4E201 - The Unsung Chronicles of Tamriel

¡Hola! Mi nombre es Moqueue. Encantada.

4E201

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2017  21:37:44

◆Chapter: 2-3 呪術師たち

杉の枝から光の粒がこぼれ落ち、街道の脇に小さな白い山を作る。夜のうちに降った雪が日中の太陽に当てられ、次の夜を待つことなく溶け、崩れ始める。近くを通りかかったキツネが、あわてて飛び退いてその落雪をかわす。木々が伸ばす格子のような影法師の間を通過するたび、キツネの毛皮がめまぐるしく色を変えた。傾いた太陽に照らされて金色に眩しく反射しているのだ。


かなり日が傾いている。ハーフィンガルの深い森に抱かれたキルクリース山は、夕暮れを迎えようとしていた。


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冬が近づいても葉の落ちることのない針葉樹のカーテンは、光だけでなく音も遮断する。夜の訪れと共に静寂の帳が降りてくる時間。雪キツネは岩山の巣に帰ろうとして、ふと通りがかりの洞窟の前で足を止めた。人間達がウルフスカルと呼んで避けている洞窟。野生の動物たちに混じって、たまに後ろ暗い人間が雪よけに使う場所だった。


ウルフスカル洞窟は人の通れないような小さな出口を無数に持つ多孔性の洞窟だ。入り口は岩山の影で狭くてわかりにくいが懐は深い。定住者はいない。しかし入口近辺には何かを固定していたのか、天井から鎖が垂れていたり、目立つ物では壊れた荷車のようなものが転がっていたりする。これまで旅人やならず者、様々な者達が利用してきた痕跡だった。


中から変な音が聞こえる。普段静かな洞窟は今日、多くの侵入者を飲み込んで喧騒に湧いていた。


洞窟を少しだけ入った地点・・・
ソリチュードから派遣された調査隊は、すぐに奥に踏み入ろうとするナターシャを押しとどめて、まずは準備を整えようとしていた。洞窟で露営していた旅人3人を仲間に加え、ランタンのオイルや松明の本数の確認など、中に持って行くものを決める。再びここに戻ってくるつもりならなるべく身軽な方がいい。帝国軍兵士のヴァルニウスに荷物と火の番を任せることにした彼らは、不要な荷物をより分けて片隅に積み上げていった。


じっとしていると焚き火の火が揺らぐ。空気の流れがあるようだ。緩やかな風の流れが調査隊の頬をなでる。前の滞在者が使っていたと思われる焚き火は、薪をくべ直して彼らのベースキャンプとなっていた。


暖を取っていたアスヴァレンは、ふと地べたに落ちている白いマントを見とがめ手に取った。


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「おい、ナターシャといったか? マントは持って行った方がいいと思うが・・・」
錬金術師はすこし先で伸びをしている女魔術師に呼びかけた。呼ばれた女魔術師はそのまま構うなと言うように手を振る。


「多少の寒さは気だけでなく、肌をも引き締める効果があるのさ」


「そんなものか」


「あたしは身軽が好きなんだ」


調査隊と遭遇したのは偶然だが、アスヴァレンが一晩の屋根代わりに洞窟を選んだのには意味があった。地表が身を切るような吹雪にさらされていようとも、地中の温度はほぼ一定になる。凍傷にかかる心配もない。冬の近い屋外で野営する事を考えると数段安全な場所だった。


荷物整理をする傍らで、帝国兵ヴァルニウスが焚火の番を引き継ぐ。彼は禿げかかった頭を掻きながら面目なさそうな顔をしていた。


「すまんな・・・その、アルフ君。こんなことになってしまって」


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帝国兵が気にしていたのは依頼のことだった。彼が洞窟の異変を報告したとき、執政のファルク・ファイアビアード、宮廷魔術師のシビル・ステントールをはじめ、ソリチュードの宮廷の面々はまともに取り合わなかった。しかし実際に不気味な異音を聞いていたヴァルニウスはどうしても放ってはおけず、休息に立ち寄った兵舎で上官アルディスにも嘆願したのであった。


「気にしないでくれ。人数は多い方が何かと安心だ」


ヴァルニウスの頼みに、勝手に軍を動かすわけにも行かない隊長は機転を利かし、調査のため身軽な傭兵を一人手配した。それがアルフであった。彼は隊商護衛の仕事を終えて、たまたまソリチュードに滞在していた時、調査員募集の掲示を見てこの話に乗ったのだった。


「まさか執政たちが別ルートで人をよこすとは思っていなかったんだ」


「いいって。じゃ、行ってくるよ。ここは頼む」


調査に来たアルフレドとナターシャに旅の3人を加えた5人は、見張りを残して前進をはじめた。しばらく進むと少し広い空間に出る。この辺りまでは人がよく来るのだろうか地面はしっかりしていて、足を滑らせる心配もなかった。途中枝分かれも何箇所かあったが、どれも一方は人間が入れないような大きさのものばかりで、迷いようのないほぼ一本道だ。彼らは迷うこともなく、音のする方に着実に進んでいった。


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洞窟を吹き抜ける風の流れが変化したのを感じると、彼らは急に広い場所に出た。地中に埋もれかけた遺跡のような石積みの壁が姿を表し、彼らの行く手を阻んだ。左右の広がりはどちらも、少し進んだ先で落盤により閉ざされている。
急に姿を現した人工物に驚いた彼らは、ランタンや松明でしきりに辺りを照らしながらきょろきょろした。天然の洞窟の中だったはずが、いきなり塔らしき物が現れたのである。その塔には、正面の目立つ所に一つだけ扉が付いていた。


彼らは互いの顔を見やった。

塔の石壁に手を当てると、ナターシャは石の表面を撫でながら自らの記憶を手繰った。


「書物で読んだことがある。ここはきっとメレシス山岳都市群の一つだな」


「メレシス?」


聞き慣れない単語にイェアメリスは横に立つダンマーを見上げた。博識な彼ことだから何か知っているかもしれない。しかし彼は首を振っていた。この遺跡について何の情報も持っていないことを表明すると、言いだしたナターシャに目を向けた。


周りの興味が充分集まるのを受けて、女魔術師は続けた。


「アトモーラ人をスカイリムに導いたイスグラモルの率いる戦士団――同胞団というんだったな――、はスノーエルフと土地を争って戦争をした。彼に付き従って海を渡ってきたいくつかの有力者がスカイリム中に都市を築いていったのだが、ここはその中の一つだ」


彼女は地図を描くような仕種で、空中に指を泳がせた。


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「上陸地に作った港ウインターホールド、イスグラモル自身が設計した王都ウインドヘルム、竜司祭たちの本拠地となったブロムジュナール、ジョルバスクルが解体されたスカイフォージの街ホワイトラン、そしてこのキルクリース山中に築かれたのがメレシスの山岳都市群。第1紀の初期にハラルド王が統一するまで、スカイリムはイスグラモルの後継を称するこの5つの都市国家が割拠していたんだ」


褐色の女魔術師は、洞窟の中に完全に収まっている不思議な石壁を見上げた。


「すごい。物知りなのね」


「まあな、こう見えてもあたしは大戦前、帝都の図書館に入り浸っていた本の虫なのさ・・・で、このメレシスって言うのはこの辺りを指す地名だ。今でこそソリチュードに人が集中しているが、かつては古代ハーフィンガル王国の中心都市の一つとして栄えていたと言う。4000年以上前の話だな」


「山の下に眠る古の街か・・・」
興味をひかれたアスヴァレンも学者魂がくすぐられたように塔を見上げた。


「メレシスは山岳のあちこちに築かれた小規模な街の集合体だったと記されている。遥けき深さを目指したドゥーマー程ではないにしろ、ノルドの石造建築も大したものだと思わないか? この場合、アトモーラ式の建築と言った方が正しいかもしれんが・・・」


「たしかに、興味深いな。この石の積み方は積雪に強い様式だ。元は地表に露出していたのかもしれん」


学者同士通じるものがあるのか、話し込みはじめる2人。アルフレドはここに来た目的を思い出させようとして口を挟みかけ、イェアメリスと目があった。同じことを考えているようで、苦笑とも諦めともつかない顔をしている。


「この場所の由来は良いとして・・・しかし、この音は何なのだろうな。まさか古代の亡霊とも思えんが」


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結局アルフレドが割って入り、学者気分に浸っていた2人を現実に引き戻した。


「確かに音が良く反響しそうな洞窟だけど・・・本当に自然の音なのかしら?」
イェアメリスは気味悪そうに扉を見た。


不協和音は断続的に鳴り続けている。


「学者さん達、ここで話していても埒があかないぜ、進もう」


「フン、歴史の価値が分からん奴だな」


「俺たちが調査するのは遺跡じゃなくてこの音だぜ?」


「分かってるさ」


一つだけある扉をおっかなびっくり開けると、下に向かって階段が続いていた。塔だと思ったものはしかしそうではなく、城門の役割を果たしている建物のようであった。都市の街路が姿を現すのかと期待した一行だったが、残念ながら少しすると景色は再び洞窟に逆戻りしてしまった。ところどころ天井からは空が見え、地面には雪が積もっている。吹きだまりになっているようだ。


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夕暮れの橙色の光が、雪の粒子で拡散されて洞窟の中まで届いている。ナターシャは前に出てアルフレドに並ぶと、軽く身体を揺すった。


「これは洞窟と言うより、山の中腹に出たと言った方が良さそうだな」


「確かに。途中で地上に出るとは思わなかった。・・・あんた、そこの錬金術師の言うことを聞いておけばよかったな。危険には対処できるが、気候相手には守ってやることもできないぞ」


「誰が守ってくれと言った。自分のことは自分でやれる」


そう言って手短に呪文を唱えると、彼女の背中が少し揺らいだように見えた。防御に使う見えないマントの呪文だ。防寒も兼ねているのだろうか? そして見回すとイェアメリスに目を止める。


褐色の肌を見せるナターシャとは対照的に、イェアメリスは長袖で襟も高い、スカートも長くて暖かい服装をしていた。それでも少し寒そうにしている。スカイリムの気候は、暖かいキルクモア育ちの彼女に優しいものではなかった。


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「ん、お前、寒がりなのか?」
彼女はイェアメリスは小刻みに震えているのを見とがめると、再び呪文を唱えた。


ぶぅん、と振動を感じると次の瞬間、イェアメリスは肩に何か布地を被せられたような感覚に囚われた。


「あたたかい・・・」


「狼の毛皮の呪文だ。ウルフスカル洞窟だけにな」
そう言って笑うと、女魔術師は辺りの探索をはじめた。


「わざわざ呪文で保温してまで、そんなに肌を見せなくてもいいんじゃないか? 必要性を感じないな」


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「あたしの自慢だからな。この肌と文様は」
ナターシャは、わざと肌を見せつけるようにアルフレドににじり寄った。彼女は若い傭兵が慌てて眼をそらすのを面白そうに見ると、再びイェアメリスに向き直る。


「・・・お前からはとても強いマジカを感じるが、魔法は使えるのか?」


再びドキッとして返答に詰まったイェアメリスの返事を待たず、彼女は笑って続けた。


「まあいい、この呪文・・・なんなら今度教えてやる。スカイリムを旅するんだったら覚えておいて損はない。あたしもこの地に来てから覚えたんだ。厚着は嫌いだからな」


「ナターシャさんは、スカイリムに来て長いの?」


「ん~、それ程でもないな。話したか? あたしはシロディールの大学から来たんだ」


「大学って、ウインターホールド大学みたいな? ・・・たしか帝都の大学は解体されたって聞いたけど・・・」


「アルケイン大学か? 違う、解体されたのは魔術師ギルドで、大学は今でもある。もっとも、あたしの言う大学はそれじゃないけどな」


一行はいくつかに分かれて吹きだまりを調べ始めた。アーセランは来た方の近くを、傭兵と錬金術師は奥の壁を調べている。残った女二人は、喋りながら探索を続けた。


「言い忘れたが、私はシロディールのウィスパーズ大学という組織に所属しているんだ。大学と名は付いているが、ギルドの一種だな。解体されたといったが・・・ギルドの方も姿を変えて、生き残っている」


ナターシャはまるで教鞭をとる先生のように、魔術師大学に関わる歴史を語り始めた。


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かつて大陸中の魔術師達を統括していた魔術師ギルドは、オブリビオンの動乱後期、組織として混乱を極めていた。アークメイジのハンニバル・トレイヴンが虫の王との戦いで死亡し、その後新たにアークメイジとなったチャンピオンも姿を消してしまったからだ。マスターウィザードの大半を失ったこともその混乱に拍車をかけていた。


続く第4紀はじめ皇帝不在の時代、帝国は各地から常設軍を引き上げたため、そこに属するバトルメイジも殆どがシロディールに戻っていった。その結果スカイリムでは魔法が衰退し、ハイロックでは睨みの効かなくなった諸侯の小競り合いが頻発、帝国領の各所に様々な問題を引き起こしはじめた。


特に大きな事件が起きたのがモロウィンドだ。レッドマウンテン噴火時の災害復興に尽力したのは帝国でも魔術師ギルドでもなく、レドラン家とテルヴァンニ家に支えられたバレンジア女王とヘルセス王であった。有効な手を差し伸べることが出来なかった帝国は、ダンマー社会での求心力と影響力を一気に失っていった。


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決定的なのが直後に起こったアルゴニアンの反乱だ。ブラックマーシュのアルゴニアン侵攻に際しても、モロウィンドの魔術戦力を引き上げていた帝国軍は有効な手を打つことが出来ず、結局援軍を出すこともしなかった。
その代償は大きく、火種となったモロウィンドとブラックマーシュの2国は対話も条約もないまま音信不通となり、もはや帝国の一員と呼べない状態になってしまう。どこかが責任を取らなければ事が治まらない事態に元老院は、デイドラと関わりを持つとして動乱以降風当たりが強くなっていた魔術師ギルドに責任の一端を被せて解散させたのであった。


「そんなことがあったの・・・。何かを起こしてしまったのかと思ってたわ」


「逆だな。何もできなかったからこそ、潰されてしまったんだ」


隔絶された辺境の島キルクモアに暮らしていたイェアメリスは、自らの伺い知ることのできない大陸側での出来事に目を丸くした。


ナターシャは続ける。


ギルドがなくなると、各地で事件を起こす魔術師達が増え、市民の生活を脅かすようになった。魔術師という人種は知識欲に始まり、元々自己欲求が強いのは確かで、野放しにされると自由奔放にふるまう者が後をたたなったのだ。皮肉にもガレリオンが興した魔術師ギルドは、サイジックの考えである「世界の安定のため、魔法は選ばれた一部の人間のみが使うべきもの」という機能を逆説的に果たしていたことを証明したわけである。魔術師達は次第に危険な存在としてみなされるようになった。


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その後、無秩序に大きく傾いた天秤は再び平衡を取り戻そうと、魔術世界の統制が再度試みられた。第4紀の30年に、サイノッドという魔術の研究組織が編成される。サイノッドは研究組織という名前を持ちながら、旧魔術師ギルドの武官(バトル・マスター)派閥の流れを汲むため階級に厳しく、武力、戦闘に積極的であった。組織は、弱体化した帝国軍の補強を皮切りに軍人、貴族や元老院の護衛の立場として政治の世界に影響力を及ぼしはじめた。


次いで31年に旧魔術師ギルドの文官(インキュナブラ・マスター)派閥が、アルケイン大学からウィスパーズ大学を分離独立させる。この大学は魔術を戦闘の道具としてではなく、より学問的な道具として探求する事を信条としており、設立当時からサイノッドと折り合いが悪く反目し合っていた。


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ウィスパーズ大学は召喚術が盛んで、同じ流れを汲む死霊術も一部とはいえ内包、許容している。スカイリムでは唯一ソリチュードに支部が存在していた。ナターシャが所属しているのは、そんな大学であった。


「そんなわけで、サイノッドとウィスパーズはシロディールの2大魔術組織だが、とても仲が悪くてな。皇帝の歓心を得るために、双方でお互いの動向を牽制しあい、権力争いに明け暮れているのだ・・・」


ナターシャは自らがスカイリムに来ることになったきっかけも話した。サイノッドが、スカイリムで発見された新たなドゥーマーの遺跡、ムズルフトに眠るアーティファクトの回収を目論んで一隊を派遣したのに呼応して、彼女はその監視と妨害を任務として送り込まれたのだという。


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「ドゥーマーの遺跡か! 面白そうだな」
一回りしてきたアルフレドが話に加わってきた。


「生易しくはないぞ。もしおまえがドゥーマーを専門にしていないのだったら、遺跡に潜るときには専門家を雇うことだ」


「実は知り合いに一人、心当たりがあってな。よし、この仕事が終わったら行ってみるか」


「命知らずな・・・。まあ、まずはこの洞窟に集中だ」


「それはそうと、そんなに軽々しく任務の秘密を喋っていいものなのか?」


「あたしにとってはどうでもいいことさ。・・・大学の上層部は、今回のサイノッドの企てが、大学の権威を脅かすような結果に繋がることを恐れている。だから大学は、奴らの監視を目的に私を調査員としてスカイリムへ派遣したんだ。権力争いというくだらない理由でこき使われて、私としてはとても不本意だ・・・」
ナターシャは心底嫌そうに吐き出した。


「大学って、魔術の勉強をするところだと思ってたわ」


「ああ、本来はそうあるべきなのだが・・・権力争いに執着した今の姿を、私はいいとは思っていない」


「じゃあどうして所属しているの?」


「一言で言えば、・・・都合がいいからさ」
彼女は両手のひらを上に上げて、肩をすくめて見せた。


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「ウィスパーズ大学はサイノッドが禁止した召喚術や死霊術を支援しているからな・・・合法的にこれらを研究できる機関としては貴重なのだ」


吹き溜まりに散らばって周囲の道を調べていた他の仲間たちも、彼女たちの元に戻ってきはじめた。


「私の専攻は召喚術なんだが、召喚術の研究を行うことを考えると、この大学に所属する価値は充分にある。不本意なことも多いが、自分の研究のため、多少の面倒事には目を瞑るようにしているんだ」


「へぇ。姉さん大人だね~。うちの駆け出しとは大違いだな」
合流してきたアーセランが、意地悪そうにニヤつく。


「どうせあたしは融通ききませんよ。それに、駆け出しって何よ!」


「変に擦れているよりは、糞真面目の方がいいぞ」
当て擦るようなアルフレドの横やりに、今度はナターシャが眉をひそめた。


「お~、こわこわ・・・」
アーセランは目を怒らせる女性2人を見ると、アルフレドにウインクして見せた。「ま、みんな仲良くやろうや」


アルフレドも話を逸らすように言う。

「こんな所で油を売っていて。あんたは本来の任務はいいのか?」


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「もう済んだ。・・・ムズルフトに向かったサイノッドが全滅したところまでは確認した。あ、言っておくが、あたしがやったんじゃないからな」


「妨害が任務だと言ってたじゃないか」


「さっきも言っただろ。ドゥーマーの遺跡は危険なんだ。権力闘争に明け暮れ、魔術の鍛錬を疎かにしている奴らが遺跡の仕掛け相手に生きて帰還できる筈なかったんだ」


女魔術師は吹き溜まりの雪をすくい上げると手の上で溶けてゆくのをしばし眺めていた。


「たまたま得意なのが電撃系の呪文だったのもあったし・・・、あたしも鍛えている方だとは自負していたんだが、一人では危なかっただろうな。同道した戦士が遺跡慣れしてて、遺跡の仕掛けやオートマトンをことごとく蹴散らしてくれたんだ。実のところ、殆どあたしの出番はなかったというわけさ」


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「へぇ、すごい奴がいるもんだな」


「それで、用が済んだのでしばらくはこの国を散策したいと思ってな・・・まずは大学の拠点があるソリチュードに戻ってきたんだ。そうしたら、休む間もなく次の任務が待っていていまこんな所に居る。・・・あたしの事情はこんなところさ」


ウィスパーズ大学の学長であるアークメイジ・モーヴァーは、シビル・ステントールと共にソリチュードの宮廷魔術師を務めていた。ヴァルニウスは知らなかったのだが、彼が報告を終えて下がった後、ソリチュードの首脳陣は首都に居を構えるウィスパーズ大学に調査を依頼していた。魔術的な要素が絡んでいることも考慮しての措置であった。


「だが、来てみて初めて分かったこともある・・・スカイリムは嫌いじゃない。それにソリチュードの大学は本国ほど政治には関心が高くなくて、ちゃんと学問に取り組んでいる者が多かった。信じられるか? 学生の中にはドレモラもいるんだぞ。・・・アークメイジのモーヴァー殿も話の分かる人だ。面倒くさい奴も居るには居るが、大学に居続けるならこちらに籍を移すのも悪くないかもな」


そう言ってナターシャは先頭に立つと、吹き溜まりから奥の通路に向かって歩き始めた。しばらく話に聞き入っていた一行は、再び調査を開始した。


「メリス、どうした? 遅れてるぞ」


「えっ、ええ、大丈夫」
アスヴァレンに呼ばれて、慌てて小走りに追いつく。イェアメリスは、何か思いだそうとするように周りを眺めながら最後尾を歩いていた。


「考え事か?」


彼女はうなずいた。手形が欲しいから協力する、と咄嗟の方便でこの調査に付いてきたのだが、肝心の本当の理由が思い出せないのだ。


「あたし、なんでついてきたんだろう・・・?」
困惑した顔で連れを見る。その目線を受け止めて、錬金術師はめずらしく困ったような反応を返した。手形の話はあまりに苦しい言い訳だが、何か思惑があるのだろう、そう思ってアスヴァレンは黙って好きにさせていたのだ。


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「おい、しっかりしてくれ。言い出したのはお前だぞ」


「え、ええ。そうなんだけど。ぼぅっとしていたみたいで思い出せないのよね・・・」


「オ~オ~オ~・・・・」


不吉な呼び声のような音は、断続的に続いている。聞いていると思考を妨害されるような耳障りな音だ。イェアメリスの頭に”誰かに呼ばれた”という考えが浮かんだが、それこそおかしな話だ。音で頭が変になったと思われかねない。呪いの傷やサルモールの薬など、ただでさえ心配事が多いのだ。彼女は結局理由を思い出せないまま、口をつぐんでおくことにした。


彼らの追っている謎の音は歌のようにも聞こえる。何か韻を踏んでいるようなのだが、洞窟に響く間に大きく歪んでしまい、言語として聞き取る事は不可能だった。ランタンを頼りに歩き続けると、いつの間にか地面には土が姿を表し湿り気が減って、埃っぽくなってきた。


「ちょっと待った」


ナターシャに変わって先頭に出ていたアーセランが、突然立ち止ると警告する。仲間の視線が集まると、小柄なボズマーは足元を指差した。


「見てくれ」


彼らの歩く地面には、よく見ると一行のものとは違う足跡がいくつも残っていた。比較的新しい。それはこの先に人がいることを表していた。イェアメリスは足跡を見ると、フィールドワークの要領で注意深く観察を始めた。


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「人間ね・・・戦士とは違いそう。ナターシャさんが言ってた魔術師たちかしら」


「わかるのか?」アルフレドが訊ねる。


「アルフさん、自分の足元を見てみて」


言われた通り自分の足元を見るが、履き慣れた金属で補強された革のブーツが目に入っただけだった。


「俺のブーツだが?」


アーセランが代わりに説明した。
「ちげぇよ。地面だって。・・・見てみ、ここら辺の地面は粘土質だ。あんたみたいに重い装備をもってる連中は、足跡が深いんだ」


アルフの脚はわずかに地面にめり込んで、凹んだ足跡を残していた。
「どんな連中か知らないけど、それほど重装備じゃなさそうだぜ」


「ふぅん。あなた、狩りは苦手だけど観察眼はちゃんとあるのね」
ここぞとばかり、イェアメリスはボズマーをからかった。駆け出しと言われたお返しだ。


「あっ、ひでぇな・・・」
 

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何か言い返さずにはおかないところだが、今は足跡が気になる。アーセランは傭兵達に確認した。


「調査って言うけどよ、あんたらみたいなのを寄越すって事は、やっぱり戦闘を想定しているってことだよな」


「いや、戦闘するならこんな人数では来ないさ。本当に、まずは何が起こっているかを確認し・・・」


「男のくせに何を中途半端なこと言ってる。傭兵を雇うと言うことは戦闘は織り込み済みだろ。お前のその剣は飾りか?」


「飾りって・・・、オレはあくまでも調査という任務を真面目に考えてだな・・・」


「まあまあ、いいじゃないの。調査でも戦闘でも。お金貰えるんだろ?」


「何言ってる。お前の分の報奨金など端からないぞ」
ボズマーを制すように、褐色の女魔術師は念を押した。


「え、じゃあなんで俺たちついてきてるのさ」


「そこの娘に聞いてみろ」


「え? あたし? ・・・」


やはりにわかに集まった仲間では息は合わない。いよいよ収拾がつかなくなってきた。アーセランの空気を読まない口出しも、ここではやや空回り気味だった。様子を見守っていたアスヴァレンが助け船を出すように、疑問をナターシャにぶつける。


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「どうも、この中で一番情報を持っているのはお前のようだな」


アルフレドも聞き咎めて、一同の視線はイェアメリスからナターシャに移った。


「戦闘があるかはともかく・・・」


彼女は少し考えると、言葉を選んで説明した。


「どうも今回の件には、大学が・・・いや、大学の関係者が関与していそうなんだ」


「どういうことだ?」


「ウィスパーズ大学では死霊術が許可されているといったな。それは本当のことなのだが、もちろんそれには限度がある。一部に・・・やりすぎてしまった者たちがいるのだ。そいつらは大学から除籍されて追放されたのだが、どうもこの辺りを根城にしているらしい」


「つまりは、そいつらの仕業か」


「否定はできないが可能性は高い」


所々開いた穴から空を見上げると、既に日は沈み闇に包まれていた。小さな吹き溜まりの先には洞窟の続きが口を開けており、不気味な音はそちらの方から聞こえている。一行は慎重に、音源に向かって歩を進めた。


「なあ、やりすぎたって、大学の連中は一体何をやったんだ?」


「元・大学の連中だ。内部的な話だが、大学で取り扱う死霊術には犯してはならない禁忌がある。生きた人間を材料にしてはならない、そういう類のな。やりすぎるってことは、まあ、推して量るべし、だな」
そう言うとナターシャは、後ろから続く仲間を手で制した。


「この先に広い空間があるようだ。気をつけて進め」




・・・




踏みつけた小石が砕けて、パラパラと崖下にこぼれおちる。
一本道の洞窟を進むと、彼女らは急に開けた場所に出た。通路の片側の壁がなくなり崖になっている。先ほどの吹きだまりとはうって変わって広大な空間。そこには・・・都市が広がっていた。


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「わぁ・・・」


イェアメリスは目の前の光景に、思わず感嘆の声をあげた。物音を立てたら咎められるところだったが、幸いにして空間にこだまする音にまぎれて、彼女の声はかき消された。


地下の巨大な空間の中に作られた都市。いくつもの石塔が林立し、石の橋や階段がその間を縦横に接続している。石積みの建築様式はスカイリムの地上でもよく見られるもので、ノルドの祖先が築いた街であることが一目で見てとれた。


地底で静かに横たわっていたはずの街はいま、不届きなものに達によって眠りを妨げられ息を吹き返そうとしていた。都市のあちこちには篝火が焚かれ、塔の窓からは明かりがもれている。人が住んでいるのだ。よく見ると都市の各所にも人影があった。


「あの光は何かしら?」


一行の目は、ひときわ高い塔の上に引きつけられた。
青白い光球が塔の上に浮かんでいる。都市のあちこちから帯状の光が漏れだし、光球に向かって連なっているのだ。まるで、周囲の空間から何かを吸い上げているかのように。


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「・・・よ、きたれ」


広い空間に出て、不気味な音のひずみがなくなり、明瞭さが増した。
うなり声の様に聞こえた音は、複数の人間による詠唱の声であった。


「しっ・・・何て言ってる?!」
アルフレドがざわめき立つ一行を制する。


「長きにわたり深遠なる死の眠りについていたポテマよ、目覚めの時だ。我らが声に応えよ、狼の女王! 汝を召還する!」

今度ははっきりと聞こえた。


「ポテマを召還する!」


塔の上の人影・・・そこで何人かの呪術師達が召喚の儀式らしきものを行っていた。不気味な声はその詠唱。発生源はここであった。


「ポテマだって? 冗談だろ」
アルフレドは驚いたような顔をして、ナターシャの方を見た。


タムリエルに暮らすものであれば誰でも一度は聞いたことがある、有名な書籍に出てくる名前。その名を呼ぶ声が、古代都市の眠る空洞に響いていた。


ポテマ・・・今から500年ほど前、まだセプティム朝の帝国が全盛期のころ。

ペラギウス2世の娘として生まれ、スカイリム上級王マンティアルコの妻、アンティオカス帝とセフォラス帝の姉にして女帝キンタイラ2世の叔母、ユリエル2世の母といった数え切れない肩書きを持つ皇女。しかし彼女の名前は華々しい肩書きではなく、むしろ帝国の邪悪を一身に背負うものとして有名であった。


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セプティム朝には暗黒面がいくつか存在するが、その中でもひときわ有名な逸話の数々。
美貌と知性を武器に、帝国を二分する内戦であるレッドダイアモンドの戦いを引き起こし、栄えある九大騎士団に不和を撒き内紛にて崩壊させた。女帝キンタイラ2世の弑殺を謀り、息子の皇子に皇帝の座を簒奪させた。軍資金欲しさにサイジック会の大導師を謀り、ピアンドニアの艦隊を王と共にアルテウムの海に沈めたのも彼女の差し金である。さらに彼女は魔術の才能にも秀でており、稀代の死霊術士としてアンデットや吸血鬼を使役し戦争に用いた。召喚したデイドラと媾ったり、吸血鬼でもないのに人の生き血を大量に使ったりして若い外見を保っていたとも言われ、妖術師、魔女としての悪名も高い。


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晩年には狂気に陥り、彼女が治めるソリチュードは腐臭漂う死者の都となった。狼の女王が腐りかけたスケルトンの召使いに給仕されている姿や、吸血鬼の将軍と軍議を図る姿は臣下を恐怖に陥れ、味方は次々と減っていく。最後には己以外をすべて敵に回して1月以上も籠城し、囚われて処刑されるまでの間、皇帝セフォラスを散々悩ませた。


彼女の影響はその死後にも猛威をふるい、その狂気は後代の皇帝に呪いとして降り懸かったともいう。
彼女を捕らえた兵士が、90歳にもかかわらず若い姿を保ったままだったという証言をしたが、狂気に当てられたせいだとして公式記録には残されなかったという逸話もある。


この、とても一人の人物が引き起こしたとは思えない帝国の大惨事は、第3紀の終盤にウォーヒン・ジャースという作家により「狼の女王」シリーズとして物語にまとめられ、5世紀が経った今の時代でも大衆の娯楽として読み継がれていた。


「ちょっと待って! ポテマって"狼の女王"シリーズにでてくる、あのポテマだって言うの?!」


イェアメリスは耳を疑った。辺境の島に暮らしてきた彼女でさえ、ポテマの名は知っている。


「他に思いつくポテマがいるなら教えてくれ。あたしは一人しか知らん・・・好んで我が子に狼の女王の名前をつけようとする者はいないぞ」


「だって、まさか・・・でも、そんな!」


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『そんなことしていると悪魔の皇女ポテマが来て、お前さんを連れ去っちまうよ』
それは、タムリエルの町村では悪さをする子供達を諫めるためにおまじないのように使われる、誰もが知っている、そんな名前であった。


アルフレドの顔もこわばっている。


(この洞窟はいわく付きでね。大昔に狼の女王ポテマが死霊術の儀式を行うのに使っていたんだ。それが名前の由来だ。500年以上も前の話だ。いまではそこに何もないんだがね、みんなその洞窟は呪われていると固く信じているのさ)


(呪われている洞窟って、あんなの、迷信だろ?)


アルフレドは、依頼を受けるときヴァルニウスが言った言葉を笑い飛ばした事を思い出した。


「少なくともこの光景を見る限りでは、狼の女王かどうかはともかく、連中は本気のようだ」
ナターシャは塔の上を見るように顎をしゃくった。


「あの光球が見えるだろ。しかも、悪いことにどうやら成功しかかっているらしい・・・」
塔の上で光の球は人型を成すような形で集まっている。


アルフレドは息をのむと、背中に担いだ剣を外した。
「調査だけで済むと思ってたんだが・・・」


「邪魔されたくない儀式か・・・ロクなものではなさそうだな、みろ、奴らの護衛を」
崖の下を観察していたアスヴァレンが、眼下の都市の街路を巡回する人影を指差した。


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脇に寄ったイェアメリスは驚きの声を上げた。
「スケルトンだわ! でも、一緒にいるあれは何?! あんなのみたことない。ゾンビではないみたいだけど・・・」


彼らが都市の住人だと思ったそれら人影は、定命の輪から外れた者たちであった。


「ソルスセイムでみたことがある。ドラウグルだ」


ドラウグルは生きる屍を意味するノルドの死者で、墓所に眠る主を守る役割を課された番人である。死体には生前の記憶が残滓のように残っており、そのため表面上知性があるように見える。


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「戦いに・・・、なるの?」
イェアメリスは不安そうに連れを見た。


死者の魂が残ったままのゾンビとは違い、ドラウグルは処置をした死体に獣などの白き魂を憑依させて動かす、古代の死霊術の一つだ。死体の処置など製法は失われて久しいが、死霊術士達の間では召還術で呼び出した霊魂により動かす方法が知られていた。


魂を抜かれて都市に埋葬されていたドラウグルを、何者かが目覚めさせたのだ。


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「危ないからあんたらは戻った方がいいな」


アスヴァレンも同意する。
「もう想像していたような、少し刺激的なフィールドワークとは違う。まだここなら引き返せる」


「あなたも?」


アスヴァレンは首を振った。
「これは彼らへの依頼であって元々俺たちの仕事ではない・・・正直面倒事は避けたいが、放り出してしまうには少々遅すぎる。俺がお前の分も働こう」行きずりとはいえ、既にダンマーは戦力に数えられていた。


「あたしも大丈夫よ」


「ムリしなくていい」
彼はイェアメリスがキルクモアであった出来事からまだ回復していないのではないかと危ぶんでいた。


「言い出したのはあたしだし、一緒に行くわ」


ナターシャはそんなやりとりを知る由もなく、都市のあちこちに目を走らせて眉をひそめた。
「ドラウグルか・・・あの手のアンデットは火に弱いんだが、あたしとは相性が悪いな。お前たちの中で火の呪文が使えるやつはいるか?」


「簡単なやつなら使えるぜ」
アーセランが名乗り出た。「昔習った基礎的なやつだけどな」


「十分だ。そこの傭兵が切り倒したやつを焼いて再生不能にしてくれ」


「それぐらいなら任せてくれ」


「それならあたしもっ・・・」


「お前は辞めておけ」
アーセランに張り合おうとイェアメリスが申し出たが、即座にアスヴァレンに却下された。


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「あたしだって役に立てるわ」


不満そうにイェアメリスは鼻を鳴らした。皆を巻き込んだ手前、何もしないで突っ立っているのが後ろめたかったのだ。


「何を揉めている? 火炎ぐらいは使えるんだろう? 下級のドラウグル相手なら、練習にちょうどいい。大学の実習にもあるぐらいだ」


狭い通路の先頭にアルフレドとアスヴァレンが立ち、ナターシャとアーセランが続く。イェアメリスはランタンのシャッターを少しだけ開けて、控えめに辺りを照らしながら最後尾を着いて行った。


途中、洞窟から岩の小部屋に出た。都市の奥に向かうための詰め所のようなところだ。中には見張り役のドラウグル1体と男が居る。魔術師のローブをまとっているところを見ると、追放された一団の一人だと思われた。アルフレドは飛び込むと同時に躊躇無い動きでドラウグルの頭をたたき割った。不意を突かれて対応に手間取った男は、続いて突入したアスヴァレンにピタリと弓の狙いをつけられて降参した。


「塔に行くまで気付かれるわけにいかん。騒がれると厄介だ」


ナターシャは男に近づくと左手で口を覆い、右手の人差し指をこめかみに突きつけた。


「ガッ・・・!」


バチッと言う音と共に青白い光が走り、電撃を浴びせられた男は気を失って崩れ落ちた。


「ボズマー、こいつを縛っておいてくれ」


「姉さん、結構えげつないね」
気絶した男を縛って転がすと、アーセランは頭を割られたドラウグルの焼却をはじめた。


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「今日はよく働くな」
詰め所の出口から下に続く通路を伺いながら、アスヴァレンが珍しくからかった。


「何言ってんのダンナ。俺はいつも働き者だぜ? ほらさぁ、古代都市って言ったら何かいい物眠ってそうじゃねぇか」


「そっちか・・・。やめろとは言わんが、罠には気をつけろよ」


「もちろん。そんなへまはしねぇよ。これでよし、っと。もう起き上がらねぇだろ」ドラウグルを焼き終わったアーセランは帽子の位置を直した。


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街の端の方に、ひときわ大きな建物がある。行政区に繋がっているのであろうか、幅広の階段が折り返し続き、中層の胸壁の上に出られるようになっている。彼らは途中を徘徊している不死者達を順に排除しながら、一歩一歩、塔へと接近して行った。


今のところ敵に気づかれてはいない。詰所に転がしてある捕虜一名を除けば、人間はいない。これまで遭遇してきたのは皆スケルトンかドラウグルのどちらかだった。


「死体ばっかりだな、さすが死霊術師と言ったところか」


「都市に眠る死者達を再利用しているようだな。意外と厄介だ」


その間も、詠唱は続いている。


「狼の女王よ! 我等が声に応え、目覚めたまえ。ポテマよ来たれ!」


「ポテマを召還する!」


アルフレドの顔に焦りが浮かんだ。
「いつから続けているのか知らないが、あまり時間がなさそうだな。急ごう!」


下層の塔から踊り場に上がった彼らは、そこに屯しているドラウグルの群れをみて慌てて頭を引っ込めた。


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「うわっ、この数はちょっと難しいんじゃねぇの?」
アーセランは相手の数を数えると、仲間に報告した。
「骨だけが3体、肉のついた奴が8体か9体居やがるぜ」


「多いな・・・、あんた、何体まで行けると思う?」
アルフレドは、手にした長剣の刃毀れを確認しながら錬金術師に訊ねた。


「2体・・・うまくいっても3体か」


「同感だ。2人で5,6体潰せたとしても、騒ぎを起こさずにここを突破するのはムリだな」死霊術師達が儀式を行っているひときわ高い塔は、踊り場を越えて階段を上ったもう一つ上の層だった。「くそっ、ここまで来て!」


アルフレドは偵察役のアーセランを見た。ボズマーはぶるぶると首を振る。


「ムリムリムリ! 俺の魔法なんかじゃ1体がいいとこだよ!」


「ナターシャ、あんたの呪文は? さっきから使うそぶりがないが」
女魔術師は、捕虜を気絶させたあと魔法を一度も使っていなかった。


「そういえば姉さん、もしかして火は苦手なのかい?」


「ああ、あたしは火は使えないんだ」


「珍しいね。大学とかじゃ一番最初に習う魔法なんじゃねえの?」


「あたしは人間や魔術的な相手とやり合うことが多いからな。雷の術に特化しているのさ」そう言って身体の紋章を見せる。ナターシャの身体は、白い顔料で描かれた魔術的な文様に覆われていた。


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「それは?」


「雷の精との契約の印だ。こいつは別の元素魔法を嫌うからな。雷の力を高めるために、火や冷気は自ら封印している」


やりとりを見ていたアルフレドは、立ち上がると踊り場に足をかけた。
「ここで相談していても埒が明かないぜ。気づかれるのを覚悟で突っ込むか?」
もう一人の切り込み役であるアスヴァレンに確認する。錬金術師はすぐに答えようとせず、考え込んでいたが、あまり気乗りしないように口を開いた。


「どうせ気づかれるなら、まとめてなぎ払う手が無いわけではないが・・・」
彼は後ろに付いてきているイェアメリスを手招きする。


「メリス、ちょっといいか?」
錬金術師の言葉に、仲間の視線が集まる。これから頼もうとすることを確認するかのように、アスヴァレンはイェアメリスを覗き込んだ。


「大丈夫か? 気分が悪くはなっていないか?」
彼女が人を刺し殺してしまったキルクモアでの事件を重く受け止めているのを、アスヴァレンは十分承知していた。たとえそれが自身を襲う悪漢であったとしても、彼女は抵抗のための武器をとることを拒むかもしれない。そう危ぶんでいたからこその、探りであった。


彼が聞いているのが戦闘のことだと気が付いたイェアメリスは、緊張したように息をのんだ。


「きっと・・・大丈夫。だと思うわ」
彼女はランタンを地面に置いて自分の両手を見た。震えてはいない。頭痛も吐き気もしない、息苦しくもない・・・大丈夫、平静を保って居られる。


相手が人間でないからだろうか? 仲間と一緒にいるからだろうか? 理由は分からなかったが、彼女は自分が至極冷静であることを確認した。ここまで来るのに傭兵と錬金術師が死体相手に斬り、千切り、潰しては脳漿を散らし、骨の破片をまき散らすのを見ながら来ていた。にもかかわらず、それを見た後でも感覚は麻痺せず心は平穏を保てていた。


「手伝ってもらえるか?」


彼女は小さくうなずいた。


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「奥を狙え」
ドラウグル達はまだこちらに気づいていない。アスヴァレンは身振りでアルフレドを下がらせた。


「ナターシャ、お前も後ろに下がっていた方がいい」


「どうしてだ? せっかく彼女の呪文が見られるというのに」
女魔術師は訝しげに錬金術師を見た。


「警告はしたからな」


アスヴァレンが促すと、それに呼応してイェアメリスは詠唱をはじめた。
手の上に生まれた小さな火種は、放たれるとふわふわとドラウグル達の間を漂うように飛んでいく。


「なんだ、ずいぶんと頼りない炎じゃ・・・なっ?!!」
よく見ようと乗り出したナターシャの顔が強烈な光に照らされた。


イェアメリスの放った火種は胸壁の奥の地面に着弾し、目も眩むような閃光と爆発を引き起こす。続いて立ち上る火柱。3体のスケルトンは一瞬で粉々になり、骨の破片となって砕け散った。


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「うわっ! 危ない!」


一歩下がっていたアルフレドはあわてて2、3段、階段を下がった。ドラウグルが2体、爆風でこちらに吹き飛ばされてきたのだ。アルフレドが居たところをかすめて壁に叩きつけられたそれらは、ぐちゃっと言う胸糞の悪い音を残してずり落ち、肉片になり果てた。


アスヴァレンは平静を保っていたが、彼以外は信じられない物を見たといった感じで皆一様にぽかんとしている。
爆風に耐えたドラウグルも、炎に焼かれて動きを止めて、やがて動かなくなった。


「11体を全滅って・・・冗談だろ?!」
アルフレドは驚きのあまり、何か言おうとして飲み込んでしまった。


「メリスちゃん・・・俺、もう逆らうのやめるわ・・・」
アーセランは唖然として、まだ燃え続ける火柱を眺めている。


「おいバカっ! こんなでたらめな火炎があるか!!」
軽く様子を見てやろうという体で眺めていたナターシャは、驚きを通り越して本気で怒鳴っていた。


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「お前・・・また威力上がってないか?」


「なんか不思議なの・・・。こんな言いかたおかしいのだけど・・・我慢していたみたいなのよね。すごくすっきりした・・・って、あたし何言ってるんだろ」
大役を果たした彼女は、うまく表現できない高揚感に包まれ顔を上気させていた。


儀式が行われている塔までの障害は取り除かれた。しかしさすがにこれだけの音を立ててしまうと、頂上にも感づかれてしまう。詠唱の声が止り、代わりに怒りの声が上がった。


「何かおかしいわ。侵入者がいる・・・侵入者を止めて!」


ここからは時間勝負だ。剣を構えた2人を先頭に彼らは一気に階段を駆け上った。崩れかけた塔の隙間から胸壁に飛び出したのと、最後の塔から死霊術士たちが姿を現したのはほぼ同時だった。敵は迎え撃つ体制を取った。


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「魔術師相手って事は、あたしの出番だな」
愛用の杖を振りかざしナターシャが前に出る。彼女は、剣を構え直したアルフレドとアスヴァレンの間に並んだ。


召喚塔から出てきたのは3人の死霊術士だった。禍々しいダガーを持ち、反対の手には炎や冷気の呪文を纏っている。


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一瞬のアイコンタクトの後、ナターシャを中心にして、アルフレドとアスヴァレンが姿勢を低くして突っ込んだ。激しい雷撃を浴びせかけられた死霊術士は、シールドスペルでそれをなんとか凌ぐと、反撃しようと間合いを詰めてきた。
アルフレドはナターシャに斬りかかる死霊術士の行く手を遮るように割り込むと、振り下ろされるダガーを柄で弾き、長剣を肩にめり込ませた。


ブシュッという嫌な音と共に血が噴き出し、死霊術士が倒れる。取れかけた腕を押さえながら口から血を流し、ビクンビクンと痙攣する。一瞬気を取られた隙にナターシャの手から伸びた次の電撃が2人目の死霊術士のダガーに命中し、術士は手首を押さえながら一歩飛び退いた。


「ガぁァ!」


しかし安全圏に逃れたと思った術士は、いつの間にか設置されていたトラップルーンに引っかかり、感電しながら全身を焼かれた。


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目鼻口から焦げた煙を吹き出しながら術士は崩れ落ちる。即死であった。


最後の一人はアスヴァレンの剣を受け止めながら毒づいた。


「くそっ、こいつら、戦い慣れしてやがる」
死霊術士は錬金術師の剣が発する冷気から逃れるために一旦仕切り直すと、3人に囲まれて逃げ場を失った。


「ディゴンの目にかけて、こいつを使うしか・・・」
死霊術士は懐からアミュレットを取り出して、見せつけるように前に突き出した。金属の台座の上に宝石だろうか、半透明の石がはめ込まれた精巧な作りのアミュレット。彼は何を思ったのか手にしたダガーをそのアミュレットの石に突き立てて砕くと、最初に肩を裂かれて倒れている仲間に向かって放った。


「やめてくれ!」
倒れた男の顔が恐怖に引きつる。痙攣しながらも必死にその場から離れようとする。


「やめろ! 俺はまだ生きてる! そんな・・・うべっ!」


投げつけられたアミュレットは瀕死の男のすぐ脇に落ち、黒い光を発した。


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すると男の身体がバキバキと骨の折れる音を立てながらアミュレットに吸い込まれていく。まるで裏返る、とでも言うべき光景が見守る者達の間で繰り広げられた。身体が折りたたまれて黒い手の平大の空間が残ると、その空間は赤い光を発しはじめた。


「来るぞ! ・・・お前たち! 下がれ!」
ナターシャが叫ぶと同時に、赤い光が膨張爆発した。悪魔召喚・・・生き残った死霊術士が、仲間の身体を触媒にしてオブリビオンへの門を開いたのだ。


「オオ・・・」


光が消えると、そこにはうなり声を上げる人外の姿があった。


・・・ドレモラ・ロード。タムリエルに大災厄をもたらした動乱の元凶、メエルーンズ・デイゴンの領域から呼び出された悪魔の戦士が現れていた。アスヴァレンはノルドの血を引く中でも身長が高い方だが、目の前のドレモラは優にその二倍はある。オーガーと変わらない大きさであった。


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「くそっ! 魔道具か」
ナターシャは額に浮かんだ汗を拭うと、杖を構えた。


「ハハハ、来たか。どうだ。よし、こいつらを殺れ!」


死霊術士が形勢逆転とばかりに哄笑する。しかしその笑いは途中で凍り付いた。


「弱いな!常命の者よ!」


無造作に手を伸ばすと、ドレモラは死霊術士の頭を掴み・・・


パキュッ


卵でも割るような軽い音を立てて握りつぶしてしまった。


「アズラよ! あれは・・・マルキナズか! 気をつけろ!」
200年前デイゴンの領域で何度も戦った相手、上位のドレモラが咆哮を上げていた。


ドレモラは武器代わりに残った身体を投げつけた。アスヴァレンは防御の姿勢を取ったが、死霊術士の身体の直撃を受けて、壁のそばまで吹っ飛ぶ。手から離れた"アトモーラの楔"が甲高い音を立てながら地面に転がった。跳ね返った死体が胸壁越しに闇に消えてゆく中、直撃を受けた錬金術師はうめきをあげると突っ伏した。


「アスヴァレン!」


イェアメリスは悲鳴をあげると、アーセランが遮ろうと伸ばした手を払いのけて飛び出した。駆け寄ると抱きかかえて、後ろに引きずって行こうとする。


「見つけたぞ、弱者め!」


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ドレモラは炎が吹き出す巨大な剣を振りかざし、2人に振りおろそうと迫った。間にアルフレドが割って入る。


「うう・・・」


錬金術師は身体をくの字に曲げて起き上がろうともがいた。イェアメリスはそれを助けながら、少しでもドレモラから離れようと悪戦苦闘する。


ドウッ、と鈍い音がして1撃目が受け止められる。傭兵は長剣を構え直すと、ドレモラが振り下ろす剣を再び受け止めようとした。


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「おい! 避けろ! まともに受けるな!」
アスヴァレンが口の端に血を浮かべながら警告を発した。


しかし間に合わず、ギィン!と重い音を立て、アルフレドは再びドレモラの剣を受け止めた。止めたと思ったが何かおかしい。アスヴァレンの警告が無ければ反応できなかったかも知れない。嫌な予感がして身体をずらすと、ドレモラの剣を受けた彼の長剣は熱で溶け始めた。


「うおっ!」


役に立たなくなった剣を投げ捨てると、アルフレドは焦って周りを見回した。


「俺の剣を使え!」
再度アスヴァレンの声が飛び、視界の端に氷の剣を認める。アルフレドは慎重に間合いを計りながら、アスヴァレンの剣を拾い上げた。アスヴァレンも壁に寄りかかりながら何とか起き上がり、助けに来たイェアメリスを仲間の方に突き飛ばした。


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「来るぞ! 下がっていろ。アーセラン、メリスを頼む」


「あいよ。メリスちゃんこっちだ!」
アーセランは彼女を安全な場所に引っ張り込む。


氷の剣を構えた傭兵にドレモラが剣を叩きつけてくる。三たび重たい音を立てて剣がぶつかると、炎と冷気がせめぎ合うように火花を散らした。大丈夫だ。アルフレドの握る"アトモーラの楔"はびくともせず、ドレモラの炎の大剣を受け止めていた。


「抗いし者の匂いがする・・・」


「くそっ、タロスにかけて。こんな悪魔の対処はさすがに分からんぞ!」


アルフレドはチラリと斜めに目を走らせる。剣風を避けて下がっていたナターシャが杖を構えている。


「マルキナズ・・・かなり高位だが、あたしにいけるか?」
彼女は杖を構えて空中に印を描きはじめる。


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「送還を試みる。傭兵! 少しだけ時間を稼いでくれ」
そう言って呪文の詠唱をはじめる。


「貴様の心臓で御馳走を作るとしよう!」


アルフレドは禍々しい攻撃を2度3度と凌ぐ。ナターシャがデイドラ送還の呪文を完成させるまでの間、なんとか時間を稼がなくてはならない。アスヴァレンは、別の武器を取る代わりにエボニーフレッシュの呪文をアルフレドに転化して、彼の防御を補った。


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「まだか?!」


自分の2倍もある背丈の相手によく持ちこたえている方だ。飛び散る火の粉で身体のあちこちに火傷を負いながら、アルフレドはドレモラの攻撃をしのぎ、それどころか多少の手傷を与えていた。しかし体格差からくる膂力の違いは明らかで、徐々に押されている。


「よし、下がれ!」
女魔術師の合図でアルフレドは地面に転がり込む。射線が確保できたところにナターシャの杖から雷の鞭のような光が伸びた。それはドレモラに絡みつくと、バチバチと音を立てる。


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「貴様を倒して、主に敬意を示・・・ぬ?! ぐモァ!」


光に縛られたドレモラは、逃れ出ようともがいたが、次の瞬間、来たときと同じように一瞬で消えてしまった。


「上手くいった!」


ナターシャは額を拭って満足げに辺りを見回した。残されたのは死霊術士の死体1つ。味方に致命的な損害はなかった。身を起こしたアルフレドは、後味悪そうに吐き捨てた。


「あいつ、まだ生きているのに躊躇なく味方を犠牲にしやがった!」


術師の亡骸を見ながらナターシャはうなずいた。
「その辺りが追放される理由なのだろう。・・・所詮その程度の集まりということだ。今のあたしたちの方がよっぽど結束が強い」


頷くと、アルフレドは今まで必死に振るっていた剣・・・薄く光りながら冷気を発するダンマーの剣を改めて見た。


「しかしすごい剣だな、これ」
彼は冷気を発する"アトモーラの楔"を興味深そうにひっくり返して観察したあと、名残惜しそうに持ち主に返した。自分は失った武器の代わりに死霊術士のダガーを拝借する。「残るは・・・」


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塔の頂上では、儀式師たちが再び呪文の詠唱に入っていた。
護衛を降ろして対処させたことで安心したのか、一心不乱に祈りが繰り返されている。


「長きにわたり深遠なる死の眠りについていたポテマよ、目覚めの時だ。我らが声に応えよ、狼の女王! 汝を召還する!」


唱和する声。


「ポテマを召還する!」


「狼の女王よ! 我等が声に応え、目覚めたまえ。ポテマよ来たれ!」


「ポテマを召還する!」


「狼の女王よ! 我等が声に応え、目覚めたまえ」


ナターシャも塔を見上げる。もう屋上まで障害はないはずだ。避難させていたアーセランとイェアメリスを呼びよせ、彼女たちは儀式の行われている、屋上に繋がる最後の階段を駆け上りはじめた。


最後の塔も内部は他と同じ構造で、二階を挟んで屋上まで螺旋階段が続いている。屋内には堆積した土砂の中から雑草が生えており、この廃墟の経てきた時間の長さをうかがい知ることが出来た。上階から聞こえる詠唱はいよいよ最終段階に差し掛かっている。


「そうよ! この世界に戻して!」


光球から声が漏れる。 声? ・・・居合わせたものは皆、確かにそれを聞いた。


「おい・・・」
階段を上りながらアルフレドが青ざめた顔で仲間を見回す。


「声・・・聞こえたよな?」
傭兵と錬金術師は互いを見やると頷いた。


「まさか本当に狼の女王?!」


詠唱の声が変わった。


「汝を我らの声により召還し、清き者の血が汝を縛る。狼の女王よ!」


「言葉により召還され、血によって縛られる」


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彼らは屋上に飛び出した。
儀式師だろうか、禍々しい絵の描かれた祭壇を取り囲むように3人。その脇を固めるように2名の死霊術士が待ち構えていた。


「その儀式をやめろ!」


ナターシャは苛立たしげに叫ぶと、激しい雷を死霊術士に浴びせた。まさか護衛をすべて倒してくるとは思っていなかった死霊術師は対処が遅れて、驚きの表情を焼きつけたまま雷撃をまともに受ける。電撃も強力すぎると炎と変わらない。燃え上がった死霊術師は炭化して崩れ落ちた。


「清き者の血が汝を縛る。狼の女王よ!」


「何を! 何をするつもり!? 馬鹿ね! 私を自由に出来ると思うな!」
今度はもっとはっきりと聞こえた。意思の籠もった声。意に染まぬ者などいる筈がないと確信したような、傲岸な声色が苛立たしげに響き渡った。


儀式の配置を見たナターシャは、彼らが狼の女王をただ復活させようとしているわけではないということに気が付いた。その力だけを欲している、制御するために何かに縛り付けようとしているのだ。辺りを見回すと死霊術士、儀式師、そして少女が一人。ぐったりして祭壇の上に横たわったまま動かない。これが依巫に違いなかった。


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「言葉により召還され、血によって縛られる」


「虫けらども、私を捕らえられると思うな!」


祭壇の上の光球が心持ち苦しそうに膨張収縮を繰り返す。
光の一部が光球から垂れ下がるように下に伸び始める。その先にあるのは、祭壇に寝かされた少女・・・


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ナターシャは儀式師に雷撃を放ちながら仲間に怒鳴った。「その子を遠ざけろ!」
咄嗟にアスヴァレンとイェアメリスが反応し祭壇のほうを見る。彼らと祭壇の間にさえぎるものはない。


「もう遅い。儀式は完成する!」


最後の死霊術士が2人を止めようとダガーを振りかざす。アスヴァレンは剣を構えてイェアメリスを庇うように身体を割り込ませた。大きな影に守られて、イェアメリスは自らの役割を悟ると祭壇に駆け寄った。応戦するダンマーをすり抜けてたどり着くと、彼女は横たわっている少女の手首を掴んでグイと引っ張った。


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イェアメリスは少女を引き寄せて抱きかかえた。その目が見開かれる。・・・ぐにゃりと言う異質な感覚に、背筋に冷たいものが滑り落ちた。少女は眠っているのではなく、死体であった。
そのまま抱えて必死に壁際に後退するのと、アスヴァレンが死霊術士を倒したのは同時であった。


イェアメリスには光球と少女を繋ぐ薄い光の筋が見えていた。彼女は自らの身体を盾にするように割り込ませ、光球から伸びる光から死んだ少女を庇った。


「あぁっ!」

彼女は光線を浴びて背中が焼けるような感覚に見舞われ、そしてその直後に呪いの傷が一斉に疼いて思わず声を上げた。


「ああ、イイ。イイわぁ! 死の臭いが充満している・・・」


光球は塔上の凄惨な光景に打ち震えるかのように声を発した。


アルフレドがもう一人の儀式師を袈裟懸けにした。


「う、う、・・・うわぁー・・・!」


最後の一人はナターシャに詰め寄られ、後ずさる途中、塔の屋上から転落した。
しばらくの静寂のあと、街路に叩きつけられる鈍い音が微かに聞こえた。


儀式師3人、死霊術師2人。すべて事切れて儀式は中断された。




・・・




痛みから回復したイェアメリスは、少女の死体を壁にもたれかけさせると、何かを見るように祭壇の縁に立ち尽くしていた。


「どうした?」


アスヴァレンに問いかけられたところまでは覚えている。


仲間の視線の先、光球は相変わらず明滅しているが、彼女だけは別のものを見ていた。

祭壇の上に、うっすらと、ドレスを纏った女性が立っているのだ。


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返事を返そうとして、彼女は辺りの異変に気がついた。4人の仲間は固まったまま動かない。時が凍り付いてしまったかのような静寂の中で、彼女だけが動くことが出来た。


(狼の女王・・・懐かしい響きね)


ドレス姿の女性はつぶやくと、あたりの惨状をさも当然の光景のように睥睨した。死霊術師よりもさらに薄暗い、寒気を帯びた声が瘴気のようにまとわりつく。イェアメリスは足がすくむのを感じた。


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(フン、清き者の血だと? ・・・あんな子供が妾の器たりえる筈がない)


周りで事切れている儀式師たちを、蔑みの目で撫でてゆく。祭壇から降ろされて壁際に横たえられた少女の死体を一瞥すると、次の瞬間、興味が移ったかのように、彼女はまっすぐにイェアメリスを見た、


目が合うと、イェアメリスは触れられてもいないのに撫でられたかのような感覚に見舞われた。


(いらっしゃい・・・)


甘く囁く様な声が脳内に直接響く。その声はやさしさに満ちていながら反抗を許さぬ魔力を帯びていた。下腹部に熱いものを感じ、彼女は女芯が蹂躙されるようなめまい、そして快感を覚えた。


(あなたは・・・)


時が止っている・・・。声を発したが、彼女の舌が空気を震わせることは無かった。


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不機嫌そうに、イェアメリスを締め上げる昏き波動が強さを増す。


(うっ・・・くっ・・・)


(何度も言わせないで。私が呼んだらすぐ来るの)


有無を言わせぬ口調と身体を弄るような薄暗い波動。抗うことができず、イェアメリスは誘われるままに祭壇に上がるしかなかった。呪縛というのはこういう事を言うのだろうか、ふらふらしながらも目を離すことができない。


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(あ、あなたは・・・ポテマなの?)


やっとの思いで出した言葉は、あっさり無視された。女性は逆らわれることに慣れていないといった素振りで、イェアメリスは口を開くのを遮る。


(無礼ね、私を呼び捨てにするなんて。この前の侍女のように舌をねじ切られたいの?)


女性はイェアメリスの言うことなどどうでもいいと言うように睨みつけた。しかしその目は、意外、とでも言うように輝き、興味を引かれたことを物語っていた。


(貴女すごいのね。ここで口がきけるなんて。強い魂を持つ証拠だわ・・・)


彼女はイェアメリスをまじまじと観察した。


イェアメリスは助けを求めるようにあたりをせわしなく見回す。傭兵と女魔術師、悪縁で同道しているボズマー、密かに慕う心の拠所である錬金術師、誰も助けには来ない。いや、来れない。

みな手が届く程の距離に居ながら、凍り付いたように動かなかった。


(ふ~ん・・・おもしろそうだから。特別に許してあげるわ)


イェアメリスは逃れようとして後ずさる。


(ポテマ? ・・・さぁ、500年も前のことなんて忘れてしまったわ)


言った瞬間、女性は目の前から姿を消すと彼女の真後ろに現れた。息を吐けば首にかかるような距離。彼女は悲鳴を上げようとして出来なかった。


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狼の女王は面白そうに、邪悪な笑みを浮かべた。


(み・・・んなは・・・どうなったの?!)


(私たちのお話が終わるまで、永遠に待たせておけばいいわ)


(そんなっ・・・)


ポテマの身体が透けはじめる。彼女は後ろから覆い被さるように、イェアメリスの耳元でささやいた。


(上の光が見えるでしょ? あれが私の魂。行き場を探して彷徨ってるわ)


(イヤ!)


イェアメリスは首筋を中心に、急激に身体が冷たくなるのを感じた。何かがこじ開けられるような感覚。


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(ああ、すごい魔力じゃない。・・・アルテウムの導師は味わえなかったけど、あなたもさぞかし美味しいのでしょうね・・・)


そして・・・入ってくる・・・


(身体を重ねるっていうのはこういうことを言うの。どう? 男なんか足元にも及ばないでしょ?)


(あ゛っ・・・、あ゛っ・・・)


イェアメリスは抵抗が打ち破られ、精神が浸食されるのを感じた。


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透けた身体はイェアメリスに重なると、囁くように撫でるように、イェアメリスの身体を検分しはじめた。彼女は崩れ落ちるような快感に脚をガクガクさせたが、狼の女王は手を止めようとしなかった。


(いいわぁ、この無色透明の魂。混じり合いましょう・・・)


(・・・お願い、出て行って・・・)


逃れようとするが身体に力が入らない。


(もう動けなくなった? まだ半分しか入ってないわ・・・あなたでもまだ、器には不十分なのかしら)


まるで服に袖を通すように、ポテマが彼女の中で広がろうとしている。その手が左腕に納ろうとしたとき、イェアメリスの呪いの傷が熱を帯び始めた。官能とは正反対の痛み、楔に穿たれたような疼きを手首に感じ、急に現実に引き戻される。彼女は声にならないうめきを上げた。


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(あら・・・あなた疵物じゃない。何それ、呪いなの?)


ポテマがあわてて身を剥がすのが感じられた。

身体から急に何かが抜けていくような感覚の後、イェアメリスは呪縛が解けたのか自由を取り戻した。

再び目の前にポテマが立っている。鳩尾の醜い穴や腕の傷を見ると、彼女は小さくため息をついて消えた。


途端、辺りに時が戻った。

イェアメリスは耐えきれずに祭壇の上に崩れ落ちた。


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祭壇の上の光球が渦を巻き始める。


アスヴァレン達が見守る中、光は古代都市の天井に開いた岩の裂け目に消えていった。

霧散したようにも、吸い込まれたようにも見えたが、存在感のある気配はもう感じられなかった。


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(ざーんねん。それがなくなって、もう少し強くなったら食べてあげてもいいわ)


身を起こしながら、イェアメリスだけがその声を聞いていた。




・・・




古代都市の廃墟に陣取っていた追放者たちは一掃され、儀式は妨害され中断された。安堵しながら辺りを確認する仲間たちから、イェアメリスだけが取り残されていた。ポテマの霊と話を交わしたような気がするが、記憶が混濁している。もしかしたら夢だったのかもしれない。ぼうっとする頭を振ってはっきりさせると、服に付いたほこりをパンパンと叩く。


「これでよかったのか? 儀式は防げたんだよな」
アルフレドは疲れ切ったような顔で仲間を振り返った。愛用の剣を熔かされてしまい、短剣を拾ったとはいえその軽さに不安を隠せない様子だ。


「そうだと信じたいな。こんなハラハラするのはもう沢山だ」


「結局、あの消えてった光はなんだったんだろうな・・・」


「あたしの読んだ文献だと、ポテマはあまりの危険性から死後、肉体と魂縛された精神を分けて、キルクリース山の2か所に人知れず葬られたらしい。もしかしたらここがその魂が封じられた場所だったのかもしれないな・・・」


「ポテマの魂だったとして、今度こそエセリウスに召されてくれていればいいが。ウッ、痛つ・・・」
気が抜けると、アルフレドは火傷が痛み出したようだ。ドレモラと戦っていた時に浴びた火の粉が、鎧からむき出しの部分に多数の火傷を与えていた。命に別状はないが、あまり放っておくのもよくない。その様子を見ると、イェアメリスは進み出た。
手持ちの材料から手早く湿布薬を調合し、アルフレドの火傷痕に塗って手当を施す。


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「ありがとう」


「傭兵、見直したぞ。マルキナズはドレモラの中でも軍団長クラスの悪魔だ。まともに渡り合える戦士はそうそう居ない」治療を受けるアルフレドを見ながら、ナターシャも気分を入れ替えるように微笑んだ。


「そりゃどうも」傭兵は照れたように、しかし少し誇らしげに手を振り返した。


「連中にあんな高位の悪魔を制御できる訳無かったんだ」
直前の戦いを思い出しながら、ナターシャは辺りに転がる死体を見回した。


「だがあんたはそれを送り返すことが出来た。お互い実力を確認し合えたというわけだな」


「まあ、そうなんだが」
ナターシャは考え込む素振りを見せた。


「何か気になることでも?」


危機はいったん去ったが、いまいちすっきりとしない幕引きだった。


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「ああ、連中の持っていたアミュレット。それにポテマの魂の召喚儀式。・・・どう見ても実力に見合っていない。分不相応な行いだと思わないか? 魔道具を提供したり、そそのかしたりした奴がいるのかもしれん」


「黒幕か・・・確かに、連中は捨て駒だったな」


「ソリチュードに戻ったら少し調べてみる必要がある」


「あまり俺の得意分野ではなさそうだ」


「ま、手が必要だったら言うさ。まだしばらくソリチュードに居るんだろ?」


「どうだかな。そのときは安くしとくよ」


「なんだ、金取るのか?」


「傭兵だしな。それに、実力も認めてもらったみたいだから、雇いやすいだろ?」

アルフレドは、火傷の痛みに眉をしかめながら笑った。


「しっかりした奴だ」


そして旅人達の方を見る。


「・・・それにしても、君たちには助けられてばかりだな」


「着いていくと言ったから、これぐらいはさせてもらわないと」
イェアメリスははにかむと、他の仲間たちの様子を伺った。皆、辺りを確認している。


「なぁ旦那たち、この跳ね橋を降ろすとまだ先がありそうだぜ」
アーセランは屋上の壁の一つに、跳ね橋を降ろす操作棒が突き出しているのを見つけた。それを引くと、少し離れた同じぐらいの高さの塔に繋がる空中の橋が架けられた。ナターシャは橋の先を伺うように見ると、壁際に腰を下ろした。


「じゃあ、俺っちがちょっと見てくるよ。死体焼きぐらいしかしてないから、姉さんたちは休んでいてくれ」


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仲間の送る"気をつけろ"の合図に軽く手を振って応えながら、アーセランが橋を渡ってゆく。ボズマーだけあって、高所も全く意に介さず、危なげない。
見送ると彼女たちは塔の屋上でしばしの休憩を取ることにした。休憩とは言っても、祭壇の周りは儀式師や死霊術師の死体が散乱し、ひどい有様だ。どれも焦げたり血まみれだったりと損傷が激しかったが、その片隅にぽつん、と幼い少女が横たわっていた。


「この子・・・」


「おそらく依り巫にしようとしていたんだろうな。出所は分からん。難民か、普通に病死した娘か、もしくは・・・」


「もしくは?」
イェアメリスは自分が抱きかかえて脇に降ろした少女の死体を見下ろした。


「このために殺されたか、だ・・・」


「そんなっ」


「分からんよ。どれも憶測に過ぎん。だが確かめる方法がある。死の従徒を使えば、な」
ナターシャは自分の荷物から、術に必要な道具を準備しはじめた。


「うそ! やめて! そんな酷いことしないで!」


「すまんな、お前を嫌がらせるつもりはないんだが、でもやらなければならない。少しでもこいつらの背後関係を知らねばならぬから」


女魔術師はそう言うと、少女の死体を再び祭壇の上に引っ張り上げた。
「見たくない光景になると思う。疲れているところ悪いが、お前たちは向こうに行っていてくれ」


「いいえ、見るわ。・・・ここまで勝手に付いてきた、目を逸らしちゃいけないことだと思うの」


ナターシャは応えず、呪文を唱えはじめた。
辺りの気温が少し下がったような感覚を覚えたイェアメリスは、自らの肩を抱きながらその光景を見守った。呪文が止むと黒い波動が死体を包み、少女はゆっくりと起き上がった。目は深淵なる虚ろで、何を映しているかうかがい知ることが出来なかった。


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「ウ~・・・」


「娘、お前はどこの誰だ?」


死の淵から呼び戻された少女は、イェアメリスを、そしてナターシャを見た。
「し・・・しるや。どーんすたーニ住ンデイタノ・・・」


少女の言葉は聞き取りにくかったが、ナターシャは今回が初めてではないのだろう。短い時間で手際よく質問と回答を引き出していった。


シルヤという名の少女は、家族が帝国寄りであったため、ウルフリックの内乱に呼応して反乱側についたドーンスターを追い出され、難民となったのであった。受け入れてもらえる町が見つからないまま西へ西へと流れ、難民キャンプの一つであるハイロック国境のシーポイント居留地にたどり着いた直後、母親を残して力尽きたのであった。


目に涙が浮かんでくるのをイェアメリスは感じた。他の仲間も神妙に聞いている。
土葬された自分の身体が何者かに掘り起こされた事は、死体の記憶としてわずかに残っていた。公式には禁じられているのだが、死霊術士たちは目につかぬところで傷のない材料を得るために、しばしば墓を荒らすことがある。特に年端も行かぬ、生娘の骸は血が穢されていないとして、高値で取引されることも多かった。この娘もそういった中で"材料"として連れてこられたのであった。


「娘・・・何か言い残すことはないか?」
得られる情報を一通り聞き出すと、ナターシャは少女の頭に手を置き、優しく撫でるように髪を整えてやった。


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「おかあさんに・・・、悲しまないで、っテ。それだけお願イ。ソレダケ、で・・・いいノ」
少女の霊は、絞り出すような懇願を残した。


見ていられなくなってイェアメリスは膝をついた。


「あぁ・・・寒イ・・・冷たい、ノ・・・」
そう言い残すとかき消えた。呪文が効力を失い、無理矢理つなぎ止めていた魂の力が失われると、肉体の方も崩壊し崩れ落ちた。地面には小さな灰の山だけが残されていた。


「エセリウスに送らるる汝の魂に、九大神の慈悲あらん事を、汝らはニルンの地の塩なり、塩もし効力を失わば、何をもてか之に塩すべき・・・」

ナターシャは自らの反魂の呪により一時的に呼び戻した少女に、シロディール式の手向けの祈りを済ますと、脇に崩れ落ちたイェアメリスを見下ろした。


「ごめんなさい・・・」
イェアメリスは灰の山に手を突っ込み嗚咽した。瞳から零れた滴がその小さな灰に染みを作る。少女に何もしてやることの出来ない無力感が、楔となってイェアメリスを苛んでいた。


「メリス・・・」


「ごめんなさいごめんなさい・・・」
ただそれだけを繰り返す彼女に、周りの声は聞こえていなかった。


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「メリス!!」


アスヴァレンは乱暴に連れの肩を掴むと、現実に引き戻すように強引に立ち上がらせた。


「入り込みすぎるな! 魂が引かれるぞ」


起き上がった彼女は、小さく頷くと膝に付いた土を払った。
「ええ・・・、ごめんなさい。あたし、いつもこうよね・・・」


「あの少女に自責の念を感じることはない。そうだな?」
確認するように、言い聞かせるように。アスヴァレンはイェアメリスの肩を掴んだ手に力を入れた。


「やはり見ない方がいい。あと何回か繰り返さなければならないからな」ナターシャはアスヴァレンに目配せすると、イェアメリスを遠ざけた。まだ聞き出すべき死体・・・呪術師と死霊術士が残っていた。


ナターシャは再び魂を呼び戻す術の準備を始めた。道具を使い、残った死体に死霊作成の術を施し、情報収集を続けるのだった。




・・・




「おかしいな・・・こいつら、普通じゃない」
しばらくして、ナターシャは首をかしげながら道具を放り出した。


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「どういうことだ?」
腰掛けて見守っていたアルフレドが興味をそそられたように立ち上がった。


イェアメリスを塔の中層で落ち着かせたあと、戻ってきたアスヴァレンも加わった。


「頭をいじられているというか・・・記憶に細工がされているようだ。そもそも術に反応しないやつもいる」


「ふむ・・・では情報はなし、か」


「そうでもない。一応確認は取れた。こいつらはやはり、昨年にウィスパーズ大学から破門された研究生達だ」


そのまま少しすると、アーセランが現れた。彼は肩で息をしながらいくつかの荷物を地面にぶちまける。


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「ふぅ・・・こいつ、重いのなんのって・・・向こうに宝箱があってよ。使えそうなもん持ってきたんだ」


アミュレットや錬金ポーチなど、いくつかの品があり、仲間はなんとなく自分に合いそうな物を手に取った。


「先に扉があったんだが、落盤で塞がれてたよ。近道か何か有りそうだったんだけどな」


アーセランは放り出した両手剣をアルフレドに勧めた。


「剣、ダメにしちまったんだろ。手に馴染むか分からねぇけど、これなんかどうだい?」


「気が利くな。助かる」


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剣を手に取ると、2度、3度と素振りをして見せる。


「悪くない。使わせてもらうよ」


肩をすくめるアーセランに、アルフレドは思い出させた。


「どっちにしろ、戻らなければならないさ。さっき捕虜を縛り上げたまま置いてきただろ?」


「あ、そうだった。最初に捕らえたやつが残っているのは貴重だよな。生きているからいろいろな情報手に入るかも」


「そういうことだ。おまえさんも戻ってきたし、出発するか」


都市の入り口近くの詰め所に、縛り上げた捕虜を残してきたはずだ。事件の背後関係など、知っていることを聞き出すことが出来るかも知れない。・・・生きている捕虜は、死んでいる者以上に重要な情報源だった。




・・・




「さ、姉さん。どう料理すんだい?」


ナターシャは捕虜の死霊術士に気絶させたときと同じような、弱い電撃を浴びせる。縛られた死霊術士は目を覚まし、頭を振るとぼんやりとした目で彼女を見た。


「気がついたか? お前はウィスパーズの出身者か?」


男の目にだんだん光が戻り、意思が浮かび上がってくる。しかし辺りを見回すと目に入ってくるのは体格のいい傭兵にダンマーにボズマー、ブレトンっぽい女たち、自分の仲間ではない者ばかり。・・・その顔には次第に焦りの表情が浮かびはじめた。


「状況は分かるな。お前たちの企みは潰えた。何が目的だ? 他に仲間は?」


「お前、見たことがあるぞ、大学に居たな。確かナターシャとか・・・」


ナターシャは死霊術士の胸ぐらを掴んで顔を近づけた。


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「聞いているのはこっちだ」


窒息しかかってなんとか放してもらった男は、咳をしながら地面に座り込んだ。やがて不承不承、自分たちが元大学生で、追放されたあとも大学内部と繋がりを持ち続けていることを白状しはじめた。尋問が終わった後、一行は死霊術士の生き残りを再び縛り上げ、来た道を引き返しはじめた。詠唱も無くなり地下に反響する不快な音も消えていたが、一人だけ、難しい顔をして物思いにふけっている者がいた。


「どうしたんだ? 浮かない顔だが」
ため息をつくナターシャをアルフレドが見とがめた。


「・・・捕虜が漏らしたことが気になってな」


「何か背後が分かったのか?」


「大した情報はなかった。・・・奴らは純粋に、大学に復帰するために功績を作ろうとしたらしい。その手段がちょっと危なっかしいポテマ復活だったと・・・ああ! しっくりこんな!」


「ちょっとどころじゃないだろ。それにポテマなんて功績どころか災厄だ」


「ああ、そこじゃない・・・奴らは大学を追放された筈なのだが、その大学とまだ密かに繋がりがあるらしくて・・・」
ナターシャは、天を仰ぐように上を見た。


「マスターウィザードのウルリッチの名前が出た。関与しているらしい」
折角大学間の争いから離れられると思っていたのに、また巻き込まれたといったうんざりが顔に出ていた。


「俺には分からない名だが、面倒事っぽいな」


「ああ、お前が思っているよりも面倒かもしれん。・・・とはいえ、今考えても仕方がないな」
ナターシャはひとつ伸びをすると、少し疲れた顔でアルフレドを見た。


「報酬で飲むスパイス入りワインの事でも考えるか!」


アルフレドもこれ以上考えても無駄だと、話題の変更を歓迎した。


「エヴェット・サンの店のやつだろ? あれは確かに美味い」後ろから引っ立てられてくる死霊術士を指さす。「戻ってあいつを突き出して、報告すれば金一封。ちょっと割に合わない気もするが、ワインを買うには十分だ」


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「捕虜一人がワインに化ける訳か。ぱっとしない戦利品だな」


「たしかに・・・死霊術士にドレモラにポテマ、3倍もらっても足りないよな」


「帝国軍がそんなに出すと思うか?」


「違いない」
2人は自虐を交えて笑い合った。


「・・・あんたは笑っていた方がいいな。その方が魅力的だ」


「なんだ? 口説いてるのか?」
ナターシャは悪戯っぽく傭兵に笑いかけた。


アルフレドも軽く笑うと、はぐらかすかのように他の仲間を見回した。既に先頭が視界から外れている。彼はそれに気付くと声をかけた。


「もうちょっとゆっくり行こう! 捕虜もいるから」


「分かったわ!」


帰ってきた返事はイェアメリスのものだった。
少し遅れて傭兵とナターシャが並び、捕虜の綱を引いたアーセラン、最後にアスヴァレンがついて行く。外縁部を上り、都市が一望できるところまで戻ってくる。ここから先は洞窟だ。抜けていけばウルフスカルの入り口のキャンプでヴァルニウスが待っているだろう。もう危険はないだろうと言うことで、帰りはまだ体力を残しているイェアメリスが先導していた。夢か現か分からないポテマの昏い波動を、身体を動かすことで忘れようとしているのか、彼女は少しオーバーペースになっていた。


そして彼女は角を曲がろうとした時・・・、何者かが急にダガーで切り付けてきた!
咄嗟に左手をあげて護ろうとする。


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ガキィン!!


思わぬ衝撃に、イェアメリスと襲撃者、2人は体制を崩し掛けた。彼女の呪われた左手は硬質化しており、幸運にもダガーの刃を寄せ付けなかった。おそらく魔術に由来するものだろう禍々しいダガーは、派手な音を立てて地面に転がった。


ゆっくりと、襲いかかってきた男が身を立てなおす。この男も追放された死霊術師の仲間だろうか? 仲間が追い付いてくるまで少しある、彼女は急いで起き上がると、半歩身を引いて油断なく身構えた。


「あれ? 人間?」


身を起こした男は眼鏡をくいっと上げると、イェアメリスをまじまじと見た。心持ちか残念そうにも見える。


「おっと、私としたことがなんてことを! ・・・ホラ、ドラウグルとか出てくるもんだからてっきりそれかと」
そして害意がないように両手を上に向けてゆすって見せる。


「いやぁ、ごめんごめん。ホントごめん!」


「すごい音したけど手甲でもつけてるのかい? 手、大丈夫? 切れてない? 見せてごらんよ。・・・ボクは回復魔法も得意なんだ」
男は手を伸ばしてイェアメリスの左手を取ろうとした。


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「いえ、あ、大丈夫よ」


慌てて振り払うように手を引っ込める。イェアメリスの呪われた左手は感覚を失っていたが、彼女はなぜか蛇が這い上るような気味悪さを感じた。


若く整った顔はまだ少し幼さを残しており、眼鏡の奥の表情は笑っているのになぜか残念そうに曇っても見えた。


「あなた、だれ・・・?」
しかし彼女の問いは、仲間の声に遮られた。


「ヨキアムじゃないか?!」
ナターシャの声だ。


「メリス、何があった?!」
仲間たちが追い付いてくると、肩の力が抜けるのを感じた。彼女は目に安堵の光を浮かべると、あわてて仲間の後ろに引っ込んだ。


「おお、ナターシャ! やっと追い付いたぞ」


眼鏡の奥の瞳を輝かせて、若い魔術師風の男は女魔術師の前に立ちはだかった。


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「おまえ、どうしてこんなところに居る」


「君を追ってきたんじゃないか。私を置いてくなんてひどいよ。ウルフスカルに調査に向かうって学長から聞いたから、守ってあげないといけないと思って」


ヨキアムはウィスパーズ大学の一員だった。ソリチュードにしばし滞在しているナターシャに何かとつきまとっては煙たがられている男であった。


「守ってもらうって・・・。誰がお前に頼んだんだ。放っておいてくれ」


今度は成り行きを見守っていたアルフレドに飛び火した。


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「ふーん、そいつが今回の護衛かい? 弱そうだね。戦えんの?」


ヨキアムは敵意たっぷりの目で傭兵を睨むと、蔑むように値踏みした。


「それにダンマー? ボズマー? いつからスカイリムはエルフの国になったんだ?」


興味なさげにアーセランとアスヴァレンに目を走らせると、彼の視線はすぐにナターシャの上に戻された。


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「あたしもエルフなんだが・・・」


「おお、そうだ。だが貴女はもちろん特別だよナターシャ」


「あたしはお前のそういうところが嫌いだ」
女魔術師はずけずけと言い放ったが、ヨキアムはまるで聞いていない。探るような、ずる賢いような表情でナターシャを見ている。生まれつきなのだろうか? 整った顔立ちだけにイェアメリスはそれを怖いと感じた。


急な闖入者を加えて一行は洞窟の出口まで戻ってきた。洞窟の入り口からは光が漏れてきている。疲れるはずだ。どうやら丸一晩、古代都市の探索に費やしてしまったらしい。ヴァルニウスは疲れ果てた一行を迎えると、誰一人欠けていないことを喜んだ。


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「アルフ君、調査はどうだったんだ? 何か収穫があったか?」


「ああ、ヴァルニウスさん。道々話すよ。とりあえずこいつを頼む」
アーセランの引いている綱を引き渡す。


「この男は?」


「今回の騒ぎの首謀者の一味だ。大学から追放された死霊術士らしい」


「ふむ・・・」ヴァルニウスは困ったような顔をした。「大学の法とソリチュードの法は違うからな・・・追放者と言っても、どうしたものだろう・・・」


「我々が引き取ろう。審問に掛けて、法を犯しているようであれば衛兵に引き渡すことにする」
ポテマの召喚を試みてはならない、などという法律はもちろんないが、叩けば何らかの有罪は免れ得ない男だろう。ナターシャが大学で裁くと宣言すると、ヴァルニウスも安心したようだ。正直、死霊術士など連れて帰りたくないのは誰もが同じであった。


てきぱき処理をしてゆく彼女の様子にうっとりと見とれていたヨキアムは、ふと思いついたように申し出た。


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「ナターシャ。聞いてくれ、私にもできることを思いついた!」


「なんだ、今度は」
女魔術師は面倒くさそうにおざなりな対応を返すが、まるで堪えないように魔術師は続けた。


「君たちは洞窟の調査で疲れ果てている、そうだね?」


「ああ、頼むから声を落としてくれ。耳に障る」


「・・・そこで私がこの追放者をソリチュードまで護送して大学衛兵に引き渡そう。いい考えだと思わないか?」


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ナターシャは形のよい眉をひそめると、ヨキアムを見た。
「お前とソリチュードまで同道しなくてよいというのは魅力的な提案だな。だが、なぜだ? お前に何の利がある?」


「貴女の負担を少しでも減らすことができるなら、私は喜んでそうするよ」


「見え透いたウソをつくな。手柄が欲しいんだろ? クラギウスにでも出し抜かれたか?」


ヨキアムは驚いたような顔をした。そして飼い主に擦り寄るような仕草でナターシャの手を取った。


「さすが私の想い人だ。その通りなんだナターシャ。クラギウスは汚い奴だ。弟子の研究をさも自分のもののように剽窃して、派閥を広げている。私は不利なんだ。この連中の企みを暴く栄誉を、私にもらえないだろうか?」


「それで慌てて追ってきたわけだな」
ナターシャは呆れたように魔術師を見ると、あわてて手を振り払った。


ソリチュードのウィスパーズ大学では、2人居るマスターウィザードの席がが1つ空こうとしている。マスター・ウルリッチが高齢のため授業を受け持つことが厳しくなってきているのだ。その座を巡って、新進の研究者二人が派閥争いを繰り広げていた。


ヨキアムがマスターウィザードに適格かどうか・・・、正直そうではないだろうが、彼女には興味のないことであった。
ナターシャから見たら下らないこと・・・しかし屋根を借りている以上、全く関わり合いにならないというわけにも行かなかった。しばらく考えてため息をつくと、最終的に彼女は同意した。口には出さなかったが、半分以上、面倒くさくなったというのは誰が見ても明らかだった。


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「あたしは名声なんか要らん。ただし今回の仕事の報酬だけはしっかりもらうからな」


「おお! ナターシャ。我が褐色の姫よ。その厚意は決して忘れずにいよう」


「忘れていいから、早く連れて行ってくれ・・・」女魔術師はヨキアムを厄介払いしたくて溜まらなそうに見えた。「あ、ヴァルニウスにも着いていってもらうか?」


帝国兵は急に名前を出されてブルブルと首を振った。
「わ、私はドラゴンブリッジの所属だから、原隊に戻らなくてはならない。す、すまんが一緒には・・・」どう見てもヨキアムと一緒に行きたくないだけの方便に見えるが、一緒に行きたくないのは他の者も同じだった。


「分かった。じゃあヨキアム、お前に任せよう。私もこの国の大学では居候の身だ。正式な研究員であるお前の方が適任だろう」


「ありがとう。じゃあ私は行くよ。また大学で、ここの調査の話をいろいろ聞かせておくれ」
ヨキアムは芝居がかったお辞儀をすると、捕虜の綱を引いて洞窟から出ていった。その間彼は、ナターシャ以外の面々に対しては完全無視であった。


しばし無言の時間が洞窟入り口を支配した。その場に居る誰もが、なんとなくだが、魔術師が出口で耳を澄ませているような気がして拭えなかったのだ。かなり経ってからその呪縛を破ったのはイェアメリスだった。
後ろに引っ込んで目立たないように主役の座を譲っていた彼女は、アーセランに小声で囁いた。


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「こんな一瞬で、全員を敵に回すなんてある意味・・・才能よね。アーセラン、あなたよりすごいんじゃない?」


「おいおい、ひどいこと言うなぁ。ああいうのと較べないでくれ」


「大丈夫。あなたの嫌味はなんか嫌いじゃないわ」


そんなやり取りのあと、ようやく彼女たちは力を抜いて、調査の終わりを実感したのであった。


結局徹夜になってしまった。張り詰めていた緊張の糸が切れ、彼らは気が抜けて居眠りしそうになりながら朝食を摂ると、重い身体に鞭打って出発の準備をした。ソリチュードまでは一日かからない。どうせ寝るならちゃんとしたベッドにたどり着きたい。誰もがそう思っていた。


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イェアメリスはアスヴァレン、アーセランと共に再び雪道を歩き始めた。洞窟の入り口で雪を避けながら身体を休めるはずだったが、思わぬ冒険で身体は全く休まらなかった。それでも雪を照らす晴天の太陽は清々しく、暗い洞窟で身体に纏わり付いた澱みを洗い流してくれるかのようであった。


キルクリース山の中に敷かれた道を、スカイリムで滅多に見られないメリディア神の像が祀られた場所を横目にしながら下り続ける。


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傭兵と女魔術師、帝国兵も一団となってそれに続く。しばらく下山したところで、彼らは別の街道との接続点に出た。いつの間にか足下の雪は姿を消しており、しっかりとした石畳が木々の間に伸びていた。ドラゴンブリッジと首都ソリチュードを結ぶ街道だ。


任務を果たしたことを証明する手紙を書くと、アルディス隊長に渡して賞金をもらうように指示し、ヴァルニウスはドラゴンブリッジに向かって帰って行った。


ここからソリチュードまではあと半日もかからない。のんびり進んでも午後の早いうちには到着するだろう。洞窟調査を共にくぐり抜けた5人は、ソリチュードを目前にして一休みすることにした。彼らは道の脇に車座になって腰を下ろすと靴を脱いだ。


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「しっかし、なんなんだ、あいつ?」
アーセランは一足先に捕虜を連れて行った魔術師のことを思い出して毒を吐いた。


「あいつは、ウィスパーズ大学の若手、新進気鋭の魔術師だ。次のマスターウィザードの候補のうちの一人なんだと」


「ホントかよ。あんなの上に挙げて大丈夫なのか? あんたの大学は」


「あたしは屋根を借りている部外者だからよく分からんし、派閥や政治には興味がないが・・・ま、見ての通りの奴だ。あれで魔術の才能と腕は確かだから質が悪い」


「あたし、なんだかあの人怖いわ・・・」イェアメリスの感想は率直なものだった。蛇を思わせるような目。彼女に切りつけた直後、謝っているヨキアムの目は全く笑っていなかった。


彼らは街道を行きかう人の目も気にすることなく、ブーツを脱いでしばらくの間脚を休めた。帝国兵の小隊が通りかかったが、手を振ると手を振り返して通り過ぎていく。首都周辺は内戦の疲弊がまだ感じられす、のどかなものであった。


立て札にもたれ掛かっていつものようにメモを取るアスヴァレン。きっとポテマの召喚儀式について記録を残しているのだろう。


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「そういえばお前たち、手形が要るんだったな」


手形を失った理由が難民の兄弟を助けるためだったと知って、ナターシャたちの彼らを見る目は"怪しい旅人達"から"一緒に首都に向かう連れ"へと少し変化していた。


「俺たちが先に入って、調達してくるか?」
あれだけの冒険を共にしたからか、最初は警戒していたアルフレドも打ち解けて、彼らの間には仲間意識らしきものが芽生えかけていた。


「それには及ばねえぜ」
アーセランは通りかかる人たちが居なくなるのを確認し、懐に手を突っ込んだ。そして2つのアミュレットを取り出す。


「ほれ」
そう言ってアミュレットらしきものをぶらぶら振って見せる。
それはソリチュードの通行手形・・・アーセランの戦利品であった。


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イェアメリスはびっくりして、アーセランの手元と、仲間の反応を交互にうかがった。一人でキョロキョロして挙動不審だ。

「あなたそれ、どこで手に入れたのよ!」


「え、さっきの死霊術士達だぜ。1つはメリスちゃんの分な。今回はタダでいいぜ」


「そ、そ、そういう問題じゃ・・・」


「よかったじゃん、また手形買う手間省けただろ」


「あなた・・・みんな死ぬ思いで戦ってたのに。呆れて言葉も出ないわ」


アーセランは仲間を見回した。
「みんなそれぞれ役割を全うすればいいんだよ。それに・・・」話を聞いているアルフレドの剣を指差す。


「俺が大剣振り回して悪魔と斬り合ってる姿なんて想像できないだろ?」


「ま、まあ・・・、たしかに」


「実際、大剣なんて持ち上げられねェけどな」小柄なボズマーは脱いだブーツから小石を取り除きながらニヤリと笑った。「誰かさんが気前よく手放しちまうから・・・俺は俺なりにどうしようか悩んでたんだぜ?」


横で聞いていたアルフレドも笑っている。


「お前たち、面白いな」


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「ちょっと・・・こんなコソ泥と一緒にしないで。あたしはちゃんとした東帝都者の社員なのよ」


「手形無くして密入国する社員、な」


(むぐっ・・・)


「しかし・・・おまえ達を見ていると、国境など無意味なものに思えてくるな」
傭兵は後ろに連なるキルクリースの山並みを臨みながら、大きなあくびをした。


「入っちゃいけねぇところに入るのは得意だぜ」


「ぜんっぜん自慢できないわ、それ」


「はは、それで命を落とさないようにな」


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休憩を終えると、最後のひと行程に踏み出す。右手下方に港が見え隠れし、胸壁の外に広がる城下町に彼らは足を踏み入れた。自然と足取りが軽くなる一行の前に、衛兵の守る扉が現れた。イェアメリスは隠しに手を差し込むと、命綱である大事なサルモールの薬を無意識に確認していた。


(その小瓶をエランディル特務官まで届けてください)


呪いの書にはそう書いてあった。


なんとか無事に持ってきた!
イェアメリスは、とうとうソリチュードにたどり着いたのであった。




・・・




調査に入った一行がウルフスカル洞窟をあとにする半刻ほど前・・・


ソリチュードに続く街道から少し離れた、池の畔に男が2人立っていた。一人は皮で補強した魔術師風のローブを纏う金髪の若い男。整った顔立ちだが人を見下したような目が、眼鏡の奥で光っていた。もう一人は黒いローブを纏った男で、教師に叱られる生徒のように俯いている。


「で? ポテマの魂は抽出できなかったっていうのかい?」


詰問口調で若い魔術師が詰めよると、死霊術士は震え上がった。ヨキアムが捕虜を尋問しているのだ。
しかしおかしな事に捕虜の戒めは解かれている。更におかしな事にその捕虜は逃げる素振りも見せなかった。


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「なんなのお前たち。あんなに準備してやったのにしくじるなんて」


「申し訳ありません・・・」


「あーもう、役に立たないなぁ! じゃあ器はどうなったの」


「すいません。失いました・・・」


「あのねぇ・・・。あの少女の死体手に入れるの大変だったんだよ? 強欲なヴォルキハルのオースユルフと入札合戦になったんだからぁ。分かってんの? その辺り」
ヨキアムは苛立たしげに地面の石を蹴飛ばす。石は跳ねて池まで飛んでいった。


「で、もう一つの方はどうなったの。まさかそっちまで失敗したとか言わないよね」


「だっ、大丈夫です。ちゃんとマスター・ウルリッチの名前を出しました」


「フン。当然だよ。もっとボクの役に立ってくれないと・・・あのナターシャみたいに。ああ、ナターシャ・・・キミを屈服させる日が待ち遠しいよ・・・ホラぁ、お前。なに見てんの!」


勝手に物思いに入り、勝手にそこから出てきたヨキアムは、ヒステリックな笑いを浮かべると死霊術士を罵った。


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「お前これから大学衛兵に突っかかって殺される役が残ってるだろ? 死霊術士なんだろ、自分で身代わり準備しろよ。そんなことまでボクに面倒見させるのかぁ? なんなら本当にお前が死ぬ? 舌でも嚙んで見せてくれる?」


薄暗い狂気をにじませながらヨキアムは笑ったが、その声は周囲の自然にかき消されてどこにも届かなかった。




・・・



・・・



・・・




遠く下方の港から、かすかな鐘の音が響いてくる。朝晩2回の衛兵の交代の時間だ。


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ソリチュードはカース川河口にまたがった巨大な岩のアーチ上に築かれた都市で、スカイリムの上級王の御座がある首都である。


玄関口である巨大な港は下層、市街や宮殿は上層という風に、完全に分離されており、空中に張られた経路や、中央シャフトで接続されていた。


シャフトは螺旋階段になっており、日中はその狭い通路を沢山の商人や街人、旅の者が行き交う。


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シャフトから上がって商業地区に出ると、正面に小さいアーチが有り、つづら折りの街路が上に向かっている。そこを道筋に進み、一段高い踊り場に出ると、熱気と金属音が聞こえてくる。


ドール城の中庭に通じるこの一角が、ソリチュードの軍需物資を扱う職人街となっていた。弓矢の専門店や鍛冶屋、皮なめし職人や溶鉱炉が所狭しと並んでいた。


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キルクモアからやってきた鍛冶屋のウンガーとブラッキーの師弟は、職人街の奥で槌をふるっている男を訪れていた。


金属を叩く手を止めずに、弟子たちに向かって怒鳴るのはベイランド。ソリチュードで帝国軍の兵装を一手に担う鍛冶屋集団の親方だ。彼は炉の周りで働く数人の弟子や同業者に指示を出しながらしばらく忙しそうに動き回っていたが、やがて合間を見つけると尋ねてきた客人たちの方にやってきた。


「ウンガーじゃないか!」


かつての弟子が訪ねてきたことを知り、熱にしかめていた顔がほころんで笑顔になる。


「どうしてソリチュードに。キルク?・・・なんだっけ? ハイロックの小島に炉を持つんじゃなかったのか?」


「キルクモアですよ、師匠」


「お? その子は? ・・・お前さんの娘、って感じでもなさそうだが」
ベイランドはウンガーの横に立っている少女を見て、首をかしげた。


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「ボクはブラッキー。ウンガーのおっちゃんの弟子だよ!」
人見知りをしない少女はにやっと笑った。ベイランドはその意志の強そうな娘を一目で気に入った。「ほうほう・・・あのウンガー坊主が弟子とはなぁ。俺も年取るもんだぜ」


「はるばるやってきたのには訳があって。師匠、今日は商売の話で来たんです。・・・でも今は忙しそうですね」


「すまんな、今日中に30セット納めにゃならん装備があってな。夜ならいいが・・・、しばらくここに居るんだろ?」


「ええ、とりあえず一番に顔見なきゃと思ってここに飛んできたから。まだウィンキング・スキーヴァーに部屋も取ってないですし、夜に会いましょう」


「宿だって? うちに泊ればいいじゃないか。セイマも喜ぶぞ」


「おかみさんは元気ですか?」


「ああ、相変わらずピッツ・アンド・ピーセズでカウンターに立っとるよ。売り子を雇えって薦めているんだがね。あとで覗いてやってくれ」


「分かりました。尋ね人もいるから、ちょっと久しぶりの街を回ってきます。じゃあまた夜」
ウンガーはそう言うとブラッキーを促す。


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「おっちゃん、そんな言葉遣いもできたんだね」
ブラッキーは、島では偉そうなウンガーが師匠の前では丁寧な言葉遣いになるのが面白いようだった。


「ばかっ、弟子は師匠を敬うもんだ。おっちゃんなんて呼ぶのはブラッキー、お前さんぐらいのもんだぞ」


ベイランドは自分の弟子の弟子を面白そうに見て、また仕事に戻っていった。ウンガーとブラッキーは、軽く挨拶を済ませると、職人街を後にする。


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「おっちゃん、ソリチュード詳しいの?」


「ああ、昔住んでたからな。さて、まずは朝飯といくか」
ソリチュードで食事と言えば宿屋か、城門前広場の屋台が定番だ。2人は船を降りたばかりの者に特有のふらふらした足取りで、広場に降りていった。


ブラッキーは屋台でつまみ食いをしながら、ベイランドの目の届く範囲でぶらついていた。上れる城壁があったので、先ほど自分が乗ってきた船がどこに止っているのかを見つけようとしたが、余りにごちゃごちゃしており、すぐに見失ってしまう。降りてくる途中、話し声が耳に入った。


「興味がないんだ、ジャリー。何回聞かれても同じだぞ」


壁際に立つトカゲ頭の男・・・らしき人物と、それをあしらうインペリアルが目に入る。ブラッキーはアルゴニアンを見るのは初めてで、思わずまじまじと見て目が合ってしまった。軽装鎧を着けたアルゴニアンは、ばつが悪そうにするブラッキーを物色するように逆に観察した。ブラッキーは今は鎧は着けておらず普段着だったが、腰に吊った手斧に目をとめている。


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「旅人さんか。ソリチュードで何をお探しかな?」


「あ、えっと。仕事の用事で来たんだ」


アルゴニアンはブラッキーの手斧を見つづけている。使い込まれているのを見て取ると、にやっと笑った・・・ように感じた。


「ソリチュードを通るんだろう? 大金を手にしようとは思わないか?」


どう答えようか返答に窮した時、別の人物が横から慌てたように割り込んできた。


「ジャリー・ラ、聞いてくれ! ニュースだ」
新たな人物もアルゴニアンだった。体つきからすると女性のように見える。ブラッキーは自分から注意が逸れたのを幸いに、本当に水中で活動できるんだろうか? 手は自分と同じように見えるけど、水かきはあるのかな? などと、再びアルゴニアンたちを観察した。


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「なんだいディージャ。姉妹よ。いまこの旅人さんと話を・・・」


「いいから、聞くんだよ」


ジャリー・ラと呼ばれたアルゴニアンは、仕方なさそうにブラッキーを見ると、話は終わりだと告げた。
「すまんね。ちょっと取り込みのようだ。退屈になったら会いに来てくれ、よそ者さん」


ブラッキーも立ち去る口実ができて助かった、ディージャが興奮してまくし立てるなか、長居は無用と歩き始める。


「さっき仲間から連絡があったんだけど、ハイロックでユディトたちが消息を絶ったらしいんだ。船が嵐に巻き込まれたって」


「姉妹よ! 本当かそれは?! とうとう俺たちにも運が向いてきたな・・・」


かなり離れてしまったが、聞き覚えのある名前に思わずブラッキーは振り向いた。


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ハイロック・・・嵐・・・船・・・消息を絶つ・・・そしてユディトと言う名前・・・


それは、彼女が囚われていた奴隷運搬船の事であった。




(つづく・・・)



※使用mod


・Beyond Skyrim – Bruma( Nexus 84946 )

  ・・・シロディールの最北部を追加する大型mod。ついに公開されましたね。

  今回はサイノッドとウィスパーズの拠点や旗印を使わせて頂きました。

  OblivionのDLC3(プレイヤー自宅の魔術師の塔)は、ウィスパーズの拠点になっていました^^


・Shadow of Morrowind( Nexus 35789 )

  ・・・TES Renewal Projectとはまた違うプロジェクトが再現している4E201のモロウインド地方です。

  WIPとはいえ、ものすごい完成度です。


・Dolls- children Overhaul( Nexus 72569 )

  ・・・可愛らしい子供たちのオーバーホールです。

  今回は生け贄の少女(^^;)の役で使わせて頂きました。


・FX Eye Candy Rings( Nexus 11134 )

  ・・・様々なエフェクトを発生する指輪のmod

  今回の霊体や幽霊関係、傷などはこのmodでエフェクトつけています。


・Soranatsu Warumusu

  ・・・お世話になっているそらなつさんが、このお話用にポテマ様を作って下さいましたヾ(๑╹◡╹)ノ"

  悪の魅力たっぷりの美女、今後も話の中で上手く生かせるよう頑張りまっす( *・∀・)9゙

  なんかちょっと妖艶になったのは私のせいじゃありません(°~° )ん~


・bolo-villian

  ・・・お世話になっているたまごボーロさん作の、悪役系男性キャラです。

  公開前の物を無理言って使用させて頂きました、感謝。

  今回はソリチュードのウィスパーズ大学、若手の先鋭ヨキアム・コンラードとしての出演です

  あんな感じ(?)のキャラをもう少し俗っぽく人間臭くしてみようかな、とかなんとか・・・w


・Broken Angel Armor( Steam Workshop )

  ・・・お世話になっているえいへいすぽっと様のところで紹介されていた軽装鎧です。

  ナターシャさんの肌色が映えると言うことで、第2部前半の衣装として使わせて頂くことにしました。


・ソリチュードの景観

  ・・・いろいろなmodの複合です。

  たしか・・・JK + Dawn + SKY City(外郭のみ) + Solitude Reborn + 

  Solitude A City Of Trade + TRUE CITY + Royal Blue Palace + 

  Solitude arena + Solitude Skyway + Dev Aveza 辺りだったと思います。

  街の人口はInteresting NPCsとInconsequential NPCsで増やしています。

  テクスチャはTamriel Reloadedベースにいろいろ加えています。

  首都と言うことでちょっとやり過ぎなぐらい盛っていますw



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 4E201

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2017/07/18 (Tue) 23:59 | EDIT | REPLY |   

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