4E201

TES大好き、もきゅがスカイリムの物語をお届けします

◆Chapter 2-10: 山越え

2018
14

旅人達がホワイトラン城門前で騒いでいる。
街に立ち寄ろうというアーセランと、すぐに出発しようというイェアメリスが言い争っているのだ。宿を引き払って早速街に入ろうと意気込んだ矢先に出鼻を挫かれたアーセランは、不機嫌な顔をしていた。


「確かによ、ここが最終目的地じゃないのは分かってるが、ちょっとぐらい寄ったってバチは当たらねぇんじゃねぇの?」

彼の言うことも尤もである。しかし急ぐ理由を抱えているエルフの娘は譲らなかった。


20180111224129_1 のコピー


「ソリチュードで四日も足止め喰らったのよ。折角いいペースでここまで来たんだから、勢いあるうちに進んでしまいたいの。アルフさんはともかく、あなたこそホワイトランに何の用事があるって言うのよ?」


「用事がなかったら寄っちゃいけねぇのかよ」


「ないのね。じゃあいきましょ」


20180111224437_1 のコピー


引き合いに出された当のアルフレドはというと、二、三時間で戻るから城門前で落ち合おうという約束を残し、朝一番に城門内に駆け込んでいた。根城にしている宿屋に戻り、顔見知りに生存報告がてら、いくつか荷物を出し入れするためだ。ソリチュードでそうだったように、あまり長いこと宿を明けていると命を落としたのではと思われる。放っておくと大事な持ち物が遺品整理にかけられてしまうのはどこの宿屋でも同じであった。


彼が街に駆け込んでいって既に一時間が過ぎていた。


「帰り道ならともかく、まだ行きなんだから寄り道している暇ないわ。それにここで待つって約束したでしょ」


平行線だ。


「イフレにかけて、オレはそんな約束した覚えはこれっぽっちもねぇよ、ここに来たら既にそういう話になってただけじゃねぇか」


「寝坊してきたんだからしょうがないじゃない。あなたが悪いのよ。とにかく待つの。そしてアルフさんが出てきたら出発よ」
彼女はそう言うと、案内人の傭兵が入っていった城壁を見上げた。


20170625232709_1


ホワイトランは街として大きいと言うだけでなく歴史も古い。五百の同胞団が建てたジョルバスクルと周辺の集落から始まり、第1紀の比較的早い時期にドラゴンズリーチと雲地区が生まれた。その後丘の上から順に、風地区、平野地区が整備され、オブリビオンの動乱で破壊されて今は再建中の東地区と正門前の内庭、そして今彼女たちが騒いでいる城門前の市場、周辺を取り巻くバトルボーンやペラジアの農場、ホニングブリュー醸造所と、年代を経る毎に樹木の年輪のように外へ外へと広がり続けていた。


20170625232123_1


街はスカイリムの中心の広大な平原に位置する地の利から陸上交通の要衝となっており、様々な商人が行き来している。しかし丘の上に築かれているため、城壁内部にあまり大きな広場などは備えていない。分断された各地区は防衛上有利であったが、逆に欠点にもなっていた。


限られたスペースではとても足りないため、街とその周辺に暮らす人たちは各地区の小規模なスペースをうまく使って商売をしているのが現状だ。彼女たちの居る城門前でも、一帯に出店や旅商人のキャンプが集まり、ちょっとした市場を形成していた。


20180109001040_1 のコピー


市場で取り扱われている商品も千差万別で、地区によりそれぞれ特徴があった。城壁より外は生活に密着した商店が多く値段も庶民寄りだ。そういうところにはよそ者の商機は少ない。逆に城壁内では鍛冶や錬金、雑貨や宝飾など、生活に余裕のあるものが売り買いする品が主体であり、相場という別の要素が絡んでくる。昨晩泊まったラムズヘッドの客達との会話の中から、そういった街の様子をいち早く感じ取っていたアーセランは城壁内への滞在に拘っていた。


20180111225459_1 のコピー


しばらく言い争いをしていた二人だったが、こうしていても埒があかない。じっとしていられないアーセランは、鼻息荒く城門周辺の市場を見て回りに行ってしまう。


ボズマーが喧騒に消えてまった後、道の真ん中にはイェアメリスとテルミン、無口なアスヴァレンの三人が取り残された。


「相変わらずだな」


苦笑したアスヴァレンにポンと帽子を叩かれて、イェアメリスは顔を上げた。正直、彼女は街の中へ入るかどうかなど、どうでも良かった。呪いの進行と、夜中に見た変な夢のせいで頭がいっぱいで、気分も良くなかったからだ。


「どうして言い合いになっちゃうのかしらね」


20180111225620_1 のコピー


アスヴァレンが軽く口元をほころばせる。アーセランが色々考察した事などつゆ知らず、おざなりに対応したのが原因なのだが、言っても無駄だろうと、微笑むに留める。イェアメリスはそれに気付かず、気分転換のようにひとつ、大きく伸びをした。


「さて、もうちょっと待つ間、あたし達はどうしましょ?」


深呼吸をして彼女は気がついた。朝っぱらからの些細な言い争いで、気の重い悩みは遠い出来事のように吹き飛んでしまった。一時的にとはいえ心の健康を取り戻せた気がする。好きでやっているわけではないが、彼女はアーセランとの口喧嘩が気持ちを紛らわせるのに随分役立っていることを認めないわけにはいかなかった。


消えたボズマーと入れ違いに、誰かが通報したのか巡回中の衛兵がやってくる。旅人が何組騒いでいようが普通なら目にもとまらないが、城門前だったのが災いしたようだ。夜勤明けなのだろうか? 門とは反対側から近づいてきた衛兵は大きなあくびを一つしたあと、眠さをこらえるようなぼうっとした目で騒ぎの原因を見た。衛兵は少女リズだった。


20180111231705_1 のコピー


「何ごともないわね・・・って、またあなたたち?」


少女は道の真ん中にイェアメリスを見つけると、あからさまにうんざりした顔を見せた。「おねえさん、具合はどう?」


「あ・・・。随分良くなったわ。ありがとう」


「知り合いか?」
テルミンが不思議そうにこちらを見ている。


「え、ええ。昨日ちょっとね・・・」
彼女は詮索を避けるように、口を閉ざした。代わりに少女が口を開く。


20180111231234_1 のコピー


「あなたたち通行の邪魔になってるの。行くか入るか脇に寄るか、どうにかしてくれない?」
苦情が出ているのだと身ぶりで示すと、少女は言葉で押しやるようにイェアメリス達を石畳から移動させる。彼女たちはリズに促されるまま、カジートキャラバンがキャンプを片付けている脇に身を避けた。そこでは昨日世話になったリサードをはじめ数人のカジート達がたむろしていた。


昨日助けてくれた老カジートに会釈すると、向こうも挨拶を返してきた。カジート達も今日出発するらしい。彼らは出立の準備を・・・テントを畳んだり焚火を消したりしていた。


20180111224316_1 のコピー


軽く話を交わしていると、獣人たちの耳がぴくっと反応する。その視線を追ってたどり着いたのは、道の反対側にある、彼女たちが昨日泊ったのと同じラムズヘッド亭だ。宿から出てきた三人組のカジートたちが雑談しながら歩いてくる。


昨日は気付かなかったが、別の部屋に泊っていた客達のようだ。中央にいる一人がやたらとイェアメリスの眼を引いた。アルフレドと同じように大剣を背負い、よく見るとテルミンと同じように左目に眼帯をしている。軽装鎧を着込んでいるところを見るとこの男も傭兵なのかも知れない。


20180112000014_1 のコピー


カジート達はその独自の生活習慣や倫理観が災いし、スカイリムでは殆どの街で立ち入り禁止にされている。このホワイトランも例外ではなく、彼らはリサードたちのように野宿するか、城壁外に投宿するのが一般的であった。


戻ってきたアルフレドが現れたのはちょうどそんなときだった。城門の方から歩いて来た彼はカジート達と互いに行く手を塞ぎ合うような形ではち合わせる。何か起こってしまうかとハラハラしながらイェアメリスは見守ったが、彼女の心配を余所にアルフレドは気さくに片手を上げてそのカジート達と雑談を交わし始めた。


20180112000128_1 のコピー


しばらくするとカジート戦士たちはアルフレドを残し、向きを変えるとイェアメリスの脇を通り抜けて、片づけをしているキャラバンに合流した。追っていると、いつの間にかアルフレドがすぐそばまで来ていた。


「待たせたな」


「お帰りなさい・・・っていうのも変な挨拶ね。ところで、さっきの人たちは?」
イェアメリスは、キャラバンに混じって長であるリサードと話し込んでいるカジートの傭兵たちを目で追った。


「ああ、アイツらはジャ・ラール一家さ。オレと同じでホワイトラン周辺で活動しているカジート三人組・・・まあ、傭兵仲間だ」


「同じ宿屋に泊っていたのね。気付かなかったわ」


「彼らは静かに飲む方だからな。カジートキャラバンに雇われて、今日から仕事らしいから集まってきたんだって」


アルフレドと同じような護衛の仕事なのだろうか。カジート達はそれぞれ武装しており、キャラバンのメンバーの身軽さとは対照的であった。


20180113155635_1 のコピー


「あいつら、強そうだな・・・」
テル泣~ンが品定めするように、自分と同じように眼帯をしているジャ・ラールを目で追う。背負っている剣は相当重そうだ。彼女の戦鎚といい勝負かもしれない「戦ってみてぇな・・・」


「ま~たそういうことを」


「いいじゃねぇか。戦士が戦士を求めるのはスカイリムじゃ当たり前だぜ?」


「アイツらは強いぞ。彼がリーダーなんだが、ああ見えて魔法の達人でもあるんだ」
アルフレドの説明に、テルミンは目を輝かせた。


20180113151342_1 のコピー


「手合わせ頼んだら受けてくれるかな・・・」


「まだ言ってる、やめなさいよ」呆れたイェアメリスは気を逸らそうと引っ張った。アルフレドは笑いながら自分の剣の柄をポンポンとたたいた。


「テルミン、そんなに戦いたかったら今度、同胞団の門でも叩いてみたらどうなんだ? あそこは真の戦闘集団で、戦いの依頼をいつも受けてるぜ」


女戦士は少し考えるように首をかしげた。
「同胞団ね・・・確かに魅力的だが・・・まあ、組織関係はしばらくいいわ。ストームクローク抜けたばっかりだしな」


「あんまり大きな声で帝国とかストームクロークとか言わないでくれよ。一応ここは中立だが、どんな奴が聞いているか分からん」」
傭兵はあわてて辺りを見回したが、テルミンの言葉を気に留めた者は近くには居ないようだ。しかし安心しかけてぎょっとした顔をする。彼は一行の中に、さも当然のようにリズが混じっていることにようやく気が付いた。


20180113154237_1 のコピー


「うわっ・・・って、あれ? リズちゃんこんな所で何してるんだ?」


眠そうな衛兵少女は不機嫌そうに答えた。「どうせまた小さくて見えなかった、とか言うんでしょ」背の低さがコンプレックスなのだろうか、可愛らしく頬を膨らませている。


「何をしているかって、衛兵の仕事だよ。夜勤の終わりに帰ろうと思ったら、道を塞いでいる迷惑な人たちがいるから何とかしてくれって、あたしが呼ばれたの。来てみれば見たことある人たちじゃない。アルフ君、保護者なんだったらなんとかして」


「保護者って・・・なんだ、またアーセランとメリスちゃんの口喧嘩か? それともテルミンが道で寝てたか」


「あのね・・・アルフさん。あたし達をどういう目で見てるわけ?」
イェアメリスは眉をひそめると口を尖らせた。


20180113164020_1 のコピー


「はは、冗談だよ」
ひとときでも自分の寄る辺に戻る機会を得たからか、街から戻ってきた若者の目は明るく輝いている。衛兵の少女はそんな傭兵に批判的な目を向けた。


「それはそうとアルフ君、帰ってきたばかりでまた行っちゃうの? クラリス怒ってなかった?」


イェアメリスも便乗する。
「そうよ。キナレスのご加護もあってホワイトランまでは無事に着いたから、あたしたちの護衛依頼は無事完了よね」


「たしかに、護衛はここでいったん完了なんだが、まだフーラの行方が分かってない」アルフレドは女戦士をちらりと見た。
「『行方知れず』って報告しようかと思っていたんだが、テルミンが手がかりをくれたからな。ダメ元かも知れないけど、もうちょっとだけ調べてみようと思うんだ」


「そう・・・」


傭兵は市場の向こうに見える山並みに目を向けた。
「それにメリスちゃん。この先ももうしばらくホワイトランの領土が続くから、折角だし州境まで送ってくよ」


20180113162600_1 のコピー


「えっ、それはありがたいけど・・・」
イェアメリスはポーチを確認するように下を向いた。「サレシ農場での買い付け、足りるかしら・・・」


「よし、リフト地方も護衛してやるよ。格安で!」


(むぐっ…)


「とか言うと思った?」アルフレドは笑った。「・・・もしかして財布を心配してる? 大丈夫。金なんて取らないよ。フーラ探しはオレの依頼だからな」


「もうっ、どきどきさせないで」


イェアメリスは目を白黒させて案内役の傭兵に毒づいた。


「ふ~ん・・・」
様子を見ていたリズは納得したように、ニヤニヤしながら傭兵を突いた。「アルフ君、仲間ができて冒険心に芽生えちゃったってわけ」
「そういうわけじゃ・・・」


20180113155544_1 のコピー


「小さい頃から『火中に舞う』とか『帰還の歌』とか大好きだったもんね」


「止めてくれ恥ずかしい」


「あたしは眠いからどうでもいいわ。非番だから帰って早く寝たいだけだもん。けど、クラリスどう思うかな~?」


「リズちゃん?」


「おっとりしてても女は女だよ~。アルフ君が綺麗なエルフの女の人と冒険に出た、ってちゃんと伝えとくね」リズはニヤニヤしている。


「ちょ、ちょっ・・・待ってくれよ。それどういうことだよ」


「またちょっと行ってくるとか言って、どうせちゃんと伝えてないんでしょ?」


「うっ・・・、でもその言い方は・・・」


「あたし嘘言ってないもん。あ、でもスイートロール奢ってくれたら考えてあげる。口止め料だよ、安いよね」


20180113160720_1 のコピー


イェアメリスはぷっと吹き出した。
「この子、ホントに衛兵?」


アルフは最近癖になったように、天を仰ぐと、知り合いの口癖を真似した。
「ホワイトランの警備状況は最悪だな・・・」


その後彼らはリズと分かれると、アーセランが合流するのを待って出発した。腐れ縁のボズマーはぶちぶち文句をこぼしていたが、もともとが密航者であったし、今のところ特に行く当てもない。もうしばらく彼女たちと行動を共にした方がいいと考えたようだ。置いて行かれそうになると、慌てて小走りに着いてきた。


まだ朝も早い時間。どこまで進めるか分からないが、稼げるうちに距離を稼いでおきたい。彼女たちはホワイトランの正門を背にし、真っ直ぐ進んで主街道との接続点までやってきた。ここまでは街の一部のようなものなので、ここからが本当の出発だ。


20180109000848_1 のコピー


「ほう、こんなにたくさんの行き先が書いてある看板も珍しいな」


アスヴァレンは興味深そうに主街道の行き先表示の立て札を見た。


「ここは地理的にもスカイリムの中心だからな」


20180113173352_1 のコピー


「で、アルフの兄さんよ、タロスの腕にかけて、アタイ等はどっちに進むんだ? っていうか、そもそもどこに向かってるんだ」


途中から加わったテルミンは、彼女たちがどこに向かっているかを知らなかった。アルフレドはイェアメリスにちょっと目配せしたが、彼女が頷くのを確認すると、地図を広げて目的地を告げた。テルミンは地図を覗き込んだ。


「なになに・・・イヴァルステッドを抜けて、と・・・こんなところに農場あったっけな?」


「リフト地方のサレシ農場というところらしい。錬金術師の間では有名なんだそうだ」


274


「お! サンガードも通るんだな」


「ああ、通過点だけどな。イヴァルステッドの北側は山が険しいから、南から回る予定だ」


「あの辺りは行ったことあるぜ。入隊する前はよく回るルートだったんだ。晴れてる日にサンガードの城壁の上で昼寝するのが、これまた気持ちいいんだ。ときどき下の川に落っこちたけどな」そう言って笑う。


聞けば聞くほど奔放だ。イェアメリスも野原を駆け回って自由に育った方だが、テルミンには及ばなかった。これは育ちと言うより性格のなせるわざかもしれない。


「そっか、わかった、じゃあ、アタイもカイネスグローブに帰るから、農場まで一緒に行ってやるよ。で、そのニルンルートってのは美味いのかい?」


女戦士は目をぐるぐるさせるアルフレドの背中をポンと叩いた。


20180113172456_1 のコピー


一行は主街道を東に進み、ペラジア農園を越えホニングブリュー蜂蜜酒醸造所の脇を通り過ぎる。


「これこれ、ホワイトランに来たら、ここに寄らないでは帰れねぇよな。アルフの兄さん、金有る? いいや、面倒だから一緒に来てくれ!」


「ちょっ、テ、テルミン?」


イェアメリスが止めるまもなく、ノルドの女戦士は傭兵の腕を掴んで道端の店に消えてしまう。


ホニングブリュー蜂蜜酒醸造所・・・看板にはそう書いてあった。


「スカイリムでは有名な銘柄らしい」

追いついてきたアスヴァレンも苦笑している。


「まあ、スジャンマに勝るものはないがな」


20180113173407_1


「あなたも相変わらずね」


このあたりはホワイトランの衛兵達の巡回経路にもなっており、旅人の安全も確保されている。彼女たちの隊列は自然と散らばって長くなり、景色を充分満喫しながら歩くことができた。昨日通りかかった帝国軍の野営地、そしてこれから立ち寄るであろうストームクロークの隠れキャンプ。そんなものが同じ領内にあるとは思えないようなのどかさであった。


「歩いても歩いてもホワイトランが見えるのね」


このあたりは平坦で、左を見ると常に城壁が見える。スカイリムの中心都市はさすがに中心と言われるだけの大きさを誇っていた。ホワイトラン南側の堀を兼ねている小川もこのあたりまで来ると広く深い。


20180113173825_1 のコピー


少し先に橋と滝が見え始めてきた。南から流れてくるホワイト川が堀の小川と合流する地点だ。この川はイリナルタ湖を水源とし、リバーウッドを経由して流れてくる。ホワイト川は、西リーチを水源としてソリチュードで海に注ぐカース川と並んで、スカイリム二大河川の一つだ。


一行が大きな橋を渡ると、ようやく景色に変化が見られ始めた。


正面にそびえる山が街道の直進を阻んでいた。ここはもう世界のノドの麓あたり。主街道は山を回り込むように左、すなわち北に折れている。案内役の傭兵は足を止めると、川の対岸に見える巨大な町並みを見下ろした。




「ほら、見えるかい? あれがジョルバスクル」
少し離れて見下ろす街は、それでもまだ家々の屋根を見分けられるぐらいの距離だ。彼は並んだ家々の屋根の中から、船をひっくり返したような不思議な形をした建物があるのを指さした。
「同胞団の本拠地だ」


20180113175029_1


「まるで船をひっくり返したみたいね」


「メリスちゃん正解。言葉通りそのままだよ。あれは船だったんだ」


アルフレドは歩きながら、同胞団の成り立ちについて話してくれた。


「・・・で、今はコドラク・ホワイトメーンという偉大な戦士が団を率いているんだ。彼の言葉は九つの要塞すべてにおいて重要視され、幹部はどのホールドに行っても従士と同等の待遇を受けられるらしいぜ」


20180113185524_1 のコピー


「へぇ、そんなにすごいもんなのか」


アーセランも興味深そうに、船底の屋根を眺めた。


「なにしろ英雄イスグラモルの作った戦士団だからな」


20170625230954_1 のコピー


「スカイフォージの鋼にイスグラモルの同胞団。やっぱりホワイトランには寄るべきだよなぁ・・・商売の匂いがぷんぷんするぜ。ちぇっ。メリスちゃんのせいで儲けを逃しちまった」


「あたしのせいにしないで」


「まあまあ、用が済んだらゆっくり来るといいさ。おれが案内してやるよ」
アルフレドはアーセランをなだめると軽く伸びをした。「コドラクさん以外にも周りにいるのもすごいヤツばかりなんだぜ。前に話したけど、オレも時々稽古をしに寄ることがあるんだ。ファルカスにはまだぜんぜん勝てないけど、最近ようやくシグルドさん相手に勝率二割まで持って来れるようになったんだぜ」


「アルフさんでも敵わないの? あんなに強いのに」


「彼らは別格だよ。指名で依頼が来るぐらいだからな。俺もそんな風になってみたいもんだね」


「ファルカス? シグルド? そいつらは強いのか?」
戦士の話になると、テルミンが食いついてきた。


「ファルカスは有名な戦士だ。シグルドさんは元帝国軍にいた人なんだが、退役して故郷のスカイリムに戻ってきた、同胞団の次期導き手だってもっぱらの噂の人だな」


20180113190713_1 のコピー


テルミンは眼帯の位置を直した。
「そいつらは知らねぇけど・・・、そういえば、コドラクのほうはウインドヘルムでも有名だぜ。同胞団の連中、年に一回『戦士たちの壁』に詣でにくるんだ。そこでよくガルマルのおっちゃんと話し込んだりしていたからな・・・ってことは、他の連中ともすれ違っていたってことか・・・」
彼女は遠くなった逆さ船を臨み、額に手をかざした。


「『戦士たちの壁』ってのはなに?」


「アタイも知ってるウインドヘルムの名所の一つだよ。5000の同胞団とノルド歴代の上級王の名前が刻まれた壁・・・だったかな」


「500だぞ」


「あ、そうそう、500な」


20180113192147_1 のコピー


「ということは、殺されちゃった上級王もそこに名前を連ねるのかしら?」


「トリグだっけか? 『戦士たちの壁』はウルフリックのお膝元だからなぁ・・・ウルフリックはトリグを嫌っていたし、きっと無理なんじゃね?」
本来、上級王は葬られたのち壁に名を刻まれるのであるが、内戦でスカイリムが二つに割れている現状、どうなるか先行きは不透明であった。


「それよりもアタイは同胞団が気になってきたぜ。今度寄ったら手合わせだな。そんな連中と毎日戦いに明け暮れているって最高じゃんか。・・・組織は面倒くせぇけど、入団を考えてみてもいいかもな」


雑談をしながら、ホワイトランの雄大な町並みに見とれていたイェアメリスだが、ふと視線を行き先に戻した。気になるものを見つけたのだ。
街道の脇に小さな丘がある。細い枝道が分かれて丘の上に通じているようだが、この主街道からでは上に何があるのか覗えない。気になったのは、入り口にあたるところに衛兵がいるからであった。


守りに就いている彼らは、よく見るとリズの着ていたのと同じ制服を身につけていた。ホワイトランの衛兵なのは間違いない。


20180113180507_1 のコピー


「あそこは何? 警備の人が居るみたいだけど」


「ああ、聞きたいかい?」
イェアメリスの指す先を見てアルフレドはにやりと笑った。これは何か逸話を知っている時の顔だ。


「何かあるのね。お願いするわ、案内人さん」


「よしきた。ここはちょっといわく付きでね・・・」


周りを見回して差し迫った危険がなさそうだと判断すると、アルフレドは徐々にペースを落とした。最後に立ち止まると、遠巻きに仲間達が小さな丘を見学する時間を与える。


Skyrim Map 2-10 -3


「あの先には大立石と呼ばれる石碑があるんだ」


「石碑? あのお参りするところ?」


「スカイリムではそう呼ばれているのさ」
アルフレドは丘の上の大立石について語りはじめた。


タムリエルに生きるものは、生まれた月に対応した守護星座を持つ。
各地に点在する星座を模した石碑は、その日の仕事に出るときに道端でちょっと拝んでゆく、そんな縁起担ぎのちょっとした拝跪の対象。それが大立石だった。庶民には馴染みの深いものであり、九大神信仰とはまた別の土着の習慣だ。スカイリムでは目立つランドマークとして知られていた。


「ああ、あるのは何てことのない普通の石碑なんだけど、ここにはちょっとした迷信があってね」傭兵は仲間達の視線が興味深そうに自分に向くのを確認すると続けた。「星座に対応した13の大立石には、太古の英雄たちの力が宿っているという言い伝えがあるんだ。そして、選ばれた者が石碑に触れると星座の守護を受けられる、と」
本来、守護星座は生まれた時に月に応じて自動的に定まるのだが、稀にその星座を持たないものが生まれるらしい。その者は大立石に触れることで個別の秘められた力を受けることができるというのだ。


20180113180524_1 のコピー


「ホント?!」


「あくまで噂さ。でも火が無いところに煙は、の話もある。何もないところだったら衛兵を派遣してまで警備したりはしないだろ」


「言われてみればそうね・・・。でもどうしてここが特別なの?」


大立石は庶民には験担ぎと心の平穏をもたらすだけの精神的な存在だ。キルクモアの各所に点在した太古の日時計と同じようなものに過ぎない。イェアメリスが知っているのはその程度の知識であった。


「メリスちゃんあわてない。ここからが本題だ」アルフは少し溜めを作るように息を吸った。「石碑は力を引き出す者が触れると、様々な恩恵を得られるというのはさっき話したが、その恩恵にもいろいろな種類があるんだ。その中でも儀式座に対応するこの大立石・・・『儀式の石碑』は非常に危険なものなんだそうだ」


「そんな危険なものが大っぴらにあるわけ?」


「だから警備してるんだよ」


20180113180838_1 のコピー


アルフレドが聞いた話に拠れば、儀式座の石碑に触れた者は魂に仄暗い影響を受け、周囲の死者を操る力を得るらしい。


「古い話だが、スカイリムに嫁入りしてきたポテマ女王は星座を持たない者の一人で、この石碑の加護を受け死霊術に目覚めたとも、この石碑の力を宿したアーティファクトを所持していたとも言われている。そのことからこの場所は一気に有名になって、女王亡き後も死霊術士達の興味を引き続けたんだ。ホントかどうかは分からないが、レッド・ダイヤモンドの戦い以降、死霊術にいい加減うんざりしていた当時の皇帝セフォラス一世がこの石碑の破壊を命じたけど、石はびくともしなかったらしい。そこで仕方なく兵が派遣されて、人が近寄れないように警備されることになったと言う場所なんだ」


ポテマと聞いて、イェアメリスはビクッと身をすくませた。


20170624133719_1 のコピー


(そうよ! この世界に戻して!)


(・・・)


20170716181243_1 のコピー


(死の臭いが充満している・・・)


(・・・)


20170716185505_1 のコピー


(もう動けなくなった? まだ半分しか入ってないわ・・・あなたでもまだ、器には不十分なのかしら)


(・・・)


20170716230744_1 のコピー


(・・・)


ウルフスカルでの出来事が、まるで昨日のことのように思い出される。日が燦々と照りつけているにもかかわらず、彼女はヘ酷い寒気を感じた。


「ん? メリスちゃんどうかしたか?」


「え、いえ。聞いてるわ。続けて」


「それからというものこのように、ここを守るのは代々ホワイトランの仕事になったってわけさ」


テルミンは感心したように傭兵を見た。
「それにしても、アルフの兄さん物知りだな。吟遊詩人の方が向いてるんじゃねぇの?」


「はは、それもいいかも。だけどやるなら年を取ってからだな」持ち上げられた傭兵は、背中に吊した長物の柄を叩いた。「今のとこ、俺はこれを振り回している方が性に合っているよ」


20180113203407_1 のコピー


「ハハッ、アタイと同じだね。ま、アタイは歌のほうはからっきしだけどな。それより、手合わせしねぇか?」


「おいおい、今は依頼の途中だぜ。また今度な」


「絶対やろうぜ、な」


横ではボズマー商人が丘の上を望むようにきょろきょろしていた。
「その大層な石碑、オレっちも触ったら御利益あるんかな?」


「・・・はは。誰でもと言うわけじゃないさ。俺も触ったことないからなんとも言えないけど、星座を持たない生まれ・・・資格のある者にしか影響はないらしい」


「当たるか外れるか、くじみたいなもんか」


「なんだ、大死霊術士アーセランでも目指すのか?」


(Jun Dahmaan・・・)


「それもいいかもな。そそる響きだぜ。・・・ん? ・・・?」


20180113203007_1 のコピー


「どうした?」


「い、いや。なんか聞こえたみたいな・・・」


おとなしく聞いていたイェアメリスは、わざとらしくにっこり笑うと口を開いた。
「アーセラン。あなたは罰が当たるくらいよ、きっと」


「言ったな、このお団子帽子」


アルフレドはまたかと笑うと、そろそろ仲間に脚を動かすように促した。正面からの日光を受けながら、彼女たちは州境目指して旅を再開した。




・・・




しばらく進むと道はなだらかになり、いつの間にか上り坂も終わっていた。もうしばらく進むとイーストマーチとの境界に差し掛かるはずだ。


「テルミン、そのストームクロークの野営地ってのは、この近くなのか?」


「ああ。山に向かって少し行ったところ。斜面のふもとにキャンプがあるはずだぜ」
儀式の石碑を過ぎた辺りから、テルミンがアルフレドに代わって先導していた。


Skyrim Map 2-10 -4


ホワイトランとイーストマーチを直接結ぶ経路は、いま彼らが歩いているこの主街道しかない。ホワイト川沿いに世界のノドの北側を通過するこの街道は山と川に挟まれて幅も狭く、標高差を越えるために峠道のように激しく蛇行している。途中には世界のノドの雪解け水を水源とする急流が幾つも横切り、お世辞にも行軍に適した道とは言い難かった。その天然の険しさのおかげで、この辺りは内戦の影響をほとんど受けていない。逆に言うと、あまり兵が来ない場所だからこそ、兵を隠すには都合がよいとも言える。ストームクロークたちは、蛇行した道が終わってホワイトラン領内に入った直後の場所にキャンプを構えていた。


テルミンは辺りの景色を少し確認すると、道端の積み石を目印に街道を外れ、薄い草原の中を山の方に向かって彼らを導いてゆく。一見何もないただの草原のように見えるが、狩猟に長けた者の目からすると地面には無数の痕跡が刻まれているのは誤魔化せない。先頭を行く女戦士は自然体その物だったが、残りのメンバーはやや身構えながら着いて行った。


視界の向こうにテントが見え始めたころ、イェアメリスが脚を止める。
街道からはかなり奥まっており、ふもとの稜線によって影になるあたりにそのキャンプはあった。


20180113204345_1 のコピー


「ん、メリスどうした? いこうぜ」


テルミンは訝しげに首をかしげたが、彼女はそれ以上進もうとしなかった。


「兵士のキャンプなんでしょ。またあんな目に会うのはイヤだわ」
帝国軍の野営地で兵士たちに散々ちょっかいを出されたことを言っているのだ。


「すべっすべエルフはノルドに受けがいいもんな」
アーセランはイェアメリスが睨みつけるのもものともせず、ニヤニヤしながらここぞとばかりに軽口を叩いた。しかし彼自身も少し考え込むようにその口を止めた。


「どうした?」


20180113205817_1 のコピー


「ん~・・・良く考えたんだけどよ、このキャンプ・・・、そもそも、俺たち歓迎されるのか?」
ノルドのテルミンとアルフレドはともかく、残りはアルトマー、ボズマー、ダンマーとまるでエルフの博覧会だ。多様性に理解のある帝国軍の野営地でも訝しがられたぐらいだから、変な目で見られることは間違いなかった。


テルミンは仲間を見回すと、眼帯のずれをなおした。
「あ~、そう言われてみれば・・・でもまあ、大丈夫なんじゃね」


「そんな気楽に言うけど・・・ストームクロークって、殆どノルドなんでしょ」


いま向かっているキャンプは、この前の大々的に開かれていた帝国軍の野営地とは違い、反乱軍が隠れ潜む場所だ。


20180113210120_1 のコピー


「あたしは行きませんからね」


イェアメリスは端から拒否、アーセランは不安と期待半分、アスヴァレンはいつも通り泰然自若とした面持ちだ。下方に横たわるホワイトラン平原から流れてくる、太陽に温められた緩やかな風を受けながら、彼らは先導者である傭兵と女戦士を見た。


「ダンナ、行くはいいけど、どうやるんだ? またこの前の野営地みたいに捕虜をかっさらうとかじゃないだろうな。帝国軍とストームクローク、両方から追い回されるお尋ね者はゴメンだぜ」


「待てって、テルミンをかっさらったのはオレじゃなくてメリスちゃんだぜ」


「そうだった。・・・まあ、今度はアルフのダンナ、あんたの依頼だろ? ちゃんと考えはあるんかい?」


20180113210609_1 のコピー


アルフレドは考え込む素振りになった。


「なに難しい顔してんだい、行って、見つけて、連れ出す。やる事ったらそれしかねぇだろ?」テルミンが急かす。


「あ、ああ・・・。たしかに、ここで考えを巡らせても分からないことだらけだ。フーラがいるかも分からないし・・・」彼は仲間の方を振り返ると頷いた。「分かった。これはオレの仕事だから、今回はテルミンと二人で行ってくるよ」


アルフレドはそう言うと、三人に待っていてくれるよう指示し、自分たちだけで奥に進むことにした。


「ま、それが無難さね」


テルミンも同意し、イェアメリス達は街道に戻って休憩がてら、二人の戻りを待つことになった。

二人が行ってしまった後、彼女達は道端に腰をおろし、遠くに見えるホワイトランの街並みをぼんやりと眺めた。


20180113213409_1 のコピー


少し憂いを含んだ表情で街を眺めるイェアメリスの髪を風が弄ってゆく。降霜の月はスカイリムでは冬の始まりといえる月であったが、この辺りを吹き抜ける風はまだ暖かい。彼女はソリチュードで別れ際にビビアン・オニスと交わした会話を思い出していた。


「ウルフリック・ストームクロークをソリチュードから逃がしたの。彼が乗込んできて上級王を殺した後、ロッグヴィルは行かせてしまったのよ」


「それって、反乱軍の指導者を逃がしてしまったって事?」


20170813154825_1 のコピー


「そうよ。あの門を開いたとき、自分が何をしているのか彼が自覚していたとは、とても信じられないわ。昔からそうなのよ。興奮するととんでもないことやらかすの。あたしたちいろいろな被害に遭ったわ。彼のせいでね。それももう終わり。ガラクタが消えてせいせいしたわ」


「でもガラクタって、そんな言い方・・・」


「あなたに何が分かるって言うの? ロッグヴィルの処刑の時、あそこに居たんでしょ? ・・・あ、旅人さんは足止めを喰らったぐらいにしか思ってないかも知れないけど・・・そうね、じゃあ、こんなのはどう? ・・・従姉妹のフーラは今もスカイリムのどこかでウルフリック・ストームクローク率いる暴徒どもと戦っているの。剣なんて、握ったこともなかったのに。ロッグヴィルがあんなことしなかったら、戦争はもう終わってたはずよ」


20171030004707_1 のコピー


「・・・」


「そして叔母は、自分の娘の心配をしなくてもよくなっちゃったの」


「え?」


「叔母にはもちろん言ってないけど、生きてるわけ無いわ。連絡の途絶えた兵士なんて、どうなってるか分かるってものでしょ? まったく・・・ねぇ。酷い話よ」


(フーラさん、見つかるかしら・・・)


アルフレド達の成功を祈っている中、アーセランの呼びかけで彼女は現実に引き戻された。


「おい、誰か歩いてくるぜ」


20180113214247_1 のコピー


遠目の利くボズマーは、こちらに歩いてくる人影に気がついていた。「ありゃぁ尻尾か? 人間じゃねぇな・・・」
彼女たちが来たのと同じホワイトランの方から歩いてきたのは、カジートの二人連れだった。


「あ、リサードさん!」


イェアメリスが相手を認めて声を上げる。やってきたのは昨晩、倒れている彼女を介抱してくれたカジートだった。背の高い連れにも見覚えがある。眼帯をしたもう一人のカジート戦士は先ほど城門前で見かけたジャ・ラールであった。


「おや、おまえさん。こんな所で会うとは奇遇だね」


「リサードさんこそ・・・」言って気付く。リサードとジャ・ラール二人しか居ない。キャラバンではなかった。
「キャラバンはどうしたの? それに二人だけって・・・なんだか旅人みたいだわ」


20180113221030_1 のコピー


「そう、リサードはいま旅人だよ」


優しい顔をしたカジートの老人は、ひと休みとばかりに彼女たちの脇に来て腰掛けた。カジート達はいくつかのグループに分かれ、街から街へと渡り歩いて商売をしている。彼はスカイリムで活動をするカジートキャラバンの長老的存在であった。年老いたとはいえ、リサード自身も隊を率いており、カイラ、アタバー、マランドゥル・ジョーといった仲間達と一緒にホワイトランとマルカルスを往復していた。


「おじいさんはなぜ、スカイリムに来て商品を売っているの?」


「鋭い質問だね。何しろここは故郷から遠く離れている上に、寒く、厳しい地方だからね」
リサードは間近にそびえる世界のノドを見上げながら続けた。
「賢い交易商は長旅の手間を惜しまず、最高の商機を見つける。今のスカイリムはまさに熟れきった果実さ。戦乱を恐れて多くの交易商は寄りつかないが、勇気さえあれば大きく儲けられるんだ」


20180113230408_1 のコピー


アーセランはそれを聞いて大きく頷いた。
「じいさんもそう思うかい。俺っちもそう思ってな。このスカイリムに一旗揚げに来たのよ」


「あんたは成り行きでここに居るだけでしょ」


「イフレにかけて、いまに見てろよ。俺が稼いでから擦り寄ってきたって手遅れだからな」


「擦り寄るって・・・あなたねぇ、まずはあたしに借金返すのが先でしょ」


20180113220503_1 のコピー


「あれはチャラになったはずじゃねぇか。覚えてねぇのかよ」


「ちがうわ。手形の代金だまし取られたままよ」


「だまし取るって、人聞き悪いな。言いがかりはよしてくれ」


「あなたねぇ・・・」


黙ってその様子を見守っていたリサードの連れの傭兵が、少し呆れたように微笑んだ・・・ように見えた。近くでよく見たことがなかったので、彼女にカジートの表情は複雑すぎたのだ。


「相変わらず、毛無し族は賑やかだ。ジャ・ラールは聞いているだけで疲れる」


「毛無し族?」


「ああ、カジートは立派な毛皮を持っている」


「え、えっと・・・」


「それに引き換えお前たちは中途半端にしか毛が生えてない。毛無し族だ」


20180113231927_1 のコピー


イェアメリスはきょとんとして大きなカジート傭兵を見た。


「おいおい、まるで毛が多い方が偉いみたいじゃないか。ここではすべっすべエルフの方がお前さん達の毛皮よりも価値があるんだぜ?」


「アーセラン、それやめて。・・・あたしもジャ・ラールさんも、商品じゃないわ」


「何言ってんだ、このネコの兄さんに、毛無しなんて馬鹿にされているんだぜ?


「馬鹿にしてなどいない。事実を言っただけじゃないか。それにネコなんかと一緒にされては困る。あれは地べたを這いずる卑しい種族。カジートは神によって創られた美しい種族だ」


よく分からない言い合いが始まった。口喧嘩に発展しそうなのを感じ取ってリサードが纏めようと腰を浮かせたが、代わりに、口元を緩めたアスヴァレンが遮るように手を上げた。


「ふっ・・・、こんなところで種族論を言い合っていても仕方あるまい?」
彼はギャーギャー言い合っているエルフ組とジャ・ラールを無視して老カジートの方に向き直った。


20180113222414_1 のコピー


「で、ご老人達はどうしてここに?」


「カジートはリフテンに向かっているんだ」


「リフテンか。俺たちの目的地と近いな」


「お前さん達はどこへ?」


「サレシ農場だ」


「サレシ・・・ああ、なんでも不思議な植物を栽培していると言うところだな」


「詳しいな」


「リサードはもう長いこと、キャラバンを率いてこの地を隅々まで商売して回っているからね」彼はひげを一本引っ張った。「途中までは同じだね。カジート達と一緒に行くかね?」


「ふむ、それも悪くない」


脇から傭兵が口を挟んだ。
「ジャ・ラールが契約したのはリサードだ。この毛無し達も護衛するなら追加料金をいただかないと」


20180113222930_1 のコピー


「ちょっと・・・、あたし達は護衛なんて必要ないわ」
「このネコ、がめついな」


ジャ・ラールはイェアメリス、アーセラン、アスヴァレン、を順に見た。
「そっちの濃い肌の毛無しはともかく、ツルツルの頼りない女、口うるさい商人はとても旅に耐えられるように思えないが・・・」
カジートの傭兵は、思っていることを心に溜めておくと言うことを持ち合わせていないようだ。それとも、それがカジートと言う種族の特性なのだろうか。
「ちょっと。ツルツルって・・・。これでもハイロックの端から旅してきたのよ。それに護衛は間に合ってます。モジャモジャさんの手助けは要らないわ」


「モジャモジャとは失礼な、フサフサと言ってもらいたい。・・・カジートは神・・・女神アズラによって作られた高貴な種族だ。ジャ・ラール達は身体中に毛が生えていて美しい。それは間違いない」


「おい猫。アズラは我らの守護女神だぞ?」


「なにを言う、偽りの女神アルマレクシアに浮気して黒く染まった毛無しが今さら。アズラはカジートの守護神だ」


20180113224352_1 のコピー


「なんだと!」


仲裁に入ったはずのアスヴァレンも巻き込んで怪しげな雲行きになったのを感じ、イェアメリスはあわててダンマーの肩に手をかけた。
「ハイハイハイ、こんなところで信仰論を言い合っていても意味ないでしょ。二人とも、落ち着いてよ。ねぇ、おじいさん」


リサードも同じようにジャ・ラールを制すると頷いた。
「娘さんの言うとおりじゃ。旅の道の休憩ぐらい、穏やかにいこうじゃないかね」


その後、しばらくアスヴァレンとジャ・ラールはそっぽを向いていたが、残りの三人はすぐに打ち解けた。そしてその場で昼食を摂りながら、彼らは今までの旅で得た当たり障りのない各地の情報を交換する。リサードはここ数年、四つのキャラバンに分かれてスカイリム中を行脚していたらしい。彼女がソリチュードの城下町で見かけたキャラバンも、聞いてみればその中の一隊であった。


「でもここはホワイトランからは随分と外れているわ。それに、おじいさんいまは旅人と言っていたけど」


「ああ・・・」
リサードは少し悲しそうな目になった。


20180113215351_1


「リサードは四つのキャラバンを纏めていたんだが、最近その一つが消息を絶ってね。定時連絡が来ないんだ」


「事故か何か?」
イェアメリスは控えめに聞いた。スカイリムで事故と言えば、馬が足を挫いたとか荷馬車の車輪が外れたとか言う可愛らしい類いのものでは無い。山賊や無法者との遭遇した可能性の方が遥かに高かった。


「行方が分からないんだ。おそらく、生きてはいないと思うがね」
カジート達はそれぞれの縄張りで行商を営みながら、拠点とする街の外で別のキャラバンと邂逅し、情報や荷物を交換し合っている。リサードが言うには、リフテンからイヴァルステッド、世界のノドの南側を抜けてヘルゲン、ペイルパスで国境を越えてブルーマまでの道のりを往復するキャラバン隊が消息を絶っていた。


その知らせを受け、リサードはリフテンを起点とするもう一つのキャラバン、アハカリの隊に会いに行く事を決め、ホワイトランを発ったのだった。アハカリの隊はリフテンとドーンスターの間を往復している。彼には行方を絶った仲間の捜索も含めて、今後の方針を仲間と相談する必要があった。


自分のキャラバンと別れた老カジートは、内戦の影響下にあるドーンスター近辺を避け、リフテンで仲間と合流することにしていた。北方のペイルでは帝国軍とストームクロークが戦っており、移動するには非常に危険な状態だ。
スカイリムを一人で旅するのは後ろ暗い理由のある者か、よほどの愚か者だけだ。内戦の地ではとにかく少人数で移動することは避けなければならなかった。ジャ・ラールはそのために雇われた護衛であった。


20171206001343_1 のコピー2


「あれ? でもあなたたち三人ではなかったの?」
ホワイトランの城門で会ったときにはたしかジャ・ラール達は三人組だった。他の仲間はどうしたのだろうか。


「良く見ているな、ツルツル。旅をするのには注意深さが一番必要だ。その点ではお前は合格だ。・・・そう、ジャ・ラールたちはいつも三人で行動しているが、今回は仕事が二つに分かれている。それでジャ・ラールたちは別れることにしたのだ」


リサードは自分が抜けたあとのマルカルス隊の安全を確保するため、ジャ・ラール一家の二名を別に雇い、護衛に加えていた。そちらの暫定リーダーはマランドゥル・ジョー。そして自身は傭兵一家のリーダーであるジャ・ラールと旅をすることにしたのであった。


「リサードは正しい。ジャ・ラールに任せておけばリフテンまでの道のりは安全で快適だ。お前さん達もどうだね」


20180113220705_1 のコピー


「だから、間に合ってるって」 
アーセランは面倒くさそうにジャ・ラールをあしらったが、イェアメリスは少し考えた。世間話のようにも、言いたいことを言っているだけにも見えるが、これはジャ・ラールなりの営業活動なのかも知れなかい。カジートという種族は、案外表裏が少ないようだった。


「そんな守りで大丈夫かねぇ・・・」


「あなたの方こそ、心細い二人旅じゃない」


「ジャ・ラールは充分強いからな」


「あたしの方も、他に仲間がいるの。もう少ししたら帰って来るわ」
彼女は山の方に目を向けた。アルフレド達が隠れキャンプに向かってから、一時間が経とうとしていた。 




・・・




イェアメリスとリサードたちが遭遇する少し前、アルフレドはテルミンに導かれて草をかき分けながら斜面を進んでいた。


しばらくするといくつかのテントや天幕が視界に飛び込んでくる。帝国軍の野営地と比べたら小さい・・・むしろみすぼらしいといった方が合っているかも知れない。帝国の野営地はそこに『在る』事を誇示するために賑やかだったが、ストームクロークのキャンプはひっそりと静まりかえっていた。土地の者達から隠れて潜んでいるから当然かも知れなかったが、焚いている焚き火の炎も控えめだ。


20180114123634_1 のコピー


テルミンが自然な体で踏み込んでいくのに少し遅れて、アルフレドはおっかなびっくり足を踏み入れた。こちらのキャンプにも歩哨が立っている。歩哨は女戦士を見つけると、声をかけてきた。


「おっ・・・誰かと思えばテルミンじゃねぇか。お前さんの隊なかなか来ないから、入境に失敗したんじゃないかって言われていたんだぜ」


女戦士は頭をかくと、歩哨に笑いかけた。
「ああ、失敗したよ。アタイら、もうちょっと北の辺りで帝国軍に鉢合わせて、とっ捕まったんだ」


「言ったろ、ホワイト川の北側からペイルにかけては帝国軍も重点おいてるから危険だって」


「んなこと言ったって、隊長が決めたんだからしゃーねぇじゃん」


20180114122839_1 のコピー


歩哨の男はテルミンを知っているらしく、気さくに話をしている。まずはいきなり険悪なことになったりしなくて済んだようだ。テルミンの案内ということでどうなるか危ぶんでいたアルフレドだったが、事の成り行きは意外と順調だ。


あまりきょろきょろしすぎないように辺りを軽く見回す。急ごしらえの野営地だが、焚き火以外にも研石や錬金台など一通りの作業環境は整っているようだ。先日の帝国軍野営地と同じように何処かに捕虜でも捕らえられていないかと考えたが、それらしい人影は見つからなかった。


「帝国軍に捕まったって?」


「逃げだしてきた」


「ハハッ、お前ならやりかねんな」


アルフが驚いて女戦士をみると、彼女は片方だけの目でウインクして見せた。
「あんた、軍でもずいぶんとやんちゃしてたみたいだな・・・」


20180114122848_1 のコピー


「しらねぇのか? こいつの居た隊はストームクロークのなかでも素行不良で有名なんだぜ。軍紀違反なんて挨拶みたいなもんだって、隊長が言ってたぐらいだからな。で、テルミン、隊長は?」


「ああ、死んだよ」


「そうか・・・」反乱軍の兵士は胸に手を当てるとぞんざいに天を仰いだ。「ソブンガルデに行けるといいねぇ」


「どうだろうな。とっ捕ってる間の凍死だから」


「俺らにはもともと名誉なんて無いからな。まあ、とにかく死んだ隊長に安らぎあれ、ってこった。ところで、その兄さんはなんだい? 入隊希望か、それともお前さんのいい男かい?」歩哨はアルフレドのことをストームクロークの志願者か何かと勘違いしたのか、全く警戒していない


「そんなんじゃねぇよ。旅の仲間ってやつさ」


「なんだ、アンタ作戦に復帰しに来たのかと思ったのに」


20180114122826_1 のコピー


「いや、アタイ以外みんな死んじまったから、一旦戻ってガルマルのじいさんに指示仰ごうと思ってさ」


「ま、なんにせよ一度ここの隊長にも顔出しとけよ」
歩哨は軽く手を上げると二人を通し、また退屈そうに見張りに戻っていった。


テルミンはアルフレドを伴ってキャンプの中央にきた。何人か顔見知りらしい者たちが声をかけてきたが、先ほどとほぼ同じようなやり取りの繰り返しに飽きてきた彼女は、空きになっているテントを一つ見つけると、その入り口に腰を下ろして一杯やり始めた。


「あんた、こんな時にまで酒かよ・・・」
呆れるアルフレドを一瞥すると、女戦士は笑った。しかしその声は至極真面目であった。


「兄さん、ここには見学に来たんじゃないだろ? 何か用事があるなら、アタイがここで管巻いてる間にとっとと済ませちまった方がいいぜ。騒ぎが必要なら合図してくれ、さ、行った行った」


「あ、ああ・・・」


面白そうな顔をしているが、彼女の方が行動をわきまえているようだ。アルフレドは心の中で自分に喝を入れ直すと探索を開始した。人目につかないようにテント群の裏に回り込み、囚われの者がいないか見て回る。


20180114123102_1 のコピー


キャンプの兵に見られずに動くのは不可能だ。しかし兵士達もみな密んで越境してきた者達ばかり、服装もまちまちで、自分の隊以外の連中とはあまり面識がないようであった。アルフレドは何度かストームクロークの兵士達に見咎められたが、状況は彼に味方していた。特に怪しまれるようなことはなく自然さを装って歩き回る。


キャンプの外れで用を足すふりをしながらせわしなく目だけ動かす。天幕を順に覗き込んで中を確認した彼は、端の方の一つに気になる光景を見つけた。傭兵の鼓動が早まった。


いた!


この野営地に相応しくない服装をした者達。帝国兵の鎧を身につけた捕虜が天幕の一つに放り込まれていた。テルミンの休んでいるテントのすぐ近くだった。再度辺りをうかがうと、彼は人気のないことを確認してその天幕に滑り込んだ。


そこには縛られた帝国兵の捕虜が三人転がされていた。屋根があるだけ帝国軍野営地よりも扱いがマシのようだ。彼らも同じように縄で括られ、天幕が倒れないように重石にされている岩に繋がれていた。


20180114120714_1 のコピー


「おいっ、大丈夫か?」
押し殺した声をかけると返事が返ってきた。


「ん・・・お前は?」
捕虜は訝しそうにアルフレドを見ている。「新しいお仲間・・・って訳ではなさそうだな。縛られてない。兵士でもなさそうだが・・・ストームクロークなのか?」


「いや、俺はただの傭兵だ。人捜しのためにここに忍び込んだんだ」


「人捜し? それじゃあここは見当違いだ。見たとおり、オレたちは捕虜だよ。兵士に当たった方がいいんじゃないか? いや、もうオレたちじゃないな。オレだけだ。残ったのは」


返事を返した男は健康そうだが、もう一人の男は動かない。死んでいるようだ。そして最後の捕虜は女兵士であった。一人だという言葉にギクッとしてアルフレドは女を覗き込んだ。女は動かない。確かめなかったが、見ただけでも生気が感じられないのが分かる。


20180114120921_1 のコピー


「なんだ、お前さんこいつの恋人か何かか?」


「いや、そういうんじゃない。ソリチュードに寄ったときに、行方不明になった兵士を探して欲しいって頼まれたんだ」


「ってことは、俺じゃないな・・・」兵士は自嘲的に笑った。「俺を捜すような家族はいない。傭兵を寄越すって事だから、軍の正式な任務じゃないんだろ?」


「ああ、フーラっていう兵士の母親から頼まれたんだ。定期的に届いてきた便りがなくなったので心配している。消息を探して欲しいって」


兵士は疲れたような顔をして脇でぐったりしている女に顎をしゃくった。


「まさかこの亡骸って・・・!」


「ああ、お前さんの探しているそのフーラだよ」


「なんてことだ!」
アルフレドはがっくりと肩を落とした。ショックを受けている傭兵に、捕虜の生き残りは自分たちがここに連れてこられた経緯や、捕虜としての生活を語って聞かせた。


20180114120742_1 のコピー


「この横で死んでいるマイエルは、捕まったときに矢傷を受けていてな。治療がもらえなくて、当然のように死んだ。まあ、戦いが原因で死んだことには変わらないから、今ごろソブンガルデで楽しくやってるだろうよ」そしてくやしそうに表情を曇らせる。「いたたまれんのはフーラだ。オレたちはともかく、こいつは女の身だ。分かるよな? 夜にも別の用事で天幕の外に散々引きずられて行ったんだ。・・・日に日に衰弱していったよ。一昨日ぐらいまでは頑張ってたんだけど。昨日の朝にうめき声も聞こえなくなって、冷たくなってた。彼女の死には名誉がない。何とかしてやりたかったが、どうにもな」


慚愧の念がアルフレドにも伝染し、傭兵は言葉を返すことができなかった。
捕虜の兵士はその様子を見ると、逆に励ました。


「おいおい、これじゃあ、どちらが捕虜かわからんじゃないか」


「できればあんただけでも救ってやりたいが・・・」


捕虜は首を振った。
「止めとけ止めとけ。このフーラはどうだったか知らんが、オレは覚悟して兵士になったからな。こうなることも言わば納得済みだ。それに、傷も受けてなければ女でもない、しかもまだ生きてる」


「しかし・・・」


「おまえさん、仕事以外も抱え込むと早死にするぜ」
捕まっている男に逆に説教されてしまった。


20180114120903_1 のコピー


「大丈夫。お前さんの助けは要らない。自分では全うに生きてきたつもりだ。だからこの先どうなるかはショールのみ知るだ。置いていってくれ。逆にお前さんが追われる身になる方が寝覚めが悪りぃ。あと何回朝日を拝めるかは分からんが、少なくともここの気候はまだ暖かい。凍死することはないだろう」


「何かできることは・・・。帝国軍にちょっとした知り合いがいるんだ。力になれるか分からないけど、あんたのことを報告しておくよ」


「じゃあ伝えてくれ、ルキウスは捕虜になったと。マイエルは矢傷が悪化して死亡。フーラは・・・」


「フーラは・・・」
アルフレドは言いよどんだ。


「彼女は名誉の戦死を遂げた、ちゃんとソブンガルデに行けるよう、祈ってくれ、と」捕虜は薄く笑った。「ああは言ったが俺もまだ死ぬつもりはない。そうだ、あんたの用事のついででいいから、いつかこの2人を葬ってやって欲しい」
捕虜は自由にならない手の代わりに、顎をしゃくって見せた。アルフレドは頷くと、死体の代わりにフーラとマイエルのアミュレットを回収した。


20180114122257_1 のコピー


「どうだ? 目的のものは見つかったか?」


声がして振り向くと、テルミンが天幕をのぞきに来ていた。思ったよりも時間をかけてしまったようだ。


「オイ! そこ! 何をしている! 捕虜に近づくんじゃぁない!」


この天幕に注目した兵士が現れたようだ。咎める声がするのを見ると、テルミンはしゃがみ込むアルフを隠すように立った。彼女はストームクロークの兵士に怒鳴り返した。


「あ~、分かってる。分かってるって。ちょいと顔を拝んだだけじゃねぇか。さて・・・ガルマルじいさんに会いに行くかな」


二人はさりげなくその場を後にすると、自然体を装って元の場所に戻った。


テルミンはその後、一通りキャンプの仲間に声掛けすると、入ってきたときと同じようにそこを立ち去った。アルフレドもそれに付いて、何のお咎めもなくその場を後にした。一瞬ひやりとしたが、潜入して、場合によっては戦って救出、そして脱出という一連を想定していたアルフレドは、少し気の抜けたような顔で即席の相棒を見た。


20180114125620_1 のコピー


「あんた、もう軍には戻らないんじゃなかったのか?」


「へへっ、ウソも方便ってね。ああ言った方がキャンプから離れやすいだろ」


「なにも考えてないように見えて、ちゃんと考えているんだな」


「お~? にいさんも言うねぇ」女戦士は豪快に笑うと、アルフレドの背中をたたいた。


「うっ、げほっ・・・。でもガルマル将軍のところに戻らなかったら、アンタ怪しまれるんじゃないのか?」


テルミンはあまり気にしていない様子で笑い飛ばした。
「ガルマルのじいさんはドーンスターの戦線に呼ばれたって言うし、アタイが現れなくたって、別にじいさんは気にしないよ・・・素行不良の遅刻常習犯ってのは、こういう時に役に立つのさ。ホラ、そんな辛気くせぇ顔してないで、みんなのところに戻ろうぜ」




・・・




街道まで戻ってくると、アルフレド達は仲間が増えていることに気がついた。


20180114132635_1 のコピー


「あれ? ジャ・ラール、何故お前がこんな所にいるんだ?」


カジートの傭兵は今朝会話を交わしたばかりのノルドの傭兵を見て、なるほどと頷いた。
「アルフレドじゃないか。カジートは心配していたんだが、どうやら取り越し苦労だったようだ」


「何の話だ?」


ジャ・ラールはイェアメリス達を指さして同業者に言った。
「このツルペタたち・・・毛無し族の護衛が来るからって言うから、どんなひ弱な奴を連れているのか興味があったんだ。だがお前さんなら確かに安全だ。無論ジャ・ラールが一番なのは間違いないが、お前さんが強いことをカジートは知っている」


「・・・」


ジャ・ラールの口調に慣れているのか、それとも別のことに気を取られているのか、アルフレドは曖昧な表情でそれを聞き流した。イェアメリスはそんな傭兵の様子が少しおかしいことに気がついた。


「アルフさん大丈夫? なんだか疲れているようだけど」
まだ大して歩いてないはずなのに、足取りの軽さと快活さが失われているように感じられた。


「あ、ああ。大丈夫だ」


「テルミン、何かあったの? 一緒にいたんでしょ」


20180114132133_1 のコピー


「んん~」女戦士は傭兵を見て、彼女にしては珍しい曖昧な表情をしてみせた。「何て言うか・・・アタイの仲間・・・ストームクロークの連中が、フーラってやつを死なせてしまったみてぇなんだ」


「えっ・・・!」


傭兵と女戦士は、キャンプで見聞きした事をイェアメリスたち留守番組に話して聞かせた。なんとなく予想していたとは言え、実際にフーラの死が確認されたという知らせに、彼女たちはどう反応していいか分からなかった。


「メリスちゃんに心配されるとはな」
アルフレドは力なく笑った。「故郷からこんなに離れて、軍務に就いて、誰にも知られずに命を落とすのが当たり前・・・兵士ってやりきれないよな」


目の当たりにした現実を消化しようと俯いている彼の肩に手を置いたのはアスヴァレンであった。アルフレドは頷いた。
「分かってるさ。魂が引かれるって言うんだろ。メリスちゃんによく言ってるもんな。・・・あんたほど長生きしてるわけじゃないけど、俺もこれが始めてって訳じゃぁない。捜索の依頼は成功率が低いんだ。こういう事は慣れっこだよ」
どう見ても強がっている。


20180114133426_1 のコピー


「アズラにかけて、慣れているからいいというモノではない。俺もお前のように思っていたのだが、メリスに嗜められた。あまりに無感動なのもダメだと。悲しいとき、悔しいときに無闇に飲み込むものじゃない・・・と、まあ俺が言っても説得力ないな」


「はは、ありがとう。だがもう大丈夫だ。もう進まないとな」
アルフレドは新たに同行することになったカジート二人組を見た。「だんだん大所帯になってきたな。これから今回一番の難所が控えているから、気を引き締めなおさないと」


「難所?」
イェアメリスは少し首をかしげるとアルフレドの方を見た。


「ああ、ハイヤルマーチの追い剥ぎ峡谷に並んで悪名高い、ヴァルトヘイム・タワーを越えないとならないんだ」
ハイロックから来た三人は顔を見合わせる。聞いたことのない名前だった。


「あとちょっとで州境なんだが、その先で川を跨ぐようにノルドの遺跡がある。古代の監視塔か関所か何かだと思うのだが、今はストームクロークの脱走兵達が陣取っている山賊砦だな」


「脱走兵って、このテルミン姐さんみたいなのかい?」
アーセランの問いかけにアルフレドは困ったような顔をした。代わりに女戦士が続ける。「まあ、アタイと似たような食い詰め者なんだけどよ、徒党を組んで塔を不法占拠してるんだ。まあ、食うためさね」


「おれっちみたいな旅人を襲ってるんだな」


「まあ、いきなり刺したり襲ったりはしねぇみたいだけど、山賊まがいのことをしているのは間違いない。通行税を取っているんだと」


「どうして討伐されねぇんだ? ここホワイトランからそんなに遠くねぇじゃねぇかよ」


20180114134005_1


それに答えたのはアルフレドだった。
「目と鼻の先とは言え、この先はホワイトランじゃないからな。ほら、そこに柵が見えるだろ。ホワイトランはそこまでなんだ」


「その先は?」


「僅かな緩衝地帯を挟んでウルフリックの土地、イーストマーチになる。緩衝地帯はどちらの領土でもないが、互いに不可侵という不文律になってる。下手に手を出すとストームクロークの奴らを刺激することになるから、首長も手を出せないのさ」


「ちょうど上手い具合に隙間に陣取ってるって訳だな」


同行者が増え、街道を歩き始めた彼女たちだったが、州境の柵の手前で自然と足が止まった。


「リサードはホワイトランとウインドヘルムを結ぶキャラバンは作らなかったんだ」老カジートは柵の向こうに見える川の上の塔を指さした。「ウインドヘルムに向かうにはこの道が一番近いんだが、ストームクロークの連中は帝国以上にカジートに優しくないからね」


ホワイトランからウインドヘルムへ抜ける主街道は二つ。一つは平坦で、チルファロウ農場、バトルボーン農場などのホワイトランの代表的な農園を北上し、ペイル最大のロレイウス農園を越えてナイトゲートから東に向かうルート。しかし今ここには帝国軍とストームクロークの大部隊が展開してにらみ合いを続けている。もうひとつはヴァルトヘイム・タワーを抜け、アモル砦、パルグラン村を通り抜けて北上する高低差のある山道。つまり彼女たちが今いる街道だ。


「折角ホワイトランで品物を仕入れても、ヴァルトヘイムで山賊に通行料として取られてしまうんじゃ、一体何のために商売しているか分からないからな」


「でも、あなたたちはどうしてこうまでして・・・危険を冒してまでスカイリムで商売しているの?」


「お嬢さん、リサードは前にも言ったよ。覚えてないのかい?」


「ええ、でも戦争をしている国でわざわざ商売をするのって危険すぎるわ。他の国に行った方がいいんじゃない?」


「戦争? リサードはそれは逃げ出す理由じゃなくて、むしろ留まる理由だと思うね」


「どうして?」


「戦争は商売の追い風になるからだよ。それに危険を冒して商売をしているのはお嬢さん、あんたも一緒だろ?」


「えっ・・・ええ」
イェアメリスは言いよどんだ。呪いを解くためサルモールの言いなりになって旅をしている彼女は、表向きは本業の東帝都社の商人としてスカイリムで活動している事になっている。最近彼女自身もそのことを忘れかけており、自分が何者であるか拠り所が怪しくなっていた。


少し横ではアーセランたちが相談している。


20180114135509_1 のコピー


「で、アルフのだんな、どうするつもり?」


「これで解決しようと思ってたんだ」傭兵は懐から小さな小銭入れを取り出した。「護衛の俺だけじゃなくて、テルミンもアスヴァレンもいるから、少なくともオレたち無防備な旅人には見えないだろ?」


「押し通っちまおうってこと?」


「なに? 久しぶりに暴れられるんだな!」


「待てって、テルミン。アーセランも・・・」
目を輝かせている女戦士をアルフレドはあわてて押しとどめた。「・・・別に戦おうっていうんじゃないさ。こっちの武装を見せつけながら、ちょっとだけ金を渡して連中のメンツを立ててやれば、案外通してくれるんじゃないかなって。それでダメなら、あんたの戦槌の出番だ」


「そうならねぇかなぁ・・・」


「頼むから最初はおとなしくしていてくれよ?」


駆け出しならともかく、アルフレドは護衛を生業にしており経験も豊富であった。今の仕事に落ち着く前は山賊とも随分とやり合ったものだ。依頼された村の防衛で傭兵仲間と共に山賊達を皆殺しにしたこともある。その後、拠点を掃討しに行ったら残っていたのは腹を空かせた孤児や女達だったこともままあった。遠慮なくそれを襲い始める仲間の傭兵を止めようとして衝突したり、逆に襲われて殺し合いになったりと、苦い経験もしてきている。
食い詰める前、彼らも元を辿れば何処かで暮らしていた平民が殆どなのだ。彼我の境遇差などこれっぽっちもないことをアルフレドはよく知っていた。全てが正攻法でうまく行くとは思っていない。


20180113215328_1 のコピー


「仕方ない・・・ではジャ・ラールに任せるといい」
意を決して越境しようとしたとき、不意にカジートが皆を呼び止めた。


「交渉しようというのは正解だ。カジートも良い判断だと思う。だがもっといい方法がある。交渉さえしなくていい」
五対の目がカジートの傭兵に注がれる。
「ジャ・ラールはいい道を知っている。山賊はいないよ。それだけは確かだ」


「抜け道があるのか?!」


「今は殆ど使われないから廃れてしまったが、ちょっと戻ったところに旧街道への分岐があるんだ。カジートは知ってる。リフテンへの近道だよ」


「どうして先に言わない?」


「そりゃぁ・・・」ジャ・ラールは薄く笑った・・・ように見えた。「ジャ・ラールが護衛しているのはリサードだけだ。うるさい連中を先に行かせて、後からゆっくりと安全な道を行こうと思っていただけさ。見知ったアルフレドがいなかったら、間違いなくそうしてた」


20180114142424_1 のコピー


「はぁ? なんですって?!」

「やっぱりこの猫、くせ者じゃねぇか!」
「カジートは信用ならん!」


耳を疑った彼女は自分の信用を返せとばかりに眉をひそめたが、ボズマーとダンマーが眉尻を上げて詰め寄ろうとしたので、逆に喧嘩にならないように割って入らねばならなかった。


「まあまあ、もしホントにそんなこと企んでいたら、自分から言うわけないじゃない」イェアメリスは咄嗟にジャ・ラールの肩を持ってしまったが、途中でこのカジートが冗談で言ったかどうか自分でも自信が無くなった。「危険を冒さなくても済むなら、そうした方がいいわよ、きっと」


「本当に大丈夫なんだろうな、今のうちに言っておくことは本当にないのか?」


「ちょっと寒い」


「寒い?」


「そうだ。カジートが教える道は、世界のノドの脇を少し登る峠道になっている。雪もいっぱいあるし、ここよりもずっと寒い」


「ちょっとかずっとかどっちなんだよ」


20180114142513_1 のコピー


「それはカジートか、毛無し族か、どちらかで決まることだ。ジャ・ラールの知ったことじゃない」


彼女たちは顔を見合わせた。
「山賊・・・よりは・・・マシよね? あたしたち、ソリチュードの雪山越えてきたんだし・・・」


「そ、そうだな・・・」


この成り行きに、どこまでついて行こうか考えていたアルフレドが口を挟んだ。
「で、ジャ・ラール。その道はどこに繋がってるんだ?」


「ええと・・・カジートは説明するのが苦手だ。とにかく付いてくれば分かる」


「いいからここに書いてみろ、猫」


「黒い毛無しは偉そうで困る・・・」


Skyrim Map 2-10 -2


ブツブツ言いながらも、ジャ・ラールはアスヴァレンに差し出された地図に線を引きはじめた。「たしか、こっちかな・・・」
カジートの傭兵が示した道は、現在地点から南下して世界のノドの山に入り、隠された峠道を抜けるというものであった。峠はかつてニマルテンと呼ばれていた町の廃墟に続いており、そこを抜けるとイヴァルステッドの少し北で再び街道に繋がる。見た感じではヴァルトヘイムとアモル砦を完全にやり過ごすことができる近道だった。


「ジャ・ラールはストームクロークの毛無しなんか怖くない。充分強いからね。だけど無鉄砲向こう見ずというわけじゃあない。カジートは人通りの多い街道以外では、ストームクロークの連中には会いたくないんだ。人種差別が激しいから、難癖つけて持ち物を狙われるなんて事もしょっちゅうだ。だからこの裏街道を提案する」


20180114143818_1 のコピー


イェアメリスはカジートを見た。成り行きはともかく、この案が一番良さそうだ。確認するように振り向くと、アルフレドも決心したようにうなずく。

彼らは州境の柵を前に回れ右した。


少し戻ってから左に折れる。カジートが示した道は、街道であることを示す石畳もなく、どう見ても道のようには見えなかった。カジート二人と合流したアルフレドたち一隊は、主街道を外れて山へと踏み込んでいった。


「本当に通れるの?」


「カジートに任せるといい。今回は無料だ、滅多にないことだよ」


20180114143838_1 のコピー


世界のノドは裾野から少し登っただけで雪が積もっている。白い岩並みが複雑に重なり合っている中、今度はジャ・ラールが先頭になって、山を登っていけそうな起伏のなだらかな場所を選ぶ。ジャ・ラールとアルフレドが並び、一行を導いていく。イェアメリスとリサード、テルミン、アーセランが後に続き、アスヴァレンはいつも通りしんがりを務めていた。


「あんた達と会って良かったよ。この旧街道のことはさすがにオレも知らなかった」


「だろう? ジャ・ラールは役に立つんだ。有名なことだが」


「ああ、ここは素直に礼を言っておくよ」


ソリチュード北部で踏みしめた雪とはまた感触が違うことにイェアメリスは悪戦苦闘していた。まだ標高が低いこの辺りでは、雪はベタベタで、歩くと脚に絡みついてくるのだ。近道とは聞いていたが、初めての道は遠く感じる。


「またこの寒さを味わうとは思っていなかったわ」
彼女は西に傾きかけた頼りない太陽の姿を振り返ると寒さで自らの肩を抱いた。
「ねぇ、次の目的地・・・イヴァルステッドって、まだまだ先なのよね?」


Skyrim Map 2-10 -5


アルフレドが元気づける。
「いや、そうでもない。距離だけで言ったら、この場所でもう半分は過ぎてるはずだよ。残りはホワイトランからここまで来たのと同じぐらいかな・・・イヴァルステッドまで着いてしまえば、その一日後ぐらいにはサレシ農場に着くと思うぜ」


「ということは、明後日には着くわね・・・ソリチュード出てから何日経ったのか、分からなくなって来たわ」


「色々あったからな・・・今日で四日目だ。正直言って、驚異的なペースだよ。よくメリスちゃん着いてこられるよな」


イェアメリスは笑うと、苦労して進んでいるアーセランを振り返った。ボズマーは身長が低いため、イェアメリス以上に雪道に苦労していた。


「くそっ! ちょっととか言ったの誰だよ。めちゃくちゃ寒いじゃねぇか」


「た、たしかに・・・さ、寒いわね」


20180114163639_1 のコピー


「この山は、スカイリムで一番初めに雪が降った山だと言い伝えられているからな・・・」
ジャ・ラールが提案した道は、危険が少ないのは確かだが、決して進みやすいわけではない。ソリチュードから南下してきてホワイトランの暖かさに慣れかけていた彼女たちは完全に油断していた。スカイリムの冬が寒くないわけがない。一週間前に縁を切ったはずの雪を再び踏みしめながら、彼女たちは日没前の旧街道を急いだ。


「お日さま、もうあんなに低い位置にあるわ」


エルフの娘は確認するように、再度口に出して言った。
「日が沈みそうよ」


雪は降っていないが、雲がないことが仇となった。放射冷却のために、夕方の気温は急激に下がり始めていた。しかしこの寒さでもアルフレドとテルミンは全く平気のようだ。保温のために一杯蜂蜜酒をやったあとは元気そのものだった。そして意外なことにアスヴァレンも。極寒のスコール村の生まれというのは伊達ではないようだ。


「おい、まさかこの雪山の中で一晩過ごすんじゃないだろうな。こんな所で夜を過ごすのはイヤだぜ」
寒さに耐性のないアーセランは不安そうにキョロキョロと見回している。左右から張り出した岩壁は雪に完全に覆われており、辺りは一面白一色、野宿に適したような場所は全く見当たらなかった。


20180114163551_1 のコピー


「カジートは毛がふさふさしていていいけどよ、俺たちはそうじゃねぇっての」


同じように震えていたイェアメリスは、歯をカタカタ言わせながら獣人を見た。
「そういえば、やっぱりジャ・ラールさんたちは、寒くないの?」


「カジートも寒いよ」


イェアメリスの問いに返ってきたのは、意外な言葉だった。


「えっ?」


20180114165425_1 のコピー


「毛皮はスカイリムに適しているように見えるが、寒いものは寒い。カジートは暑い砂漠の国の生き物なんだ」
よく見ると、この道を勧めたジャ・ラール自身も、共に旅するリサードも結構着込んでいる。


「なんでぇ、猫と同じじゃねぇか」


「うるさいな、小さな毛無しは」
ジャ・ラールはまるで王者が小物を煩わしそうに追っ払うよう、鷹揚に返した。


「んもう・・・、ツルツルとモジャモジャの争いはそろそろやめて仲良くしましょうよ」


カジートの傭兵はその提案を聞くと苦笑した。
「ジャ・ラールは毛皮に包まれた高貴な種族だが、別に毛無し族が嫌いなわけではないよ。あのちっこい商人が言うこともちゃんと分かってる。カジートの毛皮も高級だが、確かにツルツルの価値も高い」


「え? ・・・はい?」


「ジャ・ラールの奥さんはツルツルだからね」


20180114165901_1 のコピー


イェアメリスは飛び上がるほど驚いた。
「うそっ? ジャ・ラールさん、結婚・・・しているの?!」


「もちろん。すこし小柄だが、ノルドの中でも美人の自慢の奥さんだ」
ジャ・ラールは何がおかしいと言う顔をしている・・・ように見えた。


「びっくりした・・・、だって、こんな仕事しているから、てっきり・・・」
しかし彼女が考えていたのは別のことであった。タムリエルでは異種婚は珍しい話ではない。望んだもの望まれぬもの、そういった話を探せば枚挙にいとまはない。実際彼女自身もアルトマーとブレトンの血を引いている。しかし目の前の獣人の妻はノルドの女性だというのだ。カジートと人間となると、どんな子供が生まれるのか想像もつかなかった。


20180114162215_1 のコピー2


彼女の疑問を余所に、ジャ・ラールは誰に促されたわけでもないのに、自分の妻との馴れ初めを話し始めた。延々と続く話は悪路を進む一行の一時の心慰めとなったが、既に何度も聞かされているアルフレドは太陽が完全に没したのをいい機会とばかりに、とうとうその話を遮った。


「ジャ・ラール。さあ、そろそろ野宿できる場所を何とかしてくれないか。まさか夜通し歩こうっていうんじゃないだろうな」


「おお、話に夢中になって忘れていた。もちろん、ジャ・ラールに抜かりはないよ」


カジートの傭兵はすり鉢状になっている峡谷の左側を指した。白一色の景色の中に人工物が見えてくる。帝国の建築様式に従った塔のようにも見えるが、背は低かった。レンガの積まれた外壁は雪と岩に半ば覆われ、何のための建物かはうかがい知れない。


20180114170621_1 のコピー


「あの建物は?」


「多分、うち捨てられた帝国軍の補給哨塔だよ」


「多分って・・・随分いい加減だな」


「カジートが知っているのは、ここで休むことができる。冷たいが、きれいな水を汲めるということだけだ。それで十分じゃないかね?」
あくまでジャ・ラールは現実的だった。一晩の寄辺を発見した彼女たちは、重かった足取りも軽くなり、ほどなく帝国の哨塔に辿り着いた。


20180114171408_1 のコピー


「中には何があるんだろうな、ま、座って蜂蜜酒を一杯って・・・休めるって事はありがたいことさね」


「テルミンはそればっかり」


「今日から魔女祭だっただろ? 町から離れちまったが、飲んで祝わなきゃもったいないってもんだ」


「んもう、祭は十日間は続くじゃないの。あなたはただ飲む口実が欲しいだけでしょ」


「あはは、ばれた? メリスもいっしょにどうだ?」そう言ってまた蜂蜜酒の瓶を取り出す。テルミンは酒に・・・特に蜂蜜酒に目がなかった。アルフレドとアーセランに金を借りてまで、通りがかりの醸造所で買ってきたのだ。「ホニングブリューの蜂蜜酒はスカイリムで一番旨い酒さ。まさか本家その場所で買えるなんて、ホワイトランで捕まった甲斐があったな」


20180114171905_1 のコピー


「おいおい、アンタそのせいで死にかけていたんだぜ? ちゃんとメリスちゃんに感謝しないと」


「ああ? 分かってるってアルフ兄さんよ。だからメリスじゃなくて兄さんから金借りたんだろ。メリスの財布を軽くしちゃ悪いからな」


アルフレドは天を仰ぐと、蜂蜜酒代が二度と帰ってこないことを確信した。


「ま、まあ。とりあえず行きましょ。こんな所で話していても寒くなるから・・・」イェアメリスはあわてて取りなすと、閉ざされた扉に手をかける。
扉はがたついていて重かったが、開閉に支障はなかった。


「なぁ、メリス、飲もうぜ?」


「メリスちゃんはダメだ、酷い酒乱だからな」


20180114171848_1 のコピー


「ア、ア、アルフさんまで、何てこというのよ・・・」


「ほら、毛無したちはどうしてこう気が散るのだ? 階段が急だから、気をつけろ」
ジャ・ラールの警告に気を取り直すと、彼女らは一夜の屋根を借りるために哨塔の中に足を踏み入れた。


「周囲の気配に用心するんだ。何が潜んでいるか分からないからな」
先頭になっているイェアメリスに再度注意を促す。扉を潜った先には下に続く長い階段が伸びている。一切の明かりが用意されていないため、彼女は灯火の呪文を使って辺りを照らすことにした。


20180114172634_1


「たしかに滑りやすいわね、しかも気をつけないと濡れそうよ」


哨塔の内側は狭く、部屋が一つだけあるだけであった。補給場所とジャ・ラールは言ったが、放棄されるときに持ち出されたのだろうか、樽や木箱の類いは一切残っていなかった。部屋の中央には噴水の像が建っており、雪解け水を引いてあるのか今でもふんだんに水を噴き出している。


部屋は崩壊しており半ば水没。濡れずに腰を下ろせる場所はそれ程多くなかった。


20180114173056_1


「ディベラ様の水汲み場とは、帝国軍もなかなか洒落た趣味しているじゃねぇか」


アーセランは火を焚けそうな場所を軽く物色したがすぐに首を振った。「しっかし、こう水浸しだと、焚き火を作るのも無理そうだな・・・」


「いいわ、ランタンと灯火の呪文でなんとかしましょ」


イェアメリスも同じように足場を探る。ディベラ像の回りをぐるっと回ろうとすると、灯火の反射光が飛び込んできて、まぶしさに目が眩んだ。
立ち位置をずらして光を避けると、彼女は像の影に先客がいることに気がついた。


20180114173504_1


「あなた、だれ?」


目に入ってきたのは輝く金属鎧だった。銀色に輝く板金と毛皮に覆われたノルドの鎧。男が一人、腰を下ろして休んでいた。


見慣れぬ肌の色に、イェアメリスは相手を二度見する。


(レッドガード?)


20180114173530_1 のコピー


男が顔を上げた。



(第11話につづく・・・)



※使用mod


・Dragon Born " Ja'ral " Follower Ver1.2
 お世話になっている@しゅん( ・ω・)さんのカジートフォロワーです。
 [SKYRIM]ジ’ャラールのスカイリム見聞録[PC-32bit版]
 という配信生放送をされていて、そこの主人公です。
 彼の振る舞いは放送の中での行動を"多分に"参考にさせて頂きましたw


・Illia Reborn Standalone follower  UNPB-BBP Full_Ver 2.4.4
 おなじく@しゅん( ・ω・)さんの女性フォロワーです。
 放送の中でもジャ・ラールの奥さんという位置づけです


・RKDLFollowers v1.0
 お世話になっているロクドさんのフォロワーです。とにかくカッコええ!
 中盤のバックグラウンドを厚くするための、ハンマーフェルから来たレッドガード枠のキャラ

 が欲しかったので出演して頂きました。

 彼が何者かは次回とその次で明らかになりますヾ(๑╹◡╹)ノ"


・SRollFollowers

 お世話になっているスイートロールさんのフォロワーさん。貴重な中年男性枠から、

 今回はシグルドさんです。いぶし銀(金?)という感じのかっこよさです。
 本編に絡んでくるのはもう少し先ですが、顔見せがてら出演頂きましたヾ(๑╹◡╹)ノ"


・ RUSTIC MONUMENTS and TOMBSTONES( Nexus 68884 )
 ウインドヘルムの史跡、記念碑と墓石のリテクスチャです。

 同胞団の壁は分かりにくいところにありますが、なかなか見応えがあります。

 こういう細かいところまでmodがあるのはすごいですね。


・Forgotten Settlements( Nexus 24511 )
 過去作品(Tes1 Arena)に存在していた集落や遺跡、NPCを追加するmodです。

 今回の帝国軍の補給哨塔は「水の祭壇」という名前の場所です。すこし重いですが、

 スカイリムを散策するのが更に楽しくなるのでオススメです。


※次の話は既に書き上がっていて、推敲もまもなく終わりますので、SS撮って近日公開の予定です^^


スポンサーサイト

3 Comments

呉羽  

更新お疲れ様です

はじめまして。
お正月にSkyrim関連を検索していて、こちらのトリグとウルフリックの決闘後の回が出てきたのですが、動き出す各陣営の思惑や事件後のウィンドヘルムの街中の様子が活写されているのに度肝を抜かれました。それでプロローグから通して読ませて頂き、本日、最新話に追いつきました。
キャラ中心でなく、世界の中で物語が紡がれているのが新鮮で、展開にワクワクしながら読ませて頂いています。ブラッキーの方はソリチュードを出てどんな旅になるのかも気になる…

2018/01/14 (Sun) 23:18 | EDIT | REPLY |   

もきゅ  

注釈 / 使用mod の補足

テルミン姐さんの想像シーン、サンガードのお昼寝はお世話になっているフカヒレさんのご厚意で提供して頂きました。ありがとうございますヾ(๑╹◡╹)ノ"

このSS↓
https://blog-imgs-77.fc2.com/4/e/2/4e201/274.jpg

元となるフカヒレさんのブログ(テルミンの一日:後編)↓
http://skyfukahire.blog.fc2.com/blog-entry-154.html

2018/01/14 (Sun) 23:20 | EDIT | REPLY |   

もきゅ  

To 呉羽さん

呉羽さま、
コメントありがとうございますヾ(๑╹◡╹)ノ"
ゲーム内では噂でしか聞くことのできないシーンですけど、主人公の一人が居合わせたらどのように見えるだろう、と自分でもワクワクしながら書いてました。
決闘の回は自分でもお気に入りな場面なので、気に入って頂けたらとても嬉しいです。

このお話の主人公は伝説の英雄でも何でもないですけれども、時間軸が同じなら世界の何処かでドヴァキンが活躍(メインクエスト)しているはずだし、それを取り巻く世界でも色々なことが平行して起きているはずだよね、たまたまそれと関わり合いを持ったりしたらどうなるかなと。
スカイリムのドヴァキンの物語をメインストーリーとしたら、端々で見かけることのできるバレンジア女王の物語ぐらいの中編を、主人公たち遭遇する事件を軸において描けたらいいな~と思ってます(๑╹ω╹๑ )

遅筆ですが、まだまだ続けていきますので、のんびりお付き合い頂けたら幸いです^^/

2018/01/18 (Thu) 11:51 | EDIT | REPLY |   

Add your comment