に手を置いた。逃げ出した少女はアルヴォアの娘のドルテ。少年はリバーウッドの顔役の息子だった。少年はアグリから逃れようとしながら、犬を目で追っていた。


「あら、フロドナー、また悪戯してるの?」


「鬼ごっこ、楽しそうね」
イェアメリスは子供時代に同じ年代の友達がいなかった。子供達の様子が微笑ましい。するとフロドナーは、エルフの女性達に胸を張ってみせた。


そんな少年をみて、イェアメリスはしばし、満ち足りた様に目を細める。自然と自分も笑みを浮かべていた。
「ここは・・・平和ね」思わず言葉が漏れる。


「いい村でしょ?」
彼女を認めたアグリはにっこりと笑うと、改めてイェアメリスに向き直った。


「あたしはアグリ、この村に住んでいるの。よろしくね」


「イェアメリスよ。あなたがハドバルさんの言っていた奥さんね」


「えへへ・・・」


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女同士が意気投合するのに時間は掛からなそうだ。その頃横では、ハドバルもまた伯父のアルヴォアと言葉を交わしていた。


「アルヴォアおじさん! どうも!」


「ハドバル? ここでなにをしているんだ? 今休暇中じゃ・・・。ショールの骨にかけて、何があったんだ?」


気がつくと、周りには村人達が集まってきている。街道脇の石壁にもたれているステンダールの番人も、怪しげな奴らが来たとばかり、こちらを伺っていた。


「シー・・・頼むよおじさん。静かにしてくれ。俺は大丈夫だから。とにかく、話は中でしよう」


「何事だ? それに彼女たちは誰だ?」


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鍛冶屋はイェアメリス達を見ると、アグリと同じ質問を発した。


「俺の友達だよ。それに命の恩人でもある。ほら、全部説明する。まず中に入ろう」


「分かった、分かった。それじゃぁ中に入ってくれ。シグリッドに何か食べるものを持ってこさせるよ。その間に話してくれ。
アルヴォアは再び見回し、頷くと甥たちを招き入れた。


小屋に入ろうとして、玄関先で躊躇している兜の男を見咎めたアーセランが声をかけた。
「あれ? お前さん来ないのかい?」


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「ああ、どうにも人里というのが落ち着かなくてな・・・」


男はアスヴァレン以上に寡黙であったが、しゃべれないというわけではない。わずかな道中だったが、仲間と少しは口をきく程度にはなっていた。彼は背中に担いだキャンプ用の道具を揺らしてみせる。ヘルゲン砦を脱出する時に手に入れた装備品一式だ。


「村の外れに川の中州があった。その辺りでキャンプでも張ることにするさ」


「テントの設営とかは覚えてるんだな」


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「ああ、自分の名前とか、誰と知り合いだったとか、人とのの繋がりだけがごっそり頭から抜け落ちているようなんだ。・・・だが剣の握り方や野外で生活する術が身についているところを見ると、冒険者や山賊の類いだったのかも知れないな」


「山賊か・・・、あんたを知っている人が現れたとして、前者だといいよな・・・」


「まったくだ。"仇め!"とか言われていきなり襲われるのはご免だ。・・・まあ、悩んでも始まらん。俺の出自は今のところアカトシュのみぞ知ると言うことだ」


「はは、いいね。そういう楽観的なの好きだぜ俺は。で、あんたアカトシュを崇めてるのかい?」


兜の男は数瞬、考える素振りをしたが首を振った。
「・・・いや、特に信仰は持ち合わせていない様だ・・・」


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「守護星座もなかったようだし・・・あ、今は戦士座だっけ? ま、そのうち色々思い出すだろ」アーセランはこれから厄介になる鍛冶屋の扉を指さした。「とりあえず俺達は鍛冶屋にやっかいになってるから、何かあったら呼んでくれよな」


アルヴォアの家はリバーウッド唯一の鍛冶屋だ。ノルドは戦士を優遇する文化だが、武器防具を作り出す鍛冶屋も同様に尊敬を集めている。平時にはもっぱら釘やのこぎり、錠前や蝶番と言った建築部品的なもの・・・いわゆる"パッとしない"物の方が需要が高いが、それでも重宝がられる職業であるという事には変わりがない。そういう事情はハイロックから遠く離れたスカイリムでも同じようだ。


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キルクモアの鍛冶屋ウンガーも島では尊敬されていた。彼に弟子入りした妹のブラッキーは今頃どうしているのだろう。とりとめもなく考えながら、イェアメリスもボズマーに続いて家に入ったのであった。


彼女たちはアルヴォアの家に招待されると荷物を下ろし、室内を見回した。鍛冶屋の家は地下室を持つ、村の中でも立派な部類に入る小屋だった。土台を石で組み、壁は木造。屋根にはわらが葺いてある。どことなくキルクモア島の自宅に似ており、イェアメリスも不思議な安心感を覚える家だ。


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鍛冶職人は一つの集落や村に一人は必要と考えられており、逆に職人がいるかいないかが未開地か人里かの判断基準の一つでもある。そんなアルヴォアの家は決して裕福ではなかったが、必要なものは一通り揃っており、生活に不自由は感じられない。


「ハドバル! 心配していたのよ! お腹すいたでしょう。そちらの方たちも座って・・・あ、席が足りないわね」


アルヴォアの妻シグリッドがハドバルを認めて驚きの声を上げた。ハドバルとアグリ、イェアメリスとアスヴァレン、アーセランは勧められるまま、テーブルと暖炉の周囲、思い思いの場所に位置を取った。アーセランなどは出された椅子に遠慮なく腰かけてくつろいでいる。アグリはへばりついてくるドルテを突っついていた。少女はちゃっかり自宅の小屋に入り込んでいるのだ。


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「あら? 鬼ごっこはどうしたの? 自分の家に隠れるのって、反則じゃない?」


アルヴォアの娘がまとわりついてくるのを見てアグリはたずねる。少女はハドバルの従妹にあたるのだが、年齢が離れているのでむしろ娘の様に懐いて、とても仲良くしていた。


「いいの。ちょっと休憩。フロドナーには待たせておくの」


「あとでちゃんと行ってあげなさいよ」


「はぁい」


アグリと娘のやり取りに目を細めていたアルヴォアは、表情を引き締めると、甥に事情を聞こうとした。


「ところで、一体どういう事情なんだ? ここで一体何をしている? まるでホラアナグマとやり合って負けた様な疲れ具合じゃないか」
装備や顔の泥は落としてきたが、ハドバルをはじめ一行は改めて見るとくたびれ果てた姿をしていた。


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「どこから始めりゃいいかな。俺が、テュリウス将軍の衛兵に任命されたのは知っているだろ」


「ああ、隊長補佐だっけ? 村でも出世頭だって話題になってたからな」


「俺たちがヘルゲンに寄った時に・・・ドラゴンに襲われたんだ」


「ドラゴン? それは・・・ばかばかしい。酔っているんじゃないだろうな? まったく・・・イスグラモルの時代じゃあるまいし。・・・しかし待て、さっきヒルデばあさんが何か叫んでいたが、お前たち、本当にドラゴンを見たのか?」


「彼に話しをさせてあげて、あなた」
シグリッドに窘められ、アルヴォアは口を噤まされると、ふたたび甥の話に耳を傾けた。


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「そんなに話せる事はないんだ。ドラゴンが飛んできてすべてを破壊した。大混乱だよ。他に生き残りがいるかは分からない。この友人たちが居てくれなかったら、俺だって助かっていたかどうか」




・・・




「・・・と言うわけなんだ。命からがら逃げ延びて、ここまで来たよ」


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「なんってこった・・・、ハドバル、普段ならお前の頭がイカれちまったか疑うところだが・・・」無意識に髭をいじくりながらアルヴォアはイェアメリスたちを見回した。「こんな大勢連れて俺を担ぎに来る程お前も暇じゃないだろうし・・・なんてこった・・・ショールよ! なんてこった・・・」


「とりあえず、ドラゴンの次の標的がここじゃなさそうでホッとしたよ。ヘルゲンから北に向かって飛んでいったから、この村に来るんじゃないかと思って、慌てて知らせに来たんだ」


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「ねぇハドバル、本当にドラゴンを見たの? どんな姿だった?大きい歯がついてた?」


ヘルゲンの惨事の話は子供にはピンと来なかったらしい。娘のドルテはそちらの方が興味津々なご様子だ。少女はありったけの想像力をかき集めて、ドラゴンを自分の頭の中で再現しようと悪戦苦闘していた。


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「しっ。従兄を困らせるんじゃないの。それにドルテ、あなた鬼ごっこの最中でしょ? ドラゴンは通り過ぎたみたいだけど、何が起こるか分からないから、フロドナーにもやめてすぐ帰る様に伝えてらっしゃい」


「ぶぅ・・・」
ドルテは文句を言いながらも追い出された。

娘を追い出したシグリッドはハドバルに向き直って形の良い眉を陰らせている。


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「そう言えば昼頃に黒い影を見たって言う人も居たわ。ヒルデがドラゴンだドラゴンだ、って騒いでいたの、あれは本当だったのね」


「ああ、ここは大丈夫かも知れないが、ホワイトランに、そしてソリチュードに戻って何が起きたかを知らせないといけない。きっと助けてくれると思ってきたんだ。食べ物や、装備とか、彼らの寝る場所なんかをね」言うと仲間を指さした。


アルヴォアは同意する様に膝を打った。
「もちろん! ハドバルの友人なら俺にとっても友人だ。どんな形でも喜んで助けるさ」


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「ありがとう、アルヴォアさん、シグリッドさん」
お辞儀をしながらも、イェアメリスは別のことが気になっていた。
「ドルテちゃん、一人で行って危なくないかしら・・・」


「大丈夫よ。この村は飛び越えてったんでしょ。・・・もっとも、リバーウッドにはヘルゲンみたいな砦はないから。実際ドラゴンが来たとして、そのときは逃げ場なんてないわね。さっきのあなたたちの話しぶりから見るに、家の中に居ようが外に居ようが同じでしょ?」


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「確かにそうだけど・・・」
イェアメリスはわずか半日前に、そう遠くないところで起きたことを思い出した。
ヘルゲンでは塔の石壁は崩れ落ち、藁葺き屋根は盛んに燃えていた。逃げ遅れたものは外で食われ、焼かれ、殺され・・・。あんなこと、絶対にここでは起きて欲しくなかった。


「まったく、ショールのヒゲにかけて、ヒルデばあさんは気がふれたんじゃなくて正気だったんだな・・・さて」
アルヴォアはテーブルをよけて回り込むと扉に向かう。「そろそろ仕事に戻るよ。あんたたちは遠慮なくくつろいでくれ」


「えっ?」


「作業を途中で放り出してきてしまったからな。後片付けをしておかないと、明日の作業に影響が出てしまう。本当にドラゴンが襲ってでも来ない限り、俺達の仕事に休みはないさ」
・・・アルヴォアはどこまでも職人だった。


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この男は何をしようとしているのだろう・・・大変な話が打ち明けられたばかりなのに・・・イェアメリスはアスヴァレンを盗み見たが、錬金術師は何も反応を示さない。代わりにハドバルを見ると、彼は伯父に何か言いたそうだ。彼女と同じ思いの様だった。


「おじさん、それどころじゃないのがわからないのか。すぐにでも知らせに行かないと!」


彼は拳に力を入れた。その肩にアグリが手を当てる。彼はその手を握り返すと、アスヴァレンの方を見た。
「こんなこと言いにくいんだが・・・、あんたたちの助けが必要かもしれないな」


「どういうことだ?」


ドラゴンが野放しになっていることを首長に知らせなくては。石の城壁に囲まれたヘルゲンだって滅んだだろ? リバーウッドは手も足も出ないよ」


「帝国軍は応戦していたが、どこまで効果があるか疑わしかったな」


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「でも、何もしないよりはマシだ。ホワイトランのバルグルーフ首長に、できるだけ多くの兵士を派遣してもらうよう頼まなきゃならない。そしてソリチュードの帝国軍にも・・・。自分の足で歩ければ、戻って報告できるんだが・・・。頼めるか? もしやってくれるなら恩に着るよ」
そう言うと痛みで顔をしかめる。・・・ハドバルはヘルゲンから逃れるときに足を痛めていた。イェアメリスの応急手当で何とかここまで歩いてきたが、無理をしてきたためかなり腫れてきていた。


「もちろん! あたしたちはソリチュードに向かってるわ。ホワイトランは通り道なんでしょ? だったら・・・」


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「バカ。どこまでお人好しだ。状況を分かっているのか?」
アスヴァレンに遮られてしまった。


「でも・・・誰かが知らせないと」


「だったら尚更だ。お前は自分たちの危機を見ず知らずの他人に託すのか? お前がこの問題を背負い込むのか? この村が動かないのに?」


「え・・・」
イェアメリスは驚いて連れを見た。予想外の返事だったのだ。


「その場の感情だけで動くなと言っている。これは村の問題だ。俺たちは村人か?」
アグリやシグリッドを始め、小屋の中の者は固まった様に彼の次の言葉を待った。
「テュリウス将軍とやらには連れが処刑されそうになった。ホワイトランには・・・入門を拒否されたぐらいしか思い出はない」


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「理由のあるなしの問題じゃないわ!」


「そうだ。理由のあるなしの話ではない。まずはこの村の者達が自分たちの問題だと納得するのが順序だ」


「そんなこと言っている間に、ドラゴンが来ちゃったらどうするのよ!」


「だから、一瞬の間に自分たちの問題だと認識してすぐに行動に移す。お前も覚えているだろう? 奴隷商人に襲われたキルクモアの町はそうした。だから助かった。この村にそれが出来るかは分からないが」


「・・・そんな」


「俺たちは吟遊詩人ではないから臨場感が足りなかったかも知れぬが、それでも何が起きたかを、なるべく正確に伝えようと努めた。この先、どう感じてどうするか決めるのは彼ら自身だ」


「だからハドバルさんが頼んできてるんでしょ! あたしは伝えに行くわ。もう決めたの」


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アーセランが慌てて割って入る。
「まあまあお二人さん、こんなところで喧嘩しなくてもいいじゃんか。メリスちゃんも助かったばかりなんだし、みんな疲れてる。ちょっと休んで頭冷やして、それからにしようじゃないか」


「休んでなんか・・・」言いかけて周りを見回すと、イェアメリスは言葉を引っ込めた。
「そ・・・そうね。彼の言うとおりだわ」


シグリッドも娘を外に出してしまったことを恥じる様に俯いている。ハドバルも取り繕う様に口を開いた。
「あんたたちの怒りを責めたりはしないよ。俺がそっちの立場なら同じだろうからな。手当てをしてくれただけじゃなく、黙って素通りすることも出来たのに一緒に来てくれた。これ以上のことをしてくれる義理はない」


「怒ってなどいない」


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「まあまあ・・・、ダンナも、ちょっと休もうぜ」アーセランは、これ以上ややこしいことにならないようにと話題を変えた。「そういやアイツ、どうしてるのかな? 中州にキャンプ張るとか言ってたけど・・・」


「そういえば、もう一人仲間が居たわね。どうしてるの?」
アグリがアーセランの助け船に飛びついた。


「人が多いところが苦手なんだってさ」


「じゃ、じゃあ、何か食べるもの持っていってあげましょうよ。ついでにドルテたちも呼んでくるわ。ね、シグリッドねえさん」


「そうね・・・、お願いしていいかしら」
シグリッドは戸棚から小分け用の鍋を取り出すと、暖炉の横で炊いていたカブのシチューを取り分けた。アグリはそれを受け取ると、ハドバルに頷いた。
「ちょっと行ってくるわね」


「ああ、気をつけて」


「イェアメリス。せっかくだから一緒に行きましょ」


「えっ、あっ・・・?」
腕を引かれるまま、イェアメリスはアグリと外に出たのだった。


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村の脇を流れるホワイト川の中州に向かう桟橋を渡りながら、二人のエルフはおしゃべりをしていた。イェアメリスはアスヴァレンと気まずくなっていたところを連れ出してくれた彼女に感謝しながらも、まだ腹を立てていた。


「どうしてあんなに冷たいのかしら、もう・・・」


アグリはそんな彼女の様子を見て笑う。
「でも、捕まったあなたのことを追いかけて、ずっーと、それこそイーストマーチからヘルゲンまで追って来てくれたのでしょ。冷たいなんて事ないと思うな。さっきのは身内か他人かの違いじゃない? 単に」


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「それにしては落差が酷すぎるわ」


「でも慣れなきゃ」


「どうして?」


「だって、そういう人を好きになっちゃったのでしょ?」


イェアメリスは顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
「す、す、すきだなんて・・・」


「早いとこ、仲直りしなさいよ?」


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「・・・なんか・・・余裕あるわね」
イェアメリスはむすっとしてみせると、思いついた様にアグリをみた。


「ところでホワイトランにはどうやって向かったらいいの?」


前に来た時はアルフレドの案内があった。その後の行程でも、地図はアスヴァレンやアーセランに任せっぱなしで来たため、彼女には地理がよく分かっていなかった。


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「川を渡って北に向かうの。まっすぐ向かうとそのうち滝が見えてくるわ。ここからでは山が陰になって見えないけれど、滝を越えたらすぐに分かるはず。開けた場所にでれば、どこからでも見えるぐらい大きな街よ。そこがホワイトランホールドの中心都市、スカイリムにある九つの州の中で最大にして最高の場所。って、ちょっと言いすぎかな」アグリはブリークフォールの山の反対側を指すような仕草をした。


「・・・あ、居た居た。あの人かな?」


ボズマーの人妻は川の中州に腰掛けて火を焚いている男を見つけると近づいていった。ヘルゲンの生き残りの一人、記憶を失った兜の男だ。「ええと・・・兜のひと? なんて呼んだらいいのかしら・・・」


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「あたしたちも知らないの。本人もね・・・記憶を失っているらしくて・・・」


「じゃあ、とりあえず、ヒェルム(ノルド語で兜の意)さんとかどう?」


「安直ね」


「なによ、じゃあメリスが考えなさいよ」


「それでいい・・・」


聞こえていたようだ。


中州にいた男は切り株に腰掛けて、二人が近づいてくるのを迎え入れた。「名前か・・・本当はなんて言うんだろうな・・・」


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首をかしげる男に、イェアメリスはあずかってきたシチューのナベを渡す。アグリが説明を付け加えた。
「シグリッドさん特製のと~っても美味しいカブとラディッシュのシチューよ。焚き火たいてるなら温めなおすといいわ。でもやり過ぎると溶けちゃうから、程々にね」


「ありがとう」


アルヴォアの家で話した時間はそれ程長くなかったが、既に日は傾いており、長い一日の終わりをようやく告げようとしていた。川面から流れてくる風が冬の夜気をはらみ、寒さを感る。イェアメリスはナベをかき回しながらノルドの戦士に尋ねた。


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「ヒェルムさん、こんなところでキャンプなんて、寒くないの? せっかくの村だし、アルヴォアさんの家の他にも、酒場あるみたいだし、寄ってみたら?」


「大丈夫。あまりに寒くなったら溶鉱炉もあるしな。暖を取るには困らない。それに俺はノルドだから、これぐらいは平気だ」兜の男は受け取ったナベを火にかけた。「・・・ああ、俺はノルドだったのだな」


「何か思い出した? あなたを知っている人とか、家族とか」


「いや、ぜんぜんだ。ありがとうと伝えてくれ。ナベは・・・明日返したらいいな?」そう言って切り株に腰掛けると、ヒェルムと名付けられた男は、ブリークフォール墓地のある山の方を静かに見上げた。


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「あ、ところで、子供たち見なかった? 生意気そうな男の子と、やんちゃな女の子。もしかしたら犬も一緒だったかも・・・」


「子供? ああ、中州を駆け回っていたが、村の方に走っていったぞ。かなり前だな」


「もう、ドルテったら、どこ行っちゃったのかしら・・・。ありがとう。探してみるわ。行きましょ、メリス」


「ええ。あ、ヒェルムさんも、また明日」


「ああ、また」


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二人は中州を後にすると、ドルテとフロドナーを探しに、村のあちこちを訪ねてまわった。リバーウッドは夕刻にもかかわらず、まだ往来には人気が多い。人捜しのために聞いてまわるには都合が良かった。今回は探しているのも子供だし、村の住人のアグリも一緒だ。帝国軍キャンプの様な変な絡まれかたもしない、イェアメリスは安心して目的に徴する事ができた。


「あの二人、仲がいいから、よくコソコソどっかいっちゃうのよ」


子供たちの鬼ごっこには暗黙のルールがあった。村から出ない・・・それだけだが、そのルールは破られたことはない。しかしルールは単純だが村の中には、民家の裏庭から酒場宿の風呂場まで、子供の想像力のまま隠れるに適したところがごまんとあった。慣れた者でも探すのは厄介だ。
リバーウッド唯一の酒場にして宿を兼ねているスリーピング・ジャイアントに足を踏み入れた二人は、怒鳴り声に出迎えられて首をすくめた。


「オーグナー!」


自分達が怒鳴られたわけではないとすぐに分かったが、あまり邪魔をしない方が良さそうな雰囲気だ。二人はこそこそと周りを見回した。そろそろ客も集まりだそうかという夕刻だ。酒場としては一日でいちばん忙しくなる時間。女給仕たちはテーブルを拭き、客を迎える準備をしている。最初に聞こえた怒鳴り声は、奥のエール樽の隙間に立つ女性のものであった。


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「聞いてるの?」


「そんな大声出されたら、そうしないのは難しいな」


「エールが腐ってる。新しいのを仕入れないといけないわ」


男はカウンターのろうそくに明かりを灯し、位置を調整している。


「ちゃんと聞こえた?」
あちこちに指示を出しているところを見ると、おかみさんか何かだろうか。


「ああ、エールがまずくなる」


「聞こえてるじゃないの。もうすぐ新しいのを仕入れるのを忘れないでね」


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アグリは自分が指摘されたかの様なばつの悪い顔をして、イェアメリスに弁明した。
「あ、あのねメリス。ここ・・・いつもそんなお酒ばかり出しているお店じゃないのよ。料理だっておいしいし・・・」


イェアメリスは、笑って返した。
「大丈夫、酒場はどこも一緒よ。知ってる? よっぽど薄くない限りはエールは腐らないの。炭酸が抜けたり、酸味が強くなって美味しくなくなるけどね。腐るって言うのはそのことだと思うわ。それが分かると言うことは、おかみさんはちゃんとエールのこと分かっているのね」


アグリは感心して連れのエルフを見た。
「メリス・・・あなた、もしかして酒飲み?」


「はは、違うわよ」イェアメリスは目をぐるっと回して笑った。「あたし、錬金術師なの。だから薬やお酒の出来る過程については人よりちょっと詳しいの」


「へぇ! 凄いじゃない。あたしはトレジャーハントしているけど、草や薬は捨てちゃうのよね。自分じゃ扱えないから・・・」
気がつくとおしゃべりをしている二人の前に、先ほどの怒鳴っていた女性が立っていた。


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「あなたがあの探りまわっていた訪問者ね」
険しい表情で言い放ったが、すぐにイェアメリスの隣に立つアグリ気づいた。
「アグリも一緒じゃない。一体、何があったって言うの?」


「ドラゴンが・・・」一瞬、女将の眉がピクッと動いたが、アグリは訂正して続けた。「ドルテとフロドナーが帰ってこないの。鬼ごっこをしている筈なんだけど、ここに来てないかなって思って」


かつて子供たちはスリーピング・ジャイアントの地下にある浴室を隠れ場所に使った前科がある。アグリがここを探し場所に含めたのはそのためであった。


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「こっちには来てないわ。このまえルーカンの物置きに隠れて怒られてたから、外なんじゃないかしら」


「そう、そうね。デルフィンさんありがとう」
二人は酒場の女将に礼を言うとスリーピング・ジャイアントを後にした。


「ちょっと怖い人ね」イェアメリスは素直な感想を漏らした。


「デルフィンさんはもともとああ言う、険のある人なのよ。悪い人じゃないわ」


「おっと、ごめんよ」
酒場に入ろうと歩いてきた男とぶつかりそうになって道を譲る。リュートを持っているところを見ると、吟遊詩人らしい。イェアメリスは、リバーウッドに着いた時、母親とドラゴンについて言い合っていた青年だと思い出した。


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「おや、君は・・・旅人のようだな? 遥か遠くの場所を訪ねて、新しい話でも聞いてきたか。アグリの友達?」


「え、ええ・・・。ハイロックから来たの」


「僕はスヴェン。スカルドとしての訓練を受けてきた駆けだしさ。父や、祖父と同じようにな」


「スカルド・・・吟遊詩人なのね」


「いや、吟遊詩人じゃなくて戦士詩人さ。これからスリーピング・ジャイアントで仕事でね。もし良かったら演奏を聴いてくれ。少しの金をもらえれば、曲のリクエストも受け付けているよ。アグリもどう?」


「え、あの・・・今ちょっと人捜しをしていて・・・」


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「残念だな。せっかく新しい曲を作ったところなのに。バラードだ。カミラ・バレリウスに捧げるんだ。カミラはいつかこの気持ちを分かってくれる。いつかね・・・」
どうやらこの若者は同じ村の女性に恋をしているらしい。イェアメリスの想像をよそに、アグリはまたいつものが始まったといった表情だ。そしてボズマーの女性はスヴェンに釘を刺した。
「ホントにちゃんと通じてるの? 会話してる?」


「カミラなら、言わなくたってこっちがリバーウッド最高の男だって分かってるさ」


「そういう意味じゃなくって・・・。それに、リバーウッド最高の男はハドバルだもん!」


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「はいはい、分かってるって。でも彼は君を娶っているし、村を出て帝国の人間になったんだろ。カウント外さ」スヴェンは冗談交じりにアグリに返すと、少し腹立たしげな表情を見せた。


「どうしたの?」


「ああ、あのエルフはまだ自分が選ばれると思ってるんだ。ファエンダルのやつさ。あいつ・・・、こっちがいない間に、彼女と話したくてこっそりリバーウッド・トレーダーに行ってたんだ。時間の無駄だってのに。まったく、ボズマーってやつはずる賢い」


「あたしもボズマーなんですけど?」


「アグリは別だよ」


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「ふん・・・だ。・・・まあ、二人が一緒に過ごしたからといって、交際に発展することはないんじゃないの?」
イェアメリスは横で聞いていてこくこくと何度も頷いた。彼女も既に、かなり長いことアスヴァレンと一緒に旅をしている。好きの気持ちは偽れないが、交際しているかと言われるとそういう事実もないし微妙だ。


「アグリ、それは皮肉かい? もっとましな嫌味をオーグナーから聞いた事があるよ・・・しかしまてよ。カミラがファエンダルの訪問を許したんなら、いい事じゃないし・・・」
そう言うとスヴェンは思い出したようにポーチからくしゃくしゃの手紙を取り出した。彼は器用な手つきでそれを丸めて筒形にし、紐で縛るとイェアメリスに差し出した。


「なに? あたし?」


「ああ、君は旅人だ。だから都合がいい」


「え?」


「ほら、最高に悪意に満ちた手紙だ。ファエンダルからだって言ってくれ。これでカミラもあのエルフを招かなくなるだろう」


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「ちょっ・・・、意味が・・・」


「頼んだよ」
そう言うと、スヴェンはリュートをかついで酒場に入っていってしまった。後に残された二人は顔を見合わせた。アグリはイェアメリスの持つ手紙を興味津々で覗き込んでいる。


「中を見ないの?」


「人の手紙よ? そんなこと出来ないじゃない。アグリにあげる」


「要らないわよ。受け取ったのあなたでしょ。・・・でも、差出人を偽って渡すなんて、きっと、ろくなこと書いてないわね」


「自分でも言ってたじゃない、最高に悪意に満ちた手紙だって・・・スカルド(戦士詩人)って才能をこんなことに使うものなの?」


「あ、は、は・・・、まあ、恋に盲目になってるのよ、きっと」アグリはごまかすと、それどころじゃないという顔をした。「それより、ドルテたちを早く探さないと」


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二人は村を南北に突っ切る街道を横切ると、中州に通じる別の桟橋に足を踏み入れようとした。

向こうから誰かが向かってくる。仕事を終えて上がってきた木こりだろうか。ボズマーのようだ。アーセランやアグリ以外にボズマーらしいボズマーを見たことのなかったイェアメリスは、やけに今日はボズマーと会うな、と思わず長見してしまった。


男はイェアメリスたちを見ると、声をかけてきた。


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「スヴェンと話をしていたのを見かけたが? 違う様な・・・まあいい、気にしないでくれ。旅人か?」


「イェアメリスって言うの。あたしの知り合いよ」
今度はアグリが代わって紹介してくれた。


「あなたは?」


「ファエンダルだ。ジャルデュルとホッドの製材所で働いている。あと、たまに狩りにも出る」


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こんなノルドの村にエルフがたくさん現れるのも珍しい、ボズマーは少し警戒するようにこちらを見ていたが、アグリと一緒に居たことが大きかったようだ。すぐに打ち解けた顔に戻った。


「・・・そうか。じゃあ知らないのもしょうがないな。だがやつには・・・スヴェンには近づかない方がいい」


「え?」


「やつはどうやら、自分のバラードやソネットでカミラ・バレリウスを酔わせ、"はい"と言わせて結婚するつもりらしい。聡明で美しい彼女がそんな戯れ言で落とせるわけがない・・・たぶんな」


「・・・"たぶん"って、自信なさそうね」
この男も、カミラ・バレリウスと言う女性に恋をしているのだろうか。彼女は二人の若者に懸想されるカミラという女性に興味がわいてきた。


「考えたんだが・・・カミラにスヴェンの本性を分からせるには、ちょっとした後押しがいる」そう言ってファエンダルはポケットから手紙を取り出した。先程と寸分違わぬ展開に嫌な予感がして、イェアメリスはアグリを見た。彼女も眉をひそめてこちらを見ている。


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「頼む・・・この手紙をスヴェンからと言って彼女に渡してくれないか? あの愚かなノルドを陥れるにはうってつけだ」


(またなの? どうなってるのよこの村は・・・)


「ちょっとまって・・・どうしてあたしなんかに。アグリがいるじゃない」
横でぶんぶん首を振るアグリを前面に押し立てて、彼女は矛先を逸らそうとしたが無駄だった。


「だって君は旅人だろう? こんなこと村の人間には頼めないよ」


「そんな!」


「カミラに手紙を渡したら教えてくれ」


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一方的に手渡すと、ファエンダルは行ってしまった。取り残された二人は呆気に取られて、しばらく言葉を発することが出来なかった。ハドバルの妻も半笑いになったまま固まっている。


ようやく落ち着いてくると、二通の手紙を渡されたイェアメリスは、途方にくれたように天を仰いだ。そして憤慨してアグリに言う。
「あたし配達員じゃないわ」


「でも、ホワイトランへの連絡は請け負ってたじゃない」


「あれは・・・、大事なことでしょ?!」


何か思う節でもあるのか、アグリはニヤニヤしながら覗き込んでくる。
「あは、アスヴァレンさんと同じで、あなたも線引きしているじゃない」


「程度の問題よ。ドラゴンと恋愛を一緒には出来ないわ」


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「そう、程度。きっとこれは、彼らにとっては天地を揺るがす大事なことなのよ。あなたやあたしにとってはどうでもいい事だけどね」


「そんなことより、どうするのよこの手紙」


「さぁ?」


イェアメリスは一瞬、この村での出来事は護送馬車の中で見ている夢ではないか、目を覚ましたら自分はまだウルフリックたちと処刑に向かって移送させられているのではないか、との思いに囚われた。彼女はまだ、あまりに平和すぎる村の様子と、ヘルゲンとのギャップを消化し切れていなかった。


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「あたし、お人好しなのかしら・・・」


「ええ、かなりね」


「なんか複雑・・・」


村の目抜き通りにもなっている街道には名前がなかったが、ヘルゲンからホワイトランを結ぶペイルパスの延長だ。リバーウッドは陸路でシロディールからホワイトランへ向かう際には必ず通過する村だが、いかんせんホワイトランに近すぎる。宿場として使われることは少ないため、見かけるのは村の住人ばかりだ。


この先にはもう一つの桟橋が有り、川の対岸に渡ることが出来るようになっている。
ファエンダルとすれ違って進むと、彼女たちはまた声をかけられた。


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「やぁ、まだ見つかんねぇのかい?」


アーセランだった。
「まーたボズマーが来たわ。今日はボズマーの日ね・・・」


「なんだ?」


「いえ、なんでもないわ。で、アーセラン、どうしてここに?」


「いや、メリスちゃんたちなかなか戻ってこねぇから、難航してるのかなって。様子を見に来たんだ」そういって彼はまじまじとアグリを見た。


「改めてよくみると・・・あんた、ボズマーだよな? なんかうちのばっちゃんに似てるな、イテッ、なにすんだよ!」


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「失礼なやつね。あたしはまだ子供産んだことありません!」


「あんたね、邪魔しに来たのか手伝いに来たのかどっちなのよ」
イェアメリスもいつもの調子でアーセランをひと叩きすると、捜索を再開した。


中州の対岸には漁師の小屋がある。
扉越しに訪ねて子供たちが来ていないことを確認すると、アグリは途方に暮れた様に手すりにもたれた。


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「どこ行っちゃったのかしらね、あの子たち」


「村から出たんじゃねぇの?」


「それは無いわ。禁じられてるし、破って折檻されたことがあるから、それだけはしないはずよ。何より危険だって分かってるから」


イェアメリスは巨大なカイネ像の足元近くの岩壁に、扉があるのに気付いた。
「キナレスにかけて、あの扉は?」


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「ああ、あそこ。昔ちょっとだけ銀が採れた小さな鉱山よ。今はもう枯渇しているわ。神様の足元を掘ったから罰が当たったとか、すぐに銀も取れなくなって不吉だとか、当時いろいろ言われた場所なの」


早速アーセランは扉に駆け寄って、物色を始めている。
「鍵が開いている様だぜ?」


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「えっ?!」


「じゃ、美人の神様の足元に失礼しますかね、っと」


「探すのね。・・・でもアーセラン、そんなこと言ったら罰が当たるわ」


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周りはもうかなり暗い。アグリはランタンに火を灯すとアーセランに持たせて、自分は先頭になって廃坑に足を踏み入れていった。イェアメリスもそれに続く。


「ねぇアグリ。本当に子供たちがここにいると思うの?」


イェアメリスは鉱山というから最初、故郷のキルクモア島にあるファイズ鉱山のようなものを思い浮かべていたが、予想に反して中はとても狭かった。坑道とはいっても、掘り始めてすぐに止めた、そんな雰囲気の地下道だ。横道が一本、その奥にちょっとした物資の集積所があるだけだ。


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使い古されたつるはしや工具、ちぐはぐな具足の一部などが見て取れる。鉱石の破片も幾つか転がっている様で、イェアメリスはその錆び具合から二十年近く絶っていることを読み取った。


「分からない。でもドルテもフロドナーもやんちゃだから。こういう秘密基地みたいなところに目がないのよ。子供たちには危ない場所もあるから、居るなら早く見つけないとね」


「危ない場所?」


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アグリはイェアメリスの問いを曖昧な顔ではぐらかすと、奥に進んでいった。

掘り始めてすぐに鉱床が枯れてしまい、鉱山としては不発に終わった洞窟。大人にとっては価値のあるものは残っていなかったが、たしかに、子供には魅力的な基地に違いない。


放置しておくのは危険だと言うことで、随分前に入り口は閉鎖され、鍵は村の顔役のジャルデュルが管理していたはずだが・・・。


フロドナーはジャルデュルの息子だった。


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「ほーら、やっぱりここね」


物資の集積所にかがみ込んで、坑夫たちの残したものを物色している少年少女の姿がそこにはあった。


「鬼と逃げ役が一緒にいるって、どういうことかしらね」
呆れた様にアグリが指摘するが、子供たちはまったく悪びれる様子もなく、にんまり笑って戦利品を見せびらかしている。


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「お姉ちゃん、すごいよここ!」


「ダメじゃないの。ジャルデュルさんに言いつけるわよ」


「ダメ! それはやめて! せっかく見つけたところなんだもん。あたしたちの秘密基地なんだから!」


狭い集積所を見回したイェアメリスは、倒れかかったブーツを棚に並べながら、拍子抜けするように言った。
「これで終わり? この鉱山こんなに小さいの?」


するとアグリは、子供たちが捨てられた雑貨に夢中になっているのを確認してから、声を落とした。
「さっき、神様の足元とか不吉とか言ったじゃない? それには理由があるのよ」


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そう言ってトレジャーハンターの娘は、木箱の裏と岩陰の間にできたを隙間をつま先で示した。そこには落とし蓋の輪郭が見えていた。彼女は子供達が戦利品に夢中でこちらを気にかけていないことを確認すると、ひそひそ声で説明した。


「鉱山を掘っていて、別の洞窟を掘り当てちゃったのよ。・・・スカイリムではそう珍しいことじゃないんだけど・・・ほら、昔はドゥーマーとか住んでたって言うじゃない?」


「ドゥーマーの遺跡が?」


「あっ、この先はちがうの。専門家が調べたわけじゃないから、正体は不明。でもドゥーマーがらみでないことだけは確かみたい。様式がちがうんですって」


アグリは話題を打ち切ると、子供たちに向き直った。
「さぁ、もう帰るわよ。みんな心配してるんだから」


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「えー、もうちょっと探検してもいいじゃん!」
坑夫たちの残したゴミなのだが、子供たちにとっては大変な発見なのに違いない。イェアメリスは自分が幼い頃、キルクモア島の海蝕洞でウミネコの巣を見つけた時のこと、そしてネロスのキノコの家で隠れた虚(うろ)の中にクリフレーサーの卵を見つけた時のことなどを思いだした。大人の目の届かないところに隠れているだけで子供は楽しいものなのだ。


「長耳のおねえちゃんたち、あまり僕の機嫌を損ねない方がいいよ!」


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「あはは、元気いいわね」子供ながらに背伸びしてみせる少年に、イェアメリスはつられて笑った。アグリはいつものことだ、とばかりにこの生意気な少年を突っついた。


「ふ~ん、お姉ちゃんのお友達にそういうこと言うんだ。お尻ペンペンしちゃうぞ」


「わー、ヤダヤダ。ごめーん!」


なだめすかしながら子供たちに帰宅を促していると、壁にもたれていたアーセランが、急に制する様に手を上げた。アグリもそれに反応し、二人のエルフはうなづきあった。


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何が起こったか分からないイェアメリス、そして子供たちに黙る様に言うと、二人のボズマーは後ずさり始めた。


何かがぶつかるような金属音にアグリは気付いていた。
ここに来て、ようやく理解したイェアメリスは、二人のボズマーを見た。この廃鉱に誰か入ってきたのだ。


「だれ・・・かしら?」


「しっ、村のものじゃないわ」
音の数からして二人・・・いや、三人はいる。


「どうして分かるの?」息を潜める子供たちの前で、イェアメリスもひそひそ声で話した。


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「村の住人も武装はしているけど、こんな音を立てる様な武器や具足を装備している者なんていないわ。メリス、あなたたちみたいな異邦人かも・・・」彼女が聞いたのは剣帯の立てる音だった。


「山賊かも知れねぇな、どうする? 行き止まりだろ、隠れるとこなんてねえぞ」


狭い鉱山だ。侵入者はすぐにこの行き止まりに到達するだろう。あまり考えている時間はない。アグリは仕方ない、と言う顔をすると、木箱の影の落とし蓋を引っ張り上げた。


「入って! 音立てない様にね!」


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押し込める様に子供たちを逃がすと、次いでイェアメリス、アーセランを行かせる。彼女は自分が通ったあと蓋が隠れる様に小箱の位置を調整すると、器用な身のこなしで潜り込んだ。


彼らが降りたのは、鉄篭の上であった。檻のような物だろうか・・・細い通路の途中を通せんぼするようにその篭は置かれていた。


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格子の横棒をはしご代わりに使って地面に降りる。


よく見ると、猛獣などを入れておくための鉄製の檻であった。


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通路の少し先は明るく、くだりの石段が続いている。彼女たちは明かりに引き寄せられる蛾の様に、通路を進むと石段を下り、岩の踊り場の様なところに出た。


「わぁ!」
子供たちが口々に歓声を上げる。


「こらっ、大きな声出さないの!」
アグリが慌てて後ろを振り向くが、鉄篭からは距離がある。向こう側には聞こえないで済みそうだった。


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「驚いた・・・。村の裏にこんなとこがあるなんて・・・」


「文字通り、神様のお膝元ってやつかい?」


イェアメリスとアーセラン、子供たちは口々に感嘆のため息を漏らした。
広い地下空間に、巨大な像が鎮座している。頬に手を当てた修道女、そしてその反対側には村の岩壁に作られていたのと同じ、女神カイネの石像が鎮座していた。古のノルドが築いた地下聖堂であろうか。
スカイリムではショールやタロスの崇拝が一般的であるが、戦士達にシャウトをもたらした天空の女神、風を司るカイネもそれに次いで篤く祀られている。


「キナレス様の像がこんなところに・・・」


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ハイロックの民であるイェアメリスが信仰するのも、同じ女神であった。
自然洞窟を利用した聖堂の周りにはブリークフォールの雪解け水が滝となって吹き出し、地底の川となってまた何処かに流れ込んでいる。リバーウッドの岸壁を飾っていた滝も、ここから繋がっているのかも知れない。


「わぁ! アグリお姉ちゃんすごい。こんな場所知ってたんだ」


案内したアグリ本人もしばらく景色に見とれていたが、階段を駆け下り始めた子供たちを見咎めて声を上げた。やんちゃ盛りの子供たちは、自分たちに訪れた危機よりも、探究心の方が勝っている。


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「その橋から先には絶対に行っちゃダメよ! あっ、コラ! 無闇に触っちゃだめ! いつの時代の物かも分からないし、罠があったらどうするのよ!」


「先には何が?」


アグリは子供たちを目で追いながら続けた。
「当時の探索は、ここまでしか行われていないの。その先がどうなっているかはまだ誰も知らない。どんな危険が有るのか・・・、無いのかもね」


「おい、誰だかわからねぇが、鉱山に入って来た奴らをやり過ごすのが目的だろ? だったら、あまり離れない方がいいんじゃねぇのか?」
まだ入り口付近に居たアーセランが、後ろを気にしながら呼んでいる。アグリはそれにうなずくと、階段に足をかけようとしていたイェアメリスに身振りを交えて伝える。


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「そうね・・・でも子供たちはじっとしていられないでしょうから、メリス、ちょっと付いていてやって」


「わかったわ」
イェアメリスは子供たちの面倒を見るために、小走りに階段を駆け下りていった。


「ここは知られたくなかったんだけどなぁ・・・」アグリは残念そうな顔をしている。


「子供たちが知ったら、絶対遊び場にするだろうし。ちゃんと探索も終わってないから・・・村のすぐ横とは言え、ブリークフォール墓地にも近いから山賊やドラウグルの心配も有るじゃない?」


「でも、あいつらから逃れるにはこれしかなかったんだろ。さ、それより誰が来たかを探らねぇとな」


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アーセランは落とし蓋の入り口付近に戻っていった。天井から漏れ聞こえてくる声を盗み聞きするためだ。

侵入者が誰かも分からない。まずは相手を知ることが先決だった。




・・・




アグリの予想通り、侵入者たちは村人ではなかった。しかもどうやら山賊らしい。鉄篭のところまで戻るとよじ登り、落とし蓋のすぐ反対側に陣取ってアーセランは坑道の様子を伺っていた。


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侵入者達の声が漏れ聞こえてくる。


「ついてねぇな、俺たち」


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「仕方ねぇよ。グーンラウグの奴らは今や飛ぶ鳥落とす勢いだ。まさかの内陸にまで手を伸ばしてきやがるとは・・・」


アーセランは驚いて息を止めた。


「ストームクロークと一緒で、居ない方がいい奴らだぜ、まったく」


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グーンラウグ・・・ブラックブラッド略奪団の首領の一人だ。名前をこんなところで聞くとは思わなかった。数日前、イェアメリスを救出しようとして関所越えを画策していた時、偶然出会ってやり取りをした相手だった。


「ブラックブラッドには逆らわねぇ方が身のためだ・・・"長いものには巻かれろ"って風にはやれなかったのかねぇ?」


「それも考えたさ、でもよ、エンバーシャードに残った連中のせいで今さらそれも出来なくなっちまった。オッドやギルフがどうなったか、聞いてねぇのか?」
ヴァーデンフェル訛りの声が聞こえる。ダンマーだろうか? アーセランが盗み聞きしているとも知らず、山賊達は話を続けていた。


「奴らに楯突いて殺された、ぐらいしか知らねぇけど」


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「そうか、なら聞かせてやる・・・グーンラウグに付き従う魔女がいてよ、そいつに鉱山内部まるごと焼き払われちまったって。見せしめも兼ねてるんだろうが、あいつら、容赦ねぇ」


「うえっ、そりゃまたひでぇ・・・。あんたもそこにいたんだろ。よく助かったな」


「へっ、伊達に"韋駄天のアーヴェル"と呼ばれちゃいねぇぜ」


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山賊同士の縄張り争いだろうか。隠れ家を追い出されてここまで逃げてきた体であった。


(それにしても、ま~たグーンラウグかよ。あいつら、ずいぶんと手広くやってやがるんだな・・・)


「で、アーヴェル。命は助かったからいいが、俺たちこれからどうするんだ。まさかここを根城にするって訳じゃあるまい? リバーウッドに近すぎる。他の仲間は? そもそも、どうしてこんな寄り道を・・・」


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幸いなことに山賊たちは自分たちの話に夢中で、坑道自体には隠れ場所という以上の興味は無い様だ。落とし蓋一枚挟んだ反対側のアーセランは物音に気をつけながら、しばらくこの状態を維持することにした。


「まあ、慌てんなってビョルン。ここには・・・いや、リバーウッドに用があるから来たんだ。ハークニールたちは先に行かせてる」


「行かせてるって、どこに? それになんの用があるんだよ、こんなシケた村」


「慌てるなって言ってるだろ。ブラックブラッドの奴らに思わぬ横やり入れられちまったが、ちょっとしたお宝の話を掴んでたんだ」アーヴェルは声のトーンを落とした。


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アーセランは何とか声を聞こうと、耳を押し当てた。


「この村の雑貨屋ルーカンは、ノルドの骨董品集めが趣味でな。金で装飾された爪を購入したんだよ。爪って言ってもちょっとしたもんでな。ドラゴンの手を象った金の爪だ」


(ドラゴンの爪だって?!)


アーセランは目を見張った。ラビリンシアンで息絶えた魔術師の日記にもその記述があった。


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4E190 黄昏の月 24日


苦労してジャフェット・フォリーに渡った甲斐があった。
島を仕切っているハルディンという魔闘士は、獲物以外には寛大な男であるようだ。特に私のような、物を買いに来た者にとっては。そこそこ大金を払うことになったが、得られたものは大きかった。今はそう思いたい。
わたしが手に入れたのは2つ、木の仮面と、竜の爪を象った鍵だ。この鍵はソリチュードの沖合にある岩礁で入手したものだという。


4E190 星霜の月 15日


ジャフェット・フォリーから帰ってきた私は、しばらくフェルグロウ砦の自室に引きこもって調査を続けた。
その後の調べで、竜爪の鍵が見つかった岩礁は昔、孤島であったらしいことが分かった。ウィンターホールド大崩落の原因となった地震による海嘯はスカイリム北岸一帯を襲ったが、この孤島はその時沈み、岩礁だけが残ったらしい。そして孤島に古代のルドの寺院があったことまでは分かった。いずれかの王の墓らしい。竜爪の鍵はいま私の手の中にある。つまり、その寺院は私の所有物・・・王の宝も私のものというわけだ。海賊に払った金は何倍にもなって帰ってくるだろう。


海中に沈んだ寺院、探索の手段を検討する必要がある。


=*=*=*=*=*=


彼は尖った耳をマンモスの様に広げて、一言も聞き漏らすまいとした。


「そいつを奪う」


「ほぉ・・・そりゃ、お高く売れそうだ。けど、けどよ・・・、その爪ってやつに、アジトを失った俺たちが盛り返す、そこまでの価値があるってのか?」


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「知ってるか? 竜爪の装飾品ってのは、古代ノルドの王墓の鍵なんだ」


竜の爪は古代ノルドの墓地で、王や英雄の玄室を閉ざすときに作業に従事したドラウグルを内部に封じるために使われていたという。

現在では骨董品として、スカイリムやその周辺地域に散らばっており、好事家の収集対象となっていた。


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「俺はウインドヘルムにいた頃、ノルドの人足として古代の墓の発掘に参加したことがある。そこで連中が竜の爪で墓の扉を開いているところを見たんだ。今回の爪はスカイリムから流出して、長らくシロディールで骨董品として扱われてきたって話だ。つまり、まだ未使用の墓が残ってるわけだ」


アーヴェルは自らの推察を仲間に披露した。


「なぜか分からねぇが、爪は元の場所に戻ろうとするんだとよ。リバーウッドに現れたってことは、この上のブリークフォール墓地がいちばん怪しい」


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元の縄張りを追い出された山賊たちは、せめてもの駄賃にということで、リバーウッド・トレーダーに押し入り、金の爪を奪うつもりらしかった。裏手のブリークフォールの山中には監視塔と古代ノルドの巨大な墓がある。アーセランたちがヘルゲンから向かう途中に見かけたあの遺跡だ。


「実はな・・・」アーヴェルは仲間に打ち明けた。「ペイルとホワイトランの間に、フェルグロウ砦って言う魔術師共のたむろする廃墟があってな。そこのある魔術師が、爪を集めてるんだ」


「面識があるのか?」


「いや。だが、持ち込むんなら高く買ってくれそうな相手がいいだろ。先に墓地を漁って金目のものをいただく。そして爪を売って更に金をいただくって寸法だ。どうよ、俺の案は」


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「そんなことしたら魔術師怒らせちまわねぇか?」


「そこはうまくやるって。俺たちがいただくのは現世の価値、副葬品の金目のものだけだ。神秘的なものさえ残しておいてやりゃぁ、魔術師さんも納得するだろうよ」


「そうだな。子悪党は子悪党らしく、分を守らにゃな」


「ああ。ブラックブラッドみたいに奴隷を売り買いしたり、村を滅ぼしたりするのはやりすぎだ。すぐに首長に目をつけられる」


女の山賊が付け加えた。
「それにあいつら、最近じゃサルモールとも関係作ってるって言うじゃないか。新鮮だったら死体でも買うって・・・いやだねぇ。なんか気味が悪いわ。きっとろくな死に方しないわよ」
山賊界隈にもいろいろあるようだ。


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・・・フェルグロウ砦に、古代ノルドの宝飾品である竜の爪を集めているはぐれ魔術師が居る。アーヴェルたち山賊は墳墓の宝を中抜きしたあと、その魔術師に爪を売りつけるつもりのようだ。


(その魔術師は、とっくにおっ死んじまってるんだけどな・・・)


アーセランは、その魔術師本人の日記を手にしていた。考えをまとめるよう、彼は眉を寄せる。
(いや・・・まてよ。ってことは・・・俺っちがフェルグロウに先回りして魔術師になりすませば、その金の爪とやらを奴らが勝手に届けてくれるって事か・・・)


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彼は音を立てないように自分の荷物を下ろすと、中に手を突っ込んだ。探り当てるように二三度手を動かすと、やがて何かを取り出した。


竜の爪を形取った装飾品だった。何の金属で出来ているか分からない台座の上に大きなサファイアが何個もはめ込まれており、それだけでも価値のありそうなものだった。

ちゃっかり彼は、既にドラゴンの爪を一つ入手していたのだ。


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イヴァルステッドに泊まった時、喧嘩してイェアメリスが失踪してみんなで探し回った。


彼はそのとき分担として、村の東側にあるゲイル湖畔の小遺跡を探った。

イェアメリスは隠れてなかったが別の収穫があったのだ。


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隠匿の炉床墓地と呼ばれるそこで見つけたウィンデリウスという男の日記を渡すと、宿の主人ウィルヘルムはいたく感心して爪をお礼にくれたのだった。


「ここにサファイアの爪、そしてこの山賊たちが手に入れる金の爪、更にフェルグロウにある爪も持ち主はもう死んじまった。俺を待ってる・・・」アーセランは死せる魔術師の日記を思い出しながら、ブツブツと独り言を呟いた。


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(こいつぁ、いよいよ運が向いてきたな!)


「ねぇ、どうしたの? 何か分かった?」


「うわぁ!」


いつの間にかそばまで来たアグリが見上げていた。慌ててサファイア・ドラゴンの爪をしまい込んだボズマーは、冷や汗を拭いながら同族の娘に振り向いた。どうやら気付かれなかったらしい。


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「あなた、なんか今すごく小狡い顔になってたわよ?」


アーセランは必死に取り繕うと平静を装った。
「ボ、ボズマーはみんなこんな顔だろ?」


「あたしそんな顔しないわ!」


「そ、そんなことより、連中、村を襲うらしいぞ」


「何ですって?!」


アグリが飛び上がるのを見ながら、アーセランは中断された思考をとりまとめていた。


(子悪党は子悪党らしく、か。そうだよな・・・)
彼が呟いた声は、仲間には聞こえなかった。




・・・




イェアメリスは遺跡の中を走り回る子供たちを追いかけては捕まえる、ということを何度も繰り返していた。"これではこっちが鬼ごっこの鬼になった気分だわ"そう思ったが、さすがに息切れしてしまって文句も出ない。


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「ね、ねぇ、ちょっと休みましょ。もう十分見たでしょ?」


「まだあっちの滝の裏は見てないよ!」
いつの間にか、二人はイェアメリスに懐いていた。


ドルテが丸い目をきらきらさせながらイェアメリスに笑いかけてくる。


「パパは私がよそ者と仲良くしすぎるって言うけど、あなたは大丈夫そう。ねぇ、耳さわってもいい?」
かがんでエルフの特徴である耳を差し出すと、ドルテは熱心に眺めたり引っ張ったりしてきた。


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「あは、くすぐったいわ」


「あたしも人のこといえないけど、ドルテちゃんは随分とやんちゃなのねぇ」


「うん! あたしはパパの助手、いえ、見習いなの。いつか、自分の剣を作るんだから!」


「あら、お姉ちゃんの妹も、鍛冶の見習いなのよ。今ごろ、故郷の島でがんばってると思うわ」


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「へぇ!じゃあ、いつか見せあいっこしないとね!」


ドルテは彼女の周りをくるくる回った。
「パパがね、まだ武器は早いって言うの。だから、蹄鉄や鋲釘をたくさん作るんだ」そしてちらりとフロドナーのほうを見る。
「ママは私が女の子らしくいないと思ってるの。でもそんなのはただのばかなおしゃべりよ。パパは男の子が欲しかったのかもしれないけど、私が生まれてラッキーよね。男の子にできることなら何だって、私のほうが上手にできるんだから。ね、フロドナー」


フロドナーはもじもじとしながら少女を見ていた。


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「今はそうかもしれないよ。でもそのうち、僕にしかできないことが出てくるはずだよ」


「そんなことないもん!」


「まぁまぁ・・・」
けんかにならないように二人をやさしく引き離した。フロドナーはドルテに聞こえないのを確認すると、イェアメリスに打ち明けた。


「でも、ぼくはドルテが女の子で良かったな・・・」


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イェアメリスは優しく微笑んだ。


「そうね。君も大きくなったらもっと強くなるわ。ドルテががんばっても持ち上がらない、重い物だって持てるようになる。そしたら守ってあげないとね」


「うん、もちろんだよ!]

フロドナーは元気に頷いた。


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 あ、そういえば、おねえちゃんはどうして旅をしているの?」


イェアメリスは少し考えると、無邪気な笑みを返してくる少年を見た。
「お姉ちゃん病気・・・っていうか、怪我なんだ。治すための方法を探して旅してるの」


「え? 大丈夫? 痛くないの?」


彼女は切ない笑みを返した。


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「大丈夫よ、助けてくれる人がいるから」


「いっしょにいた、背の高いお兄さんかな?」


「さぁ、どうでしょうね」


「なんの話してるの?」ドルテが気になって覗き込んでくる。


「ひみつ~」


「あっ、もー!」


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イェアメリスは立ち上がると、滝の裏を指差した。
「後あそこだけね、あっ、なんか別の神様の像があるわ。いってみましょ!」




・・・




聞き耳を立てていたアーセランがもう大丈夫、と合図を出すまで、もう一時間ほど彼女たちは遺跡にとどまった。子供たちもいたため、息を潜めるとまでは言いがたかったが、それでもなんとか山賊たちをやり過ごすことができたようだ。


「アーセラン、珍しいわね。遺跡やお宝に目がないあなたなのに、やけに仕事熱心に見張ってくれていたじゃない」


「あ、ああ・・・あの中に男はこの坊主と、俺っちしか居なかったからな。がんばるしかねぇだろ」目が泳いでいる。


「まーたなにか悪いこと考えているんじゃないでしょうね。あっ、もしかして何かくすねた? ポケット見せてみなさいよ」


「うわっ、ひでぇな。メリスちゃん俺をそういう目で見てるわけ?」


「あったり前でしょ。あなた目を離すとロクなことしないんだから・・・あっ、もしかしてまだ仮面を隠し持ってるんじゃないでしょうね!」


「しつけぇな、持ってないって。それより、早いとこ知らせてやらないと、村が襲われるんじゃねぇの?」


彼女たちはアーセランの言葉に我に返ると、急いで坑道に出た。そしてそのまま、すでに陽の落ちている表を走り、アルヴォアの小屋に戻った。


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「どうしてちゃんと帰ってこないの!」


「だって!山賊が坑道に・・・」


「坑道ですって?!」


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心配していた両親にドルテはこっぴどく怒られた。特にシグリッドに。
説明するためには廃坑のことを話さざるを得ず、二人の鬼ごっこは大目玉を食らうという結末になった。


「ドルテ、お聞き。お父さんやお友達は男の子扱いしているけれど、あなたは男の子じゃないの。だから、女の子らしくしてちょうだい。お母さんのためよ」


「どうして! どうしてお母さんはいつもそう言うの?!」


「あなたはもういいわ。お父さんと話すことにする。話し合えば状況が変わると思うわ。もう鍛冶仕事もしなくていいようにしてあげる」


「わたしを変えようとするのはやめて! もう赤ちゃんじゃないのよ! もうすぐ大人なの!」


「入ってはいけないところに入り、いつまでも帰って来ずに親を心配させるような子は、大人とは言えないわ」


「これじゃ、自分がなりたい大人になれない!」


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フロドナーも借りてきた猫のように小さくなっている。お説教から親子喧嘩に発展し、放っておくとますますエスカレートしそうだ。イェアメリスとアグリは、少し強引に母娘の言い合いに割り込むと、たったいま坑道の奥で見聞きしてきたことを説明した。


「ジャルデュルにも伝えた方がいいな」
聞き終わると、アルヴォアは深刻そうな顔になる。


「ジャルデュル?」


「ああ、村をとりまとめている顔役さ。二、三世代前にジャルデュル一家の祖先がここに移住してきてから、林業が本格的になったんだ。この製材工場を経営している彼女と夫のホッドが、村の実質的な代表者だな」


「あたしが呼んでくるわ」
シグリッドは立ち上がると、飛び出していった。


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「じゃあ、あたしたちも外を警戒しないと!」
アグリとイェアメリスはすぐに行動に移ろうとしたが、アルヴォアに止められてしまう。


「お前さんたちは留守だ」


「そんな、行かないと!」
アグリが抗議するが、アルヴォアはハドバルを指さした。アグリの夫は椅子に座ったまま、申し訳なさそうに妻を見た。


「彼を看てやらんでどうする? わずか数軒先とはいえ、自宅に帰るのもままならない怪我じゃないか」湿布と包帯で騙し騙し来たとは言え、流石にヘルゲンからリバーウッドまでの徒歩は足にダメージを与えていた。
「夫婦水入らずに邪魔な水を差すわけじゃないが、今日は二人ともうちに泊まっていったらいい。フロドナーも、母さんが迎えに来るまで小屋から出たらいかんぞ」


イェアメリスも腰を浮かせ掛けたが、同じようにアスヴァレンに諫められてしまった。
「お前・・・自分が今日どんな目に遭ってきたか考えろ。ほら」彼は手を伸ばすと、よろめいたイェアメリスを支える。


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「あれ? あたし・・・あれ?」
元気なつもりだったが、腿が小刻みに震えている。無理もない。・・・護送馬車で目覚め、連行されてヘルゲンに行き、処刑されそうになって、ドラゴンが襲ってきて、仲間に助けられて砦に避難し、ウルフリックたちとやり合い、ハドバルと共にリバーウッドまで来た。それだけでは足りないかとばかりに、子供たちを探して廃鉱に潜り、山賊に遭遇して奥の遺跡にまで踏み込んだのだ。心はともかく、肉体は限界に達していた。


「また何かあったらどうする」


「そう・・・そうね」
やむなく彼女はうなずいた。これ以上は迷惑にしかならない。


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その様子を尻目に、アルヴォアは自分で打った剣を取る。
「じゃ、行ってくる。アグリ、みんなを頼むぞ」鍛冶屋は去り際にアスヴァレンも誘った。「手伝ってくれるな?」


折れた剣を一瞬見たダンマーの錬金術師は、代わりに弓をかつぐと無言で鍛冶屋に並んだ。慌ててアーセランも続く。


「そう言えば、もう一人いるっていってたな」
鍛冶屋の問いにアーセランは頷いた。


「ああ、あの兜のヤツか? ・・・あいつなら川の中州に腰掛けて、山の方を見ていたぜ」


「世界のノドか・・・」


「いや、村の裏山? 北の山? ブリークフォールだっけ、あの上の方に遺跡があるやつ。あれをずーっと眺めてるんだ。変わったヤツだよな。そういえば・・・記憶を失っていると言っていた。何を考えているか思いも及ばねぇな」


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「今は人手がほしい、もし動けるなら彼にも手伝ってもらおう」


「しっかし、驚いたぜ・・・これだけの村なのに、衛兵一人いないなんて。物騒じゃねぇの?」


確かにアーセランの言う通り、検問所を越えてからというもの、兵士らしき姿を見ていない。村はホワイトランから半日も離れていないため、平時の駐屯は設けられていなかったのだ。更にこの村は昨年までストームクロークに付いていたファルクリース州境と近かったため、刺激しないようにとの配慮も含まれていた。・・・リバーウッドは都市の衛星的位置にありながら辺境と同じで、自給自足、自衛が基本だった。


鍛冶屋が中州を警戒に向かうのを見送ると、旅人達の方は南側を見張ることになった。
アスヴァレンとアーセランは溶鉱炉の裏手に立ち、侵入が予想されるならず者に目を光らせる傍ら話をしていた。


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「なにイライラしてんのさ、ダンナ」


「なんだ、お前まで連中の頼みを聞いて、伝言役をやるべきだと言い出すつもりか? アーセラン」


「なんの件かと思えば、そっちかい。・・・いや、その件に関しては俺っちはダンナ寄りだよ。この村はいいところさね。住人も悪くねぇし、むしろ親切にしてくれる。でもドラゴンだろ。そんな大事を担うまでの義理はねぇさ」


「余計なものを抱え込もうとするのを見ると、無性にイラついてな」


「でも、今は手伝ってるんだね。どういう風の吹き回し?」


「任せきりではないからな」アスヴァレンはアルヴォアの消えた中州の方に顔を向けた。「剣を取った男が先頭に立ち、助けを請うてきた」


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「ふ~ん、ノルドの血ってやつ? だんなも面倒くさい人さね」
アーセランは笑うと、リラックスした感じで道の反対側のリバーウッド・トレーダーの扉を見た。
「この山賊騒ぎは良いとして、ドラゴンの方は・・・だいたい結末は見えてるんだろ? メリスちゃん言い出したら聞かないからな」


「ああ、ホワイトランに寄り道は確定だろうな」


「ま、頑張ってくれや」


「なんだ、他人事だな」


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アーセランは少し考え込むと、先に話しておこうとアスヴァレンを見上げた。
「俺っち、ちょっと別行動しようと思ってるんだ。・・・行きたいところがあってね・・・」




・・・




子供たちを奥まった地下室に連れて行くアグリを横目に、イェアメリスは手持ち無沙汰からシチューの火加減を見ていた。カブを煮崩れさせてしまわないように気をつけながら、おたまをゆっくりと回す。命を落としかけた日に、他人の家で鍋の番をしているとは、我ながらなんとも滑稽な巡り合わせ、予測不能だった・・・


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「大丈夫かしら、みんな」
落ち着かない様子のイェアメリスを見て、同じく騒ぎから取り残されてしまったハドバルは顔を上げた。そして包帯を締め直していた手を止める。


「大丈夫。アスヴァレンさんもいる・・・あの人、君をかばってアルドゥィンと刃を交えたんだろ? "世界を滅ぼすもの"だぜ? そんな人が山賊ごときに遅れをとることはないさ」


「えっ?」


待ってる間、いろいろ聞かせてもらってた。すごいな、あんたたちの冒険は・・・」ハドバルは憧憬のこもった目になっている。


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イェアメリスはなんだか恥ずかしくなって目を伏せた。「あのひと、そんなにおしゃべりだとは思わなかったわ」


「違うよ。あのボズマーのほうが話してくれたんだ。あいつも面白いな。やはり・・・あんたはストームクロークの裏切り者達とあの護送馬車に乗っていてはいけなかったんだ」


「あはは・・・好んで乗ったんじゃないわ。あなたたちに押し込められたのよ、忘れちゃった?」


「う・・・。そのことは・・・」ハドバルは本当に申し訳なさそうに頭を下げる。「全て間違いなんだ・・・おれの、判断も含めて」


「冗談よ。もうその話はよしましょ」


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しばらくすると、アグリが上がってきた。


「子供達は?」


「寝ちゃったわ。遊び疲れたみたい。ジャルデュルさん来ても起きないでしょうね。今日は泊めてあげるのがいいかも」ハドバルの包帯の仕上げを手伝いながら、アグリもあくび混じりの声で応じる。「村改めをしている人には悪いけど、あたしは寝るわ。ようやく休める・・・長い一日だったね」


「本当に・・・」


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返そうとすると、アグリは早くもハドバルの膝の上で寝息を立てている。


イェアメリスは物思いに耽りながら、炎を見つめるのであった。


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(ホント・・・あたし昼間には処刑されかけてたのよ、信じられる?)





(17話に続く)



※使用mod


・MuuFollower HairChange
 お世話になっているむーさんのフォロワー、今回本格登場です。
 イェアメリスに幼なじみがいたらこんな感じなんだろうなぁ、と思いながら、一緒に行動させてみました。
 色々な表情を見せてくれて、撮っていて飽きないキャラです ヾ(๑╹◡╹)ノ"


・7人になったショタっ子 ( 個別配布 )
 お世話になっているともさんのちびっ子フォロワーです。
 今回はハミング役として、Ralphくん、やんちゃなフロドナー役としてMarcくんを使わせて頂きましたヾ(๑╹◡╹)ノ"
 他の子達もいつか使いたいな~(*´ω`*)


・Faendal replacer by kerwin1988( Nexus 57183 )
 ファエンダルのリプレイサーです。
 カミラを美化したので、男性陣もと思い導入しました。なかなかのイケメンでボズマー観が変わりそうです(゚∀゚;)


・Sven replacer by kerwin1988( Nexus 57290 )
 ファエンダルと同じ作者様のスヴェンのリプレイサーです。
 片方だけ美化するのは不公平だろうと言うことで、彼も導入です。
 この二人、どうなることやら…


・Delphine Makeover by Hoax( Nexus 27525 )
 デルフィンのリプレイサーです。
 色々なリプレイサーがあるのですが、50歳代というのにしっくりくるこのmodを今回は使わせて頂きました。
 気難しそうな、苦労して来たような雰囲気が凄く出ていると思います。


・NOG Follower Riverwood residents( Nexus 65740 )
 リバーウッドの女性陣を美化するmodです。
 今回はデルフィン"以外"を使用させていただきました。
 シグリッドがめちゃ美人です。
 「婚約しているんだから、変な気を起こさないでよ」と言う気持ちも分かります(゚∀゚)


・Dolls- children Overhaul( Nexus 72569 )
 子供の美化mod。
 アルヴォアとシグリッドの娘、ドルテちゃんに使用しました。かわいいヾ(๑╹◡╹)ノ"


・The Floating City of Ilinalta( Nexus 30962 )
 イリナルタ湖の上空に浮遊島を追加するmodです。
 大立石を観光名所にするにはバックもそれっぽくなきゃいけないだろうwということで導入してみました。

 あまり大きすぎず、それでいてちゃんと街も実装されているので探索するのも楽しいし、本当に観光名所になりましたw
 転落しても下は湖だから大丈夫(゚∀゚)?


・JackGa's Pub ver 5.0.1 - Legendary Edition( Steam Workshop )
 リバーウッドに装備屋さんと石像といくつかのロケーションを追加します。
 今回はこの石像を女神キナレス(カイネ)として使わせて頂きました。


・Ebonvale Settlement( Nexus 41391 )
 リバーウッドとホワイトランの間に、内戦の痛手から復興するために立てられた交易所を追加するmodです。

 隙間の地形をうまく使って味のある街に仕上がっています(が、少しFPSヒットがあります)
 今回は廃鉱をロケーションとして使わせて頂きました。
 ※ちなみに、本来の場所は女神像の足元ではありません。


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