4E201 - The Unsung Chronicles of Tamriel

¡Hola! Mi nombre es Moqueue. Encantada.

4E201

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2017  01:48:53

◆Chapter: 2-2 国境を越えて

サクサクと小気味よい音が規則的に聞こえる。5人の旅人が雪を踏みしだく音だ。
ロスガリアン山脈の東の外れ、幽霊海を見下ろす山の斜面を一行は登っていた。パインマーチからスカイリムに入る街道は2本ある。一本は海岸沿いに降り、国境の大橋を渡ってシーポイント開拓地に出る海岸周り。もう一つは首都であるジェハンナから北の小道を抜けて、キルクリース山に出る山越えだ。彼らは目的地のソリチュードにより速くたどり着ける山越えを選んでいた。


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「こりぁ、晴れているからいいが、天気崩れていたらひどいことになりそうだな」


アーセランは始終、ぶつぶつ呟いている。


彼らは途中、狼と遭遇したぐらいで大した危険もなく進んでいたが、敵はむしろこの積もった雪だった。薪木の月もあと数日で終わる。降霜の月に入ればこの辺りは完全に雪に覆われてしまうのだろう。帝国の維持管理する街道はこんな辺境の地にも文明をもたらしていたが、雪の下に埋もれてしまえばその道筋も見失う恐れがあった。先頭を行く2人の巡回騎士がいなければ、この辺りに不案内な3人はあっという間に迷ってしまったに違いない。


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騎士の2人は先導しながら、雪におおわれた山の斜面に刻まれた階段を上ってゆく。経由地になっている隣町とはわずかな距離しか離れていないが、高低差は山一つ分もあった。


「ふぅ・・・これで休めるな」


向かう先に街の防壁らしきものを認めて、アーセランは安堵を隠さずに声に出した。山の斜面にしつらえられた長い階段道を踏破し、少し進むと平らな雪原の先にこぢんまりとした街が広がっている。朝早くパインマーチを出発した彼らは、薄雪の積もった斜面を登り続け、昼過ぎにようやく隣町に到着したのだった。


イェアメリスは小さく伸びをすると一息ついた。
「朝早かったからかしら、ちょっとお腹がすいてきたわ」


「確かに、俺も腹減ったなぁ・・・」


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足をとめた旅人達のところに、騎士が戻ってきた。
「・・・あれ、ダンナ、どうしたんで?」


「すまんがこの街には入らん。お前さんたち、もう少し頑張れるか?」


先頭を行くヘンリエッタが振り返って、彼らのやりとりを待っている。
「可能であればもう少し進んで、ジェハンナに入ってしまいたい。夜には間に合うと思うんだが」


「なんでだよ。せっかくの町だぜ。ここで暖まって行こうや」


「出来れば避けたい町なの」


分からない、という顔をして3人の旅人は顔を見合わせた。雪の上に立っているとブーツの上からも足が冷えてくる。動いていれば幾分マシだが、そもそも雪山用の装備を持っていない彼らには、目と鼻の先にある経由地の町を避ける理由は思い当たらなかった。言葉を濁す相棒を補足するようにヘンリエッタが口を開いた。


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「ここクラウドスプリングの町には、サルモール大使館がある。ロスガリアンの田舎町だが、今は完全にサルモール連中の駐屯地みたいなものなんだ」


強い自治が保たれているとはいえ、ハイロックは帝国の一員だ。白金協定のあと、帝国軍が通れるところはアルドメリの軍も通行可能となっている。そしてこの30年でサルモールたちは、共同統治者として帝国領のあちらこちらに派遣されるようになっていた。互いの感情を脇に置いた状態で行動を共にする帝国軍とサルモールの姿は他国の人間が見ても奇妙に映る。それぐらい違和感があるわけだから、当然、国の為政者達も取り扱いに苦慮していた。ロスガリアンではなにが起こったか・・・ここでは彼らは、単純に遠ざけられていた。


「王が、首都の内部にサルモールの連中を抱えるのを嫌がったのだ。そのしわ寄せがこの町に来ているというわけさ」町の門を指さしながら彼女は付け加えた。


サルモールと聞いて3人の旅人達は顔を見合わせた。皆それぞれ、サルモールに関しては少なからず因縁がある。しかし3人は3人とも、何も表には出さなかった。


「そう・・・住人でもないし、あたしたちむやみに近づかないほうがよさそうね」


イェアメリスは3人の中で一番サルモールに用があるのだが、それはここではない。各地で暗躍するこの不気味な集団に、好き好んで近寄りたくはなかった。


ハイロックとサルモールは大戦で直接剣を交えたわけでもなく、スカイリムのように帝国の兵站を受け持つこともしていなかった。互いに好意も遺恨もないし、そもそも外交関係者以外で好んでハイロックにやってくる物好きなアルトマーも殆どいない。互いの関係は非常に希薄であった。むしろ、最近の方が見かけることが増えたとヘンリエッタは語る。


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「イェアメリス・・・お前はブレトン、か?」


「母さんがアルトマーだったの。父はブレトンなんですって」
混血は最終的には母親の種族の寿命を受け継ぐが、どの時点でその血が強く発動するかはまちまちだ。人間として育ち成人女性の年齢となった今でも、彼女がエルフの血を引くことを示す証は耳ぐらいしかない。


「生まれたときにはもう居なかったから、話でしか聞いたことないの」


「そうか。まあ問題は無いと思うがジェハンナに入ったら、大人しくしておいた方がいいな」


「もちろん、そうするつもりよ」


聞いていたアーセランが残念そうに雪の塊を蹴った。
「ってことは、ここは素通りって訳だな。昼飯に肉汁滴る鹿肉ステーキをって思ってたんだが、当てが外れちまったなぁ」


「なに贅沢言ってるの。昼からステーキなんてあり得ないわ。リーキでも食べてなさい」


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「リーキィ?!!」
小さい商人はブルブル震えながら首を振った。
軽い気持ちで返した茶化しに、思わぬ反応が返ってきてイェアメリスは驚いた。


「イフレにかけて! メリスちゃん・・・そりゃぁダメだ。俺を殺すつもりか?」

あまりの様子のおかしさに、イェアメリスは連れのダンマーを見た。


「え? え? 変なこと言った? あたし」


俺もよくは知らんが・・・と前置きをつけて、アスヴァレンは説明した。
「たしか、宗教上の理由か何かで、ボズマーは野菜は食べんはずだ」


「そうそう、アスヴァレンのダンナの言うとおり! 言うとおり!」アーセランは頷くとイェアメリスに詰め寄った。


「俺たちの崇めるイフレの神は森の守護者でもあるんだ。ウッドエルフはイフレの加護を受けるとき、狩りの能力の代償として植物を傷つけ無いことを自らに課すのさ。だから肉食。野菜は絶対だめなんだ」


「そうだとしても反応が異常じゃない? こっちがびっくりしたわよ」


「ぜんぜん異常じゃねえよ」アーセランは大げさに身ぶり手ぶりを交えて、自分の過去の経験を語り始めた。
「ヴァレンウッドをでて、オーリドンのアルドメリ典礼大学に入った話はしただろ? その頃、アルトマーの先輩様に酷く殴られたことがあってな。相部屋だったカジート野郎がリーキを刻んで俺の湿布に混ぜやがったんだ」


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「リーキは消炎鎮痛に効くわよ? 正しい判断ね」


「それは錬金術師の視点だろ? こう考えてみなよ」アーセランは一瞬考え、続けた。
「えっと・・・メリスちゃんはなにを信仰しているんだっけ?」


「キナレスよ」


「じゃあ、仮にメリスちゃんに妹が居たとしよう。・・・キナレスの聖堂で昨日まで祈りを捧げていた妹が、細切れにされて今朝のシチューになっていた。それを知らずに自分が食べてたらどう思う?」


「なにそれ気持ち悪い! ナミラじゃないの! あたし人なんて食べないわよ!!」


「だ~か~ら。それぐらいの出来事なんだって。俺にとっては」


「たかがリーキの湿布じゃない」


「たかがじゃねぇよ。森の神の加護を受けた聖なる同胞たる植物が、ズタズタに切り刻まれて、自分の身体に塗りたくられていたら失神もするだろ?」


「あなたには・・・そう見えるの?」


「ボズマーにはそう見えるのさ・・・」


アーセランの告白に、彼女もただただ驚くばかりだった。


「まあ、カジートもいたずらしようとしたんじゃないことぐらいは分かってる。でも我慢ならなかったんだ。サルモールに相応しい教育を、とか言っちゃってるけどな、あそこはただドミニオンの・・・アルトマーの価値観を押しつけるだけの洗脳機関だ。教師の連中、同盟を構成する仲間だってのに、ボズマーやカジートのことを低く見て、俺たちの文化なんかこれっぽっちも顧みようとしねえ。浅黒かったりしっぽの生えている、見かけだけ違うサルモールが量産され続けるんだ。相部屋のカジートもぜんぜんカジートらしくなくて、変な感じだったぜ」


連れの錬金術師も、巡回騎士達も興味深げに耳を傾けている。


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「半年も経ったらオレもああなっちまうんだろうと思ったら怖くなってな。そんでサルモール目指すのはやめたのさ。殴ってきた先輩様には、部屋に大量のスキーヴァーをプレゼントしてやったぜ。それでおさらばってわけだ」


「う・・・あなた非道いわね。やっぱり外道じゃ・・・」
イェアメリスは気味悪そうに周りを見回した。さすがに雪原にはスキーヴァーはいない。代わりに、野生のボアが何頭か目に入った。

話しながらも足は留めていなかったが、少し休憩がしたくなって彼女は提案した。


「ねぇ、町には入れなくても、道のわきにちょっと出れば、あなたたちの大事な植物を傷つけることなく、ちょっとした野営ができるんじゃなくって?」


「そうだな、まだこの先も歩くのなら、何か軽く腹に入れておいた方がいい」アスヴァレンもボズマーに背負わせたサックを指差して同意した。アーセランが背負っているのは、パインマーチを出るときに、少しの保存食と併せて購入したものだ。イェアメリスは代金を出すのをかなり渋ったが、背中に何か背負っていないと落ち着かない、という主張に押されて、荷物持ちをする条件で買わされたのだった。


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街の周りにはいくつかの家が点在している。その中には朽ちかけて廃屋となっているものもあった。イェアメリスの提案を受けて辺りを見回したレイセンダルは、やがて廃屋の一つに目星をつけると街道から外れて一行を誘った。
「俺も嬢ちゃんに同意だ。この廃屋の軒先でも借りれば、あまり目立たずに休める。上官殿、どうだい?」人を食ったような態度だが、慣れっこなのか、ヘンリエッタは怒るでもなく無言でうなずいた。


廃屋に着くと、アーセランは荷物を下ろしてサックをまさぐった。布にくるまれたカチカチのパンが出てくる。
自分たちも似たようなパンを齧りながら、レイセンダルはアーセランをからかった。


「こりゃひでぇな。俺のパンの方がごちそうに見えるぜ」


「もうちょっとマシな保存食を買ってきたらよかったんだよなぁ。メリスちゃんがケチだから、こんなものしか買えなかったんだ」


「ケ、ケ、ケチですってぇ」
いけしゃあしゃあと喋るアーセランにイェアメリスは食ってかかった。


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「元はと言えばあなたがあの船に密こ・・・手違い生じさせて荷物とはぐれちゃったのが原因でしょ! 誰が食べさせてあげてると思ってるのよ」


「まあまあ、喧嘩しない」


黙って聞いていたヘンリエッタが苦笑交じりに林を指差す。
「面倒な連中だな。そんなにマシな食事がしたいというならホラ、あれなんかどうだ?」


「ん? なんだ?」


「あそこに、お前たちのステーキの材料がいるじゃないか」
彼女はそういって林の影にいる野生のボアを指差した。
「巡回騎士は領内で自由に狩りをする権利を持っている。我々と一緒にいる間はお前たちがあのボアを狩っても何の問題もない」


自然と、仲間の目がアーセランに集まる。
イェアメリスは良いアイディアだとばかりに、ボズマーに詰め寄った。


「ヘンリエッタさんのご厚意に甘えて、お昼ご飯を調達してきてくださらない?」


ボアは廃屋から100フィートほど離れた斜面の近くで草を食んでいる。


「使うか?」


アスヴァレンは愛用の弓を背中からおろすと、ボズマーに手渡した。一行の中で弓を持っているのは彼だけだった。アーセランはスタルリム製のずっしりとした弓を受け取ると、しばらく観察して、そして無言で返した。


「・・・」


「どうしたの? 狩人さん、ボア逃げちゃうわよ?」


「メリスちゃん、なに聞いてたんだ。俺は狩人じゃねえよ」


「なにをごちゃごちゃと」


「・・・」アーセランは、ばつが悪そうにエルフ娘を見た。「メリスちゃん、人の才能ってのは、いろいろな方面に発揮されるのさ」


目を合わせようとせず、きょろきょろと挙動不審のボズマーの顔に浮かんだ表情を見て、イェアメリスは意地悪くほほ笑んだ。
「もしかして、狩り・・・ニガテ?」


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「あー! なに笑ってんだよ。しゃあないだろ、苦手なもんは苦手なんだって」


イェアメリスはひとしきり笑うと、アーセランの顔を覗き込んだ。
「ボズマーはみんな狩人なんだと思ってたわ」


「ちげぇよ。俺は商人なの、俺の才能はそっちに集中してるの」


「はいはい、そういうことにしておきましょうね」


「あー、なんか腹立つ言い方だな」


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言っている脇でアスヴァレンは立ちあがると、弓を引き絞る。黒檀の彫刻のようなダンマーの腕に似つかわしくない筋肉が盛り上がった。最後に一度、確認するように騎士たちを見て、同意を受け取ると、無造作に矢を放った。


矢は安定した軌道で飛び、100フィート程離れた所に立つボアの眉間に突き立つ。その勢いのまま、ボアは膝が砕けて短い距離を転がった。


「お前さん、弓も凄いな。その腕なら500ヤードは飛ばせそうだ」ボアを一撃で仕留めたアスヴァレンの腕を、レイセンダルはほれぼれするように眺めた。「いやほんと、錬金術師にしておくのはもったいない」


こうして肉を手に入れた一行は、荒っぽいながら豪華な昼食にありつくことができた。


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十分な血抜きの時間を取ることはできなかったが、錬金術師の技はこういうところでも役に立つ。野生の肉はある種のキノコで臭み取りをしたことで、宿で提供される程には良い味に仕上がった。肉が焼ける前にイェアメリスとアーセランはキノコが植物かどうかで揉めるという些細な事件もあるにはあったが、1時間半ほどの休憩で、一行は充分に英気を養うことができたのだった。


「ちょっと、遅れているわよ。食べすぎ?」


彼らはクラウドスプリングを横目に見ながら、再び移動を開始していた。
先を行くイェアメリスから叱咤が飛ぶと、返事とばかりにアーセランが怒鳴り返す。2人の声が雪原に響き渡った。


「なぁ、とんでもなく重いんだけど・・・勘弁してくれよぉ」


彼はパンパンになったサックを背負っている。更に両手にはそれぞれ袋をぶら下げている。廃屋から拝借した荷袋いっぱい、ボアの肉を運んでいるのだ。小型とはいえ、ボア一頭の肉をわずか5人の昼食で消費しきれるはずがない。彼らは解体した残りを、狩人よろしく街で売ろうと考えていた。


「あなたも少しは役に立ちなさい。ジェハンナに行ったら、そのお肉でしっかり稼ぐのよ」


「メリスちゃん、人使い荒いなぁ・・・」


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雪原とジェハンナを隔てる谷に大きな橋が架かっているのが見えてくる。
騎士達を先頭に、彼らはそれを目指して進み続けたのだった。




・・・




ジェハンナの圏内に入ると、彼らは急に人とすれ違うことが多くなった。谷に架かる大橋の上に何組もの人々がたむろしている・・・道の端々にも物乞いのような姿が多く見られた。ヘンリエッタは彼らはスカイリムから来た難民だと説明した。城壁の中に居場所を得られたのは初期の頃に来た幸運な者達だけで、大半の難民はこうして首都の周辺に居着いて暮らしを立てようとしているのだった。


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ロスガリアンは全体的に寒冷地であるため、人口の増加による疫病の類いは発生していなかったが、それは裏を返すと空の下での生活は寒く、過酷であると言うことだ。難民たちは一部は国境に送還され、スカイリムに入ったところに作られた急ごしらえの居留地に留め置かれているという。それでも収容しきれないため、暖が得られるという謳い文句でサンライト鉱山の坑夫として収容したりもしていた。


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ヘンリエッタやレイセンダルら巡回騎士は、物乞いにもなりきれずにならず者として山賊に身を落とした者達などを主に取り締まっているのだった。


丸太を連ねた防護壁が姿を現し、守衛が挨拶するのに会釈を返すと、彼らは待ちに足を踏み入れた。ジェハンナ・・・ハイロック最東端にして、ロスガリアンの首都である街に、彼らはたどり着いた。


「我々は一度城に上がって、ファーランの件を報告してくる」
市民の立ち入りが許されている区画の外れまで来て2人の騎士は一度別れ、慌ただしく王城に消えていった。


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ジェハンナは大きく2つの区画からなる城塞都市で、堅牢な石壁で囲まれた山城が王の住まう宮殿を兼ねている。その脇に北国らしい丸太を連ねた防壁に囲まれた居住区画があり、街の住人はそちら側に暮らしていた。


宿は言われていたとおり一件しかなく、すぐに見つかった。彼らはそこに陣取ると思い思いの姿勢をとった。宿の酒場を兼ねる1階は人が多く賑やかだが、宿泊階はほぼ無人に近い。街に難民は多いが、旅人は殆どいないのかも知れない。扉を閉ざすと、耳障りな喧噪の音量が一気に低くなる。


アーセランは宿に入ると部屋に荷物を置いて、一日歩き続けて疲れた足をさすりはじめた。ダンマーの錬金術師は窓から往来を行き来する人々を眺めている。日が沈むまでにはまだ少しだけ時間がある。今日の用事を済ませて家路につく住人達の動きは慌ただしい。


しばらく待つと、部屋の扉をノックする音がし、開けるとレイセンダルが立っていた。


「あれ? どうしたの? 早かったじゃない」


「ああ、ちょっと肩すかしを食った感じだが、俺たちの前に別の騎士が脱出した住人を保護してたんだ。報告はそこから上がってたから、俺たちの報告は簡単に済んだのさ。色々事情聴取されると思ったんだが」


「第一報じゃなかったのね」


「そういうこった、裏付けを強固にできた時点ですぐに解放されたって寸法だ」


「それで飲みに来たの?」


「ま、そんなところだ。ダンマーは酒に強いって聞いてる。ちょっと面白い酒が手に入ったものでな」そう言うと、騎士は階下で待つ女騎士に振り向いた。


「ヘンリエッタさんも来てたのね。あら、そのお酒・・・スジャンマ?」


椅子に座っていたアスヴァレンの耳がピクリと動くのをイェアメリスは見逃さなかった。
「あんたもいける口かい?」


「スジャンマは好きだけど、あたしはそんなに強くないから・・・」


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5人は、街は違うが昨日の晩と同じようにテーブルを囲んだ。北国の山に囲まれた街の酒場だが、さすがに首都と言うだけあって物資も豊富で料理も豪勢だった。
・・・騎士達はこの街でまた別の任務に就くのだろう。イェアメリス達にとっては通過点。彼らの交わった軌跡はここで解かれ、それぞれ別の方向に向かっていた。それでも一緒にいる間はと刹那の団らんを楽しんだのだった。


「ヘンリエッタさん、レイセンダルさんも、今日はありがとう」
イェアメリスが改まって、2人に同行してくれた礼を言うと、ヘンリエッタは長い髪を軽く揺すった。


「同じ道中だっただけだ。気にするな・・・しかしまさかこんなに喜んでもらえるとは思っていなかったぞ」
女騎士は微笑んだ。


「よくスジャンマなんて手に入ったわね。この辺りでは珍しい品でしょ?」


「うちの上官殿は、館暮らしのお嬢なのさ」大きな肉の塊に取り組んでいたレイセンダルは、口休めにエールをあおると、まるで自分のことのように自慢した。


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ヘンリエッタはシロディール出身のノルドで、コロール近くに荘園を有する裕福な貴族の娘だった。小さな頃から他国を見て回りたい気持ちが強く、女だてらに剣術や魔法の稽古ばかりしていたという。外に出る気持ちを押しとどめることの出来なくなった両親は去年、親戚の住むこのロスガリアンに旅という名目で送り出すことにした。レイセンダルは荘園の兵士の中では古株で、衛兵の仕事をしていたが腕を見込まれて、彼女の護衛に選ばれたのだった。


そんな彼女だったので、無事にロスガリアンの親戚の館に到着してもおとなしくしているわけがなく、王宮に上がって巡回騎士としての仕事を自ら勝ち取ってきたのだった。


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「で、上官殿がここに居着いちまったおかげで本国に帰る当てのなくなった俺様は、どうしたものかと途方に暮れながら毎日酒をあおっているという訳さ」
茶化しながらも、大切なものを護っている誇りをレイセンダルは見せていた。
自分の生い立ちが面白おかしく語られるのを少し恥ずかしそうに、ヘンリエッタは飲んでいた。


「なんだか素敵ね。信頼しあっている感じがするわ」
物静かで落ち着いて見える彼女の意外な一面を垣間見て、イェアメリスはうっとりすると、横でスジャンマをチビチビと嗜んでいる連れを非難がましい目で見た。


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「ごめんなさいね。この人、スジャンマ目にするとこうなっちゃうのよ・・・」


「館に届いた荷の中に、たまたまこの酒を見かけたのでな。ダンマーの好物と聞いていたが、これほどとは」


「この人は特別よ」


「見ているこちらも嬉しくなるような飲みっぷりだな」


イェアメリスは殆ど飲んでいないのに、連れ以上に赤くなった。
「ご・・・ごめんなさい。代金はちゃんと払うから・・・」


「あはは、いいさ。そのお金は明日市場に行って使ったらいい。入荷本数こそ少ないが、この酒はハイロックでは人気が無いからきっと売れ残っていると思うぞ」


「それは本当か?!」聞いているのか聞いていないか分からないような態度だったアスヴァレンは乗り出すと、レイセンダルに市場のことを色々質問し始めた。おとなしく、食べることに専念していたアーセランも、商売人の性からかジェハンナの市場のしきたりやルールなどをいろいろ聞いている。イェアメリスはそんな男達三人を放っておいて、ヘンリエッタと女同士話しをすることにした」


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「この人ホントにスジャンマが好きでね。あたしもスジャンマで釣って、先生になってもらったのよ・・・」


イェアメリスはお返しとばかりに、自分が東帝都社に属すること、島でのアスヴァレンとの出会い、そして難破船の出来事などかいつまんで、当たり障り無く説明した。
ヘンリエッタも自分がまだ足を踏み入れたことのない、海の旅の話は興味深いようだ。アスヴァレン達と話をしていたレイセンダルはふと”海”と言う単語を聞き咎めて、まさか船に乗るなんて言い出さないだろうな、と言わんばかりの不安そうな顔でチラ見した。話に花を咲かせていても、酔っていても注意は配っているのだ。


「海上交易の方が盛んだと聞いていたが、そうそう安全というわけでもないのだな」


「そうね、ここ数年はよかったのだけど・・・最近は海賊の活動が活発で、みんな対策に苦慮してるの」


「海賊? そんなに多いのか?」


「たぶん、どこかの領主の息のかかった私掠船が大半だと思うわ。純粋生粋の海賊なんてそうそういないもの」


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「ふむ・・・なんだかハイロック宮廷陰謀の縮図みたいだな」彼女は状況をうまく言い当てていた。それを聞きながらイェアメリスは、そんな中に混じってサルモールも暗躍していることを想像していた。


「そういえばヘンリエッタさん、・・・え、と、親戚の方は商人?」


「ジェハンナで貿易を営んでいる。海賊ではないが、ここ山地でも同じように襲撃に悩んでいるわ」


「やはり・・・内戦の影響?」


「そうね・・・。難民はここに来るまで散々お前たちも見てきたと思うが、あれは一部。難民になりきれなかった連中で、少し鼻息の荒い奴らが山賊化しているのさ」


「ここはハイロックとほかの地域を結ぶ数少ないルートの一つだが、陸上交易も危険が多い。だから私たちみたいなのが居るのさ。それに、もっときな臭い話もあってな・・・」


「きな臭い・・・?」


「ああ、少し・・・」ヘンリエッタは少し声を落とすと、確認するようにレイセンダルを見た。上官を見ると、彼は市場の話を切り上げて、アスヴァレンとアーセランにも聞くように促した。


「”死者の行進”について、聞いたことはないか?」


不吉な単語だった。イェアメリスは横を見る。アスヴァレンも首を振っている。
「いいえ。それは?」


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「スカイリムに向かうのだったら知っておいた方が良い」


男達も興味を引かれはじめた。


「ロスガリアンとスカイリムの国境の山中・・・つまり、ここ。に、最近夜中に不気味なものを見たという話を聞くのだ。死者が起き上がって、群れを成してさまよい歩くらしい。住人達はノスフェラトゥ・・・"死者の行進"と呼んで恐れているわ」


ヘンリエッタはエールを一杯飲み干すと、更に声を下げた。
「色々と報告があるのだが現場に行っても何もない。直接の被害がまだ無いから良いようなものの、山賊狩りの後の死体が根こそぎなくなったとか、森に迷い込んだ難民が集団で姿を消したとか、ガセと片付けてしまうには少々物騒なの」


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「死体が消える・・・死霊術士でも居るのか?」


「分からないわ。居るのかもしれないけど尻尾を掴ませない、おそろしく狡猾なヤツね」


アスヴァレンは顎に手を当てると考え込むような仕種をした。

「ファーランの街が襲われたのと関係が?」


「あの化け物のせいではないのか? お前も見ただろう?」


「そんな報告は上がっていなかったわ。でも確かに・・・あれは一体・・・」


イェアメリスとアスヴァレンは顔を見合わせた。その様子を見てヘンリエッタが顎をしゃくると、レイセンダルが引き継いだ。


「さっき城で聞いた話だと、死者とは関係なさそうだったがな。なんでも、船乗りの中に病を患った魔術師がいて、街の診療所で治療を受けていたんだが、数日前の夜中に発狂して火を放って暴れまくったそうだ。山賊の仕業でも死者の仕業でもないさ」


「その船乗りってのはサルモールかい?」アーセランは自分の乗っていた難破船の事故を思い出してそう聞いた。


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イェアメリスも島での事件を思い浮かべていた。


「サルモール? いや、それは分からん。魔術師とだけ聞いているが、何か心当たりでも?」


「い、いや、気味の悪い奴らだから、何か関係あるかなぁ、と」


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・・・忘れるはずもない。薬を浴びたサルモールが化け物となったあの光景は、今でも昨日のことのように思い出すことが出来た。


「話は逸れたが、ファーランの事件は魔術師の仕業なのは分かっているが、俺達が戦った化け物や、この界隈を賑わしている"死者の行進"との関係は不明ってことだ。まあ、なんにせよ用心に越したことはないわな」


レイセンダルは残った肉を放り込んでエールを流し込むと、心配そうに旅人3人を見た。
「それから・・・"死者の行進"が目撃されるのは決まって深夜だ。そう考えると、ファーランからの移動は結構危なかったって事になる」


旅人達は顔を見合わせた。


「お前たちは明日出発するのか?」


アーセランは肉をつまむとエールを流し込んだ。少し考える素振り。


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「明日は一日この街で準備して、それから行く予定だったんだけどよ・・・、今の話・・・もう一泊した方がいいんじゃねえかって気がしてきたな」


「昼の移動をお勧めするね。極力夜は避けた方がいい」


ボズマーは2人の錬金術師を順に見やった。イェアメリスは一瞬反発の素振りを見せたが、口には出住まえに思い直したように頷いた。


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予定外のところで下船する羽目になり、一刻も早くソリチュードに着きたいのはやまやまだが、用心に越したことはない。明日からは戦闘のプロ抜きで3人行動なのだ。


「ヘンリエッタさん達は?」


「ん? 我々はまた、領内を回る任務に戻るだけさ・・・」


彼らはその後も夜遅くまで話しこみ、明け方近くになった頃、騎士達を見送ると眠りに落ちたのだった。




・・・




次の朝、イェアメリスは寝坊した。
島を出てから初めてまともなベッドで寝たといえる。寝過ぎて身体がカチコチになっている。慌てて彼女は部屋を見回した。アスヴァレンは窓際の机に向かって何か書き物をしている。見慣れた光景と、そこに居るという安心感。自然と顔がほころんだ。


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「お、メリスちゃん起きたかい? これうまいよ、食べる?」


今日こそお風呂にありつこう、そう決心しながら寝癖でほつれた髪を梳かしていると、横から声が飛んできた。目を向けると部屋の脇のテーブルで、アーセランが香味の効いた鳥の串焼き頬張っている。


イェアメリスはボズマーの向かいに座ると、その良い匂いに抗えず、同じように鳥の串焼きに手を伸ばす。
「あら、これすごくおいしい・・・」


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「だろ? このジェハンナの名物料理らしいぜ。俺は肉しか食べないから、もし野菜食べるんなら別に注文してくれよ」


「ええ、野菜ね・・・」
寝起きでぼうっとしていた頭がだんだん冴えてくると、イェアメリスはテーブルに並んでいるものが理解できるようになってきた。ゆっくりと料理を観察し、並べられているものを確認すると、その顔は次第に青ざめていった。


「別に注文って・・・!!・・・あなた、なに勝手にお金使ってんのよ!」

血相を変えて、彼女はアーセランにくってかかった。


「もう仲間だろ、俺たち」


「いいから、いくら使ったか教えなさいよ」


「この朝食は20・・・」


「20?・・・20セプティムですって?! 使いすぎよ!」
苦労して呼吸を整えると、調子のいいアーセランをにらみつける。


そんな様子を意にも介さぬ素振りで、アーセランは火に油を注ぐようなことを言い始めた。


「なあ、それはいいから・・・ところでメリスちゃん、俺にちょっと投資しないかい?」


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「よくないわ。あなたいい加減にしなさい」


「な~に、たったの100セプティムでいいんだ。それに見合った働きはするぜ~」


かみ合わない。


「見合った働きをするというのなら、まずは目先の問題を片付けなさいよ。それまでもう、あなたの話は絶対聞かないから」


「目先?」


「そうよ、いつまであたしに飲み代食べ代を出させるつもり? そろそろ、その肉を捌きに行ったらどうなの?」イェアメリスは部屋の脇に積み上げたボアの肉を指さすと、次いで外に繋がる下の階を指し示した。


彼はイェアメリスの言わんとしていることが分かり、しばらく肉を眺めていたが、それもそうだ、と言う顔をした。


「へいへい、人使いが荒いんだから、メリスちゃんは・・・」


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「口答えしてないで働く働く!」


アーセランは重い荷物・・・売り物にする肉を担ぐと、捨て台詞を吐く。


「借金なんて一気に返してやりゃぁ! あ、そうそう・・・さっき言った100セプティムの投資、考えといてくれよ」
そう言って彼は慌ただしく街の中に繰り出していった。


彼女は残された皿を前に、途方に暮れたようにため息をついた。やっとの事で落ち着きを取り戻すと、後ろを振り返る。


「アスヴァレン?」


「俺はもう済ませた」


そう聞くと彼女は、最後の一切れをつまんで、もったいないと言わんばかりに必要以上にゆっくり味わったのだった




・・・




しばらくして、残された2人の錬金術師は身支度を調えると街に出た。街路には雪が見える季節だったが、さすが首都と言うだけあって、そこそこの人出はある。


「それ、なんだか古そうだけど飲んでも大丈夫?」


イェアメリスは連れが大事そうに抱える埃っぽい瓶を見て、あきれたように声をかけた。


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「しっかり封がされているから大丈夫だ」


市場の片隅で忘れかけられていた酒・・・スジャンマ2瓶を捨て値で保護したアスヴァレンは、満足そうに心なしか足取りが軽い。


「あの騎士にはいつか礼をせんとな」


男ってこれだから、と自分のことを棚に上げてイェアメリスはため息をついた。そのくせ、自分の手には新しく買った服が抱えられている。着の身着のままでキルクモアを飛び出してきてしまった彼女は地元の農民のような格好でいた。別段恥ずかしい服装でも、旅に不便がある訳でもなかったが、アーセランは服を変えたほうがいいと主張していた。


見知らぬ土地では異邦人は見た目で判断される事が多い。特に大きな街に入ったり関所を越えるときには、難民と大して変わらないこの服装はいただけないというのが理由だ。最初は抵抗していたが、最後には彼女も同意し、今日の買い物リストに服を加えたのだった。さすがに女子だけあって、選び始めると欲が出る。・・・少々後ろめたさはあったが、彼女は色々理由をつけて理論武装することにより、高い買い物を正当化したのだった。


「ホント、あいつ、失礼しちゃうわよね」
宿でのやりとりを思い出して、イェアメリスは鼻を鳴らした。


「ちょっとなんか、メリスちゃんみすぼらしいんだよなぁ」


アーセランにそう言われたのを気にしているのだ。


「あいつもあなたも、どこ行っても服は一緒なのにあたしだけみすぼらしいって・・・」


「オレに当たるな」


イェアメリスはかさついた首筋に手を当てた。


「違うわよ。・・・まあ、最近・・・」
そして慌てて気づいたように、半歩だけ離れる。船に飛び乗ってからこのかた、上陸しての移動も含めて、しばらくの間水を浴びる機会に恵まれていなかった。昨日の食事の後も、疲れが勝って倒れ込むように寝てしまった。錬金術による清めの粉があるとはいえ、匂わないか心配になってきたのだ。


気にかける様子もないアスヴァレンの姿を見ると彼女はホッとして、開けた距離はそのまま保って歩き続ける。


「最近ろくにお風呂にも入れなかったから嫌だったのよね・・・ちょうどよかった、着替える理由ができたわ。でもそうね、着替えるなら先にお風呂に・・・」


誰に聞かせるわけでもなくぶつぶつ言いながら、市場を見て回る。

目的の買い物や必要な材料の補充は大体市場で済ませることができた。残念ながらこの町には錬金術専門の店はなかったが、今のところ薬品を大量に消費するような場面には出くわしていない。今日の目的は主に雑貨だった。


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「なるべく軽いものがいいわね・・・」


これからの旅を見越して、防寒具やら簡易ベッドロールやら、必要なものを買い揃えていく。ブーツも水が浸みてくるようなものではなく、雪国用の物を選んだ。


ジェハンナは寒冷地のしかも山間の街だったが、極寒というわけではない。ここに首都が出来たのには理由があった。サンライト鉱山の奥深くに、地熱の源があるのだ。ドゥーマー由来の物だと言われているが、詳しいことは領主と一部の者しか知らない。


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仕組みは秘密でも、その恩恵は首都周辺に分け隔て無く供されている。街の中には自然の湯が沸き出す場所もあり、住民は比較的暖かく暮らすことが出来るのだ。難民達がほかの街ではなく、わざわざ山頂のジェハンナを目指すのにはそういった理由もあった。


いったん宿に戻ると、彼女は地下の浴場を借りて身体を清め、新しい服に着替えた。わざわざ中途半端な午後の時間を選んだのは、ほかの客の目をはばかりたかったからだ。人がいないことを確認したうえで入ったのだが、急に誰か来ないとも限らない。ゴワゴワしたラグで胸と腕の傷を隠しながら、こっそりと湯を使う。


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ラグが胸の傷に触れるとヒリヒリとした痛みが走ったが、この傷を見られるわけにはいかない。怪我した気の毒な娘、と見られるのならば良いが、何らかの悪疫と勘違いされたり、もっと酷く魔女やハグ、妖術師の類と勘違いされる恐れもあったのだ。湯あみを終えて服を着直すまで、イェアメリスは生きた心地がしなかった。


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新しく選んだものは襟が浅く、腕も手首までしっかり覆ってくれる服だ。これから向かうのが寒冷地で更に冬になると言うのは、肌の露出を抑える都合の良い言い訳になるだろう。


髪の水を気にしながら新しい服に着替えて酒場階に戻ると、連れは早速テーブルに就いてスジャンマを味わっていた。


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「アスヴァレン、どう?」


「ふむ・・・少し酸味が出始めているが、許容範囲内だ・・・」


「んもう、違うわよ」

イェアメリスは自分の服を見てもらいたかったのだが、全くとんちんかんな返事が返ってきた。


「なにが違う?」


「もういいっ・・・」
ぷいっとそっぽを向くと、彼女はアーセランを見つけた。もう帰ってきていたのだ。彼は階段を上ってくる子供を脇によけながら降りてきた。


「なんだなんだ?痴話げんかか?」


「そんなんじゃないわ。で、どう?」


「・・・お、悪くねぇな! ちょっと俺好みには細すぎるが、ちゃんとお嬢様してるじゃねえか」


「違うわよ! 商売はどうなったのか聞いてるの。ちゃんとお肉は捌けたの?」
どいつもこいつもかみ合わない、彼女は一人で腹を立ててドカッと椅子に腰掛けた。


「なに怒ってんだよ? ・・・お嬢様っぽくしても台無しだぜ・・・」


「どうせあたしはヘンリエッタさんと違って馬の骨ですよ」


フンと鼻を鳴らす彼女の様子にかまけず、アーセランは得意げにニヤっと笑った。


「で、こっちの首尾だが・・・」


彼はテーブルの上に小銭入れをポンと2つ置き、イェアメリスを見た。
「さすが俺様、ボーンアロウの力を借りなくたって、しっかり全部捌ききってきたぜ! 50入ってる。1つはメリスちゃんへの返済だ」


「あら、本当に全部売れたのね。すごいじゃない」
すべて売れるなんて思っていなかった彼女は、怒っていたことも忘れて素直に感心した。


「俺様がちょっと本気を出せば、こんなものさ」


「じゃあ、遠慮無く・・・なに? どうしたのよ」
ジーと見るアーセランを訝しんで、彼女は見返した。


「借金は、帳消し、だな」
彼は念を押した。


「ええ、いいわ。今までの分はチャラにしてあげる」袋の一つに手を伸ばした彼女は、アーセランに阻まてれ手を引っ込めた。「今度はなに?」


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「違う違う、借金の話じゃない。・・・さっき言った話覚えてるだろ?」彼はアスヴァレンの長身をほかの客から身を隠すために使い、声を下げた。


「投資がどうのこうのって? あたしそんなの興味無いわ」


「そうも行かねえのよ。これだ、これ」そう言ってアーセランはテーブルの上に木の札を置いた。2枚ある。通行手形であった。
「これがねえと、どんなに着飾ってたって、弁が立ったって、俺たちは不法移民扱いされちまうってこった」


「どういうこと?」
旅人にとって手形と言うのは身分証明と同じ意味ぐらいに意味がある。一般的には各地の領主や政府に認められたた者に発行される。島から出たことのなかった彼女は、大陸で移動する人々のルールなど思いも及ばなかった。


相手が驚くか感心すると思っていて当てが外れたアーセランは、あきれたようにため息をついた。
「あのな、街に入ったり、国境を越えたりするのにはこういった手形が要るんだ。これがねえと、俺たちこの先スカイリムに入ることも出来ないっての」


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いまいち、彼女にはピンと来ていないようだ。
「でもなにもなくても、街には入れたじゃない?」


「あれは騎士が一緒だったからだろ。普通はあんな素通りなんてあり得ねぇぞ」


イェアメリスはアスヴァレンを見た。「あなたも持ってるの?」
彼は懐から、似たような木の札を取り出すと2人に見せた。形は少し違うが、同じもののように見える。「持ってたのね」


「当たり前だろ。・・・で、荷物が船に置きざりの俺はともかく、聞いたところによると、メリスちゃんも家出なんだろ?」


「いっ、家出なんかじゃないわ」


「じゃあ、ちゃんとした乗船手続きや出国の手続きは?」


(むぐっ・・・)


キョロキョロしながら色々考えて、ハッと思い出したように言った。


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「そうだ! あたし東帝都社の社員だから、契約証明持ってるわ」


「どれ、見せて見ろよ」


「えっと・・・」上階に目をやった彼女は、しばらくして目を伏せた。「島においてきちゃった・・・」


「だぁ~・・・これだから世間知らずは・・・」あきれたようにアーセランは言ったが、その目はずる賢く笑っていた。「な、これ必要だろ。オレの言ってた投資ってのは、手形入手に必要な金のことだったのさ」


「え? 手形って、お金で買えるの?!」


この時代、通行手形は領主に認められた身分証明ではあるが、それは建前で、多少の金を積めば比較的容易に入手できた。正しいか間違っているかは別として、金を払える、と言う事実が信用としてまかり通っていたのである。


「まあ、いろいろとややこしい話はあるが、そういうこった」


「・・・、これが無いとどうなるの?」


「スカイリムには不法入国することになるな。もちろん、ハイロックにも再入国させてもらえない」足下見るようなアーセランの目


「旅人って、意外と不便なのね」


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聞いていたアスヴァレンが代わりに説明した。
「為政者の立場からしたら、住民は労働力でもあり税収でもあり兵力でもある。勝手気ままに自分の領地から余所に移られては困るから、移動を規制するわけだ」


「そういうものなのね」


「そ、旦那の言うとおり。だから、手形は重要なのさ」


イェアメリスはどこにでもあるような木の小札をひっくり返したりして眺めていた。
「こんな木の札がねぇ・・・で、いくらなのよ?」


待ってましたとばかり、アーセランが応じてくる。
「120だが、お世話になったメリスちゃんへの恩返しだ。特別に100でいいよ」そう言うと、アーセランはイェアメリスが受け取ろうとしていた返済分の小銭入れを自分の方に引き戻した。「あと50」


「負けなさいよ」


「商売だかんな」


「あんたさっきあたしたちは仲間だって言ったじゃない」


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「それでも、貰うもんは貰らわねぇと」

憎たらしいぐらい表情を動かさない。


(むぐっ・・・)


埒があかない・・・イェアメリスは仕方なく自分の小銭入れを取り出すと、渋々と言った感じで支払った。


「まいど! これで3人安心して旅が出来るってもんだな」


「何か納得いかないわ・・・」


アスヴァレンは片付いたとみると、2人に部屋に戻るよう促した。
「手形は見落としていたが・・・、明日からの旅に必要なものをいろいろ買ってきたから、予定を確認するぞ」


「そうね・・・あ、そっか、お肉売れたのよね。荷物軽くなったから、あなたにはベッドロールを3人分担いでもらいますからね」


「なんだよそれ、ひでぇ・・・あれ?」
先頭を歩いていたアーセランは、部屋に入ろうとして中から誰か出てくるのとすれ違った。子供のようだ。まだ少年になりかけといった年齢だ。


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自然な体で階段を下りてゆく少年が抱えているものを見て、アスヴァレンは鋭い声を投げかけた。
「おい! なにを持っている!」


出てきた子供は声を掛けられると、慌てたようによろめきながら階段を降りはじめた。その手には、アスヴァレンの荷物が抱えられている。


「泥棒?!」


「メリス、つかまえろ!」アスヴァレンは子供に一番近かったイェアメリスに怒鳴った。


「うわっと!」
少年は捕まるまいとして身をひねった。


「バーニィ! 受け取れ!」
叫ぶと扉の方に向かって荷物を投げる。すると扉横にもう一人の少年が現れた。仲間がいたのだ。バーニィと呼ばれた仲間の少年は、投げられた荷物をキャッチして、そのまま宿の外に駆けだした。


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「ちょっと! 待ちなさい!」イェアメリスは階段から降りたところで最初の少年を捕まえた。後ろから抱きすくめるように押さえつける。少年は観念するかに見えたが、イェアメリスの腕を跳ね上げると、その右腕に思いっきり噛みついた。「なにするの・・・痛っ!!」思わず怯んだ隙に、少年は立ちあがって走り出した。


「ごめんっ! 逃げられた!」


「くそっ、油断した。少し平和慣れしすぎたか・・・」
アスヴァレンは自嘲気味に舌打ちし宿の外に飛び出した。


「アーセラン、あたしたちも追うわよ!」
一瞬の出来事から我に返ったイェアメリスは、肌身離さず持っている荷物一つひっさげると、アーセランを伴って彼のあとに続いた。


「あっ、お客さん! 出ていくなら代金を・・・」
無視された主人の声だけが、宿の中で空しく響いた。




・・・




宿から数件離れた先の建物の影で、バーニィは一息ついた。数瞬遅れて実行犯の少年が追いついてくる。宿は市場から少し離れており、人通りは少ない。目撃者はほとんどおらず、泥棒たちは成功を確信していた。


「うまくいったな、バーニィ」
茶色の髪をした活発そうな兄が、弟の頭をくしゃくしゃと揉んだ。


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「う、うん、トム兄ちゃん!」
袋を受け取ってここに駆け込んだのが弟も興奮している。少年たちは互いを見やって笑いあった。彼らは難民だった。半年ほど前にジェハンナに住み着いてからこのかた、コソ泥として間抜けな旅人から荷物をいただくことによって生活をしてきた兄弟だった。


「兄ちゃん、めずらしかったね。銀髪のダンマーだったよ。高そうな弓持ってたし、あれも欲しかったなぁ」


「バーニィ、欲張りは命取りだっていつも言ってるだろ」


「わかってるよぅ」


樽の裏に隠れて追手をやり過ごすのはいつもの手口だ。そのあと街の反対側に逃げてほとぼりを冷ます。荷物を市場の盗品商に持っていけば、大抵は1月ほど暮らしていける金になるはずだった。少年たちが狙うのは決まって旅人だった。しばらくすれば居なくなるからだ。下手に街の住人なんかを狙うと、しつこく追い回されるため街に居づらくなるからと、小さい頭なりに絞った知恵だった。彼らはジェハンナが抱えている問題の一端・・・難民による治安の悪化を体現しているような兄弟だった。


「そろそろいいかな・・・あれ?」


トーマスは樽の影から街路をうかがった。殆ど人気はないが、それだけに目立つ男がいた。逃げ切れたはずなのに・・・いつもと様子が違う。嫌な予感がした。


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固唾をのんで見守る少年たちに向かって、まるで隠れ場所を知っているかのように背の高いダンマーが、歩いてくる。


「なんだあいつ! まっすぐこっち来るぞ!」


「どうしよう兄ちゃん、見つかっちゃうよ!」
弟のバーニィは怯えるように兄の袖を掴んだ。


「くそっ、逃げるぞ」


「逃げるってどこへ?!」


いつもだったら被害者は、彼らの隠れている路地を素通りして門の外を探しに行ってしまう。兄弟は元来た宿の方に逃げるだけでよかったのだが、作戦には1つ穴があった。隠れ場所がばれてしまうと、逆に逃げ場は東の門しかなくなるのだ。


「門を越えるのはまずいよ。兄ちゃん・・・どうしよう」


東の門はただの門ではない。ハイロックとスカイリムの国境を兼ねている重要な門だった。ここから出るということは出国、すなわちハイロックを出るということを表していた。
「戻れなくなっちゃうよ~!」


もちろん、コソ泥である少年たちは手形など持っていない。彼らにとって門を出るのは一方通行、片道切符だった。


「捕まるよりマシだろ! 走れ!」


樽の影から飛び出すと、泥棒の兄弟は追跡者たちを避けて、東の市門に向かって駆け出した。




・・・




アスヴァレンは立ち止ると、手短に呪文を唱える。


ぶぅん・・・


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足元から光が現れると、道筋を示すように光は街路の先に延びていく。日の光の下では目をこらさないと分からないようなわずかな光だ。伸びた光は少し先で脇に曲がっていた。


「何してるの?」
一緒に追い掛けてきたイェアメリスは目を細めながら、光の先を目で追った。


「辿っている」


「居場所が分かるのね!」


「俺のノートには千里眼に反応する付呪を施しているからな」


彼の唱える千里眼は、持ち去られた荷物の中にある研究ノートに反応し、導いていた。
居場所が分かると、追いついてきたアーセランにも合図を出す。3人の旅人は円弧に広がって、泥棒少年たちを追い込むように近づいていった。


30ヤードほどの距離に近づいた時、路地から少年たちが飛び出してきた。彼らは市門に向かって駆けてゆく。それを見つけて立ち止ると、アスヴァレンは追うのをやめて弓を持ち出した。荷物を運ぶ少年に向けて弦を引き絞る。


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「アスヴァレン! だめ!」


イェアメリスは叫ぶと、咄嗟にダンマーの腕に手を掛け妨げる。


「逃げられるぞ」


「怪我させるなんてやめて!」


「奴らが何を持ち逃げしているのか分かってるのか?」


「場所が分かるのなら、追えばいいわ」


「くそっ」


彼らが手をこまねいている隙に、少年2人は門にたどり着いてしまう。


「関所破りだ!」


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門の方で叫びがあがると、数名の衛兵が詰所から現れた。イェアメリスは彼らが泥棒を捕まえてくれると一瞬期待したが、驚いたことに少年たちを素通りさせてしまった。3人の追跡者が門にたどり着いたのは、少年たちはスカイリム側に脱出した後だった。


慌てて門に駆け寄った彼女たちは行く手を武器に遮られた。先頭を走っていたアーセランは、衛兵と激突しそうになる。


「止まれ! ここはジェハンナ東門にしてハイロックの国境だ。お前たちは何者で何を目的・・・」


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「旅人だよ! 見りゃわかんだろ! 今はそれどころじゃないんだ、通してくれ!」
アーセランは遮る傭兵に詰め寄った。


「誰かに荷物でも盗まれたかな?」


訳知り顔の衛兵は平静に返したが、その態度は横にいたイェアメリスの神経を逆なでした。


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「通して! あの子たち泥棒よ! あたしたちの荷物を奪ったの。分かってるのならなんで止めてくれないのよ!」


衛兵は相変わらず大したことではない、といった素振りで別の衛兵を見た。その衛兵もわざとらしくうなづく。さすがに様子を見かねてアスヴァレンが口を開いた。彼女たちの気持ちが伝染したのか、いつも通り物静かながらもその口調にはいらだちが含まれていた。


「我々は調べて、あの小僧たちは素通り・・・貴様らはグルか?」

衛兵は兜の下で眉をひそめてアスヴァレンを睨み返したが、いらだちを隠さない赤い瞳と目が合うと、その迫力に押されて口ごもった。


「グ・・・グルだと? 人聞きの悪い・・・そんなわけない、われらはただ任務に忠実なだけで・・・」


「分かるように説明しろ」


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衛兵は頭一つ高いダンマーに睨まれて、少し勢いが鈍った。
「や・・・奴らは難民だ。手形がなければ再入国はできん」


海岸沿いの国境の大橋を渡るか、このジェハンナの東側の市門をくぐるか・・・スカイリムからロスガリアンへの入国ルートは2か所しかない。手形を持たない余所者を締め出すのは容易だった。
ジェハンナの領主ヤマリック王は最初は難民を保護していたのだが、その数が多くなり自国の治安が脅かされるようになると、一転して受け入れを禁止するよう指示していた。


「我々も奴らにはほとほと困り果てていてな。出て行ってくれた方が好都合なのさ」


泥棒をジェハンナに連れ戻して牢に入れ、不幸な旅人の荷物を取り戻すことよりも、一人でも難民の人口を減らすことの方が、衛兵にとっては重要なのだった。


「ってことは、あのガキらは自ら追放されたってわけか・・・世知辛いな」
アーセランが考え込むように呟く。


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「まあ、正直取り締まる方も締まられる方も、やるせない仕事だ。でもスカイリムみたいな戦争と比べたら100倍はマシだ」一瞬本音を漏らした衛兵は居住まいを正すと3人に向きなおった。


「で、貴様たちはなんだ、まだ聞かせてもらってないぞ。話の途中だったな」衛兵はなけなしの権威をかき集めたように、威厳を取り繕った。


難民を人として扱わない物言いにイェアメリスは腹を立てたが、今はそれどころではない。泥棒を追わなければならなかった。


「改めて問う。この門の向こう側はスカイリムだ。手形は持っているな?」


「ええ、もちろんよ」
そう言ってイェアメリスは先ほど手に入れたばかりの手形を突きだした。内心ドキドキしていたのだが、衛兵は興味なさそうに手形を眺めると、おざなりに返した。
仲間の2人も同様にチェックされ、通行が許可された。


「繰り返すが、この東門はジェハンナの市門であると同時にハイロックの国境だ。一歩出た向こう側はスカイリム。いかなる理由があろうとも戻るのには手形が必要だからな、覚えておけ」


こうして衛兵達に見送られながら、3人は門をくぐったのだった。


ジェハンナの東門を越えて下り坂を少し進むと、谷川に大きな橋が架かっている。


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「おかしいわね、ここはもうスカイリムなんでしょ? こちら側は警備しないのかしら?」


国境警備兵らしき兵士は見当たらない。彼女はてっきりスカイリム側にも衛兵がいて、取り締まりをしているのではないかと期待していたが、予想に反して橋の周囲は無人だった。少年達の姿は見当たらない。先に進んでしまったようだ。


橋の上から谷川を見下ろすと、その流れゆく先には彼女たちが渡ってきた亡霊海が見える。眼下に見えるもう一本の橋がもう一つの国境、シーポイント居留地に繋がる国境の大橋だろう。空と海と雪山が織りなす絶景だったが、今の彼女たちにはそれを楽しむ余裕は与えられていなかった。3人は慌ただしく橋を駆け抜けると対岸にたどり着いた。


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彼らの追跡経路は今のところ一本道だ。谷川を渡ると、山をくりぬいた地下通路がある。かつてこの一体がハーフィンガル古王国というノルドの支配地であったとき、ジェハンナとの通商路を確保するために掘られたものだった。
門衛一人さえも居ない寂れた扉を開くと、3人は通路に足を踏み入れた。


「こっち側には人が居ないって言ったが、ここにいたのかよ・・・」


手に持った松明で地下通路を照らしながら、アーセランは嫌そうに首を振った。通路のあちこちに難民がいる。いや、居たと言った方が正しい。死体となった者たちがちらほらと目に入ってきたのだ。門に入れてもらえず、かといって引き返すことも出来なかったのだろう。屋外に居るよりはと、雪を避けられるこの地下通路に避難して、そのまま飢えて死んでいった者達だった。


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古いものは白骨化している。幼子を抱いたまま揃って事切れている親子を見ると、イェアメリスは口を覆った。


「これも内戦の・・・犠牲者?」


内戦勃発直後、反乱軍の首謀者であるウルフリック・ストームクロークは、ジェハンナを治めるヤマリック王に共闘を打診していた。ジェハンナを味方につければ帝国軍の本拠地であるソリチュードを裏から挟み撃ちに出来る。電撃戦にて短期間でスカイリムから帝国軍を追い出す、そしてサルモールとの決戦に備える・・・そういう算段であったのだ。


しかしストームクロークとロスガリアンの同盟は実現しなかった。
ジェハンナの重い腰を上げることが出来なかったウルフリックは決め手を欠き、スカイリムの内戦は長期化の様相を呈していった。


このロスガリアンは元々領内に西部リーチ地方を抱えており、動きを活発化させる蛮族フォースウォーンに対する牽制のため、相当数の兵を割く必要があった。大戦終結後、帝国軍の人員不足は深刻で、無傷のハイロックは真っ先に目をつけられた。各州に配備された守備隊の大半に帰任命令が出た後、この地を護る兵は各国独自に負担せねばならなくなっていたのだった。そんな事情があったのだが、もちろん旅人の預かり知らぬことであった。


内戦に無関係を決め込んだジェハンナも無傷では済まず、難民増加という問題をかかえ、ひずみはこのように、民衆の犠牲と言う形で表れていた。


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アーセランを先頭にイェアメリスが続き、アスヴァレンが殿といった順番で地下道を進んでゆく。ジェハンナが難民受け入れをしないという噂が広まったからか、最近ではこの地下道を利用するものは殆どいないようだ。対して長い道ではないのだがカンテラも燈されておらず、明かりを持たぬ者には行き来もままならないような寂れた通路になっていた。


地下道の中は物が散乱しており見通しは悪かった。彼らは注意深く物影を照らして確認して行ったが、結局子供たちは隠れていなかった。最後の扉を抜けるとハーフィンガルの国土の大半を占めるキルクリース山脈が姿を現す。晴れていれば雄大な自然に目を奪われていたかもしれないが、彼らを出迎えたのは吹雪だった。


念願のスカイリムのはずだったが、3人は逆に気分が滅入っていた。


再び街道の石畳が足元に現れたのを確認して、アスヴァレンが千里眼を使う。
見通しは悪かったが方向は間違っていない。子供達はこの先に行ったようだ。


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イェアメリスは頷いた。
「もう時間がないわ。急ぎましょ、日が暮れないうちに追いつきたいわ」


光の示す先に目を凝らし、無理矢理気持ちを切り替えるように彼女は言うと、雪の街道を進み始めた。




・・・




「ねえ、にいちゃん、どこまで行くの? 雪降ってきたよ」
街道から外れた木々の間に身を隠しながら、少年2人は逃げていた。


「あいつらもう追ってきてないよ」


「ここまで来れば大丈夫かな」


トーマスは地面に袋を下ろし、しゃがんで物色を始めた。弟のバーニィは門を出てしまったことをしきりに気にしている。


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「ねぇ、トムにいちゃん。もう僕たち、ジルに会えないのかな・・・」今にも泣きそうだ。
彼らには年下の妹が居た。トーマス、バーニィ、ジルの兄妹は難民に紛れて、少々の盗みや店からの施しなどを受け、ジェハンナの街路の片隅で生き抜いてきた。しかし門を出てしまった少年達に街に戻る術は残されていなかった。


「泣くなよ、兄ちゃんがきっと何とかするから」


雪の上にアスヴァレンの荷物が並べられてゆく・・・薬草らしきもの、薬の入った瓶が何種類も出てくる。どこかの街に持って行けば、多少は金になるだろう。


「にいちゃん、ぼく、寒いのもうやだよ・・・」


「泣きごと言うな」


トーマスとバーニィは代わる代わる、袋に手を突っ込み錬金術師の持ち物を引っ張り出した。


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「いっぱい入ってるね・・・あ? ・・・うわぁ!」


袋から何かを取り出したバーニィは、驚きの声を上げるとそれを取り落とした。
本のようにも日記のようにも見える。アスヴァレンの研究ノートだった。


「兄ちゃん、この本なんか光ってる!」
装丁の立派な錬金術師のノートは、雪の上に落ちても濡れることなく、気味悪そうに見守る兄弟の目の前で光を発していた。


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「あっちに光が続いてるよ!」


本から漏れる光は、彼らが逃げて来た街道の方に軌跡を描いている。


「やばい物かもしれない、捨てよう」
トーマスは雪の上からアスヴァレンのノートを取り上げると、藪の中に投げ込んだ。急いで残りの荷物を袋に戻し始める。バーニィも慌ててそれに倣う。


「もうちょっと逃げるぞ」立ち上がって雪の中を進み始める。


「あ、待ってよ! トム兄ちゃん」
半泣きになりながらバーニィは兄の後を追いかけていった。


3人の追跡者がその場に着いたのは、しばらく後の事だった。


「あら? アスヴァレン、あれ!」


千里眼の光の先、道のわきの藪に何か引っかかっているのを目にとめたイェアメリスは、街道を外れて林の中に駆け込んだ。
「ノートだわ!」


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アスヴァレンが駆け寄ってくる。
彼はイェアメリスからノートを受け取ると、辺りを見回した。


「くそ・・・これは予想してなかった・・・」


長身の錬金術師は頭を掻いた。いくつかの錬金素材も散らばっている。子供達はここで休んだ後、慌てて先に行ったように見える。ノートがここに残されていると言うことは、千里眼で追いかけられるのもここまでと言うことだ。


「・・・魔術に携わる者って、持ち物に保護をかけることが多いのね・・・」


「当然だ。何か思い当たることでも?」


「い、いえっ・・・」イェアメリスは自分の荷物の中に入っている”黄色の書”を思い浮かべた。不用意に黄色の書を読んで呪われた事、このたびのきっかけとなった事件に思いをはせたが、あわてて首を振ると目下の問題に集中する。


「他に魔法をかけてあるものは無いの?」


「ああ、オレにとって取り返しが付かないのはあの研究記録だけだからな。他の物は大体何とかなる」


周りを一回りしてきたアーセランも合流してきた。


「だめだ。吹雪が酷くて足跡はもう分からなくなってる!」

半分怒鳴らないと声が聞こえない。
「この雪山の中、泥棒小僧たちを捕まえるのは不可能ってヤツだぜ。残りの荷物は諦めるしか・・・うわっ」


「ダメよ!!」
イェアメリスのものすごい剣幕にアーセランはたじろいだ。


「ど、どうしたってんだよ、急に」


「あの荷物の中には、大事なものが入っているの。触らせるわけにはいかないわ! 取り返さなくっちゃだめ!」


彼女は焦っていた。ジェハンナでアスヴァレンを止めたときにはまだ保険があった。しかし今、子供達を追いかける手がかりは途絶えてしまった。緊張と共に動悸が高まる。彼女は否応なく胸の傷が疼くのを感じた。


奪われたアスヴァレンの荷物の中には、彼女が預けたサルモールの薬が入っている。詳細は分からないが恐ろしい効果を持つ薬だった。そして、自身の呪いを解く唯一の手がかりでもある。あの薬だけは失うわけには行かなかった。


「だからどうやって、無理に決まってるだろ」
ハーフィンガルの大森林は、そろそろ日が落ちようとしていた。まだ明かりはあるはずなのだが、吹雪のせいでかなり暗い。


「バカっ! あんたも少しは考えなさいよ!」


食ってかかるイェアメリスをアスヴァレンの声が引き戻した。街道にかがみ込んで何かを見ている。


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「こいつに当たっても無益だ。それよりを見ろ」


彼の示す先を見て、イェアメリスの顔に驚きの表情が浮かんだ。


「これは・・・」


街道の上に、キルクモアの地下室で見つけた例の鉱石が落ちていた。
うっすらと雪をかぶって埋もれかけている。


「こんなところに都合よくこの石があるとは思えん。奴らが落としていったと考えるのが自然だ」


「街道に戻って進んでいるっていうこと?」
彼女は一縷の希望にすがるように、錬金術師を見返した。


「おそらくな・・・この積もり方だとまだそれほど経ってないはずだ。行くぞ!」


アスヴァレンは先頭に立つと、街道に戻ったらしい子供達を再び追い始めた。




・・・




とうとう日が暮れてしまった。先を行くトーマスは立ち止まると、着いてくるバーニィにも止まるよう合図した。
吹雪の中、森の木の奥に何か動いたような気がしたのだ。


「にいちゃん、なに?」


「シッ! 何かいる!」


トーマスは弟をかばうようにしながらも、雪の切れ間から目を凝らした。
今まで気付かなかったが、人影がちらほらと視界に入ってきていた。


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「まさか、山賊・・・?」
こんな吹雪の森の中で、山賊と遭遇してしまったら少年二人には抗う術など無い。幸いにして向こうはまだこちらに気付いた様子がない。トーマスは弟を気にかけながら慎重に方角を見定めようとした。
人影はゆっくりと移動していた。何か目標を定めた風ではなく、右にふらふら左にふらふら。全体としてはこちらに向かってくるようだが、何かおかしい。


「山賊じゃなさそうだ・・・でもなんだろ、おかしいぞ」
人影はみな一様に白っぽい。雪をかぶっているのだから当たり前なのかも知れないが、どうも雪や装備の色ではなさそうだ。


トーマスは嫌な予感がした。ジェハンナで暮らす者なら一度は聞いたことのある噂。”死者の行進”かも知れない。彼は寒さも忘れて目を凝らした。やはりそうだ。こんなときに出くわすなんて! ・・・ゆらゆらとこちらに近づいてくる。白い灰色の化け物が木々の陰に群れを成していた。


トーマスは鉢合わせしないように、後ずさり始めたが、弟にぶつかってよろめいた。


「何してんだバーニィ、あいつ等から離れないと」
バーニィは、トーマスと反対側を向いて固まっていた。


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「兄ちゃん、こっちにも・・・!」


振り向いてトーマスも固まった。反対側にも白い化け物たちが姿を現している。
彼らはいつの間にか囲まれていた。恐怖でへたり込む2人。取り落とした荷物の口から、アスヴァレンの錬金素材や薬といった中身がこぼれ出た。


「くるな! あっち行けよ!」


一瞬の硬直から先に脱したのは兄のトーマスだった。
少年は地面に落ちた小瓶を手に取ると、緩慢な動作で集まってくる白い化け物の先頭に投げつけた。


じゅわっ・・・


砕けた瓶から青紫の液体が飛び散ると、白い化け物は胸に穴が開いて崩れ落ちた。


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「これ、使えるぞ!」
トーマスの顔に希望が浮かんだ。少年はアスヴァレンの袋をひっくり返すと、ごろごろ出てくる薬瓶を掴んで手当たり次第に投げ始める。「バーニィ! お前も投げろ!」


少年達は必死になって化け物を追い払おうとした。・・・火柱や氷の塊、怪しげな煙など、さまざまな薬品が投げつけられる。まったく効いていないものもあったが、それでも中には当たりが混ざっていて、化け物は次第に数が減っていった。


イェアメリスたちが追いついたのは、そんな最中であった。


「メリス、見ろ!」


アスヴァレンは物音を聞きつけ、イェアメリスを振り向いた。街道の先のほうで争う音が聞こえる。小走りに駆けつけると、灰の化け物に少年たちが襲われている。


「おい、なんてことを・・・」


自分の袋がぶちまけられ、貴重な錬金薬がどんどん消費されていくのを見て、アスヴァレンは争いに割り込んだ。残りの化け物は2体。駆けつけざまに一体に斬りつけ始末する。


「兄ちゃん、もう薬ないよ!」


「それは? 何か入ってないか?」

バーニィは兄の示した包みを引っ張り出した。ぼろきれのような物に何か包まれている。解くと瓶が出てくる。


「兄ちゃんこれ・・・」


「それもだ! 投げつけろ!」


「だめっ!!」


アスヴァレンに続いて駆け込んだイェアメリスは、バーニィが手に取った薬に気が付いた。サルモールの薬品。追ってきた理由であるまさにその瓶が少年の手に握られていた。


「危ないわ! ああっ・・・!」


言うもむなしく、瓶は少年の手から離れ、空中に弧を描いた。
イェアメリスは咄嗟に、白い化け物に向かって飛んだ。


「メリスっ!」


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イェアメリスと白い化け物はもつれ合って倒れ込んだ。


一瞬、驚いた少年の顔が通り過ぎ、次いで化け物の崩れかけたような表情が視界をかすめる。化け物に向かって身を投げるようにぶつかっていったのだが、不思議と彼女に恐怖はなかった。


雪煙が立ち、もともと悪い視界はいっそう遮られて、その場にいた者は一瞬彼女を見失った。


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やけに長く感じられた後、視界がようやく回復してくる。


仲間が目で追う中、イェアメリスは動かない。しかしその手にはしっかりと瓶が握られていた。


ホッとしたのも束の間、一足先に起き上がった化け物が、彼女に手を伸ばしてきた。


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我に返ったアーセランが横から乱入し、蹴りを入れると化け物は少しよろめいた。その隙で十分であった。アスヴァレンは冷静に剣を突き入れると、最後の化け物は息絶えた。


「メリスちゃん、大丈夫か?」


「え、ええ、2人ともありがとう」


イェアメリスは胸の傷をかばいながらも大きく息を吐くと、薬瓶を丁寧にポーチにしまい込んだ。脇で座り込んでいる子供達は呆然として固まっている。


「おい坊主ども、怪我はないか?」
アーセランが声をかけると、やっと我に返る。子供達は逃げ場を探すようにきょろきょろしたが、3人の旅人に周りを囲まれて無理だと悟ったのか、すぐにおとなしくなった。


「これは返してもらうからな・・・っと、ひでぇな、ダンナの薬全部やられちまってるじゃねぇか・・・」
アーセランは盗まれた袋を持ち上げると、アスヴァレンに差し出した。いくつかの薬草や粉末、本などは無事だったが、瓶はすべて使われてしまっていた。


「大体何とかなるって言ってたけど・・・」イェアメリスはさすがに心配になって、連れの顔を覗き込んだ。


受け取ったアスヴァレンは袋の中味を一瞥し、軽くため息をつくと子供達に向き直った。
静かな仕草だったが、少年達は震え上がった。


「何色の薬が奴等には効いた?」


「えっ?」


「何色の薬が奴等に効いたか聞いている。怒らないから教えろ」


トーマスは見下ろすアスヴァレンに怯えながらも、弟をかばうように前に出た。
「む・・・紫色のやつ・・・」


「ふむ・・・強酸か。覚えておいたほうがよさそうだ」
何事もなかったかのように聞き取った内容をメモに記す


「この神経、すごいと思わない?」
イェアメリスは毎度のことながら、連れの胆力に驚嘆していた。このダンマーはおおよそ動揺したり激昂するということがないのだろうか?


「同感だね。まあ、だからダンナは頼りがいがあるんだろうけど」
一行は、ようやく追跡の緊張から解放された。子供達は観念したように、おとなしくその場に居る。


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「あれ? 見てくれ。こんな死体あったか?」


アーセランが気付いて道の脇を指し示す。そこにはノルドらしき男の死体が一体、転がっていた。


「いや、分からん。お前たち、この男を知っているか?」


兄弟とメリスは揃って首を振った。アスヴァレンはしゃがみ込んで灰のサンプルを蒐集すると、何やら呪文を準備し始めた。「死んで間もないから、間に合うか?・・・」


「何をしているの?」
イェアメリスは、化け物の死体に光が灯るのを見た。赤い光と青い光。


「ふむ・・・これは・・・どういうことだ??」アスヴァレンは独り言を言うと呪文を止め、彼女に向き直った。


「え・・・、ああ。何か手がかりがないかと思ってな。・・・こいつら、生命探知に反応するのと死体検知に反応する個体が混ざっている」


「どういうこと?」


「分からん。どれも同じ化け物に見えるが、元々死んでいたものと、生きていたもの、2種類が居たようだ」


「ダンナ、その死体は?」


「周りに灰が落ちているところを見ると・・・なり損ないか?」


「なり損ない? まさか、この男もさっきの白い化け物だったってのか?!」


「おそらく・・・この化け物は死者と生者、どちらからも作る事の出来る人工物の可能性がある。憶測だが・・・」
難民の大量失踪。死体の消失。行き先がこの化け物達なのではないかとアスヴァレンは考えていた。


「気味悪ぃなぁ・・・、ファーランに居たアレもそうだけどよ、もうちょっとはっきりしねぇよなぁ・・・」
アーセランはノルドを足で小突くと、反応がないのを確かめて、死体を漁り始めた。


「研究者は、事実を元にしか判断しないの。・・・ちょっと、やめなさいよ子供の前で」


「何か手がかり無いかと思って。オレもあんた達に倣って、事実を元に判断することにしたのさ」


「変なとこだけマネしないでちょうだい・・・」


皆の意識が子供達に向いた。寒さに震えている。逃走の興奮、戦闘の恐怖のさなかにあっては麻痺していた感覚が戻ってきたのだ。それを見て、改めて3人も今自分たちが雪山にいることを思い出した。


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幸いにして雪は小降りになってきている。彼らは服に積もった雪が凍り付くのを感じていた。


「なあ、ダンナ。はやいとこ、野営の準備した方がいいと思うんだが・・・」


一行は子供達を連れて、野営が出来る場所を探しに歩き始めた。




・・・




しばらくして彼らは、森の木々もまばらになって、ちょっと開けた空き地のような場所で足を止めた。厚い雲に覆われて夜空とは縁が無かったが、雪はもう完全に止んでいる。足下の雪が姿を消しかけているところを見ると、少し山から下ったのかも知れない。


「う~、ぶるぶる。メリスちゃん。野営できる場所を探そうぜ」


「この遺跡の周りはどう?」


空き地の隅には崩れかけた円形の遺跡が横たわっていた。遺跡と言っても地面の上に崩れた柱の土台のようなものがあるだけの、至極簡素なものだ。


「地面はしっかりしているわ。アーセラン、あなた枯れ枝集めてきて」


彼女はそう言うと、崩れた石の小降りのものを使って、手際よく円形のたき火の台座を組み始めた。彼女は錬金術師とは言っても島ではフィールドワーク主体で、狩人に近い生活を送っていた。たき火の準備などは手慣れたものだった。子供達も興味深げに見ている。


「どう? たいしたもんでしょ?」
アーセランの集めてきた枝葉をくべ、パチパチと音を立てながら燃え上がる焚き火を完成させると、彼女は胸を張った。


彼女は荷物の中から硬いパンを取り出すと、ちぎって皆に配った。トーマスとバーニィにも渡してやる。くつろぐにはほど遠いが、子供達も幾分落ち着いたようで、むさぼるようにパンを食べ始めた。その後はみんな、それぞれの思いをこめて炎を見つめていた。


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落ち着いてきた頃を見計らって、彼女が口を開く。


「えっと・・・あなたたち。どうして泥棒を・・・」言葉を切って出るため息。「・・・なんて言っても仕方ないのよね」


トーマスが、おずおずと口を開く。


「僕たちも、ごめんなさい・・・」イェアメリスの顔を伺っている。「・・・なんて言ってもダメだよね、きっと」


「あら、おませさんね」彼女は緊張をほぐすように笑うと、横でいつものように何やら描き込んでいる連れのノートを指した。遺跡のスケッチをしているらしい。「そうね、でもまあ、大事なものは帰ってきたし、取って食おうなんて思ってないわ」


彼女は子供達の身の上話を聞きはじめた。聞いたからどうなるというわけではないが、聞かずには居られなかった。
予想通り、少年達は難民だった。彼らはリーチの外れ、アンバーガードと言う村に暮らしていたと話した。サンガード砦に通じる道の手前の村で、所有者が帝国、フォースウォーン、ストームクロークとめまぐるしく変わり、内戦の始まる前から常に戦禍に見舞われる場所だったという。
兄弟の父は砦の兵士として働いていたが、内戦が始まって間もない頃、攻めてきたストームクロークから砦を守るために命を落としていた。それだけでなく、砦に至るときに必ず通り道となるアンバーガードも蹂躙され、家を失ったという。
路頭に迷った母子は親戚を頼り、カース川の支流の丘の町ライナルテンに身を寄せた。そこで落ち着きかけたが、元々身体が弱かった母は旅の苦労からか寝込み、あっけなく他界してしまった。疎開先で残された兄妹たちは少しずつ扱いが悪くなり、やがて居づらくなって難民に合流、隣国のジェハンナに流れ着いたのだった。今年の早く、内戦による初期の難民が発生し始めた頃の話で、まだジェハンナも受け入れを行っていた。


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「あなたたち、妹が居るのね」


「うん、ジェハンナに置いてきちゃったんだ」
兄が話すのを聞きながら、弟のバーニィはどんどん泣きそうな顔になっていった。


「ジルは一人じゃダメなんだ。足が悪いから・・・」


トーマスが頷いた。
「だから、なんとか帰らないと・・・お姉さん達が許してくれるなら・・・だけど」


「おまえら、あれだけ派手に盗んどいて、ただで帰れると思ってんのかぁ?」
アーセランが呆れたように言うと、バーニィはビクッとした。


「やめなさいよ子供相手に。あんたも似たようなコソ泥じゃないの」


「ちょっ、待てよ、それは酷いんじゃないか? ・・・っていうか、俺が何したって言うんだよ。コソ泥どころか・・・荷物は取られちまう方だし・・・まったく、俺ってなんでこう厄介ごとに巻き込まれるんだろう・・・」
アーセランはだらしなく横たわったまま、色々なことを棚に上げて最近の不運を嘆く素振りをした。


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「呆れるわね。どの口がそんなこと言うのよ」
イェアメリスは目を白黒させた。


「巻き込まれたのはこっち。あなたと関わってから、益より厄の方が圧倒的に多いわ」


「そんな色々あったっけ?」


「あのねぇ・・・拉致されて、殺されかけて、お給料盗まれて、密航の共犯にされて、船上裁判、海で置き去り、・・・よくもこれでもかってぐらい色々体験させてくれたじゃないの」


アーセランは都合が悪いことは聞こえないような顔だ。
「メリスちゃん、いろいろ勉強してかないと立派な旅人にはなれないんだぜ」


「なれなくていいわよ! ねぇ、アスヴァレン、あなたも何とか言ってよ」


「いいからメリス、相手にするな」
アスヴァレンは苦笑しながら、子供達に向き直った。子供達は言い合う大人がおとなしくなると、次は不思議な形をした遺跡を興味深そうに見ていた。弟のバーニィは、長身のダンマーが自分たちを見ているのに気がついて、おどおどと聞いた。


「ねぇ・・・ぼくたち、ここに野営してて、大丈夫?」


「大丈夫、とは?」


「まだ父さんが生きてた頃、遺跡とかは近づいちゃいけないって言われてたから・・・」


アスヴァレンは崩れかけた円形の遺跡を示すと、空を見上げた。

「これはドルメンと言ってな、第2紀にモラグ・バルの大軍勢がタムリエルに干渉したときにゲートが開いた場所だ」


「ゲートって、あの”オブリビオンのどうらん”で有名な?」


「そうだ」


「それじゃ、こんな所にいたらあぶないよ! 離れようよ」


「安心しろ。もう壊れて機能してないさ」
アスヴァレンは荷物の中から本を一冊取り出し、子供達に見せてやった。「こういう風に空に歪みが出来て、環が現れる。そして鎖に繋がった船の碇のようなものが地面に打ち込まれるんだ。そして環から化け物どもが現れるというわけだ・・・」


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「化け物って、さっきのやつみたいな?」


「違う種類だな。前に退治しに行ったことがある。ゲートの中の話を聞きたいか?」


まるで昔話をするかのようなアスヴァレンの口調に、子供達は興味を引き込まれて、少し落ち着いたようだった


「さっきの化け物みたいなやつ、噂の”死者の行進”ってやつだろ? ここらにはよく居るのか?」今度はアーセランが質問した。


トーマスが思い出したように一つ震える
「ううん、ボク等も出会ったのは初めてだよ。夜中にしか現れないんだって」


「じゃあ、今晩は警戒しながら寝ないとならねぇな・・・」
アーセランは深い夜の森と対峙するように立つと、枯れ枝を一本焚き火の中に放り込んだ。




・・・




翌朝、昨日とうって変わって見通しのいい大気。ハーフィンガル地方は一足早い冬の気配に包まれていた。

一行を凍死から守り抜いた焚き火は、少し前に力尽き、煙の筋も上がっていない。

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「まあ、突き出す衛兵もいねえし、被害を受けたのはダンナだ。ダンナさえ良けりゃぁいいんじゃねぇか?」


アーセランが滓となった焚き火を足で崩すと、細かい灰が舞い上がった。


「オレはいい。・・・子供を裁いても荷物は帰って来ぬからな」


ハイロックに戻りたがる子供をどうするかで小一時間ほど話し合ったが、彼らは結局子供を離してやることにした。正直、受けた損害はかなりのものだったが、彼女は自分の中ではもう許していた。


小降りの雪の中、3人に見送られて兄弟は元来た道を戻り始めた。イェアメリスは声をかけようと一歩踏み出しかけたが、アスヴァレンに肩を掴まれた。彼は首を振っている。


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「むやみに入り込みすぎるな。情が移って動けなくなる」
アスヴァレンはわざと静に言った。


「おまえは十分すぎることをしてやった。これ以上、我々とあの子達との接点は無い」


自分でも情が移りやすいのは意識している。これは島に居たときのエドウィンや番人テオリックとの水掛け論と同じパターンだ。そう気付くと反論しかけて、彼女はやめた。やめたが、しばらく考え込むような顔をしていた。地下道で朽ちていた親子の姿が、頭から離れなかったのだ。


やがて意を決したように、子供達のところに駆け寄った。
彼女は自らの首の後ろに手を回すと、アスヴァレン達が見守る中驚くような行動に出た。首にかけていた木の札を外すと、トーマスの首にかけてやったのだ。ジェハンナで手に入れた通行手形だ。


「ほら、あんたも」


彼女は焚き火の近くで待っているアーセランの方に手を差し出した。


「いや、ちょっと待ってくれよ・・・苦労して手に入れた手形を上げちまうってのか?!」


「そうよ。ごちゃごちゃ言ってないではやく出しなさい」
有無を言わさぬ口調だ。


「え、でも・・・」


「はやく! 男でしょ?!」
訳の分からない理由だが、ボズマーは気圧されて、渋々自分の手形を取り出すと彼女に向かって投げた。イェアメリスは受け取めると、弟のバーニィの首に手形をかけてやった。


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「これがないと戻れないんでしょ? 持ってきなさい」


きょとんとしたまま首に札をかけられたバーニィは、なにが起こったのか理解すると泣き出してしまった。


「本当は着いていってあげたいんだけど、あたし達も行くところがあるから・・・ちゃんと戻れる?」


泣いていて返事の出来ない弟に代わり、トーマスが頷く。

「うん。半日も離れてないから大丈夫」


「手形はあるけど・・・門番に意地悪されたりしないかしら?」


「そこはうまくやるから大丈夫だよ、お姉ちゃん。北に下って大橋の方から行けば、隊商に潜り込めると思う」
イェアメリスは少年の逞しさに微笑みを返した。


「おにいちゃんはしっかりしてるわね。よし、あたしよりも旅慣れてる」ちらっと後ろを振り返る。そこにはアーセランが立っていた。
「でも将来、こういう人になっちゃいけませんからね」

例えに使われたアーセランは、フンと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。


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アーセランはイェアメリスに聞こえないように声を潜めた。「なあ、ダンナ」


「なんだ?」


「メリスちゃんって、面倒事に飛び込んでっちゃうタイプ?」


アスヴァレンはイェアメリスの方を向いたまま声だけで答えた。「お前ほどではないがな」
そして一呼吸置いて、軽くため息をつく。
「お前たちと居ると、ゆっくり出来ないと言うことだけはよく分かった」


少しするとイェアメリスは駆け戻ってきた。子供達が見えなくなると、彼らも荷物をまとめて、また1日の雪中行軍を始めるのだった。


・・・ハーフィンガルの森は深い。


半日以上歩き続けた彼らは、少し疲れを感じ始めていた。結構距離は稼いでいたが、目的地はまだまだ先だ。


木々の背が高いのもあって、まるで雪のトンネルを進んでいるような錯覚に囚われる。雪はまだ軽い降り方だが、山の天気は変わりやすい。昨日の吹雪のこともある。ソリチュードまであと2日と言ったところだが、その間ちょうどいい村も野営地もない。遠回りして手前のドラゴンブリッジに寄ろうにも、そこまで行くのも1日では無理という微妙な場所であった。もう一日、野外で夜を過ごさなければならない事実に、一行の足取りは重かった。


「今日も、ベッドで寝るのは無理そうね」
雪用のブーツを履いているので足下は快適だ。イェアメリスは最初はその感触を楽しんでいたのだが、なにぶん繰り返す同じ景色に飽きてきていた。


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「そうだな・・・。スカイリムってのは、どこもこんな灰色なのか?」


「南の方はもっと綺麗だって言うけど・・・」


「そういえば、宿代払わねぇで来ちまったな、オレたち・・・」


イェアメリスは急に思い出したように、小さな叫びを上げた・
「はっ?! そういえば・・・」


「俺たち仲良く前科者だな」


「ちょっと・・・待ちなさいよ。・・・元はと言えばあんたがちゃんと部屋に鍵かけとかないから、泥棒が入ったんじゃない!」


「ちげーだろ! メリスちゃんが手形上げちゃうから、俺たち街に戻れなくなったんじゃねぇか! 戻って払うことも出来たんだ」


「そうは言いますけどね・・・!」


アーセランは軽く鼻で笑った。

「次に来るかも分からねぇような宿屋の支払いなんて気にするなよ」


「ちょっと、あなたそれ、踏み倒しって言うのよ?!」


「じゃあなんだ? 俺たち唯一の手形を持ってるアスヴァレンのダンナに、1日半ほど戻って宿代精算してきてもらうってのかい?」


「そっ、そういうわけじゃ・・・」


彼女はアスヴァレンに遮られた。


「お前たちは口を開けば言い争っているのだな・・・」彼は呆れたように言うと、辺りを見渡した。「少し静かにしろ。日が暮れる前に泊まれる場所を探すぞ」


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「ここで?」2人はダンマーの言葉に振り向いた。


「そうだ。地図を見たが、近くに雪を避けれる場所がいくつかあるようだ。宿から持ち出せたものを確認しろ」
歩きながら片手で地図を垂らして見ている。「一番近いのは・・・ウルフスカル洞窟、というらしい。無人の洞窟らしいが、常に無人かは分からん。気をつけていけ。その少し先を左・・・もう見えてくるはずだ」




・・・




「ふぅ・・・」


洞窟の中を見回しながら、イェアメリスは深く息を吐き出した。
錬金術師としてフィールドワークをしていたため、野山を駆けまわることには慣れていたが、移動距離を稼ぐための黙々とした徒歩はやはり疲れる。彼女はブーツを脱いで放り投げると、敷物の代わりにひいたベッドロールの上に乗って足を揉み始めた。


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アスヴァレンは少し離れたところで岩に腰掛けて、いつものようにノートを出している。


小柄な商人は床洞窟の構造を確認するようにあちこち見渡している。


「ダンナ、今度はなにをメモってるんだい?」


「ソリチュードに着いたら買わねばならん薬のリストだ」


根こそぎやられた薬を一つ一つ覚えているというのだろうか、彼は黙々と書き物に取り組んでいた。


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「これで今晩は快適に過ごせそうね。少しほこりっぽいけど贅沢は言えないわ」


入り口の外で彷徨っているスケルトン2体が居たが、彼らは難なくそれを排除していた。先客がいるかと身構えて入ったウルフスカル洞窟は、今のところ無人であった。洞窟の最奥にはちょっとした縦穴があったが、先に何があるか分からない。泊るのが目的の彼らはそこには近づかないようにしていた。


「ソリチュードに入るのに、また手形を買わなくちゃならないわね」


「メリスちゃんのおかげでな」
一日歩いて喧嘩をする気力も失せていたイェアメリスは、ふと疑問に思っていた事を尋ねた。


「ところで、ジェハンナに持ち込んだボアの肉、いくらで売れたの?」


「へ?」


「だって小銭袋2つ置いたじゃない。あたしとあなたの取り分50ずつ。それに手形も買ったでしょ? どうやったらお肉がそんなに高値で売れるのかって・・・」


「ああ、あれ。オレの取り分って置いて見せたヤツは、空さ」


イェアメリスはびっくりした。
「えっ、じゃあいくらで売れたのよ」


「60だぜ。メリスちゃんの返済分・・・と言ってもいま俺のところに戻ってきてるのが50、残りの10は市場でつまみ食いしてたら使っちまった」


イェアメリスは目をぱちくりした。
「手形は? だって1枚120セプティムするって言ったじゃない。計算合わないわ。どこから出てきたのよ、そのお金」


「手形は買ってねぇよ? ファーランで倒れていた商人風のやつから頂いておいたモノだ」


「え? え? だって・・・」


「手形はジェハンナでは120で売ってた。オレは手形は手に入れた、ただしファーランで。オレは一言もウソ言ってないぜ」
アーセランは死人から手に入れた手形を彼女に売りつけ、借金を帳消しにした上で儲けも出していたのだ。


「あたしを騙したのね!」


「おっ・・・なんでそうなるんだ。メリスちゃん損してねぇだろ? 被害妄想が過ぎんぜ?」


「情報隠してミスリード誘うのは立派な騙しよ!」


「メリスちゃん、さっきも言ったが、いろいろ勉強してかないと立派な旅人にはなれないぜ」
得意げなボズマーにカチンときて、彼女は脱いだブーツを投げつけると、ふてくされたように横になった。


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「もうあたし、ぜっっったいあなたとは取引しないからね!」


・・・外ではそろそろ日暮れの時間だ。
洞窟の中はひんやりとしていたが、焚き火を焚くほどではなかった。
アーセランはぼんやりと光るカンテラの明かりを見つめていた。


「なぁ、アスヴァレンのダンナ」


「なんだ?」


「ダンナたちはどうして俺ら・・・っとちがうちがう、あいつら奴隷商人と戦う羽目になったんだ? しかもキルクモアなんてへんぴな島で」


「船の乗り換えを待っていた。ヨクーダに渡ろうとしていたときに、お前たちが襲ってきた、だから町に協力した。それだけだ」


イェアメリスは横になって目を閉じたまま、口だけ割り込んだ。
「へんぴな島とは失礼ね。西航路の中継拠点なのよ・・・たしか・・・。え、なに?」


言いかけて、少しめまいのようなものを感じて黙り込む。


「メリス、どうかしたか?」


「え・・・ええ、誰かに呼ばれたような気がして・・・大丈夫。気のせいみたい。今日はちょっと疲れ・・・」


連れを安心させようと出した声は、今度は別の物音に邪魔された。洞窟の入り口が騒がしい。アスヴァレンが振り向く。イェアメリスも起き上がると、投げたブーツを慌てて拾いに行った。


「おい! 中に誰か居るのか? おーい!」


若い男の声だ。


洞窟の中で3人は顔を見合わせた。アスヴァレンは頷く。それを見てアーセランは声を張り上げた。


「いるぞ~!」


入り口の方でざわざわと話し声が聞こえる。「用心しろ」といった言葉も聞き取れた。


数人の足音が大きくなってくる。何者か達が洞窟に侵入してきたのだ。


「山賊か?」


「アルフ・・・バカかおまえは? 山賊かと聞いてハイと答えるやつがいるわけ無いだろう・・・」
女の声が聞こえてきた。


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「じゃあこういう時はなんて聞けば・・・」
ブツブツ言い合いながら、侵入者達が登場した。
褐色の肌に白い紋章を描いた印象的な女と、革の鎧に身を包んだ金髪の若い男、後ろにもう一人居る男は帝国軍だろうか?・・・軽装鎧を身につけていた。


「山賊・・・ではなさそうだな」


若い男は3人を見回すと、肩の力を抜いた。
続いて入ってきた女は値踏みするように一行を見回した。「旅人か・・・それなら、私と似たようなものだな・・・」
無造作に垂らしたハニーブロンドの長髪を振りながら、奥の通路に目をやった。「もっとも、今は雇われものだがな。あたしたちは依頼を受けてこの洞窟を調査に来たんだ。そして、この余計なやつが・・・」


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若い男は心外そうに剣を釣ったたすき掛けのベルトを揺らした。
「余計とはなんだ。失礼だな。こっちも正式な依頼を受けてやってきてるんだ」


「その出所だって、元を辿れば同じだろう? ちゃんとそれぞれ報酬を払って貰えればいいんだがな。ソリチュードはいま財政難だと聞いている。値切られるんじゃないか、いまから心配だ」


若い男は改めて一向に向き直ると緊張を解くように言った。
「・・・すまない、まさか先客がいるとは思っていなくてな。表のスケルトンを片付けたのはあんた達かい?」


「ああ、雪山で野営をするのは避けたくてな。洞窟の入り口周辺を一夜の宿にしようと思っている。


「そうか・・・俺の名はアルフレド。仲間からはアルフと呼ばれている。冒険者としてスカイリム各地を旅している傭兵だ。あんたは?」


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「アスヴァレン。錬金術師だ」
錬金術という単語に、女がピクリと反応を示す。


「あたしはイェアメリスよ。同じく錬金術師で、東帝都社の仕事をしているわ」


相手も3人。値踏みするように見渡していたアーセランが口を開いた。
「で、そっちの美人さんはだれなんで?」


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「ん、私か?私はナターシャ。シロディールから来た魔術師だ。そういうお前は誰だ、ボズマーとは珍しいな」


「オレはアーセラン。スカイリムで一旗揚げるためにヴァレンウッドから出てきた旅商人さ」

そう言ってアーセランは億劫そうに立ち上がった。


「ふ~ん、マイペースなやつだな・・・」


最後に残った男はヴァルニウスと名乗った。帝国軍のドラゴンブリッジ守備隊に属しているという。彼はややばつが悪そうに説明した。「ドラゴンブリッジの住人から、夜な夜な変な声が聞こえてくると報告があってな。ソリチュードの執政に報告したら、傭兵を使って調査することになったんだ」


「あたしのところにも同じ話が飛び込んできた。ま、良くある話だよ」


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「縦穴の先に行くのかい? 雪で塞がってるようだが、叩けば穴開くと思うぜ。ま、気をつけてな」
アーセランは軽く手を振ると、3人の調査隊に道を譲った。
2つのグループは、互いに敵意がないことを確認すると、それぞれの本来の目的に取りかかろうとした。そんな中・・・


「あ、あたし達も同行していい?」
急にイェアメリスが言いだし、周りを驚かせた。


「まてよメリスちゃん。ダンナはともかく、オレとあんたはこういう事に向いてないぜ」


目を丸くするアーセランに同意するように、アルフレドは頷いた。
「ボズマーの言うとおりだ。どんな危険があるか分からないからな。素人は待っていた方がいい」


先に進みかけていたナターシャが振り返った。
「そうよ。ただでさえ2重依頼で報酬が怪しいんだ。これ以上分け前減るのは割に合わないわ」


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「いえ、報酬はいいの。その代わり・・・その・・・」
彼女はもごもごと呟いた。


「手形が欲しいって?」
ナターシャは予想外の申し出に、返す言葉が出てこなかった。


「うん・・・ソリチュードに向かっているのだけど、手違いで手形をなくしちゃって・・・」
アルフレドとナターシャは顔を見合わせた。


「う、うん・・・怪しい以外の気持ちがわいてこないのは、俺だけかな?」


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「いや、おまえと同じというのは気に食わんが、あたしも同感だ」


「普通、手形なくすか?」


イェアメリスは縮こまった。そのとき、一同は揃って背筋に冷たさを感じた。


「オ~オ~オ~・・・・」


縦穴の奥から、微かな音が響き始めたのだ。
洞窟の複雑な地形に反響して、音は耳障りなほど大きく聞こえる。一同は顔を見合わせた。


アルフレドは素早く剣を抜いた。
「ヴァルニウスさん。噂は本当だったんだな」


音はどんどん大きくなる。


「雪はしのげてもこれじゃあ寝てらんねぇな、オイ」
アーセランは不快そうな顔をするとアルフレドを見た。


「嫌な予感がする・・・あんたたち・・・手形はともかく、夜を過ごすなら別の洞窟を当たった方がいいんじゃないか?」


長身の錬金術師は荷物を肩にかけると弓を拾った。一緒に行こうとでも言うのか、つま先が洞窟の奥に向いている。
「そうだな・・・だが、言い出すと聞かぬのだ」


アルフレドはそれを聞くと笑みを浮かべた。
「まるでクラリスみたいだな・・・」


「クラリス?」


「ああ、知り合いの錬金術師がホワイトランにいてな。素材集めのために危険なところでも突っ込んでくのさ」


「ふむ」アスヴァレンは薄く笑った。


「なああんた。悪いやつには見えないが、一緒に行くなら覚えておいてくれ」


「なんだ?」


「報酬も手形も約束は出来ない。あと安全も」


「自分たちの身は自分たちで何とかする。・・・こちらも断っておくが、ボズマーが言ったとおり、錬金術師2人に胡散臭い商人だ、そちらに何かあっても戦力にはならんぞ」


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「どうかな? あんたは強そうに見えるが」
アルフレッドはローブに隠れたアスヴァレンの筋肉を見抜いていた。彼は肩から荷物を下ろすと帝国兵に託す。


「ヴァルニウスさん、あんたは案内係だからここまででいい。入り口を見張っていてくれ」


「じゃあオレも!」
宣言したアーセランはすぐにイェアメリスに襟首を引っ張られ、連れてこられた。


「え、マジで? 俺も行くの? どうして」


「あんたこそ、いちばん一人にしておいちゃいけない要注意人物よ」


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「いつまでおしゃべりをしている。行くなら早く来い」


ナターシャは重たげなローブの留め金を外すとドサリと落とし、身軽な格好になってイェアメリスを見た。


「ふ~ん・・・、どう見ても旅人には見えないわね~。ま、楽しそうだからいいわ」


褐色の肌をした女魔術師は、見知らぬ者の同行に動じることもなくむしろ面白がる様子を見せた。




・・・





ソリチュードまで1日の距離。彼らは思わぬ寄り道を食うことになった。


Highrock-Skyrim-Map 2


急ごしらえのちぐはぐな一行は、奥から聞こえてくる不思議な呪文と光の調査のため、ウルフスカル洞窟の奥に進んでいくのだった。



(つづく・・・)



※使用mod


・Alforttes Followers - JP Custom Voice Follower( Nexus 76823 ) ・・・お世話になっているAlfortさんのフォロワー。物語ではホワイトラン中心に活躍している傭兵アルフレドという役どころで出演いただいてます。


・OK_Custom Voice Followers( Nexus 80852 ) ・・・お世話になっているokameさんのフォロワー。勝気な女魔術師です(ツンデレとも言うw)のナターシャさんに出演いただきました。その好奇心旺盛な性格から、第2部のストーリーに食い込んで来る予定です^^


・kiki Followers( Nexus 78609 ) ・・・お世話になっているKikiさんのフォロワー。正式にはアケくん、フルーレくんと言います。物語では名前変えて(トーマス兄、バーニィ弟)泥棒役で登場して頂きました。


・Complete Alchemy and Cooking Overhaul( Nexus 69306 ) ・・・テーブルを飾る食材の数々を利用させて頂きました。


・Into the West ( Nexus 68807 ) ・・・ハイロック東部、スカイリム国境周辺を拡張するmodです。前回に引き続き、今回のジェハンナもこのmodです。ロケーションにしか使いませんでしたが、星霜の書にまつわる結構奥の深いクエストがセットになっています。


・SeaPoint Settlement( Nexus 56084 ) ・・・スカイリム、ハーフィンガル地方の海岸線、ハイロック国境手前に入植地を作ります。今回は商店の内装を使わせて頂きました。


・XxAwesome_PotionsxX( Nexus 80480 ) ・・・色々なポーションmodです。綺麗で更にアニメーションしたりもします。マップ上でも見つけやすくなってお奨めです。


・Improvement Inn Zwei( Nexus 79853 ) ・・・各地の宿屋改装mod。今回はカイネスグローブの浴場をロケーションとして使わせて頂きました。


・Dolmen Ruins - ESO Dark Anchors( Nexus 79508 ) ・・・スカイリム各地に崩壊したドルメンを追加するmod。今回は野営の拠り所としてとして使わせて頂きました。風情あっていいですよ~。


・ENB ・・・第2部ではAntique Dragon ENB というものにしてみました。1部通して使っていたSomberがプリセットで選択できるので、場面と天候に合わせて色々なプリセットを使っています。



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