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4E201

TES大好き、もきゅがスカイリムの物語をお届けします

◆Chapter 2-4: 巨大なうねり

2017
14

ソリチュード城門前広場。


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声をかけてきたアルゴニアンの視界から外れるところまで離れると、ブラッキーは本能的に身を隠していた。奴隷商人たちと繋がりがあると思われる人物たち。いま少し様子を伺うべきかもしれない。身体の感触を確かめるため二三度軽くジャンプしてみたが、もう大丈夫そうだ。下船直後の揺動感はもう無くなっていた。


胡散臭い2人のアルゴニアンは、シャフトの方に向かって歩き始めた。港に向かうのかもしれない。2人を追いかけようと後をつけはじめた彼女は、入り口の鉄柵辺りで見かけた顔と鉢合わせた。先ほどそのアルゴニアンと話していたインペリアルだ。


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「ねえ、おじさん」


ジャリー・ラの誘いを断っていた人だ。そう思い出して声をかけてみる。インペリアルは見知らぬ少女に声をかけられて困惑の顔をみせた。


「なんの用だい、お嬢ちゃん。ウィンキング・スキーヴァーに部屋をお探しかい?」


「え? ウィンキングなんだって?」


「知らないのかい? ほら、あそこのスキーヴァーの看板の店。」

男は城門前広場に入り口を構える建物のひとつを指さした。


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「ウィンキング・スキーヴァー。宿の名前さ。俺はソレックス。いずれ宿の主人になる男だ」


「いずれ?」


「ええと・・・いいか。ウィンキング・スキーヴァーの主人は親父だ。これは家業だから、親父が死んだら俺のものになるのさ。そういう意味だ」


「ああ、宿の人ね。ちょうどいいや」
ブラッキーは声を落とした。


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「あのアルゴニアンたち、知ってる? さっき何か断ってたよね?」


ソレックスはシャフト内を進んでいくアルゴニアンを見ると、肩をすくめた。

「ああ、ジャリー・ラのことか? あいつとは関わり合いにならない方がいいぞ」


「どんな奴なの?」


「あいつはいつもあの辺りで」ソレックスは背後の、職人街に通じるつづら折りの入り口を指さした。「外からやってくる旅人に声をかけているのさ。ろくでもない儲け話のようだが、あれはきっと犯罪だ。衛兵にも目をつけられているらしい。嬢ちゃんもあんな奴の話聞いたらダメだ」


「うん。気をつけるよ、ありがとう」


「宿を探しているなら、ウィンキング・スキーヴァーだぞ。城壁内で安全、ソリチュードで一番の宿だ」しっかり店の宣伝を付け加える。


「ごめんね。もう泊まるところはあるんだ」
ブラッキーはつぶやくと、待たせている師匠の元に駆け戻っていった。


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「ブラッキー、どこに行ってたんだ? これからビッツ・アンド・ピーセズに行こうと思うんだ。世話になったおかみさんにあいさつしようと思ってな。ケイドもいるかな」


「ケイドって?」


「ああ、お前さんと同じぐらいの年頃の親方の息子だよ」言いながら、ウンガーは彼女がそわそわしているのを見てとった。「ん? どこか行きたいところでもあるのか?」


ブラッキーは大きくうなずくと、シャフトの方を指差した。
「おっちゃん。ボク、姉ちゃんの乗った船が着いてないか見て来ようと思うんだ」


彼女は理由を一つしか告げなかったが、急に生まれたもう一つの理由など、ウンガーには知る由もなかった。


「ああ、そうだな。それも大事な用の一つだ。分かった・・・のはいいが、迷わないか?」


「たぶん大丈夫。少なくともこの広場までは戻ってこれるだろうから。さっきのおっちゃんの師匠の家を訪ねればいいんだろ?」


「そうだ。迷ったら、ベイランド親方はどこ、って聞いたらいい。有名人だからな」


「うん、じゃあまたあとで! これから港に行ってくるよ!」
そう言うと、ブラッキーはシャフトに駆け込んでいった。


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シャフトを降りるとソリチュードの港湾地区に出る。城壁内からは隔絶されて河口沿いにへばりつくこの地区は、れっきとしたソリチュードの一部ではあったのだが、まるで別の町のようだ。商店から民家まで、道沿いに所狭しと建物が並び、ひとつの生活圏を成している。


シャフトを下りると道を挟んで斜め向かいに宿屋がある。海風に晒されてくたびれた感じの建物で"海賊亭"というちょっと物騒な名前がつけられていた。

まさか海賊がたむろしてたりはしないだろうが、ソリチュードに滞在するなら今度覗いてみようと心の中でメモにつける。


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引き上げられたボートが乾燥のため壁に立てかけられており、いかにも港町らしい。

彼女は町ゆく人が時々、地面に目を降ろして何事かしゃべり合ったりしていることに気が付いた。上層階のアーチが町に巨大な影を落としている。彼らはその影の位置で大体の時間を計っているようだった。


辺りを見回してみるが、残念ながらジャリー・ラたちの姿はもう消えていた。彼女は追跡を進めようか一瞬迷ったが、港にはもともと姉を探しに来たのだということを思い出し、まずは当初の目的に忠実に行動することにした。


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ブラッキーは先ほどウンガーに教えてもらったように、町の一本しかない目抜き通りを南に向かって歩き出した。ソリチュードの上層区画の崖下、と言った辺りだろうか。水と崖に挟まれた小道は急に上り勾配となり、何かを乗り越えるようにまたすぐ下りになった。


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「おっとっと、行き過ぎちゃったのかな?」


彼女は帝国軍の補給物資中継所の建物を通り過ぎると、辺りを見回した。まっすぐ行くとカトラ農園とソリチュード製材所、右上に上がっていくと道は弧を描いて城下町、そして正門に続いている。港への入り口はこの辺りにあるはずだった。行き交う商人や役夫たちの様子をしばらく観察し、道の脇から岸辺に降りる階段を見つけて、下に見える桟橋に向かう。


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カース川の終点であるこの河口は、川幅も広く水深も深い。そこに作られたソリチュード港は大型船も停泊できるだけの規模があった。川の西岸一帯に多数の桟橋がせり出しており、ノルド式の喫水の浅いロングボートから、外洋に出ることも出来そうな帝国の豪華船まで、さながらそこは船の博覧会であった。
対岸には湿地帯が広がり、崩れて沈みかけたノルドの遺跡群がモーサルという街まで続いている。湿地帯には食い詰め者や、港湾地区にもいられなくなったガラの悪い者たちが暮らしているという。


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ソリチュードの立地はアーチの断崖上という特殊なもので、それ自体が見どころのひとつであることは間違いない。しかし港には港で、訪れる者の目を引く別の名所があった。ひときわ大きな扉があるのだ。いや、大きなと言う言葉は適切ではない。巨人が並んでも優にくぐることが出来ようかという巨大な扉なのだ。下の方は水中に没しており構造をうかがい知ることは出来ない。港の側面の岸壁にしつらえられた巨大な扉。そう、それは人間用ではなく、船が通過するためのものであった。


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ブラッキーが先ほど越えてきた道の起伏は、ちょうどこの扉の上を通るものであったらしい。ソリチュードの岸壁に穿たれた自然の海蝕洞を利用して作られた、東帝都社の巨大ドックだ。


陸に広がる港湾地区から続く波止場地区は、その大半が水面に広がった桟橋で構成されている。桟橋と言っても一本の長い木の橋とは違い、網の目のように張り巡らされている上に、いくつかの建物まで存在しており、さながら浮島のようだ。商店や船大工、鍛冶屋まである。それ一つで田舎の村に匹敵する規模であった。


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彼女は興味深げにきょろきょろしながら波止場地区に入ると、桟橋の中央にある小さな建物に目星をつけて渡っていった。予想通り港湾事務所であることを確認すると、建物の近くに立っている中年に声をかける。


「おっちゃん、こんにちわ!」


「なんだい、嬢ちゃん。こんなところに。船乗りには見えないが」


「うん。ボク船を探してるんだ」


「どこに行きたいんだ?」


「違う違う、ここに来る船の方だよ。連れが乗ってくるはずなんだけど、もう着いてるかなと思って」


「ほう。で、どこから来るなんていう船だい?」


「ハイロックから戻ってくる筈なんだけど。エリクール商会って知ってる?」


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さすが首都の港で仕事しているだけあって、事務所の男は荒っぽいながらも対応はしっかりしている。建物の中に戻ると帳簿らしき束を抱えてきた。


「でもおかしいな」
パラパラめくりながら首をかしげる。「本当にエリクール商会の船なのか?」


「どうしたの?」


「従士エリクールが海運業に手を出しているのは有名だが、客船は扱ってなかったと思うんだが。いつの間にそんなに手を広げたんだ?」


「あ、言い忘れてた。姉ちゃんは貨物船に乗るって言ってた」


「それなら・・・えーと、どれどれ・・・あ、これだな。4日前に入港しているよ」
男は巨大ドックの対岸の桟橋を指差した。


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「あそこに泊まっているのが見えるかい? 3隻の中の真ん中の。そう、あれだ。貨物専用の船はリフトに近いあっち側の桟橋に付けることが多いんだ」


「遠そうだね。岸まで戻らないとだめ?」


「1セプティムあれば手間を省けるよ」職員の男は横に腰掛けて手持無沙汰にしている船頭を指差した。「おい、ちょっとこの嬢ちゃんをあっちまで乗せていってくれ」
よく見ると桟橋のあちこちに艀が係留されており、地続きになっていない場所への行き来を受け持っているようだった。


「あ! あとそれからな・・・」
職員の男は艀に向かうブラッキーを呼び止めた。


「お前さんこの町は初めてっぽいから警告しておいてやる。今は朝だからいいが、日が落ちる頃に鐘が鳴るから、それ以降は港湾地区を一人で出歩くなよ」


「え? それは規則か何か?」


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「いや、違うんだ」
職員は声を落とした。


「ひと月ほど前からなんだが・・・、殺人者が出るんだよ」


港湾地区のシャフトの通りには商店や酒場宿、艀貸し、衛兵の哨戒塔などがある。小規模な街として人もそこそこ多い。この辺りでしばらく前から殺人事件が相次いでいるのだという。衛兵が大規模な捜索を行ったこともあるが、元々雑然としていて物陰が多いこの地区は食い詰め者なども多く、残念ながら犯人を捕まえるまでには至っていない。


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犠牲者は物陰で殺されたあと、四肢を切り刻まれた状態で街路に放り出されているところを発見されるという。その特徴から犯人は"切り裂き"と呼ばれて恐れられていた。わずか1月の間に街の住人、旅人、船乗りなど既に10人近い死者が出ており、衛兵や商店などでは注意を呼びかける以上の対策が出来ていないと言うことだった。


職員が言うには、日が落ちるか落ちないかという頃、天気の悪い日は特に危険らしい。


「って訳だから、夕方の鐘が鳴ってからは出歩かない。可能であれば城壁内に宿を取る。そうお奨めしてるのさ」


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先ほど上層の広場で、ソレックスが自分の家の宿をやたら宣伝していたのをブラッキーは思い出した。城壁内で安全、ソリチュードで一番の宿、そう言うことねと納得しながら彼女は職員に頷いた。


「ありがとう。覚えておくよ」


ブラッキーは港湾管理の職員に改めて礼を言うと、船頭にセプティム金貨を1枚渡し、小型の艀に飛び移った。


船頭は身軽に飛んできた少女を見て少し驚き、そして笑いかけた。
「ショールの髭にかけて、威勢がいいな。船は初めてじゃないのかい?」


軽く会釈すると、指示された中央に腰掛ける。艀はブラッキーを載せてゆっくりとアーチの下、貨物用の桟橋群に滑って行った。


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対岸に着くと見覚えのある船が泊っていた。キルクモアで見たあの船だ。すべての荷を下ろした後だからだろうか、喫水線がかなり下がっており、海面上に舵の一部が見え隠れしている。船体が軽いためか緩やかに揺れる甲板の振幅はかなり大きかった。


艀で横付けしたブラッキーは辺りを見回した。船の周りは静まり返っており人気がない。この高さをどう上って甲板までたどり着こうか思案するが、どうにもいい案は思い浮かんでこなかった。そこで彼女は正攻法で行くことにした。


「おーい! 誰かいる~?」


2、3度目の呼びかけで、船の上に動きがみられた。当直の船員らしきものが顔をのぞかせる。


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「なんだ~。何か用か~? スタイレック船長なら丘に上がったぞ」


「これ、エリクール商会の船でしょ~? ちょっと教えてほしいことがあるんだ~」


船員の顔が引っ込むと、しばらくしてロープが一本垂らされてきた。上がってこいというのだ。ブラッキーは手に唾を吐くとパンと打ち合わせて、薄汚れたロープに飛びついた。
「お、嬢ちゃん、根性あんね。これ登ってこれるってことは経験者かい?」


甲板に上がったブラッキーを迎えたのは、4人の男たちだった。2人は当直の水夫だろう。残りの2人、ノルドとカジートは手足に環がはまっているところから奴隷だと見てとれる。船上奴隷は上陸を許されないが、船員たちが非番の時にはこうして甲板で日に当たることを許されていた。


「この船になんの用だい?」


「うん、連れが乗ってきたはずなんだけど、知らないかなと思って」


「連れ? この船は貨物船だぜ? 客は乗せねぇよ」


「あれ~、おかしいなぁ。錬金術師の女の人、乗ってなかった?」


それを聞くと船員たちは顔を見合わせた。思い当たる節があるというように、一人がうなずく。


「もしかして、あれ、あの途中で降ろした連中のことじゃないか」


「え、何それ。もうちょっと詳しく教えてよ」


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「船長いないときにぺらぺら喋るのはいただけねぇな・・・」
船員はすっとぼけたような顔をすると、仲間を見た。相方もうなずいている。それを見るとブラッキーは仕方ないといった感じで、回れ右をした。桟橋に降りようと舷側に手を掛ける。


「そっか。おっちゃん達、仕事邪魔しちゃって悪かったね。じゃあ、ボク丘に上がってスタイレック船長とやらを探すよ。きっと海賊亭とかにいるんでしょ? 丁度、冷たいエールを一緒に飲れる相手が欲しかったんだ」


効果はてきめんであった。


「ま、まて」


「どうしたの? 船長に無断でいろいろ話しちゃいけないんでしょ?」


さも残念そうに一度振り返る。


「か、考えてみれば、そんな些細なことで船長を煩わせちゃいかんよな。そう思うだろ、相棒」


「うむ。そうだな。ここは当直を任された我々が対応するのが正しい。そうだな、お前たち」奴隷のカジート達にも念を押す。


「カジートも混ぜてもらえるのなら、歓迎だ」


「エールなんてしばらく飲んでないからな。グロックには飽き飽きしていたんだ」
口々に同意するのを見ると、ブラッキーはポケットに手を突っ込んで、小さな小銭入れを取り出す。それを船員に渡した。


「5、6枚入ってると思う。酒代にでも使って」


互いの警戒を解くための簡単な儀式のようなものだったが、ブラッキーは水夫たちに認められたようだ。


「ありがとよ。で、聞きたいことって何だい?」


「途中で降ろした連中って言ってたよね、どういうこと?」


水夫は話し出した。


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「寄港したキルクモアって言う島で錬金術師の男が乗ってきたんだけどよ、出港間際になってもう一人増えたんだ。そいつの連れってことらしいが、エルフの女でな・・・」




・・・




夕方、鍛冶の仕事を切り上げたあと、ウンガーとブラッキーの師弟はベイランド親方の家に厄介になっていた。街をあちこち探検してきたブラッキーが戻ってきたとき、一足先に到着していたウンガーは既に一杯目のジョッキを空にしたところだった。


「おお、おお! 今日の主役が登場したぞ!」


ベイランドの口上にびっくりして、ブラッキーは師匠を見た。


「ちょうど、お前さんの話をしておったところだ」
ウンガーは上機嫌だ。


「どういうこと?」
訝しむブラッキーに、ベイランド親方が脇に立っている息子を紹介した。


「いや、うちのケイドがな、冒険者ってもっと強そうだと思ったんだけどな、とか失礼なこと言うから、お嬢ちゃんのキルクモアでの戦いの話をウンガーに披露してもらっていたところなんじゃ」


「やめてよ、恥ずかしいなぁ」


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「ねぇねぇ、ねえさん。黒覆面の戦士って強かった?! オークってどんな風なの、それからそれから・・・」
年のころは彼女と変わらないか少し上に見える。目を輝かせてブラッキーを見つめていた。


「これこれ、お客さんを困らせたらだめでしょ」ベイランドの妻セイマは諌めると、ブラッキーに椅子を用意してくれた。「ちょっとあっちに行っときなさい」


セイマはテーブルに並んだ食事をブラッキーに勧めた。
「部屋はあとで案内してあげるから、まずはお腹を満たしなさいな」


「ねえさん、しばらくうちに泊まるんだろ。また話聞かせて!」
そう言って奥に駆けてゆく。手を振って見送ると、ブラッキーはウンガーを見た。


「家族って、いいもんだね」


「ん?」


「いや、ボクは親を知らないからさ」


そう言う彼女の頭の上に、ポンと手が載せられた。武骨で大きい、ウンガーの手。
「エドウィンや兄貴のカグダンがいるじゃないか。わしにとってもお前さんは弟子だが、娘みたいなもんだ。もうお前さんは家族に囲まれておるんだ」


「娘? 息子じゃなくて?」


「ああ? 息子扱いの方がいいのか? 俺ぁどっちでもいいぞ」


「おっちゃん酔ってるね」


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「ハハッ、そうか?」

笑うウンガーを見ながら、ブラッキーは少し遠い目になったが、やがていつもの不敵な目に戻ると、ニヤッと笑いかけた。


「そうだね。家族だね。頼りない姉ちゃんもいるし」
そう言って串焼き肉を頬張る娘に、ウンガーは訊ねた。


「そう言えば、メリスとは会えたのか? ここに連れてくればよかったのに」


「ううん。ダメだったよ、おっちゃん」


ウンガーはジョッキを置くと、身を乗り出した。
「ダメ? どういうことだ?」


「メリス姉ちゃんの乗った船は見つけたんだけど。そこの船員に聞いたら、密航者を匿ったとかなんかで下船させられたんだって」


「なんと! また厄介ごとに・・・」


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「姉ちゃんのことだから、なんとなく想像つくけど・・・ボクみたいなのに情けをかけたりしたんじゃないかな?」


「それはいい。で、どこで降ろされたって?」


「ハイロックのファーラン」

ウンガーとベイランドは目を見合わせた。

「ファーラン?! また随分と手前だな」


「その・・・」


「ん? なんだ?」


「ファーランの沖で降ろされたんだって」


「なんだって?!」
即時下船というのは、船乗りたちの間では置き去りと同じく、表現を変えた死刑宣告のようなものであった。ベイランドも驚いてマグを取り落としそうになり、セイマが慌てて支えた。


「あ、そんなにびっくりしないで」
ブラッキーは補足するように言いつのった。
「沖とは言っても岩場続きで陸まで行けるとこらしいし。それにいい話もあるんだ」


「いい話だと?」
オウム返しに聞き返すウンガーを安心させるように弟子は付け加える。


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「どうやら、アスヴァレンのあんちゃんも一緒みたいなんだ。姉ちゃんは頼りないけど、あんちゃん居れば何とかするでしょ」


「そ、そうだな・・・」


ウンガーはホッと胸を撫で下ろした。キルクモアを救った立役者の一人。背の高いダンマーが一緒なら、そうそう危険はないと思われる。


「エドウィンになんと報告したらいいか、悩むところだったよ。・・・ところでおまえさん、それ以外に何か用があって来たんじゃろ?」


イェアメリスの小屋の地下室で見つけた日記の秘密・・・、ブラッキーは姉を追わなければならなくなった本当の理由は誰にも話していなかった。


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「ま、まあ・・・今日明日でどう、ということではないことだよ・・・」


半分自分に言い聞かせるように言ったが、焦りは気づかれずに済んだ。


日記にはイェアメリスの秘密が書かれていた。それを知っているのはブラッキーだけだ。島に戻ってくるまで待ってから伝えようかと思ったが、姉の行動次第で刻限は短くも長くもなる。姉が日記の内容を知らないことを考えると、時間に猶予がどれぐらいあるか分からない。知らせるなら早い方がいい。


誰にも伝えられないまま、しかし幸運が重なって何とかこのソリチュードまではたどり着いた。しかし既に予定は狂っている。島で待っていなくてよかったとブラッキーは感じていた。
つまみを手に取りながら、ウンガーがブラッキーに問いかける。
「親方との商談はここで何とかするとしても、メリスをどうすべきだろうな?」


「ファーランって遠いの?」


「ここからまだ相当西だよ。スカイリムと隣接している王国に入って・・・国境を越えてから3つぐらい先にある街だ。探しに行くか、このまま待つか・・・」


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テーブルを囲むベイランド夫妻は少し心配そうに弟子たちを見た。


「その娘さんは、この街に来るのよね?」


「うん。そう手紙に書いてあったんだ。それにエリクール商会の船員も、そんなこと聞いたって言ってたから、間違いないと思う」


「無闇に探しに行って会えるとは限らんからなぁ。この街に来るのが分かっているのなら、待つのがよかろう」


「だよね。待つのは苦手なんだけど、探しに行く先も分からないから。・・・あっ、明日になったら東帝都社の事務所に行って、私書通信・・・だっけ? 手紙を残してくるよ。姉ちゃんが事務所来たら分かるように」


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「ふむ、それがいい」




・・・




次の朝、ブラッキーは再び港にきていた。姉に宛てた通信文を送るためだ。東帝都社では特定の社員に対して伝言を送ることが出来る。この時代の海運を牛耳る東帝都社は、軍隊にも真似できないような広範囲の配達の仕組みを持っていた。


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彼女は事務所がどこにあるか分からなかったので当てずっぽうでドックの方に向かったが、どうやら間違った方に来てしまったらしい。貨物の積み卸しをする船が並ぶ端の方、行き止まりに来てしまった彼女は、あたりを見回してため息をついた。


広い桟橋にノルド式のロングシップが横付けされており、その脇の貨物置き場には何やら細長い木の箱が沢山並んでいる。どこかで見たような箱、少し不気味な感じがする光景を見て、ブラッキーは近くに居た水夫に声をかけた。


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「あの・・・ここって貨物船の場所、だよね? ボク東帝都社の事務所に行きたいんだけど・・・」


水夫は名物になっている巨大な水門を指さした。
「東帝都社だって? それなら方向違いだ、あの大きな門のとなりにあるよ」


ブラッキーは礼を言うと、木箱を避けるように桟橋を戻ろうとした。


「あ、気をつけてくれよ。その箱に蹴つまずかないようにな」


浜風がふと止んだとき、彼女は妙なにおいを感じて、水夫に尋ねた。


「ところでこれ、一体何? それもこんなにいっぱい並べて」


「これは棺だよ」


ブラッキーはびっくりして足を引っ込めた。この箱は棺だというのだ。よく見ると何十という数が桟橋に並べられている。棺には、帝国軍兵士の死体が入っているのだった。


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ストームクロークの反乱の鎮圧のため、帝国軍はスカイリムの各地で戦っている。中でも現在激しい戦いが行われているのがリッケ軍団長の派遣されているドーンスター方面の戦線だった。ドーンスターはソリチュードと縁戚でったこともあるスカイリム北部の港町だが、現在の首長スカルドは、反乱がはじまって真っ先にストームクロークについており、都市間の関係は最悪だった。


首長の排除のためにリッケ軍団長が派遣され、しばらくは優勢だった。しかし先週になり相手側にストームクロークの本拠地からガルマルという将軍が派遣されてきてからというもの、急に帝国軍の戦死者が増え始めたという。


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うっすら臭ってきたのは、死臭・・・、ブラッキーの目の前に停泊している船は、行きはドーンスター方面に向かう補給船であり、帰りは戦死した者達、その亡骸を家族の元に返すために持ち帰る船でもあったのだ。


(うへぇ・・・)


なんとも言えない気分になりながら棺の間を抜けると、ブラッキーは別の桟橋に向かった。


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水夫が教えてくれた巨大門の脇の桟橋。こちらはみなと本来の姿とでもいうべき活気があり、たどり着くまでに何人のも役夫とすれ違った。それらに混じって水門に向かおうとすると、今度は港湾衛兵に止められてしまった。衛兵いわく、東帝都社の関係者以外はここから先は立ち入り禁止なのだそうだ。


おざなりにブラッキーを追い返そうとした衛兵だったが、彼女が私書通信用の証明書を見せると、態度を改めて横にある事務所を指さした。


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カウンターの中に職員らしき男を見つけ、彼女は声をかけた。


「お兄さん、景気はどうだい?」


「大忙しさ。有り難いかどうかはともかく、内乱のせいでウインドヘルムの倉庫が閉鎖されちまったから、荷が全部こっちくるんだ」


「へぇ。ところでボク、この手紙送りたいんだけど」

彼女は昨日の晩にしたためた、イェアメリスへの手紙をカウンターに差し出した。


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「証明書と手紙、見せてみ・・・ふむ。2通あるようだがどこまでだい?」


「うん、内容は同じなんだけど、どこで相手が見つかるか分からないから・・・ひとつはストロス・エムカイ。もう一つはこの事務所で預かっといてもらえる?」


「ここで?」


「うん。ボクの姉ちゃんが社員なんだけど、順調なら数日中にソリチュードに着くと思うんだ」


「オーケイ。ゼニタールの耳にかけて、訪ねてきたら渡しとくよ。参考までにどんな外見だい?」


「えーっと、エルフの混血でボクよりちょっと年上に見えるよ。薄緑の髪、垂れ目で、ちょっとドジ。あ、左側に涙ぼくろがあるよ」


「お・・・おう。ドジは外見じゃないが。まあ覚えておくよ」


用を済ませたブラッキーは、海側に顔を向けた。桟橋の奥の方には昨日立ち寄った港湾事務所がある。何の気なしに景色に目を泳がせていた彼女は、その港湾事務所で何事か立ち話をしているアルゴニアンを発見した。シルエットだけだが角の形に見覚えがある。


昨日出会った怪しげなアルゴニアン。ジャリー・ラであった。


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話を終えたらしく、こちらの方に向かってくる。ブラッキーはカウンター越しに何かやっているように見せかけながら、顔を隠した。ジャリー・ラは向かってくる途中で方向を変えると、港湾地区に向かって階段を上って消えた。気付かれることはなかったようだ。


ブラッキーは港湾地区に戻りがてら後を追おうかと考えたが、ジャリー・ラの先ほどの行動が気になって、あえて逆の港湾事務所のほうに行ってみることにした。


事務所に着くと、昨日と同じ職員が彼女を出迎える。向こうもこちらを覚えていて、気さくに声をかけてきた。
「お、嬢ちゃん。昨日は上手くいったかい。姉さんとは会えたのか?」


「ううん。ダメだった。途中の港で降りたんだって」


「おや、まあ。・・・で、そこにいく船でも探しにきたのかい?」


「違うよ。この港に向かってくるのは間違いないから待つことにしたんだ」


「そうかい。待てば海路の日和あり、って言うもんな」


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「ところで・・・」ブラッキーは声を下げた。「さっき話してたアルゴニアンだけど・・・」


「あいつを知ってるのかい? 関わり合いにならない方がいいぞ」


「みんなそう言うんだ。なんかやったの?」


港湾所員は首を振った。
「尻尾を掴ませないのさ。表向きは商船の雇われ護衛・・・いわゆる海の傭兵なんだが、海賊の一味だって言う噂もある。衛兵も目をつけているらしいぞ・・・」


「ふーん。ここにはよく来るの?」


「そうだな。月に2、3度ってとこか」中年の職員は、積み上げた台帳を脇に片付けながら、ブラッキーにささやいた。「なんでも、アイスランナーっていう貨物船と護衛契約したらしいよ。まだ入港してないようだが。・・・オレが船長だったら、もう少し高くてもちゃんとした連中を雇うね」


「あ、そろそろ行かなくっちゃ。仕事邪魔してごめんおっちゃん」


「いいってことよ、お前さんもあんな奴に関わっちゃいけねえよ」


片手を挙げて挨拶すると、ブラッキーは桟橋を後にして港湾地区、その先のシャフトに目を向けた。


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まだ2日目だが、この町の構造は大体わかってきた。首長やお城、重要な人と物はアーチの上、岩棚の上に固まっている。行き来できるのは表の城門とシャフトの2カ所。古い街なので秘密の抜け穴などもあるだろうが、だとしても大人数の通り抜けには耐えることが出来ないだろう。ソリチュードはその地形自体が防御力を持つ、非常に守りの堅い街のようだ。オークの戦士としてハイロックの城攻めにも参加したことのある彼女は、そんな物騒な感想を抱きながら港を後にした。


シャフトを上がり、広場に戻る。職人街に戻るつづら折りの坂道。その登り口のところで、彼女は再びジャリー・ラを目に留めた。今日も道行く旅人に声をかけるのだろうか? ブラッキーが来たことにはまだ気づいていないが、どうしたものか、ベイランドのところに戻るには避けようがない。


(ちょっと探りを入れてみようかな・・・)


彼女はそう決心すると、アルゴニアンと関わってみることにした。
自然な体を装って、通りがかりに偶然気付いたように振る舞う。


「あ、アルゴニアンの兄さん。また会ったね」


ジャリー・ラは仕事のないときにはウィンキング・スキーヴァーかこの辺りに居ることが多い。旅人を儲け話に誘っている姿がよく見られていた。


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「よう。よそ者さんじゃないか。どうしたんだい」


「落ち合う予定になっていた姉ちゃんと会えなくてね。港に行ってみたんだけど、まだ船着いてないんだって」


「・・・それは残念だね」


「うん、姉ちゃんはアイスランナーって船で働いてるんだ。それで・・・」ブラッキーはジャリー・ラの角がピクッと動いたのを見逃さなかった。何事もなかったかのように続ける「船が来るまでヒマになっちゃってさ」


「仕事探しかい?」
ジャリー・ラは平静に戻って問いかけてきた。


「うん。アルゴニアンの兄さん、昨日何か言いかけてただろ? 話の続き聞かせてよ」


「興味が出てきたのかい? よそ者さん」


「よそ者さんじゃないよ。しばらくソリチュードに居るんだから。ボクはブリジット。ブリジット・タン・アマーニィって言うんだ」船の中でウンガー師匠に読まされた、本の中の人物名を拝借して彼女は名乗った。


「いいとこのお嬢さんみたいな名前だな」


「護衛として買われたところのお館様からもらった名前だよ」
あえて奴隷と言う言葉は使わなかったが、ジャリー・ラにはしっかり伝わったようだ。


「ほう、ソリチュードにはそこのお使いで?」


「いや、お館は燃えちゃったからね」詮索するな、という身振りでニヤッと笑ってみせる。「姉ちゃんがいることが分かったから、そこをツテに働き口を見つけようと思って。兄さんは?」


「オレはジャリー・ラだ。商船の護衛を請け負いながら、トレジャーハンターをやってる。よろしくな、ええと、ブリ・・・」


「ビィでいいよ、長ったらしいから」


「そうか、じゃあビィ。簡単な配達の仕事があるんだ。配達というか・・・まあ伝言だ。メッセンジャーって奴だ。俺が直接行くつもりだったんだが、ちょうど仕事が入ってしまって、代わりを探してたんだ」


「トレジャーハントじゃないの?」


「それはまた後の話さ」


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アルゴニアンが提案してきたのは、ソリチュードの灯台守への伝言だった。ある特定の船に向けての点滅信号を発信するよう、依頼を伝えるというものらしい。彼はポケットから羊皮紙の破片を取り出すと、その場で文字を書き始めた。


「これを5日以内に渡すか伝えてくれればいい。報酬は前金20セプティム。戻ってきたあとにその10倍でどうだい」
メモにはただ、"IR-FF09”とだけ書いてあった。


「随分気前いいんだね。危ない目に遭ったりするんじゃないの?」
ブラッキーはずる賢そうにジャリー・ラをみたが、アルゴニアンの表情は読み取れそうにない。


「じゃあ、別のよそ者さんに頼むよ」
アルゴニアンはメモを取り返そうとする。


「わー、待った待った。ボクがやるって!」


ジャリー・ラは薄く笑うと前金の入った小銭入れを渡した。
「灯台はそんなに遠くないが、この季節は雪が多い。締め切りのある仕事だから、明日から出た方がいいぞ」


「うん、分かった。残りの報酬はどうしたらいいの? ボクが仕事を終えたって兄さんは分かるのかい?」


「それは秘密だ。いいかいビィ、我々はまだお互いを信用していない。仕事を終えたらまたここに来るといい。時間があるとき私は大体居るから」


「ちぇ、疑り深いんだから・・・まあいいや、じゃ、また明後日・・・ぐらいかな?」


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アルゴニアンと少女はこうして別れた。ブラッキーは後をつけられるんじゃないかと気になって、わざと広場の周りの屋台をぶらぶらとし続けた。少し離れたところでジャリー・ラも同じようにぶらぶらしている。根比べのようだ。


やがて、アルゴニアンは諦めたのかウィンキング・スキーヴァーに入っていった。それを見届けてから、彼女はわざと遠回りをしてベイランドの鍛冶場に戻ったのであった。


ベイランド親方は昨日納品が終わって少し時間に余裕が出来たらしい。そこで夕方早くから、再び鍛冶屋師弟は親方の家で食事の卓を囲みはじめた。


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いつ来るか分からない旅人を自分で見張るのには限界があった。そこで彼女達はベイランドと相談して街の衛兵を頼ることにした。陸から来ようが海から来ようがソリチュードを訪れるには城門かシャフトを通る必要がある。


彼女達は2カ所の衛兵に小銭を掴ませて情報提供を頼んでおいたのだ。


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通行が閉じられる日の入り時刻に確認しに行ったが、今日のところはイェアメリスとアスヴァレンらしき旅人は到着していなかった。


ベイランドたちとしばらく一緒に食事をしていると、ノックもせずに扉が開き、仕事を終えた飲み仲間が乱入してきた。それを当然のことのように受け入れる親方。いつもの光景なのだろう。
入ってきたのはソリチュード衛兵隊の隊長アルディスと、ドール城の看守長であるアハタルであった。


「ようやく非番に入ったよ。リッケ軍団長が遠征中だから、ドール城の方も静かなもんだ」
アルディスは両手に抱えたワインをテーブルの上に並べはじめた。


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「エヴェットのところのやつか?」


「ああ、どうにも原料となるスパイスだかワインだかの入荷が遅れているらしくてな。しばらく手に入らんかも知れないとの話だったので、在庫を買い占めてきた」


「代わりに誰かが落胆することになるわけだな」


「知るか。まあ、人気だしな・・・冬には欠かせないワインだよ」


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挨拶代わりに酒の話に花を咲かせかけて、アルディス隊長は2人の新顔に気がついた。
「お客さんかい、邪魔して悪かったかな? おや、一人は見覚えあるような・・・」


「そうだ。前ここで修行していたウンガーだよ。立派に開業して、今回は弟子と一緒にソリチュードに凱旋さ。あ、じゃなくて観光中だったか? しばらくうちに居るから、オレと同じように懇意にしてやってくれ」


「おやっさん、観光じゃないですけどね。・・・こっちはブラッキー。俺の弟子です。まだなり立てです」


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ウンガーはそう言って2人の訪問者に場所を用意するのを手伝った。


ブラッキーもそれを手伝いながら、自分が逃亡奴隷としてキルクモアに流れ着いたこと、島についてイェアメリスに保護され妹分になったこと、街に迎え入れられたこと、奴隷商人たちと戦ったこと、ウンガーの弟子になったことなどをかいつまんで自己紹介を繰り返した。


テーブルを囲んで酒盛りが始まった。数奇な運命をこともなげに語ってみせる少女に興味を引かれ、男たちは遠慮なく彼女に質問を浴びせ、彼女もそれに答えている間にまたたく間に打ち解けてしまった。


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「ほう・・・姉さんとは会えなかったのだな」


「うん。この街に来るはずなんで、待つことにしたんだ。衛兵にお願いしたから、見つけたら教えてくれるって」


「それが正解だな。一日中城門に張り付いて見張っているわけにも行かん。そういうのは城門の専門家に任せる方がいい」とアルディス。


「そうなんだけどね。待ってるのはヒマでしょ? ボクそういうの苦手で・・・」


「おいおい、お前さんは学ぶことが山ほどあるだろ?」ウンガーが呆れたように彼女を小突いた。


「うへぇ・・・もう鉄鉱石の話は聞き飽きたよ~」
2週間の船旅の間、ウンガーは容赦なくブラッキーに鍛冶の基礎知識を叩き込んでいた。


「せっかく鍛冶親方の家に居候するんだから、炉の端っこを使わせてもらうといい。明日からは実技の訓練だ。いいですよね、親方?」


ベイランドは笑って同意する。
「ウンガーが坊主の頃やったように、短剣を1000本作るところからはじめるか?」


「うへぇ・・・」


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ワインのコルクをほじくりながら耳を傾けていたアハタルは、ふとアルディスに尋ねた。
「いま城門は誰が見てるんだ? 監獄の番をしていると、地上のことには疎くなってな」


「今月の当番はレムス隊のロッグヴィルたちだな」


「生粋のノルドだな。門を任せておいて大丈夫か? うちのとこにも何人かノルド至上主義の政治犯がいるが、あいつら厄介だぞ」


彼はアハタルに注ぎかけたワインの手を止めた。
「政治犯と一緒にしないでくれ。それに・・・」
アハタル自身を指さして続ける。


「ここはスカイリムの他の街ほど閉鎖的ではないさ。ノルドが大半なのは確かだが、耳長やアルゴニアン、お前さんみたいなレッドガードだっている。そこら辺はロッグヴィルも分かっているさ」


ベイランドの妻セイマと、アハタルはレッドガードの兄妹であった。帝国軍でドール城勤務、民族主義の色が濃いスカイリムでは珍しい光景だったが、それもソリチュードだからこそかも知れなかった。


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「まあ、そうだな、考えすぎか・・・。あいつはちょっとタロスに傾倒しすぎる嫌いがあるが、そう見えるのはオレが異国者だからかもな」


「サルモールの連中が目と鼻の先にいるとはいえ、まだソリチュードは多様性がある方さ・・・反乱が起きる前のウインドヘルムに行ったことがあるが、あっちの方がかなり歪だったぞ。さ、この話は止めだ」


彼はワインを注ぎ終えると、話題を変えるようにブラッキーを見た。


「そういえば、退屈しているのなら、お前さんに頼んでもよかったな」


「え、なに?」


「いや、な。ソリチュードの近くの洞窟から変な音が聞こえるんで調べてくれって、ドラゴンブリッジの隊員から報告があったんだ」ブラッキーを見て隊長は付け加えた。「あ、ドラゴンブリッジってのは隣町な。ここから1日半ぐらい南に下ったところにあるんだ」


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「変な音がする洞窟?」


「うむ。部隊を派遣して調査できたらよかったんだが、いまうちの隊は手が離せなくてな」


ソリチュードはスカイリムにおける帝国軍の本拠地であったが、リッケ軍団長が遠征中のため、駐屯する兵の数は減っていた。アルディスの隊は留守に残ったテュリウス将軍の護衛を受け持っており、むやみやたらと兵を割くことは出来ない立場だった。


「面白そうだね」


「だが惜しかったな。今日ちょうど受け手が見つかったところだ。調査に傭兵を募ったのさ。とは言っても1名だから・・・今からでも参加してみるか?」


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「おいおい、こいつは明日から短剣作りなんだが・・・」
たしなめる師匠をよそにブラッキーは思わず乗りそうになった。しかし波止場での出来事を思い出して思いとどまった。


「面白そうなんだけど・・・やっぱいいや。ボクは別の調査に取りかかることにしたんだ」


「姉さん捜しか?」


「それもあるけど」少女は反応を確かめるように、それを口に出した。「ちょっと気になるアルゴニアンが居てね。ジャリー・ラっていうんだけど・・・」

その名を出した途端、ソリチュードの男たちは一斉にブラッキーのことを凝視した。


「ジャリー・ラだと? あいつとうとう何かしたのか?」
アルディスが詰め寄る。ブラッキーは驚いて食べ物を喉に詰まらせかけ、エールで無理矢理流し込んだ。


「き、急にどうしたの?!」


「ああ、すまん。前から目をつけていた奴でな。図々しくもこの辺りで市民然として振る舞っていやがる。犯罪に関わっていることは間違いないんだが証拠もなくてな。お前さんが名前を出すから、何かやらかしたのかと思ったんだ」


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「ジャリー・ラに関してはいい噂を聞かん」
アハタルも言葉少なく吐き捨てた。


「仕事を紹介されたんだ。見てこれ」
そう言って彼女はアルゴニアンから受け取った羊皮紙を取り出した。
「これをソリチュードの灯台守に届けるっていうものなんだけど・・・IR-FF09って書いてある、なんだろう?」


羊皮紙のメモに目線が集まる。
「何の記号だろうな? 港で使う船の便名に似ているような気もするが」


「灯台だったら関係ありそうだな。明日当たってみるか」


「ブラッキー・・・、お前はそのアルゴニアンを知っているのか?」


「ううん、ここ来て初めて会った奴だよ。ボクがここに出入りしていることはまだバレていないと思う」


「なんでそんな依頼を受けたりしたんじゃ。きっと犯罪の片棒を担ぐような厄介ごとに違いないぞ?」
ベイランドは心配そうに弟子の弟子を見た。


「うん・・・だけどあのアルゴニアン、ボクの知っている奴の名前を口にしてたんだ」少女は少し遠くを見るような目つきをした。「ユディトって聞いたことある?」


「ユディト? 誰だそいつは?」
師匠と親方、帝国軍の隊長、監獄の看守長、4人には聞いたことのない名前だった。


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「おっちゃん覚えてる? キルクモアでのこと・・・」ブラッキーは先ほど話した自己紹介を4人に思い出させるよう言った。


「奴隷船の一味を率いていたのがユディト。その名前をジャリー・ラが口にしたんだ」


思わぬ繋がりに、男たちは顔を見合わせる。


「ユディト自身は島の女隊長さんにやられてもう死んでるんだけど、オークのキャンプを襲ってボクが奴隷にされる切っ掛けを作った奴なんだ・・・奴隷商人に繋がる連中かも知れないでしょ。調べてみようと思って」


「お前さんがオーク仕込みで強いのは分かっとるが・・・危険じゃないか?」
ウンガーは弟子の考えにあまり気乗りではない様子だ。


「あまり無理して師匠を心配させるなよ、嬢ちゃん」
ジャリー・ラの尻尾を捕まえたいアルディスも、心配する側に回っている。


「隊長さん、ボク強いの知らないでしょ? 兄貴は戦闘隊長だったんだよ」彼女は自分の自慢をしかけて、ふと思い当たり言葉を換えた。「・・・あ、そうじゃなくて、もしかして"切り裂き"の話?」


「もう耳に入ってたか。さすが嬢ちゃんだな。そう、我々も手をこまねいているわけではないんだが、なかなかシャフトの下までは手が回らなくてな。話を聞いているなら早い。人捜しや調べ事もいいが、夕刻の鐘までには必ず戻ってくるんだ」


「なんか、村の子供の門限みたいだね」
ブラッキーはチーズをかじりながら男たちを見た。


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「おまえさん、門限つけとかないとどこか行ってしまいそうだからな」
ウンガーにぽん、と頭を叩かれてブラッキーは悪態をついた。

「うへぇ・・・マラキャスにかけて。ひどい、ねえちゃんみたいだ」


「はは。どれ、あした腕を見てやるか? ・・・まあそれはそうとしても、何かあったらオレかこのアハタルを頼ってこい。気をつけろ、"切り裂き"は危険だし、ジャリー・ラも狡猾だぞ」


「うん、ありがとう!」


「ホントに大丈夫か?」
ウンガーは尚も心配な様子だが、弟子は男たちの心配をよそに、食事をつまみはじめた。


「大丈夫。気は許さないよ」
そう答えたとき、遠くからかすかに鐘の音が聞こえた。日没前の時刻を告げる鐘であった。その音を聞きながら、彼女は下方の港に思いをはせるのだった。




・・・




水夫達のかけ声も止み、日が落ちる直前、鐘の音が衛兵の交代とその日の業務の終わりを告げるころ。港では慌ただしく家路につく住人達を追い立てるように霧がかかりはじめていた。冬に向かうこの季節、昼に温められた海面から立ち上る水蒸気が夜になると冷やされて霧となるのはスカイリム北岸の特徴だ。


夜をこれから迎えようという時間で日の入りまではしばし猶予がある。既に十分に暗く、水夫たちも帰宅した桟橋は静寂に包まれた。


そんな中、午前中ブラッキーが間違えて訪れた辺り。船から降ろされた棺の並ぶ桟橋に、ひとつの兆しが現れた。霧に包まれて誰も見る者はいなかったが、もし目撃されていたら腰を抜かしたかも知れない。ギギギ、と音を立てて、並べられた棺の蓋が開きはじめたのだ。


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最初の棺の蓋が開き、動きが止る。まるで辺りを確認しているかのようだ。しばらくして周りに音も動きもないのが分かると、棺の中から男が這い出してきた。合図だろうか、その男がブーツの踵で規則正しくリズムを刻むと、並んだ棺のフタが開いて次々と人影が現れた。


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現れたのは男たち。皆一様に同じ鎧に身を包んでいる。ほんの2、3分で、棺の合った場所には15人からなる一団が立っていた。最初に現れた男が、次に出てきた男の前で頭を垂れる。
一団の長であろうか、体格のよい戦士が口を開いた。


「ここまでは順調だな。レイロフ、次は?」


「ハッ、場末の宿を占拠します。決行の時までそこに潜伏して頂きます」


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レイロフと呼ばれた男が手を挙げると、棺から現れた男たちは揃って桟橋から岸に向かって進み始めた。決して訓練された者の動きではなかったが、皆一様に決意を秘めたように統制がとれている。


彼らの通過のたび、桟橋の浮いた木下駄が抗議の悲鳴を上げたが、人が捌けて薄いもやに包まれた一帯に気づく者はいなかった。


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彼らはレイロフを先頭に、港湾地区に出ると建物の影からシャフトの通りを伺った。ちょうど酒場宿の海賊亭と隣の家の間だ。辺りの安全を確認すると、レイロフは海賊亭の裏の勝手口に一味を残し、自分は2人ほど連れて表の通りに回った。


酒場宿の入り口に到達すると、レイロフはもやの中、道をこちらに向かってくる人影を認めた。日没直前の視界の悪い黄昏時、"切り裂き"を恐れてこの時間に出歩く者はいない。そこをあえて歩いているとしたら、何も知らないよそ者か、そうでなければその者自身が他でもない"切り裂き"だということだ。


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やってくる人物をレイロフは観察した。皮のつなぎにぴっちりと身を包み、顔はフードで隠している。しかしそのシルエットから人物が女性であることはすぐに見て取れた。まさに凶行に及んできたところなのだろうか? 抜き身の短剣を手にしている。


「あんたか?」
先に声を発したのはレイロフだった。


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女は無言で頷く。辺りを少し警戒し、安全を確認すると短剣を治める。煩わしげに頭部を覆うフードを外すと、少し汗ばんだ焦茶色の髪があふれ出す。ウェーブがかった髪を持つ、女の顔が現れた。


「宿の中には従業員3人と客が5人。手伝おうか?」


「こちらはいい。それよりも侵入口の最終確認をしてきてくれ」


「分かったよ。殺し以外は任務じゃないんだがね。あんたらストームクロークは払いがいいから特別だ」


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「その名をここで出すな。誰が聞いているか分からん」


「大丈夫。”切り裂き”の名が効きはじめてる。誰も来やしないよ」


彼女はそう言うと、宿の裏手を覗き込むようにうかがった。棺に潜んでいた戦士たちの中に、フードで顔を隠した体格のいい男が目にとまる。


「で、このお方が依頼主って訳? お偉い将軍様か何かい。密談? 亡命? 裏切り? ・・・なんにしても顔なんか隠しちゃって、私たちと気が合いそうだね」
声に反応して戦士たちが彼女を睨んだ。武器を抜いて詰め寄ろうとする。一触即発の空気が漂った。


「なんだい、やろうってのかい? あたしに劣らず短気だねぇ、この男たち」


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「女、お前もプロなら詮索はするな」

レイロフは気色ばんだ部下たちを制すると、警告するように女の視界を遮った。

「まあいいわ。明日はもう少し遅い時間だったわね。ここに迎えに来るから、せいぜい目立たないように縮こまっときなさい」


「分かっている。もう行け」


追い払うように女を行かせると、レイロフは裏手に合図を送った。


待ち構えたかのように、準備を整えて待機していた戦士たちが裏口から一斉になだれ込む。酒場の中から悲鳴が上がり、一瞬彼は肝を冷やしたが、周囲数件に渡って人影がない事は確認済みだ。様子を見に来るような者もいなかった。レイロフ自身も腰から短剣を抜いて身構える。
表の扉が勢いよく開いて、客が逃げだそうと飛び出してきた。彼はその客を捕まえると、無言で額に短剣を叩き込んだ。客は悲鳴を上げることも出来ずに息絶えた。


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「主人は生かしてあるな」


「ハイ、予定通りです」


僅か数分で海賊亭を制圧すると、レイロフと戦士たちは素早くその中に引きこもった。本番はこれからだ。準備も必要だ。


傍目にはなにも変わらないように見えるソリチュードに、密かな異変が起きようとしていた。




・・・




次の日も、ブラッキーはソリチュードの街を忙しく動き回っていた。朝の鐘が鳴ると正門に向かい、イェアメリスを探すために警備の衛兵に混じってしばらくの間門を通過する人々を眺める。そしてそのあとはシャフトを降りて警備兵に確認。波止場区画まで足を伸ばして東帝都社で伝言の確認、そして港湾事務所。


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昼を食べるのに一度職人街に戻って、午後の時間をウンガーの元で槌をふるう練習に費やしていた彼女は、日が傾きはじめた頃再び港に降りていた。決して鍛冶の修行が嫌なわけではなかったが、生来じっとしていられない質なのだ。
今日のところも収穫なし、イェアメリスらしき人物はどこにも現れていなかった。


「まだ大丈夫かな?」


夕暮れが近く、そろそろと霧が出だしてきていた。小雨も少しぱらついている。仕事を切り上げてシャフトを目指す住人の姿がちらほらと見られるが、鐘が鳴るにはまだ1時間はある。


(もしスジャンマ売ってたら、後からくるあんちゃんに買っておいてあげようかな・・・)


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雨宿りと言うわけではないが、彼女はふと思い出したようにシャフトに上る前に寄り道してみることにした。海賊亭・・・これまで何回か前を通り過ぎることはあったが、立ち寄るのは初めてだ。


扉を開けて宿に入ると、中は想像していたよりも静かだった。日も沈もうという時間だ、酒場に人がいないはずがない。見ると確かに10人以上の客が思い思いの場所でジョッキを傾けていたが、会話をしているものは少なかった。


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(船乗りってこんな人種なのかな?)


ブラッキーはキルクモアでの船乗り達、エリクール商会の賑やかな船員、港湾で働く水夫や役夫たちの姿を思い出して少し違和感を覚えた。異質な者が混ざってきたと思われたのだろうか? 客たちの探るような何対もの視線が痛かった。来たばかりでいきなり居心地の悪さを感じた彼女だったが、すぐに別の事柄に目を奪われてその感覚も吹き飛んだ。


彼女は息をのんだ。奥のテーブルに見知った顔がいたのだ。
ソリチュードに着たばかりの彼女にとって顔見知りとなる人物はそれ程多くない。しかもそれがアルゴニアンの2人連れともなれば尚更だ。二人で何やら話し込んでおり、酒場に入ってきたブラッキーには気付いていないようだがどう見ても見間違いようはない。ジャリー・ラとディージャであった。


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酒場に入ってカウンターに行かない奴は常連か、後ろめたい何かを持っている奴だ。前にそう聞いたことがある。こんな視線が自分に集中している場合は特にだ。2人のアルゴニアンに気付かれたくないのはやまやまだったが、仕方なく彼女はカウンターに向かった。さりげなく、かろうじて声が聞こえる距離を掠めるようにカウンターに向かったブラッキーは、彼らの後ろを通り過ぎるとき、耳をエルフのようにそばだてて、精一杯盗み聞きした。


「ジャリー、やはり作戦を考え直した方がいいんじゃない?」


「まだ言ってるのか、姉妹よ。何度も確認したじゃないか。余計な要素はなるべく省いた方がいいって。一回水を引き込むのが一番だよ」


「ユディトを排除する必要が無くなったのはツイてるが、そうなるとあたいらには船が必要だ。おじゃんにしてしまうのだけは避けないと・・・」


(まるで海賊みたいな・・・)


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そこまで聞いたとき、残念ながらカウンターの目の前に着いた。仕方なく主人に話しかける。ジャリー・ラ達はすぐ脇なので、気付かれずに済むのは絶望的だった。彼女は諦めて、自らバレにいった。


「いらっしゃい。なんにするんだい? へ、部屋は埋まっちまってるが、飲み食いなら歓迎だよ」


主人はどもりながらブラッキーの用をうかがいに来た。


「おっちゃん、エールちょうだい。薄くない奴ね。あとお土産にしたいんだけど、スジャンマなんか置いてあったりしない?」


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「エ、エールな。・・・スジャンマはないよ」


「そっかぁ、残念。売ってそうなところ・・・あれ? ジャリー・ラじゃない?」


わざとらしく振り向いて、テーブルのアルゴニアン達に顔を向ける。向こうもちょうど彼女の声に気付いてカウンターを向いたところだった。


「おや? ビィじゃないか。珍しいなこんな所に」


「う、うん。明日あんたの仕事に出発するから、今日はここに泊まろうと思ってさ。でも、残念。部屋空いてないんだって」


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女のアルゴニアン、ディージャは興味深そうにブラッキーを見た。
「そうかい、この娘が」


「そう。話していたビィさ。今回の仕事を手伝ってくれるんだ。伝言をな」


「ふーん。あたしはディージャ。ジャリーとは同業さ。よろしくな」


「よろしく、姐さん」


「前に話したと思うが、姉妹のディージャと俺はトレジャーハンターなんだ。物集めが好きなもんでね」ジャリー・ラはブラッキーのために席を用意して、招き入れた。
彼女は偶然を装ったことがばれなかったことに胸を撫で下ろし、アルゴニアンの席に加わった。周囲の探るような視線が興味を失ったかのように彼女から剥がれたが、ブラッキーはそれに気付かなかった。


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「で、にいさん達はどんな物を集めてるんだい? 売るの?」


「売れる物を探すのは簡単だ。誰も手放したくない物とか、土の中に埋まっている物とか、誰かの家に転がっている物を探せばいい」


「ああ、なるほどね」ブラッキーは訳知り顔で曖昧な表情をして見せた。「盗賊ね」


「盗賊じゃない」
ディージャの目がつり上がったが、ジャリー・ラはさらっと否定して見せた。


「え、違うの?」


「当たり前だ。盗賊というのは高価な物を盗み取るんだ。俺たちはただ、要らない物をいただくだけさ。誰も必要としていない物だ。例えば、武器を持っていけば、それで何人かの命を救えるかもしれない。それを盗みと呼べるか?」


「判断基準は人それぞれかも知れないけど、盗みと呼ぶ人の方が多いような気がするなぁ・・・」


ブラッキーの指摘を気にするようでもなく、彼は続けた。


「スカイリムは戦争状態だ。今までよりも更に多くの船が港に立ち寄ることになる。僅かな乗組員だけで、武器と金を運んでいる。そして危険海域を通過するんだ」


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「それじゃあ海賊じゃないか!」言いかけてブラッキーはジャリー・ラに口を塞がれた。キョロキョロと周りを見る。彼女たちを詮索していた他の客は反応しなかった。聞こえなかったようだ。


「まて、まてっ。話を最後まで聞きなよビィ。」
ジャリー・ラは少しあわてた様子で、説得するように言った。


「そのうち一隻に目をつけているんだ。お前さんの姉が乗っているという、アイスランナーという名の船だ。見かけ上はソリチュードに物資を運んでくる貨物船だが、サルモールの息がかかった船なんだ」


「サルモール?」
意外な単語に、今度は彼女の方が興味を掻き立てられた。


「さっきも言っただろ、このスカイリムでは誰も必要としていない物・・・サルモールの補給物資なんて、その最たる物だとは思わないか? 横からいただく者達がいたとしても、賞賛の栄誉に浴するだけで誰も困らない」


「で、具体的にはどうするのさ?」


「ソリチュード灯台を使う。あそこの助手、ニッターがこちら側の人間だったとしたら、どうなると思う?」


どうやら、このアルゴニアン2人は単独の悪党とは違いそうだ。仲間があちこちに居る。ソリチュードでの振る舞いをもう少し慎重にした方が良さそうだとブラッキーは考えを改めた。


「ソリチュード灯台が港にその船を導く・・・だが、灯台から誤った誘導指示が飛んだらどうなるだろうな。アイスランナーは座礁するだろう」


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「つまり、ボクの伝言はそのニッターとやらへの指示なんだね」


「ああ、伝言役も必要だよな。誰かがそれをやってくれるなら、そいつにも間違いなく相応の分け前が転がり込んでくるだろう」


ブラッキーは自分が言い出したウソを使って、わざとカマをかけてみた。


「船員はどうなるの? サルモールとはいえ、殺しちゃうのはまずいんじゃない? それにボクの姉ちゃんが乗ってるって言ったじゃん、危険な目に遭うんでしょ?」


「心配するな、この物語に死者はいない。無事に浜にたどり着けるようにする。もしかしたら、悲劇の座礁の勇敢な救助活動に対して、サルモールから謝礼が出るかもしれん。憎き奴らの物資を頂き、謝礼まで出るかも知れないなんて、ワクワクする筋書きだろう?」


「もしボクが衛兵にたれ込んだらどうするのさ?」


「お前さん何か勘違いしてやいないかい?」動揺するかと思ったが、彼は全く表情を変えることなく続けた。「今話しているのは酒飲みの想像の物語さ、誰が何の罪を犯してる? もっとも最悪な悲劇は何かって話題で酒を飲んでいるだけだろう?」


ブラッキーはジャリー・ラの狡猾さをまざまざと実感させられた。


「俺はトレジャーハンターでもあるし、ノルドじゃぁないが、戦士詩人みたいにいつでも話が面白くなる筋書きを考えている。良いサーガが出来たら吟遊詩人大学に売り込めるようにってな」


(ボクは単純に戦う方が得意なんだけどなぁ・・・仕方ないか)


「それに・・・お前さんはそんなことしないだろ? 見りゃぁ分かる。俺たちは間違いなく似たもの同士だ」


こいつは腕の方は大したことなさそうだが、いろいろなことに場慣れしている。アルディス隊長が言うように、一筋縄ではいかなさそうだった。尻尾を掴むにはもう少し深入りが必要そうだ。
彼女は腹を括ったとばかりに、ジョッキを持ち上げた。


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「うん。面白い物語だねそれ。伝言役も・・・上手く仕事を果たせるか考えてみないと」


ブラッキーの返事を肯定と受け取り、ジャリー・ラはようやくにやりと笑った。


「最初に見たときから、話が分かる奴だと思っていたよ・・・。この仕事が終わったら、次の段階に進んでみないか? お互い協力し合おうじゃないか」


「何かあるの?」


「いや、まだだ。その物語はまだなんだ。お楽しみだよ。仕事が完了するまでは、お互い口数は少なくしてた方がいい。幸運が逃げてしまうかも知れないからな」


そう言うと、ジャリー・ラはおかわりを頼もうとカウンターに声をかけようとする。
横で2人の話を聞いていたディージャがその手を押しとどめた。


「どうした? 未来の兄妹候補に乾杯をするところなんだが・・・」


「何かおかしくないかい?」
ディージャは懸念を口にした。ブラッキーの方ではなく、酒場宿の主人の方を見ている。


「おかしいって?」


「シッ、声を下げなよ」
彼女は酒を飲むふりをしながら、ジャリー・ラとブラッキーにささやいた。


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「上手く隠しているが、主人の顔がこわばってる。それにここの客連中。殆ど喋らないじゃないか?」


企み事をしている者達は、得てして周りの別の企み事には盲になりやすい。話を遠巻きにみて周りに気を配っていたディージャだからこそ感じ得た、微妙な違和感だった。


「しかもなんか血の臭いが混じってるように感じるんだ。ばれないように床を見てみ・・・ほら、あの椅子の横とか。拭き取った後があるだろ?」


ブラッキーは入ってきたときに感じた違和感を思い出し、即座に気持ちを切り替えた。ジャリー・ラも筋金入りの悪党というだけあって、既に警戒をはじめていた。


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「こいつら・・・船乗りじゃない?」


ジャリー・ラは2人にだけ聞こえるよう、声を潜めた。
「出た方が良さそうだな・・・いいか、合わせてくれ」


そう言うと、わざとらしく声を出す。
「うっ、うぉえ・・・」


「ちょっとジャリー、大丈夫かい?!」


「お、おぶっ・・・吐きそうだ」


再び3人に客達の注目が集まる。ブラッキーも即興で2人に合わせた。


「ちょっと、にいさん! こんな所で吐いたら店の人に怒られるって! 姐さん、手ぇ貸して!」


ブラッキーはディージャに目配せをすると、ジャリー・ラの肩を抱き上げた。反対側からディージャが支えるのを確認すると、怪しげな客達をかき分けるように、荒っぽく扉を開けて酒場宿から抜け出した。


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宿の中では抜け出した3人を追おうと男たちが立ち上がった。しかしレイロフはそれを制し、再び静寂が酒場宿を支配した。


「うー、ボェー、ゲホゲホ・・・」


海賊亭から少しだけ離れたところで、わざとらしく大きな声を上げると、ブラッキーとディージャはしばらく彼を介抱するような演技を続けた。


「何とかなったかしら」


「ああ、2人とも、いいチームワークじゃないか」
ジャリー・ラはそのまま、辺りを見回してにやりと笑った。酒場宿で過ごしている間に夕刻の鐘は鳴ってしまったようだ。街路の明かりもあまり役には立たない。辺りは日没直後の霧にと闇に包まれていた。


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「なんとか上手く抜け出せたようだね。一体あの連中、何者なのかしら?」


「分からん。姉妹よ、お前の勘に助けられた。船乗りでないのは確かだな。別の同業者かもしれん」
ブラッキーは見通しの悪い街路に目を凝らしたが、ひと一人としていない。思い出したように2人に振り返る。


「でも、この時間に出るのって危なくない? だってホラ、"切り裂き"とか出るんじゃ・・・」


「だがよビィ、オレの勘はあそこに居た方がやばかったと告げてる。それに、"切り裂き"は一人で居るやつしか狙わないって言われてる。纏まって行動した方が良さそうだな」


同意すると3人は、ジャリー・ラの提案にしたがって、城壁外の城下町にあるソリチュード3件目の宿を目指して歩き始めた。

東帝都社のドックの手前に差し掛かったとき、ブラッキーは不意に背筋に冷たい物を感じた。


「あぶないっ!」


頭上の岩場から何かが降ってくるのを見て咄嗟に叫ぶ。
彼女の叫びは半分は功を奏した。背後からディージャの心臓を正確に狙った一撃は、僅かに逸れて肩口を裂くに留まったのだ。
何者かの襲撃。3人は固まって用心していたにもかかわらず、それをあざ笑うかのような攻撃だった。肩を押さえたアルゴニアンをかばって、ジャリー・ラとブラッキーが武器を手にする。酒場宿にたむろしていた何者かが追ってきたのではなさそうだった。


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「あらっ?」


舌打ちはしているが余裕の笑み・・・襲撃者は3人の前に身を晒した。身動きの取りやすい皮の服にブーツと言った姿はどう見ても堅気のものではない。タムリエルには闇の中で活動し、人の殺害を生業とする者達が居るという。ブラッキーはキルクモアで戦ったモラグ・トングの暗殺者を思い出した。


「何とかなったとかどうとか言ってたけど残念ね。理由はどうあれ、今日あの宿から出てきた人は一人残らず死ぬ事になってるの・・・」


彼女は3人を品定めするように睨めまわした。


「可哀相な客が3人増えるって訳ね。これで6人か・・・ちょっと割り増しもらってもいい人数よね」


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既に宿から出てきた客を何人か屠っていると言うことであろうか。女は整った顔を弑逆的な表情でゆがめると、短剣を構えた。


「ここはボクが行くよ」
ブラッキーは一歩前に出ると、腰に吊った斧を手に取った。小ぶりで振り回しやすいこの手斧は、島を出るときに新しく用意してきたお気に入りの品であった。


「誰に頼まれたか知らないけど、お姉さん暗殺者?」


「そうよ」


「もしかして、噂の"切り裂き"?」


「さぁ、どうかしらね」


女は不敵に笑うと、一歩踏み込んで右手に持った短剣を横に凪いだ。ブラッキーは半歩下がってそれを躱した。そしてすぐにしゃがむ。すると彼女の頭のあったところに2撃目が空ぶった。小さな革と木製の棒を組み合わせた暗器。暗殺者の左手にはいつの間にかそれが握られていた。短いナイフの間合いよりも一歩遠くまで届く一撃。しゃがまなければ頭を割られるところであった。


まさか少女が躱すと思っていなかったのか、女は驚きの表情を浮かべた。


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(こっちの方が分かりやすくていいや・・・)


ブラッキーはにやりと笑うと斧を持ち直した。
探りあいや騙し合いよりも、戦うほうが彼女は性分に合っていた。


「短剣持った暗殺者が突いてこないなんて、なんかあるもんね」
身体をひねっての2連撃は小柄な彼女の得意とする技だった。その弱点もよく分かっている。


続く単純な突きを柄にあてて捌くと、ブラッキーは振りかぶって手斧で一撃を繰り出した。暗殺者が短剣を横にして受け止める。


「えっ?!」


難なく受けた大したことのない一撃。しかし何かがおかしかった。あまりの重さに暗殺者はよろけ、膝を突く。押し返そうとしても敵わないどころか、むしろ身が沈んでゆく。そんな重さに耐え切れず、暗殺者は地面を転がって逃れた。
それもそのはず、ブラッキーの斧は特別であった。


「あれ? あれれれ。これでもまだ足りないかぁ・・・もう倍ぐらいないとダメなのかな?」


単純に、重いのである。


彼女が使う手斧は、重戦士が振り回す量手持ちの戦槌、それと大して変わらない重さに仕上げられていた。暗殺者、しかも女の細腕が振るう武器などで受け止められるわけがなかった。


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暗殺者の顔から余裕の表情が消えた。すばやく起き上がると、今の一撃でひどく刃こぼれしてしまった短剣を油断なく構えなおす。後ろで護られる形になった2人のアルゴニアンは、同じように武器を構えながらも、予想外の出来事に動き出せずにいた。


「ジャリーの兄さん、後ろ気をつけて、もう一人居るから」


ブラッキーは振り向くことなく、2人に警告を送る。オークの戦士に混じってキャンプから遠征に赴いていた過去を思い出し、彼女の感覚は研ぎ澄まされていった。


すると背後から声が聞こえて、2人のアルゴニアンは飛び上がった。


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「辞めだ! 撤収するぞ」


影から現れたのは、女暗殺者の仲間であろうか、レッドガードらしき男であった。腰に下げた武器を見るに相当使い込まれている。手練であるのは間違いなかった。


「なんでだい! こんなゴロツキども、あたし1人で十分始末つけれるさ!」
女暗殺者は不満を隠そうともせず、訴えた。


「やめとけ、そろそろ時間が近い。仕事を忘れるな」


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「チィっ! 分かったよナジル!」
女暗殺者は吐き捨てるように言うと、背後から来た男に合流し、瞬きする間に闇に消えて行った。


「ふぅ・・・」ブラッキーは一息つくとアルゴニアンたちを振り返った。
暗殺者に狙われるなどと言う経験を持っている者は多くない、2人のアルゴニアンは気持ちを切り替えようと少し饒舌になった。


「命拾いしたなディージャ。ビィのおかげだ」
ジャリー・ラは感心したようにブラッキーの斧を見た。
「でもお前さん、なんでもう1人いるって分かったんだ?」


「組織で動く暗殺者だったら、バックアップ役がつくはずだからね。単独で仕事をする暗殺者は、よほどの腕利きか、それかバカのどっちかだよ」


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ディージャは肩の傷の様子を確認しながら疑問を口に出した。
「なるほどね。あたいらとは縁のないはずの連中だったけど、何だろうね?」


「わからねぇ。でもなんだか、さっきの宿から出てきた人間を片っ端から狙ってるみたいな言い草だったが・・・」


「何かに巻き込まれちまったのかな、あたいら」


危険が去ったことに安心し、アルゴニアンたちも元の意気を取り戻しつつあった。


「それにしても、”切り裂き”がどこかの組織の暗殺者だったとは。こんなところに何があるというんだ・・・っとディージャ、大丈夫か?」


ディージャは少し青ざめているようだ。アルゴニアンに顔色があるとすれば、だが。
「ああ、さっきの短剣に毒が塗ってあったみたいだね。でもあたしらアルゴニアンの耐性を舐めちゃダメよ。洗い流して軽く手当てしておけばこんなの平気」

油断しなければ”切り裂き”は敵でなさそうだと分かったところで、ブラッキーは酒場宿に興味が出てきた。


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「何かありそうだね。ボクはちょっと気になるから、さっきの酒場宿を調べてみようと思うけど・・・兄さんはディージャ姐さんの治療をしてあげたほうがよさそう?」 


「・・・そうだな、俺たちは今日は勝手知ったるウィンキング・スキーヴァーに泊まることにするさ。城門前の宿のほうが近いが、湯が使えないだろうからな」


「あれ? でもシャフトはもう閉じてるんじゃ・・・」


「そこはな・・・」ジャリー・ラはにやりと笑うとブラッキーの肩を叩いた。「ソリチュードには裏の入り口がわんさかとあるのさ。姉妹よ、泳ぎは得意か? 今度教えてやる」


「楽しみにしとくよ」
ブラッキーは2人に背を向け歩き始めた。あまり一緒に行動しすぎるのも良くない気がしてきていた。


その背中に声が投げかけられる。
「大事な仕事の前だ、ビィ。お前さんにもヒストのご加護があらんことを」


振り向かないまま手を上げて返事をすると、彼女はため息をひとつついた。


(いけないいけない。あいつらは仲間じゃないもんね。入れ込みすぎないようにしなくっちゃ・・・)


自分の過去をぶち壊した一味と行動を共にしている状況は普通ではない。ともすれば自分の立ち位置を見失ってしまう恐れがあることに気がつくと、高揚した気分が急に冷めてきた。


姉を探すという目的のために島を出てきたが、元々冒険に憧れていたからだろうか、こういった非日常に巻き込まれる事をいつの間にか楽しんでいることに、我がことながらブラッキーは驚いていた。


(調子に乗っちゃうのがボクの悪いクセだよね・・・)


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兄のカグダン、姉のイェアメリスとアスヴァレン、身元を引き受けてくれたエドウィンやウンガー師匠の顔が自然と思い浮かんでくる。何が大事なことなのか、ブラッキーは置いてきぼりにしかけた日常を、拾い上げるように深く意識するのだった。


引き寄せられるように再び海賊亭に向かって歩きながら、彼女は冒険という言葉がスクゥーマのように危険な一面をはらんでいることを、痛感していた。




・・・




海賊亭から酔っ払いが飛び出して、道端で吐くという一幕があった1時間ほど後、店の裏手にひと組の男女が待機していた。


「くそッ、あたしがしくじるなんて・・・」


草を蹴飛ばして怒りを収めようとしている女がいる。このソリチュードでしばらく"切り裂き"と呼ばれて恐れられてきた殺人者だった。今日が仕事納めの日であったのだが、最後に失敗をした。標的を3人も逃してしまったのだ。


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「あれで良かったんだ、アストリッド」


アストリッドと呼ばれた女は、落ち着き払った連れの顔を腹立たしげに睨みつけた。
「気にくわないねその目、なんだい、お前もこの仕事はレフティの方が向いてたとか言うクチかい?」


ナジルはため息をつくと首を振った。
「それは無い。あいつのことはお前もよく知ってるだろう? レフティは思い入れのない標的を手にかけることはない。ひとつの依頼に信じられないぐらいじっくり取り組む奴だ。今回みたいな期限の決まった依頼には向いてない」


「ああ、そうだったね。でもあの小娘、次見かけたらただじゃ置かないよ」


「感情的なのがお前さんの悪い癖だアストリッド。それに”人目に付かずに話題に上る”というのが今回の依頼だったはずだ。成果は十分出ている」


「そんなことは分かってるよ。でも・・・ああ、イラつくね・・・」


「あの娘は普通じゃなかった。見た感じでは、戦士としてはお前よりもはるかに場数を踏んでいるようだ。あのまま続けても誰かに気付かれてただろう」


「ナジル、あんただって隠れてたのばれてたしね」


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「当てこすりはよせ。そろそろ時間だぞ。ほら、出てきた」
酒場宿からぞろぞろと人が出てくる。海賊亭の人々を殺戮して成り変わっていた戦士達だ。皆揃ってノルドの重装鎧を身につけ、まるで儀式に赴くかのような厳粛な面持ちをしている。


海賊亭から出てきた物はことごとく殺せ・・・この依頼に当てはまらないのだろうか、戦士達は”切り裂き”を恐れるようなこともなく、黙々と整列をはじめた。


2人はゆっくりと戦士達の前に姿を現した。


「時は来た。案内を頼む」
戦士の先頭に立つ男が手短に言葉を発する。ストームクロークの戦士、レイロフであった。


「目を惹き付けるため、念のため波止場の方でもう一人ころがしといてやろうか? サービスでいいよ」


「いや、不要だ。”切り裂き”の死者が見つかるのは決まって朝だろう? それまでには終わっている」


「そうかい。じゃ、ついといで」


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アストリッドとナジルを先頭に、ノルドの戦士達は港湾地区を進み始めた。ソリチュード上層街のアーチを潜って北に抜ける途中、シャフトの少し手前で彼らは街路を左に折れた。住宅街の中かと思われるそこには、岩肌の側面を上るような階段道が続いていた。


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ちょうど夕食時、小雨も降っている。そして悪名高い”切り裂き”の出没時間・・・こんな時間に好んで表に出る者は皆無だった。見られる心配はない。上層階に水を汲み上げる給水塔の音だけが低く鳴り響く中、霧に包まれた回廊をガチャガチャ音を立てながら戦士達は上っていった。


しばらく離れた後ろに、腰に斧をぶら下げた少女が見え隠れしていたが、案内役の2人は先頭で、続く戦士達に遮られて気付くことは出来なかった。


こうして奇妙な追跡行が始まった。


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カース川の河口を渡る手段は3つある。艀で渡る水路、波止場地区にしつらえられた跳ね橋を渡る陸路、そしてアーチの外側を渡るように作られた空中回廊だ。


その空中回廊を、暗殺者達、ストームクロークの戦士達、そして後をつけるブラッキーが進んでゆく。


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「あんたらなんで帝国兵に化けないのさ。もっと楽に進めた筈だろ?」


彼らは警邏の帝国軍兵士を既に3人ほど屠っていた。アストリッドは仰々しい格好に身を包んだ一団を非難がましく見ると、残りの行程を確認するように上を見た。空中回廊はアーチの側面やや下にへばりつくように、岩の凹凸を上手く使ってその間に細い通路を形成していた。


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「だから、”切り裂き”に露払い頼んだんじゃないか。我々はこの装備であることに意味があるのだ」


「ノルド民族の象徴ってことかね」


「・・・」


その後、戦士達は帝国兵に出くわすこともなく、アーチの中央部・・・その真下に到着した。ちょっとした踊り場があり、その先に対岸の湿地帯に向かって降りる通路が続いている。踊り場からはいくつかの枝道が延びていた。


今まで無言だった、フードをかぶったまま顔を隠した男が上を見上げた。
アーチの岩場に固定された急な足場が上方に伸びており、それはブルーパレスと同じぐらいの高さまで続いている。その先にあるのは桟橋。


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桟橋には船が横付けされていた。空中に浮かぶ船。紡錘形の浮きが船体の上方にあり、それに吊り下げられるように小型の帆船が接続されている。浮きに充填された気体の生み出す浮力により、空中を航行することが出来る船であった。
歴史に詳しい者なら、ダンマーのバレンジア女王が所有し、タムリエルの両端にあるモーンホールドの王宮とウェイレストの王宮を往復するのに使ったと言われている船に酷似していることを指摘したかも知れない。そんな船がソリチュードの空中桟橋に係留されていた。


あちこちに兵士が配置されているのが遠目に見える。そこに配備されている警備の兵士はこの通路とは違い、みなエルフであった。


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「サルモールめ、あんな物まで・・・」


「どうします? 破壊に向かいますか?」
レイロフが気遣うように男に尋ねる。


「いや、今回の目的は城内にある。そちらに集中しよう」
フードの男は再び顔を下げると、目的地に向かって進み始めた。


程なく彼らは、回廊から少し外れた物陰に隠された、古い扉に到達した。最初からここが目的地だったようだ。


「ふぅ。これで”切り裂き”は廃業ね。あとは・・・」
アストリッドは扉を調べるナジルと、集まって待機する戦士達を交互に見た。ナジルは扉に耳を当てた後、コンコンと2、3度合図らしきものを送っている。カチャリと鍵の外れる音がすると、すぐに扉が開いた。


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「ほぅ、これはまた美人のお出迎えだな」

レイロフが思わずこぼす。反対側から顔を覗かせたのは、黒髪に白磁の肌が対照的な女だった。アストリッドと同じ服装をしている。


「時間通り。よくやったヴィオレッタ。そちらの様子はどうだ?」ナジルが確認する。彼女も暗殺者の仲間だった。


ヴィオレッタと呼ばれた女は小さく頷くと仲間の後ろに控える戦士の一団を見た。
「大丈夫。パレスまで障害はないわ。それが運び込む”荷物”ね」


「そうだ」ナジルは合図をすると、戦士達を招き入れた。


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「契約はここまでだったな。何が目的かは知らないが、健闘を祈る」


レイロフが頷くと、紙を一枚ナジルに手渡した。
「残りの報酬、簡単に運べる量ではないから、ここに準備した。後で取りに向かってくれ」


「大丈夫だろうね? 裏切りはなしだよ」
アストリッドが釘を刺す。


「我々は大義にしたがって行動している。下劣な裏切りなどしない。お前たちもそうであろう? 闇の一党程の者達を使い捨てにするのは、スカイリムにとって損失だ」


深遠なるシシスを崇め、特定の儀式により仕事を受ける組織。彼女たちはスカイリムの影で活動する暗殺者、闇の一党であった。シロディールをはじめとした他の国々では別組織との抗争や暗殺者狩りにより勢力は衰退していたが、このスカイリムではまだ細々とその命脈を繋いでいる。本来ならば単独の標的を暗殺するのが仕事だが、最近では内部の事情により仕事を選ぶことが出来なくなっていた。


希にではあるがこうして大口の依頼も飛び込んでくる。ナジルの持ってきた暗殺対象が定かでないこの依頼を皆最初は嫌がったが、報酬が馬鹿に出来なかった。教義を保つのは組織、その組織の存続のためには致し方のないこととして彼女たちは依頼を受けたのだった。


「世辞はいいよ。ま、頑張りな」


そんな一党の事情とは関係なく、戦士達はぞろぞろと扉に消えていく。ソリチュードの上層階に至る隠し通路。その存在を突き止めて彼らは侵入に使った。15人の”荷物”が消え、黒髪の仲間と合流した一党の暗殺者達は、一息つくと来た道を戻ろうと振り返った。


・・・


・・・先ほど仕留め損ねた少女がそこに立っていた。


「ふ~ん。お姉さん達、あの酒場の連中とグルだったんだね」


空中経路をつけてきた少女・・・ブラッキーは暗殺者達を前にして臆することなく、むしろ興味深いと言った表情で3人を観察している。


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「ここに居るって言うことは・・・偶然じゃなさそうね。つけてきたって言うわけ?」


「ん~、まあ、そういうことになるね。なんで命を狙われたのか気になってたから」
ソリチュードに来たばかりのよそ者である彼女が急に暗殺者に狙われる。ブラッキーはジャリー・ラがらみであると勘違いしていた。


「あんたの命に価値なんてないわ。ただ邪魔者を排除するのが仕事だっただけよ」


返ってきた返事が意外だったのか、少女はしばし間を置くと考える素振りを見せた。そして納得したように頷いた。


「そっか。それ聞いて安心したよ。誰かに恨みを買ったりしたわけじゃなかったんだ」


世間話でもするような少女の態度に、アストリッドはだんだん苛立ってきた。


「少なくとも、1人の恨みは買ったわよ。・・・あたしのね」


「なに? お姉さん。ここでもう一回やる?」
少女は腰に下げた手斧をポンポンと叩いてみせた。暗殺者は不意打ちを得意とする。とにかく相手のペースに持ち込まれないことが重要。そう言った辺りをよく心得た行動だった。


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「なめるなよ小娘!」
アストリッドは歯ぎしりすると短剣を握りしめたが、その手はナジルにがっしりと押さえ込まれた。


「構うな! ここで騒ぐと帝国兵が来る。止めるんだ」


「ぐ・・・」


「リーダー、しっかりしろ。今回の任務は完了だ。ここに居続けるのは善くない。聖域に帰るんだ」


「チィっ! 分かったよナジル! 行くよ! ほら、ヴィオレッタも!」
アストリッドは歯ぎしりすると、ブラッキーを睨みつけながら、しかし慎重に距離を保って通路を戻りはじめた。


ブラッキーの姿が見えなくなるところまでくると、ようやくアストリッドも落ち着きを取り戻した。


「ヴィオレッタもお疲れ」


「あなた・・・切り替え早いわね」
黒髪の女は呆れたようにアストリッドをみた。急に激昂したと思えば次の瞬間には内通を手引きしたもう一人の仲間を労う余裕を見せる。自分たちのリーダーではあるが、仕事でなければ積極的に付き合いたくはない。そんな表情であった。


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「腹が立つこともあったけど、全体的には大きな成功だわ」
アストリッドは満足そうに仲間を見た。


「ええ、8万セプティムもあったら、聖域ももう少し整えることが出来るわ。でも・・・」ヴィオレッタは首をかしげた。「あいつ、あのフードの男。最後まで正体を明かさなかったわ。一体何者なのかしら?」


自らが導き入れた戦士の一団が何者かを彼女は知らなかった。


連絡を取り計らっていたナジルが説明した。


「お前は気付かなかったか? あれはウルフリック・ストームクロークだ。何の目的があって我らを使ったのかは分からんが、きっとソリチュードで何かが起こる。それがここを早く去った方がいいと言った理由だ」


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「驚いた。あたしはずっと中で仕事をしていたから・・・そんな大きな仕事だったのね」


アストリッドが”切り裂き”役、ヴィオレッタが内通役、そしてナジルが繋ぎをつけて連携を図る。基本個人任務が多い闇の一党、3人も出して当たる仕事というのは滅多にないものであった。


「少し運が向いてきたのかもな。シシスよ照覧あれ、だ」


3人は自分たちが殺した帝国衛兵の死体を跨ぎ、空中経路を戻り闇に消えていった。


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・・・




残されたブラッキーはどうしたものかと少し考えていたが、戦士達に続いてその扉を潜った。草花に埋め尽くされた庭園が目の前に広がる。空中経路は隠し扉を隔てて、ブルーパレスの中庭に繋がっていたのだ。


土についた足跡を見ると、戦士達はパレスの中に侵入したようだが、さすがに追って入るほど彼女は無謀ではなかった。パレスと反対側の街路に見覚えのある街の夜景を認める。港湾地区をはじめ今日はかなり動き回ってヘトヘトだ。この事件を知らせようにも、まずはベイランド達のところに戻るのが先決だろう。


ブラッキーはパレスを背にして夜のソリチュードを走り、職人街に到着するとベイランド親方の家に駆け込んだ。


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「おっちゃん、ただいま!!」


飛び込むや否や、驚いている面々にまくし立てる。都合がいいことに昨日と同じで、アルディスとアハタルも同席していた。


「お前さん、どこいっとったんじゃ? やはり門限が必要だな。日が落ちても帰ってこないから”切り裂き”にでも出会ったんじゃないかと心配しておったところだ」


「会ったよ、まさにその”切り裂き”に!」


「なんだって?!」


「その”切り裂き”に関係あることなんだよ! おっちゃん、空中の通路知ってる?!」


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ブラッキーは今日起きた出来事を、大急ぎで順に説明していった。聞けば聞くほど男たちの目は丸くなる。


「おまえさん、まだ2日目だって言うのに、ホントいろんなことに巻き込まれてるなぁ・・・」
親方達の反応を見ながら彼女は、自分は計らずとも厄介事に遭遇してしまう、もしかしてそんな質なのかも知れないというように感じ始めていた。


「ああ、知ってるさ。で、空中回廊だろ。それがどうしたって?」


「うん、変な連中がその通路にいたから後つけてったんだけど。途中の扉に姿を消したんだ」


「扉?」


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「知らない? アーチのちょうど中央辺りにあるんだけど、影になってるからね、それに普段は使われてないみたいだった。そこと抜けたら、どこに出たと思う?」


「どこなんだ?」


「なんと、ブルーパレスの中庭だよ!」
ブラッキーはテーブルの上にある、誰の飲みかけか分からないエールに手をつけると、喉を潤して続けた。


「でね、その一団はパレスの中に入ってったんだ。さすがにそれ以上は進めないし、なんかやばい気がしたからこうしておっちゃんたちのところに駆け戻ってきたんだ」


「ブルーパレスに? あそこは外国大使の出入りも多い、何の一団だろうな。忍びの密談とかそういうのか? ・・・まあ、従士たちと、彼らが指揮する宮廷衛兵がいるから滅多なことは起きないと思うが・・・」


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「そんな悠長な感じじゃないよ! 完全武装していたんだよ?!」


そう話をしたとき、外から叫び声が上がった。


「大変だ! 決闘だ! 決闘している奴がいるぞ!!」


「えっ?!」


「なんだと?!」


親方達とブラッキーは顔を見合わせた。頷くと彼らは揃ってベイランドの家から飛び出した。
左右を見回すと、辺りは同じように飛び出してきた人々の喧噪に包まれていた。広場を見下ろす職人街の縁には、野次馬が人だかりになっていた。


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ベイランドとアハタルも横に並ぶ。信じられない光景に、辺りはざわついていた。


アルディス隊長は少しでも現場に近づこうと葛折りの道に身体を割り込ませた。
「通してくれ! 一体何が起こっている? あれは、誰だ?!」


「上級王だ! ・・・上級王が決闘しているんだ! おいっ・・・あれは!」


「決闘だと? 一体誰と・・・!」


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「あれはウルフリックだ! ウルフリック・ストームクロークがいるぞ!」


「馬鹿な! ここはソリチュードだぞ。ウルフリックなんて来れるわけない!」


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「なんで城内にストームクロークが居るんだ!」


城門前の広場の中央で、2人の男が剣を構えて立っていた。一人はここソリチュードに御座を置く、上級王たるトリグ。そして対峙するは東の地にて反乱を起こしたイーストマーチの首長、ウルフリック・ストームクロークであった。


ブラッキーは先ほど追跡してきた戦士の一団がそこにいるのを認めてアハタルに叫んだ。


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「あいつらだよ! さっき侵入した奴ら!」


ノルドの重装戦士に扮した一団が円陣を組んでその周りを固め、人々と決闘者たちの間を隔てていた。ストームクロークの中から志願した戦士たち。レイロフを筆頭とした決死隊であった。


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ブラッキーは高台から、手に汗握って現場の様子に見入った。もし自分が”切り裂き”を止めていたらこの事件は起きなかっただろうかと自問したが、すぐにその考えを否定する。これは周到に準備された出来事だ。彼女の行動ひとつで止められるようなものではない。


奴隷商人達に故郷のキャンプが襲われたときに感じた無力感に似た、なにか見えない大きな流れがあるように感じて、彼女は身震いした。


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広場では従士に率いられたソリチュードの兵たちがストームクロークを遠巻きにしていたが、手を出せずに膠着状態になっている。


「矢を!」
女の従士が指示しかけたが、すぐに別の男に制止された。


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「やめろブライリング! 王に当たったらどうする!」


「しかし・・・ではどうしろというのエリクール!」


ブラッキーは例の船の持ち主である従士エリクールを初めて見た。中年に入りかけの、鋭い眼光を持った貴族だ。辺りをとりまとめようとしている姿から見るに、従士の中でも位が高そうだと感じた。


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「やめよウルフリック! 決闘は帝国法で認められていない!」

ブライリングが声を上げるが、決死隊の向こうの2人に届くことはなかった。


「これはノルドの伝統だ!」


ストームクロークの決死隊は、一歩も引かずに決闘者たちの壁となっていた。


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「なぜ王は決闘などに応じたんだ!」


「知らんのか? 上級王は決闘を拒めないんだ」


「馬鹿な! いつの時代だ。そんな昔の風習に縛られるなど・・・」
スカイリムでは4紀に入っても、帝国法で禁止されている決闘がお構いなしに行われていた。


取り囲む群衆の中でも様々な意見が戦わされている。しかしその目は一様に、向かい合う2人の男に釘付けになっている。


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敵地、しかもその首都のまっただ中にありながら、不思議と均衡のとれた奇妙な状況。

帝国の治める街とはいえ、ノルドの都であったからだろうか? 決闘が古くから行われてきた風習だからであろうか? しかし誰もが理解していたのは、この危うい均衡はそれ程長く保たれないだろう、ということであった。


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先に動いたのは上級王であった。剣を構えるとウルフリックに向かって突進する。
ウルフリックはそれを躱そうとせず、向かってくる上級王を真正面に据えると、大きく息を吸った。


そして・・・咆哮が放たれた。


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「ファス!!」


ブラッキーには声が視覚化されたように見えた。
ウルフリックの正面の空間が歪むと、向かってきた上級王は何かの壁に阻まれたかのように動きを止めた。耐えるように一瞬四肢に力が入ったが、次の瞬間、強く後方に吹き飛ばされた。


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「おお! あれは・・・シャウトだ!」


ノルドの中で失われつつある古代の技。声の秘法を目の前にし、従士も衛兵も群衆も、皆が凍り付いた。その均衡を破るように決死隊の先頭に居たレイロフが叫びを上げる。


「これが声の力、ノルドを統べる王の力だ!」


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シャウトによってトリグは転倒させられ、剣を突き付けられていた。石壁に叩きつけられた上級王は、信じられないといった表情で空を仰いだ。剣を構えたウルフリックが立ちはだかっている。ブラッキーにはすべてがスローモーションのように感じられた。


「すまんな、命をもらわねばならない・・・」


強大な力を解き放ったにもかかわらず、ウルフリックは息ひとつ乱していない。


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「だめだ! 止めろ! ウルフリック!」


エリクールが割って入ろうとするが、決死隊の女戦士に阻まれてしまう。


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トリグはやっとの事で立ち上がりかけたが、力が入らない。2、3歩進むと前のめりに倒れた。


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ウルフリックは剣を構えたままその後を追う。


見る者すべてに、その光景はゆっくりと目に焼き付けられるように・・・


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「ああ・・・エリシフ・・・!」


言いかけた言葉を続けさせず、追いついたウルフリックが背中に剣を突きいれる。


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トリグはあっけなく絶命した。


「帝国に尻尾を振るだけの軟弱な王はノルドには要らん」

決死隊が揃って剣を空に突き上げる。ブラッキーは喉が裂けるような彼らの雄叫びを聞いた。


「ノルドの伝統によって上級王は打ち倒された! タロスよ照覧あれ!」


「ウルフリック・ストームクローク! タロスの再来! 真なる王の到来だ!」


レイロフがウルフリックに目配せしていた。頷く首長の動きにあわせて剣を門に向けると、決死隊はウルフリックを先頭に紡錘の陣形を取った。ソリチュードから脱出しようというのだ。


「どけ! どかんか!」


ブラッキーとウンガーは荒っぽい声に押された群衆に飲まれそうになった。職人街の裏手にあるドール城から新たな兵士たちが出てきたのだ。広場の反対側からもまた、兵の一団が姿を見せる。テュリウス将軍であった。


「門を守れ! 狂信者たちを逃がすな!」


決死隊が正門に迫ると、3人の衛兵が行く手を遮ろうとする。


「新たな王に門戸を開けよ!」


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一喝されると恐れを成したのか、2人が剣を取り落として後ずさった。扉の正面に立つ衛兵は微動だにしない。立ちはだかり邪魔をするかに見えたが、剣を抜いていなかい。そしてそのまま膝をつくと、臣下の礼をとった。


職人街からもその様子が見て取れる。広場よりも高い位置にあるため、こちらの方がよく見えるのだ。


「くそっ、あいつ何してやがる!」
アハタルが門の様子を見て毒づいた。守衛はレムス隊のロッグヴィルだった。


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「王よ、お帰りをお待ちしております」


そう言うとロッグヴィルは門の鍵穴に自分の持つ錠前を差し込み、扉を開放した。
決死隊からも数名が進み出て、重い扉を押す。ソリチュードの正門は、軋んだ重い音と共に開かれた。


「裏切り者だと!」
離れたところで怒りに震えるテュリウス将軍の声が聞こえるようだ。将軍は我に返った兵士たちの一団に指示を出し、門を越えようとするウルフリックたちに襲いかからせた。
ロッグヴィルは仲間の衛兵達に打ち据えられ、捕らえられた。


決死隊は二手に分かれ、レイロフと側近数名以外は追手を食い止めるため、城門に陣取った。逃走を手助けするために捨て駒になろうというのだ。


「お前たちの献身は忘れぬ。いずれソリチュードに戻ってきた暁には、その10倍、いや100倍の首を手向けてやる。許せ」


「くそっ! ストームクロークの狂信者どもめ!」


振り返ったウルフリックが再び咆哮を放つ。

その瞬間、ブラッキーは再び空気が歪むのを感じた。


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「ファス! ・・・ロ・ダァッ!!」


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夜のソリチュードの空が裂けた。


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城門近く、野次馬の群衆、守衛、追跡しようとする兵士たち、すべてを巻き込んで風の爆発が巻き起こる。


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すべてが宙を舞う・・・そうとでもしか形容できない光景。


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空気の摩擦が火花を散らし、落雷にも似た衝撃波が広がる。


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その電撃は身構えた者達にも容赦なく襲いかかり、人々を昏倒させる。


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少し離れた職人街でもその風圧は衰えず、ブラッキーは鉄柵に捕まらなければならなかった。


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「すごい・・・」


ノルドに伝わる声秘術・・・竜言。

ブラッキーは純粋に、ただ驚きを口にすることしか出来なかった。


この日居合わせた者達は期せずして、スカイリムの根幹を揺るがす大事件の証人になったのであった。




・・・




ソリチュードからカース川を遡ること半日ほどの場所。ドラゴンブリッジから少し離れた岩と木々に隠された岸辺に、ストームクロークの野営地が設営されていた。


真夜中を少し過ぎた頃。さっきまでの小雨も止み霧も晴れて星空が見えていた。今日は作戦終了日。レイロフが事前に寄越した連絡通りなら、ウルフリック首長はもうすぐこの場所に現れるはずだった。ソリチュードでの作戦は上手くいったのだろうか?


Highrock-Skyrim-Map 3


ジェハンナ王国との同盟締結に失敗したストームクロークには閉塞感が高まっていた。しかしこの作戦が成功すれば風向きが変わる。我らの信仰心が勝利する日が一気に近づくはずだった。


かじかむ手に息を吹きかけながら、野営地を預かるストームクロークの小隊長は落ち着きなく歩き回る。待機しているストームクロークの戦士達の緊張も否応なく高まっていた。


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「おい、あれはなんだ?」


部下が声を上げる。
その声に反応して、隊長は北の崖上・・・首長が現れるはずの方角を見上げた。崖の上にはソリチュードからドラゴンブリッジに至る街道が通っている。そしてその先にはキルクリースの山々が連なり、その上には星の瞬く空。彼はふと首をかしげた。


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ここ数日にわたり山中の洞窟、ウルフスカルと呼ばれる辺りから不気味なうなり声のような音が流れてきて、緊張している隊員の眠りを妨げていた。しかし今夜は違う。そういえばさっきから音がしない。代わりに、青白い光が現れて山の奥で明滅しているように見えた。


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彼らが見守る中、青い光は山から離れて宙を飛び、流星のようにソリチュードの街に消えていった。隊長は見間違いかと目をこすったが。既に光は姿を消していた。
不気味な感じを受けたが、彼は都合のいいように解釈して、部下の士気を鼓舞することにした。


「これはきっと暁光に違いない! 首長達が成し遂げたのだ!」


彼はウルフリックを迎え入れる準備を整えるよう、部下に指示を出した。


「きっと追手も来るはずだ。我々はなんとしてもその追手を食い止め、首長がイーストマーチに戻る時間を稼ぐのだ」


「・・・!」
部下達に緊張が走る。


「諸君、覚悟はいいな。勝利か、ソブンガルデかだ!!」


「おお! ストームクローク万歳!」


興奮した戦士達は、ウルフスカルで起きた事をうかがい知ることもなく、押し殺したエールを上げるのであった。



(つづく・・・)



※使用mod


・ARO Followers SIS

 ・・・お世話になっているアロエッティさんの美しいお姉さんmodです(〃'▽'〃)

 一党の出番と言うことで、出演して頂きました


・Voyage of the Moon follower(WIP)

 ・・・お世話になっている一角さんのフォロワーmod。今回は公開されているWeb漫画の主人公格のセルジオさんを、贅沢にも、なんと従士エリクールとして使わせて頂きました。


・NPC85

 ・・・ソリチュードの従士ブライリングのリプレイサーとして使わせて頂きました。

 本当はファルク・ファイアビアードの恋人の筈なんですけど、エリクールと並んだら画像映えしたので、彼氏は今回お休みですw


・BonkuraYarou no Follower AnChan's( Nexus 75524)

 ・・・sugaitaniさん作のフォロワーセット。今回はベイランドの息子のケイド役としてカイル君に出演いただきました


・Better Astrid-New leader of Dark Brotherhood( Nexus 69629 )

 ・・・アストリッドのリプレイサー。気の強そうな程よい年齢の美人妻にしてくれます


・Blackjack - A Thief Weapon( Nexus 33034 )

 ・・・アストリッドの使った暗器はこのmodをリテクスチャして使わせて頂きました


・Solitude Skyway( Nexus 77346 )

 ・・・今回のキーとなった地形mod。ソリチュードにデートスポットを追加します(違)


・Airship - Dev Aveza( Nexus 24234 )

 ・・・本当に搭乗して操縦して飛べる飛空船modです。今回は景観としてですが、そのうち話に絡めてみたいと思います。

 ソリチュードの空中回廊との相性が最高にいいですね


※切り裂きは、Colorful Magicで有名なソリチュードの港町に出没するあれがヒントです(^__^;)

※ロッグヴィルはゲーム中ではどうあっても処刑を免れないので、コンソールで複製して生み出しましたw

※海賊亭はゲーム内では「海賊船」と言う名前の宿屋です(前回紹介のソリチュード拡張mod)

※ブラッキーの武器はバニラですが、何か特徴をつけたいと思ってあんな設定にしてみましたw

※Fus-Ro-Dahの2次爆風はColorful Magicのエーテルストライク(!)を使ってみました

※アハタルとセイマが兄妹だというのは、うちのRPでの設定です

※キルクリース山から立ち上る光(ポテマヨ光w)は、ウインターホールド大学から盗ってきましたw

※レフティはお世話になっている方のフォロワーです。また先の方で出番あるかも^^



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2 Comments

Nadia  

ナディアでございますぅ~

毎度毎度のナディアでございますぅ~なのだァ~

メリスちゃんが到着する前に、妹のブラキーちゃんが先にそソリチュードに到着してしまった...?
こういうすれ違いってよくありますよねぇ~w
今回は彼女が主役。
二人の主役って言うから、最初はアスヴァレンさんかと、ナディアは勝手に思ってしまったのだ・・・申し訳ない(+_+)

しかし、オークに育てられただけあって頼りがいのある子ですねぇ~
面倒事に突っ込んでいくとは、ああいう無謀さはどこか羨ましいのだぁ~w

今回の注目は、あの棺から出てくる死者達でしょうかw
あの件は”なるほどなぁ~”と感心しましたw

スカイリムの別オープニングか、あるいはそういう事があったっていう回想シーンであってもよかった感じがしますねw
スゴイw

たしかトリグを殺した後と、ダークウォーターで捕縛されるまでの間って少し開きがあったような・・・
どちらにせよ、ブラッキーちゃんは歴史の一幕を目にした訳ですし、貴重な体験とも言えますが、
これから本格化するであろう戦争の発端を目にしてしまったという、危機感も覚えた事でしょう。
戦争に加担するしないは別として、彼女の今後の成長も非常に楽しみですねぇ~♪

内戦勃発真っただ中、メリスちゃんにアスヴァレンさんは無事ソリチュードに辿り着けるのか!?
というか...ウィンキング・スキーヴぁ―の看板前に立っている人はどこかでみたような?なのだ...

次回もたのしみにしていますなのだぁ~(⊙ꇴ⊙)

2017/08/16 (Wed) 16:22 | EDIT | REPLY |   

もきゅ  

ナディアさんこんにちわ~

実はアスヴァレンとブラッキーのどちらを別行動にするかは、1部の11章ぐらいまでは未定で考え中だったんですw それまでの2人の振る舞い方なんかを見比べたりして、キャラ的に一人でも引っかき回してくれそうだということで、ブラッキー君を別行動にしましたw

アスヴァレンはどちらかというと外からいじられて反応を返すタイプですから、ボケのメリスに対する突っ込み役としてwしばらく一緒に行動させようかな~と。アーセラン君とか他にも突っ込み役だらけて、フルボッコ状態ですがw

世界を旅するうちに噂として知ってもらおうというゲームデザインかも知れませんが、決闘はホント、オープニングムービーとか語りとかでもいいので、スカイリムの本編に入れておいて欲しい部分でしたよね。内戦と民族問題がもう少しクローズアップされているゲームだったら、そうなってたかも?

うちのでは今回のお話は、テュリウスとエレンウェンが揃ってヘルゲンに現れるための理由付けのひとつ伴っています。ウルフリックスパイなど諸説ありますが、首都でやらかして逃げたら普通追うだろw、って分かりやすい方に持っていきました。(追い始めるのは次回からですけど^^)

看板前のあの人と一緒に洞窟調査に行けば、ブラッキーもすぐにメリスに会えたのにねぇ~w
(作者意地悪なので、そう易々と会わせられませんww)

2017/08/17 (Thu) 11:25 | EDIT | REPLY |   

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