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TES大好き、もきゅがスカイリムの物語をお届けします

◆Chapter 2-8: 湿原の魔術師

2017
03

「おい、すごいところだな、ここは・・・」


吹き付ける海風が岩を切る音に打ち消されまいと、アーセランは先行く仲間に怒鳴った。
めまぐるしく変わる地面の様子に旅人たちは手を焼いていた。草に覆われた凍土だったと思えば、塩の浮いた浅瀬にズボッと足を取られる。かと思えば岩であったり氷であったりと、足下の地面は旅人を悩ませる要素が満載であった。


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「塩の風と低い気温・・・死体の保存に適している。ふむ・・・、ここは死霊術やその類いの研究にはもってこいだな」


大気の方も足下に劣らず不安定だ。霧に覆われていたと思えば一瞬で晴れ間が差したりとめまぐるしい。

商人のすぐ前を歩くアスヴァレンは、潮風に髪をなぶらせながら辺りを観察していた。


「ちょっと、フムじゃないわよ。そんなこ物騒なこと言って、変なもの呼び寄せちゃったらどうするのよ」


小休止を取るために足を止めたアルフレドが脅かした。

「メリスちゃん、そうでもないんだ」


「え?」


「アーケイにかけて、驚く前に言っとくけど・・・。呼び寄せるも何も、実際この沼地にはゾンビやらなんやらが出るんだ。出くわす前提で、最初から心つもりしておいてな」


「え~・・・ホントに?」


傭兵は頷いた。そして安心させるように付け加える。
「でもここのはちょっと変わってて、こちらから攻撃しない限りは襲ってこないんだ。出くわすことがあっても、危害を加えないようにさえしていれば大丈夫だ。気をつけてくれ。アーセラン、お前もだぞ」


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彼らは氷の山がいくつも浮かんだ亡霊の海を前にする海岸に出た。
目的地の首府モーサルは湿原を越えた反対側なのだが、湿原は天然の水路が複雑な迷路のように張り巡らされており、一直線に南に向かうことが出来ない。深みにはまればブーツといえ簡単に浸水してしまう。この低気温を考えると、極力装備を濡らさないで済むに越したことはなかった。慣れない旅人達を連れたアルフレドは、仲間の負担を少しでも減らすように配慮してくれる。水と陸の境界が分かりやすいほうが、素人には歩きやすい。遠回りになるが海岸線に一度出てから目的地へ向かうルートを、彼は選択していた。


うっすら霧が出ている中、彼らは横頬に熱源を感じて浜辺を見た。商人が目を輝かせる。


「おお! ゾンビ以外にも住人がいるじゃねぇか、それもいい感じの焚き火!」


薄く雪に覆われた湿地帯の外れ、海と陸が交わる辺りでひときわ大きな焚き火を準備している一団が居た。
10人ぐらいの食い詰め者たちが焚火を囲んでいる。アーセランの言うように、湿原の住人はゾンビやマッドクラブだけではなかった。


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「あんなに火を焚いて、まるで灯台みてぇだな」
アーセランは、周囲の気候を跳ね返すような炎に魅せられ二三歩近づいたが、アルフレドに止められた。傭兵は首を振っている。


「やめとこう、近寄らない方がいい」


「なんでだよ? せっかくの焚き火だぜ」


「連中、おそらくソリチュードでもモーサルでも暮らすことのできない者達だ。城壁の中で暮らすことの出来ない理由を持つ、分かるよな」


「山賊・・・って事か?」


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「湿原の賊を何と呼んでいいのかは分からないが、まあ、そう言ってもいい。近寄らないに越したことはない」


「うう・・・ヴァレンウッドとアビシアン海が恋しいぜ」


「あら、帰ったっていいのよ?」
当てが外れて愚痴を漏らしている商人を見ると、すかさずイェアメリスがからかった。


「ぶるぶるぶる・・・だめだだめだ。まだ一旗も揚げてねえからな。帰るのは一財産築いてからって決めてるんだ。メリスちゃんにはずいぶん投資してるんだから、回収しねぇとな」


「ちょっ・・・、キナレスにかけて、よくそんなことが言えるわね。あなたといるとどんどんお財布軽くなってくのよ。投資しているのはあたしの方だわ」


アルフレドが二人に進むよう促す。
「いいぞ、二人ともその調子だ。会話は身体を暖めてくれる。寒さから来る怠さや眠気にも効果的だ。無駄口をききながらでもいいから、足を動かすんだ」


「んもう・・・、そんなつもりじゃないのに」


彼らは巨大な熱源と化している大焚き火には近寄らず、その場を通り過ぎた。難所である深い水路を岩場伝いに超えると、案内人は進路をようやく南に変えた。イェアメリスはずり落ちてきたショールを引きあげると傭兵を見た。


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「口は温まっても、手足は冷たいままだわ。・・・それにしても、底冷えするわね」


「ああ、この時期のモーサルの湿原に吹く風はいつもこうだ。大丈夫かい?」


「ええ、装備変えて正解だったみたい。あたしは大丈夫だけど・・・」そう言って逆にアルフレドの格好を指摘した。「アルフさん、前も聞いたような気がするけど半袖で大丈夫なの?」


「真のノルドはこれぐらいじゃ風邪引かないさ」


少しすると、遠回りした甲斐があり足下がしっかりしてきた。護衛専門の傭兵と言っていたが、アルフレドは案内人としての腕も確かなようであった。日はまだ高い位置にある。夕暮れまでにしっかりと距離を稼げそうだ。


「わぁ! あれなに?」


下生えに足を取られないよう地面ばかりみていたイェアメリスは、ふと顔を上げたときに視界に飛び込んできた光景に驚きの声を上げた。遠く、河口の方にソリチュードのアーチが見えているのだが、その頂上・・・ブルーパレスの辺りに船らしきものを認めたのだ。


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「船・・・よね?」


「よく分からないけど、たまにああやってソリチュードの断崖に繫留されているんだ。・・・船と言ってよければだけど」


まるで神話の中から抜け出してきたような光景に、アーセランも愚痴を引っ込めて素直に感心した。
「街にいたとき港から何度か眺めたけどよ、こんなところからも見えるんだな。・・・飛ぶのかね、あれ?」


「支えらしきもの何もないわよね。浮いているように見えるわ。きっと飛ぶんじゃない?」


驚きとまま感想を述べ合う彼らに答えを与えたのは、意外にもダンマーの錬金術師だった。


「ちゃんと飛ぶぞ・・・壊れてなければ」


「アスヴァレン、知ってるの?!」


「ああ、何度か乗ったからな。あれはバレンジア女王の御座船、アヴェーザ号だ」


皆の注目がダンマーに集まった。


彼は二度目の休憩がてら、遠景にかすむ不思議な船について蘊蓄を披露した。
今から220年前・・・第3紀の429年にアルド・ルーンの魔術師ギルドに所属するウィザード・・・ルイス・ビューチャンプによって空飛ぶ船が建造された。ドゥーマーの蒸気機関を使ったその船は、ソルスセイム島の遺跡探索のための処女航海で残念ながら墜落したという。その話には続きがあり、空飛ぶ船の構想を諦めなかったビューチャンプは数年後、同じドゥーマー由来だが違う技術を利用して再び空飛ぶ船を建造する。


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アヴェーザ号と名付けられたその改良型2番艦はオブリビオン・クライシスの間、開いたゲートに対処部隊を送り込むのに大いに活躍し、その任を終えた後は、ハイロックの王と再婚したバレンジア女王にギルドから祝いとして贈られたのであった。


「オレはテルヴァンニ家のウィザードとして、マスター・ネロスたちとあれに乗ってゲートに急行したのだ。それこそ、何度も何度もな」
懐かしそうな表情のアスヴァレンを見ながら、イェアメリスは遠い過去の物語に思いを馳せた。


バレンジア女王はウェイレストのイードワイヤー王と再婚したことが知られているが、その間もモロウウィンドの女王であり続けた。この船はモーンホールドを暫定統治する五大家の摂政たちに指示を出すためウェイレストとモロウウィンドの間・・・タムリエルの東西の端を何度も行き来する女王にとって欠かせない贈り物になったのだった。


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「レッドマウンテンの噴火の時にも、その後のアルゴニアンによる首都の大包囲の時にも、そして遷都した新首都ブラックライトとの移動の時にも、あの船は常に女王と共にあった」


「すげぇなぁ、ダンナなんでも知ってるんだね」


「たまたま関わりがあっただけだ」


「バレンジア女王って、今でもご存命なのよね? モーンホールドっていまはどうなっているの?」


「アルゴニアンの土地に飲み込まれてしまい孤立しているが、まだ女王はそこにいる。200年間の籠城戦だ。空でも飛ばん限りは出入りすることが出来んのだが、女王はその手段・・・アヴェーザ号を持っているからな」


女王は現在も続いているアルゴニアンとの戦争の中、気の遠くなるような年月を孤立した都を支えることに費やしていた。赤い年を越えて散り散りになったダンマー達が、未だに結束を保っているのは間違いなくこの女王に因るものであった。それぐらいダンマーの中では人気の高い女性であった。


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「あれに乗ったら、リフト地方なんて一瞬で行けちゃうんじゃねぇの。・・・なぁアスヴァレンのダンナ。あんた女王の臣下だったんだろ? いっちょ掛け合って乗せてもらえねぇかな?」


「無茶言うな。200年も前に宮廷は辞している。それにあれが女王のものかも分からん」


「たしかに・・・ソリチュードにバレンジア女王が来てるなんて、そんな話は聞かなかったなぁ」

アーセランは眩しそうに船を見上げながら地面の草を蹴飛ばした。

「ま、しょうがねぇか。市民は地べたを歩くしかねぇわな」


「そういうことだ」黙って聞いていたアルフレドは剣の位置を直した。「でもいい話を聞かせてもらった。モーサル湿原を護衛するときの話の種が一つ手に入ったよ」


「なに、アルフのダンナも戦士詩人、みたいなやつなのかい?」


「そういう訳じゃないが、こういう気の滅入るところを通過するときには、さっきも言ったように何かおしゃべりするのが気を紛らわせるのに一番だろ? お前とメリスちゃんみたいなケンカ仲間はいいとして、案内役の俺が口げんかするわけにはいかないしな」


「んもぅ・・・ ケンカ仲間ってなによ」


むくれるエルフの娘を笑ってかわすと、傭兵は肩をすくめた。
「・・・さて、日が暮れるまでにモーサルの門が見えるところまで行きたい。おしゃべりはこれぐらいにして進もう。観客が寄ってきてるぞ」


「観客?」


アルフレドに言われて周りを見渡すと、影のような人影が目に入る。良く良く観察してみると、人影はまばらに、しかし相当数見つけることができた。それらはゆらゆらと揺れていた。


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「あれは?」


「さっき言っただろ、ゾンビのお出ましだ」彼は沼地をさまよう影を指差した。「無理に避けることもないが、刺激しないようにしよう」




・・・




途中、彼女らは朽ちかけた小屋に遭遇した。
湿地帯のど真ん中。手入れもされていない、荒れ放題の小屋がぽつんと建っている。樽や農具らしき物が並べてあるところをみると、誰か住んでいるのであろうか? 日は傾きかけ、薄暗さがその小屋を一層不気味に見せていた。


「おい、こんなところに小屋があるぜ?」


「ああ、ただの道しるべだ」
案内役の傭兵が、早速辺りを嗅ぎ回ろうとしているアーセランを牽制した。傭兵は道が間違ってないかを確認するためのランドマークとしてこの小屋を使っていた。


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「放っとくってのも、もったいねぇな・・・」


「立ち寄る予定はないぞ」


「入り口は反対側かな・・・?」


「やめとけって。・・・ここは3人迷い込むと必ず1人は死ぬって言われている、呪われた小屋だって噂だ。亡霊の類いが巣食っているとかなんとか・・・」


しかしアルフレドの脅しの言葉はアーセランの好奇心を萎えさせるには殆ど効果がなく、むしろ横で聞いていたイェアメリスの方を怖がらせる結果となった。彼女は旅人を誘うように立っている小屋を気味悪そうに見回した。そして目をそらして湿原にまた揺らめく人影を見つけ、小さく悲鳴を上げる。


最初はねじくれた木や岩の影だと思っていたものが、よく見るとゾンビだということが分かる。見分け方が分かってしまうと、彼らは気になって仕方がなくなった。沼地を間違い探しのようにひと舐めすると、けっこうな確率でゾンビを目にすることができた。
害が無いとは言われていたが、動く死体たちは沼地を歩くあいだ常に遠巻きに付きまとっていた。そんな中に現れた小屋である。


イェアメリスはより一層きつくショールを巻き付けると、なおも小屋の入口に向かおうとするアーセランを押しとどめる。


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「やめなさいよ、ね?」


制止の声を上げたとき、別の声が小屋の裏から割り込んできた。


「もう、うるさいわね」


「ひゃぁ! ゾンビ! ゾンビよ!」
「うわっ! ゾンビ!」
ブレトン娘とボズマーは揃って飛び上がった。


「誰がゾンビよ。まったく・・・」


再び声がすると、小屋の影から人影が現れた。
雪のように白い肌と対照的な、ノルドには珍しい黒髪の女性だ。彼女たちと同じ旅人であろうか、それにしては身軽であった。いや、身軽過ぎた。


「もう少し静かに出来ないの。折角人が休んでいるのに・・・」


「びっくりした・・・あなた、人間・・・よね?」
アスヴァレンの影に隠れておっかなびっくり、イェアメリスは確認するように顔を出した。


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「なに言ってるの、当たり前でしょ。こんな瑞々しいゾンビがどこにいるのよ。なんなら触ってみる?」
色白の女性は小屋から遠ざかるように、彼女たちに向かって近寄ってきた。小屋から出てきたようにも、近くに居ただけのようにも見える。その顔にアルフレドは見覚えがあるようだった。アーセランは相変わらず小屋の裏に回り込もうとしていたが、出てきた女性に遮られ、その後アルフレドの上げた声で立ち止まった。


「あれ? あんた・・・ホワイトランで時々みかけるよな」


女性の方も驚いたように傭兵を見た。
仲間の視線が彼女に集中する。


「ええと・・・どちら様かしら? あたしはあなたのこと知らないのだけど」


「時々ジョルバスクルに来ている人だろ、あんた」


女性の眼がキッと厳しくなる。詮索をされるのを嫌うような、そんな目つきだ。
「あなた、同胞団の関係?」


「いやちがう。でもオレもあそこにはよく稽古に行くから、あんたとは何度か会ってるはずだ。ま、挨拶するのはコレが初めてかも知れないから・・・俺はアルフレド。旅人や商人の護衛で飯を食っている傭兵さ」
アルフレドは相手の警戒を解こうと、気さくな感じで自己紹介した。


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「ヴィオレッタよ」
女性は少し力を抜いたように見えたが、まだ警戒している。


「妹が住んでるから、ホワイトランにはときどき会いに行ってるわ」彼女は爪をいじりながら答えた。


「それでか。時々みかける人に似てると思ったんだ。でも、なんて言うか、そんな派手な格好ではなかったような・・・」


「え、ああ」彼女は薄衣といって言いような自分の衣装を見て頷いた。「これは仕事着よ。あたしは旅芸人なの」


「旅芸人? 一座は? はぐれたのか?」


「あ、あたしは流しでやってるのよ」
ヴィオレッタはぞんざいな態度で応じた。説明が煩わしいようにも、はたまた取り繕っているようにも見える。
「一座に入っちゃうと、遠くまで行かなくてはならないでしょ。あたしはあまりスカイリムから離れたくないの。だから・・・移動した先の町で、たまたま来ている一座に飛び入りしたり、酒場に頼んで営業させてもらったりしてるのよ」


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「こんなところに居ると言うことは、ソリチュードから?」


「なに? 尋問みたいね」


「えっ、いや、そういう訳じゃ・・・同郷の者にこんなところで会えたことに驚いてね」アルフレドはヴィオレッタの怪しく光るアイスブルーの瞳にたじろいだ。


「でも一人というのも物騒だ」
モーサルの沼沢地はそもそも女子供が一人で越えようとするようなところではなかった。


「ええ、仕事ついでに新しい歌を習いに行ってたの。戒厳令が布かれるって聞いたから、門を閉められる直前に着の身着のまま飛び出してきたんだけど。艀も小舟も動かないし、跳ね橋も上げられちゃうしで、こちら側に渡ってくるのに苦労したわ」彼女は忌々しそうに遥か遠くのアーチ・・・ソリチュードの象徴を仰ぎ見た。


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「どうして沼地なんか渡ろうと思ったんだ?」


「それはお互い様でしょ。街道は兵士達でいっぱいって言うし、あたしの目的地はペイルの方にあるからこっちに来ただけよ。そっちこそこんな所になんの用よ?」


「俺たちはなるべく早くホワイトランの方に行きたいんだ。最短経路を選んだというわけさ。うん・・・それでそんな場違いな格好だったんだな」
ヴィオレッタは、旅人には似つかわしくない扇情的な衣装を纏っていた。見ている方が寒くなるような、そして山賊などに出くわしたら放って置かれないような出で立ちだ。


「ノルドって、ホント寒さに強いのね」
的外れに感心するイェアメリスを、ヴィオレッタはじろりと睨めつけた。


「な、真のノルドはこれくらいじゃ風邪引かないっていっただろ?」


続くアルフレドの軽口を聞いて、踊り子はふざけないでという表情になった。


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「バカ言わないで。あなたと一緒にしないでちょうだい。どんなノルドだってこれじゃぁ風邪ひくわよ! 好きでこんな格好してると思ったら大間違いよ。外出て寒くないわけないじゃない。しかも苦労して来てみればこの沼地。こんなに寒くて足場が悪い場所だって知っていたら、絶対来なかったわ・・・」


彼女たちが危険な一行でないと分かった安心からか、ヴィオレッタは次々と悪態をつき始めた。


「そもそもアストリッドが仕事の内容をちゃんと伝えてよこさないからこんな羽目に遭うのよ・・・まったく、いつも彼女は・・・」
左右の爪を重ね合わせて、落ち着きがない。


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「あ、あの・・・ヴィオレッタさん?」


「なによ」


イェアメリスは恐る恐る、厚手の毛皮のマントを彼女に差し出した。


「マントなら予備があるわ」


「あら?」ヴィオレッタの愚痴が止まった。「あたしに? ・・・いいの?」


「ええ。どうぞ」


「ありがとう、助かるわ。あなたいい娘ね」
ヴィオレッタはマントを受け取ると、身体に巻きつけた。
「さすがにこの寒さには耐えられないと思っていたところに、ちょうど小屋を見つけたから、侵入しようか迷っていたところなの」


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踊り子はすこし態度を和らげた。そんな彼女たちの姿を見て、今度はアーセランが愚痴をこぼす。


「なんだよメリスちゃん。ファーランでオレにマント貸したときには金取ろうとしたくせに、この姉さんには無償ってどういうことだよ。差別じゃねぇか」


「差別じゃないわ、区別よ」


「・・・ってなぁ、俺ぁこんなところに一人でいること自体がおかしいとおもうけどねぇ。アルフのだんなの言う、この小屋に住んでいるお化けじゃねぇの?」胡散臭げな眼でアーセランに一瞥されると、旅芸人は息をのんだ。


「そういうあなたはただの怪しいコソ泥じゃない。この人とは大違いよ」


「人は見かけに寄らないぜ?」


助け船を出したのはアルフレドだった。
「さあさあ、こんなところで立ち話もなんだ。俺たちは今言ったようにホワイトランに向かっているんだが、あんたも一緒に来るか?」


「・・・」
踊り子は無言で一行を見回した。


「そうね・・・」少し考えるような間を置いて、最後に彼女は頷いた。「あなたたちが大好きなゾンビもいっぱいいるようだし、この娘に借りを返さなくちゃならないから、途中まで一緒に行くわ」
イェアメリスをちらと見ると、いたずらっぽく微笑んだ。


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「ヴィオレッタさん、そんな借りだなんていいのに」


「ヴィオラでいいわ。ちょっとの間だけど、よろしくね」


アルフレドは自然と殿を務めているアスヴァレンに合図をした。そして錬金術師が頷くのをみると再び寒空の中、先導を始めた。
「よし、では出発しよう。夜までにもう少し距離を稼いでおきたい」




・・・




小屋を後にしながら、イェアメリスは昔読んだことのある本の内容を思い出していた。帝国軍に配布されている『スカイリムの要塞』という冊子だ。東帝都社の船員が、港に寄った時に要らないものを時々捨てて行く。子供のころから港町キルクモアの街中を駆けまわっていた彼女は、そういう"お宝"に遭遇することも多かった。


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モーサル周辺はこのように紹介されている。
『ハイヤルマーチ・・・この要塞は農場が点在する風の強い凍土帯と、臭いのきつい巨大な塩の沼地に二分されている。要塞の首都モーサル以外、ここに興味深い物はほとんどない』


本で読んだことのある場所にまさか自分が来ることになるとは・・・彼女は軽い驚きと共に、ぬかるんだ地面を踏み締めて進んだ。


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南に進むに連れ、周りの景色も色鮮やかになってくる。どんよりとした沼沢地であることは変わらないのだが、この湿原はカース川の下流域に広がっている。海岸から遠ざかるにつれて水は淡水になり、あたりの植物もさほど塩の影響を受けていないように見える。塩に弱い植物も育つことができるようだ。

地面には背の高いキノコや下生えが目立つようになってきた。


まだかなり先の方だが、モーサルの城壁が見え始めたのはそんな頃だった。


「すぐそこのように感じるんだが、実際歩いたら相当かかるんだろうな・・・。なあ、アルフのだんな、さすがに夜までにあそこに着くのはムリだよな」
アーセランが遠く城壁を臨んでいる。


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「そうだな。無理すれば夜中に城壁までは行けるだろうが、沼地で焦って移動するのは危険だ。今晩は野営しよう。なるべく固い地面・・・出来れば平らな岩場を探すんだ」


「やっぱそうなるのな・・・まあ、何事も経験だ。うちには焚き火マスターもいるから大丈夫だろ」


「枝集めはアーセラン、あなたの仕事よ?」


「ハイハイ、分かってるよ」


ヴィオレッタは無言で歩いている。物静かなアスヴァレンは、小屋を越えたあたりから珍しくキョロキョロしはじめた。彼の目にはこの沼沢地は錬金素材の宝庫に見えているのかも知れない。それに歩調を合わせてイェアメリスは歩いていた。連れの気を引こうと、わざと追い越したり逆に遅れて見せたりしたが、アスヴァレンは周囲を観察するのに忙しくて、彼女に何の反応も返さない。


しばらくして、先頭を行くアルフレドが足を止めた。


「今日はここまでにしておこう」
彼女たちはドルメン・・・キルクリース山中で見つけたのと同じ遺跡で足を止めた。


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第2紀のモラグ・バル侵攻の爪痕であるドルメンや、第3紀のメエルーンズ・デイゴンの象徴であるオブリビオン・ゲート、こういった類いの破壊された遺跡はスカイリムでも至る所で目にすることが出来る。このドルメンも半ば崩れ落ち、木や下草の浸食に覆われていた。


「ふむ・・・ここは大丈夫だ。マジカの類は感じられん」
アスヴァレンは遺跡が不活性化されていることを確認した。
「よくよくドルメンとは縁があるようだな、我々は」


「どうかしたのか?」


「ああ、ウルフスカルでお前たちと出会う前にも、この手の遺跡で野営したことがあってな」


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日が完全に落ちてからではいろいろと不便だ。無理をせず、少し早いぐらいから準備を始めるのが失敗しない野営のコツらしい。彼女たちははやる気持ちを抑え、傭兵の言葉に素直に従って脚を止めた。アーセランとアルフレドが彼木の枝を集め、イェアメリスが焚火の枠を作って火を起こす。自然と役割分担ができあがり、ほどなくたき火は完成した。モーサル湿原を吹き抜ける風に負けないぐらいの火勢を確保すると彼女たちは腰を下ろし、火を囲んで疲労で硬くなった脚を休めたのだった。


「ねぇ・・・、さっきから考えていたんだけど・・・」
いつも通り書き物を始めてしまったアスヴァレンを尻目に、イェアメリスは話し相手を求めてボズマーの商人を見た。


「メリスちゃんどうしたん?」


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アルフレドとヴィオレッタを交互に見ると、彼女は二人に聞こえないように声を落とした。
「後から合流した彼女が無料で、あたしたちだけ護衛代が必要って、なんかおかしくない?」


「・・・?」
アーセランは少し首をひねると、尤もだ、というように頷いた。


「イフレにかけて・・・確かに、アルフのダンナ、俺たちからは金取って、飛び入りのあの姉さんは無料だよな。不公平だよな」


「でしょ?」


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アルフとヴィオレッタは焚き火の向こう側で何か話し込んでいる。
「う~む・・・同郷のよしみってヤツか、なんか会話も弾んでそうだし。それとも・・・まあ、アルフのダンナも男だし、あんな格好している美人には弱いのかもね」


「なによ、どうせあたしは色気とかありませんよっ」


「あ? なんでそう取るの。誰もメリスちゃんのことなんか言ってないじゃんか・・・」アーセランは眼をぱちくりさせた。「てか、メリスちゃんだってマントはタダであげるのに、護衛代には拘るのって、どういうことだよ。ケチならケチでマントも売ったらよかったんじゃ・・・」


「ケチって・・・。お金は別よ。マントは寒さ凌ぐことにしか使えないでしょ。それ以外に活用法ないんだから」


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アーセランには彼女の理論が腑に落ちない。そして、いつも通り余計な言を言ってしまった。
「良く分からんけど、なあ・・・、最近やけに金に細かくないか?」


「誰のせいよ。あなたがあたしの財布にもう少し敬意を払ってくれれば、こんな心配しなくても済むんですからね」


「自分の買い物棚に上げてよく言うぜ。そのお団子帽子も高かったんだろ」


「そっ、そんなことないもんっ」


「そんなに護衛代が気になるなら、メリスちゃんもああいう格好してアルフのダンナに交渉してみりゃいいじゃん。目福代で負けてくれるかもよ」


「そんなこと出来るわけないでしょ!」


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「なにをブツブツ言ってるの? あなたたち」
憎まれ口のたたき合いをしている二人のエルフに興味を持ったのか、いつの間にかヴィオレッタがこちらを見ている。


「いや、メリスちゃんにも姉さんみたいな、なんっつーの? 艶めかしい格好してみたら、って話を・・・」


ヴィオレッタは爪をいじりながらクスリと笑った。


「ろくな服装じゃないけど、こんなのまだマシな方よ? 男たちの気を惹いて演目に集中させるための衣装だから、必要以上にいやらしく出来てるの」
ヴィオレッタは顔を赤くして眼をぱちくりするイェアメリスを見て続けた。
「あたしは踊りはするけど売りはしない。でも男たちの方は都合よく勘違いしてくるわ。仕事終わったらすぐに着替えて出て行ってしまいたいっていうのが正直なところ。・・・あ、そういえばねぇ、あなた服持ってない? 代わりにこの衣装あげるわよ?」


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「おっ、いいじゃん。メリスちゃんも試してみたら? 錬金術師のだんなも眼ん球飛び出して書き物止めるかもよ?」


「バッ・・・バカ言わないでよ。あたしはこんな・・・」


ヴィオレッタは面白そうに二人を見ている。


「ご、ごめんなさいヴィオラさん。替えの服は売っちゃったの」


「いいの、冗談よ。モーサルについたら何か手に入れることにするわ」


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冷たい風の吹きすさぶ中、彼女たちは焚き火を頼りに夜の帳が降りてくるのを待った。夕食を済ませたとは言え、眠りにつくにはまだ早い時間だ。


アスヴァレンを除いてすることもなく無聊をかこう。

休むことも旅では重要な行動なのだが、彼女たちはまだ若かった。


保存食にもなる硬いパンと、干物野菜を水で戻してスープに混ぜ込んだ薄いシチューで腹が満たされると、一日の疲れが急に身体にのしかかってくる。取り急ぎ見張りの順番を決めると、先行してアルフレドとヴィオレッタ、アーセランは横になった。


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日が沈むと、空には巨大なマッサーが満月となって昇る。かすかに見えるモーサルの城壁と街の灯り。最初の見張りを受け持った二人の錬金術師は、焚火から少し離れて辺りを油断なく見張っていた。


深夜12時まではアスヴァレンとイェアメリス、その後はアーセランとヴィオレッタ、そして最後はアルフレド。不寝番の交代時間まであと少しある。二三度ゾンビらしき影を見かけたが、炎を嫌うのかそれらは近寄ってくる気配はなかった。ぼんやりと辺りを眺めているイェアメリスはウトウトしかけては覚醒し、頭を振ることを繰り返していた。船を漕ぎながら何度目かの顔を上げたとき、彼女は少し先の草むらに青い光が明滅するのを見つけた。


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「何かしら?」


アスヴァレンの袖を引っ張ると、彼も同じ方向に目を凝らしていた。


「なにかの光・・・魔法か・・・」


好奇心が勝ったのか、腰を上げる。彼女はつばを飲んだ。


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「もうゾンビはイヤよ・・・」


「ゾンビは魔法使わん」そう言って横で鼾をかいているボズマーの脇を小突いた。


「んん? もう交代の時間か」


「まだ少し時間があるがすまん、荷物を見ておいてくれるか」


起こされた商人は頷いた。南国育ちのボズマーは、謎の光よりも焚き火の光の方が大事だった。


「ちょっと先に光が見えるので調べてくる」


「あいよ・・・って、あれ?」
同じく休んでいるかに見えたヴィオレッタも立ち上がるのを見て、アーセランは意外だという顔をした。


「姉さんも行くの?」
彼女は警戒しているのか、目を瞑ってはいても眠っていなかった。


大した距離ではないので、その場へはすぐに着く。


彼女たちがキャンプの地に選んだドルメンから南下した辺り、ほんの少し離れた所に別の遺跡があった。デイドラ由来の遺跡とはまた違う、古代ノルドの建築様式を踏襲した崩れかけの柱の間であった。


円形の石が、草むらの中に姿を見せている。祭壇のようにも見える。その遺跡を検分するように辺りを照らしている魔術師がいた。イェアメリスが見つけた光は、魔術師の点した灯火の呪文であったのだ。
目深にフードを被った男、そしてその仲間らしき影。注意深く見ないと二人目は見落としてしまいそうだった。鍔広帽を目深にかぶった男が、夜に溶け込むように石柱の一つにもたれている。彼らは何をしようとしているのだろう、イェアメリスが覗き込もうとしたとき、怒鳴り声が聞こえてきた。


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「なんだお前たち? モーサルから来たのか?」


「えっ、あの、あたしは・・・」


魔術師風の男は灯火を彼女の方に差し向けると、またか、と言った口調で言い放った。
「ああ、言っておくが、子供を生け贄にしているとか、死者の心臓を食べているとか非難するつもりなら、話すだけ無駄だから黙ることだ」


その言い草に腹を立て、ヴィオレッタが進み出た。
「ちょっと、いきなり失礼じゃない。あたし達のどこが、モーサルから来たように見えるのよ。相手のこともよく見ないで」


男は更に何か言おうとしたが、少し首をひねると、あっけらかんと言葉を翻した。


「それもそうか・・・。こんな時間に住人は外をうろつかん」
改めて三人の訪問者を観察した。


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「旅人かね」


ローブの男は、害意がないことを示すように両手を挙げてみせる。灯火の呪文に照らされたその顔は浅黒く、ノルドではないように見えた。アスヴァレンは二人の女性を一歩下がらせると代わりに答えた。


「ああ、南に向かう旅の途中だ」彼は自分たちが今来た焚き火の方を指さすと、同じように敵意がないことを強調するために手を振って見せる。「なにか・・・邪魔してしまったら済まない。俺たちはあそこのドルメン跡で野営している」


「大丈夫だ。実験にはまだ時間がある。お前さん達はなにも邪魔しちゃいないさ」


こんな夜遅くの町外れの遺跡。しかし不審者にしてはやけに堂々としている。自分がしていることを完全に分かっていると言った体だ。


(大丈夫かしら、・・・こういう態度を取る人って、きっと魔術師よね)


影に立つもう一人の男の方は、動きもしゃべりもせず、やり取りを見守っている。こちらの方は更に得体が知れない。


「あなたは?」アスヴァレンの影から、イェアメリスは控えめに訊ねた。


「オレはファリオン、魔術の道を修める者だ。道を踏み外したレッドガードのはぐれ者でもある。聞いたことはないかな?」


「ごめんなさい・・・あたしたち、ハイロックから来たの」


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ファリオンと名乗った魔術師は薄く笑った。
「さすがに俺の名もモーサル周辺でしか通用しないか。・・・まあ、それぐらいが都合いい。で、お前さん達は?」


「あ、あたしはイェアメリス。東帝都社の錬金術師よ。ホワイトランの方に向かってるの。こちらは先生と、途中で一緒になった踊り子さん」


「ふむ・・・錬金術師か・・・」
ファリオンの眼に、興味とおぼしき光が宿った。


「こんなところで何の実験をしているの?」
イェアメリスは彼らが取り組んでいる祭壇のように見える石に興味を引きつけられて、連れの後ろから一歩進むとそれを観察しようとした。祭壇の上には魂石らしきものが置かれており、灯火の光を反射して黒い光を放っている。普通の魂石とは少し違うようだ。
ローブの魔術師は寄ってきた旅人達の面々を品定めするように順に見ると、ゆっくりと口を開いた。


「吸血鬼治療の実験だ」


二人の錬金術師と踊り子は顔を見合わせた。無理もない。夜中の怪しげな祭壇で思いも寄らない言葉を聞いたのだ。


ヴィオレッタが驚きの声を上げた。


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「ファリオン・・・思い出したわ! いまスカイリム北部で噂になっている、吸血鬼を治療できるという唯一の医者じゃない!」


「む? オレを知っているのか? だが医者ではない、正確にはウィザードだ。召喚術のな」


「その・・・高名なウィザードがなぜこんなところに?」


「世辞は要らん。オレは一介の探求者に過ぎぬ。それに"吸血鬼を治療できる"というのは間違っている。まだできない。今はまだな・・・」


吸血鬼やその眷属に傷を受けると感染するサングイネア吸血症。この感染は迅速な治療が必要な、進行の早い病として知られている。二日二晩ほどで患者は吸血鬼へと変貌してしまい、こうなると寺院で得られる九大神の恩恵や疾病退散の薬では治療できなかった。打つ手がなくなったあとは、それが例え家族であろうと被害を防ぐために、心臓に杭を打ち込み、首を切断するしか手はない。それを治療するというのだから、驚くべき話だ。


「それって・・・!」


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「ふむ。実験にはまだ時間がある。時間つぶしに少し世間話をしてやろう」
ファリオンは彼女たちに座るように石の縁を勧めると、自宅に客を招き入れるかのような気さくな感じで自分も腰掛けた。もう一人の鍔広帽の男は柱にもたれたままだ。


「吸血鬼治療には黒魂石が必要になるが、その中身について考えたことはあるかね?」


「たしか黒き魂・・・人の魂が入るという・・・でも禁忌なはずだわ」


「禁忌か・・・理解しがたい事象にその札を貼って、人を近づけないようにする常套手法だな」ファリオンは薄く笑った。


古くはサイジック会、そして魔術師ギルドが出来てからは大学が監視役となって、一般の人々を魔法から遠ざけてきた。それで世の秩序が保たれているのも事実であり、魔術師ギルドが解体された後も結局サイノッドやウィスパーズといった後継組織が生まれたところから見て、あながち間違った規制だとは思われていない。
動物や魔物の魂縛や付呪に関しては学問として認められているが、黒魂石を扱うような、人の魂に関する突っ込んだ探求は禁じられていた。


「オレはウィンターホールド大学の講師をしていたこともある。もう40年も前の話だがな。施設も揃っていて惜しい場所だったが・・・魂を扱う研究に関しては制限があり不自由極まりなかった。これ以上先に進むためには禁忌の扉を開けることを避けては通れない、そんなところまで来てしまったオレは、研究の折り合いがつかずに辞めたのだ」


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思い出話のようにレッドガードの魔術師は語った。
「フェスタス、メイリン、シビル・・・優秀な者が多い世代だったが、殆ど去ってしまった。残ったのはネラカーとダンレインぐらいか・・・奴らはどうしているかな・・・」


物思いに入り込みかけたファリオンは、軽く頭を振ると再び彼らに向きなおった。


「まあ、大学を辞めてここに来たことで大きな発見もあったから、後悔はしておらん。・・・で、魂石の話をしていたんだったな」


彼は懐から二つの魂石を取り出した。
「魂魄という概念を聞いたことあるか?」


イェアメリスは仲間を見る。ヴィオレッタは困ったような顔をした。
「あたしに分かるわけないじゃない。こういうのはあなた達の方が専門でしょ?」あっさりと否定されると、彼女は助けを求めるようにアスヴァレンを見た。
「アスヴァレン・・・どう?」


「たしか、霊魂を表す東方の国の言葉だったと記憶している」


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「おお! 久しぶりだ! この言葉を知っている者と会うのは、本当に久しぶりだ」
ファリオンは嬉しそうに声の調子を上げた。


「断っておくが、オレも単語として知っているだけだぞ」


「充分だ! 充分博識ではないか。やはり識のあるものと話すのは楽しいな。モーサルのアホ共は魔術と言うだけで頭から否定しおる。オレは話し相手に飢えていたんだ」


「お仲間がいるじゃないの?」
ヴィオレッタが柱の影に立つ男について指摘した。


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「ああ、ファルサか。あいつは喋らん。・・・必要ない限りは一切な」
柱にもたれた男は異様に影が薄い。ヴィオレッタは職業柄見失うことはなかったが、イェアメリスなどは少し目をそらすとすぐに見失ってしまいそうな、それぐらいの存在の希薄さだった。


「いま話した魂魄というのはアカヴィリの概念だ。あまり知られてはいないが、我々が魂と呼ぶ物は、実は2つの要素で構成されているのだ。魂と魄、この違いが分かるか?」


「・・・」
二人の錬金術師、そして踊り子は黙っている。


「魂は心や記憶、人格といったもので、一方の魄は肉体を動かすエネルギーだ。タムリエルでよく知られているエンチャント・・・付呪はエネルギーとしての魄を消費して術を発動するものだ」


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「それが吸血鬼とどんな関係が・・・?」


「あわてるな女錬金術師よ。これから説明するところだ。ところで吸血鬼の成り立ちについて知っているか? 神話ではなく、もっと現実的なものとしての・・・」


「現実的?」


「・・・吸血鬼やその眷族を生み出すということは、付呪と同じで、魄のエネルギーをモラグ・バルに捧げる儀式をするということだ。アーケイに対する反抗と呪いとして生み出された種族。モラグ・バルはその魄、エネルギーを奪ってエセリウスとの循環を阻害し自身の力と成す。支配を司り、陵辱の王と呼ばれる彼らしい仕掛けだと思わんか?」


アスヴァレンがうなずいたのを横目に、イェアメリスは必死に理解しようと首をひねった。


「分かりにくいか? では、これを魂としよう」


ファリオンは魂石を一つ、イェアメリスの右手の乗せた。


「そしてこちらが魄」


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二つ目の魂石をイェアメリスの左手に乗せて魔術師は言った。


「魂と魄、あと肉体が揃ってお前さんは人間だ」


「そして吸血鬼は・・・」イェアメリスの左手に乗った魂石を取り去って言った。「こういうことだ」


イェアメリスは理解した。
「つまり、吸血鬼には心を司る魂は残っていて、生命である魄は抜けている状態、と言うこと?」


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「その通りだ。賢いな」
ファリオンは、残った魂石をイェアメリスから受け取る。まるで生徒に指導する教師だ。
「記憶や精神、心を司る魂は脳を中心とした肉体に宿る。一方、エネルギーである魄と血液には密接なかかわりがある。魄は肉体の成長に必要な要素でもある。・・・彼奴等が吸血を必要とするのは、モラグ・バルに捧げてしまった活動のエネルギーを他者から奪わねばならないためだ」


イェアメリスはまるで自分が、魔術師の大学で講義を受けているような錯覚に囚われた。レッドガードの魔術師は熱心に説明を続ける。


「吸血鬼はモラグ・バルの眷族、魂なき者と言われているが、これは少し正確性に欠く呼び方だ。人が吸血鬼になるとき、吸血によって魂を捧げると言われているが、生前の記憶や人格はしっかり引き継がれている。捧げているのは魂ではなく魄・・・エネルギーであって、魂は身体の中に残ったままだ。だから記憶や人格は保たれる」


ファリオンは彼女たちの理解度を促するよう、一旦言葉を切った。


「しかし厄介なことに、魂と魄は複雑に混じり合っており、簡単には分離できぬのだ。サイジックが隠していないとすれば、今のところニルンに存在する魔術や技術ではこの二つを明確に分離することはできない。何千年経っても魂、という一言で片付けられている事を鑑みると、サイジックの陰謀は功を奏しているのだろうな。お前さん達も錬金術師なら分かるだろう? 複雑に混ざり合った成分を分溜・蒸留することの難しさが」彼はイェアメリスの腰に付けた錬金バッグを指差して、彼女の職業を例えに使って見せた。


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「魂も魄もどちらも肉体に宿るものだ。魂縛によって死んだ肉体から引き剥がされたものの行き先・・・魂石には、魂と魄がごちゃ混ぜになって貯蔵されているというわけだ」


ヴィオレッタは早々に匙を投げてしまっていた。


「・・・話を戻すと、付呪に使用する分にはエネルギーしか使わぬから、魂の成分がどうなろうが知ったことではない。たまに、混ざり込んだ魂が強力すぎて人格を持った品が出来てしまうこともあるが、これは逆に稀少品として重宝がられるぐらいだ。一人の持ち主の元に留まろうとしない聖剣クライサメルなどがいい例だな。・・・だが、俺がやろうとしているのは吸血鬼の治療だ。吸血鬼の肉体に魂ではなく魄のみを戻してやる必要がある。魂石の中に混じっている他人や動物の魂が治療時に混ざり込んでしまうと、人格を冒されてしまうのだ」


「人格を?」


「そう。それだけならばまだマシな方で、肉体の維持・・・新陳代謝に異常をきたすと・・・」


アスヴァレンが口を挟んだ。
「やけにこの辺りはゾンビが多いと思っていたが・・・。もしかしてこのモーサルに出没するゾンビはお前の実験結果か?」


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ファリオンは否定しなかった。


「察しが良い。しかし誤解しないでくれ。彼らは皆、こうなる危険を覚悟で実験に参加したのだ。未だ治療法が確立していないことを十分説明したうえで、それでも実験に参加したいと志願した者達だ。哀れな者たちだが、彼らに非があるわけではない。もちろん、俺にもな」


イェアメリスとヴィオレッタはびっくりして、今まで渡ってきた沼地を振り返った。


「そんな・・・ではあのゾンビたちは元は吸血鬼だというの?!」


「ああ。皆はこの地を沼沢地とか、モーサル湿原と呼ぶが俺はここをアサイラムと呼んでいる。かつてモロウウィンドを旅した時に見たテル・フィルのコープラス患者を隔離した場所に倣ってな。柵などで閉じ込めてはいないが安心は出来る。治療は成功していないが、完全に失敗もしていないのだ」


「どういうこと?」


「彼らには感染力はもうない。沼地由来の不衛生から来る病原菌くらいは持っているだろうが、吸血病を感染されられることはない。先ほども言ったように、腐りゆく身体になってしまったのは、注入する魂魄の分離が完全ではなかったからだ。他の生き物や人間の魂が混入して、肉体の制御がうまくいかなくなってしまったからなのだ」


「えっ・・・あの、そういう意味じゃなくて・・・」


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「それさえ克服できれば、吸血鬼の治療法が確立できるのだ! そう・・・もう少しで分かりそうなのだ」


ファリオンはいつの間にか寄ってきた一体のゾンビの肩を撫でながら主張した。


「・・・!」


力説する魔術師に狂気じみた物を感じ、イェアメリスは背筋が寒くなるのを感じた。


「大丈夫だ。実験が気になって見学に来ただけ。彼は観客だ」


正常ではない状況に腰を抜かしそうになり、アスヴァレンに支えられる。


「なにを怖がることがある。元患者でもあり、研究の同志じゃないか。彼にはもう血の乾きはないし、感染がこれ以上拡大することもない」


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「それはあなたの実験が完全に成功すればでしょ?」


「今宵はうまくいきそうな気がするのだ」
ファリオンは興奮している。アスヴァレンは感心しているが、イェアメリスとヴィオレッタはなんとも言えない表情だ。


「ん? なんだ、その批判的な目は。まさかこの研究の価値が分からないとでも」


「い、いえ、そういうことじゃなくて」


彼はゾンビを生み出し続けていることに関しては何ら特別な感情は抱いていないようであった。


「まさか正義感からオレ私をどうこうしようなどと思ってないだろうな。まあ、このファルサがそうはさせぬと思うが。・・・私が失われれば、吸血鬼治療の可能性がタムリエルから失われることになる。それは人間と吸血鬼、どちらにとっても不幸だとは思わないかね?」


アスヴァレンの次の言葉で、イェアメリス達は更に驚いた。


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「それで、吸血鬼にも協力させているわけだな」


彼は柱の影に立つ男を指し示すと、ファリオンに問いただした。今まで横で口をつぐんでいた者・・・ファルサに視線が集まる。目がやけに赤い、そして、口から覗いた一対の牙・・・


「吸血鬼?!」


「いかにも・・・だが正確ではない。彼は純粋な吸血鬼とは違が・・・まあ、素性はいい、協力者だ」


「でも、吸血鬼がいるなんて!」


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「なにがおかしい? 吸血鬼の治療を研究するのなら、人間だけで行う方が変だろう? それに大丈夫だ、ヤツは紳士だ。襲ったりはせん」


レッドガードが言っていることはたしかに間違ってはいない。しかし生理的には到底受け入れられるものではなかった。ファリオンは彼女たちに対して敵意も悪意もない。ヨキアムやエランディルの様な、「研究者」なのだ。彼らにとって人や吸血鬼は研究対象。そう思うしかなかった。


彼女たちは黙っていた。吸血鬼の協力者が怖かったというわけではない。ただ何と返して良いか分からなかったのだ。そんな気まずい沈黙を打ち破るように、アスヴァレンが足下の祭壇を指差して話題を変えた。


「一つ腑におちん。いまの話とこのサークルがどう関係するのだ?」


「ああ、その話はまだだったな。オレはこれを"星の輪"と呼んでいる・・・いつの時代の、どういった存在が残したものか分からぬが、このサークルには特別な作用がありそうなのだ」


「ほう・・・」


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「この"星の輪"の周辺では、魂と魄の分離がなぜか上手くいくのだ。ここでなら、吸血鬼に再び純粋な魄を流し込んで、人間の生を与えられるかもしれない。大学を辞めたあと一度ハンマーフェルに戻ろうと旅しているとき、グレンモリルという魔術結社と巡り会いしばらく厄介になって、魔女達の蔵書の中にこの場所についての言及を見つけたのだ。そしてこの沼地にやってきて、祭壇を見つけたというわけだ。霊魂を司る伝説上のデイドラ、アイディール・マスターの存在と関係があるのかも知れないな」


「興味深い話だ・・・」


「あたしも一つ質問があるわ」
ヴィオレッタが続いた。


「ん? 踊り子か。いいぞ」


「到底理解できない話だったけど、大事なことだってのは分かる。でもこんな話をしてしまっていいの? あたし達がどのような者か分からないでしょ? ・・・何のメリットがあるの?」


彼女の疑問も尤もだ、頷くとファリオンは説明した。


「ウィンターホールドの大崩落以降、ノルドは特に魔法を良く思っていない。俺はモーサルに住んでいるが、迫害寸前の扱いだ。モーサルの人々は真実を尋ねるより、他人について忌まわしい物語を作り上げる方が好きなんだ」
彼は遠くに見える街の城壁を顎で示した。「俺とこのファルサが防波堤となり、海から侵入を試みる吸血鬼から街を守っていることも知らんくせにな。本当に危険なのはオレ達ではない。この沼地のどこかに流れ着いた奴だ。奴は元戦士ギルドの訓練士だ。そしてこのファルサと同じように、吸血鬼狩りだった」


「モーサルは吸血鬼に狙われているの?」


「ああ、夢見でそれを予知したばあさんがオレ達を呼び寄せたんだ。モーサルは問題の多い場所でな。それを鎮めるのが俺とファルサの役目だ。知っているのは婆さん・・・イドグロッド首長だけで、他の住人からは鼻つまみ者扱いだ」


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「無知なまま私を恐れることを選ぶなら、それは仕方がない。だが、それでも真実は変わらない。・・・しかしオレ個人の人情としては、悪評ではなく、吸血鬼問題の対処に関する第一人者として知られたいと思う。それくらいは望んでも良いと思わんかね?」


「半分は成功してるじゃない。”吸血鬼を治療できるという唯一の医者”。そう噂は聞こえてきてるわ。・・・でも、あたしたちが役に立てるようには思えないわ」


「オレには今のところ大きな敵はいない。”元吸血鬼狩り”も居場所さえ分かれば大した問題ではない。すぐに片付けてやる。それより大事なのはいま取り組んでいる治療法だ。これは人間と吸血鬼どちらにもメリットがある。一番大きな敵は"不理解"からくる敵意だ。それを少しでも払拭したいのだ」


「ふぅん。面倒ね。こんな隠れるように実験してみたり、一方では名を広めたがったり。まあ、あたしには関係ないわ」


「それでいい。理解できないものを無理に分かったように考えるのは愚者のすることだ。オレは話好きだが、秘密を誰にでもぺらぺら喋るだけの馬鹿じゃあない。それにそんな即効性のある変化は望んでおらん。協力者・・・までは行かなくとも、最悪敵対しない人脈を少しずつ広げていければいいさ」


最後にファリオンはイェアメリスを見た。


「女錬金術師よ。お前さんは質問はいいのかね?」


「あるわ。なぜこうまでして。なにがあなたをそこまで駆り立てるの?」
イェアメリスが感じた疑問は、ヴィオレッタにも増して人間的なものであった。


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その言葉を聞くと、ファリオンは遠くを見る目になった。ソリチュードの方を向いているようにも見える。
「俺は道を踏み外したレッドガードのはぐれ者だといったな。これは贖罪でもあるのだ」


「言っている意味が・・・」


「わしには昔、好いた娘がおってな。共にウィンターホールドで学んだ同期なのだが・・・病を克服するために、吸血鬼の力を借りたのだ」


「・・・それって!」


「そう、俺は一人の娘を吸血鬼にした。レッドガードの教義に反したのは間違いだったのだ。アレン学長の言葉に耳を傾けるべきだったと後悔しているよ」


「そんなことが・・・」


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「嚙んだ奴は姿を消したが、ファルサの助けを得て始末した。がしかし、それは解決にならなかった。滅ぼされる前に彼女をずいぶんと”教育”したようなのだ、吸血鬼としての振る舞い方をな。魂を司るトゥワッカの教えに背いた罰なのかもしれぬ。・・・自分を縛る血の主を失った彼女は、狡猾にノルド社会の中枢に溶け込んで、高貴な立場を利用して人を供物に要求しているらしい。その娘は今もソリチュードに・・・俺には彼女を滅ぼすことはできない。しかしまだできることがあるうちは、試さねばならん。戻さねばならん。たとえ本人が望んでいなくても」


興味なさそうだったヴィオレッタが、乗り出してきた。


「なんだい、そういうこと。女のためなんて、いいじゃない」


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「つまらない理由でがっかりしたか?」


イェアメリスは首をぶんぶん振った。
「いいえ。あなたがただの狂った研究者じゃないことが分かって逆に良かったわ」
ヴィオレッタも同意する。
「あんたみたいなのは好きよ。変にお高くとまった魔術師より、全然いいじゃない」


レッドガードの魔術師は二人の女性の視線を避けるように、相棒のファルサを見た。すると吸血鬼は初めて口を開いた。


「ファリオン、そろそろ被験者がやってくる時間だ・・・」


「おお、そうか」頷くと三人に振り返る。「もうすぐ時間だが、実験を見ていくかね?」


「そ、それは止めておくわ・・・”実験”でなく”治療”になったときに、また機会があったら・・・」
イェアメリスは立ち上がると、スカートについた土を払い落とした。座ったままのアスヴァレンに催促する。


「どうしたの?」


「実験を見て・・・」


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「だーめーよ。帰るの。さ、焚き火に戻りましょ」
イェアメリスは半ば強引に連れを引っ張ると、不思議な祭壇と男たちに背を向けた。


焚き火に戻ってくると、女二人は並んで火を見つめていた。ほんの少し離れた祭壇、まるで夢の中の出来事かと錯覚するような内容だった。


「不思議なものね・・・」ヴィオレッタは感慨深げに息を吐き出した。
「たしかに、この沼を徘徊する死体はおぞましいものだけど、さっきの死霊術士たちはなんだか、あまり怖くないわ。吸血鬼・・・ね・・・。彼らにはどんな世界が見えているのかしら。想像もつかないわ」


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「ヴィオラさんにはどんな世界が見えているの?」


「そうね・・・今は灰色かしら」


彼女は答えとも独り言ともつかない物言いをすると、黙り込んでしまった。彼らを迎えたアーセランは黙って見張りを続けている。


見てきた物にしばらく興奮していたイェアメリスは、炎を見つめているうちに少しずつ気持ちが落ち着いてきて、仲間の見守る中眠りに落ちていった。




・・・




次の日、暗いうちから起きだしてきた彼女たちは、モーサルへの旅を再開した。途中、”星の輪”を通りかかったが、昨晩ここで見た物事を示す痕跡はなにも残っていなかった。ファリオンとファルサ、二人は朝になると姿を消していた。


日の昇る前から歩き始めた甲斐があって、城門が開くと同時に一行は町に滑り込んだ。朝日を浴びながら、夜の間に薄く積もった街路の雪を踏みしめて宿を探す。


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モーサルは第4紀になってからできた比較的新しい町で、元はソリチュードを中心とするハーフィンガルの一地方であった。内乱が始まるより前、ドーンスターとソリチュードの間には帝国軍の駐留地であるスノーホーク砦しかなく、交易の中継点や隊商の休憩地としての利便を提供するために、両ホールドの中間地点に整備された宿場町が起源だ。


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モーサルは小規模ながら港を有している。沼沢地を大規模に浚渫し、小型のボートであればカース川の河口デルタ、すなわちソリチュード港まで海路で行くことができる。内戦が始まるまではそうしたボートが頻繁に行き来していたのだが、最近では食い詰め者や脱走兵といった沼賊などのために河口デルタも安全ではなく、利用する者もめっきり減ってしまっていた。今は製材所と、沼沢地で産出するキノコや塩鉱石といった錬金素材が町の主な収入源だった。


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早朝のモーサルは閑散としていた。北側の門から入り、跳ね橋を渡った所にある宿に入ると、彼女たちは暖を取った。そして宿屋で朝食を摂った彼女たちは水を補充させてもらい、動くのが面倒にならないうちに慌ただしくまた出発することにしたのだった。


「首長はどうするつもりなんだろう?」


朝食を終えた時間、まだ朝は早い方だが、町の街路にはちらほらと人が出始めていた。通り抜けようとして南の門を目指していると、首長の館らしき前に人が集まっている。製材所の主らしき人物が別の男と一緒になって館の前に立つ戦士に突っかかっているのだ。


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「自分の家の中でさえなのに、どうやって安全だと思ったらいいんだ?」


「もう十分だ!」
戦士は男たちの陳情に耐えかねたかのように怒鳴った。
「イドグロッド首長にはお前たちの不安を話しておいた。彼女に任せておけ。今は、自分の仕事に戻ってろ」


「首長に伝えてくれ、我々にウィザードなど必要ない!」
製材所の主は鼻息荒くその場を後にした。


「モーサルは実際、問題だらけだな!」
もう一人の男もそれに続く。男は脇で一部始終を見ていたイェアメリス達に気付くと、通り際に警告を発した。


「よそ者か? 気をつけろよ。ここでは家の中でも安全とは言えない」


「家の中でって・・・」


男は怒りと悲しみの混ざったような顔で吐き捨てた。
「妻が攫われたんだ。もう何週間も戻ってこない」そう言うと男は物騒な顔をした。「きっとあのウィザードの野郎のせいだ。ファリオンが来てからこの街はおかしくなったんだ」


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「え、あ、あたし達は通り抜けるだけで・・・」


「ならいい。早いとここんな町出てっちまった方があんた達のためだ」
そう言うと男は足早に去って行く。


イェアメリスとヴィオレッタは顔を見合わせた。

何か口を開こうとして連れを見ると、長身の錬金術師はかぶりを振った。首を突っ込むなと言っているのだ。


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「分かってるわよ。でも・・・ファリオンさん。完全に誤解されてるわね」


話しながら歩き続けると、すぐに町の南門に着いた。塩鉱石を一次加工する炉が煙を上げている。霜の張った凍土を踏みしめながら、彼女たちは町を後にした。門の先はハイヤルマーチの山岳地帯だ。


ソリチュードよりも緯度は低いはずだが、内陸に入ったためか気温はもう一段低く感じられる。ヴィオレッタは宿屋で主人と交渉して手に入れた厚手の服に着替えていた。昨日の服のままではこれからの旅に耐えられなかったろう。


針葉樹の間から漏れる朝日を浴びながら、イェアメリスは大きく伸びをした。


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「アーセラン、あなたの手形、初めて役に立ったわね」


「だろ。ボーンアロウ商会はお客様の要望になんでもお答えします、って具合だ」


「ああ、あの邪悪そうな紋章の」


「失礼だな。あれはれっきとしたうちの家系の・・・」


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「はいはい。いいから進む進む」


道の雪は増えたが、沼の陰鬱な景色と代わって清々しい山と森が目に飛び込んでくる。一行の脚も自然と捗り、ほどなく別の街道に合流する地点に差し掛かった。行き先表示の道標が立っている。主街道への合流地点らしく、沢山の行き先が示されている。アルフレドは左右を見て現在位置を軽く確認すると、迷うことなく左に進路を取った。


「あれ、アルフさん? ホワイトランは右って書いてあるわよ」


看板を無視して進む傭兵にイェアメリスは首をかしげた。


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「ああ、馬車だと右に行くんだ。でも俺たちが行くのは左。山越えだよ」
彼らは、東西に走る街道を支えるように南側に広がる急な山肌を見上げた。その様子を見てアルフレドは補った。
「あ、山と言っても険しくはないから、安心していいぜ。ちゃんと越えられる峠があるんだ」


森林地帯をしばらく東に進むと、右手に古代の城壁が姿を現した。


「よし、ここからは枝街道に入って、あの城壁に向かって進むぞ」


アルフレドが先導しようとすると、ヴィオレッタが立ち止まった。


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「じゃ、あたしはここで」


「ホワイトランに行くんじゃないのか?」


「今向かっているのはホワイトランじゃないの。ここから先は一人で行くわ。同道してくれてありがとう」


「え、ヴィオラさん?」


「ここでお別れよ。・・・あっ、そうだ」
そう言って彼女は小さな指輪を取り出すと。イェアメリスに差し出した。


「これは?」


「ソリチュードでの戦利品よ。海賊亭で踊って得た駄賃のひとつ。なんかちょっとした付呪が施されているようだから、売ったらそれなりの金になると思うわ。マントのお礼よ。取っておいて」


「え、でも護衛したのはあたしじゃないわ。ねぇ・・・、アルフさん」


「いいよ。マント代って言ってるし、メリスちゃん取っておいたら?」


「ついでにこれもあげるわ。もう要らないし」
ヴィオレッタは荷物の中から服を取り出すと、エルフの娘に渡した。それが何かを理解するのに少し時間がかかり、分かると彼女は顔を赤くした。


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「これって・・・」


「そうよ、あの仕事着。あなたあたしに体型近いから着られるんじゃない? きっと似合うわよ」


「えっ、あのっ・・・」


抗議の間も与えず、現れたときと同じように、踊り子はあっさりと去って行ってしまった。


「良かったじゃん。これでアスヴァレンのダンナを誘惑できるな」


「んもぅ、やめてよ」


アーセランの茶化しに、彼女は顔を真っ赤にして拳を振り上げるのだった。




・・・




ヴィオレッタと別れた彼女たちは東に進んでいた。街道は雪に覆われていたが、その雪は下の石畳の輪郭が分かるほど踏み固められている。


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街道の先・・・ドーンスターは現在帝国軍とストームクロークが剣を交えている最前線だ。踏み固められたこの道は、帝国軍が通過した証であった。ウルフリックの右腕であるガルマル将軍が投入されてから、ドーンスターの戦いは激化していた。戦線を突破されれば近い将来、今彼女たちが立っているこの地も戦場になる可能性が高かった。


しかし今はときおり吹く風が木々から粉雪を吹き飛ばすぐらいで、旅の障害となるような物は何もない。晴れ渡った空に引きしまった空気、深い森。旅人たちを魅了する景色は静寂に包まれていた。


一人減って、出発したときと同じ四人になった一行は、だんだん近くなる古代の城壁を見ながら歩を進めていた。午前中いっぱい歩き通しだが、まだ音を上げる者はいない。


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街道脇の倒木を見つけると、アルフレドは小休止を宣言した。


「あまりに急だったから、ろくすっぽ挨拶もできなかったわ」
イェアメリスは荷物を下ろして一息ついた。アスヴァレンが来たのを見ると、腰掛けられるように少しお尻をずらす。


「あの女。言っていることの大半は嘘だったな」


「えっ?!」


ふと漏らしたアスヴァレンの感想に、三人はびっくりして、ヴィオレッタの消えた方角に目をやった。既に彼女は視界から消えており、その存在が幻でなかったことを示すのは、イェアメリスの受け取った衣装と指輪だけであった。


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「どうして分かるの?」


「癖だ。あの女は無意識の時に爪をいじる癖がある。いじってないときと言うのは、何か特別なことを気にしながら、慎重に喋っているときだ」


「考えすぎじゃない?」


「あの小屋も、入ろうとしていたのではなくて、きっと出てきたところだったんだろう。アーセランが入ろうとするのを、さりげなく妨害していた」


驚きを隠せないといった様子のアルフレドも寄ってきた。
「幽霊小屋に? でもなぜ俺たちに嘘をつく必要がある? なにを知られたくないんだ?」


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「だんな、小屋に戻ってみるかい? もしかしたらお宝が・・・」


「ここから戻るのは得策じゃないな」


「アルフの言う通りだ。俺たちには関係ない。深く関わる必要はない」


「でも、お宝でも隠してあるかも知れないぜ?」


「やめなさいよ」言いながら、イェアメリスはハッと気がついた。


(あたしの嘘や癖も、簡単に見破られちゃうのかしら。もしかして、もう・・・)


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自分の鼓動が耳の奥に聞こえてきて、おかしな振る舞いをしてしまいそうになる。彼女は一瞬言葉に詰まり、やっとのことで誤魔化しの台詞を口にした。
「あたしは幽霊小屋なんかに戻るのは絶対イヤですからね」


思い巡らすと、胸の辺りがカアッと熱くなり、酸っぱい胃液が逆流してくる。彼女はこっそりアスヴァレンの顔を盗み見た。


長身の錬金術師はイェアメリスが受け取った指輪を検分していた。


「・・・とはいえ、この指輪に何か有益な付呪がされているのは嘘ではなさそうだ。どこかの街で鑑定士に見せてみるのがいいだろう」
錬金術師の興味はもっぱら、付呪の指輪の方に向いていた。少なくとも今この瞬間は別の物に気が逸れていることを、彼女はキナレスに感謝した。
いったん胸を撫で下ろすと、彼女は努めて平静を装った。まだ早まった鼓動のまま、ややうわずった声で移動を促す。


「あたし達も行きましょ。アルフさん、次はどっち?」


「もういいのか? 今日はまだ長いぞ」


「ええ、大丈夫よ。行きましょ」


Civil War 4E201


ハイヤルマーチは、反乱軍と首都の間にある重要な緩衝地帯だ。
モーサルは静かだったが、近くのスノーホーク砦には帝国軍の大部隊が駐留している。短い休憩の間にも、何度か帝国軍の小隊とすれ違った。


「あれもウルフリックの追っ手なのかねぇ」


「どうだろうな。ソリチュードから一番近いストームクローク領はドーンスターだ。でも当然帝国もそれは分かっているから、あまり安全な逃走経路とは思えないな」


ハイヤルマーチとホワイトランの間には名もない山地が横たわっている。この山地はスカイリムを南北に分断していたが、抜けるルートは意外に豊富で、4つもあった。


ドラゴンブリッジとロリクステッドを結ぶ街道が一番西だ。街道も整備されており、馬車や隊商はこの道を使うことが多い。しかし現在はハイヤル川にかかった橋の近くに山賊団が陣取って"街道警備税"と称するものを取っている。二つ目はモーサルから南に向かって山を登り、途中コールドロック峠を抜ける小径。一部天然の洞窟を抜ける必要があり、馬車が通れないことからあまり利用されていない。そして三つ目が古代のノルドの都、ラビリンシアンの廃墟を抜ける道だ。同じく馬車は通れないが、峠としての起伏は一番少ない歩きやすい道だった。最後の一つは峠を全く通らない遠回りの道。ドーンスターまで抜けて、ヘリヤーケン方面からホワイトランの東に抜ける主街道ルートである。いまその先は戦地だ。
アルフレドは地図上で一番近くなる、ラビリンシアン越えのルートを選択していた。


「さっきから見えてた城壁が、ラビリンシアンの物だったんだな」
アーセランはそびえ立つ古代の城壁に目を奪われていた。


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「でもここって、ナターシャさんの言ってた、竜教団の本拠地よね。そんなところに近づいて大丈夫なの?」


アルフレドは一行を都の階段に誘いながら、簡単な説明を加えた。
「よく覚えてたね。そう、かつて竜司祭が治める古代ノルドの大都市があった場所なんだ」


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「でもなんか・・・ナターシャさんはもっと別の名前で呼んでたような・・・」


「ああ、古くはブロムジュナールって言うらしいな。でも今はただの遺跡だよ」
ラビリンシアンはメレシック後期に建設されたブロムジュナールという都市の別名である。竜教団が滅んだ後、第1紀の有名なアークメイジであるシャリドールが魔術師達の試験を行うための迷宮を作ったのにちなんで、そう呼ぶようになったらしい。その迷宮も閉鎖されて幾星霜。今は入り口も分からなくなっていた。


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「フロスト・トロールがたまにいるけど、集団には襲いかかってこないから、まとまって動けば大丈夫だよ」


「フロスト・トロール? ものすごい怪力の化け物だって聞いたことあるわ」


「ああ、ちゃんと避けて通るから、安心していいよ」


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つづら折りになった階段を進んで、やがて彼女たちは古の都の城壁の上に出た。テラスの上からは霧の立ちこめたモーサルの湿原だけでなく、その先のソリチュードやキルクリース山脈、それに亡霊の海まで一望することができる。


彼女たちは古代ノルド人がこの山間の峡谷に都を築いたことに共感できるような気がした。内陸であり、これから拡大すべき支配地である南への出発点、そして背後には遠く故郷の地アトモーラに続く亡霊の海を臨むことのできる絶好の場所なのだ。感情的な面だけでなく、防衛という現実面を見ても、ラビリンシアンは都を置くべき場所であった。


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アルフレドはフロスト・トロールの気配に注意しながら、雪に覆われた街路を進んで行く。ラビリンシアンの名前の由来になったシャリドールの迷宮ではないが、かつての大都市の街路は充分複雑で、迷路のように思われる。残りの三人ははぐれぬよう、その後をなぞるように着いて行った。


「あの塔の根元に一体トロールが居るから、反対側から回り込もう。声を立てないようにな」


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何度か白い巨体をやり過ごし、安全な区画に出ると、彼女たちは休憩することにした。壁と柱の間に入って風除けとすると、昼食を取る。


「アーセラン、どこに行くんだ?」
アルフレドは一行から離れてどこかに行こうとするボズマーを呼び止めた。


「ああ、用を足しに・・・。そこら辺の建物にいい場所ないか、ちょいと行ってくる」


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「あまり遠くに行くなよ。あの柱より向こうはトロールが出るからな」


「あいよ」




・・・




アーセランは用を足しながら、氷に覆われた円形のドームに興味を惹かれていた。都市の中央部、本来ならば道であるはずのど真ん中にその建物は建っている。建物とは言っても背は低く、ちょっとした避難所を想起させるような形であった。ちょっとくらいならいいだろう。そう考えると、彼はドームの中にふらふらと入っていった。


ドーム内は二重構造で、外側をぐるっと廊下が取り囲んでいる。廊下は外側と内側にそれぞれ大きな窓があるため、外の景色も中央の円形の部屋の様子も伺うことができる。形から言って礼拝所なのかも知れない。半周分進むと入り口があって、アーセランは自分の予想が当たったことを理解した。部屋の奥には円形の台座があり、竜の頭部を象ったと思われる祭壇がしつらえられていた。


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竜の頭部の両脇には人の胸像が生えている。祭壇は崩れかけており、石の彫刻や土器の壺、木の仮面などが散乱していた。


「中央の頭がドラゴンだとすると、左右のは竜司祭ってとこか?」


しかし、ボズマーの目を惹いたのは祭壇ではなかった。その祭壇に横たわる、白骨化した死体であった。


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「こいつは・・・」


肋骨の間にダガーが引っかかっている。おびただしい量の血は、乾いて地面に黒い染みを作っている。


何か手がかりのような物はないかと見回したアーセランはかがみ込むと、死体の脇に落ちていたメモを拾った。


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=*=*=*=*=*=


どうってことない仕事に思えた。グロズと私はこういった仕事を何度もしてきた。臆病なブレトンが山への旅に護衛を必要としている。大丈夫、我々にとっては容易い仕事だ。


当然のように、彼は2度も見捨てられた仮面のことを道中ずっと話し続けている。グロズが仮面をひったくり、顔にのっけたときは大笑いだった。このことでクビにされそうになった。だが、ここに一人でいるのは賢明ではない。彼はすぐにそれに気がつき、報酬を払わないとは言わなかった。


我々がここに着くと、彼は紙をめくりながら独り言をつぶやいた。私とグロズが彼をここに連れて来るためだけに臭いトロールを10匹も倒さなければならなかったことはどうでもいい。そして警告もせずに消えることも。彼は仮面をつけて消える。一瞬彼の喉に触れたのに、次の瞬間には薄い空気ほども存在しない。


しばらくして、我々は途方に暮れた。そしてグロズが家に戻ろうと荷物を拾い上げると、彼は仮面を手にパッと戻る。我々に留まるよう頼み、待ってもらいたいと言う。だから我々に金を払っているのだと。それから情けない顔に仮面をつけて再び消える。かつておなじような透明になるマントを見たことがあるが、私は拳を何度か振って、彼のはそれと違うことを確かめた。拳は空を切るだけだったからだ。


彼は再び姿を現し、もっと時間が必要だと言う。他の仮面のことを解明しなくてはならないとかで、再び消える。それは昨日のことだった。そして私は手を組んで親指をくるくるさせながら、自分への手紙を書き終える。日の出とともに出発するつもりだ。そして彼が再び現れたらダガーを彼の胸に突き刺し、アズラに誓って一ヶ所に留めておく。彼が死んでも生きて払う分より多くを奪えばいい。だが仮面はいらない。あの呪われた仮面はこのまま彼やここにいるトロールとともに朽ちることになる。


=*=*=*=*=*=


何者かがダンマーの護衛をつけてこの遺跡を調査しに来たが、裏切られて殺された。そう受け取れる内容がメモには記されていた。仲間割れか何かの結果、依頼主は命を落としたのだった。しかしここに書かれている仮面というのは何のことだろう?


アーセランは白骨死体の周辺をもう少しよく探ってみた。仮面はすぐに見つかった。崩れた祭壇の他の備品といっしょに無造作にうち捨てられている。


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「これか?」


彼は仮面をひっくり返して表裏を調べてみたが、特に不審なところはなかった。どこにでもありそうな、木彫りの仮面。彼は興味に駆られて、その仮面を顔に当ててて見た。視界が一瞬暗転する。びっくりして瞬きをすると、アーセランは見覚えのない場所に来ていた。


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「おわっ! ・・・ここは?!」


薄暗い円形の部屋。祭壇の奥には竜の頭部を象った像と、その左右に竜司祭の胸像が同じように並んでいる。竜司祭は全部で8体。この数に何の意味があるのかは分からないが、厳かな空気の漂う空間であった。


左右を見回してみるが、出口らしき物はない。窓にも格子がはめられており、出入りできないようになっていた。


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「消えたって言うのは、ここに移動したって事か」


死んだブレトンのメモに書いてあった事を思い出しながら、アーセランは部屋を観察した。いくつかの壺と宝箱があったが、中身は鉄くずや錬金素材など、彼にとっては価値のない物ばかりであった。部屋の反対側には書架があり、ここにはまだ書物が残されていた。雇いの悪漢達は、本などには興味を示さず、金目になりそうな物だけを持っていったに違いない。


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アーセランはいくつか本を手に取ってみたが、売り物になりそうな物はなかった。

その中に一冊に日記らしき物が混じっているのを見つけると、開いてみる。


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4E190 恵雨の月 12日


大学はだめだ。サイノッドもウィスパーズも権勢欲の固まりだ。この研究を私から取り上げるだろう。そう思ってウィンターホールドに所属したのだが、結局ここでも私は落胆していた。閉鎖的な環境では研究は進まない。どこかにもっと研究に打ち込める処は無いだろうか。ここまで来てハイロックまで戻るのはできればしたくない。


4E190 栽培の月 1日


ウィンターホールドの大学を出奔した私は、同業者の集まるフェルグロウ砦という場所の話を聞いた。あそこは大学に居られなくなった者や、野良の魔術師達が多く集っているという。そして私はその門を叩くことにした。


4E190 黄昏の月 22日


ウインドヘルムに立ち寄ったとき、東帝都社と競争関係にある、あたりの海運を取り仕切っているトールビョルンと言う商人と知り合った。そして彼から耳寄りな話を聞いた。沖合のジャフェット・フォリーという島に遺跡荒らしを得意とする海賊団が根付いているというのだ。金さえあれば、盗掘品を何でも売ってくれるらしい。興味を引かれた私は、嫌がる漁師に金を積んで、件の海賊の島に渡ることにした。


4E190 黄昏の月 24日


苦労してジャフェット・フォリーに渡った甲斐があった。
島を仕切っているハルディンという魔闘士は、獲物以外には寛大な男であるようだ。特に私のような、物を買いに来た者にとっては。そこそこ大金を払うことになったが、得られたものは大きかった。今はそう思いたい。
わたしが手に入れたのは2つ、木の仮面と、竜の爪を象った鍵だ。この鍵はソリチュードの沖合にある岩礁で入手したものだという。


4E190 星霜の月 15日


ジャフェット・フォリーから帰ってきた私は、しばらくフェルグロウ砦の自室に引きこもって調査を続けた。
その後の調べで、竜爪の鍵が見つかった岩礁は昔、孤島であったらしいことが分かった。ウィンターホールド大崩落の原因となった地震による海嘯はスカイリム北岸一帯を襲ったが、この孤島はその時沈み、岩礁だけが残ったらしい。そして孤島に古代のルドの寺院があったことまでは分かった。いずれかの王の墓らしい。竜爪の鍵はいま私の手の中にある。つまり、その寺院は私の所有物・・・王の宝も私のものというわけだ。海賊に払った金は何倍にもなって帰ってくるだろう。


海中に沈んだ寺院、探索の手段を検討する必要がある。


4E190 星霜の月 17日


仮面についての情報はない。竜司祭由来のものではありそうだが、正直、私はこの仮面の方には期待していない。
被ると常命の者の領域から少しずれたところに転送される。オブリビオンではない、もっとこの世界に近い、半分重なった魔術的な領域だ。魔術的には"位相がずれた場所"というのが正しい表現かも知れない。簡単に言うと、外から見ている者には姿が見えなくなる。それだけだ。
同じ効果なら透明化の薬でも事足りる。やはり寺院の調査を優先すべきだろう。


4E191 薄明の月 3日


素晴らしい発見だ。4紀185年、ハンマーフェルがアルドメリを降してから5年の間、タムリエルには大したニュースもなかったが、今日この日は歴史に残る記念すべき日になるに違いない。ブロムジュナールの最奥聖域を見つけたのだ!


私は仮面を軽視していたのだが、それは大きな間違いだったようだ。ラビリンシアンを訪れたとき、吹雪に巻き込まれて退避したドームの中で余りの寒さに顔を覆うものが欲しくなった私は、この仮面をフェイスマスクの代用とした。いつも通り半歩ずれた世界に出た私は、そこにとんでもないものを見つけたのだ。
このドームの位相がずれた場所に、古代の竜司祭たちの聖域を発見したのだ。これこそ、存在が示唆されながら誰も見つけることの叶わなかったブロムジュナールの最奥聖域に違いない!


遺跡バカのトルフディルめ、勝ったのは結局私だ。
早く探索したいが、この季節のラビリンシアンはあまりに吹雪が酷い。夏になるまで待つ必要があるだろう


4E191 南中の月 5日


いよいよだ。夏になると私は仮面を手にし、再びハイヤルマーチの山中に向かった。
ブロムジュナール最奥聖域の本格的な調査を行うためだ。


4E190 恵雨の月 25日


護衛の選択を誤ったかも知れない。あの男たち、難なくフロスト・トロールを片付けていく事を見ても腕は確かなのだが、いまいち信用ができない。やはりダンマーは危険だ。グロズは私の仮面を一度被りさえした。気をつけなくては・・・


4E190 恵雨の月 28日


調査にはもう少し時間が必要だ。しかし一度仕切り直した方がいいかもしれない。
昨日、決定的な亀裂が護衛達との間に生じてしまった。いまこうして仮面を被り、彼らの手の届かないところに居るが、いつまでもここで生きることはできない。奴らの隙をついて、表の世界に帰らなければ!


=*=*=*=*=*=


日記はここで途切れていた。
その後の彼の運命は、先ほど見てきたとおりだった。


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アーセランはブレトンの魔術師の日記をしまうと、仮面を外す。


「王の墓か・・・」


呟くと、彼は仲間の元に戻っていった。




・・・




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「ん? あいつはどこに行ったんだ?」


「トイレですって。そろそろ戻ってくるんじゃないかしら? あ、来た」


アーセランが戻ってきたのを確認したアルフレドは、腰を上げると南を指さした。


「あとちょっとだ。ここを抜ければホワイトラン領に出る。下り道は足元が悪いから、夕方までに峠を越えよう」


ラビリンシアンは北側に向かって扇型に広がる、銀杏の葉のような形をした都市だった。彼女たちはその銀杏の葉の付け根の方に向かって街路を歩いて行く。次第に石畳はかすれ始め、雑草に覆われた心許ない道に変わっていった。左右の山が切り立って迫り、谷底を歩いているような気分にさせられる。古代ノルドのアーチを何本も潜り、一時間以上歩いて道はようやく下り坂に変わった。


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もう足下の石畳・・・道は完全に消えている。迫っていた崖も少しずつ左右に広がり始め、逆三角形に開けた視界には南の空が広がっていた。


「ここら辺はもう雪はないのだな」


珍しくアスヴァレンが口を開く。言われて地面を見てみると、先ほどまでの雪や霜は姿を消しており、峠は下草に覆われていた。


スカイリムはツンドラ帯に属しているが、同じツンドラでもこの山地を境に気候は大きく変化する。彼らが歩いてきた山地の北側、ハーフィンガル、モーサルに加え、ドーンスター北部、ウィンターホールドは夏でも降雪があり、永久凍土に覆われていて耕作には向いていない。逆にホワイトランに代表される南側に位置するホールドでは雪解けがあり、農業も盛んであった。彼らが向かっているリフト地方は雪も降るが、むしろ気候は温暖なシロディールに近い。


「すごい都だったわね」
今まで歩いてきた道を振り返って、もう遠くになったノルドのアーチを眺めながらイェアメリスは呟いた。「古の都市って言っても、下手すると今の都市よりも規模大きいんじゃないかしら」


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「そうだな、竜司祭たちの振るった権力の大きさがうかがい知れるな」


「どんな人たちだったんでしょうね・・・物知りな傭兵さんは何か知らない?」


「ん、俺に聞いてる?」アルフレドは脚を止めて振り返った。
「ドラゴンプリーストについては、あまり詳しい記録は残されていないんだ。強大な魔力を持ち、ドラゴンに与えられた仮面を身に着けていたってことぐらいで・・・」


「んがっ! ・・・仮面?!」
脇でアーセランが喉に何か突っかかったような声を出した。


「どうした、アーセラン?」


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「え、あ、ああ。いた、なんでもない。根っこに躓いただけだよ」


あわてて取り繕ったアーセランは、布にくるんで小脇に抱えていた包みを懐の中に突っ込んだ。ファーラン沖での事を思い出すと、背嚢には大事な荷物は入れておけない。木の仮面は、肌身離さず持っていた方が良さそうだ。


「言われた通り、フロスト・トロールもいたけど、アルフさんのお陰でやり過ごすこともできたわ。やっぱり慣れている人がいると安心」


「それでも緊張はするんだぜ。モーサル周辺はいつもあんなだから、余程急いでないときには選択しない道なんだ。それだけ大事な仕事なんだろ、今度の仕事は」


「ええ、まぁ・・・」
彼女はあいまいに返事を返した。自分の命がかかっているとか、口が裂けても言えるわけない。


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「それにしても人使いが荒いんだなぁ、東帝都社ってのは」


彼女はこれ以上追及されないように、無理やり話題を変えた。


「こっ、この辺りは随分と地面もしっかりとしているのね。沼地と違って歩きやすいわ」わざとらしく、足取り軽くステップして見せる。


「モーサルの沼は、お世辞にも女性を案内するような・・・あまり気分のいいところじゃないよな。あんなところで一泊させちゃったけど、メリスちゃん大丈夫だった?」


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イェアメリスはアスヴァレンと顔を見合わせた。
「え、ええ。ゾンビには最初驚いたけど、焚き火もあったし平気だったわ」
魔術師ファリオンと吸血鬼ファルサのことをアルフレド達は知らない。こちらの話もあまり深く続けないほうがよさそうだ。


歯切れが悪いが仕方がない。どう会話を中断させようか悩んでいると、当の話相手の傭兵のほうから話題を変えてくれた。


「良かった。さあ、メリスちゃんもアスヴァレンさんも、アーセランも見てくれ。ここからの景色がまたいいんだ。ホワイトランを一望できるんだぜ」


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なだらかな高原をくだり続け、一行はついに高原の端までやってきた。アルフレドは降り斜面に突き出す岩棚に昇って、仲間を手招きした。


「日が暮れる前にここまで来られて良かった。見えるか? この下に見える広大な平原一帯がホワイトランだ。正面手前に見えるのがブリトルシンの山並み、奥に見えるのがジェラール山脈。スカイリム南の国境だ」


「アルフのダンナ、あっちの高い山はなんだい? そう、ちょっと左の方に見えるやつ」


「あれか? 世界のノド、タムリエルで一番高い山だ」


「おお、ヴァレンウッドでも聞いたことあるぜ。有名な山だよな。・・・でも、一番高いのはレッドマウンテンじゃなかったっけ?」


「オレも詳しいわけじゃないが、世界のノドの方が高いらしい」


「あれだけ高いと、裾野も広いんだろうな。世界のノドもホワイトランになるわけ?」


「ああ、山頂手前にはハイフロスガーという、ノルドの賢者達が修行している寺院があるんだ。そこも含めてホワイトランの領域さ。メリスちゃんの目的地であるリフト地方は、ここからだとちょうど世界のノドを越えた反対側になるな」


「ダンナの住んでる街はどれなんだい、見えるんだろ?」


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「あそこの小高い丘の上に城が建ってるのが見えるか?」アルフレドは遠くにかすむ丘と城壁を指差した。「あそこがドラゴンズリーチ。ホワイトラン・ホールドの中心地。俺は城下町に住んでるんだ」


「家持ちか、いいねだんな」


「いや、まだだよ。ブリーズホームっていう売り出し中の物件があるから、それを手に入れようと稼いでいるわけさ」


「なるほどな、ウルフスカル洞窟の調査や俺たちの護衛も、その足しになるってぇわけだな」


「そういうこと。ありがとな、雇ってくれて」


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「ねぇ、誰と住むの? いい人いるんでしょ?」


「そんなこと・・・!」アルフレドはあわてたが顔が語っていた。


アーセランがしみじみとうなづく。


「嫁さん探すのも悪くねェな。それより・・・オレっちも早いところがっつり稼いで、一旗揚げねぇとな」


「あたしなんかに構っていても、大して稼げないわよ」


「そうなんだよなぁ・・・メリスちゃん東帝都社の社員だから、くっついてったら旨い汁吸えると思ったんだが、外れだ」


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「外れって、ちょっ、あなた。人をなんだと思ってるの」


「もっとデカい商売してるのかと思ったけど、使いっ走りだもんな」


「余計なお世話よ。あなたも少しは自分で働くことを考えたら?」


「お前たち、ホント飽きないな。ほら、せっかくの景色だ。アスヴァレンさん見てみろ、ああやって堪能しないのは勿体ないぜ」アルフレドに言われて横を見ると、長身の錬金術師は岩に腰掛けて酒の壺を開けていた。荷物の中に忍ばせていたスジャンマだ。


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「あっきれた・・・、どこに隠し持ってたのよ」


「お前もやるか?」


傭兵が微妙な顔をして、アーセランを見た。
「メリスちゃんは・・・、ほら、まだ先あるし・・・」
「そだな、酒乱はダメだ。前科ありだもんな」


(むぐっ・・・)


そんなやり取りをしながら一行は、本日最後になるであろう小休止を取った。正直スカイリムには雪しかないと思っていたイェアメリスだったが、その変化に富んだ地形に魅了されつつあった。午後の遅い時間、彼女たちはしばらく岩棚から動かず、眼下に広がるホワイトランの雄大な景色を満喫したのだった。


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晩秋の日照時間は短い。日没はまだであったが、思ったよりも太陽は低い軌道を巡っている。

休憩を終えると彼女たちは岩棚を後にして、夕日を追いかけるように斜面を降り始めた。


2-8 Route End


降霜の月の11日、イェアメリスはホワイトランの領土に足を踏み入れた。


目的とするサレシ農場はまだ遙かな先だ。



(第9話につづく・・・)



※使用mod


・bolo-follower-falsa ver.2
 お世話になっているボーロさんちから、また1キャラお借りしてきました。
 セリフが一行しかありませんが、存在感たっぷりですヾ(๑╹◡╹)ノ"


・Hjaalmarch Redux( Nexus 30734 )
 モーサル湿原の樹木と雪を減らして、湿原っぽくするmodです。


・Enhanced Landscapes( Nexus 68782 )
 スカイリム全体の景観を改善するmod
 モーサルに巨大キノコが生えます(一例です)


・Distinct Skyrim Landscapes( Nexus 77722 )
 スカイリム全体の景観を、各ホールドの特徴に合わせて変更します
 モーサル周辺にノルドの遺跡が追加されます(一例です)


・Realistic Water Two( Nexus 41076 )
 うちの環境では水はこのmodでオーバーホールしています


・Campfire - Complete Camping System( Nexus 64798 )
 有名なキャンプに関するオーバーホールmod
 ゲームプレイでは普通に使っていますが、撮影時にも焚き火やテントでとても重宝しています
 イェアメリスのキナレスの飾り付きバックパックもこのmodです^^



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