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4E201

TES大好き、もきゅがスカイリムの物語をお届けします

◆Chapter 2-14: 狂える魔女

2018
16

道端にはカボチャが置かれ、家と家の間には提灯が吊されて街路を照らしている。一週間の魔女祭も中盤に差し掛かり、初めのころの熱気は影を潜め、村はやや落ち着きを取り戻していた。世界のノドの東側、ゲイル湖の脇に佇むイヴァルステッド。リフテンから出張ってきた行商人たちも一足早く引き上げてしまい、旅人も少ない冬を控えたこの季節。出歩き言葉を交わすのは村の住人同士、見知った顔ばかり。
そんなささやかな平穏を破る出来事が、村を通り過ぎた。


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「さっきのあれ、一体何だったのかしらね?」
リンリーは、賑音に釣られて表に出てきた雇い主のヴィルヘルムと顔を見合わせた。
道端に置かれたカボチャは蹴飛ばされ、雨上がりのぬかるみが跳ね散らかされて路傍を汚す。突然現れ突然去っていった通り雨のような出来事に、残された村人は呆気にとられて噂を飛ばし合うことしかできなかった。


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夕方少し前、宿に備蓄していた焚き付けが減っていたので、彼女は製材所を営むテンバのところに薪木を分けてもらいに行っていた。女同士、話に興じて時間を忘れてしまい、そろそろ夕刻の準備だと気づいて慌てて戻ってきたとき、兵士達の一団が村に駆け込んできたのだ。
彼女が見たのは、帝国軍らしき集団が二台の馬車を囲んで、かなりの速さで村に侵入して来るところであった。野次馬をしようと立ち止まったが、大した見物時間を取ることも出来ないまま、あれよあれよという間に帝国軍は通り過ぎてしまった。


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「タロスにかけて、帝国軍なんて珍しいな」


ウィルヘルムは顎をかきながら、軒先にランタンを吊るし終えたリンリーに呟いた。
スカイリムはもともと帝国の一部だ。帝国軍がいること自体は何もおかしくはない。しかしストームクロークの蜂起以来、帝国軍はリフト地方から徐々に駆逐されていた。孤立した砦などに拠って恭順せずに抵抗している部隊はもはや数えるほどしかいない。そういう一団の一つがストームクロークの攻勢に耐え切れず、とうとう根城を捨てて逃げ出してきたのか・・・村人たちはそんな憶測を噂しあったのだった。
ウルフリックが兵を挙げてから一年あまり。イヴァルステッドでも、はじめの頃は村の近郊で小競り合いがあったが、最近では帝国軍を見かけること自体なくなっている。はるばるシロディールから訪れてくる行商人や、ハイフロスガーへの巡礼者が居なかったら、帝国の一部であることを忘れてしまうような具合だった。


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なだれ込んできた帝国兵の一団は、イヴァルステッドを完全に無視して通り過ぎていった。馬車に乗せられた囚人達には布がかけられ、詮索無用の雰囲気を醸し出している。村人達は不審に思いながらも結局、馬車が何を乗せているのかうかがい知ることは出来なかった。人目に付きたくないのであれば別の道を選べばよいものだが、そうまでして村を突っ切っていったところを見ると、よほど緊急の用件なのだろう。


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「そうね、厄介事が起きないといいのだけど・・・」


リンリーが心配したのも、補給という名を借りた強制徴収を受けるのかと思ったからだ。
しかし、その心配は杞憂に終わった。


しかしホッと一息をつき、宿で夕食の仕度をしようと戻りかけた二人の前を、今度は別の旅人が通り過ぎようとする。ウィルヘルムたちはその旅人を知っていた。忘れようもない。数日前に宿に泊まって蜂蜜酒についてまくし立てていたうるさい客。眼帯をした女だ。たしかサンガードの方に行くと行っていたが、もう戻ってきたのだろうか。


「あれ? あんた達また来たのかね。でもなんでそっちから・・・」


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宿の主人はテルミンを見咎めるとたずねた。彼女たちはサンガードに行ったはずだ。そこから帰ってくるなら、南の街道から村には現れるはずである。しかし彼女たちは北の街道から現れた。まるで追いかけるかのように、ちょうど帝国軍の後から。それになんだか人数が少ないような気がする。強面のレッドガードやカジートの商人達、エルフとブレトンの混血、ノルドの傭兵・・・宿に泊まった客の顔は大体覚えている。テルミンの一行は人数が半分以下になっていた。


「ちょっと用が出来てな。また今度ゆっくり泊まらせてもらうぜ。ちゃんとホニングブリュー用意しておいてくれよ」


「だから、うちはブラックブライア推しなんだって」
白銀の髪のダンマーと、ボズマーの商人も一緒にいたが、みな一様に帝国軍が消えていった南の方角を気にしているように見える。


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「あー、はいはい。じゃ、ちょっと急ぐんで、またな」


おざなりな返事を返すノルドの女戦士を見送ると、ウィルヘルムはそれ以上詮索するのをやめた。頼まれもしないのに客の事情に首を突っ込むのは良い宿屋の主人とは言えない。今晩泊まらないのであれば尚更関係ない。リフテンから出てきて15年、大きなトラブルもなく宿を営んで来れたのも、その割り切りがあればそこだった。彼はそれ以上喋らずに、リンリーを伴って宿に戻った。


奇妙な旅人達が通り過ぎると、村には再び本当の日常が戻ってきた。




・・・




村を抜けるとアスヴァレンは方角を確認した。
ダークウォーター・クロッシングからヴァルトヘイムを抜け、ホワイトランに向かうと思われた護送隊は、追跡者たちの予想を裏切りって途中で枝街道を左に曲がり、イヴァルステッドに進路をとっていた。そのまま追跡を続けると、見覚えのある道に差し掛かる。先日彼らがニマルテン遺跡を越えて通ってきたのと同じ道だ。アスヴァレン達はリフト地方の西半分、ゲイル湖を左回りに大きく一周して、イヴァルステッドに戻ってきたのであった。


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イヴァルステッドの先で、道は東西に伸びる街道にぶつかる。ここにも見覚えがあった。数日前サンガードの町に向かった時に使った道だ。新しい轍は今度はサンガードとは逆の、西に向かって続いていた。


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あの時のどかに景色を楽しんだ道を、今度はイェアメリスを追いかけて急ぐ。この先は世界のノドの南側でファルクリースとの州境に出るはずだ。馬車単独で走れば速いが、ウルフリックという重要な捕虜を乗せてそんな無謀なことは出来ない。護送隊というからには護衛の兵士が必要だ。徒の者が混じっていれば休憩も必要になる。彼らが追跡を続けることが出来たのは、ひとえに帝国軍の動きがゆっくりなためであった。


そのどさくさに紛れてなんとかイェアメリスを救出しようと彼らは考えていた。ダークウォーター・クロッシングを出て丸一昼夜動き続けた護送隊がっやっと止まった頃、追跡する彼らの疲労はかなり積もっていた。


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帝国軍が最初の休憩場所に定めたのは、味方の駐屯地であった。彼らはリフト地方の大半から追い出されていたが、州境を越えた森林地帯の一角にキャンプを設けており、かなりの数の兵を配置していたのだ。テュリウス将軍は抜かりなかった。ストームクロークの治めるリフト地方と、帝国側であるファルクリースを分ける国境の空白地帯。有事の時には半日とかからずイヴァルステッドになだれ込むことができる喉元だ。


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森に隠れて救出の機会をうかがう彼らの前で、帝国の兵たちは駐屯地の中を行き来している。この規模だと軍団長クラスが指揮している部隊かも知れない。いくら何でも百を超える兵の中から救出を行うのは無理がある。


当てが外れてしまったアスヴァレンたちは予定を変更し、自分たちも身体を休め待つことにした。こんな山奥の駐屯地は囚人達の行く先ではあり得ない。護送隊が駐屯地から離れて再び単独行動に移るのを待って、再度救出の機会をうかがう方が良い。案の定、すぐに動きがあり、ウルフリック達を乗せた馬車は夜明けよりずいぶんと早く、駐屯地を離れ行軍を再開した。護送隊は駐屯地を出発すると、州境の関所を避けて緩衝地帯に入り、やがてファルクリース側の検問所を越えていった。


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「通れないだと? ・・・どういうことだ」
検問所を警護する兵士に止められて、ダンマーの錬金術師が問いただしていた。


「ここから先は帝国領だ。許可なく立ち入らせるわけにはいかん」


「そんな分かりきったことは聞いてない」
声がだんだん苛立ちを帯びてくる。


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アスヴァレンは、振り返ってテルミン、アーセランと顔を見合わせた。
州境の緩衝地帯のそれぞれの側にはストームクロークと帝国軍、それぞれが自国への入り口を守る検問所を設置している。ストームクロークの守っているリフト側は森林を通り抜ける街道の途中なので正直、回避の方法はいくらでもあった。現に帝国軍も森の深いところを迂回してリフト領への出入りを繰り返している。しかしファルクリース領に向かうこの関所は峡谷を走る一本道の隘路となっており、避けての通行は無理な立地であった。


「アズラにかけて、手形はある」


「そういう問題ではない。駄目なものは駄目だ」
再びもくろみが外れることになった錬金術師は言葉少なめに問うたが、衛兵の返事は変わらなかった。それもそのはず、帝国の衛兵は誰も通すなと厳命されていたのだ。


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少し前に駐屯地から着た護送隊は、驚くべきことにウルフリック・ストームクロークを捕縛して連行中であった。隊を率いる女隊長はテュリウス将軍の名において、安全確保のためしばらくの間この検問所を封鎖し、いかなる理由を持ったいかなる人物も通してはならぬ、と言い残していた。


旅人を装ってその後を追ってきたアスヴァレン達は、その検問に引っかかったのであった。


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テルミンが言うにはこの街道はファルクリース領に入ると山道の悪路となり、ところどころ難所と呼ばれる場所がある。救出の機会は必ず訪れるはずであった。ただし、このまま離されずに追いすがればだが・・・。


仕方なく彼らは、いったん引き下がると道から外れた。打開策を探して辺りの様子を伺うと、その目に小屋が飛び込んでくる。街道から少し外れた木々の間に、小屋がひっそりと佇んでいた。


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軒先から様子を伺うと無人で、特に手入れされているような形跡はない。・・・手入れされてはいないが、妙に使用感がある。旅人が使うような火口や手斧、ロープなどといった道具類が無造作に置かれていたりするのだ。
彼らは道具に混ざって一冊のノートが置かれているのを見つけた。


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この地に来たのは素晴らしい選択だった!この地域の植物には、新しい薬に活用してきた役に立つ特性が多く含まれているようだ!外の肥沃な土壌のおかげで私が収集した“さし木”は立派な植物に成長している!今日の午後は、食料が尽き始めているのでキノコを取りに出かけようと思う。


個人的なことを言うと、錬金術の仕事を小屋の中ではなく外で行うようになった。昼間の空気は、仕事への刺激となるだけでなく、健康に恵みを与えてくれると感じる。


=*=*=*=*=*=


どうやら小屋の持ち主は錬金術師かなにかだったようだ・・・小屋の外には錬金台が埃にまみれていた。
これだけ長い間放置されていると言うことは、持ち主は戻ってくる気がないか、もしくは死んでしまったのだろう。主が居らず、侵入者を咎める人もいない小屋は、いつからか旅人達が立ち寄るようになり、公共の休憩所として雨宿りや休憩のために使われるようになっていた。庭にはデスベルやベラドンナといった収穫を待つ薬草が伸びている。錬金術師には有用なのだが、旅人には見向きもされなかったようだ。


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検問所前の道の真ん中で相談するのは人目に付きすぎる。身を隠すには丁度良い小屋・・・三人はこの場所を少し借りることにした。
ここまで付かず離れず追跡を続けてきた三人だったが、さすがに疲労が溜まっている。小屋の中で彼らはアスヴァレンの調合した持久の薬を回し飲みし、僅かな時間で体力を回復させようと務めるのだった。


「なぁ、もう行こうぜ」


テルミンはさっきから、気を揉むようにそわそわしている。


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女戦士は、自分がもう少しあの温泉に留まっていればイェアメリスが巻き込まれる事は無かったと後悔していた。不可抗力なのは仲間も十分承知しているが、彼女はそれでももう少し出来ることがあったのではないかと自分を責めていたのだ。


「姐さんのせいじゃないって」アーセランは額の汗を拭うと、大きな背嚢をドサッと下ろした。「しかし、あの関所の先。どうやって行ったもんかね・・・。アスヴァレンのダンナが交渉してもでもダメだったんだろ。他に手は・・・」


「もう、全員殺っちまって突破するか?」


「ふっ、いいかもしれんな」


「ホントかよ・・・オレっちはあんまり戦い向きじゃないんだけどなぁ」錬金術師が同意したのでアーセランは諦めたように頷いた。「・・・分かったよ。二人がその気なら仕方がねぇ、オレっちもいっちょ腹をくくるとするか」


「冗談だ」


「おっと、なんだよ。人が悪いな」


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「・・・それは最後の手段だ、先ずは別の手を探そう」


テルミンのほうは何か言いたそうだったが、一番苛立っている筈のアスヴァレンにそう返されてしまうと、強硬論を引っ込めるしかなかった。しかし焦りは募るばかりだ。


「困ったな。向こう側行っちまったし、時間が経てば経つほど追いかけるの難しくなるんじゃね?」
それを聞くと、アーセランは何か思いついたように手を打った。


「あっ、だんな。ジェハンナでやったみたいなあれ、メリスちゃんには出来ないのかい?」


「あれとは?」


「なんだっけ、・・・呪文で居場所を見つけるヤツ」


「ああ、千里眼か! 失念していた・・・それがあったな」


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乾燥肉で手っ取り早く腹を満たしながら、商人は銀髪のダンマーの様子を伺った。アスヴァレンは一見落ち着いているように見えるが、素振りに出さないだけでテルミン同様焦っているようだ。普段だったら千里眼など一番最初に思いつく筈だが、指摘されるまで忘れていたぐらいだ。ここに来るまで散々言っていた予定・・・ダークウォーター・クロッシングから艀でウインドヘルムに行き、そこからモロウウィンドに帰るなどと言っていた話は、既に完全に吹き飛んでしまっていた。


「メリスの耳飾りに付呪がしてある。それが反応するはずだ」


「さすが、ダンナだ。手落ちがないね」


「見失うことはないが、しかしどうしたものか・・・お前の言うとおり、検問の先に行く方法を考えんとな・・・」


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「戻って別の街道からファルクリースに入る場所を探すかい?」
テルミンは首を振った。それはホワイトランの手前まで、世界のノドをぐるっと反時計回りに戻るということだった。今でこそ数時間の遅れで済んでいるが、それでは数日の遅れをとってしまう。その差は致命的だ。


「そんな悠長なことしてられるか・・・」
言いかけたテルミンをアスヴァレンが制した。


「ん・・・?」


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話に夢中になっていて気付かなかったが、彼らが相談している前の街道に人の気配が現れた。小屋に向かって旅人が歩み寄ってくる。ここは公共の休憩所、旅人が通りかかってもおかしな話ではない。アスヴァレン達は一旦話をやめて現れた者達を観察した。


男二人と、長身の女だ。旅人達は先客である彼らを見つけると、距離をとって警戒心をあらわにした。


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目つきの鋭い男がリーダーだろうか、そして連れの女は肌の色からしてダンマーだろうか? もう一人、荷物持ちの男を後ろに従えて、同じようにこちらを伺っている。テルミンは思わず背中の戦槌に手を伸ばしかけたが、何か思うところがあるのかアーセランが男たちの前に出るのを見て、柄から手を放した。


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「やあ、旅の途中かい?」
ボズマーの商人は片手をあげると気さくに挨拶をした。
彼は男に見覚えが有ったわけでは無い。ただ、その特徴には心当たりがあった。


「見えない絆・・・で」


アーセランは挨拶もそこそこに謎の言葉を発すると、探るように自らの額に指を当てた。ボズマー商人の声に、旅人達は顔を見合わせた。訝しそうな顔を崩さず、しばらく無言でアーセランのことを観察している。気の重くなるような沈黙を前に、手のひらがムズムズしてきた頃、旅人の一人が同じように額に指を当てた。


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「我らは結びつけられる」


アーセランは荷物持ちの男の返答を聞くと、確信したように続けた。
「父母に捨てられ、」


リーダー格の男も即座に返す。向こうにも思い当たる節が出来たと言った様子だ。
「故郷に裏切られようとも、」


「黒き血の仲間と共にこの海に生きる」
アーセランの最後の言葉を聞いて、男は相好を崩した。


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「ハッハ! お仲間かい! 西の海の兄弟。こんなスカイリムの内陸で珍しいな」


「西の海?」


「オレたちの間では最後の言葉は、『黒き血の仲間と共にこの大地で生きる』だ。おまえは海のほうで活動してたんだろ? 兄弟」


「そういうことね。・・・オレっちはアーセラン。ハイロックでユディト船長にやっかいになってた。死んじまったがね。今は訳あってスカイリムに来てるんだ」


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アーセランと言葉を交わした男は顔に入れ墨を入れていた。黒い血管が浮かび上がるような不気味な入れ墨・・・そう、タムリエルの北西部、スカイリムとハイロック一帯に勢力を持つブラックブラッド略奪団の一味だ。この入れ墨をしているのは幹部クラスのはずだ。アーセランは島に流れ着いたときに偶然見聞きした彼らの合い言葉が通用したことに内心胸を撫で下ろしながら、顔だけは不敵な笑みを崩さないようにしたのだった。


入れ墨の男がやや砕けた様子で口を開く。
「そうか、ユディトが死んだのか。・・・ふん、ジャリー・ラあたりが小躍りしているかもしれんな。まあいい・・・もし行く当てがなかったらうちに来るか? 俺はこのあたりの一家を束ねてるんだ」


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アーセランは冷や汗を隠すように帽子をこね回した。
幹部なのは最初から分かっていたが、まさかの首領だとは思わなかった。何か理由があって少人数で行動しているようだが、きっと碌なものではないだろう。当たり障りなくこの辺りの地理を聞き出せると良いが・・・あまり深く立ち入るのは危うい・・・そんなことを考えながら、ボズマーはこっそりと仲間に合図を送った。


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アスヴァレンとテルミンは顔を見合わせると、しばらく出しゃばらずにこの商人に任せてみることにした。アーセランは新たに現れたブラックブラッド略奪団の三人組に場所を空けてやると、首領と子分に手持ちの安エールを振る舞う。
女にも振る舞おうとしたが、軽く首を振って拒絶される。彼女は近くの樹にもたれてアーセランを無視した。


「おまえらはどこに向かってるんだ?」
当然の質問を投げかけられる。アーセランは慎重に言葉を選びながら、不自然に聞こえないよう答えを作った。


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「ダークウォーター・クロッシングの方から来て西に向かってる。あ、そうそう、聞いてくれよ、あの温泉で大捕物があったんだぜ。オレたち丁度そのとき宿に泊まってて、ウルフリック・ストームクロークが捕らえられるところを見たんだ」


「デイゴンの尻尾にかけて! それは本当か?!」
首領は連れの女を振り返った。何かを問いかけるような顔だ。その視線を受けて、女は煩わしげに首を振ると、耳障りな声で返した。


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「アハッ、それはそれで面白いじゃないか」妙に明るい声だったが、続く言葉は陰鬱な低い声に変わった「・・・でも変更はないよ」


「そうか、まあ、あんたがそう言うならそうするまでだ。俺には関係ないことだ」
互いに対する敬意をまるで持ち合わせていないかのような言い様。


そのあと首領が二言三言たずねる間も、連れの女は退屈そうによそ見をしていた。この世俗に興味のない感じ、もしかしたら魔術師か何かの類いかも知れない。女はアーセランの後ろに控える仲間達をじろじろ見ていた。注がれる彼女の視線はテルミンの上をすぐに通り過ぎ、アスヴァレンの上でかなり長いこと留まった。ダンマーの錬金術師は居心地悪そうにひとつ咳をすると、横を向いた。


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ウルフリックの名は当然のように山賊の間でも知られている。彼が囚われたという話は驚くべき知らせであった。二つの勢力が入り乱れている戦争状態の混乱は、山賊稼業・・・略奪や人身売買を生業とする者達には都合がいい。彼らはスカイリムの統一など望んでいなかった。
首領は無関心な女を余所にアーセランのもたらした情報を吟味しているようであったが、しばらくすると、特に問題はないと言う顔に戻った。気を取り直したように続ける。


「それで、具体的にはどこに向かっているんだ?」


アーセランは頭の中から記憶の地図を引っ張り出して、最寄りの知っている地名を適当に選んだ。
「ああ、ファルクリースに行こうと思ってたんだ。船で仲良くしてたヤツの故郷だったんで、死んじまったことを兄弟に伝えてやろうと思ってな。・・・けどよ、今言ったようにウルフリックがとっ捕まったせいで、帝国軍が関所を閉めちまって、ここで立ち往生してたって訳なんだ」


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「・・・なるほどな。後ろの連中も仲間か? 黒い血の者同士、もし路頭に迷うようなことがあったら、俺様を頼って来るといい」
男はアーセランのことをすっかり仲間だと思い込んだようだ。


「そうさね・・・用事が終わったら考えてみるよ」


「ユディトの元では何をしていたんだ?」


「オレっちは主計みたいなもんで、はっきり言って戦いは得意じゃないんだ」


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「山賊が皆、戦闘集団である必要はない・・・そういう奴にも仕事を用意してやれる。ちょっと海に詳しい奴も欲しいところなんだ。俺たちはスカイバウンドに根城を構えてる。正式にうちに来る気になったら訪ねてこい。隠れた入り口を教えてやるよ」


「スカイバウンド? スカイリムには来たばかりで、あまり地理が分からないんだ」


「ここより少し西の、おまえさんが目指している、ファルクリース領内だ」


「へぇ。でもダンナ達良く通って来れたね。検問敷かれてるだろ?」
ようやく話をそっちに持っていくことが出来た。ボズマーは期待をこめた眼で首領の言葉を待った。


山賊はにやりと笑った。「俺たちは門なんて通らないからな」そうして彼は少し首をかしげた。「蛇の道は蛇だが、スカイリムに来たばかりでは知らないのも無理はねぇな。国境を超える抜け道があるんだよ。この小屋はその目印でもある」


彼らのいる小屋には、裏手に緩やかな斜面があり、世界のノドに登ってゆけるのだそうだ。もちろん七千階段には繋がっていないが、その裾野に沿って西に繋がる小径になっている。進むと、やがて国境を越えた反対側の街道の脇に出るというのだ。
待ちに待った、事態を打開できるかも知れない情報だ。アーセランは小躍りしそうになる自分を抑えつけると、平静を装って首領に馴れ馴れしく話しかけた。


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「ダンナ達も商売で?」


「ああ、ちょっとな。このお客さんをカスタフ砦にお送りするのが仕事だ」


「へぇ、ブラックブラッドが護衛業なんて、らしくないね」


「交渉相手がウィザード崩れらしいからな。部下には任せてらんねぇ。ちょっと大口の取引で大量の商品を納入することになるから、保管場所の下見と価格交渉、それを取り持つこのお方の護衛・・・ま、何でも屋ってわけだ」


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「グーンラウグ、喋りすぎだ」
男たちの会話が弾んでいるのを咎めるように、連れの女が睨んだ。しかし彼女はすぐに、またアスヴァレンに視線を向けてしまう。略奪団の男はふざけたように肩をすくめると、アーセランに笑いかけた。


「もう行った方が良いんじゃねぇか?」


聞きたいことは聞けた。アーセランの方も次は立ち去る口実をどうしようかと考えはじめていたので渡りに船だ。彼はそそくさと荷物を確認した。
「済まねぇなダンナ。怒られちまったね。別に詮索するつもりじゃなかったっんだ」


「いいって。ま、お互い、道中気をつけてな、ってやつだ」


「ダンナも。・・・あ、ダークウォーター・クロッシングのあたりは今、帝国やストームクロークが入り乱れてるぜ」


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アーセランはなるべく自然に見えるように、仲間に顎をしゃくった。アスヴァレンとテルミンも空気を読んで余計なことを喋らず、彼に従って小屋から立ち去る。


街道には立て札が立っているがそれを無視して小屋の裏手に回り込むと、彼等はすぐに、山賊の首領が言ったとおり、木々が少し途切れる場所を見つけて上りはじめた。剥き出しの岩に白い地面・・・遠くに見える上の方には雪が積もっているようだ。彼等は教えてもらったばかりの山道を進んでいった。


三人が消えた後、山賊団に護衛される怪しげな女はふらっと立ち上がった。まるでスクゥーマを飲った後のような、夢見るような表情をしている。


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グーンラウグは嫌な予感が的中した、というような、曖昧な表情になった。

無理とは分かっていたが、一応声をかける。


「女魔術師さんよ、どこ行くつもりだ? 俺達が向かうのはカスタフ砦だろ? そっちじゃねぇぜ」


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「少し用事が出来た。ここで待っていろ」


有無を言わさぬ口調でそう言うと、山賊たちと同行していた女は、まるで後を追うかのようにアーセラン達が消えた抜け道の方に向かって行ってしまった。後には、グーンラウグと荷物持ちの男が小屋に取り残される。首領はいつものことだ、と別に驚いた風でもなく肩をすくめ、ため息を一つついた。


「まーたあいつの悪い癖が出たな。折角奴らに出立を促したのに、間に合わなかったか・・・」


「どういうことですかい? あの連中と知り合いで?」
荷物持ちの男が理解できないというように首をかしげる。


「奴らのことは知らねぇよ。だが・・・追ってったあいつは狂い女だ。何故かテルヴァンニの人間を目の敵にしてるんだ」グーンラウグは荷物持ちに説明した。「さっきの連中の中にダンマーが一人いたろ? テルヴァンニのローブを着た。そいつにちょっかい出しに行ったんだ。・・・こいつぁ、しばらく待たされるぜ」


「グーンラウグ様。ちょっかいって・・・」


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「あいつらは"実験"って言うが、麻痺させてはらわた引きずり出したり・・・、きっとそんなところだろ。胸くそ悪い事であることだけは間違いねぇよ」


「うぇぇ・・・」


「情婦って訳でもないだろうに・・・エランディルの野郎もどうしてあんな魔女と連んでるのか気が知れねぇな」


「それを言うなら、あっしらもじゃねぇですか。・・・あっしは正直あんまり関わりたくないですよ」


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「ま、そう言うなって。エランディルのヤツも一応、俺たちと同じ黒き血の仲間だ。奴は充分変人だが、ビジネスの相手としては悪くない。サルモールは金払いだけはいい。余計な詮索は要らねぇ。俺たち悪党は金でだけ繋がってりゃ良いさ」


荷物持ちの男は、あまり考えたくないという様子でアーセラン達、そして女魔術師が消えた山道を伺った。


「あの女消えちまいましたが、あっしらはこの後どうするんで?」


「依頼主はあの女と、エランディルだ。言われたろ、待てって。従うだけさ」グーンラウグは大きな欠伸をした。


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「・・・急ぐ用事でもねえし、女が帰って来るまで俺たちはここでのんびりしとけばいい」


グーンラウグは達観したように笑うと、無人の小屋のベッドに転がってくつろぎ始めるのだった。


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・・・




途中何度か振り返りながらしばらく歩き、小屋がもうまったく見えないことを確認すると、アーセランはようやく肩の力を抜いた。抜け道のことを聞き出すことに成功した彼は、同行するアスヴァレンとテルミンに片目をつぶって見せた。そして大きく息を吐き出す。


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「ふ~・・・緊張したぜ~」


山賊と鉢合わせるというピンチをチャンスに変え、州境検問所の突破の方法まで手に入れたボズマーは、少し照れたように鼻をこすった。


「正直、あんなにうまく行くとは思わなかったけどな」


「アーセラン、おまえ意外と顔広いんだな」
テルミンはその機転に感心したように、ボズマーの背負う大きな荷物をポンと叩いた。重さによろめきかけ、アーセランは二三歩後ずさった。


「イフレにかけて。これ、なんとかならねぇ?」


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彼はイェアメリスがやっとの事で買い付けたニルンルートの束を、居なくなった彼女の代わりに運んでいた。抜け道は世界のノドの斜面に切り込むように続いており、少し進むと辺りの地面は雪に覆われだす。スカイリムはいま冬だ。少し高所に行けばすぐ雪が姿を見せる。アーセランは再び白くなった景色にうんざりしたように顔をしていた。


「褒めてくれるんなら姐さん、代わりに持ってよ。さすがに重たいぜ」


テルミンはニヤニヤしながらかぶりを振る。
「やだよ。アタイはすぐ戦えるようにしておいた方が、いろいろ都合いいだろ?」


「まあ、そうだけどよ」


「メリスを助け出したら、また馬車を掴まえたらいいさ。それまでの我慢我慢」


「ちぇっ・・・」
アーセランは忌々しげに雪を蹴飛ばすと、再び頭の中に地図を思い描いた。「でもなんで帝国の連中、こんな山越えの道なんか選んだんだ? あいつらの本拠地ったら俺たちが来たソリチュードだろ? かなり遠回りじゃねぇか」


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「もっと大きな本拠地に向かってるんじゃねぇか?」


「もっと大きな?」


テルミンは南にそびえるジェラール山脈を眺めて言った。


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「山の向こうで見えないけどさ、この辺りは多分ソリチュードより帝都の方が近いぜ。そっちに向かってるんじゃね?」


「あ、なるほどね。ねえさん賢い。ウルフリックって言ったら、帝国から見たら地方の反逆者だもんな。中央に引っ立てて裁判するって事か・・・」


「裁判が受けれると良いがな」
アスヴァレンがぼそっと付け加えた。反逆の首謀者というのは厄介だ。下手に生かしておくと逆に反乱軍を活性化させてしまいかねない。この時代、亡国の王族や反乱の首謀者という、旗印の属性を持つ囚人は、禍根を絶つために有無を言わさず即決裁判で即刻死刑という事が多かった。


「それじゃぁ、尚更メリスちゃんを早く助け出さねぇと・・・」
首謀者でさえ首が危ういのだ、その取り巻き・・・と思われてしまったら裁判など無くそのまま断頭台送りだろう。アーセランは不在な仲間の荷物を背負う肩に力を入れ直した。


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「ところでさっきのあれは何だ? 符丁か何かか?」
先頭を歩いていたアスヴァレンは振り返ると小柄な商人に尋ねた。


「ああ、ご想像通り、連中の合い言葉だよ」


「アズラにかけて、よく知っていたな」


「この前サンガードの宿で話したっけ? あれはテルミン姐さんにだったかな? まあいいや、奴等の船に乗り合わせたのはホント偶然なんだよ・・・」アーセランは雪の眩しさに目を細めた。今の仲間と出会う前、彼はアビシアン海で船に乗って商売をしていた。途中立ち寄ったハイロックのアルド・クロフトの闇桟橋から出る怪しい船に乗ったら奴隷運搬船で、ブラックブラッドの一味と共に航海する羽目になった。途中でサルモールが乗り込んできたり、船内での戦いがあったりした挙げ句、座礁して辿り着いた島がキルクモア・・・その出来事がなければイェアメリスやアスヴァレンと出会うこともなかった。ウォーヒン・ジャースと同じ時代であれば、ちょっとした小説になってしまうような旅、そして巡り合わせであった。


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テルミンは酒の席で聞いたイェアメリスの物語を改めて反芻していた。アーセランの話と大体合っている。アーセランのことだから面白おかしく半分ぐらいはウソだと思っていたが、難破船のくだりは本当のことのようだ。
「たしか、島を襲った一味は全滅したんだよな、お前を除いて」


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「ああそうだよ・・・、って! オレ一味じゃねぇから!」


「おまえも結構、波瀾万丈の旅をしてきてるんだな」
あまり人に関心を示さないアスヴァレンも、珍しく興味深そうに聞いていた。


「ダンナほどじゃないけどね」


直接刃を交えたわけではないが、島では奴隷商人側と町の住人側に分かれて戦ったアーセランとアスヴァレン。二人は目を見合わせた。そして縁あって加わったテルミン。・・・本来接点のなかった三人が今こうして共にいるのはイェアメリスの影響だ。


「俺っちの荷物を軽くするためにも、メリスちゃんに追いつかねぇとな」


「ああ・・・」
そのイェアメリスはいま、彼らのほんの少し先を進んでいるはずだ。


彼らは不安な先行きを紛らわすかのように、口を開きながら普段より饒舌に雪山を進み続けた。高山特有の刺すような日差しが岩肌にはっきりと陰影をつけている。日照にあわせて中途半端に溶けては再度凍るという繰り返しを経た地面は、部分的に氷のようになり、足を取られやすくなっていた。


「ちょっと急いだ方が良さそうだな・・・」


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日は少ししか傾いていないように見えるが、冬の太陽はもともと軌道が低い。夕方に近い、もう午後もかなり経った時間になっていた。ここは正規の街道ではない。歩きやすさなど一切考慮されていないため、早いところ踏破して元の街道に戻らないと、夜になったら進むのが危険になる可能性高い。テルミンは我慢できなくなったように、手にした蜂蜜酒をあおった。


「うー、ぶるる・・・リフトの森は良かったけど、さすがに世界のノドに近づくと冷えるな」


「姐さん、蜂蜜酒飲む理由が欲しいだけだろ」


「あはっ、ばれた? ・・・お、何か見えてきたぜ」


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テルミンは空になった瓶を一本投げ捨てると、雪の反射する光に目をやられないよう手をかざした。こんな山の中では境がどこにあるのか分からないが、おそらく州境はもう越えているはずだ。彼等は今、ファルクリース領の東端に来ていた。
抜け道は上り坂から下り坂に変化しており、斜面の下方に見張り塔のようなものが見えてくる。抜け道を進んでいる間、文明の痕跡は全くなく、別の旅人がつけたであろう雪上の足跡だけが寄辺の心許なさに包まれていた。塔を発見したことでそんな状態から脱却して、追跡者達の足取りは心持ち軽くなった。


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眼下に見えてきた塔は古の監視所だった。リフト地方のイヴァルステッドと、ファルクリース地方のヘルゲンを結ぶ南街道の途中に設置された古の州境。彼らが通せんぼを喰らった関所よりはずいぶん西側に入り込んだところにある。関所としての役割を終えた現在、この崩れかけた監視塔の一帯は街道の休憩所として使われていた。


テルミンは少し待つように合図をだすと、辺りをよく観察した。元々は検問所だったことから、街道を両側から挟み込むように塔と監視台が配置されている。空中の渡り廊下でそれらは結ばれており、周囲では帝国兵が忙しそうに野営の準備を行っていた。


「追いついた! あの馬車だ!」


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街道の脇に護送隊の馬車が止まっている。ウルフリックの乗せられた馬車は奥、イェアメリスが乗せられているのは手前の監視塔の入り口近くだ。護衛の兵士達は街道に散らばっている。
おそらく見張りであろう・・・よく見ると監視塔の中層にも人影がある。屋上を警護していないのは、彼らがこの抜け道の存在を知らないからかも知れない。帝国兵らの関心、そして警戒すべきはもっぱら、ウルフリックの乗せられた馬車の周辺であるようだ。


監視塔の最上階には渡し橋がかけられており、上層の高台の奥の方には本陣とでも言うべき小屋が建てられている。窓に覆いはなく吹きさらしだが、それでもこの雪道を旅する者には有り難い小屋だ。普段は旅人達が休憩に使うのだが、帝国軍の護送隊が街道を封鎖してからは追い払われて、今居るのは数名の歩哨だけとなっていた。


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街道は通行止めにされている。

州境の検問は封鎖されているのでこんな所には誰も来ないはずだが、ご丁寧に木の杭で作った防塁が並べられており、不意の襲撃に備えていることは明らかだ。


彼らが護送しているウルフリックはそれだけ重要な捕虜であった。


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ヘルゲンに繋がるこの先の街道は、曲がりくねって急な上り坂の続く難所になる。切り立った崖が連続するため物陰も多く襲撃しやすく守り難い道だ。夜まではまだ数時間あるが、女隊長は監視塔もあるこの休憩所を今日の野営場所と定めて、部下に準備をさせていた。

即席の炊事場から上がっている煙を見て、錬金術師は仲間二人に声をかけた。


「移動する気配がない。今日はここで夜営するようだな。日が落ちるのを待とう」


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アスヴァレンとテルミンの二人は目立つ雪原から少し進むと、高台の物陰に隠れる位置を確保した。監視塔からも本陣からも死角になる場所だ。あまり動くと見つかりそうなぐらい近い場所だったが、その分状況の変化に対応しやすい。


「・・・ふぅ、待機という大仕事。アタイはあんまり待つの好きじゃないんだよな」


テルミンは落ち着きなくもぞもぞしながら、太陽の傾きを測った。
彼等は、日が落ちて帝国兵達が食事に入ったころを見計らい、イェアメリス救出を決行しよう、と相談していた。潜入組二人のかさばる荷物番としてアーセランが雪原側に残り、いざというときのバックアップを受け持つ。これまで二日間あてのない追跡してきた事を考えたら、数時間待つなど大したことない。そのはずだったが、三人には日が落ちるのが非常にゆっくりに感じられた。


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そして日が落ちる間際、日光が塔の壁に反射する一瞬の間を使って、アスヴァレンは千里眼を唱えた。導きの光が指し示す先を伺う。・・・だいじょうぶだ。イェアメリスはまだ元の場所に居る。彼女は監視塔前の馬車に乗せられたままだった。


降りてくる帳の光陰に炊煙が混ざり始めたとき、アスヴァレンは女戦士に頷いた。
テルミンは待ってましたとばかりに立ち上がる。


アスヴァレンはテルミンからつかず離れず高台を進む。そしてその手には弓があった。高台の影から本陣の中をうかがうと、やはり歩哨が居る。しかし歩哨は侵入者達の方ではなく、明らかに眼下の街道の方に注意を払っていた。まさか自分たちの居る裏手の高台から誰か来るとは思っても居ないようだ。一人はおっかなびっくり崖から乗り出し、ウルフリック達の馬車から街道の左右に順に目を走らせたりしている。しばらく身をこわばらせていると、歩哨は異常なしと相棒に合図して本陣の中に入っていった。


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「二人・・・いや、三人か・・・。テルミン、先に本陣の片付けをするぞ」


人数を確認すると彼は小瓶を取り出し、鏃に何か嵌めている。


「二人しか見えないよ」


「中にもう一人いる」


「あいよ。じゃ、近づくまでに兄さんが二人、あたいが仕上げの一人だね」


音もなく駆け出すテルミンの背中に、アスヴァレンが訂正する。


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「いや、二人倒してくれ」


「えっ?」


本陣に向かって走る女戦士の脇を、アスヴァレンの放った矢が通り過ぎてゆく。
矢は静かに飛び、戸口を通り抜けて屋内の女兵士に突き立った。


「おい、にいさん、先頭の倒してくれるんじゃないのかよ!」


テルミンが言いかけたとき、煙が立ちのぼり、本陣の部屋の中に充満した。
いぶり出されるように一人の歩哨が飛び出してくる。兵士達は剣を抜き、そして敵襲を知らせる叫びを上げようとした。


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「ちっ、めんどくせぇ!」


仲間を呼ばれるのは確実だ。彼女は腹をくくると二人の歩哨に肉薄した。そして歩哨の異変に気付いた。その口は大きく開いている。しかしぱくぱくとなにか言っているようなのだが、まったく声が出ていないのだ。敵襲を知らせようとする歩哨達の試みはアスヴァレンの矢に仕込まれた毒煙によって潰えていた。


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襲いかかってくる無言の歩哨達を戦槌の血糊に沈めると、ノルドの女戦士は少し非難がましく錬金術師を見た。
彼女は口元を押さえながら少し進むと本陣の中を確認し、安全だと合図を返す。


「にいさん、何か使うなら先に言ってくれよ」


「すまん」


室内の女兵士も事切れているのを確認すると、テルミンはアスヴァレンの元に戻った。


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第3紀以降、沈黙の魔法は失伝しているが、この錬金術師は同じ効果を再現する毒薬を作れるようだ。


アスヴァレンまったく反省しているように聞こえない返事を短く返すと、今度は自ら剣を抜いて渡し橋から塔の最上階に侵入した。


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最上階に到達すると、板の隙間から階下をうかがう。


さすがに無人と言うことはなかった。塔の中層には兵士が一人、手持ち無沙汰からかうろうろしている。


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アスヴァレンは位置を合わせると、床の隙間から中層の帝国兵に剣を投げつけた。

冷気を放つ剣、アトモーラの楔は突き刺さるとパキパキという音を立てて階下の兵士を凍りづけにし、声も上げさせずに息絶えさせた。


音も立てずに中層に飛び降りたアスヴァレンは剣を回収すると、テルミンに合図を送る。


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テルミンは、閉所では使うには取り回しの悪い戦槌をアーセランに放って渡し、代わりに手に馴染んだ短刀を抜き放つ。そして監視塔の屋上から注意深く侵入してきた。


「ほえ~。にいさん、すげぇ身体さばきだね。そこらの暗殺者よりもずっと暗殺向きじゃん。どの辺りが錬金術師なのか分んねえ・・・」


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彼女は感心しながら降りてくると、ダンマーの錬金術師に並んだ。


「階段下に三人いるな。いけるか?」


「なんとかなるって」


そう言うとテルミンは、無造作に脇の通路に飛び出した。中層と下層の間は、塔の外に張り出した階段で繋がっている。素早く駆け下りると、飛び込むように下層に入り込み、兵士達の虚を突いた。


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いきなり降ってきた何かに驚いた兵士が見た最後の光景は、侵入者が青い眼帯をした女だということだけであった。二人目の兵士は女が仲間に深々と短刀を突き立てるのを目にしたとき、横からアスヴァレンの剣に貫かれて絶命した。


「お、おまえ等、どこから!」
残った三人目は助けを呼ぼうと声を上げかけたが、アスヴァレンは剣を抜かないまま器用に男の腹に蹴りを入れて黙らせた。うずくまった男は、素早く体勢を立て直したテルミンに短刀を突き入れられ、最初の二人と同じように、すぐに動かなくなった。


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「ふぅ・・・」


わずか二、三分の間に六人を始末して見張りを無力化した二人は、軽く息を吐くと下層の部屋を確認する。


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外から見たときに怪しまれないように、エンドテーブルに転がったランタンを正しい位置に立てる。死んだ歩哨がもたれ掛かっている階段脇の樽を避けて下を伺うと、階段を降りた先に渡し橋があるのが確認出来た。イェアメリスの馬車はその下に駐められている。


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透明化の薬を使って渡り橋に出れば、見咎められずに、こちら側に引き上げることが出来るはずだ。彼のノルドの腕力ならそれが可能なはず。・・・後は音を立てないように塔を上り、来た道を引き返せば良い。監視塔の最上階の渡し板を落としてしまえば、兵士は抜け道側にやってくることは出来ない。そして待機させたアーセランにはいざというときのために火炎壁の薬を渡してある。彼と合流してしまえばより安全・・・よしんば渡し橋の破壊に失敗しても抜け道から高台の入り口に出る狭い場所で撒けば、長時間の足止めになる。作戦は完璧だった。


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二人は塔の渡り橋下に横付けされている馬車に向かおうと、最後の階段に足をかけた。




・・・




「あらあら、なんて手際の良いこと。闇の一党も顔負けの手練れねぇ・・・」


場違いな明るい声がして、侵入者達は身体をこわばらせた。


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声は階下から響いてくる。足を止めた二人が見守る中、女の姿が階段下に現れた。暗い色の毛皮をゆったりと身に纏い、面白そうに二人を見上げている。警戒している侵入者達に直前まで気配を感じさせず、ここまで接近してみせた女は、無造作に髪をかき上げた。その妖しく光る目が、アスヴァレンの上に注がれる。


相手が女であろうと油断はしない。アスヴァレンは剣を握り直した。


「何者だ? 帝国兵ではないようだが・・・」


「思い出せない? 今日、小屋の前で会ったじゃない。・・・あたしはあなたのこと覚えてるわ。あのとき、忘れないぐらいよーく観察したから」


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女は、州境で立ち往生しているときに出会った山賊団の首領、グーンラウグの連れであった。


錬金術師は苛立たしげに剣の先を振った。
「山賊の女か・・・。どけ、おまえにもウルフリックにも用はない」


「まだ挨拶もしていないのに、せっかちねぇ。・・・あたしの方はあなたに用があるの」


意外な返事にアスヴァレンは眉をひそめる。


「俺だと?」


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「そう、テルヴァンニの男。見かけてしまったら、旅なんてしている場合じゃないわ」


「目的はなんだ?」


「あなたの邪魔」
艶やかな笑顔でさらりと言ってのける。


「アズラにかけて俺が・・・、何かしたか?」


「いいえ、なーんにも。さっきが初対面よ。でも出会ってしまったから・・・一人でも多く減らさなくちゃ」


「言っている意味が・・・。俺を、殺す? そう聞こえたようだが・・・」


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「耳が悪いの? 気がするじゃなくて、その通りよ。是非ともあたしの腑分け台にご招待しなくちゃ・・・あ、でもあなた、好みの顔しているから、今回だけは特別に意地悪だけで許してあげてもいいわぁ」


「要らん」


一歩引いた場所で聞いていたテルミンは、どう反応して良いか分からず、呆気に取られていた。しかし何のためにここに来たのか思い出すと、錬金術師の肩に手を当てた。
「な、なぁ・・・こうしている場合じゃ・・・」


アスヴァレンも頷くと剣を握り直す。
「分かっている。・・・女、時間がない。どけ」


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「いやよ」


テルミンも気を取り直し、女に退散するように促した。
「おいおい、ねえさんよ、この状況見てちったぁ考えなよ。一人でどうしようってんだい? もう一体死体を増やすことなんて造作もないんだぜ」


すると女は懐から小瓶を取り出すと、愛おしそうに眺めはじめる。
「あらあら、死体を作ることしか出来ない馬鹿なノルドが吠えてるわ。でもあら? あらあら? あらあら~? おかしいわね。どこに死体なんて居るのかしら?」


さっと手を一振りすると、小瓶から何かの滴がまき散らされる。アスヴァレンはその小瓶を見て、テルミンは本能的に危険を感じとって、二人同時に飛び退った。彼はその小瓶にどこか見覚えがあった。


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不穏な気配・・・監視塔の下層に禍々しい気が満ちた。
女のまき散らした滴は、侵入者達が倒した兵士達に降りかかると、その身体から煙が噴出させた。一体、二体・・・そして三体と順番に。まるでドゥーマーのオートマトンのように、蒸気に突き動かされるようにして、彼らの眼前で不自然な姿勢のまま死体たちが起き上がった。


「こいつはっ・・・! 」
テルミンは音を立てて唾を飲み込んだ。


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「あら? ちょっと調整不足だったかしら・・・」


塔の監視兵だった帝国の兵士は蘇っていた。一人は"死の従徒"をかけられたように、残りの二人は人と言って良いか分からぬ姿で。・・・ファーランで見たのと同じ灰色の化け物であった。高熱を発しているためか、装備は急速に劣化してボロボロに崩れおちた。


灰の化け物は皮膚の表面が白くカサカサにひび割れて、人間の面影といえば直立して二本の手足を持つことぐらいしか残っていない。テルミンも死霊術は目にしたことがあったが、この化け物はまた何か別の・・・自然の摂理に反するもののような気がして怖気がした。


「意志が強いと姿形までは変容しないのよね・・・」女はまるで実験を見守る研究者のような寸評を垂れている。
彼女は恍惚とした目つきを二人の上に注いだ。


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「これで人数は逆転ね」


死体の変異に気を取られる二人だったが、同時に女の方も身体が微光に包まれていた。何らかの防護の付呪が施されているような光だ。


気がつくと、灰色の化け物の手に火種が現れている。


「いかん! こいつら爆発を使うぞ!」


ファーランで対峙したときの記憶が蘇り、アスヴァレンは警告を発した。


「側壁に出るんだ!」


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テルミンを前に押しだすように外階段に飛び出す。


彼らの背後で、下層の部屋が炎に包まれた。


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くぐもった爆発音と共に窓から閃光が吹き出し、野営をしている護送隊の上に轟音と火の粉が降り注いだ。


馬は暴れて杭を引きちぎろうとし、兵士達は非常事態におののきながら塔を見上げた。


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外郭に覆われたごく狭い部屋での火球。壁がある分爆風は反射して部屋の中は高圧力に見舞われる。中にいたら到底無事では済まなかったであろう。


「くそっ! だめだ兄さん。今の爆発で帝国兵達が気付いちまった」
外階段に待避したテルミンは、戻ろうとするアスヴァレンを引き戻した。
階下が慌ただしい。叫び声が聞こえる。帝国兵達がこの塔に注目しているのだ。


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「悔しいけど一旦逃れるしかねぇよ」


石造りの塔だが、内装や調度品には木製のものが多い。それらには既に火が燃え移ってパチパチと音を立て始めていた。いずれこの外階段も燃え移るだろう。床や天井が落ちるかも知れない。仮に気付かれ無かったとしてもこの先に進むのは無理だ。二人は撤退するしかなかった。


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「くそっ! ここまで来て」


長身のダンマーは唇を嚙んだ。


炎を避けて屋上に駆け上がり高台に避難すると、渡し橋を落とすために振り返る。しかし監視塔から追っ手が出てくる気配はない。尤も、この火災では追おうにも塔に登ることは出来なかった。灰色の化け物はどうなったのだろう。そしてそれを作り出した女・・・元凶を作ったあの女は。


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普通に考えたら無事で済むとは思えないが、当然防護は考えてあるに違いない。彼女も追ってくる気配はない。本人が口にしたように、なぜだか理由は分からないが、アスヴァレンに対する妨害だけが目的であったようだ。


思わぬ闖入者により仲間の救出を阻まれた彼らは、高台から下を見下ろし、臍を嚙むしかなかった。


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「・・・メリス!」
彼が一度だけ放った咆哮も、火災の音と夜の闇にかき消されるのであった。




・・・




もう何日馬車に揺られているのだろう。イェアメリスは縄でかぶれた手首の位置を直そうとして、かゆみに眉をしかめた。


彼女は寝不足だった。


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囚人達に自由はない。食事や睡眠も馬車の上で座ったまま摂ることが強要されていた。揺れる馬車の上での生活は、サンガード近辺を旅していたときのような楽しいものとはほど遠い。降りれるのは1日に2回、用を足すときだけ。それだけでも充分屈辱的であったが、横並びでまとめて処理されられる男たちよりはいくぶんマシかも知れない。彼女は囚人の中の唯一の女性であったため、女隊長だけの監視の元で済ませることが出来たからだ。今のところ乱暴などはされておらず、かろうじて人間の尊厳は確保されていた。一応とはいえ帝国軍が捕虜の扱いを心得ていることを、彼女は心の中でキナレスに感謝した。


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身体改めは正式に入獄したあとのようで、醜い呪いの傷もまだ見られてはいない。もし見られて何らかの悪疫を疑われれば、護送などという面倒を省いてここで処分・・・殺されてしまうかも知れない。


昨晩馬車は街道の途中にある休憩所に停車し、そこで夜営することになっていた。久しぶりに揺れない環境でゆっくり眠れると思っていたのに、夜になって急に爆発騒ぎが発生した。ストームクロークの襲撃だろうか? 急遽出立が決まると何も知らされないまま馬車は動き出し、囚人達は寒さと痒さと眠さに苛まれながら、再び苦しい一夜を過ごすことになったのだった。


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同じ馬車に同乗しているのはストームクロークの兵士でガンジャールと言った。彼はウインドヘルムの東にある農場で働いていたが、そこを解雇されて路頭に迷い、食うためにストームクロークに入ったという。農場はダンマーから疎開してきたフラール家の一族が経営しており、ウインドヘルムに辿り着いた同胞の難民のための受け皿の一つとなっていた。


フラール家が大家であったのは過去の話であり、没落し、そして異国で生き延びている今では受け入れられる人数にも限りがある。ノルドの国にもかかわらず、ノルドであったガンジャールは真っ先に解雇されて放り出されたのであった。


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彼女は別の馬車に乗せられたウインドヘルムの首長の方に顔を向けた。ウルフリックが語った言葉が思い出される。


「・・・土地を失ったノルドも大勢居る。彼らにストームクロークという職を与えねば、今ごろスカイリム東部は山賊が溢れかえっていただろう・・・」


ふと見通しのいいところに出て風が吹きつける。揺れる衣服の下で肌とこすれて呪いの傷がチクリと痛んだ。
アスヴァレン達とはぐれてから何日経ったのだろう。今ごろ彼らはどうしているのだろう。買い付けたニルンルートはどうなったんだろう。そして・・・、馬車はどこに向かっていて、これから自分はどうなるのだろう・・・考えても考えても答えは出ない。馬車がどこに向かっているかなど、彼女の知る由ではなかったが、今のところギリギリ生かされているのだ、ということを彼女は痛いほど感じていた。


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イェアメリスは首を振ると、極力自分の置かれた状況について考えないようにするため、ノルド達の置かれた現状に思いを巡らせて気を紛らわせようとした。


そうしながら半日ほど馬車の上で振動に耐えていると、護送隊は街道を左に曲がり、山道を登りはじめた。この辺りの気温は今朝よりも一段と低い。降ってはいないが、道や辺りの森の半分は雪景色だ。車輪が石を嚙んで大きく揺れる振動に、うつらうつらしていた彼女は眠りを妨げられ、ぼんやりとした頭のまま目を覚ました。気がつくと護送隊は石でできた城門を潜るところだった。


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彼女は身震いすると、くまの出来た目であたりを確認しようとした。


「止まれ!」


先導する女隊長が声を上げると、二台の馬車は相次いで停止した。どうやら何処かの砦の敷地に入ったらしい。これからどうなるのか分からないが、彼女は馬車から降りられることだけが待ち遠しかった。


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囚人達は馬車を下ろされると、中庭に並ばされた。砦の中から指揮官らしき人物が出てくる。


女隊長はハドバルを伴い、その人物に経緯を説明している。


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「こっちだ。歩け」


しばらくそこに立たされていた後、イェアメリスは兵士に背中を小突かれた。

兵士が促す先には、本棟とは別の、城壁の脇の扉から入る建物だった。


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虐待されていないとはいえ、帝国軍はウルフリック以外の囚人には価値を見いだしてないようであった。それでもちょっかい出してくるのはエルフの女だからだろうか? 見張りの兵士がが物珍しそうにこちらを見ながらニヤニヤしているのが気になったが、護送される間にそんな視線にも慣れてしまっていた。


入り口付近には山賊だかストームクロークだか分からない囚人が野ざらしにされている。


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風に揺れている晒し籠を見てみて怖じ気づく彼女の態度は、兵士の弑逆心を増長させることになった。行軍の鬱憤がたまっていた兵士は、抵抗出来ない囚人に揶揄の言葉を浴びせかけた。


「涼しいところが良ければここでも良いんだぜ。扉かこの籠か、今選ぶか?」


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泣きわめく彼女を想像でもしていたのだろうか。

イェアメリスが震える以上の反応を示さないのを見ると、兵士はつまらないそうに吐き捨てた。


「ちぇっ。エルフってのは人形みてぇに反応が薄いな・・・面白くもなんともねぇ・・・」


彼女は結局、他の囚人と同じ砦の中に連行された。


兵士のかざす松明に照らされる砦の内部は、ひどくすさんだものであった。火が入れられてはいるが暖炉は崩れかけている。維持する努力を怠ってきたというか、長いこと放棄されていたとでも言うべき散らかりようだ。

がれきを踏み越えて地下に降りる階段を進むと、円形ホールのような監獄に出た。鉄格子のはまった檻房が幾つか並んでいる。


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レイロフとガンジャールはひとまとめに、イェアメリスとウルフリックはそれぞれ個別の部屋に。囚人達は小分けにされてそれぞれ放り込まれた。
イェアメリスは何とか弁明の機会を与えられないものかと、暗闇に目を凝らす。見知った顔・・・ハドバル隊長補佐を探したが、彼はおろか彼女を捕まえた女隊長も見あたらない。上層階か、砦の本棟の方に入っているのだろう。


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考え疲れて感覚が麻痺してきている。少し休まねば・・・
ほこりっぽい藁の上に転がされたイェアメリスは、疲れからくる睡魔に抗えず、程なく目を閉じると泥のような眠りに落ちていった。




・・・




砦の大広間では、指揮官のファセンディルが護送隊を労っていた。
長テーブルが幾つも並べられており、兵士達が食事を摂っている。護送隊が立ち寄ったのはファルクリース南部のニューグラド砦であった。ファルクリースの南端のこの辺りは既にジェラール山脈の一部であり、夏でも冬でも常に雪に覆われている。鍛冶施設や練兵場も屋内に内包しており、背後に佇む美しい湖とは裏腹に、極めて実用的な砦であった。最近になって突貫で改修したようで、まだ部屋の隅々まで清掃は行き届いていないが、一軍が駐留するのに最低限の機能は回復している。


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実際、この砦は役目を終えてから長いこと放棄されていた。・・・30年前の赤輪の戦いの時、ニューグラド砦はブルーマの戦線を支える兵站として機能しており、多数の駐屯兵で賑わっていた。帝都から撤退したタイタス帝自らが来臨したこともあり、大戦末期の反撃はこの砦から始まったといわれている。


大戦の終盤、ソリチュードの老王イストロッドは各ホールドから戦士たちを集め、信頼する右腕たる配下のジョナを将軍として指揮をとらせることにした。戦に出られぬ老王も自らこのニューグラド砦に陣取り、ペイル峠を中心にジェラール山脈かく乱作戦を実行し、皇帝の背後を固めたという。


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ソリチュード、ホワイトラン、ウインドヘルムの諸州から集まった兵達はここで編成され、ジョナ将軍の指揮の下、シロディール奪還の途についた。その後の展開は、書物「大戦」に詳しい。よく知られた赤輪の戦いである。


ノルド誰もが認める英雄となったジョナ将軍は、しかしスカイリムには戻らなかった。大戦の終わった175年、イストロッドはスカイリムの首長達、そしてミード帝自らの推薦を受けて上級王となった。彼は最初ムートを辞退し、戦功大きいジョナ将軍を上級王に推したのだが、皇帝が帝国の一軍を任せるために将軍を帝都に伴ったため、イストロッドの願いは通らなかった。


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帝国軍が立ち直り一応の形を取り戻したあと、イストロッド上級王は再度ジョナをソリチュードに招聘しようとした。しかし将軍はかつての主人より一足先に、ロスガリアンの山奥で隠棲生活に入ってしまっていた。もし名実ともに響き渡る彼がスカイリムに戻っていたら、トリグは上級王にならず、彼の運命もまた違ったものになっていたかも知れない。


その由緒あるニューグラド砦は、最近になってまた脚光を浴びることとなった。ウルフリックの起こした反乱によりペイルからリフトまでの四州が離反した今、帝国陣営の最前線となったからだ。テュリウス将軍はスカイリムに派遣されるとすぐ、ストームクローク寄りだったファルクリースの老首長を失脚させ、息子のシドゲイルを首長の座につけてこの砦の復興に着手させた。


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次に将軍は、破竹の勢いだったストームクロークの勢いを削ぎに掛かった。 ブルーマ、ペイル砦、ニューグラド砦、ヘルゲンと繋がるシロディールとの兵站を確固なものとし、ソリチュードの海軍も使ってスカイリム東部を封鎖にかかったのだ。


作戦の一部として、ニューグラド砦には信頼するファセンディル軍団長を配備。リフト地方の玄関口に進出した駐屯地の拡充と、兵士物資の循環を担当させていた。


・・・そのファセンディル軍団長はグラス片手に笑みを浮かべた。隣には若い士官が座っている。


「本当に良い知らせだ。これで内戦も終わる。ハドバル、手柄だったな」


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声をかけられた隊長補佐は、しかしあまり嬉しそうではなかった。むしろ、その表情は陰鬱に沈んでいる。


「あまり嬉しそうじゃないな。あの男が気になっているのか?」


「・・・はい。あ、すいません」
彼は同郷のレイロフを自らの手で捕縛しなければならなかった。リバーウッドで幼なじみのように育った仲間だったから、ショックは尚更だった。彼が成人して帝国軍に仕官したあと、レイロフはしばらくしてストームクロークに身を投じたと聞いていたが、まさかこんな所で再会するとは・・・


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「俺は、友を捕らえるためじゃなく・・・世界を見たくて帝国軍に加わったんです。それがこんなことになるなんて・・・」


「世界を見るのも反乱を鎮めるのも、おなじく軍の仕事だ」
ファセンディルは自分の息子のような年齢のハドバルに、諭すように言った。


「・・・同郷の者を捕らえるのも軍の仕事って言うんですか?」


「そうだ」答えた軍団長の言葉には迷いがなかった。

「個々の出来事に疑問が生まれるのは構わん。だが帝国軍としての役割・・・大義には疑問を持ってはならん」


「軍団長はどうして帝国軍に加わったのです?」


「それは、アルトマーなのに、ということかね?」
軍団長は帝国軍には珍しい、アルトマーの仕官であった。


「い、いえ。決してそういう意味では!」


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「おまえと同じだよ」ファセンディルは年下の仕官を、まるで若き日の自分を見るような目で見た。「俺の両親は昔、旅の行商人をしていてな。その後シロディールに落ち着いた。俺はどうやらその放浪癖を受け継いだらしい・・・世界を見たくて帝国軍に加わったんだ。おまえとそう変わりはあるまい?」


「シロディールですか。故郷はどんな場所なんです? 俺はスカイリムから出たことがないんです」


「故郷? 身体が安らぐ場所のことか? 俺が落ち着けるのは、一日の終わりに熱いエールを流し込み、テュリウス将軍の命令書を忘れて過ごせる五分間だよ・・・」


「はは、確かに」


「まあ、シロディールは美しく、多種多様な人々が集まる歴史ある場所だ。でもそれはハンマーフェルもスカイリムも同じさ。そしてこれまで言ったどの場所もそうだった」軍団長はその至福のエールを流し込むと続けた。「軍務に就いてすぐに、想像していた以上にいろいろなことを見てきたよ。今のおまえのように、友を倒さねばならなかった事もある。そうだな・・・どんな土地にだって暗い側面はある。でも、だからこそ俺達がここにいる。秩序と近代化をもたらそうとするために、そして市民の安全を守るためにな」


「・・・」


「我々は武力なしでは抑えきれないほど荒んだ場所へ送り込まれる。平和なときには軍団は無用なものだから・・・兵士としての人生は自動的に苦難に満ちているものになる。そういうものだ。そう出来ているんだ」


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彼は少し離れた所で飲んでいる女隊長を指さした。


「彼女もそうだろう。おまえよりも少し早めに苦難を味わった、だから隊長になっている。そして同じように俺は彼女よりも少し早く苦難を味わった。武勲が兵士を隊長に、軍団長に、将軍にするのではない。事態への対処力がそうさせるのだ。ただそれだけだよ」


ハドバルへの慰めになったかは怪しいが、軍団長は若き仕官の肩をポン、と叩いた。
「あの女傑、出世するかもしれんな。いずれリッケ軍団長に並ぶかもしれん、おまえもよく仕えておけよ。・・・まあ、その前に、少し休暇を取るのも良いかもしれん。ウルフリックを捕らえたのだ。内戦も下火になれば、長めに休んでも誰も文句は言うまい」


話していると横の扉が開き、女が一人近づいてきた。兵士ではない。やけに着崩しているが、その纏っているローブはサルモールのものであった。ハドバルは、抜け道の休憩所で何者かの襲撃を撃退し、護送隊を守った女であることを思いだした。


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女は艶やかな声で男二人の会話に割り込んできた。まるで声で人を撫でるような媚びた音色だ。


「ねぇ軍団長。ちょっと牢を見て回りたいのだけど」


ファセンディルは表情を崩さずに答えた。
「テュリウス将軍に身柄を引き渡すのが我々の最優先事項ですから、それまではウルフリックに面会は許可できません」


「あら、職務に忠実ないい軍人さんね。違うわよ、別にあんな髭ノルドに興味は無いわ」


「ではどうして?」


「女が一人いたでしょ。あたしが興味あるのはあっち。ね、いいでしょ?」


「それは、サルモールとしての言葉ですか?」


「サルモール?」女は少し天井を見て考えた。


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「そうね。そう言ったら軍人さんは断りにくいんでしょ。じゃ、そういうことにするわ。サルモールの公務。これはサルモールの公務よ」


ファセンディルはため息をつくと立ち上がった。
「仕方ありません。バトルメイジ殿、私が同行いたしましょう」


サルモールの女は顔を輝かせると、身軽に扉に向かった。
軍団長は呆気に取られるているハドバルに詫びた。「すまんな、もう少し共に飲みたかったが」そう言って肩をすくめる。そして女に聞こえない距離であることを確認すると、若き仕官に囁いた。


「何が辛いって・・・善良な人々が悪魔に蹂躙されるのを見ることさ。あいつらサルモールは緑炎の夜に同胞を焼き殺した。俺はそのときハンマーフェルに配属されていたんだ。センチネルでの休暇中に、アリノールから迫害で逃れて避難民となった親戚の行方を捜していたんだ」


ハドバルは軍団長の言葉に耳を傾けた。


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「すると突然、避難民区域で魔法による爆発があったんだ。ちょうど君たちが昨日受けた襲撃のようにな・・・サルモールの魔術師が攻撃を仕掛け、アルトマーの反体制派が自らの魔法で抵抗していたんだ」


「緑炎の夜・・・何があったんですか?」


「皆死んでいたよ。大量虐殺ってやつさ。私はその地に配属されて居た帝国軍と共に現場に向かった。しかし、我々が到着した頃にはその地区全体が煙を上げ、廃墟と化していたんだ」


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苦虫をかみつぶしたような表情だ。


「そしてサルモールの連中はアリノールから逃げた反体制派の粛清だけでは満足できずに、ハンマーフェルまで欲しくなった。知ってるだろ? 大戦の始まりさ。それなのに今はどうだ、我々の軍の中にさも当然のような顔をして奴らは混ざっている」


「・・・」


「今は平和だって事になってる。だが俺は本来の任務と並行してサルモールを監視する目的でここに配属された。スカイリム混乱の裏で、奴らが糸を引いているに違いない。自治領の連中にスカイリムで好き勝手させないためには、帝国が対処するしかない。ウルフリックの事もそうだ。スカイリムの市民、ノルド達がその事実を知らないとしても、それは大した問題では無い。それでも帝国の市民には変わりない。市民を守ることが我々の厳然たる使命だ」


「それが・・・大義」


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「何してるの、早く。鍵持って早く来て頂戴」


広間の出口でサルモールの女が催促している。ファセンディルは一歩踏み出しながらハドバルに振り返った。


「俺にはあれが味方だとは、今でもまったく思えんよ」


「我慢するのはその・・・大義のためですか?」


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「そうだ、ああいった不快な事象も個々の、疑問が生まれる出来事だ。慣れる必要は無いが耐えるのも兵士の仕事だ」


「兵士って大変ですね」


「はは、おまえはもう分かっているもんだと思っていたよ」ファセンディルは片手を上げた。「じゃ、行ってくる。ウルフリックに何かされたりしたらたまらんからな」そう言うと軍団長は、サルモールの女と監獄に向かっていった。




・・・




「起きなさいよ。何寝てるの」


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脇腹を小突かれて、イェアメリスは薄目を開けた。一瞬ここがどこだか分からずに眼をしぱたく。牢の中に転がされているのを思い出したのは、ちくちくする藁が頬に当たったからであった。


「あ・・・」


像を結んだ目の前には、格子越しに女がしゃがみ込んでいる。サルモールのローブを着ている。少し離れた階段の降り口辺りには帝国の軍人と思しき男が監視するように立っていた。
ダークウォーター・クロッシングの事件のときには居なかった顔だ。そう言えばサルモールは帝国軍と共にスカイリムの共同統治者として進駐していると聞かされていた。彼女もそういった人物なのだろうか・・・ウルフリック捕縛の連絡を受けて合流した司法高官かも知れない。


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「あなたは?」


サルモールの女は質問には答えず、まるで実験動物をいじくる研究者のごとく、手袋をした指をイェアメリスの口に突っ込んで開かせたり、眼を開かせて覗き込んだりしてきた。そして不躾にも衣服の前を引っ張って胸を覗き込む。


「ちょっ、やめて。何するの!」


「ふ~ん・・・特におかしな事は無いわね。呪い以外は・・・」


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胸に穿たれた傷を覗き込まれて、イェアメリスは地面を這うように後ずさった。この傷のことを知っていると言うことは、エランディル特務官の関係者かも知れない。不安と期待がない交ぜになった表情で、彼女はたずねた。


「特務官に言われて、助けに来てくれたの?」


「あなたを・・・助ける?」サルモールは不思議そうな顔で彼女を見下ろした。「どうして? 観察しに来ただけよ」


「観察って・・・」


「おかしいわね。思い違いだったようだわ。エランディルの術以外、あなたにおかしな所は見つからない。あたしの勘も鈍ったものだわ・・・」
サルモールの女はもう一度イェアメリスの顎を掴むと、なめ回すようにその顔を観察した。
「ずいぶんと寝不足みたいじゃない。ちゃんと寝ないと、肌が荒れるわよ?」


「あなたが起こしたんじゃないの」イェアメリスは相手に呑まれながらも、半ば不貞腐れるように言い返した。「昨日の夜も、何か爆発があって、急に馬車が出発になったの。あまり眠れてないのよ」

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女は面白そうに彼女を見た。
「あら? あなた気付かなかったの? 休憩所に襲撃があったのよ。ストームクロークか何かしらないけど、あなたの馬車のすぐ側まで来ていたのよ」


「えっ?!」


「妙な一団だったわ。片目のノルド女と、珍しい銀髪のダンマー」


イェアメリスの目が見開かれる。


「知り合い? そんなわけないわよね。でも残念ねぇ、あとちょっとの所だったのだけど、帝国兵に阻まれてウルフリックの馬車にはたどり着けなかったわ」


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「えっ?! それで、それでどうなったの?! 彼は、彼らは無事なの?」


「彼らってどっちよ? ウルフリック? 無事に向こうの牢に入れられてるのは知ってるでしょ?」
女の怪しむような眼が彼女を観察し続けていたが、イェアメリスはそれにも気付かず格子から身を乗り出そうとした。護送隊を襲撃? でも失敗した・・・


「襲撃者の方は雪山の中に逃げ帰っていったわ」


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それを聞いてイェアメリスはホッと胸を撫で下ろした。
周りの牢の囚人達・・・ストームクロークも疲れからか泥のように眠っている。イェアメリスは囚人達を起こしてしまわないように、押し殺した声で女に詰め寄った。
「あなた、サルモールでしょ? あたしは指揮官。ラーリンよ。帝国軍の誤認で捕まったの。助けて!」


「ラーリン? じゃあ、あのダンマーが探していたのはあなたじゃないわね。メリスとかいう女を捜していたみたいよ。でもバカね。どこか別のところで捕まった奴じゃないのそれ。追いかける馬車が違うなんて、ほんっと愚かだわ・・・やはりテルヴァンニは根絶させないと駄目ね」
女の目が物騒に据わったのを見てイェアメリスはひるんだが、それでも勇気を出して言いつのった。


「あたしの任務の成功は、あの人の、エランディルの役に立つんでしょ。ねぇ、お願い、ここから出して!」


「あなたもしかして、本名はメリスっていうの?」


「ちっ・・・違うわ。エランディル特務官の部下ラーリンよ。任務を成功させなきゃ。だから・・・」
何故か知られてはいけないような気がしてラーリンで通したが、女はもう興味が失せたと言わんばかりの態度に変わっていた。


「知らないわよ。あの人の事情はあの人の事情。そんな任務あたしには関係ないわ」


「そんな!」
彼女は囚人達を起こしてしまう事も構わずに、腕を格子の間から突き出すと、サルモール女の首に掴みかかった。


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「痛いわね、何するのよ!」
身を引きながら女が叫ぶ。イェアメリスは離すまいと衣服を掴んだ手に力を込めた。ガタンと音がして格子が揺れる。その音に、監視に立っていた帝国軍の将校が気付いた。


牢を見るとサルモールと囚人女が格子越しにもみ合っているではないか。


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「おいっ! 何をしている! やめんか!」


将校は牢に駆け寄ると荒々しくその手を引き剥がした。イェアメリスは爪が剥がれそうな痛みに、思わず手を離す。サルモール女の服がすこしはだける。将校はイェアメリスを格子の奥に突き飛ばした。


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藁の上に倒れ込んだ彼女は唇を噛みしめ、怒りをはらんだ眼で女を睨んだが、その目が驚愕に見開かれた。


毛皮のショールが剥がれ、服の隙間から見えたサルモール女の胸には、何かが填め込まれていた。


本で読んだことがある。まるでブライアハート・・・


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ハグレイヴンの闇の医療魔術を施されたような痕があったのだ。そして・・・そこに填められていたのは、彼女に馴染みの深いものであった。あの、キルクモアの地下室で見つかった石・・・周囲のマジカを循環させるという謎の鉱石であった。


ファセンディル軍団長は女に声をかけた。


「よろしいですか、もう戻りましょう」


「あの生意気な混血は何者?」


「はい、ウルフリック一緒にいた女ですが、詳しい素性は分かっていません」軍団長はもう一度、格子の向こうのイェアメリスを一瞥した。「あの女に何かありましたか?」


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「いいえ、人違いよ」そして虚空を見るように首をかしげると、急に明るい声を出した。「あ! グーンラウグを待たせてたんだわ。興味も失せたし、もう行かなきゃ!」


牢の中で倒れたまま呆然と見上げるイェアメリスを無視して、そそくさと衣服を整えると、サルモールの女は背を向けた。その後はなにも言わずに、女は将校と共に牢を後にしたのだった。


しばらく肩で息をしていたイェアメリスは、やがて藁の上に座り込んだ。一体あの石は・・・。女の方は彼女を人違い、興味が失せたと切り捨てたが、初対面なのに、逆にイェアメリスの方が彼女を無関係とは思えなくなっていた。キルクモア島にあった不思議な鉱石がどうしてここに・・・


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あの女もサルモールに属しているのなら尚更、早くソリチュードに戻って調べてみないと。


自らにかけられた呪いも進行していく。考えなければならないことが多すぎて、頭の中でぐるぐる堂々巡りをしはじめた。突然目にしたものに動転してしまったが、もっと先に何とかしなければならないことがある。何とか誤解を解いて解放してもらわなければ・・・。やっとの事で落ち着きを取り戻した彼女は、目を閉ざして女に言われたことを思い出した。


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無意識に頬から一筋の涙が流れ落ちる。


混乱と焦燥にさいなまれる心の中に、小さな明かりが灯る。ダンマーが来ていた。そしてメリスと呼んでいた・・・そうだ! 間違いない。アスヴァレン達だ。やはり助けようとしてくれている!




・・・




ニューグラド砦に囚人達が拘留されてから三日が過ぎた。
その砦の東側、湖を挟んだ反対側の高台に、追跡者達は潜んでいた。


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アーセランは少しうんざりしたように、代わり映えのしない湖面、そして砦の様子を見回した。


「なあ、今日もこのまま見張って終わりかな? 歩かなくていいのは助かるが、このままここに幽閉なんて事になるってんじゃ・・・それとも、もう処刑が行われてたり・・・イテッ! 何すんだよ姐さん」


「馬鹿なこと言うな! そんな縁起でも無い」
テルミンは目線は砦に注いだまま、錬金術師にたずねた。


「メリス、あの中にいるんだよな・・・?」


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「ああ。まだ千里眼には反応がある。時々位置を変えているようだがあまり動き回ってはいないな。牢か何かに入れられているのだろう」


「どうする? 砦に乗り込んで全員殺っちまうか?」戦槌の柄の滑り止めを巻き直しながら、女戦士はじれったいという素振りを見せた。


「イヤイヤイヤ、そんな無理言うなって。この前の関所と違って砦だぜこれ。何人居るんだよ相手。アルフのダンナやネコさん、レッドガードが居たって無理だろ」


「じゃあどうするってんだよ」


「もう少しチャンスを待とう。仮に救い出せてもメリスが走れなかったら逃げ切れん。足を挫いてから一週間だ。ろくに治療も受けさせてもらってないだろうから、もう少し待った方がいい」


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「なんだよ、冷静だね兄さん。メリスが心配じゃないのかよ・・・あっ、ごめん」
アスヴァレンに睨まれて、テルミンは眼帯をかくふりをしてごまかした。アーセランが取り持つように、わざとらしく愚痴る。


「でもよ、くそっ、あの仮面を燃やしちまったのは大失敗だったかも知れねぇな」

ニマルテンの廃墟で竜司祭を呼び出す切っ掛けとなった古代の仮面のことを彼は蒸し返した。「あれさえありゃ、砦の壁だろうが牢屋の格子だろうが、簡単にすり抜けられたんだがなぁ・・・」


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「おいおい、また変な悪霊とか出てきたら、救出どころじゃなくなるぜ。もう無くなっちまったんだ、忘れろよ」


「そうだけどよ・・・」


二人の話が一段落すると、アスヴァレンは自分に言い聞かせるように、状況を整理してみせた。
「奴等がどうにかしたいのはウルフリックだ。メリスじゃない。ウルフリックの終の行き場が砦と言うことはなかろう。それに、首長が他の囚人とひとまとめと言うことはあるまい。追い続ければ必ずどこかで警備の密度に差が出るはずだ」


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「しばらく追いかけっこか。でも俺達はいいけどよ、メリスちゃんが先に参っちゃわないかね・・・? って・・・あれ? おい! 見ろよ!」
アーセランは砦から出てくる兵士達に気がつくと声を上げた。三人が凝視する中、二台の馬車が城門から出てくる。馬車は街道を南に向かってゆっくりと動き始めた。


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「きた! やっぱりあいつらシロディールに向かってるんだな。メリスちゃん乗ってるかな・・・追おうぜ!」


三人は砦の見張りに気付かれないように湖の淵を隠れ進むと、距離を置いて再び馬車の追跡に入るのだった。


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(15話につづく)



※使用mod


・PDReststop( Nexus 88614 )
 何時もお世話になっているぷらちなデビルさんのロケーションmodです。
 スカイリムの各地・・・ここにあると良いな~、という場所に休憩所を追加してくれます。
 今回は「抜け道の休憩所」を襲撃の部隊として使わせて頂きました。
 使う使う言っててなかなか出せなくてごめんなさい~(U_U ) やっと出せた~!
 ※ちなみに爆風は Colorful magic です^^


・Gallows( Residents of Skyrim )
 お世話になっているponさんのmod。
 本来はグレイムーア砦に絞首台を追加するモノなのですが、今回は付属品の頭にかぶせるズタ袋?を使わせて頂きました。ウルフリックに被せちゃった(゚∀゚)w


・PeroPero MageRobes Replacer for 7B ( 個別サイト )
 お世話になっているゴマペロさんのちょっぴりセクシーなローブ(゚∀゚)
 サルモールのローブでどうしても前がオープンなものが欲しかったところ、有るじゃ無いですか!
 すげーなスカイリム、何でも揃いますねw


・CustomVoice_HeroFollowerBalin( Nexus 69224 )
 お世話になっているベイリンさんのカスタムボイスフォロワーです。
 使用したのは年を取ったオールドバージョン。
 役柄は赤輪の戦いで有名なノルドの英雄、ジョナ将軍ですヾ(๑╹◡╹)ノ"
 本当は第3~4部あたりで登場予定でしたが、話が出てきたので折角だから撮っちゃいました。
 テルヴァンニっぽいローブを着ているのは昔撮ったSSを流用したためで、深い意味はありませんw
 撮り直そうとしたら今の環境で4連続CTDしちゃったので、そのまま強行です・・・(^_^;)


・Zuleika - Standalone Follower( Nexus 61249 )
 jdk and Robton and Kaos Wulfさま作の美人なお姉様フォロワー
 お話ではダンマー化して、狂った魔女役として使わせていただきました。


・Alforttes NPCs( AlforTES! )
 お世話になっているアルフォートさんのNPCリプレイスmodです。
 今回はその中から、バールグルーフを使わせて頂きました。
 撮影現場に無理やり連れてきたせいか、剣を手放してくれませんでした。警戒心強いのかな?w


・ Males of Skyrim( Nexus 61937 )
 男性美化mod
 テュリウス将軍、ウルフリック、ガルマル、レイロフ、ハドバルを使わせて頂きました。


・Bohan Follower( 個別サイト )
 The Elder Schorlls General様のフォロワー。
 今回は味のあるエキストラさんとして、グーンラウグの一味の荷物持ち役で使わせて頂きましたヾ(๑╹◡╹)ノ"


・Men of Winter( Nexus 74376 )
 男性美化mod
 今回はメルセルの顔をベースに、ブラックブラッド略奪団の一人、グーンラウグとして使わせて頂きました。


・Bijin NPCs( Nexus 71054 )
 女性NPCの美化mod
 今回はリッケ軍団長(特使)を使わせて頂きました。
 凜々しい感じですね(〃'▽'〃)


・The Ordinary Women( Nexus 70547 )
 女性NPCの美化リプレイサーmodです。とにかくカバーしている人数が多いのが特徴。
 今回はテンバさん(イヴァルステッドでクマ被害に腹を立てている製材所の女の人)を使わせて頂きました。
(実際のプレーでは、リプレイサー20種ぐらいを選択マージして使って居ます。)
 しっかし、この特使とても美人ですね(゚∀゚)


・Big Leather Backpack( Nexus 65359 )
 少し大きめなバックパックを追加するmodです。
 Bohan(ボハン)さん良い体格だから、荷物持ちにしてバッグ背負わせてみたら小さく見えたので、急遽導入w
 最初はアーセランくんのバッグと同じもの背負わせてみましたw



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4 Comments

フカヒレ  

もうすこしだったのにィ!

もきゅサン更新おつかれさまであります。

今回もメリスさん災難でしたね・・・早く解放されるところが見たいぜっ!(焦らされ)
この容赦のない世界観、まさにダークファンタジーやでぇ・・・(それも好き)

メリス奪還パーティの3人も何だかんだで息の合った作戦を立てていて、見ていて超盛り上がりました。もうちょっとだったのに、ぐぬぬ。
自分はシリアス描写を演出できないので、容赦ない戦闘をするアネゴを見れて嬉しいです。
錬金術策士のアスヴァレンさんや、交渉スキルと度胸で乗り切るアーセラン君の活躍もええなぁ~!

ベイリン殿やボハンさんなど、見知った方々も登場で今回もわくわくが止まらない回でした。何気にファセンディル特使とハドバルさんの会話も好きっす。

うむ、次の話が楽しみじゃ!!
(まとまりがないコメントでスンマセン)

2018/05/18 (Fri) 00:09 | EDIT | REPLY |   

どくうつぎ  

魔女さんこわい

新キャラの魔女さんおっかねえ!
立ち回りやセリフもそうだけど表情の付け方でタイトル通りの雰囲気が良く出てる様に感じました。

結構早くメリスさん救出されるかな、とか思ってたらこの展開。
更に例の石まで出てきて…。(存在を忘れてたのは秘密)
今後どうなっちゃうの!

あとアーセランくんが活躍しててなんか嬉しかったですよ(・ω・)

2018/05/20 (Sun) 17:26 | EDIT | REPLY |   

もきゅもきゅ  

To フカヒレさん

フカヒレさん、いつもコメントありがとうごじゃます
コメントって書くのも大変なので、頂けるだけでも大変感謝ですです♪

戦闘が少ないのが特徴の(?)この話ですが、今回は遠慮無く戦ってもらいました~^^

こういう暗黒時代に暮らす人々って、自分の手の届く身内の範囲に対しては非常に人情厚く、気にかけるんですけど、外の世界の住人や無関係な相手に対しては、現代の我々が考える以上に無関心で冷たく、残酷になるだろうな、というのがもきゅの時代認識なんです。今回のアスヴァレンやテルミンが容赦なく帝国兵を殺害するのも、その辺りを意識して表現してみました。
帝国兵達がメリスをいじめる(w)のも、別に仇だったり憎しみからの行動ではなく、今回はたまたまウルフリックと一緒に居た「自分たちの側じゃない」人間だから、の一言に尽きると思います。

そんなベースを元に淡々と彼女を窮地に追い込んでいるところでダークファンタジー風味を感じてもらえてるのなら、成功だったかな~って。テルミン姐さんもその考え方に則って、敵にはとことん容赦なく戦ってもらいました。ふと正気に戻ったときに殺しの罪悪感に捕らわれるかは、キャラ次第になるでしょうけど、メリスは捕らわれかけてます(ここら辺はまだうまく描けてないですね~^^;)

ファセンディル特使はわたしも好きなキャラです。何気に長生きだし、軍人やっててあれだけ長命なのは優秀な証拠ですよね。ハドバルのキャラに厚みを持たせるのに一役買ってもらいました^^

二部の必要キャラは大体出そろったから、起承転結の「転」にようやく向かっていけそうです。あまり増やしすぎると読者に分かりにくくなりますしね^^ 他の方のフォロワーも出したい人いっぱいですけど、第三部で活躍してもらうか、キャラの書き分けの深さでフォーカスを絞っていけたらと思ってます。

のんびりお付き合いしていてだければ嬉しいです。わーいヾ(๑╹◡╹)ノ"

2018/06/26 (Tue) 18:24 | EDIT | REPLY |   

もきゅもきゅ  

To どくうつぎさん

どくさんいつもコメントありがちょ~(≧∇≦ )/
なんと! アーセラン推しだったんですね。彼は戦闘向きじゃないけど、機転と度胸で南極を切り開いていく、一般的なパーティでいうスカウトのような役ですよね。
世に出ている作品の数々には、冒険の仲間にだいたい一人はスカウト系が混じっていますけど、自分で書いてみてよーく分かりました。とにかく便利で話が転がるんですよ。
最初はアスヴァレンとの書き分けに苦労するかな~・・・とか思ってはじめたけど、そんなことは全然ありませんでした。
メリスがあんなにキャラを確立できたのも、アーセランくんのキャラに寄るところが大きいです^^

魔女さんはちゃんと名前もつけてあるんだけど、第三部まで跨いで出演してもらうキャラなので、まだ伏せておこうかな~とか思ってます。陰に日向にメリスたち一行をネチネチと悩ませ続けてくれるといいな~ってww

おっかねぇ、と思ってくれたら大成功ですヾ(๑╹◡╹)ノ"
澄ましていると女優みたいな綺麗なおねえさんなんですけど、ちょっと狂気を滲ませると化けますよね。女性はこういうところが怖いし、魅力的でもあります。

メリスが今後どうなっちゃうかは・・・既に次の話公開してるから分かっちゃってるけど、彼女にとっての山鳩クライマックスは次回のあれじゃなくて、第二部の終わりに一つ準備しています。そしてブラッキーくんはいつ追いつくのか…なので、またご期待下さい~ヾ(๑╹◡╹)ノ"

2018/06/26 (Tue) 18:26 | EDIT | REPLY |   

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