4E201

TES大好き、もきゅがスカイリムの物語をお届けします

◆Chapter: 2 Interlude ~幕間~

2018
02

ブラッキーとケイドは、途中で拾ったウォーヒン・ジャースと名乗る男を連れて、追い剥ぎ峡谷を避けて坂道を上り続ける。彼女たちは村人のエリクに導かれ、日が沈んだ二時間後にはロリクステッドの村に辿り着いた。


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「そろそろ何か思い出した? おっちゃん」


「いや、ダメだ。ここには見覚えがない」


帝都の図書館暮らしの都会人から見たら、スカイリムの片田舎は辺境もいいところだ。しかし感心して見回しているウォーヒン・ジャースの姿は、彼の方がむしろ田舎者のお上りさんにように見えた。


「しっかり守られた村だなここは。ロリクステッドというのか・・・」


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防壁には歩哨が立っており、夜間であっても警備に抜かりはない。防壁は道を遮るように建っているだけで脇からの侵入を防ぐ役には立たないが、こんな気休めでも壁がある、という視覚的な効果は大きい。衛兵がいるとかなり印象は変わって見える。異常があればすぐに知らせが飛ぶのだろう。


街道を挟むように村の家々は建っており、その外側に畑の畝の連なりが広がっていた。夜間で暗かったこともあるが、その際限はここからでは見えないぐらい深い。この広さであれば農民も多いだろうし作物もよく採れるのだろう。寒冷地のスカイリムには珍しい大規模農園をブラッキーも物珍しそうに観察した。


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眼鏡の小説家は頭痛を追いやるような仕草を見せると、ふらふらと村の中に足を踏み入れていった。


その姿だけを見るとまるで不審者なのだが、エリクが連れてきた男と言うことで、衛兵達も特に感心は払わなかったようだ。


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「ありがとうエリク。思ってたよりもいい感じの村だね」


大したことがない普通の村の風景だったが、そういう景色がいちばん人を安心させる。
エリクは防壁を警護する衛兵に一礼すると、一行を導いて足早に村の中心に向かっていった。ソリチュードからかなり南下してきたがここもまだ寒い。降霜の月ともなるとスカイリムの夜はどこも冷え込むのであった。


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「ずいぶんといろいろな冒険をしてきたんでしょうね」


「ん、ああ・・・」ケイドはエリクの何気ない一言で、上級王の暗殺から始まった数日前の出来事を思い出した。下水道、悪漢たち、臨検での捕り物、従士との交流・・・それは自分が今まで暮らしてきた街の景色が全く違って見えるような刺激があった。


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「そうだね。アイスランナー号の捜索は、ちょっとした冒険だったよね」


鍛冶屋の息子はつい先日、私掠船の連中と海上冒険した事を、興奮して語った。


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「お前、死体を見てゲロ吐いてたけどな」


「ひどいや姉さん」


「うらやましいなぁ・・・」
農民の青年はそんなやり取りをする二人を、眩しそうに見つめていた。


「まあ、ブラッキーはともかく、僕もエリクと同じ駆け出しだけどね」
ケイドの言葉に、ブラッキーはぶんぶんと首を振って否定した。


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「同じって・・・なに冒険者にしちゃってるのさ。エリクは農民だろ? ボク達みたいな半端者じゃないよ。・・・え? なんだって・・・」
ぼそっと呟いたエリクに、ブラッキーは聞き返した。


「実は、きみたちなら僕を助けられるかも知れないんだ」


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「ああ? 面倒くさいのはご免だよ?」
ブラッキーは嫌な予感がして身を固くした。


「僕は君たちみたいな冒険者になりたいんだけど、父は無理だと言うんだ」


(うわ、きたよ・・・)


ブラッキーは悪い予感が当たったのを感じ、内心で苦虫をかみつぶした。
「そりゃそうだよ。冒険者なんて望んでなるものじゃないって」


「えっ、ブラッキーは自分からなったって・・・」


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「うっさいなぁ、ケイドは黙ってろって。・・・冒険者ってのは、手に職がない奴が強がってカッコ良く見せる時に使う呼び名だよ。山賊が狩人と名乗ったり、海賊が船員と言ったりするのと変わんないぜ」


実際に冒険している者の苦労を想像すべくも無い。宜なるかな、エリクが彼女たちに憧れるのは当然の流れであった。
「それでも、世界を旅するんでしょう? ・・・父は僕がここに暮らして農場で働くことを望んでるんだ」


「親父さんの感覚が正常だよ。仕事があって、食べていけるのに何が不満なのさ。冒険者になる必要なんてないって・・・」語尾が少し鈍ったのは、ブラッキー自身が冒険者に憧れていた過去を思い出したからかも知れない。その隙を突くかのように、エリクは食い下がった。


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「冒険者の君が言っても説得力ないよ。僕には輝いて見える」


「だからぁ・・・そんないいものじゃないって。ボクは冒険したくて出たって言うより、人捜ししなくちゃならないから出てきたんだ」
ソリチュードでも、随分いろいろとやらかしてしまった。どうも脇道に逸れてしまう、もしくは厄介事を引き寄せてしまう、のは性分らしい。ブラッキーはイェアメリスを見つけるという本来の目的を自分に言い聞かせるように、話ながら何度も頷いた。


様子を見ていたケイドが、ふと思い出したように口を挟む。


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「そう言えばさ、エリク。君さっき”傭兵のアルフさん”とか言ってたよね」彼ははブラッキーを振り返った。「姉さん、あの手紙持ってきた?」


「手紙?」


「そう、ウィンキング・スキーヴァーの置き手紙。あの手紙、アルフレドとか言う人が書き残してたでしょ。エリクの言う傭兵って・・・」


「あ、忘れてた。えっと・・・」少女はソリチュードの宿屋から拝借してきた手紙を取り出した。


「見てもいい?」


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=*=*=*=*=*=


ナターシャへ


残念ながら約束を果たせそうにない。スパイス入りワインは売り切れてしまっているようだ。ドゥーマー遺跡の話を肴にあんたと酒を酌み交わすのを楽しみにしていたんだがな。


あ、そうそう。慌ただしい話だが、ここを発つことにした。
メリス達が内陸の方に向かうというので、ホワイトランまでの護衛を買って出たんだ。


あんたもスカイリムを旅しているんだったら、一度ホワイトランにも来るといい。
俺はそこを拠点に活動している。仲間と共に歓迎するよ。ワインのおごりはそれまでお預けだ。


それでは、短い間だったが世話になった。


互いに生きての再会を祈念して


4E201  降霜の月10日 アルフレド


=*=*=*=*=*=


手紙を受け取ったエリクは、短いその内容に目を通すと頷いた。「たぶんこの手紙、僕の知ってるアルフさんだよ。言い回しがそっくりだし。・・・アルフさんは普段はホワイトランにいるから、そこに帰るのもおかしくないね」


「ってことは、ええと・・・」


ブラッキーはイェアメリス達よりも一日遅れでソリチュードを出発していた。姉たちが馬車を使ったかは分からないが、同じ道を通っているのなら、同じように峡谷手前で降ろされているに違いない。もしかしたらこの村に投宿しているかも知れない。


「そのアルフって人こなかった?」


「ごめん。西の方の畑の小屋の方に出ていて、僕もしばらく村を明けてたからさ。見てないよ。宿で聞いてみたら誰か知ってるかも」


「結局ホワイトランに向かうのは分かってるわけだし、その後もどこまで進むか分からないってのに、余分な宿代払ってのんびりしている場合じゃないよ」


「姉さん・・・、案外ケチだね」


誰がお前の面倒を見ているんだ、といった顔で、彼女はうんざりしたようにケイドを見た。
「ボクがケチなのはボクのせいじゃないよ。メリス姉ちゃんに似たんだ」


「せっかく村に着いたんだ。屋根の下で寝たいじゃん?」


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エリクはそんなやり取りをいなしながら、笑って3人を促した。
「・・・さ、泊まるにせよ行くにせよ、いつまでもここで話しているわけにもいかないよ。まあ、任せてくれ。僕に考えがある。とりあえずうちにおいでよ。親父はちょっと頑固だけど、居心地は悪くないはずさ」




・・・




村人たちはそれぞれ、自分たちの家で夕食の卓を囲んで居る時間だが、往来にはまだ人の姿が残っている。ロリクステッドは、典型的な宿場町であった。そしてホワイトランとソリチュードを結ぶスカイリムの主街道の中間に位置している。旅人や商人など、往来する人々には事欠かなかった。


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酒と食事を済ませた客が宿から出てくる。あぶれた客だろうか? 戦時下とはいえ、宿はいつも満室に近い状態だった。
赤い顔をした彼らは宿から出てくると、そのまま街道脇でキャンプをはじめた。街道を挟み込むように左右の家々からは煙が立ち上っている。


「宿、いっぱいみたいだけど大丈夫?」


「大丈夫、僕にはコネがあるからね」


エリクは、その村の中心的存在である宿屋の息子らしい。


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道端に焚かれた火を尻目に見ながら、旅人たちは彼に薦められるがまま、宿屋の軒下をくぐる。

エリクは父、ムラルキが営んでいる宿屋に一行を案内した。


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フロストフルーツと呼ばれるこの宿は、エリクの父であるムラルキが営んでいた。主街道の中間地点にあるロリクステッドの、さらに村の中でも中心にあり、昼夜問わず村人達のささやかな社交場として賑わっている。


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「お客さんかい? 食事や部屋が必要なら、どちらも提供しよう。だが、うちは現金しか受け付けないよ。施しはしないし、物々交換も駄目だ。・・・あ、あと、そこのあんた。そういう眼鏡は外してくれ。顔をちゃんと見せない奴は信用ならないからな」


エリクの父親はカウンター越しにブラッキー達を眺めると、訝しそうに声をかけてきた。息子に気付いていない。


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「父さん、この人達はお客さんだけど、僕を助けてくれたんだ。金はいいだろ」


彼は最初、興味なさそうに旅人たちを一瞥していた、その中に自分の息子が混じっているのを知ると見開かれた。びっくりしたのか、声のトーンが一段上がる。
「なに! エリク? どうした? 無事なのか?」


「ははっ、見たら分かるだろ。なんともないって・・・。下の峡谷近くでちょっといざこざがあってね。この人達が助けてくれたんだ」


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「いや、助けてくれたのはむしろ・・・ウッ」言いかけたジャースの脇腹にブラッキーの肘がめり込むと、小説家は身体を折ってうめき声を上げた。


「どうした? 病気か? だったら外に出てくれ。変な病気を持ち込まれたら・・・」


「大丈夫だよ、おっちゃん。ちょっとびっくりしただけだって」


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振り向かないままブラッキーが踵でジャースを蹴ると、今度は言い聞かせるようにたずねた。

「眼鏡外したから光の刺激が強すぎるんだよ、な?」


「うあっ、ああ・・・」


ジャースは痛みに顔をしかめながらにコクコクと首を縦に振る。彼が頷くのも適当に流して、ムラルキは本題だとばかりに息子を凝視した。


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「それにしても・・・馬鹿、あれ程あそこには近づくなと言ったのに・・・」


「父さん、あのな・・・」
エリクは少し真面目な顔つきになって父親に打ち明けた。
「父さんは戦えるよね。兵士だったから」


「どういうことだ?」


「・・・今日のことで改めて身に染みたんだけど、やっぱり僕も少しは戦えた方がいいよ」


ムラルキはカウンター越しに、信じられないと言った顔で息子を見た。
「馬鹿な・・・何言ってるんだお前。戦争なんてろくなもんじゃない。関わらないで済むなら関わらないのがいちばんだと・・・」


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「別に兵士になるつもりはないよ。でも関わらないつもりでも内戦はすぐ近くまで来てる。明日にもウルフリックが攻めてくるかも知れないんだろ」
エリクは言いつのった。
「それに最近、あちこちで人さらいが起きているらしいじゃないか。ブラックブラッド略奪団に滅ぼされた村もあるって聞いたよ!」


「そんなことは首長や衛兵に任せておけばいい。ホワイトランにはずいぶんと税金を払ってる」


「じゃあ村の近くで子供が攫われているのを見かけても、手を出すなっていうの?! タロスにかけて! 父さん、そんなのノルドじゃないよ!」


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エリクの声に、店で飲んでいた何人かの客が顔を上げた。従業員だろうか、心配そうに様子を見ている。
「ばっ、馬鹿! 大声でタロスなんて言うんじゃない!」


ムラルキは慌てて店内を見回した。サルモールがいたら大変なことになる。


・・・戒厳令が解除されてからまだ4日程だが、ウルフリックが上級王を決闘の末に殺害した噂は、またたく間に広がっていた。帝国軍とサルモールが大部隊を編成してストームクロークを追跡している、と。


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ソリチュードに入れてもらえず引き返した商人達などが、帰る道すがら吹聴して回っていることも噂の広まりに拍車をかけていた。


軍が動けばならず者達も動く。帝国軍がしらみつぶしにストームクロークを捜索するから、ねぐらを失い一時的に場所を変えるならず者が後を絶たないのだ。山賊達もねぐらではそれなりに安定した生活を営んでいるのだが、追い出されてしまえば生活を立て直さなければならない。そうなると人里周辺での犯罪が級に増え始めるのだ。


スカイリム西部の住人達はストームクロークと帝国軍の戦い、そしてそれに連鎖して動きが活発になる山賊の影に怯えはじめていた。


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「僕ら次世代が力をつけておかないと、村は守れないよ」


「何もお前が進んで危険な目に遭うことはないだろう」


「そういう問題じゃないよ」エリクは鼻息を荒げた。「・・・じゃあ言い方を変える。ボクは自分の身を自分で守れるぐらいにはなりたいんだ」


「う・・・」


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ムラルキは助けを求めるように、ブラッキー達を見た。
「この世界は危険に満ちている。エリクにはそれが分かっていないんだ。そう思うだろ?」


ブラッキーカウンター脇の小樽から勝手にエールを注ぐと、一口飲んで首を振った。
「うーん、どうなんだろうね。おじさんたちの話は、ちょっと贅沢でボクにはわかんないよ」


「贅沢? どういうことだ?」


ブラッキーは腰に吊った斧を軽く叩いた。


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「ボクには生き方の選択肢がなかったから・・・、エリクは選べるんでしょ? 向いてなかったらまた戻って畑を耕したらいいだけなんじゃない?」


「そんなこと言っても、あいつは防具一つ持ってない。それにそれを買ってやる金もない」
彼女の質問に真っ直ぐ答えないムラルキの様子から、とにかく息子を危ない目に遭わせたくないという気持ちが滲み出ているのが感じられる。こんなに心配してくれる家族の気も知らないで・・・と彼女は一瞬、イェアメリスの顔を思い出して心の中でぐちった。


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宿屋を経営していて防具一つ買えないというのは誰が聞いても方便だ。ムラルキとエリクそれぞれが同意を求めるような顔でこちらを見ているのを感じて、ブラッキーは自分の物思いをいったん脇にやった。彼女は少し考えると、荷物の中から何か取り出した。
ゴトっと鈍い音を立てて、重い銃器がカウンターの上に置かれる。


「これは・・・?」
追い剥ぎ峡谷の追い剥ぎから奪い取った、連射式のクロスボウだった。


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「これを売ればいいよ。珍しい武器だから、ホワイトランにでも持っていけばそこそこの値がつくでしょ。防具の足しにしたら?」


「そんな・・・息子のために用立ててくれるって言うのか?」


「うん、丸腰だったらこっちも心配だからね。助けてもらったお礼って事でいいよ」


(ウソは言ってないよね・・・)


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エリクは山賊に絡まれていた彼女たちを見つけ、剣を投げて気を逸らしてくれた。直接ではないが、助けてもらったと言っても間違ってはいないはずだ。
ムラルキは禿げ上がった頭を掻いた。金がないのは苦しい理由だったが、それも打ち砕かれてしまった。腹を決めるしかない。
しばらく黙り込んだ彼はやがて、半分自分に言い聞かせてる様に絞り出した。


「そうだな、あいつ自身が望む人生を選ばせる時なのかもしれん・・・」


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「ほう、いいにおいがするな・・・」


しんみりしかかったところに、雰囲気をぶち壊すようなジャースの声が響き渡った。

近くのテーブルで客が口にしているスープの香りに鼻をぴくつかせている。


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マッドクラブのぶつ切りのハサミが放り込まれた、濃厚な色合いのスープだ。


ムラルキもホッとしたように、父親の顔から宿の主人の顔に戻った。重苦しい雰囲気から逃げ出したかったに違いない。


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「おお! そうだ。お客さんには食事をださんとな」

ムラルキは、少し自慢げにスープを紹介した。


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「これは最近立ち寄った料理人に教えてもらったマッドクラブのクリームスープだ。まだお試し中だが、きっとこの店の名物料理になると思ってね。食べてみるかい?」




・・・




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ムラルキは親切にも、物置の荷物を脇に避けて、部屋として使えるようにしてくれた。狭いが文句は言えない。

感謝を述べるとその部屋で彼らは暖かいもので腹を満たし、明日の出発に向けて準備をはじめた。


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ブラッキーはいくつかの手持ちの武器を床に並べると、手入れしながら使い方をケイドに教えたりしている。横には当然のようにエリクが座り、目を輝かせながら興味深げに見守るのであった。


その間ジャースは宿の中をうろついていた。テーブルに座って遅めの食事を取っている女性に目を止める。奥から出てきたところを見ると、お手伝いか何かだろうか。空いたテーブルの一席に滑り込むと、手慣れた様子で遅めのまかないをかき込んでいる。


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「ちょっといいかな?」


ジャースが声をかけると、女はビクッと身体を強ばらせた。恐る恐る振り向くと、テーブル脇に立っている背の高いジャースを見上げた。


「ああ! 怖かったわ。旅人さんね。いきなり声を掛けたりしないでよ」


「いや、すまない」
年の頃は二十歳前後であろうか・・・ノルドには珍しい、黒い髪をした娘であった。


「怖がりなんだね」


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「ええ、怖がりソーニャ・・・仲間にはそう言われているの。でも怖がるのは当然よ。ウルフリック本人に跪かれて再入団を請われたって私はもう戻らないわ。安全で暖かい場所に閉じこもるの」


「ストーム・・・クローク、なのか?」
ジャースはスカイリムに来て覚えたばかりの単語をぎこちなく発音した。


「以前はね。でもいまはただの引きこもりよ。ムラルキが置いてくれる限り、この宿屋を去るつもりはないわ」ソーニャはにっこりと笑った。「・・・彼の息子と結婚できるかも知れない。そうしたらずっとここに居られるでしょうね」


「エリクくんを好きなのか?」


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「そうよ。彼は充分に素敵だわ。髪も綺麗だし歯も立派。この宿屋はムラルキが亡くなったら彼のものになる。そうしたらベッドや部屋にお金を払う必要がなくなるし」


「そういう言い方をしていると、本当に好きなのか分からなくなるな」
ジャースは端正な眉を少ししかめると、女の言葉を待った。


「でも彼を好きな気持ちは本物よ。女にはいろいろな面があるの、おじさまぐらいだったらご存じでしょう?」


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「はは、そうかもな」


「そうよ。・・・おじさまも十分魅力的だけど、そういう別の面をお探しなら他を当たってね」
ソーニャは、少女と女の境界線上を行き来するような、時折あどけなさを覗かせる笑顔でジャースを撫でた。


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「いや、私は情報を集めようと思ってただけだよ」


「・・・あらそう。ごめんなさい。あたし少し自意識過剰だったみたいね。それで、なにを知りたいの? 旅人さん」


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「そうだな、ホワイトランの事を少し教えてくれないか・・・」


彼はその後ソーニャと言葉を交わし、帝国軍がヘルゲン周辺を捜索しているらしいことや、ホワイトランとペイルの州境あたりで反乱軍と帝国軍が戦端を開いてる、などと言った情報を入手した。武器の手入れの終わったブラッキー達も途中で加わり、宿に屯している客達を回って聞き込んでみたが、しかし肝心のアルフレドらしき傭兵の姿を見た者は居なかった。ロリクステッドの住人達の現在の関心はもっぱら、激化する内戦と、東の平原で起きている火災が自分たちの畑まで広がってこないかの心配ばかりであった。


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「アルフさんロリクステッドに来たら、必ずうちに寄るから・・・。見てないってことは来ていないって事だね」


「そっか・・・道違えちゃったかな・・・」
ブラッキーは眉をひそめた。ケイドが取り持つように言う。


「でもどっちにしろ、ホワイトランに向かってるんだろ。馬車旅を再開すればいいんじゃない?」


「そうだね、お前の言うとおりだ。じゃ、早速馬車を・・・」


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「ちょっとちょっと・・・まさかいま発つつもりなの? 夜中だよ」
懐から『支払い証明』を取り出して宿を出ようとする姉を見て、鍛冶屋の息子は驚いた。ベッドにありつけると思っていた彼は、飛び出そうとするブラッキーを慌てて引き留めた。


「そうだよ。遅れは一日だろ、メリス姉ちゃん達が寝ている間も移動すれば差は半日に縮まる。二回繰り返せば追いつける。あまり時間を無駄にしたくないんだ・・・」


「まさか、二日も徹夜するつもり?」


「馬車で寝てるだけだろ」


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彼女は焦っていた。
本当だったら昨日のうちにこの村には辿り着いているはずだった。しかし山賊共が街道を封鎖して悪さをしているせいで、追い剥ぎ峡谷で降ろされ、時間を無駄にしてしまった。ここから先、ちゃんと馬車に乗れるという保証もない。


エリクは、そわそわしているブラッキーと、途方に暮れているケイドを交互に見た。


「とは言っても、馬車は夜中には出発しないぜ?」


ソリチュードを出てから、山賊に襲われたり、ジャースを拾ったりと慌ただしい出来事が続いていた。仕草には見せないがブラッキーも疲れが溜まっていたようだ。


「あ、そうなの? じゃあ、しょうがないか・・・」


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仲間を気にすることもなくベッドに転がると、彼女は目を閉じた。大きなあくびが一つ。
エリクはちょっと驚いたようだが、彼もつられて欠伸が出てくるのを止められなかった。ソーニャが呼びに来ると、ムラルキのもとに戻っていった。


瞬きをする間もなく、ブラッキーは寝息を立て始める。

ケイドはそんな様子を見ると、主人を守る従者のように、自分も床に座って俯く。


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そのあとすぐ、ケイドの寝息も聞こえてきたのだった。




・・・




朝、村人たちが仕事に出るのと同じぐらいの時間・・・


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ロリクステッドの朝は早い。その早朝の静寂を破るような、若々しい声がフロストフルーツの前に響き渡った。


「正直、残りの人生をずっとこの村で過ごすかと思うと我慢できなくて」

エリクはどことなく晴れ晴れとした顔をして、ブラッキー達を見送った。


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「感謝してもしきれないな。近いうちにまたロリクステッドに来て、僕を訪ねてくれよ」


「うん、メリス姉ちゃん掴まえたら帰りに寄ってみるよ」
ブラッキーの方は約束できない、といった雰囲気を出しながらおざなりな返事を返したが、前途を夢見るエリクにはまったく伝わっていなかった。


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「宿屋でエールを飲みながら、互いの冒険の話でもしよう! きっとだよ!」


そう言って冒険者志望の農夫は、彼女たちを送り出したのであった。
馬車は多くても客を四人しか乗せることができない。誰か別の旅人に枠を取られてしまわないうちに確保しないとならない、そう思っての早出であった。それに、もう一つ不安材料もある。


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”悪いな。でもタダで放り出すわけじゃ無い・・・ちょっとだけ徒歩になっちまうが、ここから沢を渡って峡谷を避けるように、回り込むように進むんだ。ロリクステッドについたらそこにまた馬車がいる。そいつはオレの同業で話を通してある。面倒だがそいつにこの紙を見せてくれ。そうしたら代金は支払い済みとして、ホワイトランまで乗せてくれるよ”


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ソリチュードから乗ってきた馬車の御者はそう言ってブラッキーとケイドを放り出した。最初から騙すつもりではないだろうが、正直彼女は半信半疑だった。宿屋を出てすぐ左手が馬車の発着場・・・支払い証明が本当にこの馬車に通用するのか確かめてみなければならない。
彼女たちは半ば期待を込めた面持ちで、御者に掛け合った。


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「ああ、ソリチュードからのお客さんだね。どれどれ、ホワイトランまでだな。乗りな」


ブラッキーの心配は杞憂で、御者が渡してくれた『支払い証明』はしっかりと通用した。尤も、ジャースの分は含まれていなかったので、そこの分は追加料金を取られたが、それ以外は特に予想外の展開には至らず、順調なスタートを切ることができた。


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昨日の噂に上っていた、ホワイトラン平原の火災だろうか、馬車の側面から見える平原の一カ所から煙が立ち上っている。

船乗りが目印にする星や、ダンマー達が目印にするレッドマウンテンの噴煙ではないが、その煙は旅人達の道標の代わりになっていた。


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「ところでジャースさん、さっきからなに書いてるの?」


馬車旅の不安定な手元で器用にペンを操る男を見て、ケイドは不思議そうにたずねた。
ジャースは揺られながらも書き物をしていた。


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「君たちとの旅の出来事を記しておこうと思ってね」


ケイドはワクワクを隠せない面持ちで覗き込んだ。
「へぇ、すごいや! 小説家って言ってたの本当なんだ。僕らの冒険? なんていうタイトル?」


「まだ決めてないが・・・そう言えば、たしか今は4紀なんだそうだな」


「なんだそうだ、って・・・まるで他人事だね。まだ頭はっきりしないの?」


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ジャースは頭痛を追い払おうとするかのように、頭を振った。


「・・・ん、ああ。ごっそり記憶が抜け落ちてるままだよ。未だに”すれ違う妹”と言う言葉だけが頭をぐるぐる回ってる。その妹とやらに面会するまでは、頭の霧は晴れないんだろうな・・・。まるで暗い迷宮を彷徨っているようだ・・・」


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「妹と言えば、姉さん探してるってことは、ブラッキーも妹なんだよね・・・ま、そういうのとは違うか」


「う・・・、そもそも”すれ違う妹”という言葉をどこで聞いたのかも思い出せないんだ・・・」


「あんまり考えすぎない方がいいんじゃない? きっといつか思い出すよ」


「そう思ってね。気を紛らわせるために書いているのさ。そうだな・・・とりあえず、4E201とでもつけとくか・・・」


「なにそれ、なんか日記みたいだね」

横になっていた顔を上げてブラッキーがからかう。


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「まあ、そんなものだよ」


言うとジャースは何かに気を留めたのか、ペンを止めて顔を上げる。

街道脇の石柱が気になったようだ。


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「この不思議な形をしたアーチはなんだい?」


「え、知らないの? これ、オブリビオン・ゲートだろ」


「オブリビオン・ゲート?」


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「200年前、デイゴンの軍勢がタムリエル中に出現した時の名残だよ・・・って、僕もその時代に生きていたわけじゃないから聞きかじりだけどね」


小説家は道端に立つ崩れたゲートを見上げては、しきりに首をひねっている。


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「いつの間に・・・ドルメンなら知っているが、こんなモノは見たことがない」


「ドルメン? そっちの方が聞いたことないよ」


「第2期のモラグ・バルのタムリエル侵攻で足掛かりに使われた仕掛けのことだよ」


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馬車旅の退屈しのぎとばかりに、ジャースは第2紀のデイドラ侵攻の話を語って聞かせた。吟遊詩人ほどの演出力はもちろんないが、逆に詩人にはない程多くの語彙を操るジャースの話は、ケイドの心を鷲づかみにしたようだ。鍛冶屋の息子は自分の知らない物語に、暫し浸るのだった。


「ジャースさん、ほんといろいろ知ってるんだね」


区切りのいいところで話を終えたジャースは、ケイドに微笑んだ。
「帝都の図書館にばかり籠もっていた成果だな。話を書くためには取材も大事だぞ。・・・取材? ・・・じ、重要な何かを取材していたような気がするんだが・・・うっ」


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「また頭痛? 無理しない方がいいよ」


「あ、ああ。何か思い出そうとすると頭が痛くなるんだ」


ケイドは話題を変えるよう、南のジェラール山脈を指さして見せた。
「あの山の向こうだよね、帝都は。そういえば・・・帝都に籠もっていたんならさ、アカトシュと融合したマーティン・セプティムの像は見たことあるんでしょ? 大戦でも破壊されることのなかった、エルフにも破壊することのできない立派なドラゴンの像だって聞いたけど。僕もいつか見たいと思ってるんだ」


「マーティン? 誰だ? それに大戦とは・・・」


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演技とも思えない。確かに彼は只の狂人ではなさそうだ。・・・最近の記憶が全くないのもウソではない。更に不思議なことに、第3紀のことをまるで見てきたかのように語る。


ケイドは微妙な表情をしてジャースを見た。


「ジャースさん・・・姉さんの言うように、本当に頭やられちゃってるの?」


「自分ではなんとも・・・」


「あまり刺激しない方がいいかも・・・。と、とにかく、ホワイトランで司祭様に見てもらおう」


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馬車はホワイトランとリーチ、ファルクリースの三つの州境が重なる地点に差し掛かった。境界にまたがるの休憩所を越えると東に曲がり、ホワイトランの平原を左手に見ながら進んでゆく。その視界・・・平原の奥の方には相変わらず煙が立ち上っている。先ほどロリクステッドを出発する時にも見えていた煙だ。


「あの煙なんだろうね。昨日も噂になってたけど、何かあるのかな、あそこに」


「さあ、焼き畑でもしてるんじゃない? 無視無視。時間を無駄に出来ないよ」


馬車は更に進む。
山に囲まれ、清らかな空気に包まれた平原の街道を進んでゆく。穏やかな景色に見慣れてきたブラッキーは考え事を始めた。


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メリスは一体どこに向かっているのか。どうして島を出たのか・・・。

ウンガー師匠はもうキルクモアに帰ったのだろうか?

エリクールは相変わらず難しい顔をしているのだろうか?


僅か数日前のことがいろいろと思い出された。


そして、ジャリー・ラたち。


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あのならず者達とは中途半端に袂を分かってきてしまった。自分たちから見たら敵だったのだが、直接対決はしておらず、むしろ一緒に行動していたという、うやむやな関係だ。


(たしかブラックブラッド略奪団と言っていたっけ・・・)


このスカイリムでも随分と幅をきかせているらしい。巻き込まれた襲撃から命を救ったが、頼まれた仕事はほっぽり出して姿を消した。彼らから見たらそう見えているはずだ。うまく言いつくろえば、この関係が役に立つときが来るかも知れない・・・そんなことが頭をぐるぐると回る。


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ケイドが勝手に付いてきて、ジャースと出会って・・・そして・・・。昨晩宿屋で旅の準備をしている彼女たちを、目を輝かせて見ていた農民・・・


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(エリクか・・・はぁ・・・)


エリクの旅立ちに、思わず一役買ってしまったことを、彼女は後悔していた。


「ボクら、なんかうまいこと、ダシに使われちゃった感じ?」
独り言のように漏れ出た言葉を、ケイドが聞き咎めた。


「だね。でもいいんじゃない。昨日は屋根の下で寝られたし、おいしい食事にもありつけた。エリクも冒険者としての一歩を踏み出せるわけだし、誰も損してないよ」


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ブラッキーは釈然としないような面持ちで鍛冶屋の息子を見た。
「・・・そうだけどさ、ムラルキの親父さんを騙したみたいになっちゃったし、あいつの行き先が不安だよ。すごく心配そうにしてた。エリクの事はボクらより親父さんの方がよく知ってるんだから、親父さんの言うことが正しいんじゃないかって」


「なら連れてくればよかったじゃん」


「冗談! やめてよ。お荷物はお前とおっさんで十分だって」


「うわっ、その言い方ひどいなぁ、ちょっと傷つくよ」


「ボクたちが焚き付けたせいで、親父さんを悲しませるような事になったら寝覚め悪いからね」彼女はそう言って鍛冶屋の息子を小突いた。「ケイド、お前もだよ。ベイランドのおっちゃんを悲しませたりするなよ」


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「それを言うならブラッキーとウンガーさんも一緒だろ。大丈夫だって。僕は伸びしろだけはあるんだ」


「なんだよそれ、不安でしかないや・・・」


「まあ、それにね・・・」ケイドは訳知り顔で言った。「エリクは・・・こういった議論をこれまでに何度もしてきたに違いないよ。たまたま昨日の晩に話がまとまった。それだけさ」


「なんだよ、ずいぶんと分かった風じゃん。子分のくせになんか生意気だよお前」


「はは、だって僕がそうだったから」
ケイドは笑って種明かしすると、一つ伸びをした。そして気持ちを切り替えるように宣言する。「さ、早いとこブラッキーの姉さんを見つけないとね!」


そんな話をしながらしばらく馬車に揺られていると、不意にジャースが声を上げた。


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「あれ? あの姿、エリクくんじゃないか?」


「おっさん眼悪いんじゃなかったの?」


「悪いさ。でもこれを掛けていれば視力は矯正されるからね。意外と遠くまで見える」


「ふーん。ドゥーマーの道具って便利なんだね」
ブラッキーの方は目を凝らして煙の方を見る。
「・・・って、ホントだ、何か居るぞ・・・」ブラッキーは目を凝らした先で煙の側で何かが動いているのを見咎めた。そして驚きの声を上げた。「なんてこった!」


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「どうしたのブラッキー、僕にはよく見えないけど・・・」


答える間もなく、ブラッキーは馬車を飛び降りていた。「おっちゃん! ・・・あ、御者のおっちゃんのほうね! ちょっとだけ待っててもらえる。すぐ戻ってくるから!」
慌ててケイドとジャースもそれに続く。馬車を止めると御者は、反論する間も与えられずに駆け出す三人を、呆気に取られて見送った。


並んで駆けながら、ケイドもブラッキーに怒鳴った。


「あ、ほんとだ! エリクだ」


「だろ? 何かと戦ってる! でも・・・あれ・・・あの相手はなんだ?!」


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「化け物??」


平原の野火だと思っていたものは、野営地の火災であった。・・・ただし、焼けたそのなれの果てであったが・・・。
まだシルエットしか見えないが、歪な形をした巨体を前に、エリクが鉈剣を構えている。


「あのバカ、鎧を買いに行くんじゃなかったのかよ。冒険はその後だろ? なあケイド、剣だけ持って何やってるんだ!」


「いや、僕に言われたって・・・」


「ノルドの蛮勇はかく在るべきものか・・・、それとも若さの為せる業か・・・」


「お前は黙ってろって!」


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感心したように吟じるジャースを睨むと、ブラッキーは駆け込んでエリクに加勢した。


焦げた野営地に落ちている装備や破れた旗などを見るに、帝国軍のもののようだ。

しかし彼女たちはそんな観察にかまけている余裕はなかった。


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・・・異形


そうとしか言いようのないものがそこには居た。
死体の骨や肉塊をかき集めて鎧に押し込み、紐で押さえつけている、ジャースは脳内でそう表現したが、戦いに加わろうとしているブラッキー達の邪魔にならないよう、言葉に出すことはしなかった。


ひどく冒涜的な死体の継ぎ接ぎが暴れている。
動くものを認識するのか、それはエリクに狙いを定めて腕を振り下ろしてくる。彼は何とか逃げ回っていたが、一発もらったらソブンガルデに送られそうな膂力であった。


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「ショールにかけて、うえっ、気持ち悪い!」


ブラッキーは相手を見て手斧を使うことにした。アストリッドを撃退するのに使った、重さで相手を押し潰す得意の武器だ。彼女が一撃を叩き込むと、ぐちゃっと嫌な音を立てて腕が落ちた。しかし怪物は何事もなかったかのように、それを拾い上げると切断面を合わせる。取れた腕はすぐに元通りになった。


「こいつ、自分でなおすのかよ!」
ブラッキーの作った隙でエリクがなんとか体勢を立て直す。それを見ると、彼女は下がるように手を振った。
再び斧で切りつける。


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化け物の動きは思いのほか素早く、加勢に来たもののケイドもジャースも手を出すことができなかった。戦い慣れしているブラッキーでしか、その攻撃を躱すことができないのだ。


しばらく戦い続けるが、屍体の動きは一向に衰えない。体力・・・があればの話だが、死体なので無尽蔵なのだろう。ブラッキーは冬にもかかわらず額が汗ばむのを感じ、少し焦りを覚えた。そんなとき、何かできないかやきもきしながら見守っていたケイドが、思い出したように叫んだ。


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「姉さん! あの薬! あの薬だよ!」


「薬? 何のことだよ!」


「ほら、サルモールの。洞窟で拾ったヤツ。あれ猛毒なんだろ。持ってたって危ないだけだし、使うならいまだよ!」


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ブラッキーは横殴りの一撃を転がって避けながら怒鳴り返した。


「だけどコイツ、どう見たって死体の継ぎ合わせじゃん、アンデットだろ、毒なんて効くのかよ?」


「アーケイにかけて、やってみないと分からないだろ!」


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「分かったよ。ああ、もうっ!!」


ブラッキーは体勢を立て直すと一歩下がって、小物入れから瓶を取り出す。「これだな」
そして死体兵士に向かって投げつける。


キィン・・・


しかし突き出た腕の一本が動くと、瓶はあっけなく弾き飛ばされた。
瓶はあらぬ方向に飛ぶと、地面に落ちて割れてしまった。


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「コイツ、こう見えて隙がない・・・まずいな、逃げた方が良いかも・・・どうすれば」彼女は割れた瓶の先で煙が立ち上るのを見た。毒の煙だとまずい。


「やばっ・・・」少女は口元を押さえながら風上に逃れようとする。


するのだが・・・
「・・・! ・・・えっ?! あっ!」


視界に人影を認め、彼女は口を覆うのも忘れてそれを凝視した。
瓶が割れて発生した毒の煙の中から何かが立ち上がってくる。・・・とんでもない化け物を見た後だからもう何見ても驚かないと思っていたが、それは思い過ごしだった。


「なにあれ?!!」
ブラッキーは自分でも間抜けに聞こえる声を上げてしまった。


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・・・そこには・・・、灰の化け物が炎の剣を携えて立っていた。


イェアメリスやアスヴァレンであればもう驚かなかったかも知れない。何度も遭遇した灰の化け物・・・死者の行進の兵士だ。しかしブラッキーはこの化け物を見るのは初めてだった。


灰の化け物は最初ブラッキー達の方を見たが、彼女たちとの間に屍体の兵士を認めると、ゆっくりとそちらに向かって進み始めた。その場から離れるように、ブラッキーはエリクの手を引いて、一目散に仲間の元に逃げ戻った。


「ケイド! なんだよあいつ。物知りなんだろ」


「知らないよ」


「おっさんは?」


「・・・とにかく逃げよう!」


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当然、ケイドやエリクも知るはずなく、彼女たちは見物しているジャースもひっつかんで、その場を離れようとした。死体をつなぎ合わせた兵士は、灰の化け物を当面の敵と認めたようで、ブラッキー達を無視すると腕を振り回して襲いかかった。
四人は少し離れた所で、化け物同士の戦いを呆然としながら見守るしかなかった。


「・・・あの灰のヤツ、火を使うのか」
とりあえず戦いから逃れたブラッキーは、額の汗を拭うと化け物達を観察した。


「そんなのどうでもいいよ! 今のうちだよ、もっと逃げようよ!」
ケイドは姉を引っ張ると、更にその場から離れようとする。


「こんなヤツを放っておくって言うの?」


「姉さん、まさかどっちか勝った方と再戦したいっての? やめとけって・・・仕方ないだろ、倒し方わかんないし、軍隊でも呼んだ方がいいよ」


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「近寄らなければ大丈夫だ」
ジャースが口を開くのを見て、三人は一斉に立ち止まり、小説家に注目した。


「あれは”戦場の蘇死者”・・・レヴェナントだ、この目で見るのは初めてだが、間違いない」


「なんだって、蘇死者?」


小説家は、確信を持ったように頷いた。
「そうだ。戦場で死んだもの達が、あまりの無念、怨みの強さによってエセリウスに召されずに、混ざり合って穢れた大地に縛り付けられている亡霊だ」


「斧を当てた手応えもあったし、どう見ても実体あったよ。あんなしっかりした亡霊なんているの?」


「普通は現れない。だが、かき集められた骨肉の破片に強力な死霊術士が術を掛けると、ああ言ったものが生み出されるらしい・・・」


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ジャースはいままでとは別人のように、たのもしく見えた。
「・・・おっさん、ただの狂人かと思ったけど、実はケイドより物知り?」


「昔、アーケイン大学の禁忌の写本を見せてもらったことがあるからな。それに載ってたんだ」


「でも・・・、大丈夫ってどういうこと?」


「その本に書いてあったんだが、言い伝えでは、あいつは非常に強力なアンデットだが、自分たちが死んだ大地から遠く離れることはできないらしい。だからロリクステッドや他の場所に被害が及ぶことはない。尤も・・・もう一体の、灰色の方は見たことも聞いたこともないが・・・」


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実験場・・・、そんな言葉がジャースの脳裏にはよぎっていた。


「アカトシュの吐息にかけて、あっちの方がヤバイって事? ・・・あっ、見て!」


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彼女たちの見守る先で、化け物達は差し違えようとしていた。
レヴェナントの剣が灰色の化け物を貫いて決着がつこうかという時、灰色の化け物はそのまま相手にしがみついて発火したのだ。既に燃えている野営地の残骸にもう一つの炎が加わり、やがて跡には燃え滓だけが残された。


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「相打ち・・・?」


為す術もなく見守ることしかできなかった四人の前で、野営地は徐々に静寂を取り戻していった。張り詰めた空気の中、なかなか口を開こうとしなかったが、危険が去ったと確信できたのか、ようやくケイドが口を開いた。


「・・・つまりここは・・・人がたくさん死んだ戦場だったって事?」


「ボクが知る訳ないだろ。エリク、どう? 最近このあたりで戦いでもあったの?」


エリクは首を振った。「そういう話は聞かないけど・・・」


立ち去ろうとする途中、ブラッキーは下草の間に光る何かを見つけた。


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「あれ? この石・・・また・・・」


彼女は足元から見覚えのある石ころを拾い上げた。キルクモアで散々彼女たちを困惑させたあの光る鉱石が落ちていたのだ。・・・アイスランナーにも積まれていた。


「ブラッキー、どうしたの?」


「ううん、なんでもない。また出たら嫌だから行こっ」


馬車に戻りながら彼女たちは、いま見たばかりの怪異について話した。


「それに結局あの毒、なんだったんだろうね?」
ケイドは怪物達が差し違えた方を指さす。もうずいぶんと向こうの方だ。「慌てててよく見てなかったけど、あの薬が落ちた先から灰色の化け物が出てきたように見えたんだ。もしかしてあの薬、化け物の元?」


「さあね。でも厄介払いできてよかったかも」


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ブラッキーは答えながら別のことを考えていた。


謎の鉱石はアイスランナーにも積まれ、サルモールが運んでいた。

そして彼女はこの鉱石が姉のイェアメリスとどのような関係にあるのか、盗み見た彼女の母の日記から知ってしまっていた。


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・・・そして灰の化け物を生んだ薬品・・・ブラインウォーターの闇倉庫でくすねた薬はサルモールのものだ。エランディルという気味の悪いサルモールは猛毒と言っていたが、効果を見るにその呼び方は控えめに言っても物足りない。ろくでもない薬品であることしか分からなかったが、薄ら寒いものを感じさせた。


・・・会ったことも全くないサルモールにずいぶんと振り回されている。自分でさえそうなのだから、姉はもっと厄介なことに巻き込まれているかも知れない。やはり早いところ追いつかなければならない。
彼女は嫌な予感を振り払うように、旅の連れ、鍛冶屋の息子を見た。


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「あんな物だって分かってたら、肌身離さず持ち歩いたりしてなかったよ。・・・ま、結果、化け物は二匹とも居なくなったし・・・」吹っ切るように言い放つ。「ボクらはみんな無事だし、めでたしめでたし・・・」


今度は助けた若者の方を向く。


「と言うとでも思った?!!」


少女は農場の若者を睨みつけた。「調子に乗って・・・早死にする冒険者の典型じゃないか!」


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ケイドもさすがにエリクを庇うことはできなかった。
「そうだよ、どうしてあんなところにいたんだよ! 鎧も着ないで、どういう・・・」


「いや、だから。ホワイトランに買いに行こうと思って、草原を突っ切っていたら・・・。それに、君らだって着てないじゃないか」


「いまはお前のこと言ってるの!」


「生きてたから良いものの・・・」


「戦利品もあったんだぜ」
エリクは錆びた剣を手にしていた。


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「それは・・・?」


「あの化け物の一部だったものが抜け落ちたみたいなんだ」


「うえっ! 縁起でもない! 死んだ兵士達の怨念が詰まってるって! 捨てなよ。呪われちゃうよ!」


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「だったら尚更だよ・・・ジャースさんの、さっきの話が本当なら、ホワイトランに持っていって供養してやろうと思って。あんな風に怨み抱いたまま野ざらしなんて可哀相だよ」


(ああっ・・・)


ブラッキーは天を仰いだ。
姉に・・・イェアメリス似ている物言い。お人好しすぎる・・・戦士には良くない、長生きできない性格だ・・・。


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御者がそろそろしびれを切らしかけた時、ブラッキー達は馬車に戻ってきた。ひどく疲れて、そして不機嫌そうな顔をしながらも何やら言い争っている。その様子を見て、御者は文句を言うのを控えた方が良さそうだと悟り、客が乗り込むと黙って馬車を走らせはじめた。しばらく説教されたあと、また何かしでかされたらたまらないと言うことで、エリクも一緒に馬車に乗せられていた。


エリクが加わり、いつの間にかホワイトランに向かう一行は、四人になっていた。




・・・




「あらあら・・・どうしてあの子達が薬を持ってるのかしら・・・でもまあ、いいわ。上出来よ。相打ちとはいえ、レヴナントを倒すなんて」


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馬車が去って行く中、まだ煙のくすぶる野営地から声が聞こえた。灰の化け物に転化した人間・・・の亡骸を見下ろしている。


「もうちょっと改良が必要だけど・・・ああん、待ち合わせに遅れちゃう」


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戦いに巻き込まれて必死だったブラッキー達は、煙の奥・・・野営地を見下ろす小高い丘の上に女の影があったことに、最後まで気付くことがなかった。




・・・




馬車が再度出発してからしばらくの間、ブラッキーたちは落ち着きを取り戻そうと努めて平素を装ったが、なかなかうまく行かなかった。いくら場数を踏んでいるとはいえ、彼女もまだ十代後半だ。死霊術の魔物と遭遇して数時間で平静を取り戻す、というわけにはいかなかった。一行はなんとなくぎこちない会話を居心地悪そうに交わしながら、馬車に揺られるままホワイトランに向かった。


そんな中、いちばん平静を保っていたのは、他ならぬウォーヒン・ジャースであった。


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記憶を失っているが、オブリビオンまで垣間見てきた経験は魂に刻まれているようで、怪異に対する心の柔軟性は仲間の中でいちばん秀でていた。彼は少年少女達の気持ちをさり気なくほぐそうと、一人でしゃべり続けていた。どうせ頭がおかしいからと最初は気に留めていなかったブラッキー達も、仕方なく相手をするうちに、いつの間にかジャースのペースに巻き込まれていった。彼の採った方法は単純なもので、唯々、質問することだった。


「ロリクステッドは、いいところだったな。冬なのに作物がよく育っていた。ちゃんと植えるものを選んでいるんだろう?」


答えようとすれば自然とそのことを考える。質問には余計なことから気を逸らす効果があった。


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「ええ、そうです。ジャースさんは農作物にも詳しいんですか?」エリクはややぎこちなく答えた。「・・・覚えている限り、ボクたちの作物はいつだってよく育っているんです・・・土や気候のお陰なのか、神々の恵みなのかは分かりませんが、凶作になったことはないんです」


「エリクくんはずっと村に?」


「生まれも育ちもロリクステッドですよ」エリクは素朴な笑いを見せた。「世界一ワクワクするような場所ではないけど、ここの人は勤勉で誰にも迷惑かけたりしません」


「ご家族は?」


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「父は兵士でした。大戦で戦い、それが終わると引退してここで家庭を持ったんです。母はボクが赤ん坊の頃に死にました。父はひとりでボクを育てるため、最善を尽くしてくれたんです」


「やっぱり、村で暮らしていた方がいいんじゃないの? これに懲りてさ」
ケイドも話に加わってきた。


「そうはいかないさ。せっかく父の気持ちが変わったんだ。こんなチャンスは逃せないよ」


もう大丈夫だろうと思ったが、ジャースはもうひと話題振ることにした。
「エリクくん・・・あの、なんていう娘だっけ、宿で働いていた彼女は恋人なのかい?」


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「え? ソーニャのこと? そういうんじゃないですよ。彼女は去年ぐらいから父の宿で働いているんです」


「ほう・・・彼女の方は君が気になっているようだったがね」


「そういえば、結構よくしてくれるような・・・」


「なになに? 何か面白い話?」


ブラッキーも乗ってきて、彼らはエリクを交互にからかった。そんな話をしながらしばらく馬車に揺られていると、程なくホワイトランの城門が見えてくる。


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(姉ちゃんとの距離、少しは詰まったかな・・・)


ブラッキーは風になびく旗を見上げて、とりあえずの安堵の息を吐き出す。


「ふぅ・・・ここまでは順調、ホワイトランに着いたぞ」
エリクの呑気な口調を聞いて、鍛冶屋の弟子と息子は眉をつり上げた。


「さっきのあれをさし引いても、どこから順調なんて言葉が出てくるのか僕は知りたいよ」


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ブラッキーも大きく頷く。
「で、でもとにかくさ・・・、着くところには着いたよね」
若いというのは拙さもあるが、逆に柔軟性は高い。彼らは普段通り軽口をたたき合うまでに戻っていた。


「ホワイトランには何回か来たことがあるけど、こんなに凄いことが起きる道中は経験ないよ。薪や作物を背負って売りに行ったり、普段はすれ違っても山賊追いかける衛兵ぐらいだしさ」
ロリクステッドの住人は、村では作れない工芸品の類いを買い出しに、州都ホワイトランには良く行き来していた。


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ロリクステッドからホワイトランまでは徒歩で二日半ほど掛かる。馬車でも普通は余裕を持って途中の休憩所で一泊するのだが、今回は日の出と共に出発したため、何とか日が沈む前に城門前に辿り着く事ができた。商魂たくましい御者は彼女たちが降りるや否や、すぐに帰りの便の乗客を募りはじめている。


「嫌になったらいつでも帰ってくれていいんだぜ、冒険も楽しいことばかりじゃないだろ」


「いや、俄然やる気出てきたよ」


「・・・エリク、冒険に出たい出たいって言ってたけど・・・こんなのでホントにいいの?」
ケイドは数日前に自分がされた質問を、今度はエリクにしていた。


「誰にだって初めてはあるもんだろ? それは思わぬところから始まるもんだろ?」


(うへぇ・・・頼むから、ケイドと同じこというのやめて・・・)


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ブラッキーは心の中で呟くと、ケイド、エリク、ジャースを順番に見て再びため息をつく。
ジャースはそんな少女を見て、心の中で微笑んでいた。


彼女たちは城門の手前で馬車から降りると、門に向かって歩いて行った。門を守るのは彼女と同じぐらいの年齢に見える少女だった。こんな子供まで警備に駆り出さなければならないほど人手が足りないのかな、などと他人事のように考えながら、ブラッキーは手形を取り出す。


「・・でね、・・・ちょっと、あなた聞いてる?」


衛兵の質問に二言三言答えている最中、ふと彼女はジャースが手形を持っているのか不安になった。不安になるとどうしても気がそちらに散ってしまう。


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「えっと・・・あ、あ・・・」


彼女は何度も後ろを振り返ってしまったことで、しまいには衛兵の質問を聞きそびれて口ごもってしまった。そんな仕草が疑いを招き、衛兵はブラッキーたちを訝しげな眼で見はじめた。これはまずい、と感じたのか、エリクが進み出た。


「やあ、リズさん」


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「あら、エリクくんじゃないの。この人達はあなたの連れ?」


「ええ、彼女はブラッキー。ソリチュードの鍛冶屋、ベイランド親方の孫弟子だよ。姉さんを探してるんだって。横のおじさんはジャースって言う物書きなんだけど・・・、ちょっと頭に怪我をしたみたいでうまくしゃべれないんだ・・・キナレスの聖堂あたりで診せて・・・」


「失礼な、私は・・・もがっ」
何か言おうとするジャースの口を、めんどくさいとばかりにブラッキーが塞ぐのを見ると、エリクは何食わぬ顔で続けた。


「そっちの彼はケイド、親方の息子さんで、エオルンドさんの炉を見学に来たんだ」


「親父が若いうちに一度見てこいって勧めたんです」
うまく話を合わせたケイドに続いて、最後にエリクが名乗ろうとする。


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「いいわエリクくん、キミのことは知ってるから。そうね、君が連れてきたのなら安心か。・・・みんな通っていいわ」


「いや、聞いてもらわないと」


「あらたまって、何?」リズは少しドキッとしたようにエリクを見ると、慌てて辺りをきょろきょろと見回した。


「今日の僕は只のエリクじゃないんだ」


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それを聞くと、リズは少し頬を染めた。
「だ、だめよ・・・。告白とかはこんな人前でするものじゃないわ?」


「へ? リズちゃん何言ってるの」


「えっ・・・あっ、違うんだ。何よ、言ってみなさいよ」
少し不機嫌に頬を膨らませた少女衛兵は、次のエリクの言葉を聞いて吹き出さざるを得なかった。


「僕は今日から虐殺者エリクになったんだ」


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「は?」


「だから・・・虐殺者」


「虐殺者ぁ?」
目を丸くしたリズは、一歩後ずさった。
「エリクくん・・・知減病か脳腐病にでも掛かった?」


「いや、至って正気だよ」


「じゃあなにキミ、山賊にでもなったってわけ? ドラゴンズリーチのダンジョン(地下牢)に行きたいの?」


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全然話が通じないことにエリクは少し焦って、付け足した。
「違うって、傭兵になったんだよ。その・・・通り名が必要だろ」


呆れたようにリズは一行を見た。眼鏡で表情が読み取れないジャースを除いて、ブラッキーもケイドも、まるで自分が馬鹿にされたかのように恥ずかしそうに目を伏せた。それを見て少女衛兵は聞こえるようなため息をついた。


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「虐殺者って・・・もう少しマシな名前はなかったの?」


「自分を真に表す名前をつけるべきだって親父は言うけれど、庭いじりのエリクとか、鍬使いのエリクとか、誰も雇わないだろう?」


「庭いじり・・・それはそうだけど・・・でもあたしはお父さんに賛成だわ・・・」


「敵に恐怖心を与える名前が必要なんだ。敵が居ればの話だけどな」


「そもそも敵って誰よ、誰と戦うっていうの?」


「そうだよな。誰と戦うんだろう・・・?」


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「あなたねぇ・・・」
リズとブラッキーは顔を見合わせた。お互い、同じ事を考えているのは明らかだ。
ブラッキーは自分では気付いていなかったが、エリクが道端にその若い命を投げだそうとしているのを、既に保護者になったかのように憂いていた。


(はぁ・・・またなの? なんで二日間も連続でこんな目に遭うのかしら・・・)


リズの方はリズの方で、城門前で面倒くさい話を始めた旅人達を見て、昨日似たようなことをしていた旅人達が居たのを思い出していた。


(あのうるさかった連中・・・、アーセランとイェアメリス、っていったっけ?・・・そっくりだわ・・・)


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エリクはそんな二人の気持ちもまるで知らぬかのように、これからの出来事を夢見る眼差しだ。


「僕はこの目で世界を見て金を稼ぎたいんだ。農夫のままじゃここから離れられないだろ。ブラッキーの変な武器集めも手伝うからさ・・・」


「うぅ・・・。あのね、ボクは武器集めで旅してるわけじゃないって言ったろ。お前のせいでまた時間無駄にしちゃったんだからね。そのあたりちゃんと分かってるの?」


「もちろん。人捜しだろ」


「そう、ここに来たのはアルフって人を探すためなんだからね。そっちを手伝ってくれよ?」


見知った名前が出て、リズは思わず聞き返した。


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「へ? ・・・アルフ? 傭兵の? アルフくんのこと?」


「衛兵のお姉さん、知ってるの?!」
ブラッキーは目を輝かせた。


「知ってるも何も、そのアルフくん達は昨日の晩ここに来て、また慌ただしく今朝出ていったところよ」


彼女は不意に訪れた手がかりに食いついた。・・・追いついてはいないが、突き放されてもいない。まだ間に合う時間差だ。


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「ねぇ、その中にエルフいなかった?! 垂れ目たれ耳泣きぼくろ、髪は翠で・・・」


リズは詰め寄ってくるブラッキーの言葉を聞いて、昨日アルフレドが連れていたエルフの旅人達であることを確信した。「もしかして、あなたの探しているお姉さんって、イェアメリスとか言う女の人?」


「それだっ!!」ブラッキーは叫び声を上げた「メリス姉ちゃん・・・やっと追いつける! で、で・・・どこに行くって言ってた?!」


リズはブラッキーの剣幕にややたじろぎながらも、彼らとの会話を思い出そうとした。


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「それにメリスちゃん。この先ももうしばらくホワイトランの領土が続くから、折角だし州境まで送ってくよ」
「サレシ農場での買い付け、足りるかしら・・・」
「よし、リフト地方も護衛してやるよ。格安で!」
「・・・もしかして財布を心配してる? 大丈夫。金なんて取らないよ。フーラ探しはオレの依頼だからな」


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「たしかアルフくんはお姉さん達を州境まで送っていくって。ここから東に半日ほど行ったところね。他にはサレシなんとかとか、リフト地方がどうとか言ってたような気がするわ」


ブラッキーはケイドとエリクを振り返った。「リフト地方って?」
エリクは門の斜め後方、遥か遠くに見える高い雪山を指さした。


「あの山、世界のノドを挟んで反対側の地方だよ」


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「サレシ、ってのは?」


「ごめん、それは知らないや」


「歩きで行ったみたいだから、馬車で行けば追いつけるんじゃないかしら・・・方向を間違えなければだけど」


「そうだね、ここは慎重に、もうちょっと街で聞いた方がいいんじゃない? ジャースさんも聖堂に預けなきゃならないし」


ブラッキーはホワイトランの入り口と、世界のノドを何度か交互に見た。
「本当は街なんて入らずに今すぐ出発したいぐらいなんだけど、・・・ケイド、お前の言うとおりかも。ちょっとだけ情報を集めよう。・・・このおっさんも厄介払いしたいし、エリクも虐殺者らしい格好にしてやらなきゃならないから、虐殺者らしい。そう、虐殺者らしくね」


「お節介かも知れないけど、その呼び名、あまり街の中で連呼しに方がいいわ」
リズが念を押す。そんな心配どこ吹く風で、エリクは笑ってブラッキー達を誘った。


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「さ、街に入ろう。ようやく僕も仲間と認めてくれたわけだね」


「エリク、僕の方が経験豊富なんだから、ちゃんと言うことも聞くんだぞ」


胸を張る鍛冶屋の息子を小突くと、ブラッキーはため息を漏らした。
「なにケイドまで先輩風吹かしてるのさ。経験ったってホンの二、三日だろ。もういいから二人で西に帰れよ」


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「つれないなぁ。僕と姉さんは一蓮托生だろ? さぁ、もうその話しはいいから、コイツの鎧を選んでやろうよ」


「はぁ・・・こんなことなら、あの追い剥ぎ峡谷で襲ってきた奴の鎧も剥ぎ取っとけばよかったな・・・」


「それじゃあどっちが追い剥ぎかわかんないだろ。晴れある冒険の門出に、剥ぎ取った鎧じゃ幸先悪いよ」


「お前らやっぱり冒険向きじゃないよ。そういうこと言ってると早死にするぜ」


黙って見ていたリズも、なんだか疲れたような顔をしている。こういうやり取りはいま見るのが初めてではない。衛兵をしていると時々遭遇する。兵士でも冒険者でも、故郷に錦を飾るつもりで意気揚々と旅立っていった若者が、しばらくして物言わぬ骸として戻って来る光景は何度も見ていた。普段は放っておくのだが、相手が気になる身内となれば、無駄と分かっていても口を出さずには居られなかった。


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「うぁ~・・・また、アルフくんに変な病気うつされたのね。いい、冒険者なんてのはね・・・あっ、聞きなさいよ」
説教はじめようとするリズを尻目に、4人はしばらくその場を去ろうとしていた。


別れ際、リズはブラッキーに耳打ちした。
「あなたにこんなこと頼むのも変な話だけど・・・あいつ、どう見ても頼りないし危なっかしいから、お願い」


「は、はは・・・」
ついさっき、さっそく死にかけていたよ、と言いかけて、ブラッキーは止めておいた。またややこしいことになりそうだったからだ。代わりに煮え切らない半笑いを浮かべた。


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「そんなに心配なら、衛兵辞めて結婚しちゃえばいいのに」


「けっ、けっこん~?!」


リズがエリクを気にしているのはこの短い時間の態度で充分分かった。やり取りが面倒になってきたブラッキーはやや投げやりに言った。
「知ってた? ロリクステッドであいつに気がある女の人いるんだよ。ムラルキ・・・宿屋のおっちゃんの女中になって住み込みで働いているんだぜ」


「なにそれ!! ホント?!」


「虐殺者の心配するのもいいけどさ、配置換えでも頼んだ方がいいんじゃない?」


「な、な・・・それがホントなら・・・」
目を白黒させているリズを置いて、4人はようやく城内に入ったのだった。


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(はぁ・・・ボク、なにやってるんだろ・・・)




・・・




どこで手に入れたのかジャースも200年以上前のやけに古びた手形を所持していた。いろいろ突っ込まれる前に、ブラッキーはこの男の家系が代々受け継いできたものだとかなんとか、適当なことを言って通してもらっていた。実際のところ、リズはエリクの方に気を取られていたから、大したチェックもされなかったのだが・・・。


帝都から来た小説家は、まるでおのぼりさんのようにあたりを観察していた。
「ふむ・・・ホワイトランはあまり変わっていないな・・・でもずいぶんと城壁が痛んでいる。大きな戦いに見舞われたようだ・・・これも、大戦とやらの影響なのか」


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「そうなの? ボクはおっさんと同じ、ハイロックから来たから知らないな。物知りケイドに聞いたら?」


鍛冶屋の息子は、子供の頃から読み溜めた本の知識を動員すると、首を振る。
「大戦でスカイリムは戦場になってないよ。これはオブリビオンの動乱の影響だね」


「さっきのゲートからデイドラの軍勢が侵攻してきたってやつかい?」


「うん、そう」


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ジャースはケイドの話を聞き、熱心にメモを取っている。彼は失った記憶の部分を埋めようと貪欲だった。・・・尤も、彼は3紀417年以降を生きていないのだから記憶など有るはずがないのだが、彼の仲間は皆、記憶を失っていると思いこんでいた。


「ケイドくんはよく勉強しているんだな。無鉄砲なブラッキー、危なっかしいエリクくんと違って、常識的だ」ジャースはメモをしまった。「旅の仲間には常識人が一人は必要だって、次の話には書かないとな」


「頭おかしいおっさんに言われても、素直にウン、とは言えないよ。ちゃんと聖堂で治療してもらってよ?」
ブラッキーは心配だか憎まれ口だか分からないセリフを吐いたが、ふと思い出したように荷物を漁りはじめた。そして物入れの中からくしゃくしゃになった羊皮紙を取り出す。


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「そう言えばおっさん、もの書くの得意なんだろ?」
彼女が取り出したのは、東帝都社の私書通信証明書であった。番号は7386。イェアメリス、アスヴァレン、ブラッキー3人の共通の数字だ。


「ああ、もちろん。どうしたね?」


「メリス姉ちゃんに手紙を残そうと思うんだ。ホワイトランぐらい大きな街だったら、東帝都社の事務所ぐらいあると思ってさ」


「それはいい考えだ。任せなさい」


「だろ、・・・ボク、一応読み書きできるけど、形式やら美辞れいく?って言うのは苦手なんだ、だから代筆頼むよ」
ブラッキーは出発までのわずかな時間、ホワイトランでまず、東帝都社の事務所を探すことに決めた。


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「修辞法なら私の得意とするところだ。どれ・・・」




・・・




「ホ、ホ・・・あとちょっとかのう・・・」


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風に紛れて老人のような声が聞こえたが、それに気づく者は誰も居なかった


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(つづく・・・)



※使用mod


・Kohrin Ogata Follower v2.1 Update  ( 個別サイト )
 お世話になっている曼珠沙華さんのフォロワーです。
 今回は3DNPCの固有キャラ、怖がりソーニャ役として、光琳さんを使わせて頂きましたヾ(๑╹◡╹)ノ"
 少女のあどけなさが残る女性で素敵です(*´ω`*)


・KuromimiFollowers ( 個別サイト )
 アーセランくんでお世話になっているくろみみさんのフォロワーです。
 ロリクステッドに住んでいるから、シルエットだけでも、ということで、リュシアンさんとサーシャさんを使わせて頂きましたヾ(๑╹◡╹)ノ"
 ホントはちゃんと会話させたいですが、第二部の人物が増えすぎないようにということで、またの機会に^^;


・FFFollower 2017
 お世話になっているフカヒレさんのフォロワーの中からカンテレさんにエキストラ出演して頂きましたヾ(๑╹◡╹)ノ"
 ホワイトランの馬車のアシスタント(?)的な役割でさり気なく(๑╹ω╹๑ )


・Liz follower(再掲)
 お世話になっているたいこさんの可愛らしい衛兵さん
 またまた、ホワイトランの衛兵さんとして出てきて頂きました。今回は恋敵(?)まで出てきてしまい、苦労が絶えない女の子です^^


・War Revenants( Nexus 90591 )
 前回も紹介しましたが、今回のメインの一部に使わせて頂きました。
 この方の造形はすごい、の一言です。他のクリーチャーも、見ただけで使ってみたくなるものばかりでオススメですヾ(๑╹◡╹)ノ"


・Interesting NPCs( Nexus 8429 )
 通称3DNPC。
 250人以上のNPC、そしてそれにまつわる大小様々なクエストを追加するmodです。
 重量級のmodですが、ロアを重視して、バニラのクエストと区別がつかないくらい自然と世界に溶け込みます。しかもボイス付き。
 今回は元ストームクロークの女兵士で、若くして退役し、ロリクステッドに居着いているソーニャを使わせて頂きました。彼女は非常に面白い話を聞かせてくれるのですが、ブラッキーの話とは関係ないので今回は割愛しました。気になる方は是非ご自身で体験してみて下さい。
 なお、今回はキャラの背景だけ使わせて頂き、曼珠沙華さ作の光琳さんに演じて頂きました^^


・Shard of Oblivion WIP( Nexus 53608 )
 デイゴンやダークアンカーなど、オブリビオン世界由来のSSはこれを利用しました。
 前にも一度紹介しましたが、WIPとはいえ非常に雰囲気があり、ゲームとして探索していても楽しいmodです。
 入り口がベルセルクを彷彿とさせます^^


・Oblivion Gates( Nexus 22369 )
 スカイリムの各地に、オブリビオンゲートの残骸を配置します。
 TES4の時代に他の地域ではどうなっていたか、に基づいて作られたmodのようです。
 今回は配置場所を馬車の通過点の近くに変更して使わせて頂きました。


・Food And Alcohol Overhaul( Nexus 90256 )
 ゆで卵とカニのクリームスープをはじめとした、いくつかの追加食材とお酒(カクテルなど)を追加するmodです。
 なんと!←失礼w お世話になっているブラッキーくんの生みの親のどくうつぎさんのmodですヾ(๑╹◡╹)ノ"
 今回はシーンチェンジの切っ掛けとなるアクセントとして使わせて頂きました!


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2 Comments

sasa.  

No title

ようやく時間が取れ、じっくり読ませて頂きました。相方らず丁寧でキャラの魅せ方がとても素敵です。

それぞれのフォロワーさん達もしっかり魂が吹き込まれていて、まるで海外ドラマの群集劇を見ているようでドンドン引き込まれてしまいます。

メリスとブラッキーの再会が今から楽しみ!

2018/07/09 (Mon) 10:25 | EDIT | REPLY |   

sasa.  

No title

ようやく時間が取れ、じっくり読ませて頂きました。相方らず丁寧でキャラの魅せ方がとても素敵です。

それぞれのフォロワーさん達もしっかり魂が吹き込まれていて、まるで海外ドラマの群集劇を見ているようでドンドン引き込まれてしまいます。

メリスとブラッキーの再会が今から楽しみ!

2018/07/09 (Mon) 11:37 | EDIT | REPLY |   

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