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4E201

TES大好き、もきゅがスカイリムの物語をお届けします

◆Chapter 2-11: 疑惑

2018
22

帝国軍の廃棄した雪山の中の哨塔・・・


世界のノドをショートカットしてイヴァルステッドに向かう途中のイェアメリス達は、案内役ジャ・ラールが勧めるこの塔で一晩を過ごすことになった。雪を払い落として塔内に入り中を確認した彼らは、先客がいる事に気がついた。


男は灯火の光に煩わしそうに目を細めながら顔を上げた。筋肉質でよく鍛えられており眼光も鋭い。兵士か何かのようにも見える。


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イェアメリスは男が立ち上がるのを見て一歩後ずさった。島を出てくる前、自宅の地下室で初めてブラッキーと出会ったときに襲われたことを思い出したのだ。


「そういうお前は何だエルフ。名を尋ねるときにはまず自分が名乗るのが礼儀だろう」


イェアメリスは音を立ててつばを飲んだ。


「あ、あたしはイェアメリス。れ、錬金術師よ。仲間と旅をしている最中なのだけど、今日中にはこの雪山を抜けられないから、夜を越すために立ち寄ったの」
気圧されたのを取り戻すように気丈に振る舞うが、仲間がいなければおぼつかないような口調にしかならなかった。


「俺はレオナール。見ての通りレッドガードだ。ドーンガードの力を借りるためにスカイリムに来た」


「ドーンガード?」


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アスヴァレンがイェアメリスの後ろに立って支えた。
「吸血鬼と戦うための戦闘集団だな。確かリフテンの先に本拠地があったと思うが・・・」


レッドガードは頷いた。
「そうだ。そこを目指している」


「でも、レッドガードがこんな寒い国に来て大丈夫なの?」


「お前たちの薄着を見ていると、その質問はおかしく聞こえるが・・・答えは、イエスだ」
レオナールと名乗った男は、自分のことを簡単に紹介した。彼は最近ハンマーフェルからやってきたらしい。


「オレの故郷はハンマーフェルでも一番の寒い土地でな。正直、スカイリムと変わらんよ」彼の出身地、モレアス公国はスカイリムのすぐ西側に位置し、ファルクリースと国境を接する山岳の国だった。公国はジェラール山脈とドルアダッチ山脈が交わる辺りの一帯を領有しており、降雪も盛んで気候はスカイリムとあまり変わらなかった。


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「ドーンガードに用があるということは・・・やはり吸血鬼がらみか」


「・・・ああ」男は少し考えると続けた。
「モレアスでは宮廷の要職にあるヤツの行動が最近怪しくてな。吸血鬼化したんじゃ無いかと言われているのだ・・・」


アスヴァレンとイェアメリスは顔を見合わせた。宮廷の要職が吸血鬼。どこかで聞いたことのある話だ。ファリオンの語ったソリチュードの吸血鬼の話と重なる。
「似たような話を旅の途中で聞いたけど、最近は吸血鬼が勢力を伸ばしているの?」


「分からぬ。オレたちにはそう言った知識や経験は全くない。我らの神トゥワッカは死霊術を禁じているからな」
レッドガードの信仰する魂の神トゥワッカ。その教義の中では邪法の中でも特に死霊術を禁じていた。


「だから専門家が必要なのね」


「そういう訳だ」


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取り敢えず旅の利害も衝突することはなく、互いに危険を及ぼす存在では無さそうだ。そう認識すると、先住者と侵入者は互いに緊張を解いた。


決して打ち解けてはいないが、落ち着いた時間を過ごすことに異論を挟むものは誰も居ない。哨塔は収容人数を考えるとやや手狭だが、彼女たちは思い思いの場所を見繕い、いくつかの小集団に分かれて夜を過ごすことになった。


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「だろ? やっぱりホニングブリューが一番だって!」


「アズラにかけて、毛無しの女戦士とは気が合いそうだ」
ジャ・ラールとテルミンは崩れた井戸に腰掛けると、蜂蜜酒を共通の話題に意気投合して盛り上がっていた。


「カジートも完全同意だ。メイビンは胸の悪くなる汁などと言って貶しめているが、ブラックブライアの方こそ、ジャ・ラールに言わせれば泥水だよ。泥水。やっぱり蜂蜜酒はホニングブリューに限る」


賑やかな二人の横では、アルフレドがアスヴァレンたちと装備の点検をしていた。


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いつの間にか仲間の人数は倍に膨れ上がっている。特に誰がリーダーということは決まっていなかったが、彼はホワイトランの国境を越えるまでは自分の役目だと任じていた。・・・もっとも、この旧街道の雪山に入ってしまってからは、どこまでがホワイトラン、そしてどこからがイーストマーチ、もしくはリフト地方かという境界はかなり曖昧になっていたのだが・・・。


リフト地方に入ってからはテルミンが案内するから心配するな、と言われていた。しかし当のテルミンは既に相当酔いが回っている。野営地での一件のように機転を利かせたり、ものの道理をわきまえた賢い行動を見せたりもするが、一方では思慮分別を欠くただの酔っ払いにも見える。彼はこの女戦士を今ひとつ測りかねていた。


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剣を磨き終わると、アルフレドはまた別の一角に目を向ける。そこではレッドガードの戦士が落ち着かない様子で腰を下ろしていた。無理もない、急に七人もの訪問者が現れて哨塔を占拠してしまったのだ。しかしそれでも彼はいらいらを表に出すことなく、隠密行動に慣れているかのように物静かに休んでいる。この抜き身の刃物のような鋭さを持つレッドガードも油断ならなさそうだ。アルフレドは一行の面々を横目で流しながら、取り敢えずイヴァルステッドまでは自分がしっかりしなければと思いを新たにするのであった。




・・・




入り口近くの階段ではイェアメリスとリサードが休んでいた。狭いところに大人数。静かなところとは言いがたいが、こういう雰囲気は嫌いでは無い。しかしその雰囲気を味わうわけでもなく、レッドガードとはまた別の理由で、彼女もそわそわしていた。物思いができるような状況になると、どうしても呪いのことが思い出されてしまうのだ。
昨日、症状が進行するさまを体験してからというもの、心の片隅にあった疑い・・・もしかして呪いはただの脅しではないか・・・という思いは粉々に砕かれてしまった。
サルモールに仕掛けられた呪いは確実に彼女の肉体を蝕んでいる。その決定的な証である胸の傷穴がじくじくと痛む。随分慣れてきたとはいえ、意識を集中すると虚実ない交ぜの痛みに苛まれた。


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彼女は、帝国軍の野営地で会った若い戦士・・・ハドバルの抱えていた虫歯の痛みも同じようなものなのだろうか、と想像して気を紛らわせようとしたが失敗し、半分身体の力が抜けたように、ぺたんと石段に腰を下ろした。


「お嬢さん、大丈夫かね?」


心配そうにリサードが声をかけてくる。「雪道は思ったよりも体力を奪う。慣れないと脚に来るよ」
リサードはゆっくりと石材に腰を下ろしながらエルフの娘を見た。


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「あら、知らなかったの? あたし、ボズマーなんかよりもずっと野原を進むのには慣れているのよ。カモシカみたいに走り続けられるんだから」イェアメリスは痛みから気を逸らそうと、不自然な笑いを取り繕った。


「それにしては、お尻に根っこが生えてしまったみたいじゃないかね?」


「あはは、そんな風に見える?」


「ああ、カジートには具合が悪そうに見える。もしかして昨日の・・・」


「シィッ!」


慌てて彼女はカジートの老人に口止めした。「違うの、大丈夫よ。めまいがするのは、きっとあのスクゥーマのせい。まだ身体から抜けきってないんだわ・・・」


リサードは声を落としてイェアメリスに微笑みかけた。あんな少量のスクゥーマが及ぼす影響はたかが知れている。彼女にはもっと根本的な問題があるに違いない。


「お前さんは大事な何かを抱えているんだね。仲間に言えなくて苦しんでいる・・・」


イェアメリスは感謝するように、毛に覆われたカジートの手に無言で自分の手を重ねた。


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「リサードは聡明だ。少なくともカジートの中ではね。毛無しの人間達と過ごした時間も長いからよく分かる。なにを言っていいか、何を言わない方がいいのか。カジートには無い習慣だから、理解するのに随分時間がかかったよ」


「ありがとう。おじいさん」
少し涙ぐんだエルフの娘を見てリサードは話題を変えるように、立ち上がった。階段を降りて仲間の見えるところまで来ると、今度はわざと大きめの声で話しかける。


「そういえば、お嬢さんは魔法が使えるみたいだね」


「え、ええ。残念ながら先生に言わせれば、あんまり才能は無いみたいなんだけどね」ちらりとアスヴァレンの方を見る。彼はアルフレドとアーセランになにか話している。少し奥では再び、テルミンとジャ・ラールが先ほどの蜂蜜酒談義の続きを始めていた。老人と娘のコソコソ話に興味を引かれたものは居ないようだ。


「おじいさんは使えるの?」


「リサードもあまり得意じゃ無いんだが、旅に便利なものは一通り覚えておるよ、ほら」そう言って灯火の呪文を唱える。


「あはは、一緒ね」


続いてカジートが何やら呟くと、なんとなく周囲が暖かくなった。
「これをしておかないと、スカイリムの寒さは腰に響くんだ」


「あら? その呪文ってもしかして・・・?」


「ん? 知っておるのかね? 防寒のために使う”狼の毛皮”の呪文だよ」


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「おじいさん、あたしにそれ教えて!」


素っ頓狂な声を上げた彼女に、何人かが何事かと振り向いた。


ウルフスカルやキルクリースの雪山越えで、ナターシャが使っていたのと同じ呪文だ。イェアメリスは市場で捜し物を見つけた娘のように、目を輝かせた。


興味を引かれたアーセランが茶化しに来る。


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「おっ、魔女が魔法の勉強か?」


「うるっさいわね。あんたは黙ってなさい」


(Jun Dahmaan・・・)


「なんだと、この・・・おっ・・・」


言いよどんだアーセランは驚いたような顔をした。


「なによ」


「王が帰還する・・・?」


「は? あなた何言ってるの? 頭大丈夫?」


「い、いや・・・空耳みたいだ」


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「いいから、邪魔しないで。この魔法を習うのは、あたしにとってすっごく大事なことなの」
ちょっかいを出してくるアーセランを邪険に追い払うと、彼女は真剣な表情でリサードに向き直った。


「スカイリムを旅するんだったら覚えておいて損はない。この呪文はな・・・」
身振りを交えてカジートが魔法の講義をする不思議な光景が始まる。追い払われたアーセランは隅の方に一人引っ込んで、懐の中に手を突っ込みはじめた。物静かなアスヴァレンはいつものように壁にもたれて本を開く。
思わぬ遭遇があった一行は、こうして雪の中の哨塔で一晩を過ごしたのだった。




・・・




次の日、日の出と共に哨塔を出発した彼女たちは順調に歩を進め、既にかなり距離を稼いでいた。
世界のノドの北側から東側に回り、峠を越えたことで道も下り坂に変わっている。標高が低くなってきた証拠に、一行の歩く足下の雪も気持ち減ってきて、少しずつ土が見えるようになってきた。自然と旅の速度が上がる。


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一行の中には、新しい顔ぶれであるレオナールも加わっていた。彼は行く先が途中まで重なっていたこともあり、人数が多い方が旅の安全は増すということで、彼女たちと同道することになったのだ。


雑談しているジャ・ラールとテルミンを横目にしながら歩いていると道は崖沿いに変化し、片側が大きく開けている場所に出た。眼下に広がるのはイーストマーチの大半を占める火山性の温泉地帯。その北のはずれにホワイト川の河口が連なっていた。


「あの遠くに見える像は何?」
イェアメリスが指す先、遠く山中に巨大な像が建っている。巨大だと感じたのは、これだけ離れた所からでも充分見えるからだ。


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「あれはカジート達の創造神、女神アズラの像だよ」


「建てたのはダンマーだ」


アスヴァレンがむすっとした顔でしっかりと念を押す。イーストマーチを挟んで北の山中に見えるこの女神像は、レッドマウンテンが噴火するというアズラの預言を受けて、いち早くモロウウィンドから避難してきたダンマーたちが、続く同胞達の心の拠り所になるようにと建立したものであった。


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入植先のイーストマーチとウインターホールドでは当然のことながらノルド達との間で一悶着あったが、時の上級王がダンマーの難民達のためにソルスセイム島"まで"譲渡すると決定した後はそれどころではなくなり、この像に対して不満を述べる者は誰もいなくなったという。


「元はと言えば、黒い毛無し族が悪いんだ」ジャ・ラールは負けじと言い立てた。「女神アズラへの信仰を怠った黒い毛無し族を罰するために、神が起こした噴火じゃないか」


「神か・・・神とは言ってもデイドラ王の仕業だがな」


アスヴァレンは彼女のとなりに来ると、遠くのアズラ像を並んで眺めた。


「オレは宗教や歴史にはあまり詳しくないが・・・、確かにその猫の言うとおり、神学的にはレッドマウンテンの噴火は神・・・デイドラの仕業だ。そして物理的には・・・麓のヴィベクシティに隕石が墜落した衝撃が原因と言われている。隕石は第2紀の583年に狂気のデイドラ王、シェオゴラスが空から投げ込んだと記録されているが、何を思ってのことかなど、オレたち定命の者には計り知れん」


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「デイドラ王は姉妹のために罰を下したんだ。カジートはそう思うよ」


一緒に聞いていたアルフレドは首をかしげた。
「でもおかしくないか? レッドマウンテンの噴火はもっと後、第4紀に入ってからだったと思うが・・・」


「ああ、少し話が複雑でな・・・シェオゴラスの放った隕石を受け止めた者がいるのだ」


「隕石を?! そんなこと出来るわけない」


「ああ、当然普通の人間には無理だ。・・・それを行ったのはトリビュナル・・・現人神だ」


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アルフレドとイェアメリスがきょとんとしていると、アスヴァレンは補足した。


かつてダンマーがまだチャイマーと呼ばれており肌が黒くなかった頃、神の力を手に入れたチャイマーが三人いた。それに腹を立てた女神アズラによって種族全体は呪われて、黒い肌となりダンマーと呼ばれるようになった。


その原因を作った三人・・・ヴィベク、アルマレクシア、ソーサ・シルは人心をうまく操作して自らを崇めさせ、現人神と呼ばれるようになり、アズラの代わりに長らくダンマーの信仰の象徴になった。


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「隕石はトリビュナルの力によってダンマーの首都、ヴィベクシティの上に留め置かれ、真理省という名前で呼ばれるようになった」


「随分と隕石らしくない名前だな」


「ああ、中をくりぬかれてオーディネイターの監獄として使われたんだ。そのときつけた名前らしい」


「待ってくれ、色々な言葉が出てきて頭が・・・オーディネイターというのは何だ?」


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「・・・ん、ああ、すまん。オーディネイターというのは、ヴィベク教団の宗教騎士団、もしくは異端審問局のようなものだ。真理省は彼らの本部であると同時に、トリビュナルに刃向かった罪人を収容する場所の呼び名だ」


「それが隕石の中に作られたって言うのか・・・にわかには信じがたい話だな」


「だがそれは確かに在った」
アスヴァレンは過去を懐かしむように少し目を細めた。


「ソリチュードのドール城地下みたいなものか?」


「ああ、だが真理省は空中にある分、一度収監されてしまえば脱出は不可能に近いだろうな」


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アズラのことで言い合っていたジャ・ラールも、彼らに混じって興味深そうに耳をそばだてている。アスヴァレンは仲間の理解を計るように少し間を置くと、続きを話し始めた。


「第2紀の終わりから第3紀終わりまでの間、真理省はヴィベクシティの上に浮かび続けた。モロウウィンドはその間、マッサーとセクンダに加えて、三つ目の月を持っていたことになるな・・・。で、3紀の終わりに三柱の現人神がアズラの遣わしたネレヴァリンという英雄によって滅ぼされる事件があり、我々の崇める神がトリビュナルから古のアズラに戻った。それは喜ばしいものだったが、一方で問題も発生した」


現人神が姿を隠した後、制御を失った真理省は元の隕石の特性を取り戻し、徐々に落下を始めたという。そんな中、ヴィベク神の後を継ぎ、隕石を保持する試みをする者がいた。当時の高名な魔術師である、ソルとヴュホンという二人の男だ。


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彼らはドゥーマー研究の成果と、自分たちダンマーが磨き上げてきた死霊術の技を揮い、真理省に囚われた罪人の魂を動力源とするインゲニウムという浮遊装置を作り出した。


インゲニウムの力により、人の魂を消費しながらではあったが、隕石は再び空中に固定され、墜落を免れたのであった。


「エルフは長生きと聞いていたが、その時代にいたんだな、あんたは」


「ああ、遠い昔の話だ・・・」


こういう話が大好きなアルフレドも、本で読むのではなく、実際の目撃者に話として聞かされることに戸惑いを隠せなかった。


「その頃オレはモーンホールドでバレンジア女王の宮廷仕えだったが、女王がヴィベク神に伺候に行くとき随行員としてヴィベクシティにも何度か行ったことがある。都市の上に浮かぶ真理省はたしかに不思議な光景でいつも見とれたものだ」


そして話は最後の場面に辿り着く・・・
二人の魔術師により保持されていた真理省であったが、第4紀の5年・・・あの運命の日、何らかの理由で浮遊装置インゲニウムが壊れ、とうとう墜落の時を迎えた。魔術師二人は行方不明、隕石墜落のその衝撃で、ついには休火山であったレッドマウンテンの爆発が引き起こされる。


モロウウィンドの大半の土地は炎と灰に沈み、人の住めない土地となった。


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「その先は、お前たちも知っての通りだ」


長身のダンマーは、アズラ像と反対側にある東の空を見るよう促した。4紀の初めに噴火したレッドマウンテンは、200年近く経った今でもモロウウィンドの上空に灰色の煙を吹き上げ続けていた。


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「まあ、遠い国の過去の話だ」彼は一息つくと、傭兵の方に向き直った。「次はアルフ、お前の番だ。このスカイリムの話はお前の方が詳しかろう?」


気を取り直したように、彼らは再び眼下の景色に目をやった。最初に見つけてアスヴァレンの話に繋がったアズラ像。その右側、もう少し手前に巨大な城塞が見える。


「見えるか? あれがウインドヘルムだ」
アルフレドが指さした先に、イーストマーチの州都でもある城塞都市が見える。周りが白い、雪に覆われているようだ。


「ウインドヘルム・・・たしか、イスグラモル大王の作った街・・・よね?」


「ああ、そして今はストームクロークの本拠地でもある」


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ホワイト川の河口西岸に港を持ち、背後を急峻な山、前面の峡谷を堀に見立てた天然の要害。ウインドヘルムは見る者に威圧感を与える重厚な造りをしていた。


「四つ目ね」


「四つ?」


「メレシス、ブロムジュナール、ホワイトラン・・・あたしたち、スカイリムに来たばかりなのに、古代ノルドの伝統的都市をもう3つも回ってきていると思ってね。そして今見ているウインドヘルムが四つ目。遠からず残りの町にも行くことになるのかしら」


霧にかすむ城塞都市を見下ろしながら、再びイェアメリスは感慨深げにスカイリムの景色に見とれた。「あとの残りはなんて言うんだったっけ・・・えっと」


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「・・・ん、お前学者にでもなるつもりか?」アスヴァレンが笑いながら補足する。「あとの一つはウインターホールドだな。大学があるところだ。近くに滅んだ古代都市サールザルもあるし、オレも何れかの機会には訪れてみたいものだ」


神話の話を聞かされ、神妙な気分に浸っていた彼女たちを現実に引き戻したのはテルミンの声だった。


「神や王の話もいいけどよ、実はイーストマーチは温泉が有名なんだぜ?」


女戦士は眼下の景色の中でも、もう少し手前の辺りを指さした。ところどころ光がきらめいているのは水面のようだ。辺り一帯には、至るところで水蒸気らしきものが立ち上っており、湧出した温泉により辺りの岩は変質させられて、妙にぬらっとした独特な質感を見せていた。


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「イーストマーチでは、ああいった蒸気が地面のあちこちから湧き出してるんだ」テルミンはアルフレドから説明を引き継ぐように、眼下を次々と指さしていった。


「アタイの住んでるカイネスグローブはウインドヘルムのチョイ南。ほら、あそこら辺な。そして東側にも街があって、あの山脈沿い・・・何て山だったっけな」


「レスダイン・・・いや、人間はヴェロシと言うんだったな・・・」


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「そうそう。ヴェロシ山脈。アスヴァレンの兄さん、物知りだね・・・」


テルミンは、リフトとイーストマーチの境にある森を指さした。彼女たちは目を凝らすが、そこに何かあるようには見えなかった。


「その山沿いの深い森の中にあるのがヴァーミンウッド、知ってても迷うような森の中で、リフトとの州境でイーストマーチ東の外れにあるんだ」


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「そして反対側の西に流れているのが例のホワイト川な。パルグラン村って言うちょっとした村があるさね」


「そしてなんと言っても大事なのが、一番南側にあるダークウォーター・クロッシングだ」
そういうとテルミンは昼前にもかかわらず、蜂蜜酒を取り出してちびちびやり始めた。


「テルミン。飲み始めるにはちょっと早すぎるわ」


「気にするなよメリス。あっ、そうだ、ダークウォーター・クロッシングはサレシ農場からちょっと北上するだけで着くし、帰り道によっては途中になるぜ。だから寄ってかねぇか? ここはちょうどいい温泉があって、暖まりながら一杯やるには最高の場所なんだ」


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「もう、そればっかり」


「寒いスカイリムの冬では、一番の場所なんだぜ。裸で居たって誰もおかしく思わないし咎められもしない。行こうぜ、なっ!」


「はっ・・・裸?! それはちょっと困るわ・・・」
彼女は極力肌を見せない服装を選んでいた。リサードやリズには見られてしまったが、呪いの傷のことは誰にも話していない。見せることもできない。


「ま、まあ、農場での買い付けが終わってから考えましょ」


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曖昧にはぐらかすと、話題を変えるようにボズマーに話しかけた。


「賢いボズマーなら温泉にも、何か商機を見つけられるんじゃない?」


返事は帰ってこなかった。


「アーセラン?」


アーセランは話に加わっていなかったが、注目が自分に集まると、慌てたように居住まいを正した。彼は睡眠不足なのか重い顔をしていた。昨日の哨塔ではよく眠れなかったようだ。そして彼はしきりと懐の中を気にしていた。


「アーセラン、どうしたの? 様子が変よ?」


「そ、そんなことねえよ。それより、そろそろ出発した方がいいんじゃねぇか?」


「そうね・・・結構話し込んじゃったし、そろそろ先にいきましょ」
反応が薄かったがイェアメリスもそれ以上突っ込まず、おしゃべりは終了となった。




・・・




三日前にハイヤルマーチの高原からホワイトラン平原を見下ろしたのと同じように、彼女たちはイーストマーチの火山帯を見下ろしながら下山を続けた。立ち止まってのおしゃべりは終了していたが、皆思い思いのペースで、近くに居る者と会話しながら坂を下っている。


「しねぇよ、嘘だろそんなの」


「いや、間違いない。ジャ・ラールの毛皮は朝起きたらファーファーの香りがするんだ」


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先ほど塞ぎ込んでいたように見えたアーセランは、今はジャ・ラールと会話が弾んでいるようだ。毛無しだ猫だと言い合っていた二人も旅をすればこうなるのか、と彼女は自分とアーセランのことを棚に上げて感心していた。一方ではレオナールは一人黙して歩いている。彼の鋭いまなざしは、それが何かは分からないが、他人にはうかがい知れない決意を秘めているようにも見えた。


並んで歩くアスヴァレンを見上げると、彼女は湧き上がった疑問をぶつけてみた。


「レオナールさんの言ってた吸血鬼って、モーサルで聞いた話とは違うわよね」


「うむ。場所が全然違うから、偶然の一致だろうな」


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「スカイリムに来て急に吸血鬼の話を聞くようになったけど、大陸ではコレが普通なの?」孤島出身のイェアメリスにとって吸血鬼というのは話の中だけの存在であった。幸いと言うべきか、今まで接点など持ちようもなかったためだ。
しかし、連れが返してきた返事は意外なものであった。


「そう思うか? 思っているよりも身近なものかも知れないぞ」


「あたし見たこともないわ」


アスヴァレンは少し考えると、思い出話をするように口を開いた。
「お前も会っているのだがな」


「だれ? モーサルでの・・・?」
彼女が一番に思い出したのは、モーサルの湿原で出会った吸血鬼狩りの男だったが、ダンマーは首を振った。


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「あれは本物の吸血鬼ではない。ファルサと言ったか? アイツはおそらく混血だろう」


「ちがうの?」


「ちがう。俺が言っているのはウラナックだ。・・・覚えているか?」


しばらく、それが誰の事だか彼女は思い出せなかった。


「それだれ?」


「オレよりもお前の方が関わりが深い筈だがな・・・」
名前を出されてもピンとこなかった様子に、アスヴァレンは付け足した。
「キルクモアの町で衛兵をしていた男だ。戦いで腹を割かれ重傷を負った・・・」


しばらく考えこんで、ようやく彼女は思い出した。妙に不愛想な、挙動不審な衛兵が島には一人居た。彼女が港の廃塔に囚われているとき、船を守るために住人総出で行われた戦い。そこにも参加していた街の衛兵だ。


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「ああ、あの人! そういえば大怪我していたけど、その後どうなったのかしら」


「命は取り留めている。その後は知らん・・・」


「良かった。回復したのね」


「命・・・と言って良ければだが・・・」


「どういうこと?」
謎めいた言葉に、イェアメリスは聞き返した。返ってきた言葉に彼女は驚きの声を上げずにはいられなかった。


「奴は吸血鬼だった」


「ええっ?!」


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「奴らはとてつもない回復力を持つ。あの程度・・・腹を裂かれたぐらいで死ぬことはない」


「でも、でもっ! 血を吸われた人なんて話、聞いたことないわ!」
ウラナックはもう何年もキルクモアで衛兵を務めていた。積極的にではないが、彼女と言葉を交わしたことも一度や二度ではない。そんな人物であった。


「ああ、ヤツは人の血は吸っていない。少なくとも生きている人間のは・・・街で家畜が行方不明になっていたのを覚えているか? あれは難破船の生き残り・・・そこのボズマーがちょろまかしただけではなかった。そして島には猛獣はいない」


アスヴァレンは今や仲間として同行しているボズマーの商人、アーセランを指さすと、首を振る。


「家畜は、ウラナックが血を吸うための食料として襲っていたのだ」


島から遠く離れた旅の途中で明かされた話に、エルフの娘は目を見開いた。


「そんな・・・、街は、街は大丈夫なの?!」


「ああ、しっかり手は打ってある。無闇に住人を恐れさせないように黙っていただけだからな。そもそも、それを調べるのがエドウィンから受けていたオレの仕事だったのだ」


彼女は思い出した。食いちぎられたような家畜の死体についてエドウィンが調査していたことを。


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島に滞在中のアスヴァレンは、顔役のエドウィンから何やら仕事を依頼されていたようだが、彼女は終ぞその内容を知る機会がなかった。慌ただしく島を飛び出してからめまぐるしく事件が起こり、息つく暇もない旅をしていた彼女は、他にも何か思い出せることはないか、記憶を呼び起こそうと目を瞑った。


「そういえば・・・たしか・・・島の街道商人が死んでいたとき、ウラナックさん調査していたわね」


「ああ、商人をやったのは確かに難破船のならず者達だったが、ヤツはその死体からも血を吸っていた」


従徒を持たず、生きた人間を襲わないとすると、ウラナックは血の入手にかなり苦労していたに違いない。

怪しまれずに人血を得られるチャンスは滅多になかった。


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「それであなたが死体の始末をしたのね」


街道商人の埋葬を手伝おうという彼女の申し出を、そのときアスヴァレンは断っていた。


「ああ、死体が起き上がりでもしたらお前を危険に晒すし、騒ぎになるからな」


彼は禍根を断つために、アトモーラの楔で死体を凍結粉砕したのだった。


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「そう・・・そんなことがあったのね・・・」


ならず者に対処することで手一杯だった裏で、もう一つの事件が進行していたことに彼女は驚きを隠せなかった。


「顔役のエドウィンと番人テオリックだけしか知らん話だ。ちょうど都合良く難破船の騒ぎが起きたから、皆そちらに気を取られていて俺の方の仕事はやり易かったがな」


イェアメリスはエミーと共に廃塔から逃げ出したり、灰の化け物と遭遇したりしたことを思い出すと、少し不満げに言った。


「んもう・・・こっちも色々大変だったのよ。あの戦いも・・・その後も・・・」


「ああ、それは俺も参加していたからな。拉致監禁されていたお前や、戦いで死んだパン屋には気の毒だが、それでも吸血鬼の被害よりはマシだ」


「マシって・・・命は命よ」


「ふむ・・・だが考えても見ろ。あんな閉鎖的は孤島で吸血症がこっそり広がったらどうなる。今ごろは死の島になっているぞ。そうなれば置いてきたブラッキーも只では済むまい?」


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言われて彼女はハッと顔を上げた。


「ブラッキー! そうね、随分と待たせちゃってるわ」


「そろそろ兄も多少は回復しているだろうな」
イェアメリスの守護者、オークの元戦闘隊長カグダンは、骨折の療養のために島で休んでいる。


「そうね、手紙を出さないと」


「待ちきれずに飛び出してたりしてな」
アスヴァレンは軽く笑うと、別れたもう一人の仲間、イェアメリスの妹が今ごろどうしているだろうかと思いを馳せた。二人とも、まさか彼女が既にスカイリムに来ていることなど露ほども知らなかった。


「吸血鬼が島に脅威を成すことはもうないが・・・ファリオンの治療が完成されていたら、ヤツの運命もまた違ったものになっていたかも知れないな・・・」


「ウラナックさん、思い起こしてみてもそんな素振りは全くなかったわ」


キルクモアの衛兵の勤務態度は、極めてまじめだった。


「うむ・・・あいつは努力していた。街の住民に溶け込んで・・・溶け込むというより、心の底から街の住人だった。それに街を愛しても居た。衛兵という仕事も、隠れ蓑と言うよりも天職と自認していたんだろうな」


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「でも・・・どこで感染したのかしら?」


「島外から持ち込まれたモノだ。ちょっとした不思議話だったが、オレとエドウィンは直接ヤツから経緯を聞き出す機会があったんだ」


「それって・・・?!」
イェアメリスは乗り出した。


しかしアスヴァレンは首を振った。
「それはヤツの話だ。人の運命を聞きかじって想像を膨らませている場合か?」


「どういうこと?」


「お前はお前の目的があるのだろう? 今は余計なことに気を散らしている場合ではない」


アスヴァレンはまだ、イェアメリスの旅に出た目的を聞かされていなかった。そんな中発せられた言葉だったのだが、イェアメリスはドキッとして連れを見た。


「え、ええ・・・まだちゃんと話して・・・」


「構わん。言いたくなったら言えばいい」


いつものように口籠もるのを見て、アスヴァレンに遮られてしまう。・・・その包容力に安心すると同時に、チクリと小さな不満も芽生えて、思わず彼女は口走った。


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「あなたはあたしのことが気にならないの?」
言ってから死ぬほど後悔したのだが、言葉として出てしまった後ではもう引っ込められない。


「色々と余計なことを抱え込むと早死にする。エルフは長生きだが、決して不老不死でもないし、人間よりも優秀な訳でもない」


期せずして、捕虜がアルフレドに投げかけたのと同じ戒めを、アスヴァレンは道連れにしたのであった。


「それがあなた流の、世の中の渡り方ってわけ?」


「皮肉を言うな。お前の抱えているモノを知ることができない以上、それを抱え込めるかどうかの判断なんてできん。研究者は事実に基づいて判断するものだろう?」


「便利な言葉ね」


尤もすぎる返事に、彼女は毒気を抜かれた。どんなに絆を深めても、決して呪いのことは口に出せない。結論が出せないことは話す前から分かっている。曖昧を曖昧のまま許してくれる相手に、自分から突っかかっていくのが建設的でないことを理解できるぐらいには、彼女も成長していた。


「そうだな・・・まあ、今度機会があったら、追々話してやろう」


不満を引っ込めた彼女は、すこしずるい顔つきになって連れに尋ねた。
「それは、もうしばらくの間ついてきてくれるという風に、受け取っていいのかしら?」


「フッ・・・」
答えずに笑みだけを返すアスヴァレンを見て、イェアメリスはぷぅと頬を膨らませた。


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「いじわるっ」


無口ないつもの姿に戻ったアスヴァレンは、それ以上口を開かなかった。




・・・




しばらく経つと雪は完全になくなり、昼を少し過ぎたころには彼女らは世界のノドの反対側に抜け出すことができた。低い下生えの間を進んでいくと、回りには崩れた壁や金属製の柵など、人工物が次第に目につき始める。焼け落ちた家の土台に見えるようなものや、何かを象った彫像なども立っている。一行は、ニマルテンの廃墟に差し掛かっていた。


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「何もないわね」


「ここはうち捨てられた町だよ」


ニマルテンはホワイトランとリフト地方の州境にまたがる第3紀の中盤に栄えた町で、元はリフトの首長によって建造された小規模な帝国軍の守備隊駐留地であった。今回通るのを避けた主街道が当時はまだ整備されておらず、ニマルテンは険しいながらもホワイトラン-リフテン間を結ぶ唯一の街道中間点、重要な拠点として存在していた。数少ない住人が宿場町としての体裁を整え、ささやかながらも繁栄していた町である。
しかしオブリビオンの動乱の後、4紀のはじめ頃タムリエル各地では再建が始まり、新しい街道の整備が進むとそれに伴い町を通る旅人や商人の数も徐々に減っていった。そんな中ニマルテンの住人も流出し始め、最終的に住む者のいなくなった町は廃墟と成り果てたのである。元の住人達は近隣のサンガードや州都リフテン、ダークウォーター・クロッシング、イヴァルステッドといった、より交通の便がいい町や村に移住していた。


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「何も残っちゃいないみたいだな」


廃墟を物色しようと考えたアーセランは当てが外れたように辺りを見回した。夜間であれば不気味に見えるかも知れない廃墟も、日中晴れ間の中ではどちらかというと旅情を誘うようなもの悲しい雰囲気を醸し出している。ともすると眠気に襲われそうになる陽気の中遅めの昼食をどうしようかと、腰を下ろせる場所を探す。少し風が吹いて髪が目に入り、それを払いのけたイェアメリスは、にじむ視界に何かを認めた。人影のようだ。十人近くいる。見ると、リサードとジャ・ラールの耳はピンと張り、その毛は逆立っていた。


「誰か来るな・・・それに・・・血のにおいがする!」
アルフレドの声に緊張が走る。彼は嫌な予感がしていた。カチャカチャ金属音が聞こえるのだ。この稼業をしていると聞き慣れている音、武器や鎧などの装備が立てる音だ。


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ニマルテンの丘陵でひとかたまりになった彼らは、リサード、アーセラン、イェアメリスを後ろに隠すようにして身構えた。


「山賊か? オイ猫、山賊はいないって言ったじゃねぇかよ」


アーセランが抗議したが、ジャ・ラールはかぶりを振った。


「カジートは知らないよ! 少なくとも、山を越えるまでは危険はなかったじゃないか」


稜線を越えるようにして旧街道の行く先から現れたのは、帝国兵の一団だった。しかし、何かがおかしい。


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・・・全員、エルフなのだ。


国を分けての大戦があったとは言え、帝国軍にもアルトマーは若干存在する。かつて元老院の頂点に立ち、マーティン亡き後の帝国を支えたオカート議長もアルトマーであったぐらいだ。しかし、目の前の一隊は明らかに違和感があった。しかし、そのおかしさを指摘することを許さないような雰囲気・・・異様な威圧感も同時に放っている。


一本道の街道。行く先から向かってくる相手。彼女たち旅人は何かする間もなく、怪しげな帝国兵の一団と相対した。


「旅人か?」


鋭い顔つきのアルトマー指揮官が進み出ると、彼女たち一人一人をじろりと検分してゆく。


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「こんなしなびた街道を行くには随分と賑やかな一行だな」


「スカイリムの道は危険が一杯だからね」
ジャ・ラールが何食わぬ顔をして応じる。こういうところはこの傭兵は頼りになった。


「どこから来たんだ?」


「そうさ、カジート達はリフテンに向かってる。ホワイトランで結成した新しいキャラバンだ」


「キャラバンだと? 変な顔ぶれな上に、積み荷など何もないようだが」


「変な顔ぶれなのはそちらも同じじゃないかね?」


「聞いているのはこっちだ」


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「やだねぇ。帝国の兵隊は気が短い」


ジャ・ラールの横からリサードが顔を出した。
「これは商売の旅じゃないからね。カジート達は仲間を探しているんだ。こちらで活動していた仲間のキャラバンが消息を絶ったので、探しに来ているんだよ。そうだ隊長さん、カジート達を見なかったかね?」


隊長はまくし立てるカジートを遮ると、自分たちが来た旧街道の先を指し示した。
「質問しているのはこちらだと言わなかったか? まあいい・・・カジートキャラバン? そんなものは知らん。哀れなタロス信者なら先ほど遭遇したが、帝国軍として適切に処置しておいたから安心するといい」


「何をした?」


「ただの掃除だ。旅人よ、貴様等は安全にこの先も進めるだろう」


アルフレドが訝しげに眉を寄せた。
「・・・その前に、あんたらが帝国軍だっていう証拠は何かあるのか? どう見ても全員アルトマーじゃないか。エルフだけの帝国軍部隊なんて聞いたこともない」


「・・・」


「しかもここはストームクロークの勢力圏内だ。帝国軍がこんな少数でここに居ること自体、おかしい」


「フン、ノルドにしては賢しいな・・・、我々の素性を明かす必要はない。だが正式な帝国軍の部隊なのだけは間違いない」
隊長はアルフレドを見据えた。「帝国軍の脱走兵の集団がホワイトラン、ファルクリース、リフトの国境近辺に潜伏していると言う情報を得た。そこで我々が派遣された」


「国境近辺・・・?」


「そう・・・つまり、この辺りだ」


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「こいつら、サルモールなんじゃね?」
何気ないテルミンのひとことで、帝国兵士達がざわついた。が、指揮官が振り返ると一瞬で収まった。


「お前は・・・傭兵には見えんが・・・勇ましいな。ソブンガルデとやらの門を叩くには少し早いと思うが?」


「試してみるかい? にいさん」テルミンが獰猛な笑みを浮かべる。


「死にたいらしいな・・・」


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隊長が腰に佩いだ剣に手を伸ばそうとしたのを感じて、今まで黙っていたレオナールがテルミンを抑えた。


「なんだ。お前は脱走兵を見たのか? ならば教えろ」


「口に気をつけろ、小僧」


相手はエルフだ。年齢は下手すれば百を超えるだろうが、レッドガードの戦士はエルフの指揮官を小僧呼ばわりして見せた。


「貴様はレッドガードか。ハンマーフェルから来たのか?」


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「答える義理はない」


「気をつけろよ。ここはスカイリムだ。ハンマーフェルではない。レッドガードの一人や二人、消えてもおかしくはない土地だ」


指揮官が恫喝するのを真っ向から受け止めると、レオナールは余裕を崩さず肩をすくめた。


「フン、我らの土地から追い出されたくせにやけに威勢がいいな。今度は隣の庭を荒らしているのか?」


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相対する二人は殺気を込めて目を細めた。


テルミン、レオナールに並んでアルフレドとジャ・ラールが身構える。


後ろに控えるエルフの帝国軍部隊も皆一斉に武器に手をかけた。


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一触即発の空気が張り詰める中、行動を起こしたのは意外にも、イェアメリスであった。


後ろの列から飛び出した彼女は、ふわっと着地すると指揮官の前に立ち、その手を抜きかけた剣の柄に添えた。ここを押さえられると剣は抜けない。


機先を制した彼女は、呆気にとられた相手をそのままそっと押しやった。力は全く入れていない。しかし咄嗟の流れで指揮官は数歩、後退させられた。


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「なんでいきなり殺し合いを始めようとするわけ? 仲良く交渉しろとは言わないけど、関係ないならお互いやり合う必要はないでしょ?」


そのままの勢いでもう何歩か相手を押しやると、イェアメリスはその男にだけ聞こえる声で言った。


(あなた・・・ヴァルミエル指揮官でしょ? 知っているわ、エレンウェン特使の護衛がなぜここに?)


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そしてすぐさま、辺りに聞こえる声で重ねる。


「あたしは東帝都社の錬金術師よ。ソリチュードの高官の仕事を遂行している最中なの。ここに居るのは同行している仲間だから邪魔しないでちょうだい。あなたたちも帝国軍なら、帝都社の仕事は邪魔するんじゃなくて、むしろ手助けするべきじゃないの?!」


指揮官の方も少し驚いた顔をしたが、すぐに察したらしく、手を上げると部下を制した。そして部隊の方に戻ると、イェアメリスを手招きする。アルフレドが驚いて手を伸ばしかけたが、彼女は大丈夫だからと留まらせ、指揮官の方に歩いて行った。


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「貴様、見覚えがあるぞ。ソリチュードの本部に居たな?」


「ええ、ラーリンよ。階級は指揮官。まあ、あなたの方が階級は上でしょうけど、あたしは特殊な部門で働いてるの」


彼女は日の浅いスカイリムと、サルモールについて持てる知識を総動員した。
「ここはもうリフトの領内よ。サルモールがうろうろしていていい場所じゃないわ」


「だからこうしている」帝国軍に扮していることを彼は見せたが、イェアメリスは首を振った。「さすがにストームクロークになれというのは無理にしても、お世辞にも帝国軍には見えないわ。変装ならあたしの方が一枚も二枚も上手のようね・・・」


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(しっかり! あたし、しっかりしなさい!)


気を抜くと崩れ落ちてしまいそうな緊張に襲われながら、彼女は何とか気丈に振る舞い続けた。


「貴様の方は上手く扮したものだな。あいつらの行動、とても演技には見えぬが・・・」


「それはそうでしょうね。みな、百戦錬磨ですもの」


(誰も演技なんてしていないもの・・・)心の中でそう呟いたが、決して表には出さない。


「でもどうして、こんな所まで来ているの? あなた専属なんでしょ? 特使の護衛はいいの?」


「別動の任務だ」彼はそう言うと、ノートに挟んだ汚れた紙切れを取り出した。受け取ったイェアメリスはそこに書かれている短いメモに目を通した。


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=*=*=*=*=*=


たいしたものではありませんが、あなたを仲間として迎え入れるためのある種の儀式です。

不幸にも、今の我々は人数においてかつての我々と同じとはいえません。しかし我々の魂は健在です。


=*=*=*=*=*=


「ホワイトラン領内を巡回中の司法高官が見つけたものだ。山賊の走り書きのようにも見えるが、何かの連絡文であると上層部は判断した。スカイリム南部の山中で何らかの勢力が集結しつつあるらしい。エレンウェンは元老院に働きかけてペイルパスを封鎖しブルーマとヘルゲンを分断させた。しかしそれでもその動きは止まっていない。このメモにあるようにな。ただの山賊とは思えない。そこでオレが派遣されたと言うわけだ」


「あたしの方はエランディル特務官の指示で、ニルンルートの大量買い付けをしに行く所よ」


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ヴァルミエルと呼ばれた指揮官は、ノートを閉じると吐き捨てた。彼女はその仕草に、密かな嫌悪の感情を嗅ぎ取った。
「フン、エランディルの飼い犬か。・・・彼奴はまた怪しげな魔術実験をしようというのか」


「その通りよ。でもその呼び方はやめて頂戴」


「ふむ・・・まあいい。ならば、ここはお互い不干渉としよう」


「ええ、あなたたちの方から去ってくださる?」


「承知した」ヴァルミエルは頷くと、部下に撤退の合図を出す。


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「エレンウェンはいまウルフリックを追跡している。今度は逃がさないつもりだから、貴様もイーストマーチでうろうろしていて巻き込まれないようにしろ」


「ありがとう。気をつけるわ」


ヴァルミエルの偽装帝国軍が退いてゆくのを、アルフレド達仲間は呆気にとられて見守った。
イェアメリスは仲間の元に戻ってくると、腰が砕けたように、アスヴァレンにつかまって身体を支えた。


「一体・・・何をどうやったんだ?!」


アルフレドを始め、仲間が詰め寄ってくる。


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「あたしが仕事を受けている、東帝都社の高官の名前を出しただけよ」
彼女は嘘をついた。


「メリスちゃん、無茶するなぁ」


口々に驚きの言葉を述べる。テルミンは少し残念そうだったが、戦いなどしなくて済むに越したことはない。アルフレドやジャ・ラールは純粋に感心していた。アーセランが胡散臭そうに自分を見ているのを感じ、彼女はその視線を避けるように衣服を正した。レオナールは無言だ。


「さっ、早く進みましょ。今日の夜までにはイヴァルステッドに着いてしまいたいわ」




・・・




ニマルテンの遺跡を後にして緩やかな丘陵をくだり続けると、うち捨てられた墓地に差し掛かる。墓地とは言っても古代ノルドのもので、今では一般的でない形の墓石が点在している。彼女たちは墓地を尻目に、草に隠れてすぐに見失ってしまいそうな頼りない旧街道を急いだ。山の天気は変わりやすい。先ほどの晴れた天気はどこへやら、辺りには霧が出てきた。


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足早にそこを通り過ぎようとして、アーセランがふと足を止める。


「ふぅん・・・帝国軍として適切に処置、ね・・・」


「どうしたの?」


「あいつらの下手くそな掃除の跡さ」


アーセランは霧に包まれた辺りをよく見てみろ、と促す。そこには複数の死体が転がっていた。惨殺されたストームクロークの一隊であった。霧に乗ってほのかに血臭が漂ってくるところをみると、戦いがあってからまだそれほど時間が経っていないようであった。イェアメリスは顔を背けると、仲間の後ろに下がって肩を抱いた。


「おーおー、随分と派手にやってくれちゃってるな。しかも、おあつらえ向きにここは墓地じゃねぇか」
テルミンは眉一つ動かさずに、この惨状を正視している。辺りには古代ノルドの石棺がいくつか地表に姿を現していた。ニマルテンに隣接した遺跡があったのかも知れない。


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アルフレドとレオナールは死体を検分した。


「さっきの奴らだな、やったのは。ジャ・ラールは一戦やっても良かった」
アルフレドも珍しく同意した。「先にこれを見ていたら、オレも剣を抜いていたかもしれん。やはりサルモールだけは相容れない・・・」
それを聞いてイェアメリスの胸は疼いた。


「見てみろ」
少し離れて確認したレオナールが口を開いた。


「どういうことだ?」


「ここにはエルフ共の死体はない、一体もな。そして先ほどの奴らは負傷者を連れていなかった」


「つまり・・・?」


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「仲間の死体を跡形もなく始末したのでない限り、奴らはこのストームクローク達と戦って全員無事だったと言うことだ。・・・我々のこの顔ぶれなら、そうそう後れを取るとも思えんが、奴らがその通りの手練れだったとしたら、この中の一人ぐらいはこうなってたかも知れんな・・・」


イェアメリスは改めて、ヴァルミエルの部隊が発していた強烈な殺気を思い出して身震いした。半日も共にしていないレオナールのような者もいたが、皆一緒に旅をする仲間だ。命を落とすことなど想像したくもなかった。


「しかし、さっきのあんた、すごい胆力だったな」


「レッドガードは尚武を以て最上とする。気圧されていては、勝てる戦いも落とすからな」浅黒い男は、口の端だけをつり上げるように笑った。


アルフレドはレオナールに感心していた。正直、ヴァルミエルに気圧されなかったと言えば嘘になる。若い傭兵は期せずして力強い戦士達に囲まれ、自分にももっと先がある、頑張れると拳に力を入れたのだった。


「それにしても、何故そんな脱走兵に、あんな部隊を差し向けるのかしら。追っているのって、そんなすごい人?」
エルフの部隊は戦士としては脆弱だというのが世間の共通認識であったが、先ほどの部隊はおそらく精鋭中の精鋭なのだろう。常識には当てはまらないようであった。


「分からん。奴らの考えることはな」


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そんな話をしていると、テルミンが手近な死体にかがみ込んでいる。よく見ると、アーセランも同じように別の死体に近づいていく。イェアメリスは二人に問いかけた。


「何してるの、あなたたち」


「そりゃぁ、見て分かるだろ。廃品回収さ」


「ちょっ、またなの? いい加減やめなさいって!」


「ちゃんと形見は埋葬してやるよ、だけど残ったもんをどうしたって、いいだろ?」


「あたしたち山賊でも戦場稼ぎでもないのよ! それに・・・!」彼女の声はそこで止まった。信じられない光景を見たのだ。何度か瞬きをし、確認するように仲間を見る。アーセランとテルミンはまだ気付いていない。


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「アルフさん・・・あれ・・・」


言われた方に目をやって、アルフレドも絶句した。


「なんっ・・・! 魔女祭りだからって、まさか・・・あんなの!」


既にレオナールとジャ・ラールは剣を抜いている。
「カジートもこんなのは初めて見る・・・」
霧に包まれた寂れた墓地で、倒れたストームクローク達の身体から、黒い影がゆっくりと起き上がり始めた。


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「死霊術か?! おいっ、テルミン、アーセラン!」


死体漁りを始めようとしていた二人は、その死体が動き出すのを見て飛び上がった。


「うおっ! なんだこいつら!」


「分からん、ストームクロークの死体に乗り移ったというか・・・死体から出てきた!」


テルミンも慌てて仲間の元に駆け戻る。背中に背負った槌を手に取り、仲間の方を見た。


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「なんだか分からねぇけど。・・・へへっ、こいつらなら思いっきり暴れてもイイよな」


アーセランはイェアメリスやリサードと一緒に後ろに下がる。アスヴァレンは彼らをかばうように前に出ると、相手を見定めた。


亡霊・・・だろうか? 何かの力に呼び出されて、無理矢理死体から引き剥がされたかのような影達が襲いかかる。アスヴァレンは腰に吊ったアトモーラの楔を抜きかけたが、思い直したように弓の方に切り替えた。つがえるのは火炎の付呪を施した矢。一体に狙いをつけると試しに射ってみる。


矢が突き刺さると着火して、黒い影は炎に包まれた。


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「攻撃は当たるみたいだな。ならば恐れることはない。トゥワッカよ、加護を!」


レオナールは重そうな長剣を軽々と担ぐと突進し、一体を袈裟切りにした。


「散開した方がいい。こいつら、魔法を使うぞ!」


ゴウッ・・・と、風を切るような音と共に冷気の壁が通り過ぎ、レオナールの体温を一瞬で奪う。


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動きを止めたレッドガードに影が群がろうとするとき、横から手が伸びて、冷気の中から引っ張り出した。

ジャ・ラールであった。


「意外と厄介だ。だが、ジャ・ラール達ならやれる」


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アルフレドはレオナールの退いた空隙に身を進めると、横凪ぎに二体をまとめて屠る。剣を構えたまま傭兵は振り返った。


「アスヴァレン、あんたダンマーだから死霊術には詳しいだろ? こいつら・・・さっきのサルモールの置き土産かっ?!」


「いや、死霊術とも何か違いそうだ」


反対側ではテルミンが別の亡霊の頭を潰すところであった。
相手の攻撃が分かってくると、戦士達は手際よく亡霊を片付け始める。


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しかし最後の一体が崩れたとき、その異変は起こった。


「あれ、なに?!」


イェアメリスが指した先、亡霊達が倒れた先の石棺の上に、何かが浮いていた。


ぼろ切れのような、擦り切れたローブを纏い、腕にあたるところには骨のような手指が覗いていた。干からびかけた頭蓋には、青く光る怪しげな目が瞬いている。


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彼らはこのような化け物は見たことがなかった。


Jun Dahmaan・・・


Revak Aar Fent Vahrukiv


浮遊するぼろ切れが訳の分からない言葉を呟く。手をかざすと、先ほど倒したはずの亡霊達が再び蘇った。


「蘇ったぞ!」


四人の戦士達は再び剣を握り直す。ゆらゆら近づいてくる亡霊を相手に、再び乱戦が始まった。アスヴァレンは後衛に立ち、戦い向きではない仲間をかばいながら、前線の戦士達を援護する。


「いくらでも潰してやるよ! ・・・はいいけど、これ、意味あるのか?」


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テルミンは最初こそ嬉しそうに槌をふりまわしていたが、潰すそばから湧き出すように復活する亡霊を見て怒鳴った。アルフレドとジャ・ラールは背中合わせに、レオナールは少し離れて暴風のように剣をふるっていた。いずれも倒すとすぐに別の亡霊が復活し、戦いは終わりの見えない様相を呈していた。


中央のぼろを纏った亡霊だけは影のようではなく、魔術師のなれの果てのようにも見える。ドラウグルに近い容姿をしたその指が上がると、イェアメリス達が固まって避難している一角を指さした。


Jun Dahmaan・・・


Revak Aar Fent Vahrukiv


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聞き取れない言語を発すると、イェアメリスは横に立つアーセランが蒼白な顔をしていることに気がついた。


「王の帰還・・・? 神聖なる隷達は祝わねばならない・・・仮面を持つものは・・・」


「え、あなた、あれが何言ってるのか分かるの?!!」


ボズマーはガクガク震え始めた。


「ちょっとまて! なんだよこれ! あいつそんなこと何も書いてなかったぞ!!」


Alduin Daal


Jun Dahmaan・・・


「やめろよっ!」


「アーセラン! あなたどうしたの? おかしいわ」


イェアメリスの問いかけに、アーセランは取り乱したように叫んだ。


「あいつ、俺を迎えに来たんだ!」


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「どういうこと?! 意味が分からないわ!」


ボロを纏った魔術師が口調を変えた。
「クロシス・・・残念だ。言葉の意味を知らぬと見える。ノルドはドヴの言葉を解さなくなってしまったのか・・・?」


「オレはノルドじゃねぇ!」


「しかし、仮面を持っているではないか。そなたは ダイン ヴァーロ ゙ク ・・・吾と同じ聖堂の守護者であろう? さぁ、我らの主がまもなく帰還される。動ける竜司祭はすべからく、蘇りてその降臨に備えねばならぬ。さあ、吾と一緒に参ろう」


「まさか・・・竜司祭だと?!」


「だから、オレは関係ねぇって!」
いきなり叫んだアーセランは懐から包みを引っ張り出すと、地面に投げ捨てた。落ちた布が解け、転がり出たのは木の仮面であった。
虚ろな眼窩でそれを見ると、魔術師は表情を変えた。怒りに震える声が吐き出される。


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「なんと・・・統べる側でなく、統べられる側が不当に仮面を所持していたというのか。しかも、お前は滅ぼされるべきマーの一族。なんたる・・・なんたる冒涜。許せぬ!」


「お前に許して貰うつもりはねぇよ」
取り巻く亡霊をなぎ払ったテルミンがそのままの勢いで竜司祭に戦槌を叩きつける。同時に反対側からレオナールが剣を突き通す。しかし二人の攻撃は空を切るようにすり抜けてしまった。


「あれっ? ・・・っと、おわっ!」


「ファス!」


バランスを崩して転倒した二人に向けて竜司祭が衝撃波を放つ。シャウトを浴びた二人の戦士は吹き飛ばされて地面に打ち付けられた。竜司祭は向き直ると、イェアメリスたちの方に手を伸ばした。


腰を抜かしているボズマーを助け起こそうとイェアメリスは悪戦苦闘していた。彼女は完全にそちらに気を取られていたが、アスヴァレンはその肩を掴むと強引に引き寄せた。
「メリス、後にしろ」


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「でもアーセランの様子が・・・」


「いいから! 危険なのが来る。お前、あの呪文使えるか?」


「呪文?」


「スペルカウンターだ! いいから早く唱えろ。あの竜司祭に向けて手をかざせ!」
イェアメリスは言われるまま、両手をかざすと、アスヴァレン、リサード、そして倒れているアーセランをかばうように魔法の防御膜を展開した。


「ヨル トール!」


直後、まるでスゥーム・・・竜の吐息のような炎の激流が彼女たちを襲った。咄嗟に顔を背けたが、手は前に伸ばしたままだ。


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イェアメリスの防御は竜司祭の攻撃を跳ね返し、炎はあらぬ方向へ跳ね返って散った。


「よくやった。次に備えろ!」


「ぬぅ、女。・・・キサマはマーの雑種か。ケイザールの地では狩り尽くしたはずだが・・・いいだろう。ここで死ね」


再度のスゥームが襲ったが、イェアメリスはそれも凌ぎきった。熱気に晒されて額に垂れる汗を感じながら、彼女は助けを求めるようにアスヴァレンを見た。長身のダンマーの強弓から放たれた矢は、しかし竜司祭を通り抜けて後ろの地面に突き刺さってしまう。


「くそっ」


「攻撃が当たらないんじゃ、倒しようがないぞ」
この前対峙したドレモラは同じように危険な相手であったが、少なくとも剣はすり抜けなかった。傷を負わせることもできた。しかしこの竜司祭には攻撃が全く通じない。レオナールを助け起こしたアルフレドは焦りの表情を浮かべた。


アーセランが頭を抱えたまま怒鳴った。
「アイツはこっち側にいねぇんだ」


「どういうことだ?」


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ボズマーは自分が投げ捨てた仮面を拾い上げた。「アイツの顔にこれと同じ仮面が着いてるだろ。これをつけてると、どういうわけか別の世界に飛ばされるんだ。ここと重なってるけど、少しだけズレた場所だ。こいつを被れば、アイツに手が届くはずだ」


「なんでお前がそんなこと知ってる!」


「なんでって! 被ったことがあるからだよ」


「言い合ってる場合じゃないわ! どうしたらいいの?」


アスヴァレンは傭兵と顔を見合わせる。二人は頷いた。


「炎の濁流、次にあれが来たときに誰かが裏側からヤツに切りつけるしかないな」


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「分かった、貸せ!」


アルフレドは頷くと、アーセランから仮面をひったくった。


寄ってくる亡霊共をテルミン、レオナール、ジャ・ラールに任せ、アルフレドは少し助走をつけるように後ろに下がった。


不安そうなイェアメリスの体に手を回すと、アスヴァレンは力強く言った。


「お前はネロスの一族だろう。その膨大なマジカはあんな炎は通さない。自信を持て。信じるんだ!」


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イェアメリスは息をのむと再び両手をかざす。マジカを退ける防壁が仲間達を包んだ。


「来るぞ、いいか!」


「ヨル トール シュル!!」


閃光が走るとひときわ大きい炎が叩きつけられる。戦士達は転がってそれを避けながら、視界の端でアルフレドが炎に飲まれるのと同時に仮面を当てるのを見た。


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次の瞬間、ノルドの傭兵の姿はかき消えた。


「消えたわ!」


「たのむ!」


先ほどを遥かに凌ぐ炎の塊が叩きつけられる。


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ドゥーン!!


彼女たちは爆音と同時に、目も眩む光に包まれた。


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(おねがい! もっと強く!)


念じる心が通じたかのように、彼女の肩を支える手に力が入る。


視界が閉ざされパニックになりそうな中、彼女はその手に意識を集中して正気を保った。


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見事スゥームは撥ね返され、その炎は逆に発した竜司祭を飲み込んだ。


「オオオ・・・ン・・・」


不気味なうなり声が上がる。

こちら側では攻撃が当たらないはずの、司祭は炎に包まれている。


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一瞬の静寂が訪れた。


固唾をのんで見守る中、亡霊達は一瞬苦しそうに震えると、まとめて地面に落ちて染みとなった。

次いで、竜司祭の身体が崩れ落ちる。それが、答えであった。


その脇に仮面を外したアルフレドが佇んでいた。


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「ふぅ・・・」


「やった・・・のか?」


テルミンとレオナールが倒れた竜司祭を覗きに来る。アルフレドがその顔から仮面を剥ぐと、乾燥したミイラのような顔が現れた。


「フンッ!」かけ声と共にレオナールが長靴でその身体を踏みつける。パキッと乾いた音がして竜司祭の骨は砕けた。仮面がなくなった今、触れることができるようになったようだ。


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「おい・・・見ろよ・・・」テルミンが気味悪そうな声を上げる。たった今ちぎれたばかりの身体が、元の形を取り戻しつつあった。「こいつ・・・再生してるのか? まさか・・・また起き上がったりしないよな」


後ずさるテルミンに変わって、ジャ・ラールが死体のそばにしゃがみ込んだ。仲間達が見守る中、彼は手のひらに呼び出した魔法の炎を落とした。乾いたドラウグルのような竜司祭の身体は、すぐに炎に包まれた。


「大丈夫、ジャ・ラールが見るに、アンデッドの特性で戻ろうとしているだけだ」


戦士達が注目すると、カジートの傭兵は説明した。
「こいつにもう力は残ってないよ。ジャ・ラールが貰ったからね」


「えっ?!」


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カジートは懐から何かを取り出した。かなり大きい魂石だ。
「知らなかったのかね。ジャ・ラールは魔法も得意なんだ。隙を見て魂縛をかけておいたのさ」


竜司祭を収めた魂石を手にしながら、カジートの傭兵は自慢げに笑った。リサードの護衛は自分一人で充分だと豪語していたが、それもあながちホラではないのかも知れない。この獣人の実力は確かなものであった。


「メリスもよくやったな。お前の呪文がなければ、今ごろ皆、カリカリのベーコンになっていたかもしれん」
アスヴァレンが帽子に手を乗せると、彼女は少し照れくさそうにはにかんだ。


ストームクロークたちの死体とアーセランの持つ仮面を媒介に呼び寄せられた災いは、彼女たちの働きによってなんとか鎮める事ができた。そして後には穢された死体と、二つの木の仮面が残された。


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「さて、アーセラン。説明して貰おうか・・・この仮面はなんなんだ?」


仲間達に詰め寄られて、アーセランはとうとう白状した。ラビリンシアンの遺跡を通りかかったとき手に入れた仮面。身につけると姿を消すことができる不思議な仮面にことを。




・・・




惨劇の現場に長居してもいいことなど何もない。足早に立ち去った彼女たちは、気を取り直してイヴァルステッドへの最後の行程を歩んでいた。


「ちぇっ・・・まだ大したこともしていないのに、酷い目に遭っちまったな」


イェアメリスが眉尻をつり上げる。
「あなたねぇ、酷い目に遭ったのはこちらよ。みんなを危険に晒して、ちゃんと謝りなさいよ」


「うるさいなぁ、こんなことになるなんて予想できる訳無いじゃねぇか。事故だよ、これは」


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「その事故を運んで来たのあんたでしょ!」


「ちゃんと手放しただろ!」


「これに懲りたら、二度と死体漁りなんかしない事ね」


「フンっ」
お宝を手放させられたアーセランは、ふてくされたように鼻を鳴らした。


戦いの直後、彼らはストームクローク達の死体を処理するために大きな火を焚いた。山賊や戦場荒らしにものを取られるならまだしも、先ほどのように魔法的な力に吸い寄せられて、迷える魂が悪霊化してしまっては浮かばれない。タムリエルでは土葬が一般的だが、戦場などでは手っ取り早く火葬も行われる。火葬は肉体と魂の繋がりを切断する、最も確実な方法だと信じられていた。


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「またあんなのにつけ回されるのは敵わんぞ」


「でもよう・・・。もったいなく・・・」仲間に睨まれて、アーセランは言い換えた「・・・ねえよな。わかったよ、捨てるよ」


彼は二つに増えた仮面を渋々手放すと、火葬の薪と一緒にくべて、焼却処分したのであった。




・・・




ニマルテンから下っていくと、水の流れる音が聞こえてくる。先の方に川が流れているのかも知れない。イヴァルステッドの北、世界のノドの東側山麓一帯は主街道の通らない、山道の連続だった。この辺りからも、ニマルテンから人が減っていった理由が伺われる。


「ジャ・ラールはちょっとここで休憩することを提案する。あんなことがあったばかりだけど、食べることのできる者は何か少し腹に入れて置いた方がいい。あとちょっとだが山道が続くからね」


アルフレドは先ほどの激戦がまるで嘘のように、再びからりと晴れた青空を見上げた。
「そうだな・・・疲れたときには、甘いものを摂るのがいい」


いくつかある岩棚に散らばって腰掛けると、彼らは休憩を取ることにした。
イェアメリスはおなかが"ぐぅ"と鳴って、顔を赤らめた。


(そういえば、朝から何も食べていなかったわ・・・)


彼女はアスヴァレンと並んで、荷物から取り出した堅パンを頬張った。リサードとジャ・ラールは一緒に、何やら乾燥肉らしきものを食べている。カジートも猫と同じで肉食なのかしら、などと、取り留めのないことを考えながら観察していたが、彼女はレオナールが一人離れた岩棚で腰を下ろしてこちらを観察していることには気付かなかった。


「あれ? ボズマーちゃんどこいった?」


「テルミン、また飲んでるの? アーセランは確か向こうの方に居たと思うわ」
テルミンは蜂蜜酒の瓶を持って立ち飲みしながら、仲間達の間を歩き回っていた。ジャ・ラールは昼は飲まないので、別の飲み仲間を探そうとボズマーの姿を追い求めてふらふら歩く。


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そのアーセランは、一行から少し離れたところに自分専用の岩棚を見つけて腰を下ろしていた。その横には行き倒れが一人。他の仲間は気付かなかったが、通りがけに彼が目ざとく見つけた死体であった。


(またメリスちゃんに見られると、色々面倒だしな・・・)


「なかなかいいもん持ってるじゃねぇか」


冒険者だろうか? ドゥーマー製の矢筒を背負っている。アーセランはそれを取り外すと、他に戦利品がないか、死体の懐をまさぐった。その手が紙切れに触れる。何かのメモだろうか。


「お前さんも懲りないねぇ」


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急に声をかけられて、彼の心臓はひっくり返りそうになった。顔を上げると最初に目に入ってきたのは酒瓶。アーセランは近づいてきたのがテルミンだと知って、ホッと胸を撫で下ろした。


「目の前に転がってるかも知れない品々を、確認しないで通り過ぎるの勿体ねぇだろ」
アーセランはこっそり紙切れだけを掴むと、そそくさとその場をテルミンに譲った。


「ちがいねぇ。で、そいつは行き倒れか?」


「ああ、多分な。戦利品でも漁りながら、軽く食事でもしようと思ってな。・・・あ、姐さんさっきは済まねぇ。あんな危険な仮面だなんて思ってなかったんだよ、ホント」


「いいって、気にすんなよ。それより・・・」テルミンは既に少し酔っているようだ。
「なあなあ、アタイにも分け前よこせよ」
そう言ってしゃがみ込む。


「あ、ああ・・・もちろんだよ姐さん、見ていいぜ。でもメリスちゃんには内緒な」


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ボズマーの商人はテルミンに場所を譲り、邪魔をしないように・・・もとい、邪魔をされないように少し離れた岩棚に腰掛け直した。辺りをキョロキョロと見回す。誰もいない。そしてテルミンは行き倒れの物色にとりこみ中だ。それを確認すると、彼は紙切れを確認した。


「ふむ・・・なんだこりゃ。何かの隠し場所か? フェル・・・ 中庭?」


紙切れに書いてあるのは地図のようであった。アーセランはその場所に見覚えがあった。


「ま~た・・・フェルグロウ砦ってやつか。これはいよいよ、一度行ってみねぇとな」


仮面は手放してしまったが、ラビリンシアンで見つけた魔術師の日記については誰にも言っていない。その日記にはもう一つのお宝、古代ノルドの寺院の事が書かれていた。彼は該当する部分の日記の文章を読み直してみた。


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=*=*=*=*=*=


4E190 星霜の月 15日


ジャフェット・フォリーから帰ってきた私は、しばらくフェルグロウ砦の自室に引きこもって調査を続けた。
その後の調べで、竜爪の鍵が見つかった岩礁は昔、孤島であったらしいことが分かった。ウインターホールド大崩落の原因となった地震による海嘯はスカイリム北岸一帯を襲ったが、この孤島はその時沈み、岩礁だけが残ったらしい。そして孤島に古代のルドの寺院があったことまでは分かった。いずれかの王の墓らしい。竜爪の鍵はいま私の手の中にある。つまり、その寺院は私の所有物・・・王の宝も私のものというわけだ。海賊に払った金は何倍にもなって帰ってくるだろう。


=*=*=*=*=*=


(竜爪の鍵かぁ・・・フェルグロウってたしかホワイトランの近くだったよな・・・)


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日記を大事にしまうと、彼は再び紙切れを眺めた。


フェルグロウ砦・・・ホワイトランの北東に位置する放棄されたノルドの巨大城塞。


アルフレドが言うには、ヴァルトヘイムと同じで相互不干渉地帯に属するため、軍が派遣されておらず、いつの間にか今ははぐれものの魔術師達が集って、自治を始めたという。


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アーセランには行き倒れの持っていた紙切れが、宝の眠る場所への手形のように思えて来たのだった。




・・・




短い休憩の後、イェアメリスたち旅人はその日最後の行程に取りかかった。


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そこそこの幅の清流が彼らを遮っていたが、足場を選べば濡れずに渡れる程度の流れだ。右手には落ちてくる滝、そして左手少し先には落ちてゆく滝、二つの滝に挟まれた場所であった。知っている場所に来たアルフレドは、案内役を再びジャ・ラールと変わって先頭に立っている。


「こっち、この坂道を上がればイヴァルステッドだ」
そして気付いたようにカジート達を見る。「ええと・・・」


「大丈夫。城壁のない町や村には、カジート達はちゃんと入れてもらえるよ」


「もうすぐイヴァルステッドに着くの?」


カジートの傭兵は坂道でリサードに手を貸しながら返事をした。
「ああ、そうだ。もうすぐだよ」空はまだ明るいが、西の空の太陽を世界のノドが隠しており、夕方が近いことを感じさせた。


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坂道を登ると、イェアメリスは重たい帽子を直して伸びをした。向こうの方に村の景色が見えてくる。ここまで色々あったが、最後はあっけないほど何事もなくイヴァルステッドに入ることができた。


イヴァルステッドはリフト地方の西の外れに位置し、世界のノドの東南側・・・山を挟んでホワイトランの正反対にあたる。

ゲイル湖という大きな湖がすぐそばにあり、林業と水産で成り立つ村であった。


夜が長くなり、一年の終わりが近づくこの季節。約二週間にわたって魔女祭は開かれる。タムリエルの住民には馴染みの深いこの祭りは毎年恒例で、軒先にカボチャやランタンを飾って、町中では子供達が仮装してはしゃぎ回る。普段は高額な商品を取り扱う魔術店や錬金術店も割引を行い、本格的な冬を前にして経済活動が一番活発化する週間であった。


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イヴァルステッドは住人の少ない簡素な村であったが、今日はやけに人出が多い。あちこちの軒先にカボチャが置かれ、屋根と屋根の間には飾り紐が張られて魔女祭りを祝っているのだ。


村を貫く街道を進み、ヴァイルマイヤーという宿を見つけると、アルフレドは一行を導いた。イェアメリスは、ふぅ、と大きく息を吐いた。


「なんかすごいことに巻き込まれちゃったけど、とりあえず着いたわね」


「ああ、ここがイヴァルステッドだ。・・・といっても、紹介できるほど何度も来ているわけじゃないけどな。ここではオレも旅人の一人だ」


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イェアメリスは帽子を脱いで髪を振った。


「案内人さん、任務完了ね」


「だな・・・。あぁ・・・やっぱり、野宿よりはベッドの方がいいな」


仲間達も思い思いの場所で腰を下ろし、荷物下ろしをしている。宿の主人ウィルヘルムは最初、大人数の訪問者に驚いたが、まとめて全員泊まると聞いて顔をほころばせた。イヴァルステッドは世界のノドにある寺院、ハイ・フロスガーへの玄関口にあたる村で、七千階段と呼ばれる参道の出発点でもあった。天候の良い季節には自分たちの足腰を信じる旅人達がハイ・フロスガーへの巡礼を行う。一度は訪れないとノルドではない、と言われる寺院は、旅人の試金石とされていた。


しかし冬の始まるこんな季節に七千階段への巡礼者は来ない。スカイリムの冬は旅人の減る閑散期であった。稼ぎが激減するこんな時期にそれを埋め合わせてくれるような旅人は、多少怪しかろうが大歓迎であった。
宿はそんなに大きくないため、八つもベッドを備えた部屋などない。田舎の宿のため多くても二つまでだ。貴重なベッドは腰の悪いリサード老と、イェアメリスに譲られることになった。他のメンバーは床や椅子で寝ることになるが、雨露がしのげて夜盗など襲撃の心配がない屋根の下で休めるというのは、それだけで贅沢だ。


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彼らは部屋に荷物を下ろすと、腰をさするリサード老を残して、隣の暖炉のある酒場に出てきた。従業員は主人のウィルヘルムの他にはリンリーと呼ばれる女性が一人しかおらず、急な来客に忙しそうに走り回っていた。


椅子の一つに腰掛けると、イェアメリスは酒場の中央で熱を発する暖炉の炎を見つめた。


「アルフさんにはお世話になりっぱなしね」


「はは。そうかな・・・最初に会ったのは、ウルフスカル洞窟だったっけ?」
半月ほど前の出来事が彼らの脳裏をよぎる。ハイロックから入国し、アルフレド達と出会ってソリチュード、モーサル、ホワイトラン、そしてこのイヴァルステッドまで、スカイリムの大半を横断してきたことになる。


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「こんな遠くまで来てしまって大丈夫だったの?」


「メリスちゃん達との旅も悪くない。色々楽しかったよ。本当はこの先も着いて行ってやりたいんだが、色々気になることが出てきてしまったからな」


「そうね。フーラさんのことも連絡しないとね」


「ああ。それにあの偽の帝国軍も気になる。サルモールはスカイリムに騒乱のタネをまく奴らだ。従士の耳に入れて置いた方が良さそうだ。・・・あとは・・・」


「色々抱え込みすぎよ」


「よく言われる」アルフレドは笑って一旦言葉を切った。「・・・あとは、さっきの怪異だな」


「あれは一体何だったのかしら。アーセランの仮面が呼び起こした・・・、お化け? アスヴァレン。あなた竜司祭って言ってたわよね?」


「うむ、ヤツもそう口走っていたし、書物で読んだ姿と似ていた」


「となると、古代ノルドの何かに関係したヤツって事になるな・・・なんにせよオレたちには分からないし・・・、あの怪異のことは、ホワイトランの宮廷魔術師にでも聞いてみるよ」


戦いはしたが、情報が少なすぎて、これ以上考えても答えは出なさそうだ。アルフレドは呟いた。


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「いくら今が魔女祭の最中といっても・・・まさか、だからってこんな現象が起きるわけないよな」
本来は隣接するオブリビオンやらソウル・ケルンから迷信的な恐怖があふれ出す日だったはずだが、祭祀としての根源的な意味は失われて久しかった。


アスヴァレンはきょろきょろ見回して、近くにジャ・ラールが居ないことを確認すると口を開く。
「たしか、ハイロックでは魔女祭でメファーラを召喚する儀式がおこなわれるらしいな」


「あら、それはダガーフォールでの風習ね。キャムローンやノースポイントではそういうのはないわ」


「そうなのか。いずれにせよ、我らダンマーの神を大陸の反対側の民族が呼び出すというのも不思議な話だな・・・」
メファーラ、ボエシア、そして女神アズラの三柱は、ヴィベク、アルマレクシア、ソーサ・シル亡き後、第4紀のモロウウィンドでは”真のトリビュナル”と呼ばれていた。


「もうその話はやめようぜ」アーセランは居心地悪そうだ。「魔女祭ったって、せいぜい街がかぼちゃで飾り付けされて、人々が仮装するぐらいだよ。それもこれも、街の中での話さ。まさか、このスカイリムで魔女祭りの伝承にあるようなことは起こらないだろ?」


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「伝承って、魔女祭の夜は出歩いたら、死霊術士や悪霊なんかに拐かされる、そういう?」


「知らねぇよ、そういうのは魔女に聞いてみるのが一番なんじゃね? ・・・あ、いるじゃねぇか、ここにも魔女が一人」
アーセランはいつものようにエルフの娘をからかった。


「魔女って、あたしそんなんじゃないわ。あたしは錬金術師よ」


「似たようなもんだろ?」


「ぜんっぜんちがうから! 魔女なんて・・・失礼ね!」
魔女と女魔術師との境界線はあやふやだが、人里離れた所に住み、災いをもたらすものとしてタムリエルでは忌避されていた。


「へんな仮面を隠し持って、悪霊を呼び出すウッドエルフの呪術師には言われたくないわ」


「しつけぇな、あれは事故だって言ってんだろ。それを言うなら、メリスちゃんだってポテマにでも憑かれたんじゃねぇの?」


一瞬、ウルフスカルでの光景が蘇る。


(いいわぁ、この無色透明の魂。混じり合いましょう・・・)


「何言ってるのよ!」


「まあまあ・・・、仮面のこと黙ってたのは悪い。悪かったと思ってるよ。この通りだ」アーセランは帽子を取った。「でもあれはもう片付けた。次はメリスちゃんの番だ。メリスちゃんだって隠し事してるだろう?」
アーセランはイェアメリスに詰め寄った。
「折角の旅なんだ。こういう隠し事は無しだ。なに隠してるんだよ、俺たちに」


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「かっ、隠してなんかないもん!」
イェアメリスは一歩後ずさった。


「さっきのサルモール野郎とも何を話してたんだか・・・、分かったもんじゃねぇな」


テルミンとレオナールもこちらを見ている。


「言ったでしょ! あたしは東帝都社の高官に関わる仕事をしているのよ。東帝都社は帝国と繋がってる。だからその名前を出したの。効果は見ての通りだったでしょ」


「ふ~ん、ホントかねぇ・・・何てヤツだよ、その高官ってのは」


彼女は口調を荒げた。
「とっ、とにかく・・・あたしは早く用を済ませて島に帰りたいの!」


「オレぁ見たんだよ、ホワイトランの夜、一人で抜け出していったろ。俺はともかく、アスヴァレンの旦那まで騙すのは酷ぇんじゃねぇの?」


「!」


アーセランの言葉に、イェアメリスの背筋は凍り付いた。


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「腕の光る・・・うべっ!」


思いっきり平手打ちを食らい、もんどり打って転ぶ。


「・・・ってぇ・・・、てめ、なにしやが」


「やめてよ!!! もうイヤっ!!」


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イェアメリスは倒れたアーセランに背を向けると、仲間を押しのけるようにして戸口に向かう。

テーブルに肘が当たるとマグや皿が踊り、エールの飛沫が飛び散った。


仲間達が呆気にとられる中、彼女はそのまま宿から飛び出してしまった。


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ぽかーんとした表情のアーセランは起き上がると、仲間の方を見た。


「オ、オレっち、何か変なこと言ったか・・・?」
一部始終を見ていた宿の従業員のリンリーが口を挟む。


「あなた言い過ぎよ。女にはね、一つや二つ言えないことがあるの、ほじくられたくないことがあるものなのよ」


「とっ、とにかく・・・こんな初めてのところで日も暮れると大変だ。追いかけよう!」
アルフレドは剣を担ぐとアスヴァレンに並んだ。
「ジャ・ラール、テルミン、あんたも手伝ってくれ!」


別のテーブルで酒を飲んでいたレオナールも立ち上がった。「オレも行こう」
彼らは飛び出したイェアメリスを追うように宿を出た。オレンジ色の西の空もだいぶん輝度を落としており、日没までもう時間がなかった。


「くそっ、手分けするしかないな」
イェアメリスがどこに行ったかなんの手がかりもない。彼らはバラバラに散って、村の周囲を探すことにした。




・・・




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「うう・・・イヤ・・・。もうイヤ!」


イェアメリスは嗚咽しながら、村から離れようと必死に進んだ。


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どこをどう走ったかは覚えていない。橋を渡ったような気もがする。気がつくと彼女は、岩壁にぽっかり空いた洞窟の入り口に来ていた。


彼らとは一緒に居たくない。


秘密を隠しながら旅をするのに耐えられない、そう感じた彼女は、どこでもいいから隠れてしまいたかった。


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先に何があるかなんてどうでもいい、とにかく暗いところへ・・・。そう思ってイェアメリスは、明かりもつけずにその洞窟に足を踏み入れたのだった。


足下が見えないのだから無理もない。すぐに躓いて彼女は転倒した。


坂道の途中だったため、起き上がることもできずにゴロゴロと滑り落ちる。洞窟の広まった所まで来て、身体が岩にぶつかり、ようやく滑落が止まった。


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「ううっ・・・いツっ!」


足首をひねったらしい。泥だらけになった服と顔をそのままに、なんとか立ち上がろうとしたが、あまりの激痛に彼女は諦めた。代わりにすぐそばの岩にもたれ掛かる。灯火の呪文を灯そうかと思ったが、止めておいた。


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洞窟の中は静まりかえっている。入り口の方から僅かにザァという水音が聞こえる。洞窟の外に滝でもあるのだろうか。
少し落ち着いてきて、錯乱したとも取られかねない自分の行動を思い出すと、彼女は再び消え入りたくなった。


急に不安が募り、辺りをきょろきょろ見回すが、奥の方の岩の割れ目からかすかな光が漏れている意外はなにも見えない。彼女はしばらく闇の中でうずくまっていた。




・・・




どれだけ時間が経ったか分からない。今ごろ仲間達はきっと自分を探しているだろう。


ジャリ・・・


小石を踏みつける音でイェアメリスは顔を上げた。


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彼女の転げ落ちてきた方向に、ポゥっと明かりらしきものが灯る。誰かが探しに来たのかも知れない。それとも、この洞窟の住人?


立ち上がって隠れようにも動けない彼女は、観念して足音が近づいてくるのを待った。


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ランタンの明かりを金属の鎧に反射させて、彼女の前に現れたのはレッドガードの戦士であった。


「あ・・・レオナールさん?」


「脚を怪我しているのか?」
戦士は彼女の傍らに膝をつくと、その足首に手を添える。



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「ええ、できたら、手を貸してもらえないかしら・・・」


しかし、帰ってきたのは意外な言葉だった。
「お前・・・サルモールのエージェントだな」


レオナールはイェアメリスを見下ろした。


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剣を抜き放つ音が洞窟の中に響き渡る。


彼女は喉元に剣を突きつけられた。


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「サルモールは一人でも減らしておかねばならん・・・覚悟しろ」



(第12話につづく・・・)



※使用mod、ほか


・アーセランが行き倒れを見つけるシーンは、お世話になっているくろみみさんのご厚意でSSを提供して頂けました。ありがとうございますヾ(๑╹◡╹)ノ"


 このSSたち↓
 https://blog-imgs-77.fc2.com/4/e/2/4e201/SS7026-2.jpg

 https://blog-imgs-77.fc2.com/4/e/2/4e201/SS7028-2.jpg

 https://blog-imgs-77.fc2.com/4/e/2/4e201/SS7030-2.jpg


 元となるくろみみさんのブログ(~ロリクステッドの小さな家~:6話 本当の理由)↓
 http://mochisheep.minibird.jp/?p=685


 アーセラン君の回想しているシーンを、物語にリンクさせて頂きましたヾ(๑╹◡╹)ノ"
 こういう世界を繋ぐハイブリッドなストーリー作れるのもネットの楽しいところですね^^


・RKDLFollowers v1.0
 お世話になっているロクドさんのフォロワーです。
 前回は顔見せでしたが、今回は本格的に動いてもらいました。
 いぶし銀なイメージヾ(๑╹◡╹)ノ"


・Alforttes Elves Followers -JP Custom Voice Follower( Nexus 78695 )
 お世話になっているアルフォートさんのフォロワ、ヴァルミエルさん。
 今回本格的に登場です。


・Slap( Nexus 69753 )
 ビンタmodです。通常はナゼームを張り倒すのに使うものですw
 イェアメリスに叩かれて転んだアーセラン君のモーションに使わさせて頂きました。


・Shadow of Morrowind( Nexus 77506 )
 現在のモロウウィンドの風景に使わせて頂きました(噴火しているレッドマウンテンや溶岩流)。


・Skywind v0.9.0.1
 スカイウインドの2年ぐらい前のアーリーバージョンです。
 HDDの中に眠っていたのを引っ張り出してきて使ってみました。
 真理省や過去のモロウウィンドの風景はこちらを使わせて頂きました。
 慣性版の公開が待ち遠しいですね^^


・Legendary Cities - Tes Arena - Skyrim Frontier Fortress( Nexus 47989 )
 過去作品(Tes1 Arena)に存在していた集落や遺跡、NPCを追加するmodです。
 イーストマーチのヴァーミンウッドの街、パラグラン村は今回このmodで追加しました。


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6 Comments

呉羽  

No title

大雪のため会社から早く帰ってきて、ゆっくり読ませていただきました。大ボリュームの更新、お疲れ様です。
リンリーの「女にはね、一つや二つ言えないことがあるの」発言に深いなーと思ってみたり。
またいつもながらの世界と歴史の描写にどっぷり浸かって楽しませていただきました。

2018/01/22 (Mon) 20:03 | EDIT | REPLY |   

もきゅ  

呉羽さん、コメントありがとうございますヾ(๑╹◡╹)ノ"
すごい! あんな細かいところに気付いて頂けるとは!(゚∀゚)
リンリー自体が、秘密を抱えてイヴァルステッドに逃れてきた女性ですからね~。
イェアメリスたちのやりとりを見たら、きっとあんな風に思うだろうな~って組んだシーンだったりします。
次回は、ちょっとだけ歴史が動くかな?

2018/01/27 (Sat) 15:58 | EDIT | REPLY |   

khk  

No title

初めてコメント致します。物語の世界観に引き込まれ始めから一気に読み進めて追いつきました!
これからも楽しみにしてます!

2018/02/03 (Sat) 14:34 | EDIT | REPLY |   

どくうつぎ  

スカイリムやオブリだけやってた時はあまり気に留めてませんでしたが、最近はTESは多くの種族や組織が時を同じくして複雑に絡み合っているシリーズなのだと再認識しながら物語を追うようになりました。
もきゅさんの話だと複数のキャラが同行しながら物語が進むのでそれがより鮮明に感じられるので毎回脳みそ使いながら読んでます。


そろそろ知恵熱出そう(・ω・)

2018/02/04 (Sun) 10:45 | EDIT | REPLY |   

もきゅもきゅ  

Re: タイトルなし

どくさん^^

私も最初の頃、純粋にゲームとしてプレーしていたときには、あまり意識していなかったのですが、何度か遊ぶうちにいつの間にか世界を楽しむゲームとして遊んでいる自分に気付きました。
このお話はその遊び方の延長なのかも知れません^^

今となってはNPCやAIのボリュームは他のゲームの方がボリュームあるようになってきましたが、自由にRPそうさせてくれるだけの世界の作り込みや想像の余地を残しているところがTESシリーズが愛されている所以なのかなと思っています。

本当は完全に主人公視点で、説明もなく世界背景をぶん投げるのも有りなんですけど、TES世界の中で知っていることはプレイヤーの数だけ違うので、説明っぽくなるけど時々入れちゃってます(゚∀゚)

しばらく先ですけど、ブラッキー君たちのドタバタ道中の方もイェアメリスたちの軌跡と交錯してきますので、のんびりお付き合い頂ければ~ヾ(๑╹◡╹)ノ"

2018/02/10 (Sat) 15:23 | EDIT | REPLY |   

もきゅもきゅ  

khk さま

コメントありがとうございます!
そしてコメントバック遅くなってスイマセン(・_・)(._.)ペコリ

ベースとなるスカイリムの世界観を大切にしながら、物語として面白くできたら良いなと思っているので、そう感じて頂けることは大変嬉しいです。

遅筆ですが、今後も楽しんで頂けるよう、がんばりますヾ(๑╹◡╹)ノ"

2018/02/10 (Sat) 15:27 | EDIT | REPLY |   

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