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TES大好き、もきゅがスカイリムの物語をお届けします

◆Chapter 1-10: 作戦会議

2017
23

エドウィンはまだ朝も早いのに、何回ため息をついたか、もうあきらめて数えるのをやめていた。

早朝からの大騒ぎのせいだ。


港町は早起きだ。キルクモアの町もその例にもれず、普段は漁師や近隣の農家が集まって市が立つ。ある程度の喧騒は当たり前なのだが、今日の騒ぎは明らかに様子が違っていた。


防壁を潜ってすぐの、酒場の外に住人が群がっている。住人たちが窓に近寄り、頬を摺り寄せるようにして中の様子を伺おうとざわついている。店に入るのをエドウィンが禁止したためだ。
顔役はいらいらした様子で、もう何度目になるか分からないが、目の前にいる面々を順に見た。


酒場の中にオークがいるのだ、・・・本物の。


「だからあたしゃイヤだって言ったんだよ。町になんか近寄るの」
町にオークを運んできた一人、狩人の妻のフィアは窓の外の喧騒に眉をしかめて吐き捨てた。


メグワルドは妻に反論しながらも、自分も居心地悪そうに肩をすくめる。山野を相手にする狩人暮らしに、人の視線はあまり気持ちのいいものではない。
「そうは言っても怪我人だ。メリスたちだけに運ばせるのには無理があろう。仕方ないんだ」


「怪我人じゃなくて怪我オークだろ」


「オークだって人だよ!」
横に立っているブラッキーが反論する。


裂け目の洞窟に置き去りにされていたのはブラッキーの兄カグダン。彼はオークだった。
難破船から脱出するときに、ブラッキーと違ってならず者たちの真っ只中に流れ着いた彼は、奴隷として囚われたまま抵抗しようもなく引き回されて、そのまま裂け目まで連れて来られていた。
荷役のために生かされていたのだろう。隠れ家を変えるにあたって置き去りにされていたところを、裂け目の洞窟を探索していたイェアメリスとブラッキーに発見され、救出されたのだった。


イェアメリスと2人がかりで何とか洞窟の外まで連れ出すことは出来たが、さすがに安全な町周辺まで運ぶのには無理があった。オークを見て驚く狩人夫妻を何とか説得して助けを借り、4人がかりでなんとかキルクモアの町まで運んできた。ほんの先ほどの話だ。


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オークは、まるで見世物のように取り囲まれ、複雑な表情をしていた。
よく知る者が見たら、それが恥を耐えしのぶ表情であったことが分かっただろう。


帝国軍にもよく参加しているため、オークは別に珍しい存在ではない・・・とはいえそれは本土での話。このキルクモアの住人には少なくともオークは一人もいなかった。話に聞く恐ろしい戦士・・・その程度の知識。物語の中だけの存在だったのだ。
イェアメリスや狩人夫妻も例に漏れず、最初は大変驚き、半ば怖れた。自分たちでもそうだったのだから、町の人に見られたらどうなることか・・・それだけに、町に運び込むのは慎重を期さねばならない。彼女たちは夜が明ける前、まだ暗いうちにこっそりとエドウィン家の扉を叩いたのだった。


「なんなんだ! また見知らぬ顔が増えてるじゃないか?!」
これがエドウィンの上げた第一声だった。


彼は本土経験も長かったので、オークも見慣れている。しかしその恐ろしげな下あごの牙や、醜い風貌に驚いたわけではなかった。なによりも、抱えている問題が更にややこしくなる面倒ごとの予感を感じ取って、思わず怒鳴ってしまったのだ。


彼はホールの中央に座り込んでいる大柄のオークを見下ろすと、今朝何度目かのため息をついた。オークの横にはブラッキーが付き添っている。さすがの彼女も居心地悪そうにしている。


こっそり連れてきた努力は、完全に無駄になってしまっていた。

酒場の中には女将のフィーリア、顔役エドウィン、補佐役、イェアメリスとブラッキー、メグワルドとフィアの狩人夫妻だけが入るのを許されていた・・・というより、それ以上余計な人が入らないように、エドウィンがフィーリアに言って、店を閉めさせたのだ。


しかし、小さな町であったから、どこで聞きつけたのか住人たちが集まってきていた。
そんなわけで・・・中に入れてもらえないまでも、ひと目オークを見ようと群がって、早朝にもかかわらず町は大変なことになっていたのだった。


「メリスが錬金術師で、助かったわい」


ブラッキーの兄、カグダンは手当てを受けて、酒場の中央に座っている。補佐役と狩人夫妻はイェアメリスの指示に従って、最初はおっかなびっくり、そしてオークが大人しいとわかるとやがて大胆に、カグダンのずれた骨を引っ張って、正しい位置に固定した。耐える民族と呼ばれているオークの名に恥じず、カグダンは苦痛に顔をゆがめたものの、叫び声一つ上げずに処置を受け入れた。
指示はしたものの、あまりの痛々しさにイェアメリスの方が大半は顔を背けていたが、注目されているのはオークだったので、誰にも気づかれなかった。


彼女は錬金術の延長として、多少の治療の術を心得ていた。
アスヴァレンが居たら、より的確な処置ができたかも知れないが、まずは満足できる結果だ。


折れた脛骨が治るのには時間がかかるが、イェアメリスが診断した感じでは、血管や神経は損傷していない。命に別状はなく、やがて元通りになるだろう。
カグダンはようやく苦痛から解放されたという、落ち着いた顔をしていた。彼女の調合した痛み止めの薬が効いてきたようだ。


オークの容態が落ち着いたのをみて、一同の関心は目下の大問題に移っていた。
イェアメリスは、町の顔役であり自分の後見人でもあるエドウィンと、その補佐役に対して、昨日あった出来事を順序良く説明しようと試みた。


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「だからおじさん、街道商人が殺されていたのよ」


「どうしてそんな大事なことをすぐに言いに来んのだ?!」
悪いことをした打ち明け話を聞く、父親のようなエドウィンの態度。


「だって・・・ウラナックさんが伝えてくれるって」


「一昨日ぐらいから彼とは会っとらん」
門衛を交代するために町には帰ったはずなのに・・・、彼女の説明は出鼻からくじかれてしまった。


途中で別れたアスヴァレンとイゼリックはまだ戻ってきていない。
彼らのことだから心配は要らないだろうが、自分に状況をうまく説明できるか自信がなくて、イェアメリスは少し心配になってきた。


殺害された街道商人の件は、狩人たちが補ってくれて、なんとかエドウィンも納得した。夫妻も居合わせていたので、ならず者たちの会話を覚えてくれていた。


狩人夫妻、イゼリック導師との邂逅、裂け目の洞窟を見張ったこと、上陸者たちの発見、そして洞窟の探索とカグダンの発見・・・いろいろなことがあったため彼女自身、説明しながらもまだ整理しきれていなかった。

とはいえ、悪い話ばかりでもない。モック村近くの裂け目の洞窟が、奥で鉱山とつながっていることが分かったのは収穫だ。ならず者たちも消えた今、鉱山の2つ目の入り口に使えることが判明し、エドウィンも少し機嫌をよくしていた。


「しかしおまえさんたち・・・活発なのは良いが、メリスの病気が回復したと思ったら、途端にこれか・・・」呆れたような顔だ。


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「あ、ひっどーい。まるであたしたちが厄介事を持ち込んでいるみたいじゃない」


エドウィンは苦笑しながら娘たちを見た。
「そうは言っておらんよ。まあ、鉱山は何とかなる代わりに、ならず者の話をプレゼントしてくれたから、差し引き変わりなし、じゃな」


「おっちゃん忘れちゃったの? 上陸者の探索は元からボクらへの依頼だよ。海見に行ったじゃん。数に数えちゃずるいよ。ならず者発見、そして鉱山の問題を解決したってことで、ボクらの手柄+2だね」


「ふふ・・・ちゃっかりしとる。じゃが、ならず者はまだ片付いておらんから、+1じゃ」
エドウィンはひげをしごいた。
「運搬の手間は増えそうだが、ふむ・・・少なくとも当面の鉱山の問題は解決できるな」


「おじさん、上陸者のほうは?」


「・・・うむ、問題は奴らが何のために、島のどこに消えたかだ。メリス、追跡したのじゃろ?」


「ううん。あたしじゃなくて、アスヴァレンとイゼリックさんが追っていったの。でも、また帰って来てないのね。どこまで行ったのかしら・・・」


「となると今はそのオークが、何か知っていると期待するしかないか」

エドウィンは、捕まっていたオークに目を移した。


イェアメリスは、かがみこんでカグダンの肩に手を置いた。
「ブラッキーの・・・お兄さん? あいつらについて何か知らないかしら?」


「ああ、綺麗なお嬢さん。ずいぶんと楽になった。ありがとう・・・」
座り込んでいたオークが顔を上げる。


「と言いたいところだが・・・」
カグダンは、イェアメリスの手を優しく払いのけると、顔を背けた。


「え? ・・・」


「マラキャスにかけて、オレは死に損なってしまった。どうしたらいい・・・考えねばならん。しばらく放っておいてくれ」カグダンは、心を閉ざしたように、うつむいてしまった。


ブラッキーが兄に詰め寄る。


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「そうしておいてやりたいんだけどね、兄貴。今はそうも言ってられないんだ」


カグダンは少し嫌そうな顔をした。


「兄貴、しゃーないよ。捕まってたことは事実だし」


「・・・生きながらえて満足か? オレの状況はどうすればいい?」


ブラッキーとカグダンの兄妹・・・今こうしてここに一緒に居るが、流れ着いた先がほんの少し違っただけで、その後の経過は全く異なっていた。


「ボクらが奴隷として捕えられたのは不名誉だし、ボクは自力で逃げ延びて、兄貴は結果として救い出されたけど、今大事なのはそれじゃないよ」


「マラキャスに顔向けができん」


「命が助かっただけでも良しとしなくっちゃ・・・」言いかけて、イェアメリスはその言葉を飲み込んだ。なんとなく、言ってはいけない気がしたのだ。彼がこだわっているのはなに? あたしが拒絶されたのはなぜ?


・・・少しだけ想像できるような気がした。これはきっと、オークの、名誉の問題なのだ。
エドウィンも静かに成り行きを見守っている。


「兄貴の命は、奴らに復讐するために、そのマラキャスが残したんだよ」


カグダンは、忌々し気に自分の足を見た。
「この足では・・・すぐには叶わん。クソッ・・・」


「じゃあ、兄貴の命はメリスねえちゃんのもの、ってことにしたら?」


急に振られたイェアメリスは、びっくりして妹を見た。
「え? え? ・・・どうしてそうなるの?!」


「不名誉を負って、復讐による回復もままならない・・・だったら、その命は拾った人に捧げるしかないじゃん」


「あなたも一緒に助けたじゃない」


ブラッキーは彼女の耳元で小さくささやいた。「しー! ボクは数えちゃだめだよ。ボクにまで救われたことになったらもう一つ不名誉増えちゃうじゃないか」


「そんな! なにその名誉不名誉を数で数えるの・・・おかしいわ。それはあなたたちの理論でしょ。あたしには関係ないわ」


「それがオークなんだよ」


「あたしはブレトンよ!」


ブラッキーは彼女のとんちんかんな返事は無視して、兄に向き直った。
「兄貴、メリスの守護者になってよ?」


「ふむ・・・」
カグダンは妹の申し出を、真剣に考え始めた。


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カグダンは奴隷商人に捕えられるまで、オークの居住地から出たことがなかった。オルシニウムからも遠く離れており、オーク古来の慣習を守り続ける小さな集落だった。勝利は名誉、敗北は不名誉、不名誉は復讐もしくは自分の死で洗い流す、という純粋なオークの価値観を頑なに守り続けている。
ブラッキーも兄とほぼ同じ境遇で育ち、自分をオークと言ってはばからないが、持ち前の好奇心の強い性格からか、または根のところではオークではなく人間だったからか、考え方は染まり切っていなかった。


「ちょっ・・・困るわ、急に!」


「ねえちゃん、分かるだろ? これはオークの名誉の問題」


「なんであたしなのよ!」


「でもそうしてくれないと、兄貴も死ぬしかないし、ならず者のことも分からないよ」


「死ぬだなんてそんな!」
イェアメリスは、助けを求めるように周りを見回した。女将と補佐役は目をそらし、狩人夫妻は自分たちには無関係だというそぶり。


「どうすればいいのよ・・・」
助けを得られず半ば投げやりに、彼女は妹を見る。


「誓いを受けてくれればいいよ」ブラッキーは膝の埃を払うと、立ち上がった。


「兄貴はそれでいいかい?」


カグダンは深くうなずいた。


「おっちゃんは?」


「ふむ・・・まあ、ええじゃろう」
エドウィンと目が合う。受けろというの?


「じゃあねえちゃん、ボクの言うとおりに続けて」


「あたしの選択権はないわけ?」


「結果同じだからね。はい、よく聞いて続けてね・・・っと前に、兄貴を立たせなきゃ」

ブラッキーは戦槌を取りに行くと、それを杖代わりにしてカグダンを何とか立たせた。そして脇に寄り添って支える。


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「そんな、無茶しちゃ。まだ骨の位置合わせただけなのよ!」


「だったら、なおさら早く済ましちゃお。知ってるだろうけど、兄貴重いんだ」

さっさと進めようと、少女は司祭のような素振りを真似た。


「追放されし者の王、誓約の王・・・血の呪いを司るデイドラ王子マラキャスの名において、」


デイドラですって?! ・・・彼女はもう一度エドウィンを見た。・・・彼は小さくうなづいていた。


「汝カグダン・グロ・ドゥルムブは解放されるまで、我・・・ここ、ねえちゃんの名前ね・・・の守護者となりて、命をささげることを誓うか?」


おずおずと、イェアメリスは繰り返した。


「追放されし者の王、誓約の王、血の呪いを司るデイドラ王子マラキャスの名において、汝カグダン・グロ・ドゥルムブは解放されるまで、我イェアメリスの守護者となりて、命をささげることを誓うか?」


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カグダンは厳かにうなづいた。


「マラキャスと、重き槌の名にかけて誓おう」


彼は苦労して立ち上がろうとした。
ブラッキーが支えてやる。


「話はまとまったようじゃな」
黙って見ていたエドウィンが口をはさんだ。


「やめて頂戴。これでみんなが収まるというから我慢するけど、あたしはオークじゃないの」


カグダンは少し微笑んだように見えた。恐ろしい顔なのには変わりがないが。
「わかっているよお嬢さん。だがオレの名誉を救ってくれた。お嬢さんを主として、喜んで守護者としての誓約を果たそう」


イェアメリスは少し考え込む素振りをした。
「じゃ、じゃあ・・・あたしのことはいいから、回復したらこの島の人たちを助けてあげて。決して傷つけないで」


「承知した・・・」


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「それから、その主ってのもやめてちょうだい。みんなと同じ、メリスでいいわ」


「うむ」


「では・・・オレはまずどうしたらいい、主よ」


「あ~、もう。言ったばかりなのに。主はなし、な~し」
イェアメリスのこの反応で、重くなりかけていた酒場の空気は、いつも通りに戻ったのだった。


ブラッキーは、兄を椅子に座らせてやると、口を開いた。
「じゃ、改めて聞くよ。兄貴、連中のことで何か知らない? 一緒に居たんだろ?」


「うむ」


カグダンは難破船から逃れた後のことを話しだした。


「船が水に飲まれたとき、連中のうち運のよかった者たちが、脱出して浜辺にたどり着いた。サルモールが2人と、ならず者が十数人・・・オレもその中に混じっていた」


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「最初は仲間割れかと思ったんだが、奴らは途中で乗り込んできたサルモールのことをよく思っていなかったらしい。上陸した時にサルモールの2人は殺されて海に流されてしまったよ」


カグダンは続ける。


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「オレもそのまま殺されそうになったんだが、調子のよさそうな商人が、こいつは荷物運びに使えると言ったおかげで残されたんだ。そいつは弱そうだったから、自分の代わりが欲しかったんだろうな」


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「・・・そして夜通し森を奥に進んで、道を避けてさらに進んだら、あの洞窟があった。そこで木の化け物を倒して、連中は奥に見つけた大きめの空洞に潜むことにした、というわけだ」


「空洞についてからオレは鎖に繋がれ、頭巾頭に足を折られて逃げ出すことができなくなってしまった。・・・だが、耳をそばだてることだけはできた。やり返してやる時、役に立つかもしれんからな」


彼は無意識に、折れたほうの脚をさすった。


あの大雨の日、難破船を探りに乗り込んだイェアメリスの背後で、上陸した者たちが森に入っていったことになる。
少しずれたら自分の小屋に乗り込まれていたかもしれないと思うと、イェアメリスは恐怖を感じずにいられなかった。


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「奴らは数人がまとまって周辺の野山や村の近くに出て、野生の生き物や家畜をさらっては食っていた。商人っぽいのや船乗りやら、傭兵崩れも混じっていて、ならず者とは言え、それなりに生存するための技術は持っているようだった」


「家畜はそいつらのせいだったんだね!」


エドウィンが制した。
「いや、奴らが来たのはほんの先月の終わり。被害はそれより前からじゃ。簡単に結論付けてしまってはいかん。・・・オークよ、他には? 特に、奴らが相談していたようなことがあったら教えてくれ」


「そうだな・・・」
カグダンは思い出そうと遠い目になった。周りから見たら、怖い顔が少し怖くなくなった程度の違いだが。


「たしか洞窟は鉱山に繋がっているとかで、扉をふさいだとか、これでしばらく見つからないとか言ってたよ」


「メリスとブラッキーの報告の通りじゃな」


「人数はどれくらい居った?」


「15、6人だったか・・・俺の目に入ったのはそのくらいだ」


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ブラックーは姉を見て頷いた。
「じゃあ、昨日出てったやつらで全員っぽいね」


「他には?」


「なんかへまをやらかしたやつがいて、責められてたな。隠れ家の近くで人を殺してしまったとか」
オークが言っているのは、あの哀れな殺されてしまった街道商人のことだろうか。
いろいろなことが繋がって一つになりつつあった。


「行き先は分からないかしら? 仲間が追跡してったのだけど、まだ戻って来なくて・・・」


「隠れ家を引き払うような話はしていたが、行き先までは分からん。ただ・・・」


「ただ?」


「奴らは島から出ていきたがっていたよ。交易船が来たらそれを奪って海に出るという相談をしていた」


一同は目を見合わせた。

今港に船は居ない。次の船が来るのは・・・


「いつも通りなら、まだ半月ほど先よね?」水平線上に船影が見えた次の日に入港する、巡回交易船はまだ到着していなかった。


エドウィンはオークに向かってうなづいた。


「おまえさんはワシらの知りたかったことをかなり明らかにしてくれた。礼を言う。裂け目を調べたメリスの判断は間違っていなかったというわけじゃな」


「それで、我々はどうしたらいいでしょう?」
おとなしく聞いていたボズマーの補佐役がエドウィンに尋ねかけたとき、酒場の扉が荒っぽく開いた。


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「誰じゃ! 今は立ち入り禁止と言っておったじゃろう!」
エドウィンはこぶしを振り上げて怒鳴ったが、入ってきた男を見ると、息を吐いて手を下ろした。


錬金術師のアスヴァレンだった。

彼は扉の隙間から興味深そうに店内を窺う町の住人を無視して、イェアメリスたちのところに進み出る。


「メリス、奴らの行き先が分かったぞ」




・・・




アスヴァレンの登場をきっかけに、今まで閉め出されていた住人達も、ここぞとばかりに酒場になだれ込んでくる。彼らは一様にオークを見て驚いたり、叫んだりして、酒場はなし崩しの状態のまま、オークを遠巻きにしてしばらく混乱の坩堝と化してしまった。


「あたしらは帰るよ。こんなところに居られたもんじゃない」
狩人夫妻は、住人と逆行して扉から出ていこうとした。


「モックの連中には、裂け目のあたりに近づくなって警告しとくよ。何かあったら連絡する」
メグワルドも人越しにエドウィンにどなり、妻に続いて酒場を後にした。


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残された彼らはしばらく喧騒にまみれた質問攻めにあった。とにかくオークが珍しい、一目見ないと気が済まないようだ。


「もう十分見たじゃろ! 終わりじゃ、終わり!」


エドウィンはわめくと、カグダンを2階のベッドに移すことにした。そして階段の途中に補佐役を立たせ、2階への道をふさいでしまう。ブラッキーはそのまま兄に付き添い上に残った。


「今はそれよりも大事なことがある。わしの邪魔をするな!」


叫ぶとそれっきり、騒ぎを収める努力を放棄して、エドウィンは戻ってきた錬金術師を探した。うるさい外野が邪魔してくるのを無視して、必要な情報を整理することにしたのだ。


「錬金術師殿、無事だったか」


「すまん・・・悪いタイミングで帰ってきてしまったようだな」


「あんたのせいじゃない。メリスたちが連れてきたオークが珍しくて、みな興奮しとるんじゃ。ところで・・・イゼリック老も一緒と聞いとったが」


「彼は先に戻った」錬金術師は背負った荷物を下ろすとテーブルの上からクリーム煮を一つつまんで齧った。「洞窟を追い出されたトレントの生き残りが気にかかるらしい」


近くにイェアメリスが寄ってくる。彼はクリーム煮を彼女に渡すと、あたりを見回した。
「口々にオークオーク言っているが、そこに座っていたオークのことか? 何者だ?」


「難破船の生き残り。ブラッキーと一緒に捕まっていたお兄さんなのよ・・・」
イェアメリスは、クリーム煮を持ったまま、アスヴァレンと別れた後の裂け目の洞窟での出来事を説明した。見張りまでは一緒だったのでかなり端折ったが、大体は伝わったようだ。


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「・・・それで、結局ねえちゃんは守護者を手に入れたってわけ」
ブラッキーが付け加えると、彼女は嫌そうな顔をした。


「何度も言うようだけど、あたしはオークじゃありませんからね」


錬金術師が一息ついたころとみて、エドウィンが口を開けた。
「まあ、それは良しとして・・・」


「良し、じゃないわ」


「いいじゃん、名誉なことなんだし」


「ほれほれ、その話はまた落ち着いたときにでもしてくれ」


イェアメリスは、もう食べないの?と首をかしげたが、錬金術師は首を振った。しばらく手に持った食べかけを見つめていたが、自分で食べてしまった。


顔役がアスヴァレンを見る。
「それで、連中はどこに行ったのかね」


「港の廃塔だ。何故かはわからんが」


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居合わせたものは皆一様に驚いた。港はキルクモアの町から歩いても数分で着く。そこにそびえる双子の塔の片割れ、放棄され人も近寄らない廃塔。目と鼻の先の話だった。
沿岸を哨戒したときに見かけた塔だ。


「ふむ、ブラッキーの兄が聞いた話は本当のようじゃな」


「どういうことだ?」


「連中、次に来る船を乗っ取るつもりなんじゃよ」
廃塔は港の対岸。入港した船が停泊する桟橋の目と鼻の先だ。襲撃準備にこれほどうってつけの場所はない。


武装艦の船員から聞いた話をイェアメリスは思い出した。
「でも、護衛の船がつくんでしょ? 大丈夫なんじゃない?」


「東帝都社の船だけじゃ。一般の船主にはそんな余裕はないよ。・・・東帝都社の公益船は半月後だ。・・・その間に、何隻か別の船も来るじゃろうな」


「護衛があっても、安全とは言えんぞ。奴らの中にバトルメイジ崩れがいる」


エドウィン達に緊張が走った。
島に魔法を使えるものは殆どいない。更に、戦いに向いた魔法を使えるものなど皆無であった。


話を聞いていて、なんだか不安になってきたイェアメリスは思わず口をはさんだ。
「ちょ・・・ちょっと待って、彼らをどうにかするつもりなの? 聞いてれば・・・戦うとか言ってるけど?」


「町の連中はそのつもりのようだぞ」
アスヴァレンに言われて周りを見ると、集まっていた何人かは、どうやってならず者たちと戦うか、気の早いことに話し始めている。


「説得はしないの? 出て行ってもらう、とか?」


その言葉を聞きつけた番人のテオリックは、信じられない、といった顔で彼女を見た。


「ステンダールにかけて、メリス、本気で言ってるのか?!」


「だってみんな、急に戦うなんて言いだすから・・・」


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「ステンダールにかけて、奴らは罪深い集団だ。滅ぼさねばならん!」

冗談言うなという顔で、番人のテオリックが怒鳴る。近くにいた数人の町人も同意するように彼女に不審げな視線を浴びせた。


たじろいだイェアメリスは助けを求めるように、皆をまとめるべき顔役を見た。しかしその目は否定的だった。


「当然じゃ。危険の芽は野放しにはできん」
エドウィンは首を振った。対処が必要だという。


「賊かもしれないというだけで、殺そうというの?!」


「かもしれないでは無く、賊だ。絶やしてしまうのもステンダールの慈悲。一度賊に身を落としてしまったものは、まっとうな暮らしには戻って来られん」
テオリックは語気が荒い。狂信的なところもあるが、町での信頼が厚い、力を持つ一人だ。


横に居たパン屋のシルガンも口をはさんできた。
「メリス、どうしちまった? お前さん、最近変なのとつるんでいるから、変な考えが浮かぶようになったんじゃないか?」


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「変なのって・・・なによ!」


「言ったとおりだ。変な娘拾ってきたかと思えば、今度はオークだって? なに仕出かすか分かったものじゃない」シルガンは言いつのる。「それに、そこの怪しげな錬金術師も・・・」


「シルガン! 言い過ぎじゃぞ」
エドウィンがパン屋を黙らせる。


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「ブラッキーはワシが面倒を見ておる。オークにはワシもびっくりしたが、町の住人に危害を加えない誓約をした。安全はワシが保証する。文句はあるまい」


「どうだか・・・」
パン屋はフンッと鼻を鳴らすと、不愉快そうに引っ込んだ。


「メリス・・・皆、平和が脅かされることを恐れておるのじゃ。むろん、ワシもじゃ。町を、住人の生活を守らねばならん」


「そんなこと分かってるわ」


領主と守衛がいる文明の地にあっても、農家の女でさえ剣を身に帯びる。タムリエルでは自衛が基本であった。
見知らぬ旅人を受け入れたばかりに滅びた村の話など、枚挙にいとまがない。キルクモアのような僻地で、住民の移り変わりも少ない辺境では、排他性は自分たちの安全を守るのに必要な・・・重要な生活の知恵だった。


「言いたいことがあるじゃろうが、しばらく黙っておれ」


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「でも・・・」


「その話は終わりじゃ。お前さんも2階に行っておくかね? わしは錬金術師殿ともう少し話さねばならん」


「ここで聞いているわ」
イェアメリスはむすっとして口を閉ざしたが、周りの目線が冷たく感じられてならなかった。


「すまん・・・中断してしまった。で、奴らは廃塔を占拠しているというわけだな」


「ああ、近くまで寄ったわけではないが・・・あの塔はまだ使えるのか?」


「そうだな、放置されて多少の土砂にはやられているだろうが、機能としては健在だ。ディレニ時代のものだから、基礎はしっかりとしているし、簡単な地下室もあるはずだ。15人と言ったか・・・短い間なら住まうのには使えるだろうな・・・」
エドウィンはテーブルに広げた地図に目を落としつつ、港の管理を行う補佐役にどなった。


「今日は薪木の月(9月)3日か・・・おい、次に来るのはどこの船だ?」


「ええと、14日後に巡回交易船がきます!」


「それまでは?」


「事前連絡のある船はありませんね・・・、あ、こないだの武装艦の臨時入港みたいなのまでは分かりませんよ」


「まずいな・・・」
エドウィンは難しい顔をした。


「どうした?」


「15人が半月も立て篭もろうとしたら、相当な量の食料が必要だ。そんな蓄えをやつらが持っているとは思えん。有るか無いか分からん臨時入港が先か、やつらの食料が尽きて痺れを切らすのが先か・・・・・・動くのはそのときだろうが、いずれにせよ時期が分からんと被害を食い止めにくい・・・」


イーリックやテオリックなど、町の中でも補佐役に次いで力を持つ者たちが会話に加わってきた。顔を突き合わせて議論を開始する。辺境の町のもう一つの強さは、その団結力だ。


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「2、3日は大丈夫だろうか・・・」


「エドウィンさん、それまで大丈夫ってなんでわかる?」

イーリックは町の中では荒事に強いほうだが、それも市民の中では、だ。不安そうな様子は隠せなかった。


「・・・奴らは土地勘がない。それにこれまでの間、隠れて過ごしてきたのは、目途をつけるためだとワシは思っておる」


「どういうことだい?」


「うむ・・・奴隷商人なんてものは、ある程度組織だって動ける者じゃないと務まらん。寄せ集めも混じっておるじゃろうが、全員がそうであるとは思えん。行き当たりばったりに町を襲ったり、殺して回るような目立つ行動はせんものじゃ」


「じゃあ、その目途が立ったって訳か」


「まだ向こうも不透明じゃろうな。船の情報をワシらと同様に知らんわけじゃから」


「仲間の船が迎えに来るとか?」


「遭難してたどり着いたのがこの島なら、それは無いじゃろう。とにかく・・・隠れ家の引越し直後で目的が船なら、忍べる間はおとなしくして、目立たないようにするに違いない。さっきも言ったが、やはり動き出すのは船が着いてからか、食うものが無くなり進退窮まるころじゃろう。襲った商人の積荷と周辺の生き物を狩れば、1週間ぐらいは持ちこたえられる」


「あの街道商人か」


「そうじゃ。結果として食料を奪ったようだが・・・あれは事故だと思う。塔に移ったのはワシらに見つからないようにするため、仕方なくじゃろうな」エドウィンは喉を潤すと、周りの面々を見回した。


「ワシが同じ立場だったら、こんな辺境の町を奪ったとして、討伐隊が来るのをビクビクしながら待つだけ、そんな選択はせんよ。しかし船を襲う・・・積み荷ごと奪ってしまえば、15人程度のならず者にしては大戦果。足も付きにくいし、再起を果たすことも夢ではない。どこかの組織の片割れだったとしても、戻ったときの面目も立とう。きっとそうする」


「旦那って、いったい何者なんです? 時々恐ろしいや。さすが領主様に一目置かれるだけのことはあるなぁ」


「世辞はよい、・・・だから、奴らが動くのはすぐに船が着たらそのとき、さもなくば数日以内の、早いほうに合わせてじゃな」


一同に混じって暦を見ていたアスヴァレンは、エドウィンの懸念を理解した。

「大して猶予があるわけではないな」


「うむ、その間に準備をせねばならん。・・・もう少し、塔の様子が知りたいところじゃ・・・」



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アスヴァレンは目を向けられて、肩をすくめた。
「偵察が必要、と言いたそうだな」


「話が早い。気を悪くせんでほしいのじゃが」


「構わん。・・・町の住人にはやらせたくないのだろう? 俺たちの方がこういうことには向いている」


「頼めるか?」


「こちらとしても、帰りの船がなくなるのは困る。・・・ヨクーダに行けなくなった今、次に来る船で島を出ようと思っていたところだ」


「ブラッキーを呼ばねばならんな」上階に顔を向けてエドウィンは声を出そうとしたが、その声は遮られた。


「あたしが行くわ」
横で聞いていたイェアメリスが名乗りを上げた。


「いかん! 今までのような探・・・」言いかけてエドウィンは娘が言うことを聞きそうにないのを見て取った。


「ブラッキーはお兄さんのところに付いているもの。そっとしておいてあげて。だから代わりにあたしが行くの」


「ふむ・・・」エドウィンは少し考えると、気を変えたようにイェアメリスの目を覗き込んだ。「そうじゃな・・・お前さんの気が収まるか分からんが、一緒に行ってならず者どもを見てくるといい。ワシらがどんなものを相手にしようとしているのかを」


エドウィンは錬金術師を見た。


「すまん・・・面倒ついでにもう一つ・・・いや、もう一人頼めるかの?」


「まかせておいて」


「メリス。お前さんに言っておるんじゃない。・・・今までとは訳が違うのだ。ならず者たちが居るところに行くんだぞ。それを忘れるんじゃない」そして、アスヴァレンの耳に顔を近づけると、彼しか聞こえない小さな声で何事かささやいた。彼はうなづくと。荷物を肩にかけた。


「あまり時間がない。すぐ行ったほうがよさそうだな」


「うむ、こちらが何も知らないと思っていることだけが、わしらが優位に立てる拠り所じゃから・・・それを潰されぬよう、くれぐれも、相手に気取られないようにしてくれ」


アスヴァレンは、うなづくと腰の隠しから取り出した小瓶を2人に見せた。
「水中呼吸と透明化の薬がある。これでぎりぎりまで入り込んで、様子を見て来よう」


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「おお! キナレスにかけて。錬金術師ならではの方法じゃな」


「おじさん、あたしも錬金術師なのよ」


「でもこちらの方が先生なんじゃろ?」


(むぐっ・・・)


「失敗は許されん。今回は先生の薬を使うんじゃ」


「そんなっ・・・」


不満そうな顔をする娘をエドウィンは強く抱き寄せた。娘を送り出す父親のように、諭す。
「気をつけていくんじゃぞ。危ないことはするな」


「わかってるわ」


そう言うと、2人の錬金術師は、町の目と鼻の先にある危険を探りに出発した。




・・・




2人は向こう側に見える塔を意識しながら、監視塔の横から草むらに入った。


港のまわりは閑散としている。
船がいないときはいつもこんな感じだ。


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手前の監視塔で衛兵とすれ違った後は、もう先には誰もいない。
アスヴァレンは半歩前を進むイェアメリスの背に声をかける。


「病み上がりなのに昨日から寝てないだろう?」


「大丈夫よ。2日ぐらい寝なくても平気。ねぇ・・・でも、どうして昼間に偵察するの? 普通は夜に行くものじゃない?」


「時間がない。それに奴らが動くのが夜だからだ。今回の場合、むしろ隠れているのは向こうだからな」


この季節、夏の間に伸びた草の背丈は高く、屈むと充分に身を隠せる。そのまま這ってゆくと、塔の視界に入らない状態を保ったまま、程なく桟橋にたどり着くことができた。


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「モックの方から回ったほうがよくなかった?」


「それも考えたが、あっちは陸続きだ。塔まで繋がる道が伸びている。当然見張られているだろう」


「そう・・・そうよね・・・まさか海の中から来るとは相手も思わないか」


港の桟橋の陰で、2人は時間が過ぎるのを待った。廃塔は島の東の端にあるため、午前中は逆光だ。近づくのに適していない。草の間を渡ってくる生ぬるい風を浴びながら、イェアメリスは酒場でのやり取りを思い出して、物憂げに塔を眺めていた。


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「さっき言われたことを気にしているのか?」


アスヴァレンは、桟橋の陰で、塔から見えない位置に腰かけ、彼女に声をかけた。
イェアメリスはむすっとしたまま、少し涙ぐんでいるのがばれないよう、背を向け続けた。


「え・・・ええ。あたしの意見には誰も、まったく聞く耳持たなかったわ・・・」
水面を見ながら、彼女は問いかけた。
「あなたやブラッキーも同じ? やっぱり上陸者を排除したほうがいいと思う?」


「そうだな」


「彼らもせっかく生き残ったのよ?」


アスヴァレンは横に座るブレトンの娘を見た。


「メリス・・・、あまり付き合いは長くないが・・・お前が優しい心を持っていることは俺にも伝わってくる。そういう心はそれだけで尊い」


いきなり褒められて、彼女は驚いて相手を見返した。


「だが、優しさで解決できない問題も多いことを理解しておいたほうがいい」


アスヴァレンは淡々と話し始めた。
「安全だったり、利益だったり、住民感情だったり・・・それらのほうが重視される問題もある。お前は正しいことを言っている。だが、町の連中もまた正しい。見方が違うだけだ」


「でも、だからって殺してしまうなんて・・・そんなの間違ってるわ!」


「年長者としてあえて言おうか? それは安っぽい正義感だ」


「なんですって!」
イェアメリスの語気が荒くなる。
無視してアスヴァレンは続けた。


「いい言葉が浮かばんが・・・だが、お前が言っていることは、あのステンダールの番人と変わらん。相手を無視して放たれた言葉は、力を持たん」


「同じなら・・・じゃあなんで、みんなテオリックさんの方に賛同するのよ?!」


「彼が住民の感情を味方につけているからだ」


「論戦に関する講義を聞きたいわけじゃないわ」


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「聞いてきたのはお前だぞ」
アスヴァレンは、苦笑すると質問を変えた。


「町の住人が何を欲しがっているか考えたことがあるか?」


「えっ・・・?」


「想像したこともない、関心がない? ・・・気をつけたほうがいい。錬金術なぞ極めていくと、どんどん人の心とは疎遠になってゆくぞ」


「あ、あなたに言われたくないわよ。あたしの先生なんだから、あなたのほうがよっぽど極めているし、その・・・人嫌いじゃないの」


「お前と違って200年は生きている。乞食と暮らしたこともあるし、モロウィンドの王宮に上がったこともある。人嫌いでも多少は見えるようにもなるさ」


「その人嫌いさんにしては、よくしゃべるわね」


「フ、憎まれ口か? お前は頭がよさそうだから、理詰めのほうが効くかと思ったんだが、もっと心にグサグサ来る方がお好みか?」アスヴァレンの方が数段上手だった。


「やめて頂戴。女の子いじめて何が楽しいのよ」
彼女も少し冷静さが戻ってきたようだ。


「まあいい、話を戻すぞ」ダンマーの錬金術師はさらっと流した。
「住人は変化は望んでない、それを壊す可能性のある優しさも、・・・単純にそれだけだ」


「でも、町の人たちは、あなたたちを受け入れてくれたわ」


「ぎりぎりな」
アスヴァレンは港の外に目をやった。こちらに近づいてくる漁師の小船が見える。
「・・・さっきの反応を思い出してみろ。本心からそうか? 俺も含めた、お前の周りは分かりやすく目立つんだ」


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「目立つ?」


「そうだ・・・島では珍しいお前のような若い女、それに錬金術師、得体の知れない奴隷娘、更にオークだ」


「そんな言い方って・・・!」


「実際、エドウィンはかなり無理をしていると思うぞ。パン屋の言葉を聞いたろう?」


(変な娘拾ってきたかと思えば、今度はオークだって? なにしでかすかわかったもんじゃない。それに、そこの怪しげな錬金術師も・・・)彼女は酒場で言われたことを思い出した。悔しい思いがよみがえってくる。


「平和だった島に突然見知らぬ連中が現れたんだ。警戒もしよう。安心するために・・・皆、分かりやすく責め易い相手が欲しいんだ。お前の母も、最初苦労したと言っていただろう?」


イェアメリスは小さかったから覚えていないが、力を持った魔術師である母イリアンが、島の住人として認めてもらえたのは、移住してきてから相当時間が過ぎたあとだった。認めてもらったというよりは、無邪気で小さな娘の存在と、本人がすでに病で臥せっている状況をから、町にとって脅威になりえないことが感じ取られて、懸念が薄まったといったほうが正確かもしれない。


「後見人、オークの守護者の誓い、・・・理解のあるエドウィンでさえ、拠り所が欲しいのだ。安心できる材料を、町の連中に安心だと言い聞かせる材料を必死に集めている」


「じゃ、じゃあ、あなたはどうなのよ?」


「オレは滞在中はエドウィンから仕事を請け負っている。金で雇われる分かりやすい関係だ。それに・・・すぐに居なくなる余所者。彼らから見たら通り過ぎる一人に過ぎん」

アスヴァレンは薄く笑った。

「付け加えれば、この偵察を買って出たのも同じ理由だ。あそこに俺たちは長居すべきじゃなかった。外に出る口実だ」


「でも・・・それじゃあ・・・」


「そう。上陸者と我々の差なんて、その程度のちっぽけなものに過ぎん。一歩間違えば立場なんて簡単に裏返る。そんな中でお前があのまま吠えていたらどうなった? ・・・エドウィンがお前を黙らせた、あれはお前を守るためだ」


(ちょっとしたきっかけで人々の感情は裏返るから気をつけなさい、町の住人との関係はおろそかにしないで)アスヴァレンの言葉が、彼女の内から母の口癖を思い蘇らせた。


アスヴァレンは、彼女の肩に手を置くと諭すように言った。心なしか、口調がやさしかった。
「お前は優しいし、変化も難なく受け入れる、それに時々無鉄砲な行動力も見せる。だが、早まったことをしないほうがいい。・・・そうすることは、逆に町の住人を危険にさらすという意味だ」


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イェアメリスは震えながら言った。
「わかってるもん・・・」


「ただ単に、誰か1人の行動で、生活が壊れてしまうことを怖れているだけだ。そこを分かってやれ」


イェアメリスは黙ってうなづいた。


「でも・・・」イェアメリスは最後の抵抗をするように、悲しげに吐き出した。「本当に戦うしかないの?」


「ここまで立場が分かれてしまっているからな。それに・・・戦う殺すと簡単に言うが・・・そんな簡単にいくと思うか? お前たち町の人間は戦士じゃない。相手も慣れない土地で生き残るのに必死だ。どちらも出来る限りの手立てを尽くして、少しでも有利にぶつかり合おうとするだろう。それほどお前たちは上手にいるのか?」


「そ・・・それは・・・」
彼女には答えられなかった。


「今までお前を守ってくれた者たちを思い浮かべるといい。偏屈で排他的かもしれんが、お前を守ってくれてきた愛すべき相手は、あの住人たちなのだろう? 害が及んでもいいのか?」


「よくない・・・」


「それに、相手は奴隷商の一味だ。お前がやつらに情けをかけることで、また別の土地でブラッキーのような境遇の女子供を生み出すことになる。お前の手の届かないところで。それでもいいのか?」


「よくない・・・」


「無理に気持ちを曲げろとは言わん。俺もお前も奴らの事は知らん。そのために今ここにいる。・・・エドウィンの言う通り、これからの偵察で相手をよく見極めたらいい」


彼女は小さくうなづいた。


先ほど見えた漁師の小船がすぐそばまでやってきてとなりの桟橋にもやいをかけた。廃塔から様子を伺っていればもちろん見えるはずだ。太陽の位置も悪くない。


アスヴァレンはイェアメリスに目配せした。


「見張りが潜んでいるとして、あの小船に気を取られているはずだ。今がちょうどいい、行くぞ」


2人は音を立てないよう慎重に、海のそばに寄っていった。
作業をしている漁師も桟橋の陰に隠れている彼らには気づかなかった。


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「そういえば、さっき酒場でおじさんと何を話していたの? 秘密の話?」


「秘密? いや、そんなものではない。どうだ? ・・・お前にはまだ、何かしでかしたい衝動は残っているか?」


「仕出かすなんて・・・ひどい言い方ね。・・・大丈夫、勝手なことはしないわ」


「ならば、俺もエドウィンとの約束を果たさないで済む」


「どういう意味?」


「お前を縛り上げて小屋に連れ帰らなくて済む、ということだ」


「話が見えないわ」


「言っただろう? これからの偵察で相手をよく見極めたらいい、と」


「ええ。だけど、それと何か関係があるの?」


「その上で、納得できないなら、俺に言え。そうしたら・・・」


「そうしたら?」


「お前を縛り上げて小屋に連れ帰る。そういう約束をしたということだ」


「え? なんですって!」
びっくりして相手を見たが、アスヴァレンはわざとそっぽを向いて、表情を読ませない。


「ワシは町のことで四六時中メリスを見張るわけにはいかないから、あの娘が早まったことをしでかさないように見張ってくれ、・・・つまり、そんなところさ」


「っ、ひっど~い。そんなこと・・・ホントに・・・しないわよね?」


「俺もそう願っているが、お前次第だ。手荒なことはしたくないが、今から行った先で、ならず者と交渉始めたりしたら現実になるかもな・・・」


「しないわよ!」
イェアメリスはふざけて、隣に立つアスヴァレンを蹴飛ばした。


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透明化の薬を飲むから、水中で互いを見失うわけには行かなかい。

2人はどちらからともなく、手をつないだ。


「ばらしちゃって良かったの? おじさんに怒られない?」


「お前が俺に勝てると思うか?」


「あら、すごい自信屋さんね」


イェアメリスは、アスヴァレンから海探の薬と透明化の薬を受け取ると、2本を隠しにしまって、残りを1種類ずつ飲み干した。


互いの手の感触だけが現実のように感じられる。

徐々に薄れていく互いの姿。

・・・再び顔を見ようとしたときにはもう透明になっていた。彼女は、わざとアスヴァレンの手を強く握るのだった。




・・・




程なく2人は対岸の岬に泳ぎ着いた。


塔の基礎は地中まで延びている。周りを軽く探ってみたが、進入に使えそうな基礎の亀裂などは見つからなかった。入り口は本来の一箇所だけだ。
さすがに外に見張りは立っていないが、入り口のアーチの奥には人影があった。


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アスヴァレンは、自分たちの姿が透明であることを再確認すると、イェアメリスの手を引いて、斜面から塔の入り口に向かった。アイコンタクトなど一切出来ない状況だったため、手を引っ張られて彼女は躓きかけた。


「ちょっと、危ないことしないでよ?」


「おしゃべりは終わりだ」
ささやく声が思ったよりも近くて、彼女は驚いて赤くなった。体温が感じられ、吐息がかかるくらいの距離だ。透明の薬のおかげで表情を見られなくて済んだことを女神キナレスに感謝した。


「俺は音を立てずに行動ができる。いくら透明だとは言っても、お前はただの素人だからな。見つかる可能性が高い」


「どういうこと?」ドキドキしながら彼女は聞いた。


「確かに透明にはなるが、何かをすり抜けられるというわけではない。草を踏めばつぶれるし、石に当たれば音もする。もちろん口を開けば聞こえるだろう。訓練をつんでいないのであれば、気をつけることだ」


「わ・・・分かったわ」
ごくりとつばを飲み込むと、彼女はアスヴァレンについて、塔の入り口をくぐった。


「!!・・・!」


いきなり目の前に男が立っていて、イェアメリスは思わず上げかけた声を無理やり飲み込んだ。


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入り口の見張りに違いない。3人の山賊風の男が塔の一階に居た。
廃塔の入り口は港のちょうど反対側。町からは死角にあたる方向に向いている。ただし海に出る漁の船からは見えてしまう。それを警戒してか、男たちは少し塔の中に引っ込んだところに控えていた。


アスヴァレンはイェアメリスの手を引いて、そろりとその横をすり抜け、塔を上る螺旋階段へと足を踏み入れた。


屋上に上がると、壁に背を当てて見張りが3人潜んでいた。カジートとレッドガード。それに女が1人だ。
それぞれ剣や弓で武装している。


「弓が厄介だな。塔の上に陣取られたら倒すのに手こずりそうだ」
アスヴァレンはらせん階段から頭だけ上に出して、屋上の見張り場の様子を観察した。


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「思ったより居るわね。ねぇ・・・なんであいつらはあんな端に居るの?」
イェアメリスは屋上に陣取る3人に気取られないように、アスヴァレンにささやいた。


「反対側の・・・我々の塔から見えないように、死角に隠れているのだろう。ああやっていれば、町のほうからは見つからずに、沖からやってくる船を見ることが出来る。そこそこ訓練されている連中だな」


2人は再び螺旋階段を戻って1階に戻った。
1階に3人、見張り場に3人。ここまでは順調だ。


「残りは地下か・・・」


「まさか、降りるつもり? 危険よ」


「大丈夫だ。お前は戻るか?」


「い、行くわ。あたしにだって出来るんだから」


塔の形と中身は、双子の塔の生きている方と一緒だ。その間取りはあらかじめ酒場で予習してきている。
彼女は意を決して、一歩を踏み出した。


「気負わないほうがいい。落ち着いてゆっくりだ」


長い間打ち捨てられてきたため、塔の階段は大量の土砂で散らかり放題だった。特に厄介なのは階段のあちこちに散乱している小石。下手に踏んだり蹴ったりしてしまうと音が立ってしまう。
階段は円形の塔を半周して、そのまま地下につながっている。地下は半ば崩れており、半分ぐらいが土砂に埋まっていた。


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地下にも同じように3名がおり、運んできた樽などが無造作に転がっていた。


「9人確認できたが、まだ居たはずだ。全部で何人と言っていた?」


「たしか・・・15人よ」


「どこかに残りが居るわけか・・・ん?」


アスヴァレンはあたりを探るように目を走らせた。むろん、透明なのでその姿は見えなかったが、彼は何かを見つけたらしく、イェアメリスの手の甲をちょんちょんと突くと、引いた手を地面に向けて少し引っ張った。

彼が指し示した先の、埋もれた土砂の隙間に落し蓋があった。


「港の塔の方には無い部屋だな。何とか下りてみたいが・・・」


「ちょっと無理じゃない? 開けたら絶対にばれるわ!」


落とし蓋が勝手にあいたら、ばれるに決まっている。
さすがの2人も、攻めあぐねたが、丁度そのとき、コンコンという音がした。
反対側からの合図のようだ。男の一人が落し蓋に寄ってそれを開く。


「お~う! まってたぜぇ」


野太い声が聞こえて、中から一人、ならず者が姿を現した。ダンマーだ。
その手には防水加工した麻の布切れが抱えられており、中には焼き立てらしい動物の肉が湯気を立てていた。


「まさか、こんな避難所で肉が食えるなんて思わなかったな」
男たちは上がってきたダンマーから食料を受け取ると、がつがつと食べ始める。
アスヴァレンとイェアメリスは息を殺して、彼らの様子を観察した。


「あの商人は俺たちを穴倉から追い出す原因にもなったが、食事だけは助けてくれたってわけだ」


「だがよ、あと何日こうしてればいい?」


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「ユディトのお頭は、半月以内に船が来るって言ってたぜ。そしたらこの島からもおさらばだ」


「半月~?! ってお前よ、そんなに食うもん残ってねぇじゃねえかよ」


「そのときは村でも襲えばいい」


「ああ、そんときはそんときだな。それより、島を出て当てがあるのか? まさかあの魔術師先生がらみじゃねえだろうな」


「お頭の考えることはわからねぇ、まあ、気楽な海賊稼業でもいいよ、おいらは」


「おらぁここら辺はいやだなぁ。サルモールやら武装船が多いから、もっと南・・・レヤウィンかリルモスあたりがいい」


「俺は女が居るところがいい。船には奴隷が居たからいいが、ここにはくたびれた様なのしかいねえ」


「しー! そんなこと言ってると、アイダに殺されちまうぜ」


「アイダ? ・・・たしかにあいつは美人だ。だがよ、あんながさつな女、願い下げだ。あいつはお頭に気があるんだろ」
イェアメリスは想像した、屋上の見張り台に居た女のことだろうか?


「町はどうだ? 襲うか?」

ダンマーが他の3人をそそのかすように提案する。


「ゴーム・・・お前もお頭の右腕なら、お達しは聞いてるだろ。やるにしても今はまだだ。大人しくしろって言われてるだろ・・・それに、町にそんな女いたか?」


「お前は見なかったのか? 偵察がてらに俺はみたぜ。酒場の女将はまあまあだ。あとは農場にもそこそこ若いのが居たな・・・」


「小せぇのは?」


「あ~、すまん。そっちは守備範囲じゃねえから、意識してなかったわ。にしても、お前は趣味悪いなぁ。・・・1人ぐらいは子供も居るんじゃねえか? あ、そうそう。子供じゃねえけど、この前の隠れ家から見張りに出たとき、ベッピンが1人居たぜ。耳長だけどな」


「エルフは細せぇから嫌ぇだ」


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ゴームと呼ばれたダンマーは、肉を食いちぎるとニヤリと笑った。

「ありゃ絶対着痩せだぜ。俺は気に入った。船奪うとき、チャンスあったら一緒に拉致っちまうか」


「ケッ、ダンマーの趣味は分かんねぇな」


「おめぇは見てないから、どんなの想像してるかしらねぇが。あれは上玉だ。後で言っても分けてやんねぇからな」


自分に関する物騒な話を目の前で聞いて、イェアメリスは身を硬くした。思わずアスヴァレンとつないだ手を握る力が強くなる。


「船の一隻でも手に入れりゃぁ、次の港で好きに遊べるさ」


「おっと、忘れるところだった、お頭が呼んでるんだった。また戻らねぇと・・・地上の空気が吸いたかったんだがな」


そのとき、何を考えたかアスヴァレンが咄嗟に行動に移った。
ゴームが元来た落し蓋をくぐって下に降り、閉めようとしたとき、彼は脇から近づいて、その蓋をしまらないようにがっしりと掴んだのだった。錬金術の薬によって透明になっているため、ならず者たちには落し蓋が引っかかったようにしか見えなかった。


「あ、あれ? しまらねえ? ちょっと見てくれ、おいっ、アーセラン」


蓋の下の階から、代わって別の男が顔を覗かせる。人懐っこいような、よく見ると整った顔立ちのボズマー(ウッドエルフ)だ。小柄なボズマーは、めんどくさそうに、おざなりに蓋を確認した。


「蝶番がバカになってるんじゃねぇ? 古い塔だし、しかたねえよ」


「いいか。煙にだけは気をつけろよ。俺たちがここに居ることがばれると困る」


「分かってるって」


蓋は開いたまま放置された。
イェアメリスは感心しながらも、ドキドキしていた。この穴に下りていくというの・・・?


しばらく様子を見て変化がないことを確認したのち、2人は音を立てないように気をつけながら、落し蓋を降りていった。

塔の地下にあるといえば大概は牢獄か、井戸のどちらかだが、この地下室は彼らの予想に反していた。
見たことがある形なのだ・・・というより、ここのところの探索対象となっていた「あの」、部屋に酷似していた。
石柱日時計の下に隠されているあの部屋に。


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思わず2人は同じものを探して部屋の壁に目を走らせた。・・・あった! 光る壁・・・転移門だ。


「ここって・・・!」声を上げかけて、彼女の口はアスヴァレンの手によってふさがれた。


今まで見つけた秘密の地下室はがらんどうだったが、ここはならず者たちによって物が運び込まれて、生活臭の漂う状態になっていた。
光る壁の前には、ローブを着た1人の男がしゃがみこんで、しきりと調べている。これが男たちの言っていた魔術師先生だろうか? バトルメイジ崩れの。


聞きなれたゴウンゴウンという律動音が光の向こうからかすかに聞こえてくる。彼女は少しめまいを覚えた。

部屋の脇にはベッドロールが並べてあり、1人寝ている。反対側の壁には、1人の男が箱の上にもたれて座っていた。
むっとするような人口密度だ。


「しっかし、この光は何なんだろうな。魔術師先生よぉ、何か分かったか?」


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「今のところさっぱりだ。まあ、害は無さそうだから、気にするな。俺はもう少し調べてみる」
ローブの男はそういうと、再び壁の謎に取り組みだした。


箱に座った、気味の悪い入れ墨を顔にした男がダンマーに怒鳴る。

脇に控える頭巾頭の男は無言のままだった。この男がカグダンの足を折った奴だろうか? イェアメリスは居並ぶ者たちの危険な雰囲気を感じ、身体を固くした。


「おい、ゴーム。あとでもう一度蓋を見てくれ。あそこが閉まらんと火が使えん・・・おい、ばかっ! アーセラン・・・煙を立てるなと言ったろう!」


「多少は仕方ねえよ、だんな。今はすぐに火を消さなくちゃならねぇんだろ? ほっといたら狼煙みたいになっちまう」
アーセランと呼ばれたボズマーは、壁際に置かれた簡易の調理台の火に土をかけようとしているところだった。
叱責した入れ墨男がユディト・・・お頭と呼ばれている男だろうか。


「もうちょっと待て。今はまずい。この程度の煙なら見つからんが、消したらもっと煙が立つ」


さすがに6人となると地下室は手狭だ。アスヴァレンとイェアメリスはならず者たちを避けて、横の壁にへばりついた。

ユディトとゴームは船の襲撃の手はずを話し込んでいるようだ。夜中の町が寝静まったころ、別働隊が農場に火をかけて注意をひきつけた隙に、夜陰に乗じて船のほうを乗っ取る、そんな内容だ。
単純だが、一般人相手だったら非常に効果的だと思われた。


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「ゴーム、お前は2、3人連れて農場のほうをやれ」


「分かった、お頭。実はそっち行かせてもらえるよう、頼もうと思っていたんだ」


「なんかあるのか?」


「船出の前に、ちょっと攫って行きたい上玉のエルフ女を見つけたんだ」


「分かってんのか? あまり遅れるようなら、容赦なく置いてくぞ」


「任せてくれよ。へまはしねぇ。ちゃんと騒ぎを起こして見せるさ」
ゴームは話がまとまると、再び落し蓋を調べに部屋を横切った。潜んでいる2人の目と鼻の先を通る。イェアメリスは嫌悪感から、肌がむずむずするのを感じた。


「なんだ、ちゃんと閉まるじゃねえか。大丈夫だ、お頭」


地下室には6人、これで合計15人。全員居ることを確認できたとき、頭上でバタンと蓋が閉まる音が聞こえた。ゴームが落し蓋を確認して閉めたのだ。2人は地下室に閉じ込められるかたちになってしまった。


イェアメリスは動き回るならず者たちを避けて壁際に後退した。冷たい壁に背が当たる。
ならず者たちの威圧感のせいだろうか、決して注意を怠ったわけではないのだが、火にかかった鍋に肘が触れてしまった。


「!!!」


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上げそうになった悲鳴はかろうじてこらえたものの、引っ込めた腕が隠しに当たって、薬がひとつ転がり落ちてしまう。イェアメリスの身体から離れたビンは、透明化が解けてしまった。


「?!」


彼女は体をこわばらせて、ビンの落ちる先を目で追った。


目に見える形なったビンは、カラン、と軽い音を立てて転がり、アーセランの靴に当たってとまる。


「ん?」


近くで作業をしていたボズマーは足元を見下ろした。


「どうした?」


ユディトが鋭い視線を向けたが、アーセランの影でビンは隠れている。

彼は何気ない仕草で火を確認する素振りを装うと、つま先に落ちているビンを拾い上げた。


彼はちょっとの間ビンを眺めると、仲間にばれないように懐の中にしまいこんだ。


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「いや、ダンナ。別に何も無いようだが」


2人はアーセランの傍から少しでも離れようと、そーっと部屋を横切り始めた。熟達した隠密者であるアスヴァレンは気配ひとつ見せない。


イェアメリスはおっかなびっくり、その横を息を殺してついていったのだが・・・


「ん? なんだ?!」


不用意にジャリッと小石を踏み潰してしまった。
彼女の立てた物音は、運悪く会話の合間、動作の合間、・・・誰も音を発していない狭間で響きわたった。


「お前、何か踏んだか?」


「いや、俺じゃねぇ」


ならず者たちが慌しく、きょろきょろし始める。
逃げ場は? ・・・上を見上げても落し蓋は閉まっている。イェアメリスは冷たい汗が背中を伝うのを感じた。


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「抜けるぞ!」耳元でアスヴァレンのささやき声が聞こえたと思うと、彼女は口をふさがれた。そのままぐいっと身体が引っ張られて、バランスを崩しかける。彼女は再び悲鳴を上げかけたが、口がふさがれていたために3度目の失態は犯さずに済んだ。


イェアメリスはアスヴァレンに引っ張られ、2、3歩ほどたたらを踏むと壁に倒れこんだ。


ならず者の魔術師がしゃがみ込んで調べているその脇をかすめるようにして、光る壁に突っ込んだのだ。


ぶぅん・・・


眩暈とも取れる無重力感が2人を取り囲んだ。いつもより長い。遠距離を飛んだのかもしれない。


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トっ・・・


投げ出された先で、既視感を覚えながら身を起こした彼女の目の前に、もはや見慣れた装置のシルエットが浮かび上がってくる。


光の壁を抜けて、装置の部屋に来たのだ。

規則正しい律動音に頭がくらくらしながらも顔を上げると、アスヴァレンの姿が見える。


「危なかった。長居しすぎたようだ」


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「ごめんなさい、あたしのせいで」
起き上がると、イェアメリスは謝った。


「お前のせいじゃない。薬の時間切れが近かっただけだ」


「それで飛び込んだのね」


「うむ・・・あまり大きな声は出さないほうがいい」
声が向こうに通ることは既に分かっている。思い出して、アスヴァレンは声を低めた。


「・・・しかしまさかこんなところに装置があるとは・・・」
年長の錬金術師はすでに興奮から覚めやり、懐から地図を取り出してなにやら眺めている。「おかしいな、こんな場所にあるはずは無いんだが・・・」


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彼女は頭痛を払いのけると、長身のダンマーを見上げた。


「いや・・・なんでもない。まったくの偶然だが、これを所持していて正解だったな」
彼は隠しから謎の鉱石を取り出した。部屋に入るための、そして何故かイェアメリスには不要な、鍵となる鉱石。


「やつらはこちらに来られないはずだ」


「・・・見つかっちゃったかしら?」
不安そうに、彼女は光に近づいて、反対側の声を聞こうと耳をそばだてる。しばらくして、ほっとしたように緊張を解いた。


「よかった・・・、あたしたちのことはばれなかったみたい。でも・・・ああでも、あたしのバカ! 薬落としちゃったわ」


「どっちだ?」


「透明化のほう。あれが無いと戻れないわ。姿見えたまま、あっちに行くわけには行かないし・・・」


「おまえにご執心のやつも居たな」


「やめてよ!気持ち悪い。ああ! でもどうしよう・・・」


無力感にさいなまれて、彼女は肩を落とした。
脇に立って部屋を観察していたアスヴァレンは、彼女の肩においたてに力をこめた。ダンマーの視点を追ってそれを見つけたとき、驚きが彼女にも伝染した。


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「おい・・・そう悲観したものでもないぞ。あれを見てみろ」


錬金術師が指し示す先を見て、イェアメリスも同じように驚いた。
今来た入口のすぐ横に、もう一つの光の壁がある。装置に気がとられていて気付かなかったが、これも転移門だ。


「入り口が・・・2つ・・・? 初めてよね」


「行ってみるか?」


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正直、先に何があるか分からない。しかし彼女は頭痛のように頭を悩ませるこの律動音から早く逃れたかった。その一心でうなづく。


「大丈夫か? やはり病み上がりで来たのは・・・」


「いいえ、違うの、この音が嫌なのよ。このままここに居たら、頭が割れてしまうわ。行きましょ。すぐにでも抜け出したいの」


「分かった。行くぞ」アスヴァレンは手を差し出しかけて止めた。
「透明じゃなかったな」


引っ込めかけた手をイェアメリスは追いかけるように掴まえてしっかり握ると、転移門に自分から踏み込んでいった。


ブゥン・・・


・・・転送は一瞬だった。


危険に身構えた彼らの予想に反して、送られたのは普通の地下室だった。そう・・・最初に彼らが見つけた北の島の地下室とそっくりな形の部屋だった。こちらはならず者たちも到達していないだけあって荒らされていない・・・と言うか何も無かった。


天井には見慣れた落し蓋がひとつ。彼らの予想通りだったらこの上には日時計の石柱があるはずだ。・・・島のどの石柱にかまでは分からなかったが・・・


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「ここから出られるわよね」


「想像通りだったらな」
アスヴァレンの口調も、やや期待をこめたものだった。


「もう行くか? 少し休むか?」


彼女は立ち上がると、落し蓋に手をかける。
「行きましょ! 早く町に戻って伝えたほうがいいわ」


押してみたが、重くて動かない。


「あれ? 開かないわ。錆付いているのかしら?」


「どれ、代わろう」


イェアメリスの脇に立つと、アスヴァレンは彼女に手を添えた。2人がかりで押しても蓋は重い。何とか動きそうだと見て取れて、アスヴァレンは腕に力をこめた。ノルドとダンマーの融合した、芸術的な腕に筋肉が盛り上がる。


ガコッ! ゴボッ!


蓋が開いた。


ドウッ・・・


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途端、アスヴァレンはイェアメリスを巻き込んで倒れこんだ。


「うおっ! メリス! 薬を飲め! 今すぐだ!」
倒れこんだと言うよりも吹き飛ばされたと言うほうが近い。開け放った落し蓋から猛烈な勢いで水が流れ込んできたのだ。


落し蓋に向かおうにも流れ込んでくる水流が強く、近寄ることが出来ない。
2人は溺れかけながら苦労して海探の薬を飲み干すと、部屋が完全に水没するのを待って脱出したのだった。


「塩辛い・・・ここ海よ!」


「・・・見えるか?」アスヴァレンは落し蓋から漂いだした海中で向きを変えると、並ぶ彼女に来たところを指し示した。落し蓋の周りに石柱が立っている。ただし海中だが。「まさか、海に放り出されるとはな・・・」


海中で姿勢を取り戻そうとしながら、彼女は胸をなでおろした。

「なくした薬が海探だったらと思うと・・・」


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「マーラはおまえに微笑んだようだ。しかしさすがに驚いたな、海中に石柱とは・・・」


流れ込んだ水の反動で海中に大量の砂を巻き上げてる地下室の入口をしばし眺めると、2人は陸の位置を確認した。そして、陽光の差し込む水面に向かってゆっくりと浮上していったのだった。




・・・




彼らが放り出されたのは、港からは遠く離れた、なんと、北の砦の近くの海中だった。


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そこから陸地に這い上がり、砦のエルヤー隊長のところに駆け込んで事情を話し、やっとのことで戻ってきた。そこまで時間のかからないはずの偵察だったはずだが、なかなか2人が戻ってこないので、エドウィンは、まさかドジを踏んで捕えられたりしてないだろうかと、はらはらしながら待っていた。


町にたどり着いたのは、昼過ぎだった。

酒場では喧騒は収まっており、住人も主だったものを除いて皆すでに普段の生活に戻っている。


疲れきった顔の2人が戻ってきたのは、いいかげんしびれを切らして別の者を送り出そうかとエドウィンが考え始めた、そんなころだった。エルヤー隊の馬が無ければ、夕方になっていたかもしれない。
2人を伴ってキルクモアの町に乗り入れた女隊長エルヤーは、エドウィンと軽く話したのち、一人を領主ロデヴィル3世への伝令として返し、自分を含む5名を町中の教会に駐屯させる決断をした。きびきびとした指示を受け、部下たちが動いてゆく。


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イェアメリス達は廃塔で見つけた装置の部屋、というささやかな秘密を抱えていたが、待っていた者たちの興味はならず者たちの様子、その一点に集中しており、帰りが遅れたことにはさして関心は示されなかった。


その日の午後いっぱいかけて、酒場に集まった人々は対策を練った。
エドウィンは、1週間以内に衝突が起こるだろうと予測していた。エルヤー隊長もそれには同意見だった。


「・・・と、こんなところか?」


「相変わらず現実的な作戦を立てるな、エドウィン」
女隊長は町の顔役のことを良く知っているようだ。まるで戦友のような口調だ。


「作戦と呼べるような立派なもんじゃない。時期が特定できない上に、ワシらは軍隊じゃない。複雑な作戦を立てても機能しないさ」


キルクモアの酒場は、臨時の作戦本部の様相を呈していた。エドウィン、補佐役、イーリック、番人テオリック、衛兵のティレク、ウラナック、町を運営しているものを中心に、エルヤー隊長、兵士4名が集まっている。

アスヴァレン、ブラッキーの異邦人組、そしてイェアメリスも同席していた。


「訓練する時間もない、か」


「動きを示し合わせるのが精一杯じゃろうな。下手したら明日にでも攻めてくるかもしれぬのだろう?」


「あ・・・あの」
イェアメリスがおずおずと声をかける。
「船が来なかったらどうなるのかしら? ・・・次の巡回交易船まで」


エルヤーは難しい顔で言った。
「それが今回の一番の心配だよ。そんなことになったら、お前たちが偵察で掴んでくれた情報が通用しなくなる。飢えたならず者たちの襲撃は今以上に、いつ、どこになるか分からなくなるだろう」


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女隊長はテーブルの上の島の地図のあちこちを指し示した。
「時間が経てば経つほど、不安定で危険が増すというわけだ。この町をめぐっての戦いになるか、モックかファイズが襲われるか。その時には、お前も剣をとらなければならないだろうな」


「こんなときにセロおじさんが居てくれれば・・・」


「贅沢は言えまい・・・わしらとて、町の女子供に手出しはさせぬよ」
エドウィンは今まで見せたことのない、戦士の顔を見せていた。


ブラッキーが2階から降りてきたのを見て、イェアメリスは声をかけた。


「お兄さんの様子はどう?」


「うん、落ち着いて寝てるよ、ありがと」


気づいたエドウィンはブラッキーを手元に招き寄せた。
「お前さんにも力を貸してもらわなければならん。頼りにしていいか?」


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「任しといて、おっちゃん」
元気よく請合う。彼女は偵察に置いて行かれたと聞いてしばらくむくれていたが、船の防衛に参加できると分かって目を輝かせた。


「あ・・・あたしも何か・・・」
イェアメリスがおずおずと申し出る。



エドウィンが、おやっ?といった目を向ける。

「ん、戦うのは嫌と言っておったろう。相手を見てきて、何か心境に変化でもあったか?」


「んもう。意地悪な言い方しないで、おじさん」

イェアメリスはエドウィンの目を見返した。


「戦うのは嫌よ。でも、話が通じそうにない相手だということも分かったから・・・」

話し合うどころか、自分を狙うならず者までいる、元の気持ちはともかく、彼女はその現実と向き合わねばならなかった。


「安心せい。何もお前さんに剣を握らせようなんて思っとらんよ。お前さんは錬金術師じゃろ。薬を用意して、その時は教会でけが人の救護にあたってもらう」


「うん」


「それに、もうひと役買ってもらうかもしれぬから、覚悟しておいてくれ。


「もう一役?」


「その時説明する」


こうして、落ち着かない日々が始まった。




・・・




次の日、そして次の日。2日が過ぎたが、何の動きも無い。


平静を装いながらも住人の緊張は高まっていた。


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「ん~、夕風気持ちいね」


「ちょっとブラッキー、気が緩んでるんじゃないの?」


ブラッキーと姉は、港側の塔の見張り台に来ていた。イェアメリスは反対側に見える双子の塔に目をやったが、何も変化はない。向こうに見える塔には、ならず者が潜んでいるのだ。


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「ねえちゃん、緊張は大事だけど、リラックスしとかないと、いざという時に動けないよ」


「呼べば聞こえる距離で、リラックスも何もないわよ」


とは言ったものの、半日もここで見張りを続けている。イェアメリスは堅くなった背中を伸ばそうと姿勢を変えた。
反対側の塔にも見張りが身を隠していることは分かっていた。胸壁の影に隠れているはずだ。ならず者も同じように、船が来ないか見張っているのだ。


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「船、来ないわね?」
きらきら光る水平線に目を凝らしていたが、見えるのはうねりの銀色の反射だけだ。


「う~ん、どうだろう。2日目? 今日もなさそうだね。そろそろ帰らないと、お腹をすかした兄貴が手近な食料を探し始めるかもよ」


「あらたいへん、”ぷぅ”が食べられちゃうわ」
イェアメリスがおどけて見せると、ブラッキーが笑顔で答えた。


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「ねえちゃん、冗談言う元気があるならまだ大丈夫だね・・・あれ?」


塔はオレンジ色の光に包まれていて日没が近い。そろそろ交代の時間だ。
光る水平線に異質の反射を認めたのだ


「ねえちゃん! 見た? あれ!」


目を凝らして見ると、間違いない、船影だ。


「ええ、船だわ。あの距離だと、明日の朝には着くわね!」


彼女たちの心配は杞憂に終わり、疲れた身体に興奮の火が駆け巡った。

2人は転がり落ちるようにして塔から降りると、知らせるために町に駆け込んでいったのだった。




(つづく・・・)




※使用mod


・kuromimi Followers(アーセラン) ・・・くろみみさんの製作されたボズマーの商人フォロワーです。


くろみみさんのブログではアーセランくんが登場するRPがあります。

スカイリムにやってきていろいろと軽犯罪(?)をやらかした挙句、仲間と居場所を得ていくのですが、ここでは彼がスカイリムに来る前の話として、うちのストーリーラインに絡めて出演していただきました(*´ω`*)


今回は悪そ~な悪役一味のポジですごい人相悪く撮ってます(^^;)が、2部で本格的に活躍してもらいます。


・OBIS(Organized Bandits In Skyrim ) ・・・山賊の顔のバリエーションを2500以上追加して、称号や山賊団を結成してくれます。

・OBIS Loot ・・・OBISに加えて、戦利品(いわゆる得物)を追加し、防具の見た目も増やします。

・NPC85 ・・・女性の山賊を大量に美化します。


これら3つを使うと、見た目、戦い方、戦利品、といった敵役の単調さが一気に解消されて、とても面白くなります。

今回のならず者たちはランダム生成なんですけど、意外と悪っぽい集団が結成できたと思っています。



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