4E201 - The Unsung Chronicles of Tamriel

¡Hola! Mi nombre es Moqueue. Encantada.
Aquí es el anexo de [ Bienvenido al escondite de Euphemia ].

4E201

12
2017  23:09:01

◆Chapter: 1 Epilogue


エピローグ




嵐が開けた次の日、城から帰ってきたブラッキーは、イェアメリスの小屋を訪れていた。一緒に昼食を摂るためだ。新しい家を手に入れたのは喜ばしいことであったが、実は彼女は料理が苦手だった。つまり、たかりに来たのだ・・・


先週まで一緒に住んでいたとはいえ一応、人様の家だ。勝手に入ってはまずいだろうと、扉の外から呼びかけてみる。
しかし、そのままいくら待っても返事がないので、結局彼女は扉に手を掛けた。


扉は開いていた。


「あ~、ねえちゃん、また鍵かけてないや。ボクにはあれだけ戸締りのこと話してたくせに、自分はまったくじゃん・・・賊とか侵入してきたらどうするんだろ、ほんと」


ブラッキーはぶつぶつ言いながら、小屋に入って行く。


「ねえちゃん。メリスねえちゃん?」


返事がない。


相変わらずひどく散らかった部屋だ。姉が散らかす性格なのは知っていたから驚かなかったが、今日のはあまりにひどい。ならず者に侵入されてからこのかた、まだ一度も片付けてないかのようだった。


「草むしりにでも行ったのかな?」いつものフィールドワークに行っているのかもしれない。消えかけているが、暖炉の火も残っているので、すぐ戻ってくるだろう。彼女はそのまま待つことにした。勝手知ったる元居候の強み。ポットを引っ張り出すと暖炉にかけ、お茶の準備を始める。


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姉の分も淹れてあげようと、カップを2つ取り出しテーブルの上に並べる。
彼女はそのテーブルの上に、置かれた紙切れを見つけた。


(なんだろ?)


テーブルから羊皮紙の切れはしを取り上げる。かなりの殴り書きで何か書いてある、ブラッキーは軽く目を通すと、素っ頓狂な声をあげた。


「ソリチュードぉ?!」


置いてあったのは、ブラッキーに宛てた手紙だった。


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=*=*=*=*=*=


ブラッキーへ


急にいなくなってごめんなさい。どうしてもやらなければいけないことができたので、ソリチュードに行ってきます。
すぐに戻ってくるつもりなので心配しないで。


そういえばあなた、旅をしたいって言ってたわよね。ちょうどいいチャンスが来るかも。もしあたしの予定が変わったら例の、ほら、私書証明を使って手紙を送るようにするわ。なので3ヶ月経ってあたしが戻らなかったら、ストロス・エムカイの事務所に行って手紙が来てないか確認してちょうだい。


錬金台の上に小屋の鍵を置くので預かっておいて。そしてたまにでいいから、部屋に風を通しておいて。多分ぷぅちゃんは放っておいても大丈夫だと思うけど、見かけたら可愛がってもらえると嬉しいわ。でもシチューにするのはぜったいダメよ。


あたしの大事な妹。愛してるわ。

冬になる前に、また同じ暖炉を囲んで食事できることを祈って。


イェアメリス


=*=*=*=*=*=


彼女は大きく息を吐くと、頭をポリポリかいた。錬金台を見ると書かれている通り鍵が置いてある。それを手にして、手持ち無沙汰でくるくると回す。


やがて、ため息をついた。


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「ボク、取り残されちゃった・・・」


よほど慌てていたのだろうか、床に落ちた回復薬の瓶がいくつか割れている。指でも切ったのだろうか、点々と血のしずくも落ちていた。荷物が散乱して、タンスも開きっぱなし。手紙が無かったら、また誘拐されたかと思うところだった。


まずは少し片づけたほうがいいだろう。それからエドウィンのおっちゃんにも伝えないと・・・次々とすることが浮かんでくる。


せっかく淹れたお茶は冷めてしまったが、もったいないので頂いておこう。出会った初日にしたように、テーブル脇の長椅子に腰かけてぼんやりと壁を眺めながら、ブラッキーは一人ぼっちのお茶会でしばし時間を潰したのだった。


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やがて立ち上がると、扉を開け放ち、床のガラスを集めて捨てる。何がどこに入っていたかまでは分からないので、とりあえず目につくものを手当たり次第タンスに放り込んだ。


「まあ・・・、見られるようになったかな」


彼女は労働の成果を満足げに眺めると、無人の部屋に向かってつぶやいた。


「また来るね、ねえちゃん」


カタン・・・


出ようとして扉に手を掛けたとき、ブラッキーは物音に気が付いた。染みついた戦士の習性から、物音には敏感な方だ。武器までは抜かなかったが、とっさに身構える。
音は階段を下りた下の階から聞こえたようだ。彼女は下の階にあるものを思い浮かべた。自分が居候していた部屋だからよく知っている。タンスが一つと木箱がいくつか、薪の備蓄、姉のベッド、そして彼女が使っていたベッドロールがあったはずだ。音を立てるようなものはない。


ガタガタガタ・・・


再び音が聞こえる。


半月前の難破船が漂着した夜イェアメリスがしたのと同じように、今度はブラッキーが注意深く階段を降りていった。


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途中まで降りて、彼女はホッと肩の力を抜いた。


「あれ? ・・・ま~たお前かぁ・・・居たの?」


階段の下にはウサギの"ぷぅ"が居た。ブラッキーと目が合うと、逃げるように走り出す。


「あ、ちょっと待てよ」


いつもはあとちょっとのところで逃げられてしまうのだが、今日は違った。彼女はすぐにウサギに追いついた。積み重ねられた木箱の隙間に逃げ込んだはよいが、身動きとれなくなってしまっていたからだ。"ぷぅ"は後ろ足を突っ張って、短い尻尾をバタバタと振りながらもがいていた。


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ブラッキーは木箱の隙間に挟まったウサギを引っ張り出した。ちょっとからかってやろうとも思ったが、イェアメリスが可愛がっていたのでやめておこう。ウサギを横に下ろしてやると、話しかける。


「何キミ? 挟まっちゃったの?」


「ぶぅ・・・」


返事か何か分からない鼻息が返ってくる。言葉が通じているとは思えないが、やはりこのウサギは何かおかしい。


「あぁ、お前が喋れたらなぁ・・・」


「ぷぅ?」


鼻を鳴らすと、ウサギは上の階に駆けていってしまった。彼女も上に戻ろうとしたが、ふとウサギの逃げ場所に目をやる。その目が追いかけていたウサギと同じように丸くなる。瞬きしてもう一度見るが、やはりそうだ。・・・"ぷぅ"が暴れていた木箱の隙間に、落し蓋があるのだ。半開きで、ウサギであれば出入りできる。彼女が居候の時に寝ていたすぐ近くだが、そもそもこんなところに目をやったことはない、完全な盲点だった。


とうとう見つけた。これが"ぷぅ"の秘密の抜け穴だ。長年住んでいたイェアメリスでさえ知らなかったウサギの出入り口を、ブラッキーは発見したのだった。


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邪魔な木箱をどけて、落とし蓋の稼働幅を確保すると、ブラッキーは期待を込めて蓋を開いた。


「どうなってるんだろう?」
アガルドの家にあったような納戸だろうか? ぼんやりした闇が彼女を誘っていた。




・・・




ブラッキーは、持ち主も知らない地下室へと降りていった。


「あれ、ここ!」


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見たことの有る部屋に彼女は降り立った。どう見ても装置の前室にしか見えない。当然のように一方の壁には光の転移門がある。小物入れに鉱石を持ってきたことを確かめると転移門に踏み込んでみた。もう見慣れた光景。なんと魔方陣を構成する最後の一基は、まさかのイェアメリスの小屋の地下にあった。


おなじみの律動音と光の波。自分には何の効果も及ぼさないのは分かっていたが、あまり気味のいい物ではない。一通り部屋を観察すると、彼女は元の前室に戻ろうとした。
戻ろうとして転移門の横、光に照らされて明滅する岩の隅の方に小さな割れ目を見つけた。舐めた指をかざしてみるとひんやりと空気の流れがあることが分かる。人の頭2つ分ぐらいの大きさでウサギなんかは楽に通れるだろう。どこか外につながっているのは間違いない。ここがきっと"ぷぅ"の通り道だと彼女は確信した。


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(でも・・・なんであのウサギここ通れるんだ?)


そもそも"ぷぅ"が転移門を越えられる謎に彼女は首をかしげた。


(やっぱりあいつ、この石飲み込んだんじゃないかな。でぶちんで、重いし・・・)


手にした鉱石を一瞥し、小物入れにしまうと、ブラッキーは部屋を後にした。

ブラッキーは低い天井に息苦しさを感じはじめ、小屋に戻ろうと考えた。しかしこの前室には他と違うところがもう一つあった。更に下に向かう落とし蓋が床にしつらえてあるのだ。暖炉のある地上階を1階と数えたら、寝泊りしていた物置きが地下1階、この前室が地下2階、更にその下だから、地下3階に当たる。こんな深くに一体何があるというのだろう。
興味に後押しされて、ブラッキーはもう少し探検してみることにした。


「なんだ、ここ?!」


前室はカビ臭かったが、この地下室は不思議な香らしき煙が漂っていた。甘さと苦みの混ざったような、魔術の輩が儀式に使うような香り。長いこと誰も訪れていない筈だが、この香はどこから来ているのだろう・・・
ブラッキーは頭がクラクラするのを感じ、しばしの間目を閉じた。


地下室の下に隠されたもう一つの地下室。ようやく目を開けたブラッキーは、異様な光景を目にして思わず声をあげた。
地下3階に下りたこの部屋は、部屋と言うより岩肌剥き出しの洞窟で、今まで何度か発見してきた装置の部屋に似ている。濁ったタールのような黒い水が部屋の半分ほどを覆っていた。指で浚ってみると粘っこい。少し刺激臭もする。ここに装置はなかったが、黒い水面には、例の鉱石が浮いていた。しかも今まで見たこともないくらい大量に。部屋の隅にある石のテーブル上にランタンを見つけ、火を移してたいまつを消すと、彼女は改めて周りを観察した。


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蓋のされた水瓶の上にはよく分からない怪しげな蓋がしてある。付呪台だ。アスヴァレンが見たら、錬金術師なのになぜ付呪?と訝しんだかもしれないが、魔術の知識に乏しいブラッキーには怪しい蓋にしか見えなかった。
テーブルには魔道書が広げられていた。この小屋を建てたのはイェアメリスの母だと言っていた。そしてその母も彼女同様に錬金術師だから、その実験室なのかもしれない。香と仄暗い部屋の雰囲気にぼんやりしながら、ブラッキーはそんなことを考えた。


ブラッキーの魔術の知識は非常に偏っていた。どちらかというと戦闘で相手にしたときの対処の仕方といった、オークの戦闘訓練で叩き込まれたようなものしか持っていなかった。そのため、このような魔術じみた場所を前にして、どうしてよいか分からず、固まってしまう。


「うん、ボクにも分かるよ。触ったら良くないことぐらい」


独り言をつぶやきながら、挙動不審になっていた。


「あまり、触んないほうがいいよね」


目だけはきょろきょろとせわしなく動く。


「うん、触んない方がいいことは分かってる。でも、ちょっとなら・・・」


逡巡しているうちに無意識で移動していたのか、腰がぶつかって水瓶の上に載せてあった付呪台がずり落ちてしまった。


「やべっ!」


慌てて支えようとしたが、しくじった。水瓶の中に不気味な"もの"がある。そちらに気を取られたのだ。
一瞬、ブラッキーも自分が何を見ているのか分からなかった。


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目があるのだ。


水瓶の中に一つ目が浮き沈みしており・・・しかも瞬きしている。蛸のような8、若しくは∞の形をした瞳がぎょろりとブラッキーを見た。


「ひえっ!」


彼女は慌てて、ふたたび蓋をしようとする


「見ちゃいけないやつだよね、これ。見てない見てない・・・」


彼女は目を背けながら、石でできた重い付呪台を載せようと苦労したが。結局その動作は遮られた。


「・・・待ちゃれ」


「しゃべった!!」


「蓋はそのまま、そのままじゃ」


キョロキョロするブラッキー。声は背後から・・・石のテーブルの横の岩棚にある、カニのはさみを持った小さな置物・・・像から聞こえてきた。洞窟内に反響し、頭の中に直接響いてくるようにも聞こえる。


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気味の悪い目と像、どちらに向いてよいか分からずに、彼女はオロオロした。


「だれ?!」


「覗き見る瞳」尊大な声が言った。


「え?・・・」


「詮索するハサミ」妖艶な女の声がする。


「はさみ??」


「剥き出しの歯列」野太い男の声。


「・・・」


「骨無き四肢」かすれるような老人の声。


呪文のような声が次々と謎の文を口走る。
ブラッキーは、ばつの悪い顔をしながら、付呪台に再び手をかけた。


「うん・・・これは悪い夢だね。早く戻ろう」


「まってまって! 折角お前に興味が湧いてきたところなのに!」
今度は少女の声だ。少女・・・というより、ブラッキーの声そのもので話しかけてきた。少し慌てている感じだ。


「うわっ、気持ち悪い! ボクの声使わないでよ!」


「ホホホ・・・余と少し話をせぬか? すれ違う妹よ」ブラッキーが手を止めたと見ると、声は尊大な元の声に戻って語りかけてきた。


「?? マラキャスにかけて、おっちゃん、だれ?」


「ふむ・・・定命の者。お前さんはオーシマーには見えぬが、マラキャス小僧のゆかりの者か?」


ブラッキーは黙っている。


「まあよい。余はホルマイウスじゃ。お前さんの仲間の錬金術師なら、ハルマ・モラと呼ぶかも知れぬの」


「デイドラなの?」


「その呼び方は低俗で好かん。ホルマイウスがいい」


「ここに閉じ込められてるの? もしかして・・・ボクが封印解いちゃったってこと?」
ブラッキーは青ざめた。


「ホホ・・・これは余そのものではない。ミニオン・・・言わば端末じゃ。封印なぞされておらぬぞ」


その言葉を信じて良いものか計りかねたが、“やらかしてしまった”訳ではなさそうだ。
「すれ違う妹ってなにさ?」


「そちのことよ。定命の者が顔や髪型や声と言ったもので個々を認識するように、余は人を魂の特徴で捉える」


「そのホル・・・なんとかのおっちゃんがボクに何の用? 取引とかイヤだよ。悪魔と取引しちゃいけないって、キャンプで習ったもん」


「いきなりそう警戒せんでもよかろう」声には面白がるような響きが混ざっていた。人間の感覚で言えばだが。


「ふむ・・・これから独り言を話す。あ、言うておくが、聞かなくてもよいからの」


ふざけたような声で目は笑った。正確には背後にあるカニのはさみを持った像が笑うようにカタカタと音を立てた。


Nirn


「余はタムリエルやアトモーラ、アカヴィル、ピアンドニア、といったニルンのあらゆる場所にこういったミニオンを持っておる。他の神で言う、祠じゃな。最近タムリエルにある目の一つを失って・・・」


「ピアンドニアって何?」
聞くつもりのない話だったが、初めて耳にする土地の名前を聞き、ブラッキーは思わず聞き返してしまった。


「失礼な奴め。独り言を邪魔しおって・・・ピアンドニアか? サマーセットの南にある、シーエルフ達の島じゃ・・・他にも、滅んだアルドマーの都があるアルドメリスや、遥けきライグの話も・・・聞きたいかえ?」


「ボクの心をのぞいたの! やな感じ」
普通に会話の通じる相手と分かったからか、彼女はデイドラロードに対して、まるで物怖じしなかった。


目玉はブラッキーを見て、2,3度またたいた。


「ネレヴァリンが余計なことをしたせいで、レッドマウンテンが噴火してしもうた。ミニオンが居ったのに、吹き飛ばされてバラバラじゃ。どこに行ったか分からぬ・・・まったく、チャンピオンは荒っぽくて困る」


「それって、200年前の話だよね」


「おお、すまぬ。思索しておった。で、何の話だったかの?」


「なんだったかじゃないよ。こっちが聞きたいよ」


「・・・では問おう、ここに来て蓋を開けたのは何故じゃ?」


「え? 急に・・・なんでって言われても・・・。偶然?」


「世の理に偶然なぞ存在せぬ」


「理由があるってこと?」


「数多の必然が積み重なって今と未来がある。因果律と呼ぶ者もおるな。定命の者は認識できる範囲が狭すぎるせいで、様々な必然が偶然に見えるだけじゃ。余はそれを知り、偶に手を伸ばしたりもする」


「悪魔のおっちゃんはすべて分かるの?」


「・・・さもありなん、と言いたいところであるが、知らぬ事も分からぬ事もある」


「へぇ、なんか今の言い方、アスヴァレンのあんちゃんみたいだ」


「取り返す者じゃな」


「それも魂の色なの? あんちゃんの色?」
目玉は浮いたり沈んだりを繰り返している。それに向かって話しかける少女。端から見れば異様な光景。
「そうじゃ、すれ違う妹、取り返す者、槌の守護者・・・そち等は余からはそう見える」


「すれ違う妹がボク、取り返す者がアスヴァレンのあんちゃん、槌ってのはカグダン兄貴のことだね!」


「なんじゃ? 余の独り言が気になるのかえ?」


「今までのどこが独り言なのさ。ひどいな・・・分かったよ、聞くよ」
ブラッキーは好奇心に負けると、水瓶の目にまともに向かい合った


「すれ違う妹、取り返す者、槌の守護者・・・少なくとも、そち等3人のことは知っておった」


「あれ? ねえちゃんは・・・どんな色なの?」


「それは先まで行動を共にしておった娘のことか? 在らぬ・・・余は自慢の書庫に失われた星霜の書の半分以上と、黒の書を持っておるが、あの娘のことはこれらのどこにも記されておらぬ」


「え、どういうこと?」
ブラッキーは身を乗り出した。


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「あの娘は・・・歴史上、記録上、可能性上、存在しないはずの人間。だから色が見えぬ」


「・・・何を言ってるの? 確かになんか謎ありそうだとは思うけど・・・ねえちゃんはちょっとドジな普通のブレトンだよ?」
ひどい言いようだが、大きくは間違っていない。


「普通かどうかは関係ない。別に、かの有名なマーティン・セプティムやネレヴァリンのような特別な存在で無くとも、人はふとしたきっかけで因果律から外れることがある。英雄なぞどうでも良いが、余はその理由や過程に興味がある」


「なので・・・」声の質が変わった。


「あの娘について、そちの見聞きしたものを余にも見せよ。なぁに、簡単じゃろう?」
腹の底に響くような、生物が生まれつき持つ原初への畏怖を呼び起こすような声だ。


「やだよ。デイドラの言うこと聞いたら魂取られるって言うじゃん」

ブラッキーは気圧されまいと、ちょっと口調に力を込めた。


ハサミの像がカタカタ鳴る。やや心外そうな音だ。
「それは違う。大方、クラヴィカスやモラグ・バルあたりから広まった話じゃそれは。余は魂など要らぬ。知りたいのはそちがこれから見聞きする事象じゃ」


「なんでボクなのさ?」
ブラッキーは胡散臭そうな表情で目玉を見た。


「すれ違う妹・・・そちはあのブレトンの娘と、深く運命が結び付けられておるようじゃからな」


「ホル・・・モラのおっちゃん、やっぱり信用ならないよ。だってねえちゃんが存在しないなら、なんでボクと結びついていると分かるのさ?」


「ホホ・・・そちは見かけほど愚かではないな」知識の悪魔は、少し首をかしげて思案するようなイメージをブラッキーに送った。「人の魂と魂の間には、絆とも言うべき繋がりの紐が存在する。すれ違う妹、取り返す者、槌の守護者、そち等3人には反対側に何が繋がっているか分からない紐が1本ずつあるのじゃ。そこにあの存在しないはずの娘が居るのでは無いかと。・・・な、面白いであろう?」


「見てどうするのさ? ってか、モラのおっちゃんなら、見なくても未来が分かるんじゃないの?」


「それは違う。因果律を構成する2つの要素のうち余が司るのは"知識"にすぎぬ。もう一つの重要な要素である"時"はアカトシュめが握っておる。なので余の未来知も予測の一つに過ぎぬ」


「時間を自分のものにしたいの? アカトシュ超えるなんて、デイゴンでも失敗したんでしょ?」


「余が欲しいのは、知識だけだ。因果律に囚われている自らの思考を解き放ち、アカトシュめがしばしやってみせるような、非決定論との境界を踏み越えてみたいのだ。思考実験だけでは足りぬ。そのための、考察するサンプルが欲しい」


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「う~ん。そのなんとか律ってのはボクには難しすぎて分からないけど・・・なんかうまく丸め込まれている気がするなぁ」


ブラッキーは頭を掻いた。「おっちゃんデイドラでしょ? おとぎ話に出てくるような騙しをするんだよね? なんか隠したりしてない?」


「動機をこの上なく論理的に伝えたつもりなのじゃが・・・所詮、定命の者には理解できぬか」知識の悪魔は少しがっかりしたような素振りをした。目玉が肩をすくめることが出来れば、だが。


「当然、話してないことはたくさんある、全部話してはお前の脳は破裂してしまうよ」


「ボクが聞いているのは、ボクらが不利になるような何かを隠してないってことだよ」
あくまでブラッキーは現実的だった。


「定命の者に取っての有利不利は、余には測れぬ。もっと具体例を示してみよ」


「ん~。じゃあ、苦しむのとか痛いのとか死ぬのとかはヤダ。ボクも、親しい人も」


「余は契約は司らぬから、好きに決めれば良い」


「なんか興味なさげだね・・・よくわかんないけど、おっちゃんが政治とか戦争とか、人の損得と違うところに居るというのだけはよく分かったよ」


「今はそれで良い。我が知識の領域、アポクリファに来たら、何百年でも講義してやるぞ」


「うぇ・・・遠慮しとくよ。で、ボクが今こうしてここに居るのは必然なのだとすると、次は何をすることになっているのさ?」


「そちがこれからの人生で見聞きしたものするものを、余に共有してくれれば良い」


「だからどうすればいいのさ?」


「別に、今こうして話したことで、余はもうそちの波動を認知した。ムンダスのどこに居ようと見つけ出すことが出来る。そちの感覚で見聞きしようと思えば、何時でもチャネルを繋ぐことが出来る」


「うぁ、なんかずるいな。まだボク答えてないのに」
ブラッキーは微妙な表情で水瓶を見ると、身体のあちこちを自己点検した。別に異常は・・・少なくとも外面上は感じられない。


「一つ確認。これ、契約じゃないよね? それに、お願いしているのは、モラのおっちゃんの方。ボクは聞いてあげている方。それで間違いない?」


「構わぬよ」


「じゃあ、頼まれてあげる」


「ホホ・・・余を相手に願いをするでも無く、逆に頼ませるとは。すれ違う妹よ、そちは余がアポクリファに飼うておる数多の賢者よりも、遥かに強い魂を持っておるの。気に入った」


ブラッキーはばつの悪そうな顔をした。


「頼まれるのはいいんだけど、ねえちゃん行っちゃったんだ」


「追おうと考えたことはないかえ?」


「う・・・それは考えたけど・・・ボクにとってのこの島、人々は大事な物になったと思うんだ。だから壊したくないの。何か都合のいいことが起きて、穏便に島を出て行けたらいいんだけどね」


「定命の者よ。余が望めば逆にソリチュードをここに持ってくる事とて可能ぞ?」


「うわっ、そんな滅茶苦茶しないで! いい? ボクはねえちゃんのことが大好き。この島も。誰も殺したり傷つけたりしちゃだめだよ。そんなことしたらアンタのこの目玉、斧で割っちゃうからね」


「ホホ・・・威勢のいいことよ。まあ、まずはやりかけた仕事を終わらせてみてはどうじゃ?」


「あ、そうだね・・・」急にブラッキーは眠気に見舞われた。


「おっちゃん?」


「あれ・・・?」


返事は無かった。


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目を覚ますと、岩肌剥き出しの小部屋に居ることに気がついた。不思議な香の煙にクラクラしてしまったようだ。


ブラッキーは水瓶の上にされた付呪台のフタに目をとめる。何かを思い出すようにフタをどけてみるが、そこには黒い水面があるだけだった。


水瓶に手を突っ込んでみたが、ただの水だ。彼女の行為は黒い水面に波紋を起こしただけだった。


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テーブルの横の岩棚を見やる。何か像があったような気がする。しかしそこにも何も無い。ここは、イリアンの秘密の実験室。それ以上でも以下でも無かった。


狐に化かされたような表情をして、ブラッキーはしばし佇んだ。


「やっぱ夢か。最近いろいろあったもんね。ボクも疲れてるのかな・・・」
そうつぶやくと、思い直したように再び部屋を見回した。




・・・




開けたままの天井の落とし蓋を通し、かなり換気が進んだようで、彼女の頭ははっきりとしてきた。


(麻薬・・・だったのかな? 香に当てられちゃった?)


黒い水面に浮く鉱石を手に取ってみるが、彼女たちがこれまで見つけたものと変わりは無かった。次にブラッキーは部屋の隅にある石のテーブル上に積まれた数冊の本に目を向けた。


 境界の橋
 ヴュホンとインゲニウム
 メイリン・ヴァレンのグリモワール
 アクラカーンの秘密
 タルヴァスのメモ
 狼の女王 第1巻


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魔術に関わる本なのだろう、オオカミの女王だけは知っていたが、他は全く見たことが無い本だった。アスヴァレンが見たら何日もここに籠もって二度と出てこなくなるのでは無いかという希少な本ばかりであったが、残念ながらブラッキーにはその価値がこれっぽっちも分からなかった。積み重なった一番上の本にはタイトルが無い。開いてみると、こう書いてあった。


イリアンの日記


この部屋の持ち主であるイリアン・・・イェアメリスの母親の日記だ。かなり古いが装丁はしっかりしており、保存状態は良かった。


「見てもいいよね?」


誰に許可を得るともとれぬ台詞を呟くと、彼女は好奇心に勝てずに日記を読み始めた。


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3紀360年 蒔種の月3日


新たな旅に出る前に、故郷に立ち寄った。
同じサマーセットにあるとはいえ、私はギルドに籠りっぱなしだった。数えて見ると103年ぶりの帰郷だ。
コルグラッド・ウェイストは私が生まれたころと変わらぬ、緑に包まれた静かな村のままだった。
数日滞在したが、子供のころ遊んだ友達も何人か残っていた。


有難いことに両親は息災だ。久しぶりの食卓を共に囲いながら、シマーリンの魔術師ギルドを辞したことを報告する。父はせっかく帰ってきたのなら私に結婚してほしいとしきりに漏らしている。そんな相手がいたらね、とはぐらかしておいたが、正直わたしは結婚する気がない。今は準備している新しい計画のことで頭がいっぱいだった。母は驚いていたが、錬金術の店を営むつもりであることを話すと、応援してくれた。

明日には発たねばならない。名残は惜しいが、今は前を見よう



3紀360年 蒔種の月19日


2週間の船旅を経て、ストロス・エムカイに着いた。サマーセット島を離れるのは初めてだったが、今は不安よりも希望の方が強い。シマーリンのデュランノ学長は心配していたが、私は後任のネルサリオンを高く評価している。彼なら高等研究棟をしっかりと発展させるに違いない。
たまたま乗り合わせたアリノールの医師団に話を聞いた。短い滞在の後、彼らはシロディールに向かうらしい。アンヴィル辺りから中央入りするのだろう。彼らの話によれば、帝都ではペラギウス4世の体調がよろしくないらしい。


さて、私はハイロック行きの船を捜さねば。



3紀360年 恵雨の月1日


ギルドを辞して3週間。ようやくハイロックに着いた。ハイロックといっても、ここは本土から遠く離れた島だ。ヨクーダへ向かう船の中継点として栄えている、キルクモアという島だ。


学長の計らいで、東の海岸一帯の土地の権利はわたしのものだが、住人たちがどう思うかは別感情だ。近くの町の住人とは仲良くなっておくべきだろう。



3紀360年 恵雨の月5日


・・・


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どうやら日記は、イェアメリスの母親の半生を綴ったもののようだ。
日付が3紀360年だから、今から270年ほど前の話だ。ブラッキーは、アルトマーの途方もない寿命に驚きながら、時間が経つのも忘れて日記を読みふけった。


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3紀432年 収穫の月12日


あの頃はキルクモアに永住すると思っていたが、私の運命にはまだ続きがあった。
この日記を書いている横で夫が眠っている。先ほどまで私にちょっかいを出していたのだが、眠さに勝てなくなったようだ。
そう、私は結婚した。しかも、相手はブレトンだ。こんなことが信じられるだろうか。私自身そうなのだから、彼も驚いているに違いない。


こんなことを書くと冷めた家庭のように見られてしまうがそんなことはない。そうで無ければこんな扇情的な薄衣をまとって閨を共にしないだろう。いま私は新婚気分というものを満喫している。夫もそうだといいのだが、満足げな笑みが浮かんでいる寝顔を見る分には大丈夫だろう。



3紀432年 収穫の月13日


夫のウーゼルは東帝都社の幹部で、このキルクモア島に商館長として赴任してきた。何度か仕入れに私の店を訪れていたが、やがて私用で来る回数が増えていった。サフランとか、グラスポッドといったどこでも手に入るものを、わざわざ私の店に買いに来るのだ。
アルトマーとブレトン。生物的に見ても不釣り合いな私たちだったが、彼は見染めたと言い、私の方も不思議と嫌な気はしなかった。いや、むしろ心地よく感じていたのかもしれない。
そんな2人が結婚するまでには、それほど時間はかからなかった。
不思議なものだが、そうして2人は今ここに居る。


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ブラッキーから見たらイリアンも、その夫ウーゼルも遥か過去の人物だった。想像の元となる情報は何も無かったから、頭に浮かんできたのは自然とイェアメリスとアスヴァレンの姿になった。シーンに当てはめてみたが、なんかしっくりこなくて彼女は一人笑いを漏らしてしまった。


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3紀432年 蒔種の月7日


夫ウーゼルの配置換えに伴い、私は店を畳まねばならなくなった。
今までに経験した中で一番長い旅。仕事の忙しい彼はちょうどいいということで、今まで出来ていなかったハネムーンを兼ねた移動をすることになった。
旅とは言っても引っ越しだから、荷物はかさばる。こういう時、帝都社の関係者であるというのは都合がいい。



3紀432年 真央の月22日


タムリエル中が戦火に見舞われている。
ユリエル7世が暗殺され、デイドラの侵攻が始まっていた。島は大丈夫だろうか? ゲートが開いたらキルクモアのような小さな島はひとたまりもない。心配だが、今わたしたちは洋上にいるし、あれこれ悩んでもなにもできない。



3紀433年 栽培の月11日


春先にキルクモアを出港して2カ月が過ぎた。私たちはウインターホールドに着いた。
ノルドは野蛮人だと聞いていたが、実際自分の目で見て見ないと分からないものだ。巨大な街の中心に居立する魔術師ギルドは壮観だった。昔の職場、シマーリンの魔術師ギルドに匹敵する規模かもしれない。
スカイリムはデイドラの侵攻をよく防いでいるようだ。帝国の一個師団に匹敵する戦力が同胞団に集っており、ゲートが開くとすぐに対処の部隊が送られるのだ。



3紀433年 南中の月3日


スカイリムの大都市を堪能した私たちは、初夏になるころ、ようやく目的地であるモロウィンドの土を踏んだ。
ヴァーデンフェル島の玄関口ともいえるグニシスの街。巨大な植物や不思議な生き物、サマーセット島にも通じるものがあるが、モロウィンドのそれらは極彩色で、すべてが新鮮だ。
錬金術師としての血が騒ぐのを感じたが、いま私は商館長夫人。たしなみと慎みを持って、夫の任地であるバルモラまで向かわなければならない。



4紀1年 暁星の月27日


シロディールのチャンピオンが、デイゴン卿の軍勢を打ち破った! どこに行ってもそのニュースが飛び交っている。皇帝は姿を消し、タムリエルの帝国は瀕死だが、これから世界が少しでも良くなることを祈ろう。
ウーゼルは相変わらず私に優しい。バルモラでの暮らしは慣れないことも多いが、おおむね快適だ。



4紀4年 星霜の月25日


待望の赤ちゃんが出来た! しかもサートゥルナーリア祭の日に分かるなんて、素晴らしい贈り物!
毎日セックスをして100年に1度あればいいというエルフ女の妊娠確率を考えると、彼との間に子を設けられたのは奇跡としか言えないかもしれない。
彼と相談して名前はもう決めてある。男の子だったらイズヴァーン、女の子だったらイェアメリスだ。どちらも月夜を意味する古代アルドマーの王族の名だ。


=*=*=*=*=*=


「え? これってメリスねえちゃんのこと?」
ブラッキーは日記に姉の名前を見つけて、驚いた。


「でも第4紀4年って、今から200年近く前じゃないか。・・・別人かな?」


その後は、妊婦に特有の多幸感と不安を綴った日々がしばらく続いていた。日記も後半部分に差し掛かっている。立ったまま微動だにせず読みふけっていたブラッキーは脚のしびれを感じ、いったん休憩を挟んだ。


一息つく最中も、先が気になってたまらない。

そして読むことを再開した彼女は、急に文体が変わったことに気が付いた。


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4紀5年 収穫の月3日


人の日記に他人が書き足すというのはずいぶんと無作法であるのは承知している。しかし本人が動けない状況の中で、記録を残そうとしたときにこれが最良だと考えた。

私自身の紹介にページを割くつもりはない。名前はテルドリン・セロ。傭兵だ。
縁あって東帝都社バルモラ商館長夫人イリアン・・・つまりこの日記の持ち主だ、を搬送している


隊商の護衛でバルモラに滞在していたあの日、レッドマウンテンが噴火した。・・・実際、噴火というのはかなり控えめな表現で、爆発・・・いや大爆発と言った方が正しいと思う。
ヴァーデンフェルの中腹に位置するバルモラは、一瞬にして爆風になぎ払われた。たまたまレドラン式の地下酒場に滞在していたのが私の命の分かれ目だった。命を拾った私は、同じように難を逃れた傭兵仲間を再編して、町の住人の避難を手伝っていた。


逃げ惑うグアルの群れに轢かれないよう注意しながら、我々は生存者を捜索していた。
倒壊した商館のがれきの中から、瀕死の商館長夫人を発見したのは本当に偶然だった。商館の地上部分はすべて吹き飛ばされ、商館長をはじめ地上階に居た者たちは何が起きたかもわからないうちに息絶えたのだろう。
助け出した夫人も意識がない状態で、背中に大やけどを負っていた。


バルモラの衛星都市からも難民が続々とあふれ出してくる。ここでは満足な治療も与えられない。我々もここにとどまる理由は無い。むしろ次の噴火がいつあるかも知れず、立ち止まるのは危険だった。
遠く離れた首都、モーンホールドまでは被害が来ていないと思ったが、ここから向かおうとすると溶岩地帯を横断し、真理省の墜落した酸の湖を越えなければならない。グニシスへいくことを考えたが、ヴァーデンフェルに留まることは得策で無いと仲間は言った。確かに、内海を越えて大陸側に居た方が安全だ。しばし相談した結果、我々は北西にあるブラックライトの街を目的地と定めた。


長く、辛い旅になるだろう。商館長夫人は身籠っているようだが、おそらく子供は助からないと思われる。だが、今はできることを全力でやるだけだ。



4紀5年 収穫の月10日 セロ記す


バルモラを去ってから1週間が過ぎた。ブラックライトも火山灰の影響が大きい。近いうちにここも難民で溢れかえるだろう。そういう我々も難民の一部な訳だが。
こんな時だからこそ、自分の心に悔いの無いように選択はするべきだ。そう思った私は傭兵仲間を一旦ここで解散させた。各々は自分たちの思いを実現しにまたは故郷の安否を確認しに去って行った。


ブラックライトのアズラの聖堂は、いま一般開放され、怪我人であふれかえっている。
イリアン・・・商館長夫人はよく持っている。病床の中で半身を起こして食事ぐらいはできる。しかしやけどと衰弱が思いのほか深刻だ。次の手段を考えなくてはならない。どこかに高名な医者でもいればよいのだが・・・



4紀5年 収穫の月15日 セロ記す


モロウィンドは壊滅的な状況だが、グレートハウスの中でもレドラン家とテルヴァンニ家は比較的、まだ組織を維持できている方だった。故郷を離れてしまうことになるが、ブラックライトの対岸、ソルスセイムの島にテルヴァンニ家の分派が統治する街がある。何年も前に一度訪れたことのある島だ。私は部外者だが、過去のある功績により一族と認められている。こういうツテはこういうときにこそ使うべきだろう。・・・しかしどうやって渡ったらいい?
あのとき発見した、アルド・ルーンの魔術師ギルドの飛行艇が今も有ればどんなに良いことか。・・・最近私も愚痴っぽくなっているようだ。今は現実的な方法を考えねば。どこかで雇える船を探そう。


=*=*=*=*=*=


思わぬ登場人物に、ブラッキーの興味は更に掻き立てられた。イェアメリスとの会話の中で出てきた凄腕の傭兵セロの名前が出てきたのだ。動けない間の記録をイリアンに代わって彼が記していた。


イェアメリスの母のその後。ネロスとの邂逅。イェアメリスの出産などが日記には記されていた。そして、再び日記の書き手がイリアンに戻り、彼女が姉から聞かされたテル・ミスリンでの生活、キルクモアへの帰郷、母子二人での生活といった手の届きそうな数年前の過去まで、日記は詳細に語っていた。


日記は終わりに近づいていた。彼女・・・イリアンの生涯が閉じる直前まで進んだとき、ブラッキーは想像さえもしていなかった事実が書かれているのを発見した。


島に点在する地下室、そして装置の目的、その効果についての記述を見つけたのだ。
3人がこの半月間、謎として追っていた答えがすべてここには記されていた。


「え・・・そんな・・・」


読んだブラッキーの表情が凍り付いた。


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「あの装置って・・・」


日記を握る手に力が入る。


「どうしよう・・・追いかけなきゃ! ねえちゃんが死んじゃう!」


洞窟の壁面がブラッキーの声で小さく震えたが、彼女が部屋を出て行くと、部屋はやがて元の静謐を取り戻した。


(ふむ・・・妹をまずは外に出してやらねばならぬかの・・・)


無人の地下室に声が響いたような、風の音とも分からぬ微かな空気のざわめきが起こったが、それを感じる者は残っていなかった。




・・・




イェアメリスが島を去ってから3日後、今月の巡回交易船が着き、町が騒がしくなっていた。


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「まさか、一番冒険に出たがってたボクが留守番になるとはね」
ブラッキーは自嘲気味に言うと、兄に笑いかけた。しかし心は別のことを考えている。


「あ、ねえちゃんの家も少し風を通しておいてあげないとね」
彼女は兄にウソをつくと、日課としているイェアメリスの小屋に向かった。


(これは決して負け惜しみではないが・・・、6つすべて見つけたからと言って何か新しい発見があるわけでも、何かが起こるわけでもない。結果だけ見れば今俺たちが持っている情報以上にはなるまい)


アスヴァレンはそう言ったが、それは間違いであった。


この島で鍛冶職人としての生活が待っているとブラッキーは思っていた。退屈、だが平和で人間らしい生活。
しかし6つ目の地下室、そしてイリアンの実験室を見た今、それが束の間の夢であることを知ってしまった。
いま、一人で抱えきれないほどの秘密を知ってしまい、ブラッキーは悩んでいた。


イェアメリスの置き手紙はエドウィンとカグダンに見せた。2人は驚き、最初はまさかの駆け落ちを疑ったが、はっきり"戻ってくる"と書いてあったので、錬金術師か東帝都社の仕事だろうということになり、確証も何もないが皆それぞれもっともらしい理由を自分で考え、それを信じるしかなかった。


もう一方の、回収してきたイリアンの日記のことは兄にも話していない。
ブラッキーが大事に保管している。


今回の船を逃すと、次の船までまた半月以上待たなければならない。行くなら今日だ。しかし鍛冶親方のウンガーも彼女の弟子入りを承諾してくれたばかり。いきなり弟子がいなくなる、理由は言えない、そんなことが起きたらどう思うだろう。


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折角仲良くなった町の人たちを裏切るような形になってしまう、それだけは間違いなかった。しかし行かなければならない。


「まあ、ここんとこ、うまくいきすぎていたし、こっちの方がボクらしいよね・・・」


ブラッキーは他の住人にばれないよう、日課の風通しにかこつけて、イェアメリスの小屋で隠れて旅立ちの準備を始めていたのだ。準備は整った。今夜にでも船に忍び込もう。


彼女は東帝都社の巡回交易船に密航するつもりだった。




・・・




何食わぬ顔をして家に戻ってくると、見知った顔が訪れていた。扉の前にエドウィンと鍛冶屋のウンガーが立っている。


「あれ? おっちゃん、それに親方、どうしたの?」


2人は驚くべきことに、このところの心配を杞憂に終わらせる知らせを持ってきていた。


キルクモアの鉄鉱山の復旧に時間が掛かるため、鉄製品の輸入をどこかと正式に契約する必要があった。近くは150リーグ東の対岸、キャムローン。次いでツテのあるソリチュードのベイランド。2つが選択肢に入っているという。


エドウィンは島を離れるわけには行かないので、鍛冶屋のウンガーが代表として交渉に赴くというのだ。親方が行くなら弟子も随伴していた方が何かと都合が良い。その話を持ってきたのだ。


「仕事の大半は荷物持ちと待機だが、お前さん一緒に来るか?」


「行く行く! 絶対着いてくよ、ボク!」


「槌をふるうのも鍛冶だが、鉄鋼全般の知識を身につけるのも重要だからな。普通と逆だが、船の中で座学から始めるとしようか」


「勉強はあんまり好きじゃ無いけど、頑張るよ」


エドウィンが禿げ頭をポリポリ掻きながら、ウンガーに笑いかける。そして付け加えた。

「な、言ったとおりじゃろ」


「ソリチュードに行ったらメリスの様子を見てきてくれ」


「そういえば、何で2カ所なの? 近場のキャムローンで十分じゃない?」ブラッキーにとっては都合が良かったが、彼女にはソリチュードに行く合理性がいまいち見えてこなかった。エドウィンに説明を求める。


「価格の交渉権を相手に一方的に握られないためにじゃ。仕入れ先を複数持つ、2者購買は貿易の基本じゃ」そして付け加える。「それと・・・すぐ戻ってくるようなことを書いてあったが、あの娘は世間を知らんから、いろいろ面倒ごとに巻き込まれるかもしれん」
やはり娘のことが心配なのだ。本当は自分が行きたいのだろう。


「あ、言えてるね。ボクみたいなの拾ってくるしね」


「もう娘はいらんぞ、わしは」


「あはは、分かった。任せて。ねえちゃん引っ捕まえてくるよ」
ブラッキーは冗談を飛ばすと、胸をたたいて請け負った。


「お前さんは十分知っているようだが、この世界はやさしいものではない」


エドウィンは少し真面目な顔になった。「メリスは姿形こそ立派な大人じゃが、ある意味純粋で、わし等のように死を見すぎていない、この前のことが相当こたえているはずじゃ」


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「老婆心かもしれんが・・・そういう危ういところもあるから、誰かが付いていてやらねばならんと思っている。今のところはな」


「アスヴァレンのあんちゃんが一緒だったら心配ないんだけどね」


「うむ。しかし一緒に行ったかどうかも分からんしのう」


「ま、いろいろ見てくるよ!」


そんなやりとりが交わされ、鍛冶職人の親方と弟子は巡回交易船に乗ることになった。最悪そうしようと思っていた島からの脱走と密航はもはや不要だった。ブラッキーは心に何か引っかかるモノがあって、思い出そうとしたが、何を忘れているのかもあまりよく思い出せず、頭を振ってすぐにその試みを諦めた。




・・・




次の朝、彼女は元気に出発した。


「じゃあ、兄貴、行ってくるね!」


カグダンは駆け出してゆく妹を微笑んで見送る。
主に続いて妹も旅立ってしまうが、誓いは残る。自分の居場所を見つけたオークの顔は安らかだった。


キルクモアには秋の日差しが降り注ぎ、心地よい風が吹いていた。


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(第一部 完 ・・・第2部へ続く)




※使用mod


・Destructible bottles Extended  ・・・ワインボトルを叩くと割れるようになるmodです。
とっちらかったイェアメリスの小屋w、を演出するのに使いました^^


・ニルンの世界地図 ・・・The Imperial Library(帝国図書館)にて紹介されている

https://www.imperial-library.info/content/world-map-nirn

を使用させて頂きました。



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