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TES大好き、もきゅがスカイリムの物語をお届けします

◆Chapter: 1-11 消えた2人

2017
19

小型の商船がキルクモアの港に錨をおろしている。
一般的な2本マストのブリッグで、キルクモアに寄港してくる東帝都社の商船と同型だった。
昨日イェアメリス達が発見した水平線上の船が、一晩たって入港してきたのだ。


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大戦終結後、スカイリムとシロディールの通商は正直、あまり芳しくない。
ブルーマからヘルゲンへ繋がるペイルパスはサルモールによって閉鎖されており、コロヴィア台地からハンマーフェルを抜けてファルクリースに抜ける最短ルートもコストがかかるために敬遠されていた。ハンマーフェルは大戦後の白金協定により帝国に見捨てられた形で離脱していたため、自国に流通するシロディール産品に対して、大幅な報復関税をかけていた。


帝国がアルドメリとの冷戦を維持している第4紀の200年近辺、帝国軍の影響力が弱まった地方領は、なし崩し的に自治権を拡大し、ハンマーフェルに倣って自国の領内の通行に安全保障料と言う名目の関税をかけるようになっていた。
その結果、衛兵や守備隊の目の届かない密輸とも言うべきルートが開拓され、更にそれを狙うならず者や山賊団が横行しはじめる・・・シロディールから離れれば離れるほど、陸路は安全でなくなっていた。


TradeRoute


一方で、海路での物流のほうは賑わっていた。


東帝都社がその火付け役で、大戦後30年の間に、大規模な海上交易によって勢力を拡大していた。今では帝国内にあって、元老院とはまた違った第2の政府ともいえる力を誇っている。海に面した地方都市の野心ある有力者たちもその流れに乗り遅れまいと、こぞって船を出しているのだ。
キルクモアに入港した今回の船も、そういった事情から運航されているものの一つだった。


入港したのは、コロールの羊肉とスキングラードのワインを詰んで、ソリチュードまで向かうスカイリム船籍の船だった。


「エリクール商会の船とのことです。わたしも見るのは初めてです」
港から戻った労働者の話を聞いて、補佐役がエドウィンに報告していた。


「聞いたことないな。ソリチュードと言うなら、ウンガーに聞いたら知ってるんじゃないか?」
ウンガーはキルクモアの鍛冶屋だが、ソリチュードのベイランド親方の下で修業した過去を持つ。彼の話に寄れば、エリクールは若くして頭角を現し、ソリチュードの従士についた重臣の一人らしい。若いころから商才もあり、いずれ重要な役目を担うであろうと目されている人物とのことだ。商売にも手広くかかわっているらしい。


港町だけあって周りで働く者たちも手馴れている。早朝に入港した船の、停泊手続きと一通りの荷物の積み下ろしが終わったのはまだ朝のうちだった。


船が着けば船員は陸に上がり身体を休める。入港後のごたごたの直後は、船の警備が手薄になる時間のひとつだ。エドウィンたち迎え入れる側の町の人々は襲撃・・・廃塔からの攻撃を怖れて気を張り詰めていたが、今のところ何も起こる気配はない。


「船長が提出した書類には、寄港予定は13日までと書いてありますね」


「6日間か、意外と長いな」


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「オーリドンから来る別の船と洋上で合流するんだそうです。そっちが少し遅れているので、出航を遅らせて時間合わせをするそうです」


「ふむ、厄介なことがなければいいが・・・」


残念なことにキルクモアに入港したエリクール商会の船は単独で、護衛艦の類は随伴していない。船員の数も予想以上に少なかった。エドウィン曰く、襲われやすい船の典型とのことだ。


「エリクールといったか? どこのお坊ちゃんかは知らんが、船員をケチりすぎだ。あれでは海賊に狙ってくれといっているようなものだ」エドウィンはため息をついた。


「安全のために船団を組むんだとか」


「まあ、そうだが、ここの港で単独無防備であることには変わりあるまい」


「どこの勢力の船も同じようなものでしょう? 護衛艦が運用できる東帝都社が特殊なだけですよ。商機を逃がしたくなくて、みな必死なんですよ」


船の入港を聞いて宿営地をたたみ、エルヤー隊長も酒場に詰めていた。


「・・・さすがに来ると同時には襲ってこなかったな」
いつでも戦闘できるよう身につけた装備は、一部の隙もない。


「いつ襲ってくると思う?」


「奴らは船がいつ出港するか知らん。やはり、今晩と考えるのが自然じゃろう」


いつもの面々が集まっている。イェアメリスとブラッキーもその輪に加わっていた。


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先日の偵察でイェアメリス達が入手した情報によれば、船の奪取を目論むならず者たちは15人。そのうち3~4人が町を混乱に陥れるために農場を襲撃してくるはずだった。


「農場の方の準備は?」


「イーリックさんがアガルドさんに話しに行っていると思うけど・・・」
イェアメリスは、やや上気した顔でそういって、横にいる妹を見た。昨日の晩から興奮して、あまり良く寝れていないのだ。並んでいるブラッキーはそれとは対照的に、いつもどおり良く食べ、よく眠ったようで、元気いっぱいだった。


「お前さんを狙っているやつが襲撃に来るんだって?」


「え、ええ、そういってたわ」
嫌なものを思い出すように、彼女はため息を漏らした。


「もちろん。ねえちゃんはボクが守るよ!」


キルクモアで農場と言えば、町のすぐ外にあるアガルドの農場しかない。
町は低いながらも防壁に取り囲まれており、出入り口には門衛が立っている。気づかれずに内部に騒ぎを起こすのは困難だ。ならず者たちが港から見たときの町の裏手にあたるアガルド農場に目をつけたのは自然の成り行きだった。
彼らはそこを逆手にとって、準備を進めてきた。


「いいか、もう一度おさらいをしておくぞ」
エドウィンは自分が立てた筋書きを、集まった面々に再確認した。


AttackBandit 1


「何も気づいていない体を装いつつ、住人は家の中に避難。エルヤーたちは農場の裏手で待ち伏せをする。そして襲撃に来た奴等をまず始末する。


AttackBandit 2


そのあとエルヤー隊は密かに港に移動。ワシらに合流じゃ。


AttackBandit 3


準備が整ったら農場で偽の火を放ち、騒ぎを演出する。


AttackBandit 4


合図だと勘違いして船を奪いに来た奴等を再度待ち伏せ、殲滅じゃ。いいな」


単純極まりないがエドウィン曰く、軍隊でもない限り、複雑な作戦を立てても機能しない、とのことだ。気づかれていない点を徹底的に利用する。そういうものであった。


「昼間の間、ワシらはここに、エルヤー隊は港側の門に詰めておく。何か連絡があったら伝えてくれ。イーリック、シルガン、錬金術師どの、ブラッキーは見張りを兼ねて先に港の塔へ。夜はいいとして、問題は昼間じゃ。万が一夜を待たずして襲撃が始まったら仕方ない。そのときは総力戦じゃ」


「メリスは女たちと協力して、教会でいつでも救護に当たれるように。何かあったら補佐役やウンガーに手伝ってもらったらいい」


ややこわばった面持ちで、イェアメリスはうなずいた。
集まった面々はそれぞれ自分の役割を再確認すると、酒場を後にしはじめた。


「ねえちゃん、準備はいい?」


ブラッキーは緊張している姉を見た。イェアメリスはこの戦いに参加する予定ではなかったが、だからといって責任が軽いわけではない。皆それぞれが自分の出来ることで重要な役が割り当てられているのだ。


「あたしは大丈夫。お兄さんは?」


「兄貴なら教会にいるよ。さすがにねえちゃんの小屋に置きっぱなしと言うわけにも行かないからね」


「・・・確かに、あそこなら安心ね。でもお兄さん、ステンダールの神像が気にならないといいんだけど・・・」この時代、教会は医療を与える中心的存在だった。


「大丈夫だよ。オークは小さいことは気にしないから」


「なんか適当ね、あなた戦いたくってしょうがないんでしょう?」


「あはは、ばれた? うん、ボクはいつでもいけるよ。あんちゃんと一緒に塔が持ち場だったね。そういえばあんちゃんどこだろ? さっきからいないけど・・・」


イェアメリスは階段の上を指し示した。
「上で何か準備してたわ。薬か何かじゃないかしら?・・・あ、噂をすればなんとやらね」


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階段を降りてきたアスヴァレンは、2人の仲間に目を留めると寄ってきた。


「メリスはこれから教会か?」


「ええ。ちょっと小屋に戻って治療薬やリネンを取ってくる。そしたら教会に詰めるわ」


「うむ。なるべく早く教会に入れ。船はもう来ているからな。ゴームとかいうダンマーがお前を狙っていたろう」


イェアメリスは露骨に嫌そうな顔をした。
「みんなそのことばっかり。ううう・・・あの顔は思い出したくないわ」


「準備が出来たら教会に篭って外には出るな。番人テオリックと一緒に居ろ。あいつは見かけ以上に強い」


「分かったわ。それにしても、ちょっと驚いた」
彼女は同意しつつ、少し考え込む素振りをした。


「何がだ?」


「あなたも戦うとは思わなかったから。関わらずにいるかと思ったわ」


アスヴァレンは苦笑すると、声を落として2人の仲間につぶやいた。
「お前たちのためさ。この島で、”こちら側”に居るのを示すには、協力するのが一番分かりやすかろう?」


「ええ、でも・・・」


「偉そうに説教を垂れた身だ。オレの都合で仲間を島に居辛くさせてしまっては、言っていることとやっていることの筋がつかん」


「ふ~ん」ブラッキーはニヤニヤしながら錬金術師を見た。「孤高のあんちゃんも、とうとうボクらを仲間と認めてくれたってわけだね」


「バカをいうな。帰る船がなくなっては困る、協力するのはそのついでだ」
アスヴァレンはごまかすように、弓を担ぐと店の出口に足を向ける。


「素直じゃないなぁ~」


「やっぱり、あの船に乗るつもりなのね」


「うん? ああ・・・その話は後だ」アスヴァレンはブラッキーを促した。「ほら、塔に向かうのだろう。行くぞ」


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「ねえちゃん、じゃあ行ってくる」
ブラッキーも、置いていかれまいと扉に駆け寄った。


「ホント、気をつけてね。・・・アスヴァレンも・・・」


長身の錬金術師はうなずくと、オークの娘と共に酒場を出て行った。
後ろ姿をしばらく見送っていた彼女だったが、やがて気を取り直すと自分の役目を果たすために小屋に向かったのだった。




・・・




「ふぅ、こんなものかしらね・・・」
乱雑に散らかった薬を眺めると、タンスの中から巻かれたリネンを何本か取り出して袋に詰め始めた。


イェアメリスは額の汗をぬぐった。
いつもは一ヶ月かけて準備する回復薬を、ピッチを上げて仕上げる。ならず者の襲撃に備えて、彼女は他の女たちと後方に控えて、けが人の救護や治療に当たることになっていた。そのための準備として、いったん小屋に戻って回復薬、傷薬、リネンなど手当てに必要な準備をしているのだった。


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テーブルの脇ではいつものように”ぷぅ”がちょろちょろしている。


「んもう・・・。ぷーちゃん、ニンジンはあげたでしょ」


「ぶぅ・・・」


「じゃあ、あとキャベツ1枚だけよ?」


「ぷ?」


樽から食材を出して放ると、彼女は長時間の同じ姿勢でこわばった背筋を伸ばし、再びまた錬金台に向かう。そして鉢を操りながら、さっきの酒場での出来事を思い出す。しかしその物思いは、控えめなノックにより中断された。


音に反応して、横で様子を見ていた”ぷぅ”の垂れた耳がぴくっと広がる。


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「どなた?」


「おねえちゃん、あたし!」


聞き覚えのあるかわいらしい声。扉を開けて外に出ると黒い髪の少女が立っていた。手にはパンが山積みになった籠を持っている。アガルド農場の娘、エミーだ。


「あら、エミー。どうしたの?」


「この前クモを退治してくれたから、そのお礼。お母さんが持っていけって」


イーリックはアガルドに、商船の到着とならず者のことを話していないのだろうか? 今は危険だというのに・・・そう考えがよぎったが、来てしまったものは仕方がない。彼女はエミーを迎え入れた。


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「エミー、お礼をいただくのはありがたいのだけど、今日は危険よ? お父さんから何も聞いてないの?」


「え、何がキケンなの? あっ! うさぎさんだー!」


少女はイェアメリスの小屋の中で走り回る”ぷぅ”に目を奪われ、彼女の話など聞いていなかった。


「ねぇねぇ、このうさぎさん、もしかして飼ってるの~?」


「え? 飼っているっていうか、勝手に住み着いているのよ」


「わぁ、いいなぁ! ねぇ、うさぎさん、こっち来てよ~」


エミーは無邪気に、”ぷぅ”を追い駆けて家の中で駆け回りはじめた。


「あっ、エミー! いろいろ置いてあるから気をつけてね。薬ビン蹴っ飛ばしちゃだめよ」
イェアメリスの小屋は、相変わらず散らかっている。片付けに苦手意識を持ち、もう自分でも改善は諦めていたが、他人を迎え入れるときには我ながら少し恥ずかしかった。


最近あまり構ってもらえていなかった”ぷぅ”のほうも、エミーに近寄ったり離れたり、わざとちょっかいを出してはじゃれ付いていた。しばしの間、部屋の中での追いかけっこが続き、そのあとようやく”ぷぅ”の方も小さい人間の品定めが終わったらしく、少女の近くに寄ってきて素直に撫でられるようになっていた。


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散らかった錬金術師の小屋は、子供の目には興味津々のようだ。ウサギとの関係を確立すると、エミーは”ぷぅ”を撫でながら、物珍しそうにきょろきょろと小屋の中を見回しはじめた。


その目が床の一点で止まる。転がっている何か石ころのようなものに目が留まった。
不思議な赤い光が明滅する石・・・彼女たちが探索中に見つけた例の、謎の鉱石だ。
アスヴァレンとブラッキー、イゼリック導師に渡した残りが1つ、しまい忘れて転がっていた。


「わぁ、綺麗! 光ってる」


エミーは大きい鉱石を持ち上げて、イェアメリスのところまで持ってきた。


「おねぇちゃん、これなに?」


「ああ、これはね・・・」石を受け取って、彼女はどう説明しようかと思案しかかった。


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「この石あたしにちょうだい!」


「えっ?! これ?」


イェアメリスは意表をつかれて、声をひっくり返してしまった。
秘密の部屋の鍵になる石だったが、エミーがそんな地下室に行くことはまずありえない。今まで調べた中では、鉱石自体にも別に害があるようには思えなかった。しかし・・・あげてしまっていいのかしら・・・? こんなもの持って帰ったらアガルド夫妻が驚くに違いない。


「こんな大きいの、持って帰れないじゃない?」


「え~、でもほしいんだもん。ほしいほしい!」


困ったイェアメリスは、エミーから取り上げた鉱石を、どうしたものかとしばし眺めた。


「ほしいほしい!」


「んもう、分かったわ」彼女は根負けすると、少女に向き直った。
「じゃあ、これを削って小さいもの作ってあげる。それでいい?」


エミーはちょっと考えてから明るく返事をした。「うん!」


イェアメリスは錬金台に向かうと、小さなノミを使って鉱石を砕き始めた。
中くらいの破片で形がいいものを見繕って、尖った角を落としてゆく。横から少女が興味津々で見守る中、鉱石は小さいペンダントヘッドに姿を変えていった。


「すご~い! れんきんずつって、すごいんだね~」


「そうよ。おねえちゃん優秀なんだから」


まあ、錬金術なんて理解しにくいわよね・・・そう心の中で苦笑しながら、出来上がった作品を掌の上で転がして検分した。
「これでいいかしら。紐を通して、出来上がり~」


ペンダントの加工が錬金術かどうかは別として、横で感心しながら目をキラキラさせる少女の眼差しは、彼女の緊張を少しだけほぐしてくれた。重くなりがちな気分が、少し明るくなった。


鉱石をそのままミニチュアにしたぐらいの大きさで、赤い光が明滅するのはそのままだ。加工しても光が失われるわけではなさそうだ。後でアスヴァレンに教えてあげよう、彼女はそう心の中でメモをした。
イェアメリスは埃を払うと、出来立ての小さなペンダントをエミーに渡す。


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「ありがとう! おねぇちゃん大好き!」


エミーははしゃいで、またしばらく小屋の中を駆け回った。”ぷぅ”がそのあとを追いかけるものだから、イェアメリスは慌てて出来立ての治療薬を部屋の片隅に退避させなければならなかった。


「まあ、ちょっと落ち着きなさい」イェアメリスは苦笑しながら、火にかかったポットを確認した。「せっかくだから、お茶入れてあげるわね」そう言ってハーブを砕いた粉末をポットに放り込む。甘酸っぱいいい匂いが小屋の中に広がった。


「ねぇねぇ、おねえちゃんもいっしょだね!」
エミーが”ぷう”と彼女を見比べて、大発見を打ち明けるように自慢げに言った。


「え? なに?」


「だって、ぷぅちゃんもおねえちゃんも同じたれ耳でしょ? 仲間なんだ」
耳のことを言っていることに気がついて、彼女は微笑んだ。


「あはは、そうね。同じ仲間かも」


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ちょっとしたお菓子と、ハーブのお茶で2人はしばしおしゃべりをした。
もっとも、エミーの好奇心から来る質問に答えるという繰り返しだったが。


しばらくして、エミーは自分の用事を思い出したようで、イェアメリスに外出をせがんだ。


「ねぇ、おねえちゃん。このあとお花摘みに行こ? ウサギさんも! ・・・ウサギさんって、お花食べるのかなぁ?」


「タンポポだったら食べるわよ」
イェアメリスは微笑んだが、すぐに真面目な顔になって、少女に向き合った。


「エミー、今日はダメなの。危ないから家の中に居なくちゃいけないのよ」


「え~、つまんない。じゃあ、エミーおねえちゃんの家にいる。ぷぅちゃんと遊んでる」


「だめよ。あたしも教会に行かなくちゃならないから。送って行ってあげるわ」


「ぶ~ぶ~」


「文句言ってもだ~め。アガルドさんに怒られちゃうわ。さ、お昼も過ぎちゃったし、これ飲んだら行きましょ」


なだめたりすかしたりを繰り返し、少女を納得というか説得できるまでに少し時間がかかってしまった。ようやく彼女がアガルドの娘を連れ出せたのは、昼が過ぎてからだった。




・・・




同時刻。
小屋から見える島の東南の沖合。座礁した船に人影が見え隠れしていた。
装備も風貌もバラバラで、一目見て町の住人でないことが分かる。上陸したならず者の数人が、難破船に戻ってきているのだ。彼らは数日前、取る物も取りあえず嵐の中退去したままになっていたが、何か使える物が残っていないかと物資回収をもくろんでいた。


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「苦労して海を泳いできたってのに、何も残ってねぇじゃねぇか」


リーダー格らしいダンマーが、足元に転がるサルモール・ウィザードの死体を蹴飛ばしながら毒づいた。
ならず者たちのナンバー2、ゴームだった。


「おい、レディン、そっちは何かあったか?」


呼ばれた長髪のノルド山賊は首を振った。
「だめだな。ご丁寧に鎧まで脱がされてやがる。島の連中に回収されちまったんだろう」


「無駄足か・・・ん? 魔術師先生よぉ、何やってんだ?」


「くそっ! 無い」
ならず者一味の魔術師は、甲板の女士官を探って悪態をついた。


「何が無いんだ?」訝し気にゴームに尋ねられ、魔術師が慌てたように返す。


「あ、ああ・・・こいつらが運んでいた薬が残ってないかと探してみたんだが、・・・無いんだ」


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「やめとけ先生。あんたも見たろう? アレ浴びたやつが暴れ出したのを」
ゴームの一言は、船が座礁する前に起きた事件を仲間に思い出させた。


航海中の船に途中から乗り込んできたサルモールの一隊は、奴隷運搬船を買い取ると、船長とはすでに話ができていたらしく、奴隷商人であるユディトやゴームの勢力を自分たちの指揮下に組み入れた。船の運航に関することには口を出してこなかったが、船の中層一角を立ち入り禁止にした。


ゴームたち奴隷商人は最初、何か重要な運搬物でも保管しているのだろうという程度にしか思っていなかったが、やがて不穏なうわさが船の中で流れ始める。閉鎖された区画には何人かのウィザードが詰めていたが、彼らは時々ならず者たちに、衰弱した奴隷や死亡した者を運んで来るよう要求したのだった。


中で何が行われているか分からぬまま、秘密の区画に近寄れない奴隷商人たちは、不満半分、恐怖半分でサルモールたちと航海を続けていた。


そしてあの日・・・船が難破する直前。悲鳴のような叫び声が上がると閉鎖された区画が解放され、サルモール・ウィザードたちがあふれ出してきた。

ウィザードたちは「薬品を浴びた!」などと口走っていたが、やがて彼らは正気を失って殺戮を始めたのだった。
サルモール司令官、側近と奴隷商人の戦士たちが協力して応戦したが、狂ったように暴れるウィザード数人は手ごわく、船内は血みどろの戦いに巻き込まれていった。ウィザードたちはゾンビのように、殺されるまで殺すことをやめなかった。
応戦した者の中には、死体が起き上がったとか、ウィザードの顔が焼けただれて灰のように崩れ落ちたとかいう者もおり、船は混乱の中操作を失い、破滅の岩場へと突き進んでいったのだった。


「あれは金になりそうだと思ったんだが・・・」魔術師は未練そうにつぶやいた。しかしゴームははっきりと首を振った。


「薬はお頭の指示で海に投棄した。どんなものかは分からねぇが、変な気を起こそうとするなよ。俺たちが用があるのはもっと現実の、食い物や装備。役に立つものだ」


「ああ、分かってる。幸いかどうかわからんが、あの区画も完全に海に洗い流されてしまったようだし」


「そのほうがいいんだよ。・・・あれは俺たちの手に負えるようなものじゃねぇ」


別の部屋を探っていたレディンが戻ってくる。
「魔術師先生はあの薬に何か心当たりがあるんかい?」


「いや・・・俺もお前たちが見たのと同じ程度のことしか知らん」


「ふ~ん・・・、あ、アイダも来たぜ」


甲板の反対側から女戦士が身軽に戻ってきた。


「何かあったか?」


「いいや、さっぱりだね。でも・・・小舟を見つけたよ」


「小舟? そんなもん積んでたかこの船?」


「いや、ここじゃないよ。すぐそこの浜に泊ってるのさ。ついでに言うと小屋もあるね」
アイダと呼ばれた女は、難破船から見える海岸線、そのちょっと内側にぽつんと建っている小屋を指して言った。


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「ろくな収穫もなかったし、行ってみましょ」


「町の連中に見つからねぇか?」


「離れてるから、慎重に行けば大丈夫なんじゃない? ほら、おあつらえ向きに霧も出てきたわ」


ゴームは少し考えるそぶりをしたあと、うなずいた。
「襲撃までの時間つぶしに丁度いいな。住人が居たら監禁しちまえばいい」


彼らは実りのない難破船漁りを切り上げ、浜に見える小屋に向かって泳ぎはじめた。
町から離れてぽつんと浜辺に立つ小屋・・・イェアメリスの小屋に向かって。


岸から上がると水を落とすこともせず、彼等はどかどかと小屋に踏み込んだ。
扉には鍵がかかっていなかった。住人がすぐに戻ってくるかもしれなかったが、そんなことに構うような彼らではない。
ゴーム達はレディンを見張りに残し、手慣れた様子で部屋の物色を始めた。


散らかってはいたが、生活に必要なものが一通りそろっている。むしろ快適な小屋であった。
ほんの少し前まで人がいたのを匂わせるように、部屋の中にはハーブティの香りが充満しており、ポットからは湯気が出ている。


「あら、なかなかいい小屋じゃないの」アイダは脇にしつらえられている樽の栓を外し、流れ出す水を手で受けると顔を洗った。
「新鮮な水の貯えなんて、贅沢ね・・・あら?」
彼女が顔を上げると、生き物と目線が合った。小屋の中にウサギがいる。
おいてけぼりを食らった”ぷぅ”だ。


「ぷごっ」


ウサギの方も彼女に気づいたらしく、慌てた様子でタンスの裏の階段を駆け下りていった。


「ちょい、おまちよ!」
アイダはウサギを追いかけ、地下室に降りる。ウサギが立てる音がカサカサと聞こえる。


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「どこ逃げた? お肉ちゃ~ん」
しばらくすると音は聞こえなくなった。簡単なベッドや木箱が置かれた地下室には大して隠れる場所がないはずなのだが、”ぷぅ”は姿を消していた。


彼女はウサギを見失ってしまった。


「おい、アイダ何やってるんだ?」


「ちっ・・・逃げられちまった。どこ行ったんだろうねえ」


悪態をつきながら一階に戻ってきた彼女の前に、ゴームがアミュレットをちらつかせる。アイダが覗き込む。


「戦利品かい? ・・・あれ、これって」


「そう。死んじまった船長のだ。このマーラの印、見おぼえあるだろ?」


「・・・ということは」

アイダの向けた視線に、ゴームはうなずいてタンスの扉を開けて見せる。


「見てみろ。俺たちの装備だ。これは死んだヒムカの鎧。この傷は間違いねぇ。こっちは・・・」
タンスの中にはブーツや小手、武器など難破船の戦利品がいろいろと押し込まれていた。


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「ここの住人があの船を漁ったんだね」


「そうなるな。ちゃんと洗ってご丁寧に塩抜きまでしてある。元々は俺らのもんだ。ありがたく頂くか」


「浜辺の小船も合わせると、なかなかの収穫じゃないか」


一緒に来た魔術師は、興味深げに部屋の一角を物色していたが、大きな声に中断させられた。


「おお! こいつはしこたま貯め込んでやがる。見ろよ、セプティム金貨だ!」
タンスの上の宝箱を漁っていたゴームが興奮した声を上げる。


「やっぱり持ってくなら、金よね」
アイダもそちらに加わり、セプティム金貨の枚数を数えながら、袋に詰め直して満足げにうそぶいた。
自分が期待していたものと違った魔術師は興味なさそうに振り返ると、再び探し物に注力しはじめる。


「ここの住人は錬金術師のようだな」
彼はイェアメリスの錬金台の上に置かれたノミを観察しているところだった。先ほどイェアメリスが謎の鉱石を加工するために使ったものだ。鉱石自体は粉々の屑となって、床に落ちていた。


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「なんだ先生。まだあの薬が気になってるのか? そんなものを金に換えるよりほら、ここに金そのものがあるじゃねぇか」


「あ、ああ。そうだな・・・」
彼はノミを使って、鍵のかかった錬金台横の小物入れを開けようと試みていた。ゴームが見つけた金目のものは普通のもの・・・いわば一般人にとっての金目の物だ。この家の主が錬金術師だとしたら、錬金術や魔術を行う者にとっての貴重品もどこかにしまわれているはずだ。まだそれは見つけていない。この小物入れが怪しかった。


どうにもならずに叩き壊してしまおうか、魔術師がそう考えたときに、扉をたたくリズミカルな音がした。


「トトトン・・・トン」


小屋の中のならず者たちに緊張が走る。3人は目を見合わせた。


音を聞いた魔術師は小物入れをいったん諦め、脇に下がる。ゴームとアイダは入口の扉の左右に張り付くように潜み、待ち伏せの姿勢をとった。
戸外で見張りに立っている仲間のレディンが送ってよこしたこのリズム・・・ノックのリズムは彼らの符丁・・・来訪者を知らせる合言葉だ。小屋の主が帰ってきたのだ。


3回と1回は獲物の合図。
レディンは今から訪れる者を脅威ではなく、格好の獲物と判断したようだ。扉脇の2人のならず者はそれぞれ短剣を抜いて準備した。




・・・




「エミー!」


アガルドの妻・・・エミーの母は、農場まで小さな娘を送り届けてくれた錬金術師の娘、そして自分の娘の顔をみると安堵の表情を浮かべた。イェアメリスはそれに応じて、エミーの頭を軽くなでると、優しく母の方に押しやる。


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「おばさん、パンをくれてありがとう」


「ああ、送ってくれたのね。この子ちょろちょろするから、帰りにどこかに行っちゃったんじゃないかと。・・・わざわざごめんなさいね。忙しいでしょうに」


「いいの。・・・でも」イェアメリスはエミーに聞こえないように声をひそめた。「イーリックさん来てないの? 今日は出歩くと危ないって」


アガルドの妻は、それを聞くと少し眉をひそめて、同じように小声で返した。
「ええ、ほんのさっき聞いたところなのよ。この子が出て行ってしばらくしてね。それで、ちょっと心配しかけていたのだけど・・・船が来ているんですって?」


「そう。エドウィンおじさんたちみんなは、今晩あたりだって準備しているわ。あたしも教会で、治療が必要になったときのために、手伝う準備をしているの。この子が来たからびっくりして・・・」

「ねぇねぇ、おかあさん、何の話してるの?」


「おねえちゃんとこしょこしょ話よ」
アガルドの妻は娘に笑いかけると、問いかけた。


「帰りが遅かったけど、どこで何をしていたの?」


「おねぇちゃんの家で、ぷぅちゃんと遊んでいたの! おっきいウサギさんなの! それでね・・・」


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イェアメリスは一生懸命報告を始めたエミーを微笑ましげに一瞥すると、浜の方に顔を向けた。
「おねえちゃんは帰るけど、エミーはおとなしく、家でママと一緒に居るのよ」


「はーい!」


「お昼は? せっかくだから食べていくかい?」


「大丈夫。まず準備を終わらせちゃわないと・・・教会についてから、さっき頂いたパンを食べるわ」


「メリスも気をつけるんだよ」


「ええ、ありがと。じゃあね、エミー」


「おねえちゃんバイバイ。ペンダント作ってくれてありがとぉ!」
一生懸命手を振る少女に手を振り返すと、彼女はアガルドの妻にうなずいて農場を後にした。


やりかけていた準備を思い出しながら、彼女は農場の敷地を横切って、自分の小屋に向かっていた。


「きゃっ!」


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草むらを歩いていると何かが足にぶつかってきて、彼女は小さな悲鳴を上げると脇に飛びのいた。
足元に視線を落とすと、イェアメリスはホッとしたように生き物に話しかけた。


「びっくりした~。ぷぅちゃん、外に出てきたのね」


「ぶぅ」


「ま~たお留守番ほったらかして・・・今帰ろうとしていたところなのよ」


「ぶぅっ!」


”ぷぅ”は何か言いたそうに鼻を鳴らしたが、彼女は笑いかけると小屋に向かって歩き出す。
足のまわりをウロチョロするウサギを引き連れて、彼女は林を抜けた。自分の小屋が見えてくる。


「さっ、早いとこ準備を終わらせて、教会行かなくっちゃね」


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キルクモアの秋口は天気が変わりやすい。先程までは天気が良かったが、昼が過ぎて風が弱まり、少し霧が出てきた。今ごろ港の監視塔ではアスヴァレンとブラッキーが配置について見張りをしているのかしら・・・。彼女は港の方が気になり視線を巡らせてみたが、様子を窺うことはできなかった。


「あ、また鍵かけるの忘れてたわ」
彼女は戸口の地面が濡れていることに気づかず、扉に手をかけた。




・・・




直後、中から伸びた手に腕を掴まれ、引きずり込まれる。自分の小屋に!


「だれ?! あな・・・」
言いかけて、イェアメリスは言葉を途中で飲み込んだ。喉元に短剣を突き付けられたためだ。
慌てて背後に退こうとするが、別の男がその行く手を阻んでおり、逃げ出すことはかなわなかった。


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足元に付いていた”ぷぅ”がびっくりして森に駆け出す。
イェアメリスは自分の小屋の中で、3人のならず者に取り囲まれてしまった。


「・・・声を上げるんじゃないよ」


短剣を突き付けてきた女戦士が、脇に立つダンマーにうなずく。ゴームは荷物の中から縄を取り出し、イェアメリスを後ろ手に手際よく縛り上げた。足首も同様に・・・そして荒々しく振り向かすと、ニヤッと笑う。


「は~じめまして」


潜入偵察の時に一度見ていたため彼女としては初対面ではなかったが、もちろんならず者たちは知らない。ゴームは上から下まで彼女を眺めまわすと、3人の仲間に向かって笑いかけた。


「オレはツイてるな・・・この女だ。攫ってく予定だったのは」

レディンは見張りを続けるために戸外、残った3人は再度イェアメリスの小屋を物色し始めた。


「あなたち・・・!」
声を上げかけた彼女を、アイダが引きずりあげる。キッと睨む視線をあざ笑うように唇を片方吊り上げると、平手で思いっきり頬を叩いた。


「喋るなといっただろう」


「なにを・・・おごっ!」
彼女は抗議の声を最後まで上げることができなかった。平手打ちを食らって口が開いたところに、猿轡を突っ込まれたのだ。縛り上げられ、話すことも禁じられたイェアメリスは無様に転がされた。


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「フン、かわいい娘じゃないの」


弑逆的に笑うアイダを押しのけて、ゴームも彼女を覗き込む。
「俺の目に狂いはなかっただろ。なかなかの上玉だ。これで航海に彩りが添えられるってもんだ」


そういうとダンマーは、イェアメリスの服に手をかけた。 ・・・彼女は恐怖に駆られ逃げようともがいたが、横に立つ女戦士にわき腹を蹴られ、痛みに身を折ってうずくまらざるを得なかった。


「あんまり傷つけるんじゃねぇぞ。俺様がこれから味見をしてやろうと言うんだから」


「まさか、あたしの見てる前で犯ろうってのかい? やめとくれ」


「いいじゃねぇか、まだ時間あるんだしよ」


「船奪えばいくらでも時間も部屋もあるだろ」


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アイダはフンっと笑って、横たわる彼女に再度蹴りをくれて、その顔を踏みつけた。
ゴームは少し不満そうにしたが、あきらめて別のタンスを開いて漁り始めた。横にいる魔術師に八つ当たり混じりに指示を出した。


「おい、魔術師先生よぉ。見張り交代の時間だぜ。レディンと変わってやんな」


魔術師が作業を中断し、しぶしぶ出て行く。・・・自分の家が何もできずに目の前で荒らされ続けるのを、イェアメリスは痛みと屈辱の涙混じりに、見ていることしかできないのだった。




・・・




魔術師は小屋から出ると、辺りを見回しす。


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辺りは霧に包まれていて視界が悪い。見張りをしているレディンは近くの湧き水の周りで暇そうにしていたが、霧の中から現れた魔術師を見て一瞬驚いた。


「魔術師先生か・・・驚かさんでくれ。交代の時間かい?」


「ああ、異常はないか?」


「誰も通ってねぇよ。それにこの霧だ。誰かが・・・ぐっ・・・」


レディンはくぐもった声を上げると、草むらに倒れこんだ。
仲間である魔術師に、至近距離から雷撃を受けたのだ。


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ショックで気を失ったノルドを見下ろすと、魔術師は呪文を唱えはじめる。左の手のひらに小さな火球が現れた。
呪文を解き放とうかとしたとき、ふと右手に持ったまま出てきたノミが目に入った。彼は火球とノミを見比べ、呪文を取りやめた。


魔術師は軽く辺りを見回す。他には誰もいない。

彼は再度辺りをうかがうと、息を大きく吸い込んで、ノミを握る手に力を入れた。


突っ伏したレディンの傍らにしゃがむと、返り血を浴びないように注意深く、しかし力を込めて背中からノミを差し入れる。

気絶したノルドの背中から血が噴き出し、身体がビクンビクンと痙攣して、やがて動かなくなった。


心臓を狙った致命の一撃だった。


魔術師は近くの湧き水でわずかに着いた血を洗い流すと、精一杯あわてた様子を取り繕って小屋に駆け戻った。

小屋の扉が叩きつけられるように開く。


「おい! 大変だ! 外で・・・外で・・・」
いま見張りに出て行ったばかりの魔術師がすごい形相で戻ってきた。かなり慌てている。


「どうした、何があった?」


魔術師は呼吸も整えず、一気にまくし立てた。


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「レディンが・・・レディンが殺されてる!」


「なんだと?!」
ゴームとアイダはとっさに身構えた。


「そこの・・・水溜りのところだ!」

ゴームはアイダに目配せした。手には再び短剣を持っている。アイダもそれを見て武器を手に取った。


「分かってる。ゴーム、あんたも付いて来て。やった奴が近くにいるかも知れないわ。町に知らされると厄介よ」


「おう・・・。魔術師先生、あんたは小屋で見張ってな。女を逃がすんじゃねえぞ」


「分かった。気をつけろ!」魔術師は応じて、2人と入れ替わりに小屋に入った。


・・・2人が出て行くのを確認すると、魔術師は扉を閉めて、ふぅ・・・と深く息を吐いた。
そして床に座り込んでいるイェアメリスに近づく。彼女は恐怖に引きつった顔で逃れようとした。


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彼は臨場感を演出するために短剣を抜いていたのを思い出し、鞘にしまうと、フードをはねのけた。

イェアメリスの傍にかがみこむ。いつものぼんやりとしたならず者一味ではない、別の顔を男は見せていた。


アルトマーだ。

この前偵察したときにはそんな風に見えなかったのに。


「大丈夫だ。何もしない」


男はゆっくり言って、彼女の様子を見た。恐怖の中に困惑が混じっているのを見て取ると、次の言葉を発する。


「騒がないなら、猿轡をはずしてやる」


横たわる女の表情に、更に色濃い混乱が浮かんだ。


「騒がないと、約束できるか?」


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イェアメリスは、コクコクと頷いた。
すると魔術師は彼女の猿轡をはずし、タンスにもたれかけさせた。手は縛られたままだったが、幾分姿勢が楽になって、彼女は魔術師をいぶかしげに見た。


「あなた・・・あいつらの仲間・・・奴隷商人じゃないの?」


魔術師はかぶりを振ると、一度小屋の外をうかがった。調べに行った2人が戻ってくる気配は今のところない。


「奴等に合わせているだけだ。女。お前に危害を加えるつもりはない」


イェアメリスは自由になった口で、ようやく言葉を吐き出した。


「あなた・・・もしかしてサルモール?」


「そうだ。だが連中は知らん。船の中では互いの顔を知らない連中も多かったからな・・・あまり時間がない。お前はあの難破船を調べたな? それはもう分かっている」


「それより、縄を解いて!」


「質問が先だ。さっきの女よりもひどいことだって出来るんだぞ」
ならず者の魔術師先生・・・サルモールを名乗った男は脅しをかけた。縛られて抵抗できないイェアメリスは、今は圧倒的に分が悪い。


「何か見つけなかったか?」


「何かじゃわからないわ」


サルモールは一瞬、逡巡した。しかし時間がないことが後押ししたのだろう。迷いを断ち切ったように言った。


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「薬だ」


そういって、懐から変わった形のビンを取り出した。
イェアメリスはそれを見て、驚いた。


「これと同じ瓶だ。船で見つけなかったか? ん?」
魔術師は彼女の目の泳ぎを見逃さなかった。顔に出てしまっている。サルモールはごまかせなかった。


「知っているようだな」


彼女は観念したように首を縦に振った。
どうせ自分には関係ない。むしろ厄介なものかもしれないものだ。


「あの薬を運ぶのが任務だったのね。そう。あたし持ってるわ」


サルモールはフードを戻して目深にかぶると、イェアメリスに詰め寄った。

「薬だけでなく任務まで知っているのか?! どこだ。どこにある!」


「その前にひとつだけ約束して。渡したらあたしを逃がして!」


「いいだろう。どこに隠した?」


「隠してなんかないわ。あそこの小物入れに保管してるだけ。ええと・・・たしか、そう。ラーリン指揮官から、託されたのよ。嘘じゃないわ」


「指揮官から・・・。で、鍵は」


「水樽の下にあるわ。いいから勝手に持ってって。そしてあたしを自由にして」


サルモールは樽を傾けてみた。彼女の言うとおり、鍵が出てくる。
化粧台に固定された小物入れに鍵を挿すと、カチャリと音がして蓋が外れた。


「これだ・・・なんてことだ! 割れているではないか! ん?」
彼は小物入れの中からもうひとつの小瓶を取り出した。


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「これはなんだ?」


「残っていた分だけ回収したのよ・・・」


「でかした! ・・・これだっ! まだ残っていたとは・・・これで作戦は成功する!」
魔術師は明らかに興奮している。
「ファイアルが失われたのは惜しいが、薬が手に入れば十分だ。・・・貴様の機転には感謝せねばなるまいな」


「感謝してるんだったら縄を解いてよ」


「まあ待て」


サルモールは興奮を隠せないようだ。小分けした小瓶を懐に大事そうにしまうと、2通の命令書に目を通す。そして、「これはもう要らぬな」とつぶやくと、横でパチパチ音を立てる暖炉に投げ込んでしまった。
サルモールの命令書はあっという間に灰となり消えてしまった。
元の割れた小瓶と、黄色い本は彼の興味を引かなかったらしい。そのまま打ち捨てられた。


「約束が違うわ!」


「今お前を逃がしたら、俺が怪しまれる」


「そんな!」


「俺もかなり危ない橋を渡っている。機会を見つけて逃がしてやるから、もう少し待て」

そう言うとサルモールは、彼女の口に再び、強引に猿轡を押し込んだ。


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数瞬のち、小屋の扉が開いた。ゴームとアイダが戻ってきたのだ。


「ここに居続けるのはやばそうだ。持てる物持ってすぐ出るぞ!」


魔術師がイェアメリスのそばにしゃがんでいるのを見て、ゴームの顔が険しくなる。


「魔術師先生、オレの女に変なことしてねぇだろうな!」

「い、いや。何もしていないさ」
魔術師はちょっと慌てたように取り繕った。


「そんな時間はねぇ。戦利品持っていくぞ」


「うむ。・・・では」魔術師はそういうと、イェアメリスの顔を掴み、猿轡の位置を調整する。「で、レディンは誰に襲われたんだ?」
きっとこの男がやったに違いない。彼女はサルモールの魔術師を見たが、その表情はフードの下に隠されてうかがい知ることは出来なかった。


「誰にやられたのかは分からねぇ。だがまあ、辺りの状況は大体分かった。この女、使えそうな小船を持っていやがる」


「あたしが見つけたやつだね。・・・この霧はちょうどいいわ」


「ああ、夜に備えて一度戻ったほうがいい。・・・こいつを襲撃に連れてたら足手まといになるからな」


(逃がしてくれるんじゃないの?)無言の訴えに対して、魔術師は目をそらす。それを見て、再び恐怖がよみがえってきた。彼女は両手足を縛られたまましゃくとり虫のように、小屋の中で少しでも逃れようとしたが、アイダにあっさりとつかまってしまう。


ドボッ!


イェアメリスは一瞬目に火花が散って、そのあと猛烈な吐き気に襲われた。アイダのこぶしが腹にめり込んでいる。思いっきり腹部を突かれて、逆流してくる胃液に必死に耐えながら、不自由な口で吐き気をこらえなければならなくなった。


「何度も言わせんな。じたばたするんじゃないよ!」


イェアメリスは縛られたまま、ゴームに担がれて小屋から連れ出された。
気持ち悪さで抵抗しようにも身体に力が入らない。
午後の霧の中、彼女の姿は誰にも見つかることなく小屋から消えた。
ぐったりとしたまま、なすすべも無く自分の小船に乗せられて、連れ去られたのだった。




・・・




ここは東の廃塔。キルクモアの港の目と鼻の先だ。


「夜に時間作れるか分からなかったからよ、いま連れてきちまったぜ」
ゴームは縛ったイェアメリスを戦利品のように、仲間の前で自慢げに見せびらかした。


イェアメリスを攫ったならず者たちが、夜の襲撃に向けてたむろしている。
彼女は奴隷商人たちの舐めまわすような視線に必死になって耐えていた。


上半身裸のノルドが、茶化すように言う。
「さすがだ・・・しかしよ、なんで口を使えなくしちまうんだ? 使える穴はひとつでも多いほうがいいって言ってたのオメェじゃねえか、ゴーム」


「女の悲鳴は耳障りだからな。まあ、てめぇの故郷の・・・なんだっけ、あれ。あんなのされたらたまらねぇしよ」


「声の力か? まさか、この耳はアルトマーだろ。声の力を持っているなんてことはねぇよ」


「ブレトンじゃねぇのか? ま、どっちでもいい。伝説のノルド様なわけはねえだろうが、錬金術の道具がこいつの小屋にあった。魔女かもしんねえ。油断は禁物だ。女はこええからな」そういってゴームはアイダをわざとらしく見る。
視線を向けられた女戦士は一瞥して「フンッ」と鼻を鳴らすと、リーダーであるユディトに注意を戻した。


自由にできる小船と金貨一袋、装備少々。・・・そして攫ってきたイェアメリス自身。難破船の装備回収は捗らなかったが、それでも成果は十分すぎるほどだ。ならず者たちの間で、これらを勝ち取って戻ってきたゴームは英雄だった。人身を扱う方の立場とは言え、奴隷商人の命も大して重くない。レディンを一人失っていたが、彼の死を気にかける者は殆どいなかった。


見世物にされながらもイェアメリスは奴隷商人たちを観察していた。ならず者たちも一枚岩ではないらしい。一団とは少し離れた端の方に固まっている、アーセランをはじめとする3人は、元々はユディトの仲間ではないようだ。
厄介事に巻き込まれたけど、いまは仕方がない、島を出るまでだ、というようなことを小声で話していた。


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ユディトが口を開くと、一同は視線を集中する。


「レディンを失ったのは予想外だったが、予定通り今晩だ」


ならず者たちは押し殺した賛同を上げた。


「俺たちの船長は悪い奴じゃなかったが、サルモールの仕事に手を出したのが運の尽きになった。何人かは死んだが、俺たちはこうして生き残った。この先も生き残る。船を奪うぞ」


「おお」


「町の奴らは俺たちがここから船を狙っていることに気づいていない」


彼らも、相手が気づいていないことを拠り所にしているようだ。それが破たんしているという事実だけが、今の彼女の希望だった。


そして魔術師先生を指差す。


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「こちらには魔術師もいる」
彼が実はサルモールだというのは誰も知らないようだ。


次にイェアメリスを指差した。


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「そしてゴームの攫ってきたこの女・・・こいつは商品にも、慰み者にも、場合によっては人質としても使える。利は俺たちにある」


ユディトはそう言って、脇の方に固まっている小柄なボズマー、カジート、長髪のノルドの3人組に念を押すように、目をくれた。


「商人・・・お前らも腹をくくれ。同じ船に乗り合わせて遭難した腐れ縁。島を出て、次の寄港地につくまでは一蓮托生だ。働いてもらうぞ」


商人風のカジートは大きくうなずいた。
「カジートはお前さんたちに協力する。お仲間もいるしな」
ユディトの側にも一人、マントを羽織って立派な体格をしたカジートが居た。
ボズマーはおどおどしている。


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「なんだアーセラン。お前も戦うんだぞ」


「分かってるけどよ、オレは・・・戦闘はあまり得意じゃ・・・」


横からゴームが肩に手をかけて、大声で笑った。
「ガハハ、貧弱なボズマーだって、矢除けの盾ぐらいにはなるだろうよ」


「ひでぇ・・・、ちゃんと協力するよ」そういって仲間のノルドを見上げた。彼が雇っていた護衛のようだ。ノルドもうなずいた。


彼らはそのあと、農場襲撃、そして船奪取の手はずを確認し始めた。
マントのカジート、山賊鎧のモヒカン、アーセランの護衛のノルドが行くことになった。予定していたゴームは自分の目的であるイェアメリスの誘拐しに成功したからか、勝手に配置換えを行い、船の襲撃に加わることにしたらしい。
魔術師とアイダは、塔の屋上から弓と魔法で援護することになっていた。そして残ったユディトとゴームを中心に、船を襲う。そんな分担だった。


イェアメリスはその後、邪魔になるからという理由で、襲撃まで地下室に押し込められることになった。


「数時間後には海の上だ。オレと二人で楽しもうじゃねぇか」


ゴームが下卑た笑いで見送る中、アーセランに抱えられて、彼女は落し蓋から地下室に落とされた。
イェアメリスは地下室に落とされると、なにかにすがるような眼であたりを見回した。その視線が壁の一点を指して止まる。あった! 転移門だ。
壁は光を発しながら、この前見たのと同じ瞬きを繰り返している。


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彼女は目に希望の光を浮かべ、縛られた足で不器用にそちらに向かおうとしたが、簡単にはその目論見は叶わなかった。

アーセランは彼女を引っ張って壁際に押し付けると、腕を縛る縄の端を壁の巻き取り機から下がる縄に括り付けたからだ。
転移門を目の前にしながら、彼女は中途半端な姿勢で壁とつながれ、身動き取れなくなってしまった。


「ちぇっ、あのダンマー、いったい俺を何だと思ってるんだよ・・・」アーセランは愚痴りかけて、壁の光に取り組んでいる魔術師の姿を認めると慌てて口をつぐんだ。
「あ、あんた。今のなしな。黙っててくれよ」


「気にするな。あいつには敵も多い」
魔術師は興味なさそうに返事をすると、時間が惜しいとでも言うように、再び光る壁に向かい始めた。島を去る時間ぎりぎりまで、この壁の謎に取り組むつもりのようだ。
正体を知っている彼女は、猿轡の中からウーウーと抗議の声を上げて彼に呼び掛けてみたが、魔術師は無視を決め込んだように反応しない。


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絶対聞こえているはずなのに! ・・・彼女は悔しさをにじませながら痛む手首を少しでも楽にしようともがくのだった。


どれだけ時間が経ったのだろう。あたしはこのままどうなってしまうの?
ほんの少し先・・・あの壁にたどり着きさえすればいいのに、それがかなわないのだ。
彼女は心が弱音に支配されかかるのを感じていた。


一分一秒がとても長く感じられる。
中途半端につられているのがつらくなって、少し意識が飛びそうになっていたところ、変化が訪れた。落し蓋が開いて、ゴームが顔をのぞかせたのだ。


「魔術師先生、そろそろ時間だ。上がってきてくれ」


魔術師は名残惜しそうに光の壁を一瞥する。


彼女はすがるようにその姿を追ったが、魔術師の発した言葉に打ちのめされてしまった。


「運がなかったな」


サルモールの魔術師は機を見て逃がすこと言っていたが、積極的にそのチャンスを作ろうとまではしていなかった。任務さえ達成できるなら、最悪それ以外は切り捨てるつもりだったのだろう。


そしてその通りになってしまった・・・


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イェアメリスは再度訴えるように唸り声をあげたが、魔術師は彼女に救いの手を差し伸べることはせず、落し蓋に手をかけて姿を消した。


「アーセラン。おめぇは女を運べ。傷つけんじゃねぇぞ」


「俺がぁ?」


「こっちの役の方が向いてると思ったんだが。やっぱり、ユディトの旦那に頼んで、矢除けにしてもらってもいいんだぜ?」


「滅相もねぇ。喜んで・・・喜んで運ばせていただきやす。女は任せておいてくれ。旦那は心置きなく戦ってくれればいいよ」
アーセランは慌てて愛想笑いを浮かべると、指示に逆らう気がない素振りを強調した。
 
ゴームが襲撃準備のために姿を消すと、アーセランは再びぶつくさ不平を漏らしながら、彼女を運ぶために壁に括り付けた縄をほどき始めた。


「くそっ、いいように使いやがって。・・・やっぱりあのオークを連れてくるんだった・・・」


(しっかりして、あたし・・・もう今しかないのよ!)


イェアメリスは縄が壁から外されて、ふらふらとしながら床に倒れこんだ。


「なんで俺ばっかり力仕事を・・・おわっ!」


アーセランが抱きかかえようと屈んだ時、彼女は縛られた足で思いっきり彼の頭を蹴りつけた。


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蹴飛ばされたアーセランは、尻餅をついた。驚いて、起き上がることも忘れて怒鳴る。


「いてっ、何しやがんだ! このアマ。くそっ・・・」


態勢を立て直そうと慌てるボズマーの横で、イェアメリスは力を振り絞って必死に、尺取り虫のように床を這う。


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「なにしようっていうんだ!」


アーセランが彼女を捕まえようとする。

狂ったように這い進むと、ボズマーを拒むように足をバタバタさせた。


彼が態勢を立て直す前に、イェアメリスは光にもぐりこんだ。


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再び転んだアーセランが顔を上げると、囚人の姿は消えていた。
「え? あれ? どこいった?! 消えた! え?」


彼はイェアメリスの消えた光に向かって手を伸ばしたが、固い壁に突き当たって突き指をし、拳で叩いて固い壁の感触を確かめることにしか出来なかった。


「消えちまった! ・・・なんて言っても、誰も信じねぇよ、なぁ・・・」
冷や汗が浮かんでくるのを感じながら、彼は呆然と壁をみる。
「まじかよ、やべぇ・・・逃がしたなんて言ったらゴームに殺されちまう・・・」


途方に暮れたアーセランは、一人地下室の中に残されたのだった。




・・・




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ゴウンゴウン・・・


規則正しい音。


ゴウンゴウン・・・


装置の立てる音。


ならず者の手を脱したイェアメリスは、装置の部屋で横たわっていた。
手足を縛る縄を何とかしようと岩にこすりつけてみたりしたのだが、肌を擦りむいただけで徒労に終わっていた。


彼女は進退窮まっていた。


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アスヴァレンと偵察に来た時偶然発見したこの装置の部屋。何とかここまでたどり着いた彼女だった。この部屋には今逃れてきた廃塔に繋がる出口とは別に、もう一つ別の出口がある。しかしその先には、水没した部屋があることを彼女は知っていた。
五体自由ならともかく、手足を縛られ猿轡をされた状態でそんなところに出れば、何もできずに溺れ死ぬのは確実だった。ならず者たちから逃れることはできたが、行き止まりだ。


ゴウンゴウン・・・


頭痛と脱力感にさいなまれる。イェアメリスは、この装置が確実に、何か自分に悪影響を与えていることに気づいていた。探索でこの部屋に入ったときにはいつも体調が悪くなるのだ。
まるで力を吸い取られたかのように・・・


(助けて・・・)


ゴウンゴウン・・・


一瞬気を失いかけて、彼女は地面に頬を当てたまま装置を見る。


何時間経ったか分からないが、ぼんやりとした意識の中、壁の向こうが慌ただしくなってくるのを感じる。自分が逃げたことがばれたのだろうか?
仲間たちは今どうしているのだろう? 襲撃はもう始まったの? それともまだ?
だんだん考えるのが億劫になってきた。


ゴウンゴウン・・・


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手足はおろか、もう顔を上げる力さえも残っていない・・・
薄れゆく意識の中、彼女はアスヴァレン、ブラッキーの無事を祈りながら、闇に落ちていった。




・・・




町の防壁の外、東側に隣接するアガルド農場。


「ふぅ・・・ここまでは、予定通りだな」
剣についた血を払いながら、エルヤー隊長は戻ってくる隊員たちを見守った。
深夜のアガルド農園の深夜の静寂は、ガチャガチャとよろいの立てる音によって破られていた。


兵士たちのー隊が一列になって並び、たいまつを掲げて町の防壁付近から、イェアメリスの小屋の少し手前までを何度も往復していた。農場周辺の安全を確認しているのだ。


しばらく時間がたったが兵士たちは特に何も発見せず、捜索を打ち切って、アガルドの家の前で待つ隊長のエルヤーの元に集合してきていた。


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農場への襲撃は、夜中を少し過ぎた時間に行われた・・・いや、行われかけた。
霧の中、町の注意を引き付けるため騒ぎを起こしに来たならず者たちだったが、まんまと罠にはまることになったのだ。
敷地内の井戸や荷車、建物の陰などに散開して潜んだエルヤー隊は、何も知らずに農場襲撃にのこのことやってきた、ならず者等3名を首尾よく討ち取っていた。


「こんなにあっさり片付くとは思いませんでした。この前の実戦なんて、本土から派遣される前のことだったから、最初はどうなるかと・・・」報告を終えた兵士の1人が鎧の胸に手を当てる。


「普段の訓練どおりやればいい。本番はこれからだ。気を抜くな」
女隊長は部下の戦士に激励の言葉をかけた。


「これが偵察の言っていたゴームとかいうヤツですかね?」
マント姿のカジート、山賊鎧のモヒカン、同じく山賊の鎧を着込んだ長髪ノルドが血の海に沈んでいる。


「さあな。分からんが、ダークエルフと言っていなかったか?・・・」エルヤーはならず者の死体を検分しながら、この先の筋書きに思いを馳せた。


「いずれにしろ、今晩全員死ぬ。主導権は我々の手の内にあるからな」


農家の扉を少しだけ開けて様子を伺っていた農場主のアガルドも、恐る恐る家の外に出てきた。
並んだならず者の死体を目にして、何度もつばを飲み込んでいる。


その緊張を感じ取ったのか、エルヤーは彼の肩を叩いた。次の主役は彼なのだ。
「この後は分かっているな? 我々はこれから密かに港に向かう」


「・・・あ、ああ。騒ぎを演出すればいいんだな」


「なるべく自然に頼む。・・・町を通るとき、何人かここにきてお前を手伝うようにさせる。連中が到着したら始めてくれ。・・・その間にわれわれは港の影に展開する」


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アガルドは農場のはずれに停めてある朽ちかけた荷馬車をチラッと見て、意を決したようにうなずいた。
荷馬車には獣脂をしみこませた藁が山積みになって準備されている。


エルヤーたちが去ってしばらくすると、彼女の言ったとおり、町から助っ人がやってきた。補佐役と鍛冶屋のウンガーをはじめとした数人だ。安全のために衛兵のティレクも一緒だ。アガルドは再び湧き上がってくる緊張を押し殺すと、町の仲間に合流した。


「じゃあ、やるか」


彼等は、荷馬車の藁に着火した。獣脂を染み込ませた藁はしばらくくすぶった白い煙を上げていたが、数人がかりで扇ぐと、めらめらと赤い光が瞬きだし、やがて大きな火柱が上がるようになった。


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炎が安定すると、アガルドたちは吹っ切れたように大きなわめき声を上げたり、桶を叩いたりして騒ぎ始めた。

農場は霧に包まれていたが、それがかえって炎の光を拡散して、遠くから見たら農場に火事が起きているように見えるだろう。


「ねぇ、おかあさん。みんななにやってるの? お祭り?」


農場の扉の前で、アガルドの妻と娘のエミーは騒ぐ男たちを見ていた。妻のほうは事情が知らされていたが、娘のエミーには何も伝えていない。炎の明かりに照らされて騒ぎを演出する町の男たちの姿が、祭りのように見えてもおかしくはなかった。


夜中の珍しくて、不思議な光景にエミーは釘付けだった。


「お祭りじゃないのよ」
農家の妻はどう説明しようかと困った顔をして、娘の肩を抱いた。
「危ないから、入ってなさい」


「でもなんで、なんであんなに騒いで・・・」
母親が納得のいく説明をくれないことに不満を示そうとして、ふと、少女は視界の端に見覚えのある物が飛び込んで来るのを見た。


エミーは言葉を止めた。
騒ぎの合間を器用に縫って、一匹のウサギが走ってくる。


「あれ? あのこ・・・」

少女が家の石段に腰かけると、とてとてと走って、ウサギはエミーの元にやってきた。


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「あっ、ぷぅちゃん!」
昼間一緒に過ごした、イェアメリスの小屋の居候は、エミーに鼻を摺り寄せた。


「ぷぅちゃん遊びに来てくれたの?」
そういってかがみこむと、ぷぅも伸び上がって、エミーを鼻で突っつく。


「あはっ、くすぐったいよ~、ぷぅちゃん」


「エミー、なにやってるの。もう入るわよ」
戸口に立つ母親が、娘に入るように促した。


「うん、ちょっと待っておかあさん」
”ぷぅ”はやたらと鼻を押し付けてくる。エミーの首には、イェアメリスにもらったペンダントがぶら下がっていた。


「これ? ・・・いいでしょ。あたしの宝物。 え? 見たいの?」
エミーはペンダントを突つく”ぷぅ”に微笑むと、首からはずして手に取った。


伸び上がってエミーの手を舐め始めた”ぷぅ”だったが、狙っていたかのように、ぱくっとペンダントを咥えた。


「あっ、だめ! 返してよ~。お姉ちゃんにもらった大事なものなの!」


”ぷぅ”がペンダントを咥えたまま、農場のはずれに向かって逃げ出す。
びっくりしたエミーがそのあとを追いかける。


「あ、ちょっと待ってよぉ、どこいくの?」


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エミーはウサギを追いかけて、霧の立ち込める真夜中の森に入っていった。


アガルドの妻は農場で騒ぎを演出している夫、そして夜中らしからぬ町の明かりを眺めた後、なかなか家に入ろうとしない娘に視線を戻した。


「エミー?」


返事がない。・・・娘が居なくなっていることに気が付いたのは、そのときだった。


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農場に隣接するキルクモアの町、そしてその塀の向こう、港のほうにもぽつぽつと明かりが灯り、やがて騒ぎが起きはじめた。農場の騒ぎを合図に、とうとう船への襲撃が始まったのだ。



(つづく・・・)




※使用mod


・Loliina-Serana and Valerica replace or Standalone ・・・火野リサさん作の、実は・・・セラーナのリプレイスだったりします。

スタンドアロン版があったので、今回は農家の娘の役に使わせていただきました。

作画の雰囲気から、少し天然っぽくしようと役作りしてみましたがどうだったでしょうか?

次回、ちょこっと活躍します(*´ω`*)


それにしても、今回イェアメリスは散々でしたね~w



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