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4E201

TES大好き、もきゅがスカイリムの物語をお届けします

◆Chapter 2-6: 騙し合い

2017
25

ソリチュードの城門前広場。広場を囲む宿や商店、建物裏の薄暗い一角にその入口はあった。地下の下水道、ドール城の牢屋、アンダーワークと呼ばれる地下街、上品な上層街とはまた違った世界への口だ。二人の鍛冶見習いはその入口前に立っている。


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ブラッキーは昨日自分がジャリー・ラに教わったばかりの地下道入り口に、今度はケイドを連れてきていた。

ワクワクしながら屋根伝いに建物裏にやってきた青年は、入り口の薄汚れた蓋を見て、文句をこぼす。


「こんな薄汚れたところに入っていくわけ? 折角の冒険の出だしにしてはちょっと塩っぱい感じだね」


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「イヤならいいんだよ。ボクはその方が助かるけど、はっきり言って綺麗好きにはこういうの向かないよ」


「うわ、意地悪しないでさ」


昨日と同じように、しかし今日は少女が案内する側に回って地下道を進む。落書き程度だが、何とか道順を綴った地図も作った。迷った時には威力を発揮してくれるだろう。


二人は地下に降りると、最初の部屋から細い通路の階段を上っていく。ちょっと進むと、捕虜が尋問されていたドール城地下牢の裏手に出た。今日は尋問は休みなのか、うめき声だけが断続的に響いていた。


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ブラッキーは、一歩間違えば自分が放り込まれていた牢獄から一秒でも早く遠ざかりたかったが、地下道にはじめて降りたケイドは興味津々で、壁の崩れた穴から牢屋の区画を覗き込んだまま動こうとしない。


「ねぇ、いいかげん先に進むよ」


彼女は放っておいたら何時までもここに居そうなケイドを、無理矢理引っぺがさなければならなかった。


「ほら、寄り道食ってないで」


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「いいじゃないか、ちょっとぐらい見学したって」


「見学って、お前なぁ・・・もう十分見ただろ」


こんな様子で大丈夫だろうか・・・先が思いやられながら、彼女は次の区画に足を踏み入れる。地下牢の脇をすり抜け下水道に入ると、昨日と同じ場所に同じように闇商人が座っていた。


「よう、また来たな」


「地上は戒厳令で歩けないからね」


「まったくだ。だからといって誰でも彼でも連れてくるんじゃないぞ」


「うん。通り抜けるだけで誰にも迷惑かけないよ。それにこいつはボクの弟さ」


「ずいぶんでかい弟だな」


「うん。同じ物食ってるのにね。・・・そう言えば今日はジャリーは来てないの?」
ここでハチ合わせてしまっては都合が悪い。彼女は闇商人にカマを掛けてみた。


「ジャリー? あいつは来てないな」


「伝言があるんだけど・・・どこにいそうか分からない?」


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闇商人は胡散臭そうに二人をみた。
(やばっ・・・踏み込み過ぎたかな・・・)
「あっ、通りかかったら伝えてくれるだけでいいんだ」
詮索し過ぎないのがここ、裏世界のルールであることを感じ取ると、彼女は慌てて付け加えた。


「頼まれてた仕事、遅れるかもしれない。ビィがそう言ってたって伝えてもらっていい?」


「いいぜ、通りかかったらな。で、その伝言はいくらだ?」
闇商人は手を出した。駄賃を取ろうというのだ。


「じゃあ、おっちゃんのロックピックを買うよ。12本ほど貰える?」


「1本1セプティムでいいぞ」


「え~、高い。10セプティムに負けてよ」


「しゃーないな。初回特典だぞ」
ブラッキーは詮索が続くのを封じるために、話題を変えて闇商人からロックピックを購入すると、脇に立つケイドが何か言いださないうちにそそくさとその場を立ち去った。


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「ねぇ、ビィって誰さ」


「ボクのことだよ。ブリジット・タン・アマーニィ・・・裏世界ではそう名乗ってるんだ」


「へぇ、カッコイイ! 俺も何か考えようかな」


鍛冶屋の息子の能天気な反応に少し苛っとしたが、ここまで来てしまったものは仕方がない。半分あきらめの表情で彼女は引率を続けた。


ブラッキーに連れられながら、ケイドの目はしっかり見開かれ、せわしなく動きまわっていた。即席の弟分は姉の心配をよそに、自分たちの住む街の下に広がるもう一つの世界、上層街で上品に生活していたら知ることもなかったであろう場所に立つ実感を満喫しているのだった。


「そういえばケイド、上級王の話だけど・・・どうして暗殺っていう人と、決闘って言う人がいるのかな?」


一本道の水道部分は迷うことはない。少し余裕が出てきてブラッキーは聞いた。


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「帝国寄りの人は暗殺とか殺害、ノルド寄りの人は決闘、そんな感じで別れてるんだ」
ケイドはそう説明した。帝国法かノルド古来の慣習法か、2つの法律の大半は矛盾しないが、細かいところではこの決闘の様に矛盾があり、どちらを信奉するかでたまに諍いがあった。
「争い事を解決するために決闘という手段は今でもよく使われているんだ。貴族同士の名誉に問題が生まれると戦いになって人が多く死ぬからね。ノルドは特に血の気が多いから、制度としての決闘がないと今頃滅んでいたんじゃないかな」


「オークも族長候補が複数いたときには決闘するなぁ」


「そう、基本的にはそれと同じだよ。対立する双方に正当性があるとき、力で解決するのは悪くないと僕は思う。尤も、4紀に入って帝国法で禁じられちゃったんだけどね。帝国寄りの場合決闘は違法、だから暗殺って言うのさ」


「ふ~ん」ブラッキーは弟分を少し見直した。「お前、冒険や鍛冶よりも学者が向いているんじゃないの?」


「よしてくれよ。さ、行こ行こ!」


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二人は更に下水道を進む。複数の水路が交わった先には巨大トンネル・・・コロアカ・マキシマがあった。


「たしか・・・こっちだったかな」


貯水池の端には女が一人立っている。


少し開けたところにはならず者の男が火を焚いており、テーブルや椅子も並んでいる。夫婦のようにも見える二人はここで生活しているのであった。


この巨大トンネルは人通りも多いはずだ。

彼らから見たらブラッキー達も、その他大勢の通行人の一人にすぎなかいようで、目の前を通り過ぎるいびつな姉弟に大した関心は払われなかった。


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「ブラッキー、あれ見て!」


ケイドはトンネルから伸びる通路の上を指さしていた。まるで行き先を示すように、もしくは領域を主張するかのように、見慣れたソリチュードの紋章、狼を描いた盾がかけてあった。


代わりに答えたのは、焚火番をしているならず者だった。
「ああ、それか? 俺が住み着いた頃にはもうあったんだ。もしかしたら、ここは昔、ソリチュードの街の一部だったのかも知れないな」


「ソリチュードは第1紀からある街らしいし、最初から狼の紋章をシンボルとしていたらしいから、昔の王朝の遺跡かもね。かかっている盾のデザイン、今のじゃないもんね」


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「坊主の言う通りかも知れねぇな。この下水道と、アンダーワーク以外にもこのあたりには洞窟が多い。知られていない地下街がまだあるかも知れねぇぜ」


ケイドは目を輝かせて、ならず者の話にうなずいている。


「やっぱりお前、学者に・・・」


「スカイリムでは学者だって冒険できなきゃ務まらないからね。で、ブラッキー、次はどっち?」


「こっちだ。ホラ、行くよ!」


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見るものすべてが目新しい。昨日の自分と同じ反応を示すケイドに、自分もこんな様子だったのだろうかと、彼女は少し恥ずかしくなった。先ほどの牢屋裏と同じように、なかなか立ち去ろうとしないケイドをやっとのことでコロアカ・マキシマから連れ出したのだった。


二人はその後、続く地下運河のカナルワークスから、水に入った。


「こっからは泳いでいくよ。ケイド、お前泳げる?」


「もちろん。ソリチュードは海辺の街だからね。でも、これ下水なんだろ?」
顔を近づけて匂いをかいでいる。「なんかちょっと臭いや・・・」
カナルワークスはキルクリース山の雪解け水を河口に逃がすための川がたまたま地下を通ったといったもので、そこにソリチュードの上層街の生活排水を流しこんでいた。
ブラッキーは意味ありげにケイドを見た。「どうせ後で身体洗うことになるから、気にするだけ時間の無駄だって」


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訳も分からないケイドがゴネ始める前に水の中に追いやると、彼女は先導して昨日知ったばかりの排水溝目指して泳ぎ始めた。昨日と同じ道を違わずに辿る。出口の柵が見えてきたとき、彼女は内心胸を撫で下ろしていた。


「わぁ・・・こんな所に出るとはね!」


これまた寸分違わぬ言葉を発して感心する弟分を見て、ブラッキーは昨日の自分を見ているようで恥ずかしくなった。ドック横の岩棚から見える港の様子は昨日と変わらない。臨検が終わったからと言って出港が許可されるわけではない。港自体が閉鎖されているからで、あちこちの船の上には暇を持て余した船員たちの姿が見られた。


港湾地区は街道の通行は制限されているものの、町中を出歩くこと自体は禁じられていない。すべて禁止してしまうとソリチュードの経済活動そのものが停止してしまう。戒厳令もそんなに長続きはしないだろうというのがケイドの感想だった。
二人は街道を可能な限り北に進み、検問の兵に見つからないあたりで再び海辺に出た。岩棚に立って海面を指差す。


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「さぁ、下水を洗い流す時間が来たよ」


「え、ブラッキー。どういうこと?」


「ここからもう一度泳ぐってことさ。心臓止るほど冷たいから、気を引き締めてくよ!」
街道は途中で封鎖されており、灯台までたどり着けない。それは昨日既に試していた。ブラッキーは少し無謀とも思えたが、海を泳いでいくことによって、検問場所を迂回するつもりだった。




・・・




「う~寒い。こんな時期に寒中水泳をやらされる羽目になるとは思っていなかったよ」


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ケイドは波が顔にかからないように、少し脚に力を込めながら愚痴った。検問場所からかなり進んだ先、灯台までは目と鼻の先に当たる入り江に二人は浮かんでいた。


「綺麗になったろ?」


「散々だよ」


「そりゃそうさ。冒険なんて華々しく楽しいことばかりじゃないよ。むしろその逆の方が多いんだから」


「姉さんが言うと説得力あるなぁ」


入り江には一隻の船が停泊している。戒厳令と臨検の話を聞いて入港を渋っているのか、それとも元々ここが停泊地なのか。分からないが近寄らないに越したことはない。


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「なになに・・・麗しの(ディンティ)・スロード号だって? 趣味悪いなぁ。海賊じゃないの?」ケイドは遠目に船名のプレートを読み取って、気味悪そうにステンダールのまじないを切った。


「スロードって?」


「ナメクジ人さ。サマーセットとダガーフォールの西の海に浮かぶ、スラス諸島に住んでいるんだ」


「お前って、ホント物知りだねぇ。やっぱり学者に・・・」


「ボクは冒険がしたいんだ」ケイドはムキになって言った。「・・・でもさブラッキー、何で灯台に行くの? 伝言は、むしろ伝えたらまずいんだろ?」


「う~ん・・・そうだよね。伝えたらあいつらの作戦を手伝うことになっちゃうから・・・。ま、・・・行きながら考えよう」


「僕らで、そこにいるっていう海賊の仲間を何とかしちゃう?」
ケイドはワクワクが隠せないようだ。


「馬鹿言わないの。何人いるかも、どんな奴かもわからないのに、無謀だって。っていうか、そもそもお前戦えるの?」


「そんなの、やってみないと分からないよ」
きっと武器を人に向けたこともないに違いない。ケイドの返す脳天気な返事を聞きながら、彼女はため息をついた。


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船を迂回して先に進むと、灯台が姿を現す。その奥には、誰にも使われていない崩れかけの桟橋が、船からも灯台からも近い岩陰に横たわっている。二人はそこから上陸することにした。


「やっぱり、この季節に泳ぐってのはいい考えじゃなかったかも・・・」
ブラッキーはシャツを絞りながら身体をこすった。
「それにしても・・・ちょっとこれはまずい・・・何とかしないと凍えて死にそうだよ」


陸に上がると風に晒されるため、急激に体温が奪われてゆく。海の中の方がむしろ暖かかったかもしれない。


「歓迎されないかも知れないけど、早いとこ灯台に入った方がいいね」
ケイドもガチガチ震えながら、入り江の向こうの灯台へ、最後の坂を進み始めた。


「あれ? ブラッキー、ちょっと見てよ!」


「今度は何?」


「すぐ脇に洞窟があるよ」


彼の見つけた入り口は海面からかなり高いところにある。この高さなら満潮になってもほんの少し水をかぶるぐらいの位置だ。「ここで先に身体乾かさない? 火が焚けるかは分からないけど、少なくとも風は遮られてる。灯台に行っても手荒な歓迎が待ってるかも知れないんだろ」


「たしかに・・・お前の言う通りだね・・・」


ブラッキーは入り口の脇に置かれている樽に目を留めた。よく見ると足下の岩場はかなり磨り減っている。大勢の人間が定常的に出入りしていなければこうはならない。一見何事もない自然の洞窟入り口に見えるが、これだけ灯台に近ければ誰も気がつかないなどと言うことはあり得ない。この洞窟は死んでいない・・・今も使われている。
明らかに人工的な臭いがプンプンした。


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「なんか人がいっぱい居そうな気がするけど、まあ、こんな灯台のそばに海賊団なんかいないか」


「居たらとっくに問題になってるよ。行ってみよう」


「そう・・・だね。灯台は逃げないか」


ブラッキーは自分に言い聞かせるように、しかし警戒して手斧を握りしめると、洞窟に足を踏み入れた。ケイドもそれに倣って短剣を抜く。


「音立てないように気をつけて」


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内部に足を踏み入れてほどなく、二人は緊張を解いた。人気のない海岸沿いの洞窟。最悪、海賊団の根城に飛び込んでしまうというような状況まで想像していたのだが、洞窟の中は想像とはかなり違っていた。


まず二人は大きい焚火に出迎えられた。火に当たっていた人足風の男が振り向いたが、騒ぎにはならなかった。代わりに無言の観察の視線に晒される。二人は武器を抜いたままだったことを思い出し、気恥ずかしくなって、あわててしまった。


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満潮の時には水路が接続されるのか、洞窟内部の中央は潮だまりになっており、荷物の運搬のためかボートが係留されていた。何かの倉庫か物資の集積場だろうか、内部はかなり広く荷車まである。よく見ると焚火のまわり以外にもあちこちに人がおり、物資を移動させる作業に従事しているようであった。彼らは、洞窟に入ってきた二人に対して、よくある光景とでも言うように、ただただ無関心であった。


咎められるでも、話しかけられるのでもなく、男は火に当たりながら無言で休憩している。二人の侵入者はそこに混じって、焚火を遠巻きにして身体を温めることにした。


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人心地ついた頃、ケイドがぽつりと口を開く。


「ここがアンダーワークっていうところかな?」


「かもしれないね。もっと奥があるみたいだ。そろそろ行ってみようか」


潮だまりの区画を越えると、二人は再び驚かされた。岩壁に開けられた穴の先には、同じぐらいの空間が広がっている。木箱や樽が大量に並んでいるのだ。さらに棚や柵で区画が分けられており、一大集積所の様相を呈していた。数日の港めぐりで貨物の荷揚げや運搬について多少は知識を着けていたブラッキーだったが、このような場所のことはついぞ聞いたことがなかった。


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「すごいね、何かの倉庫かな? ケイド、お前知ってる?」


ぶんぶんと首を振る鍛冶屋の息子も、と姉と同じように驚きの表情を浮かべていた。


「あれ見て!」


ケイドがブラッキーの袖を引っ張る。彼が指し示した先には剣や兜と言った帝国軍の装備が蓄えられている。とても帝国軍の拠点には思えない場所だが、密輸品であろうか? 別の一角には東帝都社の印の付いた箱が詰まれている。
オークの戦士らしきものが地面にラグをひいて商売をしている。どこから入手したのか分からないような剣や斧だ。様子を見守る彼女たちの脇を通り過ぎて、そこに冒険者風の男が近づいてゆく。冒険者は番をしている男と会話を始めた。


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「剣が欲しいんだが・・・帝国軍のヤツ、あるか?」


「おう、60セプティムだ」


「見せてくれ」男は渡された剣を何度かひっくり返すと、すぐにそれを返した。「だめだ、こんなんじゃ。ブラックマーシュのがらくたじゃ無くて、ちゃんとスカイリムの鍛冶が仕上げたやつは無いのか?」


オークの店番はその文句を気にするでも無く、別の箱から別の剣を取り出して見せた。明らかに光が違う。「これならどうだ、値はちょっと張るがね。エリクールの輸入してくる粗悪品と違って、我らのお膝元、ソリチュードの鍛冶が打った一本だ」


冒険者は今度は満足したようだ。小銭の詰まった袋を投げて寄越すと、オークは金貨を数え始める。よく見ると、洞窟のあちこちで同じような売買の光景が見られる。それだけでなく、洞窟内にしつらえられたテーブルとカウンターまである。この洞窟に商売に来る者達を当て込んで、酒場が堂々と営業しているのだ。


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「最初からこっちに来れば良かったね」


「うん、まあ・・・中がこうなってるなんて想像もしなかったから・・・」
身体を温めるのにもちょうどいい。ブラッキーは、格好の情報収集だとばかりに、酒場に紛れ込むことにした。


「おっちゃん、エールちょうだい。二人分ね」


郷に入りてはと、二人はテーブルに就き、薄いエールを飲みながらしばらく他の客達の話す内容に耳を傾けた。


どうやらここはブラインウォーターと言う洞窟らしい。アンダーワークはソリチュードの地下水道に住み着いた人たちが作る生活圏・・・地下の町で、この洞窟とは違う様だ。


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このブラインウォーター洞窟は脱走兵や船乗り、許可の無い行商人、詐欺師、墓荒らし、街の周辺で堂々と商売できないような連中たちが集まって、密輸や横流し、略奪などで入手した自分たちの戦利品を元手に物資の取引を行う、いわば闇市場になっていた。地元では有名な場所なのだろうか・・・半端者だけで無く、身なりの良い貴族やその使用人のような者達まで混じっているのに彼女は驚いた。


闇市はかなりにぎやかだ。酒場の周辺では、個人間での取引が活発に行われている。脱走兵だか戦場荒らしだか分からないような連中が、格安で物資を売りさばいていると思えば、怪しげなカジートが食料品や雑貨などと並んで、密造酒とスクゥーマを普通に取り扱っていたりもする。他にも何の生き物のものか分からないような内臓の瓶詰や濁った魂石など、町中で同じ事をやったらすぐに衛兵の世話になってしまうような物がこともなげに並べられており、アスヴァレンが見たら垂涎ものだろうなと想像しながら、ブラッキー自身も興味深げにそれらが取引されてゆく様子を眺めたのだった。


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取引される物資の中には違法品どころか、何処からか攫われてきたであろう奴隷達まで含まれていた。彼らは商品として展示されていた。一段高いところに設置された檻に押し込められ、買い手がつくまで"保管"されているのだ。
山賊とまではいかないが、明らかに堅気ではない風体の男が檻の前に立って、”荷物”番をしている。賊に襲われた馬車や商人、村などからの物資、戦場にうち捨てられた死者と装備など、内戦の影響下では所有者を失う物資は平時以上に生まれやすい。少し心得た者達にとっては、今のスカイリムは調達の宝庫なのであった。


「ブラッキー。なんかすごいね。城門前の市場より大きいんじゃない?」


「うん・・・あんな怪しい・・・ただの洞窟なのに、中がこんな、ねぇ」


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買い物ではなく雑談に興じる者達も多く、戒厳令と検問にもかかわらず、トリグ暗殺のうわさも既に流れている。


エールを空にすると、二人は驚きも覚めやらないまま、もう少しこのブラックマーケットを探検してみることにした。


酒場の奥にはまだ洞窟が続いている。空間と通路、そして足元には地下の水路が複雑に絡み合っており、ちょっとした迷路だ。迷路のあちこちには先ほどよりは小規模だが、所々に物資が積み上げられている。こちらは商店と言うよりは倉庫として機能しているようだった。


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彼女たちは歩きながら観察して気付いた。この場所には暗黙のルールらしきものが存在するようだ。


洞窟内の様々な集積区画それぞれに対して、明らかに別の組織と思われる者が見張りに立っている。そして表面上は互いに無関心を装っている。


どう見ても山賊にしか見えない連中もいるのだが、皆一様におとなしくしている。

縄張りとでも言うのだろうか。この隠し倉庫・・・闇市では、どのような者がどのようなことをしていても、相互不干渉が不文律になっている様であった。


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サルモールもひと区画を持っているようで、見慣れないアルトマーの兵士が巡回している。さすがにストームクロークは居ないようだが、フォースウォーンっぽい戦化粧をした異国人まで見かけた。見ただけで堅気でないと分かるものばかりだった。


「なぜ届いていない!」


幾つ目かの集積区画を通り過ぎようとした時、急に振ってきた叫び声に驚き、ケイドは飛び上がった。自分に向けられたものでないと分かると肩をすくめてブラッキーの方を見る。どなり声は集積された荷物の向こうから響いてくる。どうやらここはサルモールの区画のようであった。そのまま通り過ぎればよいのだが、声に驚いて身を潜めてしまった二人は、成り行きのまま隠れた物陰から何が起こっているのか様子をうかがった。


「期日は昨日だったはずだ」サルモール士官が声を荒げている。


「予定の連絡員が来ないのです」


「こないだと?! それを把握しておくのが貴様の仕事だろう!」


ドンと言う音と共に胸を押されたサルモール兵士がバランスを崩し棚にぶつかった。ちょうど二人が隠れている物影の反対側だ。ガタンと音を立てて下段の木箱が傾くと、中に収められていた瓶が散乱した。隠れるブラッキー達の足元にも1本転がってくる。


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顔を見合わせると、ブラッキーはそれを拾い上げ、目の前にかざしてみた。


銀色の粉末が混じった濃緑色の液体が透明な瓶に入っている。よく出回っている体力回復やマジカの薬とは明らかに違う毒々しい色だ。栓がしっかりしっかりされていることを確認すると、彼女は瓶を自分のポーチにしまい込んだ。半ば硬直して見守っているケイドにウインクを返すと、彼女は再び様子を見始めた。


通路の奥からもう一人のサルモールが現れた。服装からして司法高官だろうか。


「ヴロタール、部下も薬ももう少し慎重に扱え」アリノール訛りのひどい、神経質そうな声が響いた。「先日も注意したと思うが・・・何度も同じことを言わせるようなら、貴様をクラウドスプリングの実験部隊に推薦することになる」


「そっ、それは・・・」


「先日ファーランでの実験の際に大幅な欠員が出たと聞いている。それともアーチェロンの実験部隊がいいか? あちらも新たな候補を募集しているようだぞ・・・」


かなり階級の高い者であろうか、落ち着きの中にも底知れない恫喝のこもった声に、叱責されたサルモール下士官は震え上がった。その恐れは隠れて見守る二人にも空気を伝って感じられた。


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叱責しているサルモールは、ソリチュードの本部で特使に不遜な態度を見せていた特務官であった。


「も・・・申し訳ございません。エランディル様」
下士官とその部下は直立の姿勢のまま動かない。


「それはそうと、材料の集まり具合はどうだ?」


「は、はい。ニルンルート以外は仰せの量を調達済みです」


「女魔術師が材料を所望している。貴様らは警備の交代要員が到着し次第、大使館の実験室に材料を運搬せよ」


「了解いたしました」


「ニルンルートはここでは取引が少ないようだな。ふむ・・・こちらにも少し心当たりがある。何とかしてみよう。それから・・・」


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エランディル特務官は声を下げた。


「遅れているようだが、荷はノースウォッチ砦を経由して、ラーリン指揮官が運搬してくるはずだ。次のエリンヒルでの作戦を行うには彼女が運搬してくる分が不可欠だ。ここは人も少なく隠し場所には最適だが、今まで同様気を抜かずに警備を行え」そして細められた目が地面に散乱した瓶に止る。


「しつこいようだが薬の取り扱いには注意しろ。瓶が割れでもしたらこの洞窟自体を封鎖せねばならなくなる。その時最初の犠牲者はお前たちになるのだぞ。1本たりとも紛失することは許さん。すぐに回収して箱に詰めておけ」


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「ははっ」


そう言い残すと、エランディルと呼ばれた偉そうな男は、神経質そうな早足で、ブラッキー達が来たのと反対の方向に消えていった。残された二人のサルモールは、慌てて散らばった瓶を集め始める。


「ヴロタール様・・・?」


「なんだ」
下士官は不機嫌そうな顔を兵士に向けた


「1本足りません、どうしましょう・・・」


「なんだと!!」


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下士官ヴロタールは明らかに動揺していた。エランディルにくぎを刺されたばかりなのだ。サルモール二人はしばらく地面に這いつくばって瓶を探したが、結局それは見つからなかった。しばらく考え込むそぶりを見せると、ヴロタールは兵士の首を抱えて小声で諭した。


「その一本は最初から無かった」


「はい?」


「いいか、これが見つかったら俺もお前も同罪だ。酷い罰・・・実験部隊に加えられてしまうかもしれん」


それを聞くと兵士も震え上がった。


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「あの女魔術師の実験室の警護にあたったことがあるが、一晩中叫び声が響き続けるんだ・・・」


兵士はゴクリとつばを飲み込んだ。


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「あいつは狂ってる・・・」


ヴロタールは特務官がまだ近くに居ないか見回すと、声を落とした。


「エランディルの奴もな・・・だから、その一本は最初から無かった。そうだな」


「はっ! はいぃぃ・・・」


ひっくり返った声で返事をすると、兵士は直立する。
それっきりサルモール兵たちは口を開かず。警備を続けるのだった。


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そんな兵士達のやり取りを見届けると、ブラッキーとケイドは静かになった区画を後にした。
少し離れたところまで来ると一息つく。


「奴らの話していた、実験部隊・・・? なにそれ姉さん?」


「ばか、ボクが知る訳ないだろ。それよりこれ、咄嗟に拾っちゃったけど、どうしたもんかね・・・」
ブラッキーはサルモールからくすねてきた謎の瓶を目の前にかざしてみた」


「姉さん手癖悪いなぁ。でもさっきの話だと、とんでもない毒薬っぽいじゃない。返してくる?」


「今から? あのサルモール兵士達と話してもろくな事なさそうじゃん。どこかで何かの役に立つかもしれないから持っとこう」


二人はそのまま、通路と水路が入り組んだ洞窟を進んでゆく。しばらく進むと物資も姿を消し、あたりの様子は完全な自然の洞窟になっていった。


「ここは誰も来ないのかな?」所々蜘蛛の巣も張っており、一見、殆ど人が通っていないように見える。ケイドは少し不安そうだ。


「いや、そんなことはなさそうだよ」
ブラッキーは地面の岩肌に残る足跡やこすれた後を見逃さなかった。この通路を利用している者は、蜘蛛の巣を破らないように気をつけながら進んでいる。後ろ暗い者にありがちな用心深さだ。


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「ケイド、蜘蛛の巣破かないようにね」


「どうして?」


「ボクらがここ通ったことがばれちゃうから」


「ばれるって、だれにさ」


「知らないよ、だから気をつけてるんじゃないか。それとも、もう戻る? そろそろ灯台に向かった方が良い気もしてきた」
蜘蛛の巣を破らないように進むというのはなかなか難しい。姿勢を低くしてのろのろ進む二人だったが、それもすぐに終わりを告げた。行き止まりだ。カンテラの光でぼんやりと浮かび上がる扉が行く手を遮っている。それは施錠されていた。


「ブラッキー、さっき買ってたロックピック貸して」


「え、ここに入ろうっての?」


「ここまで来たら、一番奥まで見ないと気が済まないよ」


「お前、なぁ・・・」

呆れながらロックピックを渡す。


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12本1セットになったピックの半分ほどをダメにして、ようやくケイドは扉を攻略した。


「物語で読んだようには簡単にいかないや」


「何の話だよ」


「なんだっけ、あの・・・"私はロックピックを1本持っている"ってカジートのやつ」


「ああ、知ってる知ってる。この扉開けるのに6本も使っちゃうようだと、お前は死んじゃうね、ケイド」
ブラッキーは笑って残りの6本を受け取った。


「ステンダールにかけて、何事も練習だよ」


「その練習代に5セプティムかかってるんだけど?」


「いいからいいから。さ、行ってみよう!」


扉を開けると、空気が変わった。ひんやりしている。


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「ねえブラッ・・・」
話しかけてケイドは続きを飲み込んだ。思ったよりも声が反響したのだ。彼らが出たのは巨大な空間だった。耳を澄ますとチャプチャプという水の音が聞こえる。箱を引きずるような音、荷車のゴトゴトという音も響いている。岩壁は切り立ち、天井も高い。空間の中央には水・・・それも圧倒的な量の水があり、船も停泊している。この場所に来るのはもちろん初めてであったが、彼女たちはすぐにどこだか分かった。


奥にある丸みを帯びた三角形の扉・・・この存在感ある巨大な水門には見覚えがある。


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「ブラッキー、ここって東帝都社のドックじゃない?」
ケイドは十分すぎるぐらい声を落とすと、改めてこの場所を見回した。扉を抜けたところで幾重にも棚が並んでおり、それをよじ登って高台に立つと様子を伺う。ここも物資の集積所だが、置いてあるのはすべて東帝都社の扱う正規の品だ。先ほどの扉と鍵、そこまでの道筋を考えると彼女たちが抜けてきたのはどうやら隠し通路だったようだ。帝国軍と東帝都社の物資を横領して、闇市に流すのに格好の通路。彼女たちは偶然、それを逆から辿ってきたのであった。


天然の巨大な海蝕洞を利用したドックは周囲をぐるりと桟橋で囲われていた。そして岩壁に近いところには棚が並べられ、貿易品と思わしき品々が積み上げられている。港で荷揚げされた東帝都社の商品はいったんここで保管され、必要に応じて別の船に乗せ替えられてまた船出してゆくのだ。無骨な木箱や樽の数々・・・光り輝く宝飾に溢れているわけではないが、彼女たちはここにスカイリム中の富が集められているような錯覚さえ覚えた。ブラッキーの知っている東帝都社の事務所はこのドックの外の港側にあったが、むしろこちらが本拠地のようにも見える。


「あそこから出たら港だよねきっと」
二人は入ってきたときと同じように、姿勢を低くして、桟橋の奥にある通用門を目指した。通用門はやけに小さく見えるが、それはきっと隣にある丸三角の水門が大きすぎるからそう見えるのだろう。


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彼女たちはランタンの死角を選んで、警備兵に見つからないように進んでいった。このドックの中では渡し板や天然の岩棚、時には乗り上げた船の残骸なども通路の役割を果たしている。所々には薄い板で組んだような詰め所も存在した。ブラッキーは私書証明を持っているので、一応東帝都社の関係者だと言いつくろえる。少なくとも港の事務所まではそれで通してもらえた。しかしここには巡回する警備兵がおり、ケイドを連れている状態では見つかるといろいろと面倒なことになりそうだった。


「もう少しマシな値を付けてくれると思ったんだが」
詰め所の一つを通りかかったとき、中から声が聞こえてきて二人は立ち止まった。


「まあいいさ、今日の品物は大したものじゃぁない」


(え、この声・・・)


喉の奥でガサガサ言うような音。聞き覚えのあるアルゴニアンの声。聞き間違えようがない、ジャリー・ラだ。港で別れたときに彼は少しの間、別の町に行くと言っていた。それがまさか東帝都社のドックに居るとは想像していなかった。
ブラッキーは指を口に当てケイドに静かにするよう合図を出すと、薄い壁に張り付くようにして聞き耳を立てた。ケイドもそれに倣う。


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「今ディージャと、ちょっとした計画を進めている最中なんだ。来週にまた、いろいろと買い取ってもらうものを持ってくる」


「何か進展があったようだな」
答えた声も、アルゴニアンであった。ブラッキーが知っているジャリー・ラとディージャ。そのどちらでもない。最近彼女はようやく、アルゴニアンの声を聞き分けることが出来るようになってきつつあった。


「ああ、聞いてくれ。ユディトたちが遭難したらしい、運が回ってきたのさ」


「なに・・・」


「俺たちは海に出る。ブラックブラッド略奪団の名は俺たちが引き継ぐのさ」


ブラッキーとケイドは顔を見合わせた。居候をしているベイランドの家で、この一帯を荒らしている賊の一味がいると聞かされたことがある。ブラックブラッド略奪団・・・下っ端はただのならず者だが、市民に化けて街に入り込む者や、海に出て海賊行為を行う者まで、手広く活動している一味だまさかジャリー・ラもその一味だったとは。


「だが、お前たちの船は海に出られないじゃないか」
ハーガー船長率いるブラックブラッド略奪団は、隠れ家である洞窟が崩落して、船が閉じ込められている状態になっていた。


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「ああ、そこだよ兄弟。船が出られないから稼ぎも激減。不満が噴出してるのさ。船長の統率力に疑いを持つ連中が現れてきている」


「お前たちのようにか」


ジャリーは薄く笑うような声を出した。
「船長は部下を抑えられなくなってる。もうすぐハーガー船長の時代は終わる。今は俺たちがブラックブラッドの最大勢力だ」


「確かに・・・ユディトとゴームさえいなければ、仮に戻ってきたとしてもハイロック側の連中は恐るるに足らん。だがスカイリム側をまとめるといっても、お前さんに勝ち目はあるのか?」


「なにも正面切って反乱起こそうと言うのではないさ。アイスランナーという船を手に入れる。洞窟で鬱憤をためている連中を誘ってまとめ上げ、船出するだけだ。船長と一緒に残る者は残ればいい。だが、ほんの僅かになるだろうな」


「そんなにうまくいくのか? 帝国軍の巡視艇はどうする? 丘の上の衛兵達は?」


ジャリー・ラは鼻腔を鳴らした。
「ハッ、今ソリチュードは上級王暗殺の騒ぎでそれどころじゃない。それに、ハーガー船長は元々ドール城の牢獄からの脱獄者だ。取り逃がしたアハタルは今でも探してるようだから、居場所を漏らしてやれば、そのうち勝手に片付けてくれるさ。その間に、俺たちは仕事をやり遂げられる」


「相変わらず抜け目がないな・・・。だが、お前も衛兵に目を付けられている。あまり派手にやると上に居られなくなるぞ」
ジャリー・ラはソリチュード上層街では目を付けられているが、今まで何も証拠を残しては居らず逮捕には至っていない。彼の話相手はそういった事情もよく知っているようだ。こんな所に居るということは、東帝都社の人間だろうか?


「ああ、もういいんだ。そろそろソリチュードともおさらばしようと思ってな。それで今日は来たんだ」


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「お別れに来たって言うわけか」


「ちがう、逆だよ。・・・俺とお前が手を組めば、このスカイリムでちょっとした勢力を築くことも夢じゃない」


「何だジャリー、上でやってるみたいに、相変わらず誰にでもそうやって声をかけているのか?」


「ああ、声はかけるさ。だが兄弟、俺がそうするのは、そういう見どころがある奴にだけだ」
シュー、と耳障りな息継ぎが聞こえる。
「それに・・・うまくいけば、頼りになる剣をもう一本手に入れられそうなんだ」


「そいつが、お前が統率する上での武力の睨みとなる訳だな」


「そう、うまくいけばな。ブラッキーという奴だが、はっきり言って強い。それに俺たちと同じ臭いがする。今のところは意気投合といった段階だが、ちょっとしたテストをしている最中だ」


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壁一枚挟んだ向こうで自分の名前が挙がるのを聞き、ブラッキーは反射的に身体を硬直させた。


「逆に障害になったりはしないのか?」


「そうだなぁ・・・まあ、奴が一緒に来なくても成否には影響ない。テストに与えた仕事も期日も、この計画とは無関係なものだからな。必要であれば他の使い道もある」


「いつも通り濡れ衣か・・・人が悪いな」
ブラッキーとケイドは顔を見合わせた。自分は試されてるだけで、灯台に行く行かないに関わらずアイスランナーに何かするのは決定事項のようだ。伝言の仕事に意味はなかった。ジャリー・ラたちハーガーを倒して独立するときに仲間として信頼できそうか確かめられていたのだ。


「それはそうと、どうだ。一緒に来ないか?」


「言っておくが兄弟、俺はお前たちの仲間ではないからな。東帝都社の職員として、持ってくる物資を正規に買い取っているだけだ。それに・・・」誘われたアルゴニアンは理由を付け加えた。「今別の仕事を抱えているんだ」


「もう盗賊ギルドとは取引しないんじゃなかったのか?」


「ああ、奴らとは手を切った、いや、切っているところだ。その仕上げに、今ひとつ大きな案件を抱えているんだ。お前さん達が旗揚げしようってのと同じぐらい大きい、な」


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壁の向こうでアルゴニアン達は密談を続けている。ブラッキーとケイドは再び顔を見合わせた
「なんか大変なことを聞いちゃったね・・・」


「どうする姉さん? 灯台には行かない方が・・・」
つぶやいた矢先、騒ぎは起こった。通用門が開くと、兵士達がなだれ込んできたのだ。
兵士を率いる隊長らしき女性が、ドックの入り口付近に居た東帝都社の職員らしき女性と揉めている。


「何をするの。ここは東帝都社のドックよ!」


「分かっています、港改めで船を臨検して回っているのです。協力してもらいます」


「わたしはヴィットリア・ヴィキよ。皇帝の従姉妹なのよ、分かっているの? ここは治外法権。こんなことは許されないわ!」


「今はソリチュードの法の元、戒厳令が布かれています。いくら貴女が皇帝の従兄妹だと言っても我々を止めることはできません」


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「そんな勝手な。押し入って只で済むと思っているの?」


「上級王殺害の調査です。ソリチュードすべての場所を・・・皇帝の塔も調べているくらいです。こことて例外ではありません」


「帰りなさい。私たちは何も後ろ暗いことはないわ!」


「法をないがしろにするのですか? 貴女も帝国の要人だったら、尚更協力すべきでしょう」


従士ブライリングは手を上げると、部下の衛兵達をドック内に突入させた。


「構わぬ。中を改めよ。万が一怪しい者がいたら拘束せよ!」


「無礼な、この報いは必ず受けてもらいますからね!」
押しのけられたヴィットリア・ヴィキは抗議の声を上げたが相手は武装している集団。肩を怒らせて見守ることしか出来なかった。


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詰め所の影に隠れて、より一層息を潜める二人は、下方で水音と共に小さな飛沫が二つ上がるのを見た。彼女達が一瞬の騒ぎに気を取られている隙に、詰め所から出てきたジャリー・ラたちが飛び込んだのだ。さすがに手慣れている。少しでも危険な兆候があったら、躊躇なく行動するその姿に、敵ながらブラッキーは感心の念を隠せなかった。
結局、もう一人のアルゴニアンが何者かは分からずじまいだった。


「どうしよう・・・」
ドックに衛兵が溢れてくるのを見てケイドはうろたえた。ベイランドの息子は、先ほど自分たちが出てきた棚の方を指さした。既に従士ブライリングの手勢が桟橋に展開しかけている。今から降りていっては捕まりに行くようなものだ。
「さっきの隠し扉には戻れないよ」


「ほら、しっかりしろよ。まだボクら捕まったわけじゃないだろ」言いながらブラッキーは辺りをせわしなく見回した。「といっても・・・ここはすぐ見つかっちゃうな。どこか別の隠れ場所を探そう。隙を見てドックの外に出るんだ」


ブラッキーは身軽に、ケイドはおっかなびっくりであったが、二人はなんとか詰め所から岩の影伝いに下に降りることができた。少しでも通用門に近づきたい。隙さえあればそこから抜け出す自信がブラッキーにはあった。静かであったドックの中はにわかに喧噪に包まれている。あちこちで臨検の兵と東帝都社の警備兵が揉めていた。


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「おいお前たち!」


「うわやばっ、見つかった!」


二人は並んだ棚の角を曲がると、東帝都社の警備兵と鉢合わせた。突然の相手の出現にどちらも驚いたが、警備員は少し考える素振りを見せ、首をかしげた。


「見ない顔だな。職員じゃないな。盗人か?!・・・」
言ったとき、別の一団が現場になだれ込んできた。従士ブライリングの手勢だ。


「臨検だ! おい、そこのお前たち、動くな!」


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ブラッキーはケイドの手を咄嗟に掴むと、脇にあった扉に飛び込んだ。


彼女たちが飛び込んだのは仕分け室であった。端の方、壁に向かって執務用のテーブルが置かれ、台帳やインク瓶などが無造作に置かれている。台車に積まれたウリの山など、広い部屋の周囲には荷揚げした品が置かれていた。奥の方には石炭を燃やした蒸気で動く、リフトの設備が置かれている。上層階との間で荷を上げ下ろしするのに使われている、東帝都社の重機であった


「・・・何だこの臭い!」


リフトの動力となる蒸気の熱気に乗っかり、さびた鉄の臭いに何か合わさったようなかすかな違和感。僅かだが人間が本能的に嫌悪するような臭い。ケイドが口を押さえてえずいた。それは部屋の奥、リフトのあたりから漂ってきていた。
リフトの周りには操作する人足たちがいる。彼らは口に布を巻いて作業をしていた。


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ギャリギャリと甲高い音を立てる鎖の動きに合わせて、リフトが降りてきた。人足達をかき分けるように、作業を監督していた男が侵入者達に気付き、進み出る。


「何だ、随分と騒がしいじゃないか」


整った顔立ちの、眼鏡をかけた魔術師風の男であった。「君たち、だれ?」
当然咎められるかと思ったのだが、男は尋ねただけだった。


「臨検が入ってきたんだ! 衛兵が来るよ!」


「知ってるよ。ブライリング達だろ? 予め聞いてたから。」


興味なさそうに男は返事をしたが、とりあえず、といった感じでリフトの影を指さし、二人を奥の暗がりに誘った。


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直後、ブライリングの衛兵たちが扉を開ける。


遅れて部屋に入ってきた従士の衛兵達は漂う臭いに気付き、皆一様に顔をしかめた。


「お前がこの部屋の責任者か うう・・・ひどい臭いだな。我らはソリチュードの法に基づき、ブライリング従士の命で立ち入りをしている」


「おつとめご苦労様です。来られることは聞いていましたよ」

魔術師風の男は慇懃に答えた。


「いまここに賊が入ってきただろう?!」


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「ええ、その階段を駆け上がっていきました」
男は笑顔を崩さず、リフトの上層に繋がる階段を指し示した。ブラッキー達が隠れているのと反対の方向だ。


「上はどうなっている?」


「動力室と、もう一つ上の階で城門前城下町の事務所に出ますね。もう日が暮れるから、街の外に出たら見失いますよ」


「そうか、邪魔したな。急げ、追うぞ!」


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それを聞くと、衛兵達は急いで階段を駆け上がっていった。
追跡者達が行ってしまうのを確認すると、魔術師風の男は隠れている二人に話しかけた。


「出てきたら? もう大丈夫だよ。あれ、どうしたの?」
リフトの物陰に隠れている間、彼女たちは見てしまった。人足達が下ろしている荷物の正体を、それは臭いの元でもあった。


彼らが降ろしているのは、死体だったのだ。


「ウエっ・・・」


一体や二体ではない、何十という死体がリフトで降ろされてくるのだ。


「なに、これ・・・」


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「ところでどうしたの、キミたち? ここは関係者以外は入れない筈なんだけど・・・」
ブラッキーの問いかけを無視して、監督をしていた若い魔術師は二人の侵入者をまじまじと眺めた。平民よりは少し良い服を着て、腰に手斧をつるした少女と、少年の域をそろそろ脱しようかという、自分と同じぐらいの年齢の若者。三人は互いに向き合ったまま、しばらく動かなかった。


「お兄さん、東帝都社の人?」


「いや違うよ。僕はヨキアム。ヨキアム・コンラードって言うんだ。ウィスパーズ大学のマスターウィザードさ・・・あ、もうすぐマスターウィザードになるんだ。専攻は召喚術と死霊術。で、キミ達は?」


「ちょっと迷い込んじゃって。それよりなんだよ、この死体の山。東帝都社ってのはこんな怪しいこともしてるの?」


「東帝都社じゃないって言っただろ?」ヨキアムと名乗った魔術師は少し苛立たしげに続けた。「僕はバカは嫌いだから、一度言ったことはちゃんと覚えて置いてくれたまえ。あ、そうそう。何をしているのかだったっけ? 臨時でこの人足の人たちを監督しながら。選り分けているんだよ」


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「死体を?・・・」
ケイドは驚いて嫌悪感をあらわにした。


「そうさ、素材を見つくろいに来たんだ。こんなチャンスは滅多にないからね」


ドックの影に隠れた東帝都社のリフト室。そこで人足達を使っていたのはウィスパーズ大学のヨキアム。若き魔術師であった。


「チャンスって・・・一体この人達はどうしたのさ」


「あれ? キミら聞いてないの? ストームクロークが上層街を襲撃して、王と市民を殺して回った事件。すごかったらしいじゃないか。シャウトだっけ? ああ、いいなぁ。僕はギリギリ居合わせなかったんだけど、ぜひ見てみたかったよ!」


「・・・」
ヨキアムは話しながら次第に興奮してきていた。ブラッキー達はあっけにとられて返事を返すことも出来なかった。


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「えー、オホン。ああ、この人達の話だったね」自分を凝視する二人分の視線を感じて、ヨキアムは思い出したように咳払いをする。彼は東帝都社とソリチュード市局から依頼を受けて、犠牲になった上層街の市民の処理を行っていると説明した。その仕事がてら、死者の中から損傷の少ない死体を選んで、研究の材料にするために選り分けているのだった。


「ひどい・・・埋葬もされないなんて!」


ケイドは信じられないようだ。
彼が知っているのは毎日の教会の鐘が告げる儀式。死者達は一定期間、ソブンガルデ送りの祈りが捧げられたあと、墓地に埋葬されるという認識だった。ヨキアムはそれを見ると、無知者を諭すかのように言った。


「上級王じゃなくても、教会で弔ってもらえる身分のある者はまだマシさ。・・・身寄りのないもの、旅人だった者なんかは放置されるだけだから、こうして我々や東帝都社の労働者が影で働いて不浄門から廃棄してるんじゃないか」


ケイド達はすべての死体は教会に安置された後、埋葬されるものばかりだと思っていた。こんな廃棄物のように扱われているのを見て、ショックが隠せない。


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ヨキアムはそんな彼らの気持ちなどまるで歯牙にもかけず、生徒に講義するかのように話し続ける


「キミ達、人の死体に価値がないと思ってるだろ。とんでもない! 荒野であれば獣の餌になるぐらいだけど、死体は町中で放置すると疫病の元になるからね。でも焼いて灰にすれば肥料。知ってる? 植物の根を地中深くまで伸長させるのに役立つんだ」


「家畜が死んだときは、似たようなことをする話は聞いたことあるけど・・・」


「そう。同じだよ。僕らが有効活用してやってるのさ。・・・それに灰にするまでもない新鮮な死体は、臓器を取り出したり、人体内部でしか生成されない成分の抽出したりに使えるから、錬金術師や死霊術士、サルモールなんかにはとても人気の商品さ。奪い合いだよ。それにここだけの話、吸血鬼だって隠れて買いに来るんだよ」


「胸くそ悪いな、死んだ人を何だと思ってるんだ」


「キミ達もおかしいね。魂の概念は分かってる? 死体と死人を混同しているんじゃない? ・・・頭が悪い者はみんなそうなんだ。繰り返すが、死体は錬金素材の宝庫だよ。もっとも・・・まだ魂の抜けていない死人も、死霊術にとっては貴重だけどね。ククク・・・」


「なんか気分悪くなってきたよ」
もう講義は十分、とばかりにブラッキーは首を振った。


「ね、ねぇ。衛兵が戻ってきちゃうんじゃない?」
圧倒されていたケイドも、我に返ってブラッキーを見た。


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「あ、そうか。キミ達追われているんだったね。引き留めちゃって済まない。また僕の死の体系に関する講義が聴きたかったら、いつでもウィスパーズ大学を訪ねてくるといい。クフフ・・・人気の授業だから、何週間か順番待ちが必要かも知れないけど」


「ボクたちを見逃すの?」


「逆にキミ達を捕らえたら、何か良いことでもあるのかい?」


ブラッキーとケイドはブンブンと首を振って精一杯否定した。
「僕には関係ないからね。手間が掛かるのが一番嫌いなんだ」ヨキアムだけでなく、人足達のほうも作業に忙しく、二人の侵入者のことなどどうでも良いようであった。


ヨキアムはリフト室の扉から顔を出してドックを確認すると、ブラッキー達を手招きした。
「衛兵達は奥まで行ってしまったようだ。今なら大丈夫そうだ。抜け出すのにちょうど良いんじゃないかな?」


「あ、ありがとう。魔術師の兄さん」


「どういたしまして、ホラ、騒ぎが起きている今がチャンスだと思うよ」


ヨキアムは眼鏡の下で目を細めると、二人をリフト室から送り出した。


二人が行ってしまった後、近くに居た人足が思わず疑問を口にした。


「なんであんなことしたんです?」


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「あんなことって?」
ヨキアムの目は眼鏡の下で蛇のように細められていた。


「助けてみたり・・・、でも、外にはどうせ別の衛兵達が張っているんでしょう?」


「アハハ・・・だって、面白そうじゃない。それだけだよ」
ヨキアムは弑逆的な笑い声を上げると、人足に発破をかけた。「ホラ、急いで。この熱気では死体が痛むのが早い。夜になる前に片付けてしまうよ!」




・・・




「ハァハァ・・・」


肩で息をするケイドを気遣いながら、ブラッキーは通用門の様子を伺った。リフト室から抜け出し、衛兵の隙を盗んで門のすぐ脇の暗がりに転がり込む。あとは潜ってしまえば外に出られる。彼女はケイドの背中をポンと一つ叩く。


「ケイド、大丈夫? 次に兵が入ってきたら、その背後を突いて門から出るよ!」


「う、うん」


彼女はタイミングを計った。門が開くと、二人の衛兵がまた入ってくる。その二人をやり過ごすと、飛び出して衛兵の背後から門に転がり込んだ。


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「よし出た!」
そのままの勢いで、東帝都社の事務カウンターまで走る。紛れてしまえばこちらのものだ。


「何が出たって?」


「・・・!」


眩しいカンテラがブラッキーとケイドを照らす。夕暮れ前の薄暗い桟橋に周りは衛兵達。囲まれていた。


「くそっ、あいつめ。ボクとしたことが言葉を真に受けちゃうなんて・・・」
ブラッキーは自分に腹を立てながら毒づいた。


ヨキアムに言われた通り脱出した・・・つもりになっていた。ブラッキーとケイドはドックの外側で待機している部隊の中に自ら飛び込んでしまっただけだった。この囲いでは海に飛び込んで逃げることも出来ない。絶体絶命だった。


衛兵達の中から、隊長格の男が進み出る。その険しい顔は、ブラッキーを見て呆れた表情を浮かべた。
従士エリクールであった。


「まーた貴様か。家に籠もっておけと言っただろう。今度は何をしている?」


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「エリクールの兄さん。・・・ごきげんよう?」
ブラッキーはばつが悪そうにエリクールを見上げた。


「貴様、なにがごきげんようだ。ようやく私の名前を覚えた事は褒めてやるが、昨日の今日では只で済まんぞ」


「こんな所で何してるの? また臨検?」


エリクールの眉尻がつり上がった。
「まったく・・・貴様は私の質問に答えるつもりがないのか? まずはそっちだ。誰なんだ?」一緒に囲まれているケイドを指さす。


「あ、そうだね。自己紹介まだだった。こっちのは・・・」


ブラッキーが話す前に、ケイドは自ら進み出た。
「ケイドです、エリクール卿。鍛冶屋ベイランドの息子です」


「ふむ、少年の方が少しは礼儀をわきまえているようだな・・・はいいが、ブラッキー!」エリクールは少女を怒鳴りつけた。「この前家まで送り届けてやったのに、どうして貴様が東帝都社のドックから出てくるんだ。しかもベイランドの息子付きで、あぶり出されるように・・・」


「エリクールの兄さん?」
エリクールは心底頭が痛いといった表情だ。ブツブツ言っている。


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「俺が判断を誤るとは・・・やはり監獄に直行しておいた方が良かったな。アハタルとも知り合いだそうだから、すぐ出て来るんだろうが、それでも2、3日は俺の目の前から消えてくれただろうに・・・」


「なにブツブツ言ってるの?」


「うるさい! お前のことだ!」


通用門が再び開くと、女性の戦士が現れた。
外の騒ぎを聞きつけて、ドック内で指揮を執っていたブライリングが顔を出したのだ。


「どうした、エリクール卿」


「ああ、こいつらまた戒厳令を無視して出歩いておったのだ。もう我慢ならん。即刻ドール城行きだ」


「エリクールの兄さん!」


「ああっ? なんだ! もうお前の話は聞かん」


「そうじゃないよ、聞いてよ!」


「ドール城でアハタルに話せ」


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「やっぱりアイスランナー襲われるんだ!」


「おい、お前たち、こいつらを連行・・・」


「中にジャリー・ラが居たんだ。密談しているところを聞いたんだよ!」


「なぜそれを早く言わん!」


エリクールは首根っこを掴まえると、ブラッキーに詰め寄った。


「そんなこと言ったって、乗込んできたのがこっちの従士さんだったんだから仕方ないでしょ!」彼女はブライリングを指さした。「エリクールの兄さんだったら駆け寄っていけたのに」


「ウソをつけ。貴様、今逃げようとしてたではないか」


「もう! それどころじゃないでしょ。何とかしないと・・・」


「それで、ジャリー・ラはどこだ?」


「もう一人と一緒に海に飛び込んじゃったよ」


港は急に慌ただしくなり、駆り出された衛兵達がジャリー・ラを捜索した。しかしこの広さでは発見は絶望的であった。




・・・




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ブルーパレス、エリクールの執務室。


ブラッキーとケイドは日が沈むとそこに連れてこられた。ブラッキーはきょろきょろ、ケイドはそわそわしてどちらも落ち着きがない。


「ケイド、お前来たことあるの、ブルーパレス」


「そんな訳無いじゃない。お城だよ、ここ!」


鍛冶屋の息子は何度も首を振った。周りに居る連中が怖くてたまらないのだ。


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「ソリチュードに来て一週間経たずにお城に上がれるなんて、たいしたもんだよねボク・・・イテッ、なにするの!」


「バカか貴様、浮かれるな。さっさと我らに知っている情報を話せ」


エリクールに頭を小突かれて、ブラッキーは自分に痛いほど視線が注がれるのを感じた。従士エリクールの私室には、従士ファルク・ファイアビアード、従士ブライリング、そして私兵のメララン、ソードメイデンのジョディスといった錚々たる顔ぶれが集まっている。それぞれ調査と港の臨検を手分けしており、毎晩集まってその情報を共有しているのだ。捕まった若者二人はそこに同席させられているのだった。


ケイドは恐縮してしまって言葉も出ない。一方、ブラッキーは相変わらずいつものペースであった。


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「つまり、ジャリー・ラがブラックブラッド略奪団を乗っ取って、再度盛り返そうとしているわけだな」
一通り、東帝都社の倉庫で盗み聞きした内容を伝えると、従士たちは対策を議論し始める。


「ストームクロークと何か関係があるのか?」


「いや、おそらくそれは無い。騒ぎに便乗しようという魂胆だろう・・・」


「港の外に船でもいるんだろうか? 奴ら、アイスランナーをどうやって奪うつもりだ?」
ファルク・ファイアビアードが髭をこすりながら首をかしげた。彼らのもっぱらの興味は、船を持たない略奪団が、どうやってアイスランナーを攻撃するか、というものであった。


「まあ、魔法でも使うんじゃなければ、陸に居る者が船を襲うには座礁させるしかない。その嬢ちゃんが聞かされたジャリー・ラの例え話、”灯台に間違った誘導をさせる"というのが一番可能性が高いんじゃないか?」


「念のために灯台は調べた方がいいな・・・」


「ところで、アイスランナーはいつ入港するんだ?」
「この季節は逆風がきつい。早くても明日の夜だな」


「そうなると、襲われるよりも前に、警告しに行くのが一番確実か? 航路は分かっているんだろう?」


「ああ、港湾事務所で調べさせました。民間の定期便です。レイヴンロックとこのソリチュードを結んでいます」


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私兵のメラランが海図を広げてみせる。


海図にはソルスセイムのレイヴンロックを起点に、ロスクレアのクレインショア、イスガルドの王都ヴァルヘイム、そしてウィルムストゥースの港を経由してくる航路が記されていた。ソリチュードには真北から南下してくるかたちになっている。


「くそっ、こんな時にはサルモール共の飛空船でも使えれば早いんだが」


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「無理だろ。そんな頼みをしたら、来年の条約締結で何を要求されるか分かったもんじゃない。あのエレンウェンのババアが首長の椅子に座らせろとか言いだしかねん」


イルンスカーが吐き捨てる。


「東帝都社に依頼してはどうだ?」


ブライリングは首を振った


「たったいま、ヴィットリア・ヴィキと押し問答してきたところだわ。だめよ、首を縦に振りっこないわ」


「エリクールの兄さん、レッドウェーブは?」


ブラッキーの思わぬ言葉に、従士たちの視線がエリクールに集まる。
「バカッ。貴様何を言ってる」エリクールは慌てて取り繕った。


ファルクがそれを聞いて口を挟む。
「出荷事業に対する君の投資については十分承知しているよ、エリクール。だが、君がそのレッドウェーブの乗組員と取引をしているという、ちょっと困った噂も耳にした」


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「何が言いたい?」エリクールは物騒な顔つきで同僚のファルクを睨んだ。


「ありがたいことに、エリシフ首長は戦争に勝つことで頭がいっぱいで、君が何を使って港を守っているかなどまったく気には留めていないがね」


エリクールは曖昧な顔をしたままだ。エリクールが手なずけた海賊を私掠船として使っていることは、従士たちの間では誰も口には出さないが公然の秘密となっていた。


「す・・・すまない。”困った噂”という発言は取り消させてもらうよ」ファルクは慌てて取り繕うように付け足した。「そっ、その・・・別に私は君を非難しているわけではないんだ。きれい事だけでは街が守れないのはよく分かっているし、君のお陰でどれだけハーフィンガルが栄えているかも理解している。そう、ただの手段だ。こちらの手持ちの船がないかと純粋に考えた手段としての発言だと受け取ってくれ」


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筆頭従士のエリクールは、東帝都社と張り合うかたちで海の勢力を伸ばしており、ソリチュードの戦費の大半をまかなうに留まらず、街の運営に対する出資も行っていた。執政を兼ねるファルクも政策を実行するのにエリクールの財源は無視できず、あまり勝手は出来ない。言い換えると彼が居なくては国が回らぬ、エリクールはそんな圧倒的な財力を有していた。


「ファルク、君はもう少し理解した方がいい。私の収益が戦費をまかなっているとな。そして首長ももう少し理解した方がいいな。その戦費を使うだけ使うくせにパレスの警備には兵を寄越さないテュリウスの代わりに、自分を守っているのが我々従士だと言うことを」彼は拳を握りしめた。ウルフリックの侵入を許してしまったことを思い出し、王を守れなかった屈辱を思い出したのだ。


「手段に過ぎない。そうだな。海賊には海賊をぶつける・・・か」
エリクールは独り言のようにつぶやくと、押し黙った同僚達に対して気付けのような明るい声を放った。


「よし。無い物を当てにするより、現実的に考えよう!」
あまり影響力を発揮しすぎるのも、相手を萎縮させて敵を作りやすいことを彼はよく心得ていた。


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エリクールがまとめに入ったのを、ブラッキー達は横目で見ていた。その後も、人手やその資金をどこから出すか、どう手分けするかなど会議はしばらく続いた。時々情報の確認のために最初の頃こそ声が掛かったが、基本的に会議の最中二人は放置されており、だんだん彼女たちは退屈になってきた。


「なあケイド・・・」


「なに、ブラッキー?」


「お偉いさんって、面倒くさいんだな」


「僕にはよく分からないけど、いろいろなことを考えなくちゃならないんだよ、きっと」


「こんな所で話し合ってて何になるんだろうな」彼女はあくびを一つすると居住まいを正したが、瞼が重いのには抗えない。やがて船をこぎ始めた。ケイドもそれを見て釣られるように落ちかける。完全に眠りに落ち、いびきをかき始めた頃、二人は肩に手を置かれて起こされた。


「んぁ? あれ、エリクールの兄さん・・・?」


エリクールは二人の意識がはっきりしてくるのを待つと声をかけた。


「お前たち二人は戒厳令も我慢できないほど冒険がしたいようだから。その願いを叶えてやることにした。今から船に乗れ。レッドウェーブだ」


「え?!」


「アイスランナーに向かうんだ。保護しに行く。おまえ等の任務だ。今さら嫌とは言わせん」




・・・




「なんかすごいことになっちゃったな」
潮風に髪をなぶられながら、ブラッキーは横に立つ押しかけ相棒のケイドに声をかけた。


「ベイランドにはちゃんと伝えてやるからしっかり働いてこい」それがエリクールの言葉であった。彼は結局、自由に動かせる私掠船のレッドウェーブ号を使うことを了承して送り出すことにした。彼が海賊・・・私掠船と繋がりがあることは公然の秘密から公然の事実になってしまったが、代案を実行できる従士が他にいない現状、それを良しとした他の従士たちも共犯という体で巻き込まれ、この件は決着した。


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フリッグ型の船一隻、サフィア船長をはじめとする5人の海賊達、ウィスパーズ大学から呼び寄せた臨時の助っ人一人、そしてブラッキーとケイド。指揮を執るエリクールの腹心の私兵メラランを合わせると総勢9名、これがこちらの戦力であった。メラランも魔術師であることを考えると、海の荒くれ者5人とバトルメイジが2名。帝国の警備艇程度であれば軽く蹴散らせてしまうほどの重武装と言えよう。ならず者達相手に後れを取るようなことはないから、周りの邪魔にならないように、おとなしく甲板磨きと見張りでもしろ。少しでも役に立ってこい、そんな手向けで二人は海に送り出されたのであった。


夜中のうちに出港準備を済ませ、日の出と同時に乗込んできた大学の魔術師を仲間に加えて、彼らは港を後にした。ソリチュードのアーチを抜け、灯台を背にゆっくりと北上する。
戦力は整えたが戦うのが目的ではなく哨戒だ。ソリチュード港から唯一出港を許可された私掠船は、予定通りあまりソリチュードから離れすぎないよう、夜間は投錨をして見張りを立てることにした。


出航二日目。少しずつ北上する。昨日までは背後にスカイリムの陸地が見えていたが、今日はもう、遥か遠くに灯台の明かりが見えるだけで陸地は見えない。その灯台の明かりも、日が昇ると見えなくなった。
降霜の月の10日といえば、大陸内部ではそろそろ紅葉が見られるかという時期だが、スカイリムでは冬の玄関口だった。その最北を航行する船は寒波に晒され、舷側やロープに霜が付いている。


「最近そればっかり言ってる気がするけどさ・・・すごいよね」


ブラッキーは霧にかすむ一面の水平線に目を凝らしながらつぶやいた。「スカイリムでも十分寒いと思うのに、こんな海のもっと北にも人が住んでいるんだろ? 物知りケイド、何か知ってる?」


「書庫にはあまり北のことを書いた本はなかったんだ」
冒険に憧れるケイドは、幼い頃からちょくちょく作業場を抜け出しては、吟遊詩人大学に遊びに行き、そこの図書室で古のサーガやら伝説やらを読みまくっていた。


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「従士たちの話に出てたけど、いま人が住んでいる一番北の国はイスガルドって言うらしい。このスカイリムと、氷に埋もれたアトモーラ大陸のちょうど中間あたりなんだって」


「船の名前も”アイスランナー”だしね。でもそもそも、そんなとこに人が住めるもんなの?」


「イスガルドには火山があるらしいから、多少は暖かいんじゃないかな」
あまり知らないとは言うが、本当に何も知らないブラッキーから見たら、ケイドは知識の宝庫だった。


「アトモーラかぁ・・・想像も付かないや」


「ノルドの故郷の話だったら、吟遊詩人大学よりもホワイトランに本拠地がある同胞団の方が資料はあるんじゃないかな」


「ホワイトランね。機会があったら一度行ってみたいところの一つだ。おぼえとこ」


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ブラッキーは出航前にエリクールにもらった剣をいじりながら、船に揺られていた。あんな斧は役に立たないから、代わりにこれをくれてやるといって渡されたものだ。彼女は自慢の獲物である手斧に対する低評価にいたく不満だったが、せっかくだからと、貰える武器はしっかりと貰っておいた。それは刃の付いていない、まるで太くて硬い針・・・馬上槍の穂先のような剣であった。船のような狭いところで多くの相手をしなければならない戦いでは、剣はすぐに刃こぼれするため予備が必要になる。突き刺しやすく抜きやすい武器が良いのだ、エリクールはそう持論を展開したあと、この武器を渡したのだった。
全くしならず、非常に硬度が高い、体重を乗せれば金属の鎧でも外から突き通すことが出来そうだった。


「しかし、びっくりだよね」ケイドは昨日の緊張状態から解放されて、いつもの調子を取り戻していた。「まさか僕等、海賊船に乗って海に出るなんて、おとといの朝には考えてもいなかったよ」


「海賊船とか言うと怒られるよ。しりゃく・・・なんだっけ」


「そっ、そうだった・・・私掠船だ」
甲板の向こうでロープを調整しているレッドウェーブの船員がチラチラとこちらを見ている。船長からしてモヒカンの強面だ。今は心強い味方だとはいえ、臨時の乗員達はすこし落ち着かない感じだった。
「家に帰らないまま来ちゃったけど、父さん、心配してるかな?」


「・・・ボクも姉ちゃん捜しに来ただけの筈なんだけど、なんでこんなことになってるんだろうって、ちょっと反省」


「へぇ、ブラッキーでも反省するんだ」からかうケイドを蹴飛ばそうとして彼女はよろめいた。その肩を近くに居たメラランが支える。この寡黙なアルトマーはエリクールの腹心だ。


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「こんな所で滑って海に落ちないでくれ。なんて報告したら良いか分からなくなるからな・・・あ、それから」彼はケイドの方を向いた。”エリクール様に鍛えてもらってこい”、お前の親父からの伝言だ」


「心配してくれるの? こんな剣くれたりして、意外と親切だよね従士様」
ケイドも船用のショートソードを一本もらっていた。


「無礼な物言いはやめろ。エリクール様はああ見えてお前達のこと、かなり心配していたのだ」


メラランは霧に包まれ視界の悪い亡霊の海に目を向けた。


「しかし、ドックでジャリー・ラの奴を逃がしてしまったのが、返す返すも悔やまれるな」


「衛兵さん達入ってきたとき、一瞬で飛び込んじゃったからね」


「それでも、計画を聞けたのは手柄だったな。どうやってあそこに居られたんだ?」


ブラッキーとケイドは顔を見合わせた。


「おおかた、下水道で街から抜け出して、ブラインウォーターあたりから入ったか? 何だその顔、図星か?」


「メラランのおっちゃん知ってるの?」


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「もちろん。アンダーワークとブラインウォーターは一部の者の間では有名だ。市民は知る必要はないし、密輸や犯罪の温床でもある。だがあれがあることでうまく回るものもあるからな。・・・ソリチュードの必要悪だ」


「ふ~ん。やっぱり大きな街は複雑なんだね」


「それこそ第一紀以前から存在する街だからな。・・・まあお前はよそ者だから、それぐらいの認識と、安全危険の区別を知っておけば十分だ」


「ところでさ、でもなんで僕等を慣れない船に乗せたの? 灯台に行かせることも出来たのに」


「エリクール様の命だ。お前たちは野放しにしておくとどこで何するか分からないからな。ここなら甲板ぐらいしか行くところないだろ? 泳ぎたいなら話は別だが」


「うへぇ、そういうこと。ボクたち信用ないよね」


「まあ、二度も抜け出して、2度も捕まれば自業自得だな」


「あはは、それもそうか」


「お前たち、面白い奴だな」
船室の扉が開いて、横から女の声が飛んできた。
メララン指揮官と話をしている中に、大学からの助っ人である魔術師が混ざってきた。


「あ、なに姐さん。見世物じゃないよ」


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「あはは、すまんすまん。あたしもお前たちと同じで、ここで退屈していたところなんだ」
助っ人の魔術師はエルフの女性であった。白いマントに身を包んでいたが、スカイリムでは珍しい褐色の肌が隠しきれずに覗いている。その肌には白い戦化粧が映えており、服装も同じく白で、身体にフィットして動きやすそうだった。


「でも、よかった」
ブラッキーは女魔術師を見てホッと息を吐き出した。白い塊が顔の前に現れて霧散する。


「何がだ?」


「大学から来る魔術師の助っ人って言うから、あの嫌な眼鏡の死霊術士が来るのかって気が気じゃなかったんだ。姐さんみたいな普通の人でよかったよ」


「ん? 眼鏡・・・もしかしてヨキアムのことか?」


「そうそう! そいつ。姐さん知ってるの? 同じ大学なんだよね。こう言っちゃ悪いけど、あいつ気味悪いよ」


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「ああ、あたしも嫌いだ。あいつ、蛇みたいだろ?」
同じような歯に布着せぬ物言いに、二人は顔を見合わせると笑い合った。


「ボクはブラッキー。そんで、この余計なのがケイド。よろしくね」


「余計とはひどいな。僕たち二人は鍛冶見習いです、えっと・・・」


「ナターシャだ。シロディールから来て、いまは大学に寝泊まりしている。よろしくな」


彼女は、シロディールから下されたドゥーマー遺跡の調査任務が終わって、今はスカイリムを見て回っているらしい。同じ大学の縁でソリチュードに来たのだが、次から次へと依頼が舞い込んで、のんびりしていられないとのことだった。


「意外と学長も人使いが荒い・・・」
誰に聞かせるでもなく、ナターシャがぽつりとつぶやく。彼女が言うには、ドゥーマー遺跡の調査のあと、今度はウルフスカルという洞窟の調査に出ており、依頼を終えて帰ってきたばかりだという。街の門が閉ざされており、戒厳令で締め出しを食らったのだが、ウィスパーズ大学のツテで秘密のポータルを使い、こっそり大学には帰還できた。しかしホッとしたのも束の間、報告もそこそこに次の面倒事を頼まれたのだという。


「こんなことなら戒厳令が解除されるまで、もう二、三日ゆっくりしておくんだったな・・・」


「ボクらがいまここに居るのも、その戒厳令のせいなんだけどね」ブラッキーは自分たちが2回も禁を破って、ここに送られてきた経緯を語った。


「なるほど・・・そういう事情なのだな。我らはすべて、戒厳令を無視したからここに集められたという訳か。キナレスもびっくりの因果だな」ナターシャはそう言って笑った。「学長は"とにかくすぐ行ってくれ、話は船で聞け"って言うから、訳も分からず困っていたところなんだ。ようやく自分の役割が分かったよ」彼女はそう言うと、凍り付いた甲板の上で大きく伸びをした。


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「そういえば・・・その戒厳令は解除されたようだぞ」


「えっ? いつ?」


「昨日の朝、出航するほんの少し前だ。あたしが乗込むときに港で聞いたんだが、今頃は門も開いているんじゃないかな」


従士たちが行った戒厳令解除の上奏にエリシフ暫定首長は最初難色を示したが、東帝都社やソリチュードの職人組合の嘆願もあって予定より早く実現していた。トリグ王の喪が明ける前に門を開く条件として、盛大な葬儀を別途執り行う事を従士たちは約束させられたが、ともかく、あまりに長くソリチュードの通商活動を停止させるわけに行かないのは事実であった。
この件に関しては暫定首長であるエリシフの感情はともかく、普段牽制し合うファルクとエリクールも一致した意見であった。


霧に包まれた亡霊の海は、その名の示す通りいつ亡霊が現れてもおかしくないぐらい静かであった。見張りを残して退屈しのぎの賭け事に興ずる海賊達。その様子を尻目に、ブラッキー達も変化に乏しい海上にそろそろ退屈が溜まってきた。


ナターシャも所在なげに甲板上を歩き回っている。すぐに一周できてしまうため、何度もブラッキー達の前を通り過ぎる。
「本当に襲撃があるのか?」


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「奴らは海に出る手段を持ってないはずだから、襲撃ではないと思うんだけど・・・、きっと何か良くないことが起こるのだけは確実だよ・・・だから先にアイスランナーに辿り着くのが重要なんだ。」


「しかし、この霧の中で一隻の船を探すって言うのは、えらく大変だな。自分たちの周りに何もないんじゃないかって思えてくる」


「実際、何もないけど、アイスランナー、本当に来るよね?」


「の筈だが・・・」
指揮官を任されているメラランも、少し不安げだ。それぐらい何もない。レッドウェーブの船員に声をかけて確認する。


「どこかですれ違った可能性はないか? もうとっくに会合していても良いと思うんだが・・・」


最初に声を上げたのはレッドウェーブの一等航海士のサビン・ナイッテだった。メラランに言われて海図を見直しているが、首をかしげている。「おかしいな、あたしたち流されてるか?」


「どうした?」仲間達が集まってくる。


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「どうもこの船の位置がおかしいんだ。あたし達は灯台を背に、やや東側にいた筈なんだが、その灯台がほんの少し右にずれているんだ。ほら、今は灯台が真後ろに見えるだろ?」よほど注意していないと気付かないくらいの、そんな僅かな違和感。「船が西に流されている?」


「それは無いだろ、昨日からここらは無風だ。海流の向きは知り尽くしている。船が流されたわけではない・・・それに碇を降ろしているんだから」


「じゃあ、このずれはどう説明するんだ。くそっ、星が見えれば間違いないんだが!」


ソリチュードを目指す船はすべからく灯台を道標にする。上空が雲に覆われ星が見えない日でも、灯台の炎は海面上に漂うように視認できるからだ。真北から接近するアイスランナーは灯台の明かりを斜め右前方に見ながら、灯台の東側を通り過ぎる。レドウェーブはその進路上で待ち構えていた、・・・はずだ。


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「なんか灯台の明かり、ちょっといつもより暗くないですかね?」


賭け事をやっていた者達も、航海士の話を聞いて集まってくる。


「くそっ、ドゥーマーの遠見のレンズでもあれば、しっかりと見えるんだがな」


船長のサフィアも毒づきながら、船尾の向こうに見える灯台の明かりに目を凝らしている。


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メラランがそれを聞いてナターシャの方を向いた。


「ウィスパーズ大学の方は召喚術が得意と聞いています。なにか飛ばして、見ること出来ませんか?」


「ああ、その手があったか・・・」


ナターシャが簡単な印を描くと、手のひらにマジカの鳥が現れる。


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「あまり遠くまでは飛ばせぬが、どうだ・・・いけるか?」空に放つと、鳥は南の陸地に向かって飛んでいく。


船上の皆が見守る中、彼女の端正な眉が徐々にひそめられてゆく。


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氷点下にもかかわらず額に汗が浮き上がった。


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限界まで飛ばしているのだ。使い魔を飛ばすだけであれば簡単な召喚魔法だが、その使い魔と視覚を共有したままリンクを途切れさせないというのは相当の精神力を必要とする技であった。


やがて、大きく息を吐き出すと、彼女は魔法を遮断した。


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「何か見えた?」


「ああ」ナターシャが発した言葉に、レッドウェーブ上の誰もが耳を疑った。「あれは灯台じゃない。浜辺で盛大な焚火を焚いている。その明かりだ」


「あっ!」


ブラッキーとメラランは顔を見合わせた。
最初に戒厳令を破って、エリクールに見つかって空中回廊の反対側まで偵察に行ったとき、浜辺で大きな火を焚いている一団がいた。あの焚き火だ!
"どうせ火を焚いて野営するなら、もっと岩陰とか風を避けれる場所にすれば良いのにね"、その時彼女が漏らした感想・・・しかしそこで火を焚く事には意味があったのだ。


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「あれが浜辺の焚火だってんなら、灯台はどうなったんだ?」


「消えてる・・・というか消されたんだ!」


陸の方では、従士ブライリングに率いられた小隊が灯台に到達していた。彼女たちの部隊は灯台守は惨殺され、灯台の火受けが徹底的に破壊されているのを発見していた・・・しかし遠く海上にいるブラッキー達には、それを知る術はなかった。


「灯台を偽装しているのか!」メラランはサフィア船長の元に駆け寄った。


「あれが灯台だと思い込んでいるとして、そうなると・・・アイスランナーの航路はどうなる?!」


「ここよりもかなり東を通過することになる。でもあの辺りは・・・ああっ、まずい!」


騙されたアイスランナーの向かう先は、カース川河口デルタの湿地帯。目印となる地形もなく、干潟と暗礁が連なる場所であった。この霧では真っ直ぐに浅瀬に突っ込んでいくだろう。


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ちょうど日が沈む頃だ。レッドウェーブの船上は俄かに慌ただしくなった。碇が巻き上げられ、帆が張られる。この時期はあいにくと南風だ。間切りながら風に向かって進まなければならない。彼らはブラッキーとケイド、ナターシャとメラランも含めた総出で船を転進させた。ここまで二日かけてゆっくり来たが、直行してもこの海域に来るのに半日は掛かる。どんなに急いでも戻るのにも同じかそれ以上掛かるだろう。彼らは夜通し、必死になって船を操った。


航海士がスカイリムの北岸を見つけた報告をしたのは、もうすぐ日が昇り始めようという頃であった。やや右前方にソリチュードのアーチが見えてくる。正面には偽の灯台。アイスランナーがいるとすれば、そこから東に逸れたどこかだ。


「いたっ! いたぞ! おい、船が座礁してる!」


モーサル領土側の海岸に乗り上げている船がある。彼らの危惧する通り、視界の悪い中偽の灯台を信じて一直線に浜辺に突っ込んだようだ。岩は海面下に隠れている。そのため遠目には海が続いているようにしか見えない、通常なら船は近寄らない厄介な難所だった。


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「あまり近づきすぎるな! あの船の二の舞になるぞ。小舟を降ろせ!」
サフィア船長が指示すると、二艘のボートが海面に降ろされる。守りに戦士ドリアンを残し、メララン達四人、レッドウェーブの四人はそれぞれ小舟に分乗してアイスランナーに接近する。


「襲撃者達が残っているかも知れないから用心しろ!」




・・・




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レッドウェーブの船員が一通り捜索して戻ってきた。


「どうだ?」


「ダメだ、皆殺しにされてる。荷物も殆ど持ち去られた後だな・・・」


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メラランはうなだれていた。彼らの予感は的中していた・・・悪い方向に。


アイスランナーを守ることは出来なかった。


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ブラッキーは荒らされた船室の中で、手を付けられてない箱がある部屋を発見した。

入り口と中にはエルフが倒れている。装備から見るに、サルモールの下っ端のようだ。


一般の船まで利用して、いろいろなことを画策してるんだな、と思いながら彼女は部屋に踏み込んだ。


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貴重品は皆持ち去られていたが、鉱石の類いは重いし運ぶのに手間取るのか、すべて残されていた。


様々なインゴッドの詰まった箱からこぼれ落ちている石の中に、彼女は見覚えのある形を認め、手に取った。


「あれっ? これなんでこんな所に・・・?」


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キルクモアで見つけた謎の鉱石が運ばれているのだ。


地下室の鍵になっている謎の石がなぜここに?


(・・・この石はキルクモア産ではないって事?)


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思案し掛かった彼女は、表から響いてきた叫びに意識を引き戻された。


「ケイド、大丈夫か?」


船室から出て戻ってくると、ケイドの背中を船員の一人がポンと叩いて介抱している。襲撃の惨状を見て吐いてきたらしい。


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「だっ、大丈夫。タダの船酔いだよ」
ケイドは船員の腕を払いのけると、なんとか自分の脚で立ち上がった。


「強がんなくたっていいぞ、坊主。みんな最初はそうだ」介抱していた船員が声をかけているところにブラッキーも寄ってきた。


「でもまぁ、ここまでやるってひどいもんだね」


「そうだな。俺たちでもやらねぇってぐらい、派手にやってるな。ブラックブラッド・・・その名に違わぬ、黒い血の流れた連中ってか・・・」アイスランナーの内部はそれぐらいひどい有り様であった。


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こうなってしまうと彼ら私掠船の乗員達に出来ることはもう殆ど何もなかった。海の上で戦うのが彼らの本分であり、その戦う相手は姿を消してしまっている。一旦レッドウェーブに撤収して、彼らは待機することにした。ブラッキーとケイド、ナターシャも甲板に戻ってきていた。
メラランだけが座礁現場に残り、近くの衛兵駐屯地と連絡を取り、港から衛兵隊を呼び寄せたり、現場検分をしたり、次々と処理をしていく。


「悔しいなぁ! あいつらに出し抜かれるなんて」
落ち着くと今度は腹を立て始めたケイドの相手をしながら、ブラッキーは先輩風を吹かせていた。


「冒険してたらこんなことしょっちゅうだよ。自分が次にこうなるかも知れないし。それでも憧れるもんなの?」


「ちょっと驚いちゃっただけだって! うえっぷ・・・。 そんなこと言うけど、ブラッキーだってこういうのに憧れて、その結果今こうしてるんだろ? ボクとの違いは経験だけじゃないか」


「あはは、言ってくれるね。ボクはずっと戦士として生きてきたからね。そう簡単にその差は埋まらないよ」
にやりと笑う。


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3人は甲板上でなんとなく並んで、離れた向こうのソリチュードを見ていた。
「この結果では報酬も望み薄だな」ナターシャもぼんやりとつぶやいた。「ちょっと働き過ぎだ。少し休みたいぞ、あたしは」


「・・・一足早く街に入ったのはいいが、何もいいことはなかったな。面倒なヨキアムに付き合わされたし、そのまま船に乗せられて・・・こんなことならアルフ達とブラックバレル亭でゆっくりしておくんだったな・・・ん?あたしの顔に何か付いているか?」


ナターシャはブラッキーがまじまじと自分の顔を眺めていることに気付いた。


「垂れ耳のエルフっていうから、まさかとは思ったけど、大学じゃないし。やっぱり違ったなぁ・・・」


「ん? エルフがどうしたって?」


「いや、ボクの探している姉ちゃんが、姐さんと同じ垂れ耳エルフなんだ。ソリチュードに来るはずなんだけどね」


「ふ~ん。特徴は?」


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ナターシャは興味を引かれたようだ。アルトマーとブレトンの混血はハイロック辺りでは希に見かけるが、スカイリムやシロディールでは滅多におらず珍しい。


「えっとねぇ・・・、エルフとは言っても純粋なエルフじゃなくて。アルトマーとブレトンの混血なんだって。・・・耳が出ているだけで、見かけがブレトンと変わらないところはナターシャ姐さんと一緒だね」
ブラッキーは東帝都社のカウンターでしたのと同じ説明を繰り返した。


「で、ボクよりちょっと年上。薄緑の髪で、垂れ目で・・・。あ、左側に涙ぼくろがあるね」


ナターシャは何かを思い当たるような顔をしている。

「慌て者で涙もろくて、ちょっとドジとか?」


ブラッキーは首を縦に、大きく頷いた。


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「もしかして、そのエルフはイェアメリスって言わないか?」


ブラッキーは飛び上がった。
「え~! なんで知ってるの?!」


「なんでと言われても、ソリチュードまで一緒に来たからな。あたしは訳あって一日早く城内に戻ったが、戒厳令はとっくに解けているはずだし、今頃街に入っているんじゃないか?」


ブラッキーは身を乗り出した。ようやく追いついた・・・というか捕捉した!


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「入城できない間はあたしらと一緒に、城下町のブラックバレル亭に泊まってたんだ。中に入れるようになったら、たしかウィンキング・スキーヴァーに宿を変えるって言ってたぞ。まあ普通の旅人なら、城内にはあそこしか泊まることないからな」
食いつかれてナターシャはちょっとびっくりしたように説明した。


「もうシャフトは使えるんだよね! 街には入れるんだよね?!」
すぐにでも飛び出していきそうなブラッキーであったが、座礁したアイスランナーの調査には午前中いっぱいの時間が必要だった。
結局彼らが港に帰り着いたのは、昼を過ぎてからであった。




・・・




霧も晴れた午後、ブラッキーとケイドは無事、ベイランドの家に戻ってきた。


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ナターシャの言った通り、戒厳令は2日前に解かれ、街には人通りが戻っていた。彼らの暮らす職人街では既に槌の音が響き始めている。シャフトへの出入りも同じように解禁されており、街にも港にも活気が戻っていた。


メラランとナターシャが着いてきてくれたお陰で、彼女たちは大目玉を食らうことはなく、正直に体験した出来事を親方達と話し合うことが出来た。ストームクロークの逃亡を助けたロッグヴィルが処刑されたこと、ブライリングが突入した灯台では、灯台守達が惨殺され、火皿が破壊されて復旧に時間を要することなど、ブラッキー達の見ていないところでも大きな事件がいくつか起きており、彼らは知っていることを興味深く共有したのだった。


「・・・でね、そういうわけなんだ」


二人が盗み聞きしてきたブラックブラッド略奪団の話を聞くと、たまたま訪れていたアハタルは物騒な顔をして笑った・


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「ハッ、そんなところに隠れていやがったのかハーガーは。・・・ジャリー・ラの思惑に乗るのは気に食わんが、残されたアイスランナーを使って罠を張れば、二人並べて首を刎ねてやるのはそう遠いことじゃなさそうだな」


ブラッキーは話が一巡すると、早速ウィンキング・スキーヴァーを訪ねた。相変わらず、ぽよっとした感じで過ごしているのだろうか。思い描くと、イェアメリスの顔が懐かしくなった。


「よう、嬢ちゃん。また会ったな」
ソレックスが宿の前でガラクタを片付けている。城門前広場に面していたウィンキング・スキーヴァーも、ウルフリックのシャウトで少し被害を受けたようだ。


「ずいぶんな被害に遭ったみたいだね」


「ああ、うちはまだマシな方さ。吹っ飛んだ看板付け直しただけだからな。今片付けているのはどこからかすっ飛んできた別の店の破片さ。エヴェットのところとかはほら、扱ってるのがワインだろ? 折角再入荷したスパイス入りワイン、全滅させられちまったらしいぜ。あ、今日はうちに用かい?」


「うん、姉ちゃんが泊まってるんだ!」


ブラッキー達は宿の扉を開けた。客も大勢戻っている。歌声が店内に響いている。人気の歌姫リセッテが、ちょうど新しい歌を披露しているところであった。彼女は邪魔をしないように客の間をすり抜け、姉の姿を探した。


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 乾杯をしよう 若さと過去に


 苦難の時は 今終わりを告げる


 血と鋼の意思で 敵を追い払おう


 奪われた故郷を 取り戻そう


 ウルフリックに死を! 王殺しの悪党!


 討ち破った日には 飲み歌おう


 我らは戦う 命の限り


 やがてソブンガルデに 呼ばれるまで


 それでもこの地は 我らのもの


 今こそ取り戻せ 夢と希望を


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一曲が終わり、リセッテは喉を潤すと、次の曲に取りかかった。誰もが知っている"赤のラグナル"、軽快な曲だ。


「おかしいな。客室の方かな? アスヴァレンのあんちゃんも居ても良さそうなんだけど」


「買い物に出ているのかもよ」


ケイドは探し人の人相風体を知らないので、おとなしくブラッキーに着いていくだけだ。面倒なので、最後にブラッキーはカウンターの主人に聞いてみることにした。特徴を伝えて居る場所を聞く。


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「え?!うそ! どういうこと?」
ブラッキーの大声に、店内の客達が振り返った。


「だから、その客達ならもう出立したって言ったんだよ。昨日の昼ぐらいだったかな?」
宿の主人コルプルスは、そう怒鳴られても困る、といった表情でブラッキーの剣幕に応対していた。


「昨日の今日だよ?! なんで! どこ行ったのさ!」


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「そんなこと言われたって・・・」


「ああ!もうっ!」


イェアメリス達は出立してしまった後であった。


呆然とするブラッキーの横で、ナターシャが少しうわずった声を上げた。


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「おい、行き先が分かったかも知れん」


「えっ?!」


宿の主人はアルフレドからナターシャへの伝言を預かっていた。


その紙切れに目を通すと、ブラッキー達にも見えるようにカウンターに置いて見せた。


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=*=*=*=*=*=


ナターシャへ


残念ながら約束を果たせそうにない。スパイス入りワインは売り切れてしまっているようだ。
ドゥーマー遺跡の話を肴にあんたと酒を酌み交わすのを楽しみにしていたんだがな。


あ、そうそう。慌ただしい話だが、ここを発つことにした。
メリス達が内陸の方に向かうというので、ホワイトランまでの護衛を買って出たんだ。


あんたもスカイリムを旅しているんだったら、一度ホワイトランにも来るといい。
俺はそこを拠点に活動している。仲間と共に歓迎するよ。ワインのおごりはそれまでお預けだ。


それでは、短い間だったが世話になった。


互いに生きての再会を祈念して


4E201  降霜の月10日 アルフレド


=*=*=*=*=*=


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伝言の日付は昨日だった。


ブラッキー達が洋上にいる間に、イェアメリス達はソリチュードに入り、なぜかすぐに出発してしまっていた。


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「ということらしい。どうするんだ」


「追わなきゃ!」


「ついて行ってやりたいが、あたしもまだしばらくソリチュードでやることが残ってるからな。・・・でも、まだ旅は続けるつもりだ。どこかで会うかも知れないな。追いついたら、メリスとアスヴァレンによろしく言っておいてくれ」


「うん。姐さんも元気で! すぐにとっ捕まえて、一旦ここに帰って来るつもりだよ」


「ふふ、たのもしいな」
そう言うと、ナターシャは片手を上げ、大学の方に帰って行った。




・・・




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槌の音も止み、夕方の鐘が鳴る頃、ブラッキー達は職人街の外れにいた。出発の準備を整えたブラッキーが、ベイランドの家族、師匠のウンガー、見届けに来たメラランに別れの挨拶をしているのだ。


「ホントに今日行かなきゃならないのかい? そんなに急がなくても、行き先は分かっているんでしょ?」
おかみのセイマも急な話に驚いている一人だ。


「うん、でも行き先分かってたこのソリチュードでもはぐれちゃったからね。少しでも早く追いつきたいんだ」


「せめて夕飯食べて、寝てからでも・・・。ケイドもこんな時にどこ行っちゃったのかしら。ねぇ、あなた」


「あ、ああ・・・」


「馬車で寝るから大丈夫。それより・・・」ブラッキーはベイランド夫妻に向き直った。


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「アハタルのおっちゃんは罠にはめてやるとか言ってたけど、ジャリー・ラはボクらが思ってるよりもずっと狡賢かった。それに今もどこに居るか分からないからホント気をつけてね。ボクが計画を盗み聞きしていた事も、ここに居候させてもらっていた事も知らないと思うけど、恨みを買ってないとも限らないから」


「ああ、わし等は大丈夫だ。お前さんの活躍で、今まで口をきいたこともなかった従士たちとも、いつの間にか知り合いになってしまったしな」

ベイランドは笑って請け負った。


「あはは、ごめん。どうしてもじっとしていられない質みたい・・・」


ウンガーの方はやはり心配そうだ。
「お前さんをスカイリムに残していくってのはなぁ・・・内戦もあるし・・・」


「それを言うなら、メリス姉ちゃんの方が心配でしょ。何やってんのか知らないけどさ、連絡も寄越さないで」


「まあ、そうだが」


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「大丈夫だよ、ボクが強いの知ってるだろ。”切り裂き”だって撃退したんだ」


ブラッキーはウンガーと別れてイェアメリスを追うことにした。親方は実際のところ一緒に行きたがっていたが、島の重要な役割を持ってキルクモアから来ている以上、いつまでもソリチュードに居続けるわけにはいかない。後ろ髪を引かれる思いでこの場に立っていた。


「お前さんの修行はまだ始まったばかりだからな。必ず戻って来いよ。跡継ぎをまた一から捜し直すなんてごめんだからな」


「スカイリムで困ったらソリチュードに来い。ここにはお前さんの仲間が居ることを覚えておくんじゃ」


口々に名残の言葉投げかけられる。


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「お前が行ってしまうと、エリクール様の愚痴は全部私に来るんだが・・・まあ、仕方ない。達者でな」


「メラランのおっちゃんも色々ありがとね。あまりストレス溜めると禿げちゃうよ? 島にいるボクの後見人も心配事ばかりで、頭ツルッツルなんだ。・・・エルフって人生長いんだろ? エリクールの兄さんより先に禿げたら負けだよ」


「何言ってる。アルトマーは禿げんのだ」


「あはは、ホント? ・・・さて、と・・・」ブラッキーは荷物を担いだ。
「もうすぐ門限だから、そろそろ行かないと街から出られなくなっちゃうね。・・・さすがに今回抜け出したりしたらエリクールの兄さんに何されるか分からないから」


そう言うとつづら折りの坂道を駆け下りてゆく。


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「じゃ、行ってきます!」


少女の姿はあっという間に見えなくなった。


「あの子達に八・・・九大神の加護がありますように・・・」
ベイランドはそう声を出すと、ポン、と元弟子の肩に手を置いた。




・・・




「さて、と。馬車はこの先だったかな」
城下町を通り過ぎ、街の外門を抜けると、ブラッキーは見張り塔の脇に停止している馬車を見つけた。


「こんばんわ。遅い出発だな。この馬車はドラゴンブリッジ、ロリクステッド経由のホワイトラン行きだ。行き先違うなら他を当たってくれよ」


「ううん。それでいいよ。先払い? たしか50セプティムだっけ?」


「ああ、早く乗ってくれ。他の客が待ちくたびれてるんだ」


「あ、ごめん。すぐに・・・」そう言ってブラッキーは後ろの荷台兼客席に腰を下ろした。もう一人乗客がいる。腰に剣を吊った若者のようだ。肩がぶつかってしまい謝ろうと顔を見て、彼女は驚きの声を上げた。


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「え~! ケイド?! どうしたの、こんな所で!」


「だって、行くんだろ?」
馬車のもう一人の客は、鍛冶屋ベイランドの息子、ケイドであった。


「え? 行くって?」
ブラッキーは口をパクパクさせた。


「姉さんを探しに行くんだろ? 僕も行くよ」


「え、ちょ、ちょっと・・・」


「大丈夫、親父には言ってあるから。槌をふるうのは何歳になってからでも出来るけど、山野を駆け巡って冒険するのは若いうちの方がいいって」


「そ、それはそうだけど・・・」


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「ブラッキー強いんでしょ? 散々言ってたじゃない。・・・まだちゃんと見せてもらってないし、教えてもらわないとね」


「冒険は十分、あれでもう満足したじゃなかったのかよ?」


「いや、ぜんぜん足りないよ。むしろこれからでしょ」


言い争っている二人を見て、御者が振り向いた。
「で、行くのか行かないのか? 馬車を出してもいいのか教えてくれ。時間通り着かなくなるぞ」


「ああ、御者さん、行っちゃって!」


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馬車は次の街ドラゴンブリッジに向かって、緩やかな斜面を進みはじめた。


「・・・お前、冒険に出たい出たいって言ってたのは知ってるけど・・・こんなのでホントに良いの?」


「誰にだって初めてはあるもんだろ? それは思わぬところから始まるもんだろ?」


「はぁ・・・」


ため息をつく彼女の横で、青年は楽しげに夢を膨らませている。


「あっ、そうだ。折角ホワイトラン寄るんだったら、伝説のスカイフォージも見てこなくちゃね!」


「はぁ・・・」




・・・




(ホ・・・ホ。面白いのう・・・)


ブラッキーはそんな声を聞こえたような気がしたが、轍をこする車輪の音をそう聞き間違っただけらしい。


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こうして、少女はいったん師匠と離れ、スカイリムの地で姉を追って旅をはじめたのだった。


それは驚きに満ちた旅の、ほんの一歩に過ぎなかった。



(第7話に続く)



※使用mod


・Skyrim topographic map( Nexus 36159 )
 ・・・スカイリムとその周辺の非常に精細なマップ。
 今回は海図にリソースとして使用させて頂きました。


・GLENMORIL( Nexus 77510 )
 ・・・完成が待ち遠しいVicnさんのクエストmod
 今回は禍々しい武器や小道具を使用させて頂きました


・Zuleika - Standalone Follower( Nexus 61249 )
 ・・・jdk and Robton and Kaos Wulfさま作の美人なお姉様フォロワー
 お話では狂った魔女役として使わせていただきました。


・Modder's Resource Pack - The Witcher Extension( Nexus 68755 )
 ・・・ウィッチャーの小物類をリソースとして追加するmod
 注射器などを使わせて頂きました。


・Hummingbirds- Mihail Monsters and Animals( Nexus 86335 )
 ・・・ハチドリを追加するmod
 ナターシャさんの召喚する使い魔に使用させて頂きましたヾ(๑╹◡╹)ノ"


※これでブラッキー君のソリチュード編はいったん終了です。

※次からは再びイェアメリスたちの冒険にフォーカスしますが、所々クロスオーバーしながらお話は進みますヾ(๑╹◡╹)ノ"



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