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4E201

TES大好き、もきゅがスカイリムの物語をお届けします

◆Chapter 2-15: まき散らされる死

2018
27

護送隊の馬車は街道を順調に進んでいた。天候以外は。


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馬車は雪に覆われた街道を踏みしめ、親切にも轍をつけて追跡者たちに目印を残している。30年前、皇帝を保護したノルドのジョナ将軍も、ペイル峠を目指してこの道を進んだのだろうか。・・・いま同じ路を通るのは帝国に反逆の牙をむき、そして捕らえられたウルフリック・ストームクロークとその配下たちであった。


女隊長は馬車の周りに油断なく目を走らせている。
ダークウォーター・クロッシングでの急襲は首尾よくいったものの、捕縛したウルフリックを連れ帰ってこその作戦成功だ。


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女隊長は安全な護送が難しいようなら、自身の裁量で直接シロディールを目指す選択肢も与えられていた。イーストマーチとホワイトランの状況を考えると、ウルフリックをソリチュードに護送するのには相当の危険が伴うのは間違いない。彼女はその内容をファセンディル軍団長に伝え、出発に際して護送隊のこれからの進路についてかなり長いこと話し合ったのだった。


ニューグラド砦で馬を休ませる数日の間、世界のノドの北側一帯はきな臭さを増してきていた。アモル砦を攻めていた帝国軍が逆包囲にあって苦戦を強いられているという情報が飛び込んできたのだ。パルグラン村を奪還するために、ウインドヘルムからはストームクロークの大部隊が派遣されていた。


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ファルクリース領のヘルゲン、ニューグラド砦。そして国境を越えた側にはペイル砦、ブルーマ、エイルズウェル・・・シロディールの赤輪街道に接続する街道は帝国軍の要衝で固められている。指揮官達はあえて危険なホワイトラン周辺を通るのは上策ではない、シロディールを目指すべきだと決断を下した。国境を越えたシロディール側の最初の街、ブルーマには、ソリチュードと同じようにテュリウス将軍のスカイリム派遣軍のうち三割が後詰めとして残されている。まず目指すべきはそこというわけだ。


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ブルーマは200年の間に、オブリビオンの動乱の痕跡も洗い流され、シロディール最北の街として繁栄を取り戻している。マンカー・キャモランやデイドラの軍勢を引き込んで激しい戦いを繰り広げた、この街の尚武の気風は200年経っても衰えることなく、むしろ大戦により更に研ぎ澄まされていた、第4紀の201年現在、ブルーマを治めるデシルス・カーヴァイン伯爵は強大な権力を擁していた。


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その伯爵はテュリウス将軍の北伐に際して、ブルーマ全域を兵站基地とすることに同意していた。帝都とスカイリムという領地の南北がキナ臭くなった昨今、領地の安全を図りたいと言う考えが、後背の安全に頭を悩ませていたテュリウス将軍の利害と一致したためだ。


・・・当初タイタス帝はストームクロークの反乱に対し、三個軍団を投入して短期に制圧する構えであった。しかし帝国に住む殆どの有力者はアルドメリと隣接する南西部の国境に関心を寄せており、スカイリムのような辺境の反乱は過小評価していた。そのため北伐の議論は荒れに荒れ、かろうじて一個軍団の形は確保できたものの、将軍はかなり不足した兵力で事に当たることを余儀なくされたのだった。


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北の地の天候は兵を疲弊させる。スカイリムに進駐した帝国軍は、ブルーマを拠点に兵を順次入れ替えながら戦線を維持してきた。ファルクリースの首長を親帝国のシドゲイルにすげ替え、ようやくソリチュードとの陸路が確実なものになると、両軍はホワイトランを挟んでスカイリムの東西で睨み合う構図に落ち着いた。


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将軍はその小康状態を最大限に生かし、ノルド出身のリッケ軍団長を徴募・訓練専任の指揮官として活動させはじめる。彼女はスカイリム現地での徴兵を進めるが、同族同士の戦いに進んで身を投じるものはそこまで多くない。一軍を満たす人数を生み出すにはまだしばしの時間が必要だ。そんな状況の中、ブルーマの後詰めと輸送路の安全確保は、元老院を当てに出来ない将軍にとってはまさに生命線と言えるものであった。


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ブルーマはシロディールの北限に位置するためノルド系の領民が多い。カーヴァイン伯爵もノルドの血を引いており、サルモールが故郷を跋扈することを快く思っていない一人だった。しかし彼はテュリウス将軍の方を選んだ。気持ち的にはストームクロークに共感していたが、ウルフリックの乱は帝国を弱体化させるだけで、サルモールの利にしかならないと考えたためだ。伯爵はノルドではあったが、帝国の人間であった。


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彼は自らの信念に基づき、テュリウスの軍を引き入れるのと平行して領内の子爵や男爵など有力者との結束を強めている。将軍はその活動に反対しないまでも、一抹の危惧を抱いていた。伯爵の軍備増強は秘密裏と言うより、むしろ見せつけるように進められていたからだ。元々ノルドは陰謀を張り巡らせるような気風ではない。


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ブルーマが北部軍閥を形成しつつあることは公然の事実として中央にも知られていたが、密かにサルモールを仮想敵国と任じていた皇帝は黙認を通している。しかし当然、共同統治者を名乗るサルモールは黙っていなかった。軍管区の設定を上奏した伯爵に対抗して息の掛かった元老議員を糾合し、スカイリム国境閉鎖の法案を通したのであった。


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それでも伯爵はサルモールへの挑発をやめず、最近では隣国ハンマーフェルとも連絡を取り、密かに戦力となりうる者達を集めて支援をはじめているという。戦いで食い扶持を得ていた者たち・・・ストロス・エムカイの二次条約後もハンマーフェルに残留していた元軍人や兵士、騎士たちはブルーマ伯爵の呼びかけに応じ食客となり、いずれ発生することは避けられないと目されている二度目の大戦に向けて、それぞれの剣を磨いていた。


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4紀201年、ストームクロークの反乱でざわめくスカイリムのすぐ外側、シロディールのジェラール山脈は、まるで最後の戦いを待つソブンガルデの勇者の間のような様相を呈していたのだった。




・・・




ジェラール山脈を南に向かって昇ってゆくこの峠道は、常に真っ白な雪に包まれていることからペイルパス(蒼白の路)と呼ばれている。この先にはシロディールへの門があり、シルバーロード(銀の路)と名前を変えて遙か帝都付近、赤輪街道まで繋がっていた。


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三人の追跡者達は、ニューグラド砦を出発して街道を南西に進む馬車から、つかず離れずの距離を取って追っていた。人通りの少ない雪景色の街道のど真ん中を歩いていればいやでも目に付くようなものだが、追跡者達にとって幸いなことに、巻き上がる雪煙のおかげでその姿は覆い隠される。気づく者は誰一人としていない・・・顔を上げるのも大変な天候だが、彼らは雪道に残された轍さえ見失わなければ大丈夫とばかりに道を急いだ。


追跡者の一人、ボズマーの商人は、並んで歩く錬金術師を見上げると大声を出した。隠れなくても追跡出来るのは有り難いのだが、吹き付ける風が強くて、すぐ隣りにいるにもかかわらず声がかき消されてしまうのだ。
  「でもおかしくねぇか? たしかペイルパスは封鎖されているって、メリスちゃん言ってなかったっけ?」


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ニマルテンの廃墟で彼等が出会った偽装帝国軍。アルトマーだけで構成された怪しげな部隊から入手した情報をイェアメリスは仲間と共有していた。レオナールが聞いて血相を変えたペイルパス封鎖の情報だ。


  「同じ帝国軍なら通過できるんだろ?」


テルミンは眼帯の位置を直した。気懸かりがあるときの癖だ。
  「でも・・・ってことは・・・やべぇな。急がねぇとこの前の関所みたいな事になるかもしれないね。また都合良く抜け道が見つかるとは限らねぇし」


「そうさね・・・ペイル峠の手前で救出しないと面倒なことになりそうだ」


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砦を出た直後は気持ちのいい朝晴れだったのだが、街道を少し進んだ山中ですぐに天気は崩れ、吹雪一歩手前になっていた。三人とも口には出さなかったが、暗にまた、妨害があるのではないかと危惧しているのだ。口に出すと現実になってしまいそう・・・そんな思いを抱かせるような空模様だった。


前回の救出には邪魔が入った。アスヴァレンには全く心当たりがなかったが、魔女は目の敵のように襲いかかってきた。そして彼女の使っていたあの薬・・・


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「なぁ、ダンナ達が言ってた灰の化け物ってさ・・・」
アーセランは救出に失敗して戻ってきた二人から、魔女が灰の化け物を生み出したくだりを聞かされていた。普通であれば「そんな馬鹿な」と一笑に付するところだが、彼も既に何度か遭遇している。それにアーセランは、仲間が失敗の言い訳にそんな話を持ち出すことなどしないと言うことを誰よりも分かっていた。


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「ああ、間違いない。ファーランに居たヤツだ」


死者の行進は人為的に引き起こされている。人の死体から生み出すその瞬間を見せつけられたからには否定のしようがない。あの魔女が何者で、何のためにそのような外法を行うのかなど想像も付かない。彼らは身に覚えがなくとも何か厄介なことに巻き込まれているのだけは間違いなさそうだった。


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「メリスは薬を浴びた男が灰の化け物になったと言っていたが、この前のは死者・・・オレたちが倒した帝国兵だった。生者にも死者にも効果を及ぼす薬・・・? 細胞さえ生きていれば、魂の在不在は関係ないと言うことか・・・? それとも、素材に合わせていくつか薬があるのか・・・」アスヴァレンは研究者らしく、持っている情報と目にした事象を照らし合わせている。思考が時々言葉となって漏れていた。


「ダンナ、素材とか言うのやめてくれよ。それ聞くとなんかこう、背筋がムズムズしてくるんだ」


「あ、すまん・・・」
アーセランの非難を聞き流すと、長身のダンマーは現実に引き戻されたように首を振る。彼は再び意識を前方に集中した。


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「そうそう。いまはそれよりメリスを救出することに専念しようぜ」


「お前の言うとおりだな、テルミン」


三人は歩幅を広め、街道脇の木々を影にして馬車を尾行するのだった。




・・・




山を越えようとしているようにみえるが、スカイリムの地理に明るくないイェアメリスは、自分が今どこにいて、どこに向かって運ばれているのかまったく分からなかった。馬車は雪深い道をどんどん進んでいく。護衛している徒の護衛兵も辛そうだ。


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「砦に居っぱなしじゃぁ、退屈だよな・・・祭りも終わっちまうし」


「抜け出してヘルゲンの魔女祭に行った奴もいたらしいぜ」
兵士達は気晴らしに雑談をしている。


「へぇ、そいつはとんだ勇者じゃねぇか、で、どうなった?」


「もちろん、捕まって隊長にこっぴどく叱られたさ。今は懲罰房で泥水すすってるよ」


「そう言えば一人が足りないと思ってたが、そういうことなのか」


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魔女祭が終わったということは、今日は星霜の月の23日、砕けたダイアモンドの日だ。80年ほど前、ポテマと戦った女帝キンタイラ二世が囚われ、獄死したといわれている日。太陽の光を浴びながら、イェアメリスはとりあえずニューグラド砦で獄死しなくて済んだことを、キナレスに感謝した。


「それにしてもよ・・・囚人の方が楽ってどういうことだよ。雪道なうえに上りばっかりじゃねぇか」


「それももう少しの辛抱だ。ペイル峠を抜けちまえばあとは帝都までくだり一直線だ。あと少しで麗しのシロディールに帰れるんだ」


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「まあ、その前に寒ーいペイル砦に寄るんだろ?ブルーマにも。暖けぇハートランドの平野にはいつ帰れるんかねぇ・・・」


ペイル砦は辺境の端、北限なのは確かだがスカイリムではない。かろうじてシロディール側だ。国境の門一つ挟んだスカイリムの反対側の砦だが、兵士達にとっては故郷と同じ側にいるかどうかは重要だった。気持ちへの影響が大きいのだ。護送の兵士達にはペイル峠を越えるその瞬間が待ち遠しかった。


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兵士は馬車に乗るウルフリックに向かって野次を飛ばす。


「ウルフリックさんよ、スカイリムも見納めだ。帝都監獄が待っているぜ」


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「貴様ぁ! 口を慎め!」


レイロフが耐えかねて怒鳴ったが、すぐに懲罰用の棒で叩かれて黙らされた。


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「ドール城の連中はおまえ等を監獄に迎えるのが楽しみだったようだな。だが残念。元老院はより相応しい場所を用意しているってさ。200年前にクヴァッチの英雄が入っていたのと同じ檻房だ。名誉だろ? 当然、壁は補修されているだろうがな・・・」


漏れ聞こえてくる話に、彼女は青くなった。


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(ちょっと・・・ソリチュードまで戻らなくちゃいけないのに、シロディールですって?!)


ちょっかいを出すな、と女隊長に叱責され、兵士達は次の標的を探して今度はイェアメリスの乗る馬車の脇に来た。彼等と目を合わせないようにしていたが、囚人の中に女一人、相手にされないわけがなかった。


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「この女は何したんだ? 馬車に揺られて、いいご身分だな。おい、マルコ、知ってるか?」


兵士が後輩らしき男にたずねている。自分のことを指されていると分かって、彼女は馬車の座席で身を小さくした。


「情婦か何か分かりませんが、ウルフリック一緒にいた女らしいです」


聞くと兵士は手すり越しにイェアメリスを一瞥した。「ふん、反乱がうまく行っていれば、ゆくゆくはお妃様だったってやつか、おい? ・・・まあ、どんなにお高くとまってても、帝都で鎖に繋がれちまえばぴぃぴぃ泣きわめくだろうよ、今のうちに旅気分を味わっておくんだな」


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隊長格の目を盗んで兵士は、彼女の座る座席のすぐ脇に乗り込んで脅かしてみせた。イェアメリスがビクッと身をこわばらせるのを見るとあざ笑う。兵士たちは囚人に手を出すことは固く禁じられている。手を出されることがないのは分かっていたが、それでも恐怖は拭えなかった。


きつい行軍の腹いせのためか態度が棘々しい。卑猥な言葉を投げつけられることも一度や二度ではない。黙っているとこうして脅される。ここに来るまでにも何度も繰り返された光景だった。


手を出せない代わりに想像の中で自分を遠慮なく玩んでいるのだろう。そんな目に晒されるのを防ぐ手立ては彼女にはなかった。


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落ち着かない半日ほどの行軍を経て、護送隊は国境の近くに辿り着いた。ニューグラド砦を出てからここまで、護送隊以外に無人であった街道は一転して、巡回の兵士達で賑わっていた。よく見るとその中にはサルモールも混ざっている。


見慣れた帝国式建築の監視塔がまず目に入り、次いで防塁が街道上に姿を見せる。そのまま街道を進み続けると、その先に城壁が見えてきた。レンガ積みの壁は所々に氷柱が垂れ下がり、辺境駐屯地の過酷さを物語っていた。
スカイリムとシロディールを隔てる国境の関所・・・ここがペイルパスだ。


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イェアメリスは整列させられて向こうに行ってしまった徒兵達を見送ると、しばらく絡まれることはないと安堵した。しかし眼前にそびえる門を見てまた恐ろしくなる。この先はシロディール・・・アスヴァレン達はついてきているのだろうか。離ればなれになるのは嫌だ。
一度越えるともうスカイリムには戻れないような、そんな威圧感を門は放っていた。


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すぐに出発するかと思われたが、イェアメリス達は一旦馬車から降ろされた。何事かと見ていると、兵士が誰かを引き立ててくる。彼女は一瞬、仲間達が捕らえられたのかとびくついたが、引きずられてきたのは見たこともない男たちであった。空きのあった護送馬車に、いきなり囚人が四人も増えることになった。


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「ちがう! 聞いてくれ! 俺は違うんだ!」


二人はこの地で捕らえられたストームクロークの敗残兵。そして一人は馬泥棒だった。国境を越えて逃げようとしたところを、運悪く捕縛された。そして最後の一人は兜越しで顔が良く見えないが、ノルドの戦士に見える。囚人なのに兜を被っているというのは奇妙だ。国境付近でひとり夜営をしているところを発見され、兵士達の質問に対してどうも要領を得ない答えをした結果、不審人物として捕らえられたらしい。その後の尋問でどうやら、曖昧な受け答えは記憶を失っているせいだということが分かっていたが、それでも不審を拭えたわけではない。


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男は脱力しており、兜の紐ももつれてしまって脱ぐことが出来ないようなありさまであった。国境警備の兵たちも、逃亡のおそれがないと言うことで放っていたのだが、正直扱いに困っていた。


馬車が到着したのはちょうどそんなとき。厄介事を押しつけるにはおあつらえ向きだと見なされて、男は囚人の列に加えられたのであった。


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席替えをさせられ、イェアメリスはウルフリックやレイロフと同じ荷台に乗せられることになった。空いた席には馬泥棒が詰め込まれる。もう1台にはガンジャールと兜の男、ストームクロークの敗残兵たちが詰め込まれた。


ようやく馬車が出発できるようになって、また一悶着が発生した。
今度は護送隊を率いる女隊長がペイルパスの守備隊隊長らしき人物と揉めている。


「すみません閣下。ここは開けることが出来ないのです」


女隊長は眉をつり上げた。
「なにを言う。私はテュリウス将軍直々の命令を受けて動いているんだぞ。すぐに開けるんだ」


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「それが出来ないのです」


守備隊隊長は申し訳なさそうに謝った。チラチラと横を見ている。数人のサルモールが屯しており、守備隊隊長と女隊長のやり取りを面白そうに眺めている。


「将軍の命でもか?」


「隊長、君は下がりたまえ」サルモールの高官らしき男が進み出ると、女隊長を見下ろした。「この不躾な女隊長は少し言葉を解する能力が足りないようだから、私が説明しよう」


女隊長が睨むのをものともせず、サルモールは続けた。


「ペイルパスは元老院の決議によって、無期で閉鎖されることになったのだ」


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「なんだと! それは本当か?!」

女隊長はサルモールの言葉に驚き、思わず守備隊の隊長を見た。隊長は頷いた。


「はい・・・命令はその・・・上から出ているのです。元老院の許可が必要です。スカイリム国境の封鎖は、帝都元老院での決定なのです」


「ならばどうしてサルモールがここに居る。こいつは何者だ!」


「やはりノルドは野蛮だ。大昔の蜂蜜酒いっぱいを巡って喧嘩するような、教育のないクズ共だな。・・・いいか、私はブルーマおよびペイルパス周辺において、アルドメリの権益が保たれているか、白金協定の条項が遵守されているかを監視する役目を持っている。つまり・・・元老院の決定がこの峠で履行されていることを確認しているというわけだ」


「くっ・・・」


「というわけで、お引き取り願おう」


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帝国は各領地の自治権を認めている。ペイルパスを挟むのはこの場合、ファルクリース地方とブルーマ地方だ。しかし通商の公平性を重んじる帝国では、交通の要衝にあたる国境は直轄地とされており、近隣諸侯の権力が及ばないのが通例だった。
その点では護送隊は帝国軍直轄のはずなのだが、スカイリムで活動する帝国軍はみな、都合の悪いことにテュリウス将軍麾下のブルーマ軍閥だと見なされていた。


女隊長は横に控える副官のハドバルと顔を見合わせた。


「・・・なので、いくら将軍の命令でも、ここを開けるわけには行かないのです」


「ええい! 石頭め! ならば、伝令を送るぐらいはできよう?」
元老院は、アンヴィル、ブルーマ、シェイディンハル、レヤウィンといったシロディールの大都市に出先機関を持っている。それらは領主の自治する領内に独立して存在し、中央の決定を補って各地域の小問題を片付ける役目を担っていた。最寄りの分院はブルーマに置かれている。女隊長はそこに掛け合おうと考た。


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「それは可能ですが、早く見積もっても三日、いえ四日。往復一週間はかかります」


「ならば今すぐ走れ!」


守備隊の隊長は、雷に打たれたかのように、詰め所に走り戻っていった。
その不格好な後ろ姿を見送って、女隊長は吐き捨てるように言った。


「くそっ、一週間か・・・元老院の奴らが言を左右にはぐらかしたら、埒があかんかもしれんな・・・」


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女隊長は嫌な予感がしていた。・・・元老院はスカイリムの出入りを封じて何をしようとしているのか。
脳裏にチラチラと浮かぶのはサルモールの影だ。この国境の関所にもその姿を見ることが出来る。元老院の中にもサルモールの息の掛かった議員は多い。まさか既に過半数がアリノールの手の者に抑えられているとは思いたくなかったが、このところシロディール本国からの情報が滞っていると言うのも気になる。何か大きな事が始まる前触れかも知れない。


白金協定、マルカルス事件、ストロス・エムカイの二次条約と続いて、ようやく帝国とアルドメリの戦いはおさまった。アルドメリも帝国も大きく兵力を失っていてすぐには動けない。表面上は穏やかだが、次に爆ぜるまでの短い休止期間・・・束の間の平和であるというのが一般的な見方であった。


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国境にまたがるジェラール山脈は、スカイリムとシロディールを近いようで遠い土地として分断している。帝都の中央で行われていることや互いの国の内部で起きていることなど、なかなか耳には入ってこない。伯爵に同調しながらもテュリウス将軍は事の進め方を危惧していたのだが、ソリチュードに入ってしまうと現地の軍務で忙殺され、ジェラール山周辺の状況整理には後手にならざるを得なかった。


当然、護送隊の女隊長も、国境を取り巻く事情など知る由もなかった。


テュリウス将軍は、ノルドの中で信奉者の多いウルフリックをスカイリムに収監しておくのは危険だと判断していた。ストームクロークの中には後継者と目されるような人物は今のところまだ現れていない。ウルフリックを失ったイーストマーチは瓦解せずともしばらく混乱に陥るだろう。帝国軍が火を消して回るのに必要な時間が稼げるはずであった。・・・サルモールが余計なことをしてこなければだが。


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帝国の支配地域を伝って南に移動しシロディールに向かうのは、どこにストームクロークが潜んでいるか分からないスカイリム領内を移動するよりも遥かに安全だ、そして本隊と合流するところまで移動すれば、ウルフリックはもはや再起不能になるであろう・・・彼らは単純にその考えに依って行動していた。


「あの・・・」


「今度はなんだ!」


部下の一人が控えめに声をかけてきたのを一喝する。部下の兵士は震え上がってかしこまった。


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「伝令です。早馬が参りまして、テュリウス将軍からの伝言をと・・・」


「何故それを早く言わん!」


女隊長は兵士の差し出すノートをひったくると、ページをめくるのも煩わしげに繙いた。しばらく文面に目を走らせたまま黙っている。ハドバルは兵士を労って下がらせると、上官にたずねた。


「伺ってよろしければ・・・書簡には何と?」


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女隊長は怒らせていた肩を落とすと、ノートをハドバルに渡した。
「良かった。テュリウス将軍がお越しになる。ヘルゲンで合流せよとの命令だ」


ソリチュードを出てホワイトランの静かなる月の野営地に入り、追跡の指揮を執っていた将軍だったが、ようやく女隊長とハドバルの隊がウルフリックを捕らえたという連絡が届いたようだ。各地に放っていた追跡部隊を引き揚げさせると、合流するためスカイリム南部に向かってくるらしい。
国境封鎖は正直、一隊長格には荷の重い話だ。元老院の議席も持ち、皇帝の名代でムートにも参加資格を持つ、スカイリムにおける軍政府長官を兼任するテュリウスでなければ解決できない問題だ。あとは忠実に任務を果たして将軍にウルフリックを引き渡せば良い。女隊長は憑き物が落ちたかのように元気に号令を発した。


「よし! 我らはこれからヘルゲンに向かう! 将軍と合流するぞ」


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180度転進して動き出した馬車の先で、慌てて森の中に身を潜めた三人の追跡者がいたことに気づいた者はいなかった。




・・・




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・・・




「おい、そのこあんた」


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「えっ・・・」


「おい、そのこあんた。やっと目が覚めたか」


再び声をかけられてイェアメリスは顔を上げた。昨日はいつの間にか寝てしまったらしい。馬車はペイル峠から夜通し進んで、ヘルゲンの手前まで来ていた。既に夜は明けている。


再びうとうとし掛かったが、レイロフの視線を感じて頭を振った。


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「朝だぜ、お嬢さん。・・・これだけ一緒に連れ回されてると、まるで仲間みたいな気分になってくるから不思議だな」


「バカ言わないでちょうだい。あたしはストームクロークなんかじゃないわ」一気に目が覚めて、いつもの憎まれ口がついて出た。それを見てレイロフが笑う。


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「ハハ。まだ元気は失ってないみたいだな。・・・知ってるさ。さっきの峠でも帝国の兵士にお前は無関係だって言ってみたんだが、奴らめ、ストームクロークの言うことは聞かないんだとさ。それに国境封鎖とかなんとかで、かなり混乱してた。もはやこの馬車に乗せられているというのが重要で、敵味方なんて関係ないらしい」


「それじゃあたしたち、シロディールには行かなくて済むのね」


「あたしたち? ようやく仲間になる気になったって訳か?」


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「ふざけないで。あたしなんて加わらなくてもあなたのお仲間、順調に増えてるみたいじゃないの」


イェアメリスは皮肉たっぷりに、ペイル峠で新たに加わったストームクロークの敗残兵たちのことを指さした。そして少し興味を惹かれたようにその馬車を見る。


「でもあの兜の人、あの人は何か違う感じがするわね、異質って言うか・・・」


向こうの馬車には記憶を失ったノルドが一人、混じっていた。


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「国境を越えようとしていたんだろう、違うか? 俺たちやあそこのコソ泥と同じで、あいつも帝国の罠に飛び込んだってわけだ」
レイロフは新たに加わった新顔の馬泥棒ににやりと笑いかけた。馬泥棒はふざけるなという顔をしている。


「ストームクロークめ。お前らがくるまでスカイリムは良い土地だった。帝国はいい感じにくつろげる場所だったんだ。連中がお前らを探してるんじゃなかったら、とっくにあの馬をかっぱらってハンマーフェルへとおさらばしてたさ」
そして斜め向かいに座っているイェアメリスに同意を求める。


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「そこのあんた。こんな所に来たのが間違いだったな。帝国が狙っているのはこいつらストームクロークだ」


まったくだった。イェアメリスは大きく頷いた。
「知ってるわ。あたしは近くに居ただけで巻き添え食って捕まったのよ」


「これで固く結ばれた兄弟姉妹だな。なあ、コソ泥」
呑気に茶化してくるレイロフを見ると彼女は無性に腹が立った。しかし決死隊の筆頭まで務めた男だ。肝の座り方が違う。彼女の睨みなどまったく効果がなく、むしろ笑顔を返されてしまった。
馬泥棒はふん、と鼻を鳴らすと、猿ぐつわをされたウルフリックに顔を向けた。


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「まてよ・・・そこで猿ぐつわを嚙まされているヤツには、見覚えがあるぞ」


「言葉に気をつけろ。お前は上級王ウルフリック・ストームクロークと話をしているのだ」
主人をないがしろにされる事だけは許せない。レイロフの声が低くなり、恫喝が混じった。


「ウルフリック? ウインドヘルムの首長? まさか・・・あの、声の力で上級王トリグを殺した張本人だって? 反乱軍の指導者の?」


「よく知ってるじゃないか」


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馬泥棒の顔がみるみる青ざめる。
「だけどあんたが捕まったら・・・なんてこった! 俺たちはどこへ連れて行かれるんだ?」


「どこに行くつもりなのかは知らんが、少なくともソブンガルデが俺たちを待ってくれている。祖先と宴、蜂蜜酒と共にな」


「嫌だ、こんなの嘘だろう。こんな事あるわけない!」


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「冗談じゃないわ! あたしはブレトンよ! ソブンガルデなんて」
イェアメリスと馬泥棒は異口同音に叫んだ。


「・・・ああ、キナレス様・・・」


「そこ! 黙れ!」
見かねた御者が叱責したが、動転している囚人達にはあまり効果がなかった。


「あんたみたいな女が、どうして無慈悲な帝国軍の奴らに捕まることになったんだ? ストームクロークには見えないが」


「言ったでしょ。この人が捕らえられたとき、たまたま近くに居たのよ。濡れ衣よ」


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無関係で濡れ衣とはいえ、ウルフリックとレイロフ、イェアメリスは既に顔見知りだ。レイロフは同席することになった新参者に質問した。
「で、馬泥棒さんよ、どこの生まれだ? ホワイトランか? リーチか? それともハーフィンガルあたりか?」


「どうしてそんなことを?」


「・・・帝国が勝利してしまえば、今度こそ支配者や首長はことごとく排除される。残るのは奴らが勝手に線引きした行政区と戒厳令だけだ。ノルドは死に際に故郷を想うものだ・・・その故郷の地名が消える瀬戸際だよ、今は」


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「そんな大げさな」


「そう見えるか、馬泥棒さんよ。スカイリムに生きる老若男女、全ての運命がこの反乱に掛かっているんだ」


「かかっていた・・・でしょ? あなたたちもう捕まっているんだから」


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重苦しい沈黙が降り、馬車の車輪の音だけが響く。


ホワイトランやイヴァルステッドと言った、見知った筈の地名が記されている立て札が視界を通り過ぎていったが、彼女の意識には留まらなかった。


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ウルフリックも相変わらず無言だ。この男はここまで何を考えて過ごしてきたのだろう。護送される間、彼女と同じだけの時間があったはずだ。夢はとうに潰えたのだろうか・・・。


そんな思いを馬泥棒の声が破った。


「ロリクステッドだ。故郷は・・・ロリクステッドなんだ」


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地面からは雪が消え、かなり山を下りてきたことが分かる。馬車は進み、ヘルゲンの市門が見えてきた。先導する帝国兵が誰かに挨拶する声が聞こえてきた。


「これはテュリウス将軍! 死刑執行人が待機しています!」


「よし、さっさと終わらせよう」


寒空の中を進む吹きさらしの馬車にもかかわらず、イェアメリスは背筋に冷たい汗が浮き上がるのを感じた。
(死刑執行人って・・・うそ、冗談でしょ!)


「ショール様、マーラ様、ディベラ様、キナレス様、アカトシュ様。とにかく神様、お助けぇ!」
半べそをかきながら叫ぶロキールを見ると、イェアメリスも心細くなってきた。


(ああ・・・アスヴァレン。・・・テルミン、アーセラン。どこに居るの?)


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そんな二人を情けなさそうに一瞥すると、レイロフはイェアメリスに横を見るように促した。
「見ろよ、軍政府長官のテュリウス将軍だ。それにサルモールが一緒のようだ。胸くそ悪いエルフどもめ。・・・賭けてもいいがこの件だって奴らが関わっているに違いない」


ヘルゲンの市門を潜ったところで、軍団長よりも一段上の帝国の立派な鎧に身を包んだ男が馬にまたがっていた。あれがテュリウス将軍かも知れない。そしてその向こうには、見慣れたサルモールのローブを纏った年配の女性が、馬上で対峙していた。トリグ暗殺犯の追跡に加わっていた、エレンウェン第一特使・・・スカイリムにおけるサルモールの最高責任者が将軍を呼び止めているのだ。


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「テュリウス将軍、お止まり下さい。サルモールの権限において、囚人達の引き渡しを要求します」
温和だが、逆らうことを許さないような低い声だ。テュリウスはそれを聞くと、短く刈り込まれた髭をなぞりながら、先行する囚人を乗せた馬車を眺めた。イェアメリスと目が合う。


「悪いが、それは無理だ。そんな事をしたら大問題だ」
将軍はあっさりと、そして硬い意思で要求を突っぱねた。


エレンウェンは形の良い眉をひそめると、穏やかな声で恫喝した。
「良いのですか? 皇帝にも、今回の件は伝えておきますよ。白金協定に従い、わたしはアリノールの全権代理人として行動しているのですから」


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「ならば特使、伝える相手は目の前にいる。私もタイタス帝の全権代理で北部方面軍を率いているんだ。同時に軍政府長官としてソリチュードの上級王府を代行する立場でもある。スカイリムでは私の言葉が皇帝の言葉と心得て頂こう」


「くっ・・・、この件、後悔することになりますよ・・・」


ストームクロークの囚人一味として、もろともエレンウェンに身柄を引き渡されれば、彼女は助かるかも知れない。エレンウェンは立場ある上級司令官だ。第一特使と直接の面識はないが、彼女も同じサルモールの指揮官ということになっているのだから無視はされまい。ニューグラド砦に彼女をからかいに来た変なサルモール女とは訳が違う。




・・・しかし一方で、拒否したテュリウス将軍に共感する自分も存在した。サルモールは内戦の決着なぞ望んではいない。ウルフリックをサルモールに渡したら、必ず内戦は拡大する。より死者が出てノルドの力は削がれる。それだけは間違いない。ジェハンナの通路にいたような難民の死屍累々が増えるのは彼女には耐えられなかった。


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何が正しい姿なのか煩悶する彼女を余所に、馬車は淡々と町の中を進んでゆく。主張し合う両陣営高官の声はすぐに聞こえなくなった。代わりにレイロフがまたしゃべり出した。


「ここがヘルゲンだ。昔、ここの女の子に夢中になってね。・・・そういえばヴィロッドはいまだに、ジュニパーベリーを混ぜて、あの蜂蜜酒を作っているのだろうか?」


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もう観念したとでもいうのであろうか、決死隊まで率いた男が。イェアメリスはレイロフの言うことを無視して、何か助かる術はないかと、せわしなく視線を動かした。


「へっ、幼い頃は帝国軍の防壁や塔が、このうえなく頼もしく思えたもんだがな・・・」


急にガクンと揺れ、馬車は止まった。町の家々と家とヘルゲン砦の城壁に挟まれた、ちょっとした広場であった。


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「何だよ。なんで止まるんだよ?」
泣きそうなロキールの声に、レイロフは達観したように答えた。


「どう思う? 一巻の終わりだ」


「降りろ、囚人達!」女隊長の命令が響き渡る。


「行くぞ。神様を待たせちゃ悪いからな」
囚人達は馬車から下り、中庭に並ぶよう命じられた。


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「違う!待ってくれ! 俺たちは反乱軍じゃない! 言ってやってくれよ! 俺たちは無関係だって! 誤解だ!」
「そうよ、解放して! ストームクロークじゃないわ!」
ロキールとイェアメリスは揃って抗議の声を張り上げた。


「死ぬ前に少しは気骨を見せて見ろよ、コソ泥め」


「黙って馬車から降りろ! 今すぐだ!」
彼女たちは何の説明もされないまま並ばされ、女隊長の次の言葉を待たされた。その隣にはハドバルが、手にノートのような者を持って、しきりと囚人達と見比べている。


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「名前を呼ばれたら処刑台に進みなさい。逃げようなんて馬鹿な真似を起こさないことね」


(処刑台って! ・・・まさか、裁判さえないというの?!)


彼女は後ずさってレイロフにぶつかった。彼は耳元で呟いた。「帝国は忌々しいリストが大好きでな」この期に及んでまた軽口だ。


「ウインドヘルムの首長、ウルフリック・ストームクローク!」


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猿ぐつわをされた巨漢が進み出る。レイロフはその後ろ姿に恭しくお辞儀をした。
「ウルフリック首長に栄光あれ!」


「リバーウッドのレイロフ!」


「ロリクステッドのロキール!」


「お、俺は反乱軍じゃない。やめてくれ!」


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女隊長は無慈悲にその訴えを聞き流した。
「しかし残念ながら今お前はここに居る」


ロキールは叫んだ。
「やめろ! 俺は馬を盗んだだけだ! 反乱軍の一員じゃない! 分かっているのかっ!」


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「止まれ!」
ロキールはそのまま女隊長の横を駆け抜けた。市門に向かって走る。その背中に制止の声が浴びせられるが、馬泥棒は馬顔負けの速さで逃げようとした。


「まさか命までは取らないよな?」


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「射手!」


隊長の命令を受けて、待機していた射手たちが一斉に矢を放つ。門まで半ばの所まで来たロキールは、矢を受けて倒れ込んだ。


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「ひっ・・・!」


縛られたままの手を口に当てることもできず、イェアメリスは小さな悲鳴を上げた。
ほんのついさっきまで同じ馬車に乗っていたロキールは、無残に射殺され、道に転がる死体と化した。




「他に逃げたい者は? ・・・おい、お前」


あまりに鮮烈な光景で、彼女は自分が呼ばれていることになかなか気付かなかった。ハドバルが手招いている。


「そこのお前、前へ出ろ」
ハドバルの目は、イェアメリスの顔とリストの間を何度も往復している。そして首をかしげていった。
「何者なんだ? ダガーフォールから来たのか、ブレトン? 貴族の陰謀がらみで逃げてきたのか?」


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イェアメリスは、最後の希望とばかりにハドバルに訴えかけた。
「違うわ! あたしは東帝都社の錬金術師よ! 覚えてないの?!」


ハドバルは首をかしげていた。
「すまんが思い出せない・・・こんなことになって残念だ」


「残念って・・・! 巻き込まれたのよ。ストームクロークとは関係ないわ!」


彼女のすがるような視線に何か引っかかるものがあったが、見ていられなくなって目を逸らす。ハドバルは女隊長にたずねた。
「隊長、どうします? 彼女と・・・あそこの記憶の無い兜の男、二人はリストにありません」


女隊長の返事は冷たかった。
「リストはもういいわ。彼女を処刑台へ」


ハドバルは付き合いの長い女隊長ならそう言うだろうと思っていた。庇ってやりたい気もしたが、イェアメリスの事を思い出せなかった。
「ご命令通りに、隊長」




「うそっ! イヤよ!」
イェアメリスは必死に首を振る。ハドバルは痛ましげにその姿を見ると、慰めにもならない言葉をかけた。


「この騒ぎに関わってしまったことには同情するよ・・・気の毒に・・・あんたの遺体は確かにハイロックの帝都社へ送り届ける。隊長について行くんだ」


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「やめて・・・! ああっ」


抵抗しそうだと見られたのか、屈強な兵士がつくと、彼女は両わきを固められて広場の中央に引きずって行かれた。首切り斧を持った処刑人、アーケイの司祭、兵士達が周りを固めている。テュリウス将軍との話に決着はついたのだろうか? サルモールの姿も既にない。将軍の大きな声がしんとなったヘルゲンに響き渡る。


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「ウルフリック・ストームクローク。ヘルゲンには、お前を英雄と呼ぶ者もいる。だが、声の力で王を殺め、王座を奪うような者を英雄とは呼べない」


「うう・・・」


中央では、ウルフリックを前に将軍が罪状認否を行っていた。尤も、猿ぐつわをされたウインドヘルムの首長は、是も非もうなり声でしか返せない状態であったが。


「おっと、返事はしなくていい。シャウトはソブンガルデの神々の前で披露すれば良い。ここでは静かに、静かに、だ」


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将軍は猛獣でも手なずけるかのようにウルフリックを制すると、怒りに震える声を努めて冷静に聞こえるよう押さえ込んだ。
「お前がこの戦争を引き起こし、スカイリムを混乱に陥れた。だがここに帝国がお前を倒し、平和を取り戻してやる」


オオオン・・・


風の音だろうか、遠くにうなりの音が聞こえ、将軍の話に注目していた者達が、ひととき気を取られる。
「今のは何だ?」ハドバルは空を見上げた。


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「どうって事はない。続けよう」
将軍がもう言うことはないとばかり踵を返すと、女隊長は控えていた司祭を振り返った。


「彼等に最後の儀式を」


「エセリウスに送らるる汝の魂に、九大神の慈悲あらん事を」


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ナターシャがウルフスカルで死者の少女を送ったのと同じ言葉だわ・・・、イェアメリスは司祭の言葉を他人事のように聞いていた。そしてちらりと断頭台の血に濡れた石が目に入ると、途中から祈りの文句などまったく耳に入ってこなくなった。
「汝らはニルンの地の塩なれば・・・」
司祭の祈りは続く。しかしそれは最後まで行かないうちに、囚人の一人によって遮られた。


「タロスの愛のために、黙ってさっさと終わらせろ!」


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ノルド式でない言葉を遮ると、ストームクロークの一人が傲然と胸を張った。敗残兵の一人だが、最後の瞬間にウルフリックと運命を共に出来る境遇に巡り会い、再び気概を取り戻していた。


「お望みのままに・・・」


「おいおい、昼になっちまうぜ」


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司祭が途中で祈りを止めると、ストームクロークの敗残兵は石の断頭台の前に跪かされた。呆然としていたイェアメリスは、死刑囚達の血が染みこんで黒く変色したその石と、転がった首を受けるための木箱を見て、ソリチュードで見た光景を思い出した。


ウルフリックの逃亡に手を貸し、城門を開いてしまったロッグヴィルの処刑。転がり落ちた首。記憶が鮮明に蘇る。


「我が父祖達が微笑みかけてくれるのが見えるぞ、帝国。貴様らに同じ事が言えるか?」


それが男の残した最後の言葉だった。
ズドッ、と鈍い音がしたとき、彼女は思わず顔を背けた。ソリチュードの時と同じ・・・だが違うのは、次は彼女の番だと言うことだ。


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「帝国の外道どもめ!」
残ったストームクロークが怒りの叫びを上げる。
しかし、それをかき消すようなヘルゲンの住人達からの罵声も同じぐらい大きい。


「裁きだ!」
「ストームクロークに死を!」


レイロフは先に逝った仲間に黙祷を捧げていた。
「恐れを知らず生き、恐れを知らず逝った」


転がった首は木箱に収まり、生気を失った虚ろな目がこちらを見ていた。
「次、そこのブレトン!」


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頭を失った死体はまだビクンビクン動いて、切り口から血を噴出させていた。それを見てイェアメリスは、身体の力が抜けてしまった。
「ひっ、イヤっ! イヤよ! やめて!」


オオン・・・


「またあれだ。何か聞こえませんでしたか?」
一瞬、皆が空を見上げた。少し薄い雲がかかっている。風の流れがいつもよりも速い。


「次の囚人と言ったはずよ!」


「斬首台へと進むんだ。怖がらなくていい。落ち着け。斧は充分鋭い。痛みを感じる間もないはずだ」


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イヤイヤしながら両側から引きずられるように断頭台まで連れてこられると、頭を差し出した格好で下を向かされる。視界には前の囚人の残した鮮血と、斧を持った首切り役人の足だけが写っていた。


(ああ、アスヴァレン・・・)


ヘルゲンは無音に包まれた。


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聞こえるのはわずかな風と、篝火の薪の爆ぜるパチパチという音だけ。
涙にかすむ彼女の視界に、何かが写った。




・・・




その日は朝から少し風が出ていた。


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ジェラール山脈の麓に位置するヘルゲンの町では、魔女祭の片付けもようやく終わり、本格的な冬の到来を待つ時期を迎えていた。飾られていたカボチャは饐える寸前であったが、切り分け煮炊きものとして供され、それを合図に祭りはお開きとなる。町の住人は祭りの余韻を感じながらも、薪の備蓄を確かめ、保存のために芋を干し、炉の煤を掻き出して冬越えの準備に余念がなかった。


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麓のリバーウッドからやってきた農家の商人にせがんで、朝市の残りもの野菜を分けてもらうと、ハミング少年は門の方が騒がしいのに気付いた。


帰って行く商人と入れ違いに馬車が入ってくる。偉い人でも来るんだろうか。北の門にはヘルゲン砦の帝国の兵士が並び、出迎えの準備をしていた。


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気がつくと、二台の馬車は町の中央、広場にやってきた。


少年の家の目と鼻の先だ。


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「ハミング、ああ、いたか。すぐに家の中に入るんだ」


父親のトロルフが心配して出てきていた。馬車の近くに居た息子を見つけると、急いで手招きして引き寄せる。


「どうして? 兵士達を見たいんだけど」


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トロルフは首を振った。大戦の時はいざ知らず、ヘルゲンは今のどかな田舎町だ。こんなたくさんの兵士がやってくるなんてただ事ではない。一年前のストームクロークの略奪が思い浮かばれてならない。関わり合いにならないのがいちばんだった。


「だめだ。家の中だ。急げ」


「うん、パパ・・・あっ、あの女の人、エルフ? すごいや、僕はじめて見たよ」
馬車に乗せられたイェアメリスを見ると、少年は目を輝かせた。ヘルゲンで生まれ育ったハミングは、エルフを見るのは初めてだったのだ。


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「いいから、早く入るんだ」


トロルフは広場に止まった馬車から人が降ろされるのを見た。ストームクローク! ・・・しかしどうやら、帝国軍に捕まって連行されてきたようだ。しかしどうしてこのヘルゲンに?


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下ろされた囚人達の中には戦士ではなさそうなノルドや、息子の目を惹いたエルフ女も混じっている。兜をしたままのおかしな男もいる。息子はああ言って家に戻したが、彼自身なにが起こるのだろうと興味をかき立てられるのは仕方がないことであった。眺めていると、ノルドが一人逃走を図った。馬泥棒らしい。


「やめろ! 俺は馬を盗んだだけだ! 反乱軍の一員じゃない! 分かっているのかっ!」


「射手!」


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隊長の命によって放たれた矢は、正確に馬泥棒の背に突き立ち、その命を奪った。これはいよいよただ事ではない。普通は馬泥棒といったら百叩きがいいところだ。市民としてそれぐらいの知識はある。ストームクロークが連行されてきたことといい、帝国兵の殺気立った様子といい、今日は普通ではなかった。何かが起こる前触れとしか思えない。


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「裁きだ!」


宿屋のヴィロッドが囚人達に野次を飛ばしているのが見える。彼も続こうかと思ったが、不穏な空気が気になり止めておく。・・・ヘルゲンの住民はストームクロークにいい感情を持っていなかった。


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この街はファルクリース地方に属す帝国領である。しかしテュリウス将軍が派遣されてきて首長のデンジェールを排除するまで・・・一年前まではストームクロークが支配していた。首長の交代でこの地の後ろ盾を失ったストームクローク達は徐々に東のリフトやイーストマーチに逃れていくのだが、その途中、この街を放棄するときに大規模な略奪を行っていったのだった。


ストームクロークから見れば、直後に進駐してくる帝国の北伐部隊に対するささやかな妨害工作であったのだが、その代償にと略奪された町の住人達にとっては災難以外の何物でもなかった。


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「ストームクロークに死を!」


女中のイングリッドも唾を飛ばして罵っている。この婦人は略奪の際に夫を失っていた。トロルフ自身も略奪の際に家財を全て奪われ、妻を犯された。イングリッドの心情には痛いほど共感できた。


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馬泥棒が射殺され、ストームクロークの一人が首を落とされる。多少のアクシデントはあったが、処刑は淡々と進んでいった。


トロルフは次に引き出されてきた囚人に目を奪われた。さっきの珍しいエルフの若い女だ。


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どう見てもストームクロークには見えない。それでも何らかの罪を犯したのだろう。そう想像しながら見守る。


女は一足先に処刑された死体がまだ脈打つのを見ると、顔を背けて泣き叫んだ。ハミングに見せなくて正解だった。

トロルフ自身も見ていられないと感じたが、何故か目が離せなかった。


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風が強い。


オオオン・・・!


恐ろしげな音を聞き、ふと空を見上げると、雲が渦を巻いていた。




・・・




ヘルゲンは帝国軍の兵士で溢れかえっていた。
アスヴァレン達は行く先にこの町しかないことが分かった時点で、街道を無視して森を突っ切り、一足早く町に到着した。いつまでも手をこまねいているわけにはいかない。ここまでは追跡だったが、ここからは待ち伏せだ。


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三人は通りがかりの旅人を装い町に紛れ込むと、宿屋と塔に挟まれた人目につかない建物の狭間に潜んだ。

そして馬車の到着を今か今かと待ちわびた。


「あっちこっち引っ張り回されたけど、ここが終着点って事でいいんだよな?」
ボズマーの商人が油断なく辺りを見張りながら、仲間にたずねる。


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「ペイルパスが封鎖されてるってのは本当だったけど。当の帝国軍まで通れないというのはどういうことなんだろうな」


「ウルフリックをスカイリムから出したくない何者がいるんだろう。サルモールぐらいしか思い浮かばんが。どうでもいい」
アスヴァレンは一瞬仲間の方を向いたが、スカイリムの情勢には興味なさそうに、すぐに目線を戻した。


「まぁ、いちばん頭がいいダンナが分からないんじゃ、俺たちにはさっぱりだよ。帝国内部にも事情があるのかもね。それより今はメリスちゃんだ」


「今回も戦いを免れんかも知れん。アーセラン、手はず通りやったら、町を出たすぐのところで待機してくれ、あの、荷物の隠し場所だ」


「あいよ。救出は二人で大丈夫かい? アルフのダンナかあのネコか、レッドガードのおっさん、あと一人ぐらい居たら心強いんだがな」


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「いない者を当てにしても仕方あるまい。このメンバーで救出するんだ」


アーセランは腹をくくると懐から瓶を取り出した。魔女が見張り塔を火の海にしてしまったため、抜け道の休憩所で使い損ねた発火の薬だ。
「町の奴らには悪りぃが、メリスちゃんの命には替えらんねぇ。とりあえず、宿に燃えてもらうかね」


田舎町とはいえヘルゲンは街道の中継点だ。宿には大勢の客が泊まっている。火を放てば混乱が起き、広場にも人がなだれ込むだろう。その隙にイェアメリスをかっ攫うという作戦だった。


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「あいつはいねぇだろうな。また邪魔されたらたまんねぇ」


テルミンはアーセランと反対側を見張っている。この前の襲撃を邪魔してきた魔女が何処かにいないか警戒しているのだ。




彼等は入念に辺りをうかがったが、今のところ魔女らしき人影はどこにも居ない。


「いないことを祈ろう。だが、居たとしても今回は開けた場所だ。不覚は取らん・・・」


錬金術師は静かに佩剣の柄に手をかけた。アーセランが声を上げたのはそのときだった。


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「来たっ!」


「メリスは?」


「ああ、ちゃんと乗ってるぜ!」


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馬車が到着して間もなく、サルモール達は潮が引くように町から姿を消していく。テュリウス将軍はエレンウェンが予想していたのよりも遥かに多い帝国軍を動員していた。第一特使は最悪、強硬手段を考えていたのだが、こうなってはウルフリックの確保は難しくなった。スカイリムの争乱を長引かせる要素としては勿体なかったが、ストームクロークに固執しすぎるのも悪手だ。帝国と決定的に決裂するのは今ここではなかった。
そう考えての撤退・・・サルモールと帝国の水面下での争いは、この場ではテュリウス将軍に軍配が上がっていた。


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将軍は最初、ウルフリックを帝都の監獄に収監し、スカイリムへの影響力を排除しようと考えていた。しかしサルモールの陰謀で元老院は国境を封鎖してしまった。ノルドの目の届くところにウルフリックをちらつかせて内戦を長引かせようとするエレンウェンの魂胆は見え見えだ。
彼にとって重要なのはウルフリックとノルドの関係を断ち切り、ストームクロークの勢いを削ぐこと。将軍は元老院など当てにせず、今この場で目的を達するための最速の一手を打ったのであった。


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将軍が到着してすぐ、帝国兵達は既に処刑の準備を始めた。


次いで馬車が到着すると、帝国軍は手際よく囚人達を点呼していった。途中逃げ出した男が一人射殺されたが、何事もなかったのようにその後も罪状改めは続いていく。


最初から結末は決められているようだ。アーセランは宿に着火するタイミングを見計らいながら吐き捨てた。


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「ひでぇもんだ。あんなの簡易裁判にもなってねぇ。捕まえた山賊か何かの即刻処刑と変わらねぇじゃねぇか」


オオオン・・・


風が嫌な音を立てている。まるで獣の咆哮だ。


Jun Dahmaan・・・


ボズマーの商人は空耳を聞いたような気がして頭を振った。


「我が父祖達が微笑みかけてくれるのが見えるぞ、帝国。貴様らに同じ事が言えるか?」


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祈りを遮ったストームクロークは、自ら進んで頭を差し出すと、ソブンガルデに旅立っていった。


「次、そこのブレトン!」
イェアメリスの番が来てしまった。無理矢理断頭台の方に引きずっていかれる。


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「ひっ、イヤっ! イヤよ! やめて!」


仲間の悲鳴を聞くと、テルミンが勢い良く立ち上がった。


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「もーう我慢なんねぇ! あたいは行くよ!」


彼女は戦槌を構える。


「メリスは恩人なんだ。邪魔するヤツはサルモールだろうが帝国だろうが叩き潰してやる!」


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横を見ると、既にアスヴァレンは弓の照準を首切り役人の頭につけていた。


ダンマーの錬金術師はこんな時にも冷静に見えたが、代わりに、引き絞った弦がギチギチとはち切れんばかりの音を立てていた。


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オオオン・・・


再び咆哮が聞こえた。今までよりも遥かに大きな音だ。反射的に空を見上げたテュリウスが、空に何かを認めて思わず声を上げる。


「一体あれはなんだ?」


「見張り兵! 何が見える?」


「雲の中だ!」


死刑執行人がイェアメリスの首に狙いをつけて、振り上げた斧に陽光が反射する。


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テルミンが広場に駆け込むと同時に、アスヴァレンはつがえた矢を放った!


Alduin Daal・・・


仲間の突入と同時に宿に火を放とうとしたアーセランは、頭にズキンとした痛みを感じ、一瞬躊躇した。その瞬間、落雷にも似た轟音がヘルゲンに降り注いだ。


「あ・・・」


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黒い塊が塔に降ってきた。
大きな振動が町を揺らし、首切り役人はバランスを崩した。アスヴァレンの放った矢は一瞬前までその頭があった空を通り過ぎた。


「クソっ! 外しただと・・・な?!」
弓を下げたアスヴァレンも、塔の上に身を起こしたそれを見て、身体を硬直させた。


ドラゴン・・・


何世紀もの間それを見た者は居ない。口伝や書物の中だけの存在。しかし居合わせた者は誰もがその存在を即座に認識した。古の支配者。空を駆るニルンの王者の姿がそこには在った。


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「ヴォアッ!!」


ドラゴンはその巨大な口を開くと、天に向かって一つ吠えた。すると空は雲に覆われ、雲は渦を巻きはじめる。そしてその中から炎が降り注ぎはじめた。


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竜教団の頂点に立ち、ノルドの遺伝子に原初の恐怖を刻みつけた存在。炎の雨が迫り来る中、祖先の血を引く者は誰も、突如現れた圧倒的覇者の前に動けなくなった。それはテルミンも、半分だけノルドの血を引くアスヴァレンも同じであった。


Hin sil fen nahkip bahlok!


Toor Shul!


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言葉が発せられると、塔の上からドラゴンは飛び立った。そしてその口から炎の濁流を吐くと町の建物に対して浴びせかけた。レンガは赤熱し、木造の家々はすぐに燃え上がった。


「何をぼさっとしているんだ! あいつを殺せ!」


ドラゴンはかつて神であった・・・。その神をあいつ呼ばわりする男がいた。テュリウス将軍だ。
ノルドであれば信じられないような暴言を吐いた将軍に、周りの者は我に返った。インペリアルの将軍には竜の威圧は効果を成さなかったようだ。テュリウスの声によって呪縛から解かれた人々は逃げ惑いはじめた。


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アスヴァレンとテルミンは、イェアメリスに向かって駆け出した。


「メリス!」


「みんな!」


顔を上げたイェアメリスは、テルミンのすぐ後ろで火球が炸裂するのを見た。


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「テルミン!」


次の瞬間、轟音と熱風が襲いかかり、衝撃波を受けて女戦士が吹き飛ぶ。


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立ち上がりかけたイェアメリスの目の前、アスヴァレンが駆けつけるのと同時だった。


「ああ! アスヴァレン! テルミンが!」


「大丈夫だ、当たってない。いいから来い!」


ダンマーの錬金術師は駆け寄りながら手を差し伸べる。


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アスヴァレンはエルフ娘を強引に引き寄せると守るように手を回した。テルミンが飛ばされた先は既に土埃で見えない。


イェアメリスはアスヴァレンに抱えられるように立ち上がった。


「おいお前! いくら神でもそう何度もチャンスはくれないぜ!」


レイロフの声が聞こえる。彼もまだ生きているようだ。取り残された兜の男に向かって叫んでいるのを横目で見ながら、イェアメリスとアスヴァレンは塔に駆け込んだ。



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「矢で狙い撃て! くそっ!」


広場は処刑どころではなくなっていた。ドラゴンに負けじと将軍が吠え、混乱の中、兵士達が弓を構える。アーセランが放火するまでもなく、宿は盛大に燃えており、人々は右往左往していた。


「兵士も市民も、クズ共も砦へ!」
テュリウスは陣頭指揮を執りながら、敵味方区別なく砦に向かうように指示を出していた。


アーセランは尻に火がついたように慌てて町から駆け出し、仲間の安否を確認しようとオロオロしていた。
彼はニマルテンで遭遇した竜司祭が使っていた言葉が頭に蘇るのを感じた。


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Zu'u Alduin, zok sahrot do naan ko lein!
Kel drey ni viik
Zu'u lost daal


(・・・我はアルドゥイン。最強の一族の長。星霜の書によって滅ぼせたと思うのは間違いだ・・・)


「えっ? 俺、なんで分かるんだ?! ・・・それに、アルドゥインだって? まさか・・・あれが?」


Zu'u lost daal


「王の・・・帰還? これのことか!」


定命の者には計り知れないなにかが、このスカイリムで起きようとしていた。




・・・




イェアメリスは手首の縛めを解かれると、かぶれた痕をさすりながら部屋を見回した。ここは塔の一階。避難した者達は壁一枚隔てた向こう側で繰り広げられる阿鼻叫喚の光景を無力に見つめながら、肩を寄せ合っていた。


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「レイロフ! 生きていたか! タロスよ、感謝する!」


悪運の強さも英雄の証なのかも知れない。塔にはウルフリック・ストームクロークも避難していた。兜の男を救ったレイロフも、疲れた顔をしているが眼光はまだ鋭い。


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「ウルフリック首長! あれは一体? 伝説は本当なんでしょうか?」


側壁に開けられた矢狭間から炎に呑まれる広場を伺ったウルフリックは、肩をすくめると首を振った。


「伝説は村々を焼き払ったりはしない」
そして生き残った面々を見渡した。


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「この男は囚人にいたな。・・・して、彼は?」
知らない者が混じっている。ダンマーのようだ。


「この貧弱な塔では持たん。炎を吹き込まれたら即死だ」アスヴァレンは問いには答えず、見回すと言った。ウルフリックもそれ以上問おうとはせず、頷いた。


「ふむ・・・タロスにかけて、悠長に名乗り合っている場合ではないな。レイロフ!」


「はっ」


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「なんとか砦に避難する方法を考えるのだ!」


アスヴァレンは抜け道の休憩所での戦いを思い出して、警告を発した。閉ざされた空間での爆発は恐ろしい威力を発する。ましてやドラゴンの炎だ。人間の建てた哨塔ごとき一発で吹き飛ぶと思われた。


レイロフは頷くと、塔を見回した。2階部分にはぽっかりと穴が空いている。先ほどドラゴンが突き破った穴だ。


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「あの穴から宿屋の二階に飛び移れます」彼等は即座に次の行動に移った。「おい、兜のお前! 先に行けるか? 首長は私に続いて下さい!」レイロフは記憶を失った男をせき立てると、イェアメリス達の方を振り返り、ドラゴンに破壊された壁の穴を指さした。


「女、ダンマー。お前たちもだ! 早く来い!」


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アスヴァレンは屈んでイェアメリスの確認していた。レイロフの提示した脱出経路・・・隣の宿屋の屋根は破け、既に火の手は回っている。宿泊客達がとっくに逃げ出したその火災の建物に飛び移ろうというのだ。屈強な男でさえ躊躇する行為に錬金術師は首を振った。「駄目だ。走るまでは出来るだろうが、この足では飛び移れん」そう言うと、彼女を伴って塔の入り口に近づいた。


「お前、一体何を・・・!」
レイロフが見咎めて声を上げる。


「彼女を連れて地表から砦に行く」


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「そんな、危険すぎる。ドラゴンなんだぞ!」


「分かっている」


「ぬぅ・・・くそっ」
兜の男を追いやると、レイロフは壁に開いた穴から身を翻した。
「タロスの加護を祈る」一言残してウルフリックも続く。


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塔に残されたのは二人だけだった。間一髪のところで処刑を免れた幸運に感謝する暇はない。顔を覗き込むダンマーに彼女は微笑んだ。


「いいか?」


この人と一緒なら大丈夫。
「ええ!」


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確認の言葉に大きく頷くと、二人は塔から飛び出した。




・・・




「タロスにかけて、くそっ、なんてことだ。戦場でもここまでにはならんぞ!」
レイロフはウルフリックの後ろを守りながら砦に向かって街路を進んでいた。


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酷い有り様だ。埃にまみれた街路には、既に横たわっている者も多い。死体の数は更に多い状態だった。
ヘルゲンは、まるでオブリビオンの門が開いたかのように、平穏な日常から地獄へと姿を変えていた。


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そんな中、彼は一人の衛兵が市民を助けようと、ドラゴンの影に怯えながら奮闘している所に通りかかった。
この町の衛兵をしていた帝国兵のようだ。


「傷が深い、ヴィロッド! 出血を止められない!」


宿の住人ヴィロッドが、腹から血を流して倒れていた。
「・・・家族には、勇敢に戦ったと伝えてくれ」


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「そんなこと言うな!」衛兵はちょうど通りかかったストームクロークの戦士・・・レイロフを見つけて呼び止めた。
「あんた、手を貸してくれ! 待ってろヴィロッド。ここから連れ出してやるからな」


無視して通り過ぎようとしていたレイロフの目が驚愕に開かれた。目の前で血を流しているのは、ジュニパーベリーの蜂蜜酒を作ってくれた旧友だったのだ。ストームクロークに参加してからは疎遠になってしまっていたが、かつては仲の良い友だった。彼はその旧友の痛ましい姿を見て立ちすくんだ。必死な帝国の衛兵と目が合う。


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「帝国もストームクロークもないだろう!!」衛兵が叫んだ。
辺りには怒号が飛び交い、砂埃が舞う。レイロフは一瞬、ウルフリックを見失いそうになった。逡巡していると、ヴィロッドは寄り添う兵士に手を添えた。そしてレイロフに向かって首を振る。その姿を見て、レイロフは膝をついた。ヴィロッドの作った血溜まりがあまりに大きいことに、レイロフは恐怖を感じた。


友に寄り添うようにして覗き込んだが、既に呼吸が速い。


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「ヴィロッド、俺は・・・」


瀕死の男は力を振り絞って首を振った。そしてストームクロークに微笑みかけた。


「帝国もストームクロークもない・・・その通りだな。・・・俺はもう遅い。かまうな。だがレイロフ、死ぬ間際に来てくれたのか・・・ありがとう。たまには特製の蜂蜜酒を思い出してくれよな・・・」


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差し伸べた手がだらりと垂れ下がると、ヴィロッドは逝った。衛兵の顔が力なくうなだれ、肩が震える。レイロフは嗚咽混じりに声で一言だけ、別れを告げた。


「ヴィロッド、お前の蜂蜜酒はソヴンガルデでも評判になるさ・・・、オレも遠からず逝く。それまで待っていてくれ」


同じように微動だにしない帝国兵から目を背けると、彼は立ち上がった。

そして迷いを断ち切るように、ウルフリックをおって駆け去ったのだった。




・・・




そこから少し離れた所で、埃の中から立ち上がる影があった。


「グホッ!」


木の柱にしたたかに背を打ち付けて肺の中の空気を一気に吐き出したテルミンは、膝をついて咳き込んでいた。口の中は血の味がしたが、吐き出す息に血臭は混じっていない。肺の腑を痛めたわけではなさそうだ。しばらくすると呼吸が整ってきた。立ち上がって辺りを見回す。隕石の衝撃でかなり吹き飛ばされたようだ。


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居住区と砦の境目辺りに彼女はいた。ここも酷い状態だ。空中を舞い火を降らせるドラゴンに対し、帝国兵は未だ果敢に立ち向かっていたが、それがどれほどの効果を上げているのかは正直分からなかった。


「あったあった。さすがアタイの武器だね」隕石に吹き飛ばされる間も、戦槌は一緒だった。地上に敵が居ないのは分かっていたが、手に何か握っていないと落ち着かないとばかり、彼女はその柄を握りしめた。


「アーセランは外に出たはずだよな、さて・・・メリス達は、っと」


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「テルミン! 無事だったのね!」


探す間もなく、広場の方から見慣れたシルエットが駆けてきた。イェアメリスとアスヴァレンだ。


「おお! 無事だったんだな」


「あなたこそ! ・・・ああ、キナレスよ、感謝します。吹き飛ばされたときは生きた心地しなかったわ」


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「はは、あたいは頑丈だからな」


口の端から血を拭うと、ノルドの女戦士はにやりと笑った。とにかく今は砦に向かわなければ。アスヴァレンとイェアメリスを先に行かせると、彼女は殿についた。振り向くと広場の隅ではテュリウス将軍がまだ指揮を執っている。住民の避難がまだ終わっていないのだ。


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「すげぇな、ああいうのを軍人の鑑、って言うんかねぇ・・・ガルマルのおっちゃんと話が合いそうだ」


感心しながらその様子を見たテルミンは、こちらに避難してくる帝国兵と子供の姿を捕らえた。炎の雨はまだ降り注いでいる。


「あぶねぇ!」


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彼女は物見の塔に直撃して崩れた瓦礫が、子供の頭上に飛んでくるのを見て叫んだ。




・・・




ハドバルはテュリウス将軍に従って住民の避難を指揮していた。


早々に焼け落ちた宿屋は仕方ないとして、まだ広場にはわずかだが人が残っている。処刑間際で逃げ出したウルフリック達のことが気になったが、それどころではない騒ぎになってしまった。


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お陰・・・といって良いのか分からないが、幼なじみだったレイロフの処刑を見なくて済んだ。あのまま無事に処刑が行われていたら、レイロフは死んでいた。そうなればリバーウッドに戻ったときに妻のアグリにどう報告していいか悩むことになっていただろう。彼と妻、レイロフの三人は同郷の幼なじみだ。この凄惨な光景と引き換えに、問題を先送りに出来た偶然に彼は後ろめたい安堵を感じながら黙々と救助に精を出した。


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「バカ! どうして出てきたんだ!」


男の怒鳴り声でハドバルは我に返った。
顔を向けるとトロルフが怒鳴っている。争いを避けて息子のハミングを家に籠もらせていたのだ。彼はヘルゲンの予備役の衛兵で、ハドバルがヘルゲンに駐留していたとき良く酒を酌み交わした仲間だった。その予備役も剣を持って表に出てきている。ドラゴンには敵うまいが、ノルドの男として、家族を守らねばならない立場なのだ。

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「隠れていろと言ったろう!」
しかし、ハミングは出てきてしまった。少年は、真っ赤にした目で父親に抱きついた。


「だって、かあさん・・・かあさんが!」


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ハドバルが見上げると、少年の叫ぶ後ろでは屋根に大きな穴が空き、家からは炎が吹き出していた。ハミングの母は家の地下に避難していたのだが、竜の呼んだ炎の礫に押しつぶされてしまったのだった。


「そんなっ・・・!」


トロルフは息子の腕を掴むと、炎の降り注ぐ広場に走り出た。「来い! 父さんと一緒に砦に避難するんだ!」


ハドバルは広場から出ようとこちらに走ってくる父子の姿を見て、呆然とした。逃げる親子の後ろから、低空を滑るようにドラゴンが迫って来ている。


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「トロルフ! 後ろ!!」


叫んだが手遅れだった。ハドバルは親子ともども突風に煽られたかのように吹き飛ばされ、街路に叩きつけられた。
打撲はしただろうが幸い無事だ。ハドバルはすぐに起き上がると親子の姿を探した。


「起きて、パパ!起きてったら!」


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砂煙の向こうでハミングの声がする。視界が回復すると、地面にトロルフが倒れていた。彼はドラゴンの爪に引っかけられていた。一目で見て分かる致命傷だ。


ハドバルは親子のすぐ側に居た味方に声をかけると助けを請うた。


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「ハミング! こっちに来い! グンナール、手伝ってくれ!」


トロルフは手を差し伸べる旧友を認めると、息子の背中を押した。


「もう駄目だ。行け、逃げろ!」


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「イヤだよ、パパ!」
ハミングは足がすくんでしまっていた。


「何をやってるんだ! 道から離れろ!」
グンナールが物陰から手を差し伸べる。
「道から離れるんだ、いい子だから!」


ガクガク震える息子の足に手を添えると、父親はやさしく撫でた。
「行け!」


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少年は力を貰ったかのように、グンナールに向かって駆け出した。


「坊主、こっちだ! 早く来い!」


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グンナールが段差を飛び越えた少年を抱きかかえると下におろす。


「ハハッ、こいつめ、たいしたもんだ!」


ハドバルは子供を保護したグンナールの元に駆け寄ると、道の反対側で倒れてうずくまるトロルフに目配せをした。


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息子が無事なことを見ると、トロルフは満足そうに笑った。振動と共にその背後にドラゴンが降り立つ。


「よくやったぞハミング。お前は俺の誇りだ・・・」


「パパ! いやだよ!!」


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Toor Shul!


炎の濁流がトロルフを呑み込んだ。


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「トロルフ!何て事だ・・・くそっ!」


ドラゴンが再び飛び立った隙を突いて、ハドバルは立ち上がった。


「ハドバル、逃げないと!」


「グンナール、そのボウズの事を頼む。俺はテュリウス将軍を見つけて守備に加わる。将軍はまだ戦っているんだ!」


グンナールは頷くと、少年の手を引いた。
「神々のお導きを祈る。ハドバル」


ハドバルが広場に駆け戻っていった直後であった。


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「あぶねぇ!」


グンナールは女の声がするのを聞いたが、何が起こったのかを知ることはなかった。物見の塔から崩れた瓦礫が彼の頭を直撃したのだ。少年は再び庇護を失うことになった。


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「ああっ、もう! くそっ!」


忌々しげな女の声を少年は聞いた。


「またはぐれちまう。・・・ま、砦に行きゃいいか!」


テルミンだった。イェアメリス達と折角合流したのも束の間、彼女はあまりのショックに倒れたまま立ち上がることも出来なくなった少年を見て、駆け戻った。


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「まだ生きてるか、ボウズ? 生きていたけりゃアタイから離れるんじゃねぇぞ」


少年を無理矢理立たせると、ノルドの女戦士は全力で砦に向かうのだった。




・・・




「イスミールにかけて! 歯が立たない!」
「どうすればこいつを倒せる?」
帝国兵達は劣勢の中、徐々に数を減らしていった。


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Pahlok Joorre! Hin kah fen kos bonaar


「ああっ! 酷い・・・」


黒き竜は目につくものをあらかた破壊し尽くして、まだ動いている眼下の米粒のような人間達を襲っていた。その様はまるで餌箱に入れられた餌をついばむ猛禽のようであった。家族連れだろうか、5,6人の一団が街路を通り過ぎるとき、まとめてブレスで焼き払われたのを見て、イェアメリスは目を覆った。


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生き残った者達は皆必死に砦を目指していた。それを分かっているかのように、竜は砦前の中庭に何度も着陸を繰り返す。


イェアメリスとアスヴァレンも砦まであと少しというところで、進路を塞がれてしまった。


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Hin sil fen nahkip bahlok!


「う・・・そ・・・」


目の前に神の姿があった。・・・死を振りまく神。太古の竜・・・


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「くそっ! ここまで来て!」


アスヴァレンはアトモーラの楔を握り直すと、助け出した娘に言った。


「いいか、俺が引きつける。その間に砦に駆け込め!」


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「でもっ!」


「行くぞ!」


イェアメリスの返事を待つこともせず、錬金術師は竜の右側に回り込んで岩に飛び乗った。本当なら身を低くして、爪でなぎ払える範囲から死角に入るべきなのだが、そうしてしまうと彼は竜の視界から消えてしまう。それでは狙いがイェアメリスに行ってしまうと考えて、敢えて目立つ行動を取ったのだった。


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ドラゴンが挑発と認めたのか、首をもたげる。明らかにアスヴァレンに狙いを定めている。

それを見て錬金術師はは怒鳴った。


「行け! 今だ!」


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アスヴァレンが転がり落ちるようにして地面に逃れた空間を、間髪おかずにドラゴンの爪が凪ぐ。


彼女は弾かれたように走り出した。砦の扉に辿り着き、渾身の力を込めて押し開く。駆け込んで振り返ると、アスヴァレンもこちらに向かってくるところだった。


「アスヴァレン、急いで!」


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扉に向かう錬金術師のすぐ後ろに、ドラゴンは着地した。この取るに足らない定命の者を飲み込もうと、鋭い牙の並んだ口蓋を開く。


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間に合わないと悟ったアスヴァレンは、戸口を背にして振り向き、竜に対峙すると剣を構えた。


ガキィィン!!
「ああっ!」


イェアメリスが悲鳴を上げたのと、ドラゴンが噛みついたのは同時だった。
鋭い金属音が破裂すると、扉枠に衝撃が走り、アスヴァレンが砦の中に吹き飛ばされてきた。イェアメリスは支えきれず、もんどり打って転倒した。


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砦の天井からパラパラと石くずがこぼれ落ちてくる。


「アスヴァレン! だいじょうぶなの?!」
起き上がった彼女は、錬金術師に駆け寄った。アスヴァレンは身体を起こすと、頭を振って埃を落とした。


「ああ、生きてる。だが片腕を失った・・・」


「何ですって、大変!」


錬金術師は中程でポッキリ折れた剣を見せた。「これだ。俺の片腕。アトモーラの楔が折れてしまった」


「片腕って・・・剣だったのね。良かった・・・」
本当の腕ではないと分かって胸を撫で下ろす。


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「あまり良くはないがな・・・腕なら元に戻るが、折れた剣は戻らぬ」


「あっきれた・・・そういう問題じゃないでしょ」
どこかズレた答えに半泣きになりながら、彼女は折れた剣を見つめた。「・・・あたしのために、ごめんなさい」


ドラゴンの噛みつきを躱せないと分かり、彼は剣をつっかえ棒にしたのだった。アトモーラの楔はその顎の力に耐えられず、折れてしまったのだ。


砦がミシミシと音を立てている。餌を取り逃がしたドラゴンが怒りの体当たりを繰り返しているのだ。
「ここは危ないな。ブレスを吹き込まれたら即死だ。もう少し奥に避難した方がいい」


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「テルミンは大丈夫かしら・・・、それにアーセランも」


「それはまず自分たちが生き残ってからだ。あいつらのことだ、きっと無事だろう。さぁ、行くぞ!」


二人が居るのは砦の通路だった。奥の部屋に繋がる入り口の一つ。ここはまだ外壁に近く、隕石を降らされたら無事ではない場所だ。建物の中央付近の、幾重にも壁に覆われた場所を探さねばならない。幸い格子扉は上げられている。彼女たちよりも先に避難した人たちが開けたのだろう。イェアメリスとアスヴァレンは用心深く進んでいった。


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「だれだ?」


不意に声をかけられて、二人は身構えた。そして声の主の顔を見て、少しだけ緊張を解いた。先ほどの塔で一緒だったレイロフたちであった。レイロフの方も同じように警戒していたが、イェアメリスの顔を見ると剣をおろした。手招きする彼等に従い、二人は円形の小ホールに招き入れられた。三つの通路が交錯する、ちょっとした踊り場のようだ。


「ハッ、悪運の強いヤツらだ。お前たちも無事だったんだな!」
そこには三人の男たちがいた。レイロフとウルフリック・ストームクローク、そして兜の男であった。


ウルフリックはイェアメリスを見ると、表情を崩した。
「お前もどうにか助かったのか。神々の加護があったようだな。ともあれ、何よりだ」


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「避難できたのは、あなたたちだけなの?」


「少なくとも、この経路では我々だけのようだ。だが砦には他にも入り口があったから、別の逃げ道を見つけた者たちもいる。市民に兵士、いろいろな者達が逃げ込んでいるはずだ」


「現に俺たちは先ほど襲われたばかりだ」
ほら、と言ってレイロフは顎をしゃくった。言われるままに見渡すと、ホールの隅に何体かの死体が転がっている。


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「ガンジャール・・・さん?」


「ああ、帝国兵とはち合わせてな。争う場合ではないと言ったんだが、帝国軍を説得しようとすればどうなるか、改めてよく分かったよ」


床には一時期同じ馬車で運ばれていたストームクロークの囚人、ガンジャールが横たわっていた。そしてその横には帝国の兵士が二人・・・彼女はその中の一人に見覚えがあった。立派な鎧を身につけた女性。護送隊の女隊長であった。


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誤認逮捕した挙げ句に彼女を散々連れまわした女。生きていれば文句の一つも言わねば気が済まないところであったが、物言わぬ屍となってしまっては最早それも叶わない。


女隊長の威勢のいい姿を何度も見かけていただけに、こんなにあっけなく人の命が失われることに・・・その死体を見下ろすイェアメリスは複雑な気持ちになった。


思い出したようにウルフリックは兜の男を見た。


「おい兜のお前・・・武器を見つけておくんだ。必要になるだろうからな。ガンジャールの装備を取るといい。友の斧を借りるのは恥ではない」


レイロフはガンジャールに向かってショールの印を切った。
「ソブンガルデでまた会おう、兄弟よ」そしてイェアメリスにも声をかける。「女、お前も必要なものがあったら取っておけ」


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「あたしはいいわ」
アーセランやテルミンが何度もそうしているのを見てきたが、恥かどうかなどではなく、彼女は死体から何かを剥ぐという行為自体が好きになれなかった。現実的な考えでないのは充分分かっている。しかし気持ちの問題なので仕方ない。横を見ると連れが折れてしまったアトモーラの楔の代わりに、おなじく横たわる帝国の女隊長の剣を取るところだった。


囚人ではなくなったという開放感を噛みしめながら、話題を変えるようにイェアメリスはたずねた。


「あれって、ドラゴン・・・だったの?」


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レイロフが頷いた。タムリエルの中でドラゴンの伝承がいちばん残っているのがスカイリムだ。竜教団、そしてイスグラモルの時代には当然のように空に舞っていたという。


「あれは間違いなくドラゴンだった。子供向けの物語や伝説に出てくる奴だよ。終末の導き手だ。何でこんな時に・・・」


「あなたたちが内戦をやめないから・・・荒廃しきった世界に当てられて出てきたんじゃない?」


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「そういう議論はやめておけ」
レイロフの眉がつり上がりかけたが、ウルフリックは二人を制した。


「あのドラゴンがどこから来たのかは見当がつかぬ。しかし、奴が来なかったら、今頃我々はもう少し背が低くなって、こうして無駄口を叩くこともできなくなっていただろう。今は言い争いではなく、次にどうするかに意識を集中しろ」


「ハッ、首長。申し訳ありません」


「あの扉が開けられるか見てくれ」


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レイロフはすぐに扉に取りかかったが、すぐに首を振った。
「ダメです、首長、鍵がかけられています。奥に避難した帝国の連中が閉ざしていったんだと・・・」


「もう一つの扉は?」
ウルフリックは彼女たちが入って来たのと同じような格子扉を指さした。こちらは開いている。砦の待機所のようだった。当直の衛兵達が寝泊まりし、任務に就くための詰め所だ。


彼女たちはその詰め所に移動すると、部屋の奥で身体を休めることにした。しばらくはドラゴンの咆哮と人の悲鳴がしていたが、耐え忍んで待つとやがてそれも聞こえなくなり、辺りを静寂が包みこんだ。


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「音がしないわ。ドラゴンはどうなったの? 町は?」


「去ったのかもしれん。確認してみるか?」


レイロフは詰め所の反対側にある外に出る扉を押した。


「ダメだ、動かない。反対側に瓦礫でもあるのかも知れん。おい、あんたたちも、手伝ってくれ!」


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体格のいいアスヴァレンと兜の男を呼ぶと、三人は筋肉を盛り上げて扉を押した。ギシギシ音はするが、扉は少し動いただけだった。
「くそっ、この出口はダメか」
男たちが諦めかけたとき、人の声が聞こえた。


「おーい! そっち側に誰か居るのか?」
聞き覚えのある声だ。イェアメリスの顔がぱっと明るくなる。


「テルミン! テルミンなの?」


「おっ、その声はメリスだな。無事に逃げられたんだな。アスヴァレンの兄さんは?」


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「居るわ! この扉開かないのよ、そっちどうなってるの?」


「ああ、瓦礫が被さってるぜ。ちょっと待ってな。反対側、下がっとけよ」
そう言うと鈍い打撃音がリズミカルに響き渡った。金属音が響き渡り、岩くずが飛び散る。しばらく眺めていると、扉を塞いでいた瓦礫は砕け散った。


「ふぅ・・・空飛んでる相手じゃ振るいようがなかったからな」
思う存分戦槌を振り回したテルミンは肩をすくめた。「邪魔するヤツは叩き潰す、って飛び込んだけど・・・ドラゴンって叩き潰せるのかな?」


「飛び上がったって届きっこないわ」


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「はは、違いねぇ」いつもの調子だ。破壊された扉から入って来たのは眼帯をした女戦士だった。
久しぶりの仲間との再会に、イェアメリスは心からの笑顔を浮かべた。


「ああ、テルミン!」


女戦士は後ろに手を差し伸べると、少年を中に引っ張り込んだ。


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「この子は?」


「途中で拾ってきた。ハミングっていうんだ。親に死なれてな」


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「そう・・・」イェアメリスは疲れた顔をした少年が瓦礫を越えるのを助けると、中に入れてやった。続いて入って来たのは帝国軍の兵士だった。


少し足を引きずっている。

イェアメリスはその顔に見覚えがあった。


「・・・ハドバル、さん?」


「君は・・・たしか囚人の中にいた・・・?」


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「歯痛の薬は効いたかしら?」
その台詞にハドバルはハッとしたような顔になった。


「思い出した! 野営地で薬をくれた錬金術師じゃないか!」


「そうよ、出来れば処刑が始まる前に思い出して欲しかったのだけどね・・・」彼女はチクリと言った。


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「・・・まあ、こうして生きてるからいいけど・・・」


「すまない・・・」
続く男が入って来て、イェアメリスの顔は一段と明るくなった。


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「アーセラン!」


「良かった! メリスちゃん無事だったんだな」


「ええ、アーセランも良く無事で」


アーセランは少し後ろめたそうな顔をした。
「ま、まあ、俺っちは町の外に避難してたからな」そしてごまかすように言う。「あ! メリスちゃんの荷物もちゃんと避難させてるからな、安心してくれ。あとで取ってくる!」


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「ありがとう! アーセラン、大好きよ!」


新たな生き残りを加えて、詰め所は賑やかになった。しかし久しぶりに揃った仲間に浮かれていたイェアメリスは、ふと睨み合っている男たちが居るのに気がついた。


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ハドバルとレイロフが言い合いをし始めたのだ。


「レイロフ! この裏切り者め。リバーウッドから居なくなったと思ったら、同胞を殺して回っているとは!」


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「裏切り者は貴様だ! エルフや帝国が何をしてくれた。俺たちの国を破壊するだけじゃないか!」


「お前たち全員、あのドラゴンにソブンガルデに連れて行かれちまえば良かったんだ!」


「なんだと!」


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二人は剣を抜き放って対峙した。一触即発の剣呑な空気が流れる。束の間の喜びに浸っていた彼女は、すぐに深刻な顔つきに戻ると拳を握りしめて二人の間に割って入った。


「やめて! 同郷の幼なじみがどうして戦わなきゃならないの?!」


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「なにが内戦よ!! そこまで・・・あなたたちそこまで殺し合いがしたいの?!」


彼女は怒りに震えながら、思わず手のひらにマジカの火種を溜めていた。


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アスヴァレンが目を見開く。アーセランもそれを見て真っ青な顔になった。


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「メリスちゃん! ダメだそれは!」
とっさに伸ばしたボズマーの手が、イェアメリスの掌を押さえつける。ジュッという音が響いた。


「うあちっ!」
熾をもみ消すように火種に手を被せた彼は、やけどを負い手を離した。


「あっ・・・!」我に返ったイェアメリスは慌てて火種を消し去った。


今にも斬り合おうとしていたレイロフとハドバルは、なにが起こっているかの分からないといった様子で割って入ってきた者たちを見た。


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「ふぅ・・・あぶねぇ。お前ら、よくわかってないだろうが、命拾いしたんだからな」アーセランは精一杯胸を張って威圧した。「ドラゴンに焼かれなくても、この女っこの魔法が暴発したら、砦なんて木っ端微塵になってた所だったんだ」


見物していたウルフリックが進み出ると、レイロフの肩に手をかけ、剣を収めさせた。ハドバルの方も渋々といった感じで剣をしまう。


「ほう、そんな威力の魔法を扱えるのなら、是非わが軍に迎えたいものだな」
ウルフリックは面白そうに笑った。


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「あ、ウルフリックさんよ、信じてねぇだろ。このすべっすべエルフはな、ドラウグル11体を一瞬で消し炭に・・・」


「やめて、アーセラン!」


イェアメリスはボズマーを黙らせると、これ以上目立ちたくないとばかり、テルミンの影に引っ込んだ。皆はその後を目で追ったが、テルミンが守るようにその視線を遮った。そして代わりに、一同の注目は眼帯をしたノルドの女戦士に移った。イェアメリスと首長に毒気を抜かれたレイロフが、彼女を認めて声をかける。


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「お前、テルミンだな?」


「なに、兄さん、アタイを知ってるの?」


「ああ、ストームクロークのなかでも素行不良で有名らしいじゃないか。ガルマル殿から聞いている」レイロフは戦士としての値踏みするようにテルミンを見ると、続けた。「俺はこれから首長を守ってウインドヘルムに戻らねばならん。戦士は一人でも多い方がいい。お前は優秀そうだ。一緒についてきてくれ」


「いや、ムリだよ」
まさか断られるとは思っていなかったレイロフは、目を見開いた。


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「何だと、どういうことだ? 貴様ストームクロークだろう」気色張ってみせたが、テルミンはまったく気にした様子もない。そして彼女は足元に立っていた少年をウルフリック達の前に立たせた。


少年は気丈に振る舞っている。しかしそれは偉い人の前に来たからではなく、何かに耐えているためのようにイェアメリスには見えた。


「こいつ、さっきのドラゴンのせいで両親をいっぺんに亡くしちまったんだ」
テルミンは短く言った。


「・・・」


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「でもまだ孤児って訳じゃねぇ。身寄りがリフトに住んでるらしいんだ。誰かが連れて行ってやらねぇと。聞くが、レイロフ、あんたにそれが頼めるか?」


「バカ言うな、俺は首長をお護りして・・・」


「だろ。あんたにゃ頼まねぇよ。だからアタイが連れてくんだ」


今度はイェアメリスがびっくりして女戦士を見た。
「えっ? テルミン・・・」


テルミンは眼帯の位置を直すと、再会したばかりの仲間に笑いかけた。
「スカイリムにゃ最近人攫いが横行してるらしいからな」


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彼女はアスヴァレンとアーセランに目配せした。この前は友好的な遭遇だったが、ブラックブラッドの人攫いは危険な奴らだ。彼女が同行すれば男たちに出会っても、符丁となる合い言葉とグーンラウグの名前でやり過ごせる。よしんば戦いになったとしても、彼女の腕ならそうそう遅れは取るまい。魔女は・・・彼女には興味がなさそうだったから、なんとかなるだろう。


「こんなガキが一人でうろついてたら格好の餌食だ。こいつの祖父はフローキって言うらしいんだけどよ、イヴァルステッドの南の山麓に住んでるって言うから、アタイも知らない場所じゃない。送っていくよ。・・・だからメリス、ここでお別れだ」


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「そう・・・」


せっかく再会したばかりなのだが、新たな孤児をこの無慈悲な世界に放り出す選択は、彼女には出来なかった。


「そんな寂しそうな顔するなって。お前に命を救って貰った恩はまだ返せてないから、助けが必要なときはまた一緒に行くよ。青い眼帯の女戦士、って言えば知ってる奴のところでは大体通じると思うから・・・あ、そうそう。どうしても見つからなかったら、サンガードの城壁で昼寝して待っててくれ」


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「あは、それはあなたでしょ」
イェアメリスは頷くと少年の頭に手を置いた。
「おねえさんに守ってもらいなさいね。ちゃんとおじいさんに会えますように、旅の加護をキナレスに祈っておくわ」


少年は泣き出しそうになった。
「泣かないの」


行き先の決まったらしいかつての配下を見て、ウルフリックが尋ねた。
「少年の行き先も良いが、ドラゴンはどうなった? どこに行ったのだ?」


答えたのはアーセランだった。
「分からねえが、行っちまったみたいだ。俺っちが見たときには北に飛んでったよ」


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ハドバルが叫んだ。
「北だって?! ホワイトランやリバーウッドの方じゃないか!」


ウルフリックはその地名には反応を示さず、部下の方を向いた。
「そうか・・・ドラゴン・・・。味方でも敵でもないというのは厄介だな・・・我らもそろそろ行くか」


硬直しているハドバルの顔をアーセランが覗き込む。
「いいのかい、追わなくて。ウルフリックを討ち取れるチャンスかも知れないぜ?」


「貴様、どっちの味方だ!」
レイロフがムッとして怒鳴った。


「血の気が多いと損するよ、レイロフの兄さん。ウルフリックのだんなも言ってたろ。ここに居る俺たちも同じ、味方でも敵でもないさ」


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「くっ・・・」
ウルフリックの側近が気色ばむのを軽くあしらうボズマーを余所に、ハドバルはびっこを引いた自分の足を見下ろしていた。先ほど対峙したときには頭に血が上っていて気がつかなかったが、この怪我ではまともにステップを踏むことも出来なさそうだ。彼は半分自分に言い聞かせるように言葉を絞り出した。


「今は・・・今は生き残った人々を助けるのが先決だ。ショールの髭にかけて、リバーウッドとホワイトランに知らせないと! 内戦は・・・将軍や軍団長たちに考えてもらうさ」


今この場に帝国兵は彼しかいない。しかも片足を負傷している。ウルフリックやレイロフ相手に叶う状態ではないのは誰の目にも明らかだった。諦観のにじむ口調で言ったが、心の底では敵の大将を目の前にして手が出せない自分の不甲斐なさを呪っていた。根は優しいが、それでも彼はノルドなのだ。


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「ふむ・・・仕切り直しか。では我らは、こちらからは出ない方が良さそうだな」
そう言ってウルフリックは、砦の奥に目を向けた。「この規模の砦だ。裏口や隠し通路の一つ二つはあるだろう」


ハドバルはウルフリックに言い放った。
「だが俺は帝国の兵士だ。ここを出たら真っ先に将軍に、お前たちが砦に潜ったことを報告するからな」


「構わん。兵が押し寄せてこようが、それはそれでタロスのみぞ知るだ。帝国の兵士よ、お前はお前の最善を尽くせばいい」
ウルフリックは彼等に背を向けた。「ゆくぞ、レイロフ!」


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「最後に、一つ、一つ聞かせてくれ! あのドラゴンはお前たちに関係するものなのか?!」
ドラゴンは処刑の場に現れた。都合の良すぎるタイミングで。居合わせた者は皆、ウルフリックに注目した。


ウルフリックは振り返らずに否定した。
「タロスに誓ってそれはない。あのような獣を操れたらさぞ有用だろうがな。残念ながら無関係だ」


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そう言うと、ウルフリック・ストームクロークはレイロフと共にヘルゲン砦の奥へと消えていった。ハドバルはそれを見送って、しばらく立ち尽くしていた。リバーウッドの幼なじみ二人は、またここで道を違えることになるのだった。


「ウルフリック・ストームクロークか・・・。奴の爪と牙はまた、遠からず帝国に向けられるのだろうな」
アスヴァレンは二人が消えた砦の奥に目をやり、ぽつりと言った。


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「また大戦みたいなことが起きるということ?」


「さあ、俺には分からん」


残された者達はしばしの休憩のあと、出発することになった。
ヘルゲンはまだ所々が燃えており、外には殆ど人の姿が見られなかった。将軍はどうなったのだろう? それに応戦していた兵士達は? まさか全員死んだとは思えない。ハドバル達は乱戦の最中にはぐれてしまったので状況を知らなかった。


町の門にはわずかな兵士が町の監視のために残っており、ハドバルはその兵士からテュリウス将軍が生き残りをとりまとめて、一旦町から撤退する決定を下した事を知った。将軍は最寄りのニューグラド砦のファセンディル軍団長を頼り、砦に避難したヘルゲンの生き残りを救出、援助させるつもりのようだ。


ハドバルは暫し悩んだあと、イェアメリス達と同行することにした。


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「どんな土地にだって暗い側面はある。でも、だからこそ俺達がここにいる。秩序と近代化をもたらそうとするために、そして市民の安全を守るためにね」
ファセンディル軍団長の言っていた言葉を思い出したのだ。


ドラゴンは北に飛び去ったという。その方角には彼の故郷であるリバーウッドや、ホワイトランの街がある。ヘルゲンで起きたこと、そしてドラゴンの危険を一刻も早く知らせなければならない。彼はニューグラドで将軍に合流するのを諦め、一時的に単独行動を取ることにしたのだった。


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(第16話に続く)



※使用mod


・Beyond Skyrim - Bruma( Nexus 84946 )
  ・・・シロディールの最北部を追加する大型mod
  今回はペイルパス周辺の景観、帝都の遠景、そしてデシルス・カーヴァイン伯爵治めるシロディール最北の街ブルーマを使わせて頂きました。


・The Gray Cowl of Nocturnal( Nexus 64651 )
 ハンマーフェルやオブリビオンなど、多彩な舞台で展開されるノクターナルの灰色頭巾にまつわる盗賊のクエストです。今回は帝都監獄に使わせて頂きました。


・Opening Scene Overhaul( Nexus 77027 )
 オープニングシーンのディレクターズカット要素を復活させるmodです。
 会話量が圧倒的に増えて、また違ったスカイリムの印象に変わるかも^^
 今回はこちらの会話と、元々のバニラのオープニングの会話両方を参考に、オープニングのシーンを組み立ててみました。


・PeroPero MageRobes Replacer for 7B ( 個別サイト )
 お世話になっているともさんのちびっ子フォロワーです。
 今回はハミング役として、ラルフくんを使わせて頂きましたヾ(๑╹◡╹)ノ"
 他の子達も特徴付けがうまくて、みんな素敵です(*´ω`*)


・MuuFollower HairChange
 お世話になっているむーさんのフォロワーです。ハドバルの奥さん役です(^^ゞ
 今回はちょこっと顔見せですヾ(๑╹◡╹)ノ"


・RKDLFollowers v1.0
 お世話になっているロクドさんのフォロワーです。
 またこっそり出演してもらいました。どこに出てきたか気付くかなヾ(๑╹◡╹)ノ"


・Dovahkiin Companion( Nexus 23238 )
 公式映像そっくりのドヴァキンをフォロワーとして追加するmod
 今回のドヴァキンはプレーヤーキャラでしたが、ところどころ撮影のためにこのmodに肩代わりして頂きましたヾ(๑╹◡╹)ノ"
 普通にプレーしているときは良くこのドヴァキンを主人公にして、自分(PC)は私兵や仲間となって遊んだりしてました^^


・Inconsequential NPCs( Nexus 36334 )
 重要ではないけど世界観を補完してくれる「その他大勢」を追加するmodです。
 貴人から乞食、戦士や商人など、様々な種類を取りそろえているのでエキストラ要因としてとても重宝させて頂いています。
 今回はブルーマ宮廷における食客や貴族達として使わせて頂きました。


・Alternate Start - Live Another Life( Nexus 9557 )
 ゲームスタート条件を変更出来る有名なmodです。
 今回は夢の中のシーンに、牢獄を使わせて頂きました。


・Prisoner cart fix( Nexus 65538 )
 Havok神にお祈りして、オープニングの馬車の荒ぶりを鎮めるmod(゚∀゚)
 たくさんのmodを入れていると暴走機関車のようになってしまうことがあるオープニングの馬車移動を粛々と進行するように修正してくれます。
 これがなかったら今回の撮影は不可能でしたw


・MQ101StorkcloakCartMale02Replacer( 自作 )
 オープニングの護送馬車1台目の右前の囚人をドヴァキンっぽい男に入れ替えるリプレイサーですヾ(๑╹◡╹)ノ"
 ホントにただそれだけですが、ドヴァキンじゃないRPしている人の雰囲気付けにはなるかと思いますw
 この話ではドヴァキンは1台目の馬車に乗って欲しかったのですw
 CKとか無しでTes5editだけでちゃちゃっと作りました。


・War Revenants( Nexus 90591 )
 アンデッドゴーレムを追加するmod・・・なのですが、今回は破壊された集落や残り火、煙を手っ取り早く持ってくるために使わせて頂きました^^;
 ゴーレムも魅力的なので、何処かのタイミングでは使ってみたいと思いますヾ(๑╹◡╹)ノ"


・Helgen Rebuilt( Nexus 82239 )
 ヘルゲンを元の姿に戻すmod
 今回、破壊される前のヘルゲンのシーンが多かったですが、このmodで街をきれいにして撮影しました。オープニングではあっという間に滅びちゃったけど、街にはいろいろな人が住んでいていろんな建物があって、ドラマがありますよ^^


・Imprefvicticious Alduin( Nexus 59875 )
 アルドゥインのリテクスチャです。
 身体の一部に発光器官が追加され、とても怖くて強うそうになります。
 いろいろなリプレイサーがあってどれも捨てがたかったのですが、今回はSS映えするこのmodを使わせて頂きましたヾ(๑╹◡╹)ノ"


・alduins wall retexture - concept art( Nexus 32635 )
 アルドゥインの壁のリテクスチャです。
 今回はタイトルに使わせて頂きましたヾ(๑╹◡╹)ノ"


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4 Comments

芋だん子  

No title

更新お疲れ様です(*´ω`*)ノシ

とうとうゲームでのスタート地点、ヘルゲンにメリスちゃんも来ましたね。
護送馬車から処刑、ドラゴン出現までの緊張感が、自分でもゲームとして見た場面で展開わかっていてもドキドキしました。
無事合流できて良かった!
これからゲーム中のクエストラインとどう交差していくのか、次回も楽しみにしていますね。

2018/06/02 (Sat) 18:43 | EDIT | REPLY |   

もきゅもきゅ  

To 芋だん子さん

芋だん子さん、コメントありがとーございます。
お話も楽しく拝見させて頂いてますヾ(๑╹◡╹)ノ"

ツイッターの方でも呟いたかも知れないけど、今回のヘルゲンのシーンはスカイリムやったことのある人なら避けては通れない、必ず一度はみんなが体験しているイベントなので、結構描写に気を遣いました。
皆さんの体験したバニラのイメージをなるべく崩さずに、そこにイェアメリスたちの話をどのように絡ませるか結構悩みました。

アルドゥィンがもたらした凄惨な破壊シーンに翻弄される人々が、ちゃんとバニラで描かれているんですけど、いかんせんオープニングでゲームのシステムもよく分かっていないときに体験するもんだから、辺りの様子をじっくり観察している暇が無いんですよね。
今回はそこからトロルフ父子、ヴィロッドあたりをわざとクローズアップして描いてみました。
あとは処刑シーンの緊迫を増すためにクドいくらい繰り返し描写を試みましたw
ヘルゲン住人視点、メリス視点、そして救出側視点と3回やることによって、少しでもあのシーンを再現できてたら成功なんですけど、どうでした?

のんびり更新ですけど、まだまだ続きますのでよろしくお願いしまっするヾ(๑╹◡╹)ノ"

2018/06/26 (Tue) 18:54 | EDIT | REPLY |   

Lunamana  

はじめまして

初めて書き込みさせていただきます、Lunamanaと申します

数日前から読み始めて、今日やっと最新記事に追いつきました
続きが気になって気になって止まらなくて、ちょっと寝不足ですがw物語の世界にどっぷり浸からせていただきました
最初どの時間軸なのかなと思っていたら、トリグがお亡くなりになる前だったなんて
主人公一行がどんどんオープニングの時に近づいていくのにワクワクしながらずっと読み進めて、今回の記事でついにオープニングのヘルゲンへ
暗転してスカイリムのロゴが出てきたとこで鳥肌!感動して泣きそうにw
SSは静止画なのにムービーで再生されていた感じ、映画観てる気分になってました
語彙力不足で気持ちをうまく伝えられないのがもどかしい・・・
知識量、構成力、表現力全てに感動しました、素晴らしい物を読ませていただいてありがとうございました!

私はつい最近までスカイリムから離れてまして、再開したのを機にスカイリムのブログ立ち上げたところです
他の方の物語を読むと、色々な意味で刺激されますね
もきゅさんには到底及ばないレベルですが、私も頑張ろうと思いました

それと、使用MODの紹介、SS撮影Tipsもありがとうございます
とても参考になりました、ここを見て導入した物がたくさんあります
これからも何度も覗きに来ると思いますがよろしくお願い致します
続きを楽しみにしてます






2018/06/29 (Fri) 23:33 | EDIT | REPLY |   

もきゅ(*´﹃`)  

To Lunamanaさん

Lunamanaさん(こちらではw)はじめまして。コメントありがとうございます!

今回のオープニングへのもって行き方は、こんな風にしたらスカイリム知っている人に喜んで頂けるかなぁ…?って考えて、少し前から温めていたネタでした。自分では面白いと思って楽しみながら書いているのですが、人からどう見えるかはやっぱり不安なもので…。Lunamanaさんのコメントに小躍りして喜びましたw
正直、Twitterの方や、こちらでのコメントを何人か頂いて、ちょっと胸を撫で下ろしているところです^^

…面白くなるような工夫とか、手法の勉強とかもして精進はしているつもりですが、うまくはまるかどうかはまた別の所にキモがありそうですしね(しかもそれを自分ではよく分かっていないw)

ちょっと1,2週間ほど書き物から遠ざかって、再構築とかゲームそのものとかにかまけていたのですが、このコメント頂いてまた早く書きたい!と気が引き締まりました^^
16話の方は詳細プロットまで仕上がっていたのですが、ロケハンでのバニラキャラの台詞拾いがまだ途中だったので、急遽ブラッキー君たちの話を先に書いちゃったというあんばいです。

LunamanaさんのブログのSS見ましたけど、すごい綺麗じゃないですか。
うちの環境はどちらかと言うとマットでざらざら感あるので、ああいったクリアな絵柄の環境にはちょっと憧れていたりします。また見に行きますね~

メリスたちの方もいいところまで来たので、続きを書くのが楽しみです(ただし早く書けるわけではない←(๑╹ω╹๑ ))ので・・・のんびりお待ち頂ければ幸いですヾ(๑╹◡╹)ノ"

2018/07/07 (Sat) 20:08 | EDIT | REPLY |   

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