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4E201

TES大好き、もきゅがスカイリムの物語をお届けします

◆Chapter 2-12: サレシ農場へ

2018
03

恐怖に顔が引きつり、声も出せない。・・・僅かでも動けば喉に食い込もうかという、危うい位置に剣は突きつけられていた。レオナールは彼女を助けに来たのではなく、彼女を殺す為に来たのだった。


冷たい刃は彼女の柔肌、突けば間違いなく命を奪うであろう、喉元の危うい位置にあてがわれていた。イェアメリスは信じられないと言った面持ちで、ようやく一言だけ絞り出した。


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「どうしてっ・・・!」
助けになりそうなものを求め、左右に目を走らせる。しかしここは洞窟の中。二人以外には誰も居ない。孤立無援であった。


「貴様がサルモール、もしくはそれに与する者だからだ」


イェアメリスは必死になって口を開いたが、すぐに遮られた。
「誤解よ! あたしは東帝都社の・・・」


「そんな嘘を信じるとでも?」長剣の刃が更に押しつけられる。「俺の目は誤魔化せん。あのニセ帝国軍の隊長は・・・いつもエレンウェンの近くに居る奴だ」


レオナールはヴァルミエルを知っていることを仄めかした。この素性の分からないレッドガードは、サルモールに関して彼女以上の事を知っているようだ。下手なことを口走ると墓穴を掘りかねない。イェアメリスは何か納得してもらえそうな理由を探して必死に頭を働かせたが、その焦りも既に見透かされていた。


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「命惜しさに適当な言い逃れなどしないことだ」


「・・・」
埃に汚れた額に、冷たい汗が流れ落ちる。


「ヴァルのためにも、サルモールは一人でも減らしておかねばならん・・・」


「ヴァルって?」


「貴様が知る必要はない・・・何か言い残すことは無いか?」
レッドガードは引導を渡そうと、剣を引いて振りかぶる。彼女はやけっぱちになって叫んだ。


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「そうよ、あたしはサルモール。でも自分ではそう思ってないわ!」


「惑わそうとしても無駄だ」


「違うわ! いいから聞いて・・・ひっ!」


言うのと同時に剣が振り下ろされた。イェアメリスが目を閉じた横で火花が散る。刃は彼女の頭ではなくすぐ側の岩を叩いていた。


「何が違うというのだ?」


こんな距離で外すはずがない。レオナールの剣は情けの為に逸れたわけではなかった。どうせ殺す。ならば少しでも情報を聞き出すのが合理的、ただそれだけ。脚を怪我している彼女は逃げることはできない。


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「いいだろう、命乞いだか言い訳だか知らぬが、話してみろ」


彼女はゴクリと息をのんだ。


「あたしはサルモールじゃない。だけどサルモールはあたしのことを仲間だと思ってる・・・」
どこまで喋ったら呪いに触れるのか分からない。しかし黙っていても殺されるのを待つだけだ。足掻かなければ・・・
イェアメリスは必死に言葉を選びながら訴えた。


「彼らがそう勘違いしているから、その立場を利用しているだけよ!」


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イェアメリスは、ソリチュードでヴロタール司法官に勘違いされてサルモール本部へ連れて行かれたこと、そして新任の指揮官として扱われたことを明かした。もちろん呪いのことは伏せてだ。ギリギリを狙って言葉を探る彼女の額には汗の粒が浮かびあがった。


「貴様の任務はなんだ?」


「サレシ農場に特殊な薬草を買い付けに行くことよ」


これは既に仲間も知っていることだ。そう思ったからこそ口に出したのだが、胸の傷がズキン痛んで彼女は恐怖に引きつった。


(えっ! これ、ダメなの?! ・・・)


既に自分は任務の内容を仲間に話してしまっている! ただの繰り返しではないか。


大きく息を吸うと、ゆっくりと鳩尾の痛みは退いていった。噛みしめるように表情をこわばらせ、感覚だけで全身を確認する。変化はない・・・イェアメリスは心の中でホッと胸を撫で下ろした。これは喋っても抵触しない内容だったらしい。滑り落ちてくる額の汗を拭おうと手を動かしかけたが、じっと動かないレオナールの表情は、眼光だけで彼女の動きを制限するほど鋭かった。


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「そんな誰にでもできるような仕事を指揮官に託すものか」猜疑のまなざしが彼女に向けられる。「仮に・・・間違ってサルモールと認識されたところまでは真実として、貴様が唯々諾々と奴らの仕事を行うのは何故だ? 奴らの中に潜り込んで何をしようとしている?」


語気に脅しが混じった。
「・・・貴様、まだ何か隠しているな?」


(あたしの命のためよ!)
イェアメリスは口籠もった。自分を操る呪いに関すること・・・ここだけは危険なにおいがする。


『この術は、たとえ補助薬を用意したとしても、吾が同意せねば解けぬらしい。吾の同意なしに姿をくらませたり、人に話したりしたらどうなるか、理解しているな?』


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エランディル特務官の言葉を思い出し、嫌な汗が背中を伝う。


「・・・」


「もういい・・・そろそろ終わりにしよう」


再びレオナールは剣を構えた。


「ちょっ・・・ちょっと待って!」


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イェアメリスは何か喋らねばと焦り、足を引きずって後退しようとした。ズキンとした痛みが太ももまで駆け上ってくるが、かまってなどいられない。

しかしその試みは肩が岩にぶつかりあっさり阻まれてしまった。


彼女はしかめた目が映し出す、視界の隅に転がっている何かに気がついた。


盾だ。


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洞窟内の地面に捨てられている帝国軍の盾であった。彼女と同じように、何かから逃れてこの洞窟に入った兵のものだろうか? 彼女は殺されかけている自分を他人事のように感じながら、現実逃避をするように、レオナールに疑われる切っ掛けとなったヴァルミエルの一隊のことを思い出した。


「もしかして、さっきのサルモール達が探していたのって、あなたなの?!」


「なんだ、今度は時間稼ぎか? 貴様は質問する立場ではない」


「違うわ。あたし聞いたのよ!」


イェアメリスはレオナールに口を挟まれる前に言葉を継いだ。
「あの指揮官は・・・ヴァルミエルは、司法高官の発見したメモを怪しんで、あの辺りを探っているって言ってたわ。人狩りをしていると。そんな中、あのの水浸しの塔にあなたは隠れていた」


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必死に彼女は言葉をひねり出した。


「・・・つまり?」


「あいつが探していたのって、あなたじゃないの?」


「・・・お前はそのメモを見たのか? 内容は?」


イェアメリスは記憶を手繰って、ヴァルミエルの持っていたメモの内容を思い出そうとした。
「たしか・・・仲間として迎え入れるためのある種の儀式だとか、人数は減ってしまったけど魂は健在だとか・・・そんな内容だったと思うわ」


「それだけか?」


「あたしが見たのはそれだけよ」


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事態の解決に繋がるとは思えなかったが、彼女は自らの潔白を精一杯主張するために、逆に真正面からレオナールの目を見据えた。目を逸らしたら負けのような気がして、半分睨むように凝視する。レオナールの片頬がピクリと動いたように感じたが、それ以降、見られることを拒絶したかのように、彼は表情からは何も読み取れなくなった。


「・・・」


先に目を逸らしたのはレオナールだった。


「フム・・・確かに、貴様はサルモールではなさそうだ」
レオナールは突きつけていた剣を下ろすと、ため息のように呟いた。
何がどうして効果を上げたのか分からないまま、とりあえず危機は脱したことを感じ取って、イェアメリスも息を吐き出す。


「あなた、サルモールに追われているの?」


「半分正解だ」
彼は肩の力を抜いたように見えた。


「半分?」


「サルモールに追われているとも言えるし、逆に追っているとも言える」レッドガードの戦士はイェアメリスから少し離れた所に腰を下ろした。


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「貴様の仲間・・・そうは見えぬが、アルフレドやカジート達もサルモールの手下なのか?」


「まさか! 彼らがそんなわけあるはずないじゃない。あたしだって自分をサルモールだなんて思ったことは一度も無いわ。大切な仲間よ。疑り深すぎるわ」


「俺には敵が多いからな」
レオナールはすこし眉をひそめた。今までの出来事を思い返しているのだろうか。
「まあいい、今日はお前たちと共に居たことで、いい具合に奴等の目を眩ませることができた」


「それにしては・・・あいつらに食ってかかっていくなんて、目立つことしてたじゃない」


「どの口が言う。・・・無謀にも奴等の前に飛び出したのは貴様の方だろう」そう言うとレオナールは口元を少しゆがめた。「俺が割って入って止めなければテルミンが怪我をしていた」


「彼女はそう簡単にはやられないわ」


「だろうな。だがヴァルミエルを舐めない方がいい」


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イェアメリスは足首をさすりながら顔を上げた。
「あの指揮官と何か因縁があるようね。それはそうとヴァルって誰? ヴァルミエルとは別人・・・よね」


「当たり前だ。・・・だが、先ほども言ったように貴様は知らなくてもいい」


「そういう訳にはいかないわ。その人のためにあたしを殺すつもりだったのでしょ? 誰よ」

命の危機が去ると、彼女はようやく、いつもの自分を取り戻した。何か聞くまでは引っ込みつかない、と言う表情に、レオナールは仕方なさそうに口を開いた。


「・・・番人だ」


「番人って、ステンダールの?」


「・・・」


それ以上レオナールは説明しなかった。


「あなた、ドーンガードに加わるって言ってたのは嘘なのね?」


「・・・ああ、口実だ。休んでいる塔に侵入してきたお前たちは、敵か味方か分からない。見知らぬ土地で人を信用するほど、俺はお人好しではない」


イェアメリスはあらためてこの屈強なレッドガードの戦士を見た。どう見ても戦士なのだが、兵士とは違いそうだ。


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「息を吸うように嘘をつくのね。サルモールと同じだわ」


レオナールは静かな口調のまま、言葉に怒りをにじませた。


「にわか者が知った風な口を叩くな。サルモールがどれだけのことをしてきたか、どれだけ忌み嫌われ恐れられているか・・・貴様ももう少し理解した方がいい」


「そんなこと言われなくたって分かってるわよ! あたしがサルモールにどんな仕打ちを受けたかも知らないくせに!・・・あたしの・・・」黙っていられずに言い返そうとして、寸での所で口を閉ざす。


レオナールはジロリとイェアメリスを見た。やはり彼女は何かを隠している。口で言わずとも表情がそう語っていた。
まだ追求が続くのかと身構えたが、続くレオナールの言葉は問いと言うよりむしろ確認とでも言うべきものであった。


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「貴様がサルモールと何らかの繋がりがあるのは間違いない。だがそれは望んだものではなさそうだ。本意では無いというのなら、生かしておいてやる」


「・・・」


「しかしあまり奴らの利になるような行動をしているようなら、いつか我々番人が枕元に立つ」


「あなた達は・・・」


「連中に人生を狂わされた者達の集団、とだけ言っておこう。あまり詮索はするな。俺の気が変わったら、そのか細い命を今ここで絶つことになる」


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戦士は物騒な台詞を口にしながら手を差し伸べた。イェアメリスはつかまり身を起こそうとする。足首に走る鋭い痛みに一瞬顔をしかめるが、これ以上弱みを見せまいと気丈に立ち上がった。


「我々はステンダールの番人や帝国軍、闇の一党のような生やさしいモノでは無いし、ストームクロークの義勇兵のような素人集団でもない。闇にも潜むし、必要であれば正面からでも奴らをねじ伏せるだけの力がある」


レッドガードの戦士につかまりながら、彼女は足を引きずって歩いた。

洞窟の入り口が見えていたが、外はもう夜だ。


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「サルモールとは早いところ手を切れ」


外に出るとレオナールは空を仰いだ。


「家族を人質に取ったり、何か大事なモノを抑えたりして意に従わせるのが奴らの常套手段だ。だが覚えておけ、残念ながらそう言ったモノが無事に戻ってきた試しは一度も無い。・・・例外なくな」


「そんなこと分かってるわ」


「・・・奴らはただ搾取し、蹂躙するだけだ。貴様が何を質に取られているのかは知らんが、それは早々に諦めることだ。サルモール相手に希望など持つだけ無駄だ。解決の方法は奴らと対決する事だけだ」


「わかってるわよ」


おざなりに返した彼女はレオナールを睨みつけた。
諦めるわけには行かなかった。質に取られている他ならぬ彼女自身の命なのだ。


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洞窟を出ると滝の音が一層大きくなった。すぐそばには見覚えのある橋が架かっている。ニマルテンの方から村に入るとき見かけた橋だ。どこをどう走ったか覚えていないが、彼女はそれ程遠くまで来ていたわけではなかった。


「しかし、早めに見つかって命拾いしたな」


彼女はレッドガードの言葉にムっときて皮肉で返した。
「殺し屋さんに殺されるかも知れなかった危険以上のものなんか、いったい何があるって言うのよ」


「フン、貴様は人違いだ。俺の標的ではない」


「殺されかけて、人違いでした、で済むとでも?」


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「隠し事があるのはお互い様だろう? こちらにも事情はある。貴様の疑わしい行動が招いた自業自得だ」
釈然としない顔のイェアメリスを見ながら、レオナールは獰猛な笑いを見せた。


「危険というのはな・・・この洞窟のことだ。ここはパインクリークと呼ばれていて、山に住む熊の巣の一つだ」


「え?」


「貴様は隠れているつもりだったろうが、熊からしたら餌が自ら転がりこんできたようにしか写らんだろうな」


「キナレスにかけて、そんな、怖がらせようとしても・・・、む、無駄よ」
強がりを言ってみせるが、思い出して彼女の血の気はさぁっと退いた。洞窟内にうち捨てられていた帝国軍の盾。血まみれの骨・・・誰かが熊の餌食になったのに違いない。


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あのまま動けないまま熊が戻ってきたら、どうなっていたか・・・想像しかけて彼女は頭を振った。


「とっ、とにかく。宿まで連れて行って下さる?」


イェアメリスはレオナールにつかまり、びっこを引きながら橋を渡り始めた。


「・・・それにしても、ずいぶん慎重に行動しているのね」


「俺はこうして生き延びてきた。奴らは嘘に長けているからな。こちらも同じ程度には詐術を駆使せねば対抗できん」


「あたしもサルモールなんて大っ嫌い」


イェアメリスは思い出したように口を開いた。「・・・、そういえば、あいつらこんなことも言ってたわ」
彼女は屈強なレッドガードの肩につかまりながら、ヴァルミエルの話していた情報を漏らした。


「エレンウェン特使がペイルパスを封鎖したって。あたしはスカイリムに詳しくないから何処のことかよく分からないけど・・・ブルーマとヘルゲンを分断させたって」


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レオナールの目の色が変わった。
急に立ち止まった相手にからだがぶつかる。彼女の足首に忘れていた激痛が走り、思わず声が上がった。


「痛っ! ちょっ・・・急に止ま・・・」


「それは本当か!」


レオナールは彼女の怪我を気にかけることもなく、その両肩を掴む。


「い、痛いわ!」


レッドガードの顔にはあまり見せることのない表情・・・焦りが浮かんでいた。


そして彼はぶっきらぼうに言い放った。
「行くところができた。ここに置いていくが構わんな」


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「えっ、あの・・・?」


橋の途中で支えを外され、イェアメリスは少しの間がまんして立ち、次いで石の欄干にもたれ掛かって身を支えようとした。

しかし足首に痛みに耐えられずに、結局その場でペタンと座り込んでしまう。


レオナールは座り込んだ彼女を見下ろして言った。


「ここなら安全だろう。・・・皆がお前を探している。程なく見つけてもらえるはずだ」


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「どうして? 宿には戻らないの?」


レッドガードの戦士は首を振った。その目は世界のノドの方を見ていた。


「ああ、もう行く。俺のことは口外するな。それから、次にまたサルモールとして目の前に現れたら、容赦なく命をもらうぞ」


次の言葉を発する暇も与えられず、彼女は置き去りにされた。


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日の落ちた橋にぽつんと取り残されたイェアメリスは、急な出来事を消化不良のまま抱え込み、しばらく表情を変えることができなかった。


そして、しばらくしてアスヴァレンに発見されるまで、そのまま座り込んでいたのだった。


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・・・




暖炉の火が絶えることはない。宿の従業員リンリーが額に汗しながら薪をくべるのを、イェアメリスはどこか他人事のようにぼんやりと見続けていた。


救出された彼女はアスヴァレンに脚の手当てをしてもらい、ヴァイルマイヤーまで担がれてきたが、宿に着くと彼女は疲れとショックでそのまま寝込んでしまった。次の日、湯浴みをして服の汚れを一通り落とした彼女は姿を現したが、困惑する仲間との間には、ばつの悪い空気が流れていた。


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彼女は椅子に座ったまま、昨晩の出来事を思い出していた。サルモールと何らかの因縁を抱えたレオナールのことも気にならないといえば嘘になるが、それよりも自身の呪いについての事が気がかりだ。彼とのやり取りのせいで、自身の呪いについて色々考えることができてしまった。


・・・何か引っかかる。呪いに気を遣いながら言葉を絞り出したやり取りを思い出すと、その中で、彼女には一つの事に気が付いた。


色々な言葉を慎重に選んで絞り出したつもりだったが、改めて考えてみると彼女は任務の内容を漏らしてしまっていた。”東帝都社の高官の仕事で、ニルンルートの買い付けをしにサレシ農場に行く”・・・ウソなのは”東帝都社の高官の仕事で”と言う部分だけだ。任務の秘密を守る、自らの命が掛かっている、という割にはずいぶんと杜撰なセキュリティではないか。


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彼女はレオナールの言葉を思い出していた。


「家族を人質に取ったり、何か大事なモノを抑えたりして意に従わせるのが奴らの常套手段だ。だが覚えておけ、残念ながらそう言ったモノが無事に戻ってきた試しは一度も無い。例外なくな」


黄色の書の呪いは考えていたよりもずいぶんと精神的な呪いのようだ。もしかしたら言葉ではなく、彼女自身が秘密を話したと、自ら思ってしまったときに発動するのかも知れない。・・・ということは、秘密を抱えている、そう自らが感じている状態こそが安定で、誰かと分かち合って楽になろうとした途端死が襲いかかるということになる。


きっとそうに違いない・・・サルモールのことをよく知っているわけではない彼女だったが、なぜか確信めいたものを感じ、それ以外考えられなくなった。


肉体的な苦痛から逃れる為に、仲間に嘘をつき続けて精神的な苦痛を受け続けなければならない。しかしそうして耐えても時間の経過と共に苦痛は進行し、ゆく先にあるのは死・・・これではまるで拷問ではないか。

そう思うと、彼女は心に絶望の黒い帳が降りてくるような気がした。


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書を記したのが誰かは分からないが、不能な身体に歪んだ加虐性欲を持つエランディルをも凌ぐ、ねじ曲がった邪悪な者であることは間違いなかった。


サルモールというのは、その存在自体が人の心を縛る呪いのようなものなのかも知れない。


(ああ・・・)


彼女は一晩で十年も年を取ったかのような疲れを感じ、げっそりして無理矢理思考を引き剥がした。もう一つの出来事・・・慌ただしく去ってしまったレッドガードの戦士に無理矢理心の焦点をねじ曲げた。


(急に行ってしまったけど、今ごろどうしているのかしら?)


「連中に人生を狂わされた者達の集団」・・・レオナールは自らをそう説明したが、その点ではイェアメリスも同じだった。


(サルモールに相当な怨みを持っていそうだったわ・・・)


思考の海に飲み込まれて帰ってこない、ぼーっとしているイェアメリスを中心に、仲間達も同じように沈黙に囚われていた。

彼女が何らかの秘密を持っていることは薄々感づかれていたが、それは昨日の出来事で決定的になっていた。あえてそれを詮索しようと言う者は居なかったが、なんとなく、互いに会話が切り出しづらく、それが場の空気を重くする原因となっていた。リザード以外、みな同じホールにいた、その中にはアーセランの姿もあったが、積極的に会話に参加することは無く、何やらしきりと地図を確認している。一行の中でいちばん賑やかな二人が急に静かになってしまい、他のメンバーもどう声をかけて良いか分からず、釣られて黙っていたのだった。


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そんなしじまを破ったのは、テルミンであった。


「だから、それじゃダメなんだって」
テルミンが宿の主人のウィルヘルムと口論している。蜂蜜酒を頼んだらブラックブライアの銘柄が出てきたと騒ぎ出したのだ。

彼女はカウンターを挟んで、一悶着おこしていた。


「いや・・・ホニングブリューもあるにはあるんだが、高いよ? うちではブラックブライアをお勧めして・・・」


途中でホニングブリュー推しのジャ・ラールも加わり、イェアメリスたちの事情などお構いなく、唾を飛ばし合う。


「なんでだよ! 高くて不味いのがブラックブライアって、有名じゃねぇか!」


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「こっ、こら! リフトでそんなこと言ったら、どこに耳があるか分かったもんじゃないぞ」


「マズイ物はマズイ! まさか、水で薄めたりしてねぇだろうな・・・、だから安いんじゃね?」


「そんなことするもんか!」


「それじゃぁなんで、こんな値段で・・・、あやしいな、おい」


ウィルヘルムはすこしたじろいだように言い訳した。


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「ぐっ・・・、だから・・・輸送コストだって、輸送コスト。ホワイトランは遠いからな」


彼らの賑やかなやり取りを聞いていると、繊細な沈黙が馬鹿らしく思えてくる。辺りの雰囲気を無視して騒ぎはじめたテルミンとジャ・ラールに、残りの仲間は密かに感謝したのだった。


そんなやり取りを尻目に、アルフレドは切っ掛けを掴もうと、イェアメリスに話しかける。


「メリスちゃん、その脚、大丈夫なのか?」


「ええ、ごめんなさい。アスヴァレンが言うには折れたりはしていないから、腫れが退けば良くなるって」
彼女は、レオナールが去ってしまったことを説明しながら、自分で調合した湿布薬を塗っていた。「でも、この腫れだとブーツに足が入らないわ。何かゆったりした靴を買わないと・・・」


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「ブーツもそうだけど、この先進むのなら、可能であれば何か乗り物の方がいいだろうな。馬車か荷車の荷台に乗せてもらえるよう、あとで交渉してみるよ。俺の最後の仕事だ」


「それは追加料金?」


「ばっ、バカ言うなって。・・・ま、お金の話ができるぐらいなら、大丈夫そうだな」


イェアメリスは連れのダンマーと並んでこちらに注がれる視線に、少し俯いた。


「あ、あの、あたし・・・」


アルフレドは首を振ると、分かっているという顔をした。


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「アルフさんも・・・詮索しないのね」


若い傭兵は目線を少しの間、脇で薪整理をしている従業員のリンリーに注いだ。


「気になると言えば嘘になるさ。でも彼女が言うように、女には、ほじくられたくないことがあるもんなんだろ」


「・・・」


そして再びイェアメリスの方を向いた彼は、真面目な顔をしていた。


「でも・・・」傭兵は隣の無口なダンマーをチラリと見た。「アスヴァレンさん以外にも人手が必要だったら・・・俺の剣で力になれるようなことがあったら、いつでも呼んでくれ。必ず力になるよ」


「ありがとう・・・」頬を伝う小さな滴に、彼女は戸惑ったように頭を振った。


会話の合間の無音を、赤熱した薪が爆ぜるパチパチという音が埋めていた。

イヴァルステッドはスカイリムの中でも温暖な村だが、それでも冬のこの時期、朝はかなり冷え込む。暖炉には絶えず新しい薪がくべられていた。


「・・・気がついたらイヴァルステッドまで来てしまって、アルフさん、いい人ね」


泣き笑いのような彼女の表情を見て、アルフレドは今までの行程を思い出すように、しみじみと呟いた。

「よくよく考えると、ずいぶんな距離を旅してきたよな・・・あれ?」傭兵はは鼻をすすった。


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「アルフさんも意外と泣き虫ね?」


「バカ言え。煤を吸い込んだだけだ」傭兵はわざとらしく鼻をこすると、そっぽを向いてしまった。


「でも、ホントにもうお別れなんて、なんだか寂しいわ」


「ははっ、メリスちゃん消えちゃうから、別れも言えずにホワイトランに戻らなくちゃならないかと思ってたところだぜ」


「うう・・・」


「なかなか見つからないから、もしかして本当に拐かされたのかと焦ったよ。なにしろ、魔女祭りの夜だからな」


「むぐっ・・・もうっ、ごめんって言ったでしょ」


アルフレドはばつの悪い顔をしているイェアメリスに笑いかけた。

「消えたと思えば戻ってくる。詮索するとアーセランみたいにひっぱたかれる」


「なにそれ、あたしのこと?」


「ついでに言うと、色々聞かれたことに答えないと、それはそれで不機嫌になられる。女ってのは厄介な生き物だよ」


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「ひど~い」


「あ、いまのメリスちゃんのことじゃないぜ。クラリスに色々聞こうとして、ひっぱたかれたことがあるからつい・・・」


「ハイハイ、ごちそうさま」


「冗談冗談」


当てられたように感じて、どんなのろけ顔をしているのか見てやろうと覗き込むと、傭兵の顔は至極真面目に戻っていた。


「・・・ホワイトランに寄ることがあったら、必ず声をかけてくれよ」


居住まいを正すと、イェアメリスも真面目な顔になって頷いた。


「ええ、そうするわ」


そしてふと、思い出したように席を立つ。


「あ、そうだわ! 痛っ・・・、まだ響くわね・・・」


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彼女はそう言うと、足を引きずってすぐ脇のテーブルに移動し、何か書き物を始めた。


「アルフさんに一つお願いがあるのだけど・・・ちょっと待ってて」
できあがると、懐から取り出した別の紙切れと二枚セットにして傭兵に差し出す。


「これは?」


「妹に宛てた手紙よ」


「妹? たしか前に話してた・・・」


「ええ、ブラッキーって言うの。故郷の島に置いてきちゃったのだけど、戻る予定が大幅にズレちゃったから、心配していると思って・・・」


アルフレドは受け取ると送り先を確認した。
「宛先がないようだが・・・ 二枚目のはなんだ? ・・・7386? 数字?」


イェアメリスは自分のサインと謎の数字の入った二枚目の紙について説明した。
「これはね・・・東帝都社の通信手段の一つよ。私書証明って言って社員になると使えるの。手紙を書いたらサインと共にこの4桁の数字を書いて東帝都社の職員や船や隊商に手紙を託せば、その地域の基幹事務所に送られる。そこに行って、逆に証書を見せれば、同じ番号に宛てた手紙を受け取ることができる。便利でしょ」


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「へぇ、そんな仕組みがあるのか」


「ホワイトランに戻ったら、東帝都社の事務所にこの手紙を渡して欲しいの。その私書証明番号とあたしのサインが入った紙を見せれば、あとは向こうが手続きしてくれるわ」


「わかった。二枚とも渡せばいいんだな」


「あっ、その証明書は渡す必要ないわ。見せるだけ」イェアメリスは少し考えるように天井を見た。「そうね、証明書の方はアルフさん、持っていて。同じように連絡が必要になったときに使えるから」


この時代、人と人との関係は一期一会。”また明日”が通じる相手は家族や町の近所同士ぐらいでしかいない。
アルフレドは”ホワイトランに寄ることがあったら、必ず声をかけてくれ”と言ったが、その当てはひどく頼りないものだ。出会い、別れると言うことは、それだけの意味を持っていた。傭兵は感心しながらその手紙を眺めていた。


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「なるほど・・・東帝都社の女錬金術師に仕事をお願いしたいときには、これで手紙を送ればいいわけか」


「そういうこと。ご贔屓にお願いするわ・・・って、あなた連れも錬金術師だったわね」


「まっ、まあ・・・。クラリスが作るのとは違う薬も、仕事では必要になるかも知れないしな」


「カジートはスクゥーマはいかんと思う」
ジャ・ラールがいきなり口を挟んできて、ビックリした二人は異口同音に否定した。


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「そんなもの作りません!」
「お前が言うか!」


ジャ・ラールを一蹴したと思ったら、今度はテルミンがやってきた。持っている酒瓶を見るに、どうやら主人のウィルヘルムとやり合って、ホニングブリュー蜂蜜酒の方を勝ち取ったらしい。


「いいからメリス。そんなことより飲もうぜ!」


「だめよ、酒精は腫れに響くんだから・・・」
彼女は足首を無意識に見やると、顔を上げて酔っ払いの女戦士に困ったような笑い顔を見せた。


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「大丈夫だって。痛みなんか酔っちまえば吹っ飛ぶって」


「んもう・・・、いいかげんね」


「タロスにかけて、本当にこの先、案内を任せていいのか不安になって来たよ」
アルフレドの疑わしげな視線に赤い目を向けたテルミンは、ニカッと笑った。


「なんだっての? このテルミン姐さんを疑ってるってのかぁ? アルフの兄さんこそ、迷子にならずに帰るんだぜ」


「あ~うるさい。毛無し達はもう少し静かにできないのかまったく・・・」


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賑やかさが戻ってきた。ちょっとした気まずい出来事もあったが、いつもの仲間達だ。


ひとしきり騒いで朝食を済ます。そのあと、彼らは宿を出発した。
レオナールは離脱しており、宿を出たのは七人。しかしアルフレドもここからホワイトランに戻る。・・・この先は六人で次の町、サンガードを目指す事になっていた。


村の南の橋を渡ると、馬車の待合所が見えてきた。アルフレドは御者としばらく交渉すると、足を痛めたイェアメリスと、腰の悪いリサードを乗せる合意を取り付けた。馬車に乗るとは言っても他の者は徒歩だ。馬足を上げられないことに御者は難色を示していたが、少し余分に金を積み、すぐ隣のサンガードまでということで、なんとか説得できたのであった。


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アルフレドは先に進む仲間達を順に見やった。


「あまり無理はするなよ・・・といっても、聞く顔ぶれじゃないか・・・」


「まあ、この連中ではな」
薄く笑ってダンマーも同意する。


「まあ、あんたがいるから、サンガードの先もなんとかなるだろ。メリスちゃんも目を離すと何処かに行っちゃうから、よく見張ってないとな」


「アルフさんったら!」


「はは。さ、馬車が待ってるぜ。気をつけていくんだぞ」


「世話になったな」
アスヴァレンが差し出した手をアルフレドはしっかりと握った。そしてにやりと笑う。


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「またその氷の剣を揮わせてくれ」


「機会があったらな」


「もういいかい? 出すよ?」


御者が声をかけてくると、ダンマーは馬車を見上げてうなずいた。ゆっくりと車輪が回り、旅人を乗せた馬車が動き始める。それを見るとアスヴァレンも歩き出た。徒歩の速度で一行は森に入ってゆく。


「アルフさん、ありがとーう!」


少し涙ぐんだ目をしっかりと開いて、イェアメリスは傭兵の姿が見えなくなるまで馬車の上で手を振り続けたのであった。




・・・




彼らが立つイヴァルステッドの周辺はホワイト川の源流の一つがあるリフトの中でも緑豊かな地域の一つで、木々がよく茂っている。スカイリムの東部の地形はシロディール国境のジェラール山脈に向かって順に標高が高くなっており、リフト地方はその名の示す通り、崖の上の踊り場のようにせり上がった高原地帯になっていた。
イーストマーチの低地から吹きつける風はこの崖に突き当たりいったん滞留し、緩やかな上昇気流となってリフトに流れ込んでくる。しかし水分量の少ない冬場の気流はリフト地方では結露せず、通り過ぎた南のジェラール山脈に突き当たってはじめて雪となる。そのため冬場のリフトは冷たいながらも穏やかな風が吹く、晴天が多かった。


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その風も森林地帯の中では緩められ、左右を木々に囲まれて進んでいると、まるでキルクモアの森の中と錯覚するかのように思えてくる。
辺りの木々はまだ朝露の痕跡を残して湿っていた。


「スカイリム・・・」


口に出して呟き、イェアメリスは昨日ニマルテンの岩場から見下ろしたイーストマーチの低地の風景を思い出した。続いて首を回すと背後にそびえるジェラール山脈と世界のノドが目に入ってくる。天涯・・・彼女はまさにスカイリムという単語の意味する空の縁の近くにいることを実感していた。


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「島ほどではないけど・・・、ここは標高も高いのに、随分と暖かいのね。住むのだったらこういうところがいいわ」
朝晩は冷え込むが、こうして馬車に揺られていると季節を忘れてしまうような陽気だ。


一行はイヴァルステッドを南に抜けて、ゲイル湖の南岸の森林地帯を進んでいた。馬車は深い森入ったり、湖畔に出たり蛇行しながら東に向かっている。御者に言わせると真っ直ぐ街道を進まないのは、熊や狼の出没する場所を避けているのだというが、その分景色は変化に富んで、客達を楽しませていた。


道の両わきにせり出している樹木は針葉広葉混ざって様々だ。スカイリムの中でも広葉樹がみられるのはファルクリースの一部と、このリフト地方だけ。たまに姿を現す湖はこの地方で二番目に大きなゲイル湖。しばらく仲間との別れの余韻に浸っていたイェアメリスは、次第にリフト地方の美しい景色に目を奪われていった。


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木漏れ日に混じってときどき湖面の反射光が飛び込んでくる。
サレシ農場に強行しようとすれば、湖の北側を東に進むこともできる。しかしそちらの道は難所が多かった。山の尾根を伝って進み、滝の落ち始めの岩場を渡って古い監視砦を越える足場の悪い道になっている。元気なときならいざ知らず、足を怪我したイェアメリスには少し荷が重かった。アルフレドと別れた彼女たちは、地図上は遠回りになるが馬車の通る南側の道を選んでいた。


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「綺麗なところねぇ・・・」


何度目かのため息をつきながら、同意を求めるように周りを見回すと、随行しているアスヴァレンと目が合った。


「平和な時代は帝国の避暑地、ノルドにとっては避寒地にされていた地方らしいな」
ダンマーも気持ちくつろいだ様子で馬車の横を歩いていた。人が歩くのと大して変わらない遅々たる進みであったが、景色は心を穏やかにする。文句を言う者は居なかった。



「こんな綺麗なところなのに・・・今は内戦中なのよね?」


「スカイリムの中では比較的安全な地域なんだ。いまのところ、ここら辺は戦いと無縁だよ」
国中を巡っているリサードは、安心させるようにエルフの娘に笑いかけた。腰をさすると、思い出したように提案する。
「さっき言ってたね。家を探すなら、今度リサードがこのあたりで見繕ってあげるよ」


「あはは、カジートキャラバンって、何でも取り扱っているのね」


カジートの老人は胸を張った。
「そうだよお嬢さん。リサードは魔術に関わらないものなら何でも・・・薪割りの手斧から上級王の玉座まで、金さえ有ればなんだって仕入れてみせるんだ」


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「そういえば、さっきの家・・・馬車乗り場の近くにあったところなんて素敵よね!」


彼女は出発時に見かけた村はずれの家を思い浮かべて、スカイリムで暮らす自分の妄想に入り込んでいった。


・・・いつものように寝坊するのだが、それを咎めず寝かせたままにしておいてくれる夫。

黒い肌に銀の髪を持ったダンマーの姿を想像してニヤニヤする。


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そして馬車が小石を嚙んで揺れると、ハッと我に返った。
慌てて表情を取り繕ったイェアメリスは、すぐ脇を歩いているアスヴァレンに気付かれなかったかと、その表情をチラチラと伺う。


「何をきょろきょろしている?」


「えっ? いや・・・景色が綺麗だな~、って」


「それはさっきも言っていなかったか?」


「そ・・・そうかしら」


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イェアメリスは真っ赤になった顔をごまかすように、無理に話題を振った。


「そっ、そういえばリサードさん、他にはどんな商品を売っているの?」


カジートの老人は少し首をかしげて見透かすような目を向けた。
「そうだね・・・情報、とかも取り扱うよ」


「情報?」


同じように馬車の脇を歩いているジャ・ラールが付け加える。「リサードはスカイリム各地を旅しているから、色々な出来事を見てきている。どこの森に山賊が潜んでいるとか、どこで戦いがあったとか・・・。ジャ・ラールはよく、そういった情報も買っているんだ」


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「おじいさん、ホントいろいろ詳しいのね」


「そりゃ、戦地で商売するのに無知でいるわけには行かないからね。カジートたちはこう見えても目をしっかり開け、耳を澄ませ、深く色々考えているんだよ」
そして仲間の行く末を案じてすこし表情を曇らせた。


「この穏やかな場所にもかかわらず、仲間達は消息を絶った・・・やはり気がかりだよ」


「そういえば・・・」イェアメリスは洞窟の中でレオナールと交わした言葉を思い出した。「あのサルモール指揮官、ペイルパスを封鎖したって言ってたわ。ブルーマとヘルゲンを分断させたって・・・たしか、スカイリムの南の玄関口よね」
彼女は最近覚えた地名を口にしてみた。


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「ふむ・・・それも関係あるのかも知れないね。仲間のキャラバンはまさに今リサード達が通っているこの街道、ここを通るはずだったんだ」
馬車の行く手と反対側を老人は指さす。
「リフテンから出発していま出てきたイヴァルステッドが最初の宿場。そしてそのまま世界のノドの南側を抜けてヘルゲン、そこからペイルパスで国境を越えてシロディールに入る。お嬢さんの聞いた話が本当なら、足止めを喰らっているのかも知れないね。それだけなら良いんだが・・・」


もしかしたらシロディールには入れずに、ペイルパスで立ち往生しているのかも知れない。すこし希望が湧いてきたようにリサードは頷いた。
「まあ、まずはリフテンでアハカリたちと合流するのが先決だ。その後、また人を雇って道筋を追っていくことにするよ」


「内戦なんて良いこと何もないわ。人々が苦しむだけなのに、どうして起きるのかしら」
ジャ・ラールは訳知り顔で頷いた。


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「毛無したちは自分の物と他人の物をかなり明確に区別して、更にそれを増やそうと奪い合うからじゃないか? 土地や領民、いつも奪い合っている。カジートは仕舞っていない物は誰が利用しても構わない。分かち合いが基本だよ」


「それでよく秩序が保たれるわね。不思議だわ」


向かいに座っているリサードが言葉を引き継いだ。


「大事なのはアジル・ドゥラリス・・・”なんでも民に与えよ”という言葉が表してるんだ。アジル・トラジジャゼリという本にもなっているから、カジートを理解したかったら読んでみるといいよ」


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「それは反帝国カジートの貴族が記した本のことか?」

連れの錬金術師は知っているようだ。


「おお、お前さん、詳しいのぅ」


「確か、200年以上前に書かれたものだったと記憶している。前にモーンホールドの図書館で読んだことがあってな。言っていることと本のタイトルがあまりに違うので、思い出した」


「どういうこと?」


「本のタイトルはアジル・トラジジャゼリ・・・われらはまさしく力で奪う、という意味だ。なんでも分け与えるカジートにしては物騒な本じゃないか」


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「それは奪われた祖国のことを語ったものだからだよ」


リサードは髭を引っ張った。
「カジートはね、それ自体が矛盾して馬鹿馬鹿しい生き物なんだ・・・単純にやりたいことをやるだけだし、相手もそうだと言うことを知っている。だからそれで腹を立てると言うことはないんだ。同族と故郷を守るためには奪い、殺すが、それ以外では世界がどうなろうと知ったことじゃぁない」


ジャ・ラールも老人の言葉に大きくうなずいて見せた。


「でもノルドにはそれが分からない・・・というか、考え方が違う。リサードが思うに、ノルドは何でも難しく考えすぎていると思うね」


若いカジートの傭兵は首をひねると言葉を探った。
「所有欲・・・という概念のことかな? ジャ・ラールにはよく分からない」


「そうね・・・」イェアメリスも同じように言葉を探った。


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「良い例えが思いつかないけど、ジャ・ラールさん、奥さんを誰か別の人が”自分のものだ”とか言い出したらどんな感じがする?」


傭兵はブンブンと首を振った。


「それはイヤだ。ジャ・ラールの奥さんはジャ・ラールだけの奥さんだ。彼女もジャ・ラールのことをそう思っている。それは間違いない」


「それが所有欲、よ」


「うーん・・・分かったような分からないような」


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「あたしたち人間には常につきまとってくる基本的欲求よ。マンやマーはそれが強いの。おじいさんの言うとおり、そのせいで色々と物事を複雑にしてしまっているのは確かね。・・・あなたもリサードさんぐらいになったら分かるわ、きっと」
そう言って彼女はクスッと吹き出した。自分こそ二十数年しかまだ生きていない。小娘が同じぐらいの年頃のカジートに偉そうに能書きを垂れているのはアスヴァレンからはどのように見えるのだろう。そんな考えがよぎって、彼女は照れ隠しに余所を向いた。そんな彼女の気持ちを知ってか知らずか、アスヴァレンが口を挟む。


「ノルドの内戦は信仰が絡んでいるという・・・所有欲と言うよりも、帰属意識の問題かもな」


「そうそう、そっちの言葉だね。リサードもそう思う」


「エルスウェーアがアルドメリ・ドミニオンに加わっているのも、お前たちなりの帰属意識なのだろう?」


「それはちょっと違うよ。それは・・・お前さん達の言葉で言うと・・・恩義だね」


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今から100年ほど前、二年間にわたり双子の月が消失する”虚無の夜”と呼ばれる事件があった。帝都の学者達は早々に天体現象の一つだと結論づけたのだが、属州であるエルスウェーアでは大きな混乱が巻き起こった。月齢に大きな影響を受けるカジートの社会は麻痺寸前になり、わずか二年あまりの間にかなりの国家機能が失われてしまったのだ。その時そこに"寄り添って"彼らを支えたのがアルトマーの組織、サルモールであった。
そして月が再び現れたとき、彼らは未知であった暁の魔法を使って月を元に戻したと公式発表したのだ。


「カジートは消えた月を戻したサルモール達に感謝しているんだ」


帝国の者達はみな顔を真っ赤にしてその発表をあざ笑ったが、しばらくすると逆に青ざめることになった。彼らは月の、カジートに対する影響を見誤っていたのだ。
結果、カジート達はサルモール達を救世主として信頼し、帝国の属州であることをやめ、自らアルドメリ・ドミニオンに加わったのであった。


リサードはそう言ったが、横でジャ・ラールは首を振っている。
「疑わしいもんだよ。ジャ・ラールはそんな事あるわけないと思ってる」
彼は違う意見を持っているようだ。


「カジートはこう見えて迷信深いんだ。みんな信じてしまったのさ」傭兵は空を指さした。双子の月の片割れが青空に薄く浮かんでいるのが木々の間から見える。


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「二つの月を出したり隠したり、そんなものはエルフの魔術じゃない・・・何かもっと大きな世界の法則に違いないんだ。ジャ・ラールが魔術を習おうと思ったのはそれを研究するためでもあったのさ。残念ながらウインターホールド大学では答えを見つけることができなかったがね」


「ジャ・ラールさん、大学に所属してるの?!」


「ああ、ジャ・ラールは教授をやっていたこともあるんだ」


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ジャ・ラール一時期、大学に在籍して居たのだが、人にものを教えるのには向いていないと感じ、古の歴史が多く眠るこのスカイリムで冒険を生業に再出発したのだという。今ではアルフレドと同じように傭兵稼業をしながら、何か面白いものがないか荒野を歩き回る毎日だ。当座の仕事はこの老人の警護だ。


「治安が悪くなると、傭兵は仕事に困らなくなるんだ」


ジャ・ラールの言葉にリサードは頷いた。
「バーン・ダル(盗賊の神)にかけて、内戦なんてものはお嬢さんが言うように碌なもんじゃない、それは確かだ。でも、カジートにとってはどうでもいいことでもある。国ではサルモールに熱を上げている同胞もいるが、カジートの大半はなんとも思ってないよ。アルドメリも帝国もノルドも信用ならない。向こうもこちらを信用していない。彼らが戦ってどうなろうが・・・少なくとも商売にはなる」


「ずいぶんと・・・うがった見方ね・・・」


「カジート達にはスカイリムの内戦は商機の一つ、それ以上でも以下でもないんだ。お嬢さんの会社・・・東帝都社にとっても、似たようなものだろう?」
そう言ったっきり、気まぐれな猫のごとく、話題に興味を失ったリサードは黙ってしまった。


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イェアメリスは東帝都社のお抱え錬金術師だ。実際、社員としての活動は巡回交易船とのやり取りぐらいしかないのだが、それでも帝都社は馴染みの職場、帝国は馴染みの顧客であった。あまり意識したことはなかったが、カジート達ほど無関心でも居られなかった。自分も一応・・・争いの内側の人間なのだ。帝国の盛衰にまったく関心がないと言えば嘘になる。手持ち無沙汰になったイェアメリスは馬車に揺られながら、リサードの言葉に誘い出されるように、子供の頃に読んだ物語りのことを思い出していた。


東帝都社の社員には役夫から船員、通信連絡員、契約商人や傭兵、錬金術師や魔術師まで様々な職業の者がおり、彼らは世界に散らばって活動している。そしてイェアメリスがアルフレドに託した私書証明のように、その活動を補助する様々な仕組みが存在していた。そんな仕組みの一つに、『カタリア異聞集』と呼ばれる不思議な物語・・・書物があった。


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『カタリア異聞集』は、セプティム朝13代皇帝のカタリアに焦点を置いて描かれた著者不明の本で、一部の上級幹部に配布されているものであった。物語のような体を成しているが、読んでいるうちに東帝都社の存在意義が明らかになるように工夫されているのが特徴だ。
イェアメリス自身はとても上級とは言えない、帝都社の中でも下っ端の駆け出し錬金術師であったが、偶然にもその『カタリア異聞集』を読む機会に恵まれていた。死んだ父がバルモラの商館長であったため、本を母のイリアンが受け継いでいたのだ。歴史学者達からも資料価値が高いと評価されているこの書物は彼女にとって、バレンジア女王伝や狼の女王の物語と並んで、子供の頃から慣れ親しんだ大好きな童話や物語のなかの一冊だった。


その書物の中には、このような東帝都社の成り立ちが記されていた。


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カタリアはセプティム朝初のエルフの皇帝にして、中興の祖と呼ばれる女帝であった。彼女はスカイリムのダンマーの旧家であるラシム家に生まれ、持ち前の美貌に加え、政治的才能にも恵まれていたという。才媛として見いだされ、政略結婚でソリチュードのペラギウス皇子と結婚し、精神に問題のあった夫の摂政として陰から支える前半生を過ごす。そしてペラギウスが廃された後は女帝として戴冠することになり、その才能を遺憾なく発揮してポテマの戦禍に疲弊した帝国を盛り返したという。東帝都社はこのカタリア・・・狂王ペラギウスの妃にして後を継いだ女帝によって設立されたとされていた。


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発足当時の東帝都社は帝室御用達の品を扱うお抱え貿易業者であり、モロウウィンドとの間で黒檀やドゥーマー金属、フリン酒、ジャズベイ・ブドウなどの禁制品を独占的に取り扱っていた。帝国の中でも独立色の強いダンマー達との関係強化に彼女の出自が大いに役立ったことは言うまでもない。
この頃帝国はペラギウスを廃帝とした元老院の権力が最高潮に達した時期で、カタリアは中央を避けるように、諸外国をタロスばりに行脚して回ったという。その甲斐もあり、彼女はタムリエルの人々から愛され、信頼され、46年間の治政は非常に安定していた。
この行脚は歴史の結果が示すとおり、一般的には地方基盤の安定と拡充に努めるためであったが、この『カタリア異聞集』ではもう一つの重要な目的があったと記されている。


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地方領主を訪問する傍ら、女帝カタリアはエルフらしい長期的視点に立ち、ただの貿易会社である東帝都社を元老院の権力に対抗しうる帝国内の一大組織に育もうとしていた。帝国の安定と繁栄の影で元老院の重臣達が中央に固まって牽制し合っている間に、カタリアの思惑通り東帝都社はタムリエル周辺の海を中心に、地方から着々と力をつけていったのである。


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明文化まではされていないが、東帝都社が元老院を政敵と任じて対決色を強め始めたのは、この頃であったという。
カタリアは最期にはブラックマーシュにて暗殺されてしまうが、それは彼女の深謀に気がついた元老院側の何者かが手引きをした陰謀だとこの異聞集は断じている。しかし時既に遅しで、彼女の残した東帝都社は五人の総括に引き継がれ、既に元老院にも対抗しうる勢力と財力を持った、帝国の中の第二勢力になっていたのである。


物語には、その後東帝都社が帝室とつかず離れずの距離を保ちながら、その地盤を確固たるものにしていく様子が描かれている。


彼らはヘイモン・キャモランの反乱時に、軍に協力して一部の兵站を担い、それまでの貿易業者とは一線を画すようになる。その後のアカヴィル遠征においてそれまで未開拓であった周辺諸島との航路も拡充され、皇帝まで命を落とす大失敗の遠征にもかかわらず、東帝都社の地盤と権力財力はより一層強化されたのであった。


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イェアメリスは自分と東帝都社の関係について思いを馳せてみたが、父母の縁故でお抱え錬金術師となっただけで、組織そのものについてはあまり考えたことがなかった。彼女は東帝都社の”利益を追求する”商人としての面しか見たことがない。組織はあまりに大きく・・・今の帝国やスカイリムの内戦にどんな役割を果たすのかなど、遠く想像も及ばないことであった。『カタリア異聞集』は彼女の中ではまだ、物語の域を脱するものではなかった。


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「・・・でな、艀があって・・・」


馬車の横ではテルミンとアスヴァレンが行程について何やら相談しているようだ。イェアメリスはその声をぼんやりと聞き流し、馬車に揺られながら、再び物語で読んだ過去に意識を沈めていった。




・・・




帝室と東帝都社の関係は良好だったが、それも永遠に続くものでは無い。対となるセプティム朝のほうは波瀾万丈で、オブリビオンの動乱でマーティン皇子を失い断絶してしまう。4紀に入ると帝国はオカートを支配者に戴き、セプティムの遠戚による帝室再建を模索したが、血のつながりの中に後継者を見つけることができないまま、4紀5年の赤い年を迎えてしまう。そしてレッドマウンテンの噴火とアルゴニアンの反乱に際して効果的な手を打てず、帝国はモロウウィンドとブラックマーシュの二属州を失う。それ以外の地域も不安定で、文化が大きく後退した時代でもあった。



オカートが暗殺されてから七年の空位時代の後、タイタス・ミードが中央平原のハートランドを押さえて新たな帝国を宣言した。

受け継いだのは大陸の三分の二にあたる6つの属州・・・そして東帝都社の権益であった。

中立を保っていたブレイズや、各勢力に食指を伸ばしていた元老院なども、その後同じように新皇帝に恭順の意を示した。


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間が悪いことに新帝の即位とほぼ同時にアリノールとヴァレンウッドが離反してアルドメリ自治領が復活するという大事件が起きる。

しかし東帝都社は地方領主たちの経済圏という後ろ盾を元に、帝国が失った領土においても確固たる地盤を保ち続け、タムリエル周辺を5つの海域に分割して変わらず経済圏を支配していた。


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4紀115年には”虚無の夜”の影響でカジート達のエルスウェーアまでもが離反。そして175年の白金協定でハンマーフェルも割譲した結果、帝国の版図はシロディール・ハイロック・スカイリムと、最盛期の三分の一となってしまった。
大戦で元老院の半数を失い、ブレイズが解散させられた今、瀕死になってもミード朝が続いているのは一重にこの東帝都社の存在に拠るところが大きかった。


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群雄が割拠するストームクラウンの空位時代、元老院やブレイズではなく東帝都社との関係を重視したタイタス・ミード1世皇帝は、やはり一時代を築くに相応しい見通しを持った英雄であることが証明されたわけだ。・・・皮肉なことに彼の死後100年以上経ってからの話であったが・・・


皇帝にとっては不安定な領土よりも、互いに牽制し合う元老院よりも、東帝都社を手中に収めたのが一番の収穫だったといえる。セプティム時代に生まれた経済組織は、ミード朝の血も交えて縁戚関係を深め、4紀に入って200年が経過した現在でも、変わらぬ勢力を保っていた。


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イェアメリスが属するのはエルセリック海とアビシアン海を束ねる西航路の組織だが、このスカイリムでは管轄が違う。ここは皇帝の従姉妹ヴィットリア・ヴィキが総括として治めている北海域であった。


「おーい、もうすぐ着くぞー!」


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御者の甲高い声に彼女の意識は現実に引き戻された。顔を上げると向かいのリサードも同様に、少し驚いた顔をして辺りを見回している。どうやら老人は、陽気に当てられて居眠りしていたようだ。


日はそろそろ中天に差し掛かろうという頃だ。頭の中で過去に読んだ物語を反芻していた彼女は、かなり長いこと時間が経ってしまったことに気付かされた。


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馬車はすこしカーブを描く街道に沿って進み、行き先表示の立て札が見えてくる。リフテン、ウインドヘルムといった大まかな行き先が書かれている。サンガードの街はウインドヘルムと書いてある方向にあるはずだ。その方向には農家の屋根が、そしてその先には城壁らしきものがかすかに見える。イヴァルステッドの東に広がるゲイル湖と、州都リフテンのあるホンリッヒ湖を結ぶトレヴァ川、その川にかかった橋の手前に広がっているのがサンガードの街。リフト地方二番目に大きな街であった。


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サレシ農場は街の郊外、橋を渡った北側にある。


「いよいよお別れの時が来たね、お嬢さん」


リサードの呼びかけに無言で頷くと、彼女は城壁の向こうに目を向けた。あとちょっとだ。馬車を立て札のところで一旦停車させると、御者が問いかけるような顔を向けてくる。サンガードの入り口、ここで彼女を下ろす手はずになっていた。


「立てるか? 大丈夫か?」


「ええ」


アスヴァレンの差し出した手につかまり馬車を降りると、痛めた方の足を地面につけてみる。鈍い痛みは残っていたが、巻き付けた湿布薬はいい仕事をしたらしい、ゆっくりであれば歩くことに問題はなさそうだった。


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「リサード達は町には入らない。このままリフテンに向かうよ」
イェアメリスと入れ替わりにジャ・ラールが座席に上がることになる。徒歩の者がいなくなることで、この先は彼らの移動速度も随分と上がるだろう。


「あ、ジャ・ラールさん、待って!」


イェアメリスは傭兵に向かって何かを差し出した。御者を手で制して待たせると、傭兵はエルフの娘を見下ろした。


「ここまで一緒に来てくれてありがとう」


「気にすることはないよ。ジャ・ラールはリサードを守ってきただけだ。お前さん達は着いてきた、ただそれだけじゃないかね?」


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「ええ、だけど、あたしたちのせいで戦いに巻き込んだり、迷惑かけちゃったりしたから」彼女は早くも街に向かって行こうとしているアーセランを指すと苦笑いしてみせた。「だから、護衛のお代がわりにもらっておいて」


そう言って差し出した手には指輪が握られていた。彼女が今ジャ・ラールにしているのと同じように、ヴィオレッタから同行代として貰ったものだ。


「付呪がされていると思うの。少しは価値があるはずよ」


旅芸人ヴィオレッタの受け売りで同じように説明する。ジャ・ラールは指輪を受け取ると、指に引っかけて日光にかざしてみた。


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「ふむ・・・本当にくれるのかい? 今から鑑定してみるが、とてつもなくすごい物だったとしても、ジャ・ラールは返さないよ?」


「ジャ・ラールさん、鑑定できるの?!」


「もちろん。ジャ・ラールは魔法には詳しいといったろう」


しばらくそうしてジャ・ラールは指輪をひっくり返したり擦ったりしてみていたが、やがてため息一つつくとそれを返してきた。


「だめだな、これは」


イェアメリスは眉をひそめた。
「どういうこと、使えない付呪だったの? それとも、付呪自体されてないとか・・・?」


「いや、付呪はしっかりされているよ、これは水中呼吸だ」


「あら! すごい付呪じゃない」
イェアメリスは目を輝かせた。ヴィオレッタがくれた指輪は値打ちものだ。


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「アルコシュにかけて、ジャ・ラールは水には絶対に入らないんだ。だから使えない」


「どうして? 溺れなくなるすごい指輪なのよ?」


カジートの傭兵はエルフの娘が持つ指輪を、さも恐ろしい物でも見るような目つきで見ながら言った。「ジャ・ラールは水に入ると体積が半分になってしまう。そしていずれ溶けてしまうんだ。おお・・・おそろしい・・・。だから絶対に入らない」


イェアメリスはきょとんとして傭兵を見た。


「え? じゃあ、お風呂はどうするの。お風呂入らないと臭くなっちゃうわ」


「それはエルフだからだ。エルフは臭い。ジャ・ラールは朝起きるとファーファーの匂いが自然とするんだ。だから水は必要ない」


「ちょっと! エルフが臭いって何よ。お風呂入らなかったら臭くなるの当たり前じゃない」


「だから、ジャ・ラールには不要だと言ってる。家にはドゥーマーの毛皮が綺麗になる機械を持っているから」


「嘘よ、絶対そんなものある訳無いわ!」


不思議な言い争いをする二人を見て、テルミンが加わってきた。


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「そうだ! せっかくだからあんたらも温泉行かねぇか? じいさんの腰にもきっと良いはずだぜ?」テルミンはこの前話していた温泉・・・サレシ農場の先を下った先にある、ダークウォーター・クロッシングのことをまた持ち出してきた。「連れのじいさん、長旅辛そうだぜ?」


「だめだだめだ! 水につかるなんて絶対だめだ!」
慌てたようにジャ・ラールが首を振った。


「キナレスにかけて、ぜーったいそんなことないわ」


「水に入ると溶けてしまう!」


「あたしは錬金術師よ、保証するわ」


「カジートはそんなツルペタの言うことは信じられない。水は危険なんだ。カジートを陥れる罠なんだ!」
戦闘では大剣と魔法を使いこなす頼もしい傭兵が、滑稽なほどおどおどしている。イェアメリスはいろいろ突っ込んでみたが、ジャ・ラールは本当に水を恐れているようだ。そういえば、帝国軍の補給哨塔でも、彼は決して水に近づこうとしなかった。


「流水を恐れるなんて、まるでおとぎ話の吸血鬼ね。でも実際は吸血鬼だって水はへっちゃらよ?」


「吸血鬼の事なんて知らない」


「でも飲むのは平気なんでしょ?」


「いいから、とにかく指輪は返す。もう水の話はしないでくれ」
ジャ・ラールはそう言って、指輪をイェアメリスに返すと、駄々っ子のようにぷいっと横を向いた。


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「でもお礼が・・・」
その様子を見てリサードが取りなすように言った。顔は笑って面白そうにジャ・ラールを見ている
「カジート達も、お嬢さんのお陰で怪しげなアルトマーの帝国軍を素通りさせてもらえたから、おあいこじゃないかね?」


「ま、まあそうだけど・・・」イェアメリスはまだ納得しかねる顔だ。「まさかおじいさんまで、水はだめだなんて言わないわよね?」


「当然じゃないか。リサードは風呂は大好きだよ」


「やっぱりジャ・ラールさんがおかしいのね」


「自分で言ってたじゃないか。カジートは迷信深い、って。きっと子供の頃にでも何かあったんじゃないかね」
リサードはそう言うと、頼もしい連れに笑いかけた。


「ジャ・ラールはもうその話はしたくない」


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テルミンは諦めず、リサードの方を誘った。
「じゃあじいさん、一緒に温泉行こうぜ!」


「姐さんすまんのぅ。やはり仲間が気になるから、リサード達は先に行くことにするよ」


横では御者がイライラし始めていた。行くのか行かないのかはっきりしてくれと言わん顔だ。リサードは二人に笑いかけると、ジャ・ラールを促して、馬車の荷台によじ登った。


「行っちゃうのね」


「ああ、こういう時はさっぱりと。あまり引っ張ると別れにくくなるよ」
ゆっくりと馬車が動き出す。「今日中にはリフテンに着いてしまいたいからね」


まだまだ話したいことはいっぱいあったが、リサードの言うとおりだ。涙もろいイェアメリスだと尚更だ。彼女はおとなしく、出発する二人を見送ることにした。


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「おじいさーん! 呪文教えてくれてありがとーう!」


イェアメリスは仲間と共に、去って行く二人のカジートに手を振る。
残ったのは四人。アスヴァレン、テルミン、アーセラン、そしてイェアメリスは、目の前のサンガードに向かって歩きはじめた。




・・・



サンガードは橋の袂に作られた帝国軍の検問所であった。


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過去にまず街道が整備され、その検問所に辺りの農夫達が作物を持ち寄りはじめた。この橋は周りに点在する農園とも近く、人が集まりやすい場所に位置していたためだ。互いに交換したり取引をしたりするうちに、どんどん人が増えて市が立ち、結果的にそこに街が生まれる。そういう生い立ちであった。


形だけで言えば昨日通過してきたニマルテンの町と似ていたが、あちらは既に廃墟・・・明暗を分けたのはその立地だろうか。


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元が検問所というだけあって、城壁内部はあっけないくらい狭い。彼女たちはリサード達と別れて三十分もしないうちにサンガードの城壁内部を通り抜けてしまった。


城壁内部の一角は中心部にすぎず、実際街の機能は橋と川の両側に点在する農家や商店、それらを含めた一帯が果たしているのであった。


彼女たちが目指している郊外のサレシ農場も、その中の一つだ。ちょうど故郷のキルクモアの街に対する、イェアメリスの小屋と同じような位置関係であった。街の一部と言っても差し支えないぐらいだ。


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テルミンは勝手知ったる土地に戻ってきて、安心したように伸びをしながら欠伸を放った。


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「・・・にしても、急に静かになっちまったなぁ。ネコ達もいなくなっちまったし、アーセランはおとなしくなっちまったし・・・一番賑やかなのはアタイだろうけど、話し相手が居ないとなぁ・・・」


テルミンは振り返ると、後ろからアスヴァレンとアーセランが着いてきているのを確認する。


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ダンマーの錬金術師が無口なのは仲間内でも有名だ。しかしいつもしゃべっているボズマーの商人が黙っている姿には、そこはかとない違和感がつきまとっていた。アーセランは要らぬ詮索をしてくる上に素行も悪い同行者だが、彼と交わすとりとめも無い憎まれ口の応酬は、イェアメリスの背負っている重い現実を紛らわせるのに一役買っていることは間違いなかった。


「あ、もしかしてここって、テルミンが話していたお昼寝の城壁?」
トレヴァ川に向かって張り出した展望台を見て、イェアメリスは思い出した。


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「そうだぜ。今日も天気良いから気持ちいだろうなぁ」


彼女は橋を渡りながら、城壁にしつらえられた展望台を観察する。
「落ちたのって、あの下に? ずいぶん高いわね」


城壁下ではトレヴァ川の水面が輝いている。展望台からは眼下の川に向かって階段や桟橋が伸びており、ゲイル湖の東端に船を出すことができるようになっていた。


「ああ、あんときゃ思いっきり目が覚めたぜ。ジャ・ラールの兄さんだったら死ぬー、死ぬー、って大騒ぎだろうな」
テルミンは笑いながら、見知った街を先導していった。


遅れて着いてくるアーセランが気になって、イェアメリスは振り返った。
ボズマーの小柄な商人は、イヴァルステッドを出てからほとんど喋っていない。イェアメリスと喧嘩して気まずくなっていたというのもあるが、これまでの彼の態度から見たら明らかにおかしい。


思い切って彼女は声をかけてみた。
「どうしたのアーセラン。・・・やけに無口ね」


「ん、ああ・・・」
帰ってきたのは生返事だ。


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「私もう怒ってなんかないわよ?」
追いつくのを待って顔を覗き込む。


「いや、違うんだ・・・ちょっと考え事があってよ」


「何考えてるのよ。またあの仮面のこと?」


「ちげぇって。それにあれはもう燃やしちまったじゃねぇか」彼は無理矢理話題を変えるように、逆に聞いてきた。「それより、もう歩いても大丈夫なのかよ?」


言いたくないことを無理矢理聞き出されそうになって昨日は喧嘩になってしまった。同じことを今度は自分がしてしまう訳にはいかない。彼女は素直にアーセランが変えた話題に乗っかることにした。


「随分マシになったわ。最初はすごい痛くて足を着くこともできなかったんだけど・・・。思ったよりも軽かったのかしら」


「それは良かった」
アーセランは少し考えるような素振りの後、イェアメリスに頼み込んだ。


「なあ、さっきの指輪、俺にくれねぇか?」


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「えっ?」イェアメリスは思わぬ申し出に面食らってボズマーを凝視した。「この水中呼吸の指輪?」


「そうそう、それ! な、いいだろ?」


指輪を手のひらでコロコロしながら、彼女はアーセランの様子を伺った。何を考えているのか分からない。
「どうしてまた。水中呼吸・・・海探の薬ならまた作ってあげるわよ?」


「いや、そうじゃなくって・・・オレっちも何か一つ、特技が欲しいと思ってよ」


「どういうこと?」


アーセランは少し離れた所にいる長身のダンマーと、ノルドの女戦士の脳に顎をしゃくった。
「アスヴァレンのダンナはすごい剣持ってるし弓も上手だ。姉御の方もいっぱしの戦士だろ。それにメリスちゃんは錬金術師で何かしらねぇが、すげぇマジカ持ちだ。・・・オレっちは特に取り柄も無いから、なにか特徴になるモノが欲しいと思ってな」


上目がちに彼女を覗き込んでくるアーセランの目は、きょろきょろと泳いでいた。
きっとウソだろう。イェアメリスはそう思ったが、軽く息を吐き出すと頷いた。


「あたしが使うこともないだろうし、あんたが持って役に立てるっていうなら、譲ってあげてもいいわ」
イェアメリスはアーセランに指輪を渡してやった。


「やった! 本当か?!」
アーセランの目がぱぁっと明るくなった。そして差し出された手をみて、訝しげに問う。


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「で、なに、その手は」


「20セプティムでいいわ」


「マジかよ、金取んの?!」


「当たり前でしょ! あんたジェハンナの街で朝食タダ食いしたし、手形代で騙したし、それぐらいは誠意見せてもらわないと」


「うぁ~、根に持つなぁ・・・」


「いいわよ、それじゃあげないから」


アーセランは渋った顔で考え込んだが、やがて意を決したように支払いに応じた。水中で呼吸ができるようになる指輪は、彼を待っている王の宝・・・海に沈んだ古代のルドの寺院を探索するには欠かせない道具になるはずだ。凍死としては悪くない。


「よし! オレも男だ。その指輪買った!」


イェアメリスはイェアメリスでニヤニヤしていた。
「なに? メリスちゃん何ニヤニヤしてるの?」


イェアメリスは得意げな顔で胸を張った。
「とうとうあんたにお金を払わせた、そう思うと嬉しくなってね」


・・・そう、彼女の財布は島を出てからこれまで、お金が出ていく一方だったのだ。その大半がアーセランのせいで。
イェアメリスは勝ち誇ったような顔で上機嫌に言った。


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「悪徳ボズマーからようやく取り返したわ。まだちょこっとだけど」


「ひでぇ言われようだな」言ってるアーセランの方も不機嫌な顔はしていない。懐から取り出した細い鎖を指輪に通すと、大事に首にかけた。


「なんで指にしないの?」


「大事なものは見せつけるようなところに身につけない方がいいのさ」


「ふ~ん。それもあんたの生活の知恵というわけ」


「ま、そんなとこだ」そう言うとニヤけた顔を戻し、次の話題と言わん調子で彼は続けた。「で、メリスちゃん、もうすぐ目的は達成できるんだろ?」


「ええ、この先の農場で買い付けしたら後は戻るだけよ」


「じゃあ、またホワイトランを通るんだよな」
彼女はボズマーの目に、少し期待に満ちた光が宿ったように感じた。


「ソリチュードまで戻らなければならないから、たぶん通るとは思うけど・・・」


「通らねぇぜ」


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いきなり横から投げつけられた否定に、二人のエルフは振り向いた。声を発したのはテルミンだった。


「それってどういうことだよ、姐さん」


イェアメリスもよく理解できずに、女戦士の次の言葉を待つ。


「アスヴァレンの兄さんと話してたんだけどな、来た道を戻るのは良くないと思ったんだ」


「どうして? もう竜司祭も、あのサルモールも出ないでしょ?」


テルミンは足元を指さした。ように見えたが、指しているのはイェアメリスの脚だった。「メリス、お前いまの自分の脚であの山道を戻れると思ってるのか?」


「そ、それは・・・」
まだやっと歩けるようになったばかりだ。ソリチュードからほぼ五日でサンガードまで来るような強行軍をもう一度繰り返すことは到底不可能だった。


「だろ? だからやっぱり、サレシ農場の後は馬車で道を下ってダークウォーター・クロッシングに出る方が良いんだ。べ・・・べつに温泉浸かって酒飲みたいからじゃねえよ。・・・あっ! メリスの足にも、温泉効くかもな。合理的に考えて・・・合理的に、だったよな」慌てたようにアスヴァレンの方を振り向くのを見て、イェアメリスは笑った。


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アスヴァレンはテルミンの言葉を補って、歩きながら説明した。


「ああ、そうだ。テルミンが言うにはダークウォーター・クロッシングのすぐ側に流れているのはホワイト川の支流らしい。そこで艀を調達できれば河口のウインドヘルムまであっという間にたどり着ける。ペイル方面は危険だから、ウインドヘルムからまた船を・・・それこそ東帝都社の商船でも掴まえて乗り込めば、歩けないお前でも速度を落とさずソリチュードに帰れるというわけだ」


「な、良い案だろ?」
大半の説明をしてもらったテルミンは、念押しだけ付け加えてニヤッとした。


「他には、馬車に乗るまでは同じだが、その馬車で主街道を延々と走ってホワイトラン経由で戻る、と言うのもある」


「それが良いじゃねぇか。な」
アーセランは飛びついた。


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「いや、そっちは問題がある。ヴァルトヘイムだったか? 行きにやり過ごしたあの山賊の塔を越えなければならないそうだ」


「押し通るって言ってたじゃねぇか」


「今はアルフもネコもレッドガードもいない、メリスも足を怪我しているからいざというときに逃げることもできん。戦力は半分以下と言ってもいい。危険はなるべく避けるべきだ」


「ちぇっ、ホワイトランはまたお預けかよ・・・」


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そうこう話しているうちに次の立て札に辿り着く。


草に覆われた枝道が右手の丘に伸びており、その先には農家らしい建物の屋根が見えてきた。イェアメリスは足が痛むのを感じたが、最後の頑張りとばかりに丘を登ってゆく。所々に柵が現れ、風車の粉ひき小屋まで来ると、彼女は立ち止まった。誰か居ないかと辺りを見回す。




「誰かいませんか~?」


家畜らしき山羊や鶏がのんびり歩いているが、人影がない。彼女は呼んでも返事がないので、小屋の扉をノックしようとした。そのとき、ダンマーらしき娘が粉ひき所から出てきた。


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「はい、セラ?」


挨拶をされて、イェアメリスは振り返った。伯父のセロもよく使っていたモロウウィンド式の言い回しだ。


「あ、あの・・・こんにちは。あなたこの農場の人?」


「ええ、アデュリよ、セラ。姉さんの農場に用かしら?」


「姉さん?」


「うん。あたしはただの手伝い。早いところ・・・まあいいわ」アデュリと名乗ったダンマーは、顎に手を当てた。「それにしても、今日はお客さんが多いわね」


「お客さん? あたし達以外にも誰か来ているの?」


「そうよ、奥で姉さんが対応しているわ。何か取引がしたいなら、そちらに行って」


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そう言うとアデュリは、まるで散歩でもするように丘の方に歩いて行ってしまった。農作業とは無縁の、背筋をピンと伸ばしたまるで貴族の娘のような歩き様だ。


アデュリに言われた奥に進むと、いくつかに区切られた畑が姿を現した。よく耕された地面にはウリやカボチャなど農作物が植えられている。脇からはサラサラという音が聞こえる。水利のために丘の上の湧き水を農地まで引いているのだ。農家と言えばキルクモアのアガルド農場ぐらいしか知らないイェアメリスであったが、そんな彼女でも一目で手間暇苦労が掛かっている農園であることが分かった。今のアデュリと言う娘がやったようにはとても見えないが・・・


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イェアメリスは少し屈むと、ポーチの脇から取り出した小さな瓶に水を汲んだ。ここの湧き水は透き通った特有の透明度だ。水源に近いために土や藻のような混じり物が一切無い。蒸留しなくても錬金に使えそうな純度だった。


「水はすごい綺麗。澄み切っているわ。でも・・・普通の農園みたいね」


「いや、奥のあれを見てみろ」
アスヴァレンが指し示した先、作物の畑の脇を流れる小川を遡って行くと、折れ曲がった先に何かある。別の畑だ。


その畑はぼんやりとした光に覆われていた。


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「何か光ってるわ」


「あれがニルンルートだろう」


「なんだか、耳がキンキンするわ」


近づく彼女たちの耳をフィーンという高い音がくすぐった。”さえずる株”と言われる不思議な植物。錬金素材のニルンルートの特徴だ。滅多に驚かないアスヴァレンが、素直に感動を現す姿を彼女は見た。


「おお! 栽培されていると言う話は本当だったのだな」


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「やっと・・・やっとついたわ」


緩やかな風が吹くと、足下の霧が流されてゆく。彼女は上を見上げ、農場に降り注ぐ太陽の恵みを全身で感じた。


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彼らは、とうとうニルンルートが栽培されているというサレシ農場に辿り着いたのであった。




(第13話につづく・・・)



※使用mod


・イェアメリスのお家mod
 なんと、お世話になっているたまごボーロさんが、メリスのお家を作ってくれました!
 イヴァルステッドの外れのゲイル湖のほとり、風光明媚な場所に建つお家です。
 こぢんまりとした中にも、凝った内装があり、とても落ち着いた雰囲気です。
 この場を借りてお礼申し上げます。ありがとう!そしてありがとう!
 ※またExtraでも紹介したいと思います(´ω`)


・MSZ_Velith v.MQ based on Follower Velith v1.4
 なんとお世話になっているMisuzuさんが、リクエストに応じて持ちキャラのヴェリスさんをアレンジして、女帝カタリアを作ってくれました!
 カタリアは、ポテマの呪いで精神を病んだペラギウス3世の妃にして、中期セプティム朝を立て直した女性です。バレンジア女王に並んで、タムリエルの歴史に大きく関わったダンマー(ダークエルフ)の才女ですね。
 信じられますか? これ同じキャラなんですよ(゚ロ゚)!

 Misizuさんのキャラはこちらです→https://msz-misuzu.jimdo.com/msz-skyrim-mods/followers-characters/


・SoranatsuFollowers v3.0( Nexus 84867 )
 ポテマ女王を作って頂いたりと、お世話になっているそらなつさんのフォロワーです。
 ウインターホールドの大学生という役で、ルーシーさんにエキストラして頂きました。
 そらなつフォロワーの中ではもきゅイチ押しの娘さんです(*´ω`*)


・OK_Custom Voice Followers v1.0.9( Nexus 80852 )
 お世話になっているokameさんのフォロワーです。言わずと知れた超人気フォロワーの一人ですね^^
 大学撮影してたら、普通にフロアに居たので、急遽集まって頂き撮り直しました。
 撮影に使用したバージョンは、少しだけ前の物です。
 それにしてもWH大、女子レベル高けぇ・・・(´◉ω◉` )


・Mei follower v1.1
 お世話になっているりささんのフォロワーです。

 今回はリフト圏ということで、街のエキストラさんとして溶け込んで出演頂きましたヾ(๑╹◡╹)ノ" 服で目立っちゃってますがw
 リサさんのブログでは、この娘を主人公とした盗賊ギルドのお話を読むことができます。
 ゲーム内ではクリアしたのですが、あまり深く掘り下げたことのないギルドなので、とても新鮮で先が楽しみです。

 りささんのキャラはこちらです→http://lisa.chips.jp/archives/631

 

・tuzi( 謎の生き物 )
 うさぎ?を追加するmodです。
 ネロス爺にもらってイェアメリスが子供の頃に飼っていたうさぎ、という設定ですw
 この頃はまだ、ぷぅちゃんが居ないので、その代わりのペットとして使ってみました。
 お世話になっているTRE-MAGAさんのところで紹介されています。
 こちら→https://tre-maga.com/3163


・Puppeteer Master v1.6( Nexus 10870 )
 プレイヤーとNPCに魔法で一般的なポーズをとらせることができるようになるmodです。
 寝っ転がったり、物を書いたりと、日常シーンの撮影に重宝しています。

 宿屋でブラッキーへの手紙を書いたり、ちびメリスが本を読んでいるのはこのmodの効果です^^


・Better Fast Travelv3.76 ( Nexus 15508 )
 馬車の配置を増やし、主要都市以外にも行き来できるようになります。
 また、値段やFTの制御なども可能なオーバーホールとなっています。


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4 Comments

フカヒレ  

今回も楽しく読みました!

もきゅさん更新お疲れ様です!
アルフ君やジャ・ラールさんとの別れ、リサード翁のどこか達観した話し口など今回も見所がたくさんであります。タムリエルの地理や歴史を勉強できて為になるなる~。

魅力的なフォロワー&バニラキャラがたくさんですが、ほぼ全員に見せ場を作っているのは何気に凄いことだと思います。表情や目線もちゃんと考えられているクオリティの高さよ!
次の更新も楽しみです。温泉回くるか?くるのか!?

それにしても水に怯えるジャ・ラールさんがとてつもなく可愛いw

2018/03/04 (Sun) 00:23 | EDIT | REPLY |   

sasa  

こんばんわ、相変わらず海外に監禁中のsasaです。
もきゅさんの圧倒的な文章量にまず度肝を抜かれ、1コマ1コマの丁寧な心情描写はホントに素晴らしくとても勉強になります。イェアメリスちゃんに恋をせざるを得ない。1話からしっかり読み込ませて頂きます!(*´ω`*)

2018/03/05 (Mon) 23:04 | EDIT | REPLY |   

もきゅ~(๑╹ω╹๑ )b  

>フカヒレ さん

一応、ロアとは整合するように気をつけていますが、所々大胆に解釈したり思い切って変えたりしちゃっている所があるので、要注意ですよ~w
Tes上は女帝カタリアと東帝都社の関係に言及した書き物は存在しませんし(私の知っている限りでは)

元老院の権力増大+自分は外戚から即位+ダンマー=黒檀=禁制品+外遊ばかりしていた+治世は安定+最後は小競り合い中の暗殺+東帝都社と皇帝には関わりがある・・・とパーツが揃っていたのでくっつけて解釈つけた結果です。意外とそれっぽいでしょ? こういう隙間に余地が残されていて、想像遊びができるのがTesシリーズの好きなところです。

ジャ・ラールの水嫌いは、実際の作者さま(しゅんさん)の実況でよく見られる光景です(゚∀゚) キャラのパーソナリティ作りがうまいので、とても勉強になります。

温泉回、来ちゃいますよ~!
・・・って、ツイでそれっぽい絵をリークしちゃいましたしねw
温泉回とは別に、姐さんの意外な?一面を見せる回も準備していますので乞うご期待ヾ(๑╹◡╹)ノ"

2018/03/17 (Sat) 07:43 | EDIT | REPLY |   

もきゅ~(๑╹ω╹๑ )b  

>sasa さん

海外おつかれさまです。頻度がすごいですね。

今回は別れの連続でしたが、難しかったです。
手前味噌なキャラですが、イェアメリスを気に入ってくれる方が居るというのはとても嬉しいです(〃'▽'〃)

ちょっと脇目を逸らすとすぐに心情描写から遠ざかっちゃうので、なるべく主人公視点で固定して、あとは読み書きの経験値ためるしかないですかね…。心理描写は私も苦手なので、いろいろな作品(主に映画)を見たり、子供の卒業式に出たりと、涙活しているところだったりしますw

バニラもmodも、使わせて頂いているキャラがみんな魅力的なので、泣く泣く描き直したりカットする脇役シーンもわんさかだったりw

sasaさんのお話も、スリリングで楽しみですヾ(๑╹◡╹)ノ"

2018/03/17 (Sat) 07:48 | EDIT | REPLY |   

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