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TES大好き、もきゅがスカイリムの物語をお届けします

◆Chapter 1-9: 兄妹

2016
29

倒れて小屋に運ばれたイェアメリスは、結局2日間ほど寝込むことになった。


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町の医者を兼ねるステンダールの番人、テオリックの見立てでは、病気というよりも極度な過労によるものだということで、しばらく安静にするのが何よりの薬だと言われ、医学にも詳しいアスヴァレンも同じ意見だった。


大したことなさそうなので皆一様に安堵したが結局、原因は分からなかった。


なにより彼女はまだ若い。彼の調合する薬の滋養も助けになったようで、持ち前の回復力で1日後には短い時間であれば起き上がれるようになり、2日目には家の中で退屈の不満を述べるようになり、そして3日目にはフィールドワークに出られるまでに全快したのだった。


イェアメリスが倒れていたため、この数日間、代わりにブラッキーが町に行ってエドウィンに報告をしていた。
その間、東帝都社の武装艦は出港し、いろいろな不安を孕みながらも、キルクモアの島は一時的に静けさを取り戻していた。


島の出来事や主要な情報は顔役であるエドウィンに集まってくる。ブラッキーはエドウィンと情報交換をするのが日課になっていた。ちゃっかり、一緒に朝食や昼食をいただくことも、少女は忘れていない。
今日はイェアメリスが久しぶりに外に出るというので、ブラッキーはゆっくり準備して、2人で昼頃町にやってきた。これまで、小屋や浜辺で一人で食事をすることが大半で、疎遠とまではいかないまでもあまり町に用事のなかったイェアメリスだったが、ブラッキーが現れてからここに入り浸ることが増えていた。


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「おっちゃん、今日は何か仕事ないの?」


「特にはないな。メリスも回復したばかりだから、たまには少し休んだらどうじゃ?」


「そっか~。ヒマだなぁ・・・」


薄い塀に囲まれた町は平常運転だ。
数日間の捜索にもかかわらず、ならず者と目される難破船の生存者たちを発見することはできなかった。もしくは・・・、未だ発見できていないだけかもしれないが、直接の脅威が目に見えないため、住人たちはいつも通りの生活に戻りつつあった。


イェアメリスとブラッキーが、エドウィンと会うのはいつも、町に一軒だけある酒場兼宿屋だった。町の住人達も、何かあったときにすぐエドウィンを頼ってくるため、ここにいるのが便利がいいのだ。
1階の奥のテーブル、女将のフィーリアの立つカウンターの横の席は、エドウィンの仮の執務室のようになっていた。今そのテーブルの上にはごちそうが並べられている。


同じテーブルに就き、町一番の物知りから、ブラッキーは島の様子を聞き出していた。


「鉱山は結局どうなったの?」


「うむ、ファイズ鉱山の連中は、いったん引き揚げさせたよ」


「閉めちゃうの?」


「いや、いまのままでの復旧は難しいので、別の手を考えようと思ってな」


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さすがに坑道を塞ぐあの大きな岩をどかすは簡単ではない。本土から専門の技師を呼ぶだの、魔術師に爆破を依頼しようだの、いろいろ案は出たが、どれもこれも時間がかかりそうだった。
鉱夫のケイラン、ファーガス、息子のライアンはいったんファイズ・クライグの村に引き上げ、復旧までは別の仕事をあてがわれることになった。
島で必要な鉄資源のほうは、少しコストがかかるが、交易船に発注し、差額を町の備蓄から補う。
武器のほうは東帝都社の武装艦に積んであった予備を少し分けてもらうことにして、急場をしのぐ。エドウィンはここ数日、そのような様々な問題を処理していたのだった。


「おっちゃん、冴えない顔してるけど、まだ何か悩みでもあるの?」


「ん? そんなに冴えない顔しとるかね、ワシは」
エドウィンはブラッキーとイェアメリスを見て苦笑した。


「あんま悩んでると、髪の毛なくなっちゃうよ」


「もう気にするほど残っておらんよ」


イェアメリスは、失礼なことを言う妹の頭を軽くはたくと、心配そうに後見人を見た。

「そうね、なんだか難しい顔してるわ」


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「まあ、いろいろあるんじゃよ・・・」


キルクモアは軍事的にも政治的にも辺境に位置しており、観光地でもない。かつての貿易の中継点としての機能も廃れた今は、補給港の役割以外には、目だった特徴がなかった。また、本土からかなり距離があり、軍備もわずかであることから、野心をもつ貴族にとっては面白みのない・・・むしろ配流の地のように思われている。


現在の領主、ロディヴィル3世はノースポイント国王の遠戚に当たる。幸いにして、政治的野心が旺盛な人物ではなかったため、この島はハイロックお家芸である宮廷陰謀の中で重要な役割を担わされることはなく、住民の代表に自治を任せても問題ないぐらいの、のどかさを保っていた。言い換えると、町の些事は住人に任されているのだった。


エドウィンは貴族ではなかったが、20年ほど前に急に本土からふらりと現れて間もなく、領主の一存でキルクモアの町、モック村、ファイズ・クライグの運営を一手に任されることになった。

異例の抜擢と、見た目がそっくりなことから、領主の隠し子ではないかと言われていたが、本人も領主も何も語らず、何よりもエドウィン自身の有能さと、面倒見の良さもあって、町ではおおむね好意的に受け取られていた。


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・・・町の顔役には様々な問題が持ち込まれてくる。エドウィンはそれらを一手に引き受けていた。
その中でも、最近の悩みの種は、家畜のことであった。


どこに隠れているか分からないならず者も脅威だったが、最近町では別の問題が発生しており、エドウィンはその対処に頭を悩ませていた。


「難破船、ならず者の捜索、鉱山の落盤、輸入品の高騰、・・・その上、番人テオリックは吸血鬼が居るとか言い出しよるし、家畜の被害の件もまだ片付いておらん」


エドウィンの元に半年ほど前から、町で飼われている家畜が、被害に遭っているという苦情が寄せられていた。家畜の不審な死・・・何者かに殺されているのが、ちょくちょくと発見されているのである。それに加えて、行方が分からなくなった家畜も多いらしい。
こちらはこちらで、住民の不安をあおる問題になっていた。


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「ふ~ん。家畜ねぇ・・・、犯人は人間?獣?それとも・・・?」


「ワシはおそらく獣だと睨んどる。食いちぎられたような痕が残っておるでな。だが・・・熊でも居るのなら、既に目撃されていてもおかしくないんだが」


「森は調べたの?」


キルクモアの町や近くの村では主に、農耕用、運搬用の牛馬、食用の豚、乳牛、鶏などが飼われている。一歩森に入ると野生の馬や兎、雉、鹿、ホーカーなど、狩りの対象も豊富だった。


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「まだ本格的にはやっとらん。・・・まあ、森に詳しいのは、狩人とメリス・・・お前さんぐらいのものだが・・・特に何か見た訳ではないんじゃろ?」


「そうね。特に、熊とか虎の類は居ないと思うわ。見かけたことも、痕跡もないから」


イェアメリスはフィールドワークでよく森に入るが、獲物でない獣といえば野犬ぐらいにしか出会ったことはない。猛獣の類が住んでいる印は特になかった。


「ここ数日、よく森に入ってたのはあんちゃんだね・・・あ、そういえば、今日はアスヴァレンのあんちゃんは? ・・・フィーリア姐さん、知らない?」


「ああ、あの錬金術師? 今日は居るよ。上の階で地図とにらめっこして何かやってるよ」


「そっか。後で聞いてみるとして。もう一人、えっと、だれだったかな・・・」


「何のこと?」


「ねえちゃん、あの・・・、森のこと知り尽くしている詳しい人が、他にも居るって言ってたでしょ?」


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「イゼリックさんのことね」


導師イゼリックはキルクモアの野外に暮らす、自然を崇拝対象とするドルイドだ。森の中に何箇所か住処を設けていて、人里にはあまり近づかない。そのため、森のことなら何でも知っているといわれていた。
イェアメリスの母の墓の近くにもその住処の一つがあり、この前近くを通りかかっていた。


「その人に聞いてみるのが一番早いんじゃない? 運が良ければ家畜のこと、上陸者たちのこと、両方分かるかもしれないよ」


「この前会えなかったからね。行ってみましょう。おじさん、それでいいわね」
イェアメリスは外に出たくてうずうずしていた。基本、活動的なのだ。


「体調は大丈夫なのかね?」


「ええ、もう完全に平気。疲れてたのよ、きっと」


「収穫を期待しているが、まだならず者への警戒を解いてはならんぞ」


「わかってるわ。あの船は今でもあたしの小屋の近くに見えてるんだから、みんなは忘れかけているかもしれないけど、あたしにとっては今も進行中の事件だわ」


「それを聞いて安心したよ」


ブラッキーは、階段に足をかけて、姉の方を向いた。
「せっかくだから、あんちゃんも誘っていこ」


「そうね」


2人は連絡と情報共有を兼ねた食事を終えると、上階にこもっているアスヴァレンを呼びに階段を上がった。
ダンマーの錬金術師は、昼間は上の階にいることが多い。


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「せ~んせ? そんな日の当たらないところにいると、湿気でキノコ生えてくるわよ?」


「数日寝ていた者に言われたくはないな・・・」


今日は返事がある。
イェアメリスが覗き込んだ時、錬金術師は島の地図をテーブルに広げて、何やら書き込んだり消したりを繰り返している最中だった。


「・・・あら? 何してるの?」


「ん、ああ・・・」

再び作業に没頭しかけた彼は、生返事を返す。


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「それ・・・この前の装置があった場所よね」


「そうだ。3か所見つけた訳だが、これですべてとは思えなくてな。法則性がないか検討していた」

彼の目線の先では、地図の見覚えのある場所に、印がつけられている。


「あれ以外にもまだあるというの?」


「そう考えるのが自然だろう」


「あたしもそんなに詳しくはないけど・・・。もし、石柱・・・日時計のある場所と関連付けられているのであれば、確かに他にもありそうね」


彼女の知っている限り、石柱はあの3か所以外にも島の各所に存在した。母の墓があるところも同じ石柱だ。たしかファイズ・クライグと北の塔の間にもあったような気がする。いままで意識してこなかっただけで、まじめに数えたらもっとあるかもしれない。


「それならちょうどいいわ。これからイゼリックさんに会いに行くところなの。一緒に行かない?」


「森の隠者・・・だったか?」


「そんなとこよ」


手すりに行儀悪く腰掛けたブラッキーが隠しから何かを取り出した。その手には、装置の部屋で見つけた鉱石が握られていた。


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「これのことも知ってるかもしれないしね」


下の階に聞こえないように、声をひそめて付け加えた。




・・・




モック村への街道分岐点まで来て、3人は立ち止った。
朝から雲行きは怪しく、霧に包まれて視界が悪い。こんな日は海に出てもロクなことがないだろう、3人の一致した意見で、今日は陸路を採ることになった。


霧は薄まるでも濃くなるでもなく、島の上に薄いヴェールをかぶせたように、重苦しく視界を制限している。しかもしばらくしたら小雨もぱらついてきた。


「海に出なかったのは正解だと思うけど、陸に居てもあまりよく見えないわね」


「うん。しかも雨降ってきちゃったよ。姉ちゃん日頃の行い悪いから・・・」


「それはあんたでしょ? ・・・しかし、困ったわね」


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アスヴァレンは、霧と小雨で湿った服を煩わしそうに揺らすと、赤い瞳をイェアメリスに向けた。
「もう大丈夫なのか? 今日は少し気温が低い。また風邪を引くかも知れんぞ」


「あら、めずらしい。心配してくれるの」
とっさに憎まれ口を聞いてしまったことに気が付いて、彼女は語尾をごにょごにょと濁らせた。いつも言ってしまってから後悔するのだ。


「慣れてきたとはいえ、俺もブラッキーもこの島では異邦人だからな。お前が案内に居てくれんと困る」


「あ~・・・そうね。そうよね。あたしが地図にならないとね・・・」
彼女はツンとしてそっぽを向いた。


「何をイラついている? 気に障ることでも言ったか?」


「何でもないわよ。・・・さ、これからどうするの?」


イェアメリスは話題を変えようと話を振ったが、そのまま自分に返ってきてしまった。


「どうするって・・・イゼリックに会いに行くと言ったのはお前ではないか。もちろん、彼の居場所は分かっているのだろう?」


「いいえ、さっぱり」


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「は?」
アスヴァレンは思わず眉をしかめてイェアメリスを見た。


「会いに行くのに、場所が分からない?」


イェアメリスは髪の先を指に巻きつけた。
「イゼリックさん、家を持ってるけど定住してるわけじゃないのよ。一年の大半を島の中を動き回って過ごしているから。・・・まずはモック村に行ってみるしかないと思うの。そこで会えればラッキーだわ」


イゼリックは文明生活を捨てて自然に暮らすドルイドではあったが、完全な野人というわけではない。


「ラッキーじゃなかったら?」


「この前行った、母さんのお墓の近く。そこに行くわ」


「そこにもいなかったら?」


「あたしが聞きたいわよ」


立札のある分岐点を曲がって、街道を少し進めばモック村だ。
数日前と同じ場所に焚き火が燃えている。街道商人の休憩場所だ。火がついているということは、商人がいるに違いない。
イゼリックを見かけなかったか聞こうと、3人は焚き火に近づいていった。


「待て、様子がおかしい」


手を横に伸ばして、前に進もうとする女性たちを止めたのは、アスヴァレンだった。


「どうしたの?・・・ひっ」


イェアメリスは小さな悲鳴を上げると、口に手を当ててアスヴァレンの陰に隠れた。


彼女たちの目と鼻の先に、人が倒れている。街道商人の・・・死体だった。

アスヴァレンはかがみこんで死体を調べてみたが、首を振った。


「ずいぶん前に殺されたらしい。おそらく、夜中だろう・・・」


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つい先日言葉を交わし、買い物をし、別れた人間がこうして横たわっているのを、イェアメリスは信じられない、という目で見つめた。


「どうしてこんな・・・」


「物がいろいろと奪われている」


「この島にはこんなことする人はいないわ」


あたりに散乱する樽やら荷車を調べていたブラッキーがやってくる。
「ねえちゃん、売り物とか食料とか、ほとんど盗られてるね。これって・・・」


島の住人はほとんどが顔見知りだ。騒動を起こすのは決まって、外からやってきた人間だ。
イェアメリスは仲間の2人を見たが、もちろんこんなことする人間でないことは、一緒に行動してわかっている。


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「どうする。出たばかりだが、知らせに一旦戻るか?」


「そのほうがいいわね・・・」


「でもねえちゃん、イゼリック導師とやらのキャンプはこないだのところだよね? すぐそこでしょ? 駆けあがったら5分もかからないから、先にそっちを見てこうよ」
ブラッキーの言うことももっともだ。ここまで来たらキャンプを訪ねてから帰るのも大した違いではない。


3人は、イェアメリスの母の墓の方・・・街道から外れて丘を登り始めた。墓の近くまで来るといつもの場所にキャンプが見える。しかし焚き火も消えており、石柱の周りにも祈りをささげる人影もない。残念ながら、寄り道は無駄に終わった。


「今日も会えなかったな」


「ええ・・・」


肩を落として街道に戻りかけたイェアメリスを、ブラッキーが呼び止めた。


「あれ? 待ってねえちゃん。あそこに誰かいるよ?!」


呼び止めてすぐ合図し、自分も体勢を低くする。
アスヴァレンとイェアメリスが、少女の後ろから様子を伺うように進み出た。


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ブラッキーが指し示したのは、上ってきた丘と反対の下った先にある、別の焚き火だった。その焚き火を囲むように3人の男女がたむろしていた。弓を背負った男女2人、そしてローブらしきものを纏った男だった。


「ブラッキー、知っている顔がいるか?」


「わかんない。船に居た顔じゃない気がする。でも・・・町でも見かけない顔だね」


「どうする?」


イェアメリスは目を凝らしていたが、やがて肩で息をつくと、立ち上がった。
その体からは緊張感が消えている。


「大丈夫よ。あれ、イゼリックさん達だわ!」




・・・




焚き火を囲んでいたのは、ドルイドと狩人たちだった。
普段はもっと西のほう、領主の砦の南に広がるキルクモアの大森林の縁に野営し、時々獲物を近隣の居留地に売りに来て生計を立てている。2人組の彼ら、狩人たちは夫婦のようだった。
もう一人、黒いローブに身を包み、何か超自然的なものでも見るように、遠くを見ている老人。この老人が森の隠者、導師イゼリックだった。


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キルクモアはブレトンというひどく現実的な人々が住んでいる島であったが、それでも伝説のひとつや二つはある。森を守護する超自然的、霊的な生き物の存在、そして動き回る巨木、そんなものが居ると口承されている。

イェアメリスも夜中、森の中で光るウィスプのようなものを見たり、うわさを聞いたことがあった。
イゼリックは、これら超自然的な存在をドルイドの力で感知できるといわれていた。


「イゼリックさん!」
隠れていた丘の中腹から駆け出して、焚き火のところまでやってきたイェアメリスは、安堵の声を上げた。


「おお、メリスではないか。それに、その2人・・・、ええと・・・」


「彼はアスヴァレン」


「旅人だ。しばらくこの島に厄介になっている」
狩人2人が向ける興味の目をかわすように、アスヴァレンは脇によけて少女のスペースを作った。そこにブラッキーが進み出る。


「ボクはブラッキー」


「ああ、エドウィンのところの居候じゃな。聞こえておるよ」


「あれ? なんかボク有名人?」
小さな島だ。うわさが伝わるのも速い。にしても、町に寄り付かないこの老人はどうやって知っているのだろう。


「正確には、あ・た・し・の居候・・・家に転がり込んできてるんだけどね」


「あ、その言い方ひどい・・・でも、何でボクのこと知ってるの?」


「森の精霊たちが騒いでおったからな。島の新しい家族、そして歓迎されざる者共の到来、闇に蠢く者の噂を・・・」


「じゃあ、やっぱり上陸者が・・・」


イェアメリスは、ブラッキーを抑えて割り込んだ。


「その話は後よ、聞いて! あそこで大変なことが!」そういって、自分たちが見つけた商人のほうを指差す。


イゼリックは彼女たちがやってきた方角に目を向けた。2人の狩人もうなづく。


「殺されて? もう知っておる。いま、正にそのことについて話しておったのじゃ」


「あたしたち、いま町からきたところなの・・・その途中で」
言いかけたイェアメリスを、老人は遮った。


「ちょっとここはまずいから、いったん移動しようかの、こっちだ」


「え? どういう・・・?」
イェアメリスたちが理解できないうちに、イゼリックは立ち上がるとたき火を消し、歩くよう促した。
丘を回り込んで目と鼻の先にあるのがモック村だ。


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彼らは村の中にある、イゼリックの普段はまったく使うことのない家に案内された。


薄暗い家に張り放題のクモの巣を、素手で乱暴に引き裂きながら、老人は奥に進んだ。暖炉に火をつけて、丸めたクモの巣も一緒に放り込むと、ほんのり部屋が明るくなる。ほとんど使っていないというだけあって家は埃っぽかったが、今は雨をしのげるのがありがたい。
イェアメリスは一息つくと、集まった顔ぶれを順に見回した。


家の主である黒の導師イゼリック、森に暮らすメグワルドとフィアの狩人夫妻、元気のいい居候の妹、物静かな錬金術師、期せずして集まった6人は、雨宿りしながら現状を話し合った。


・・・発端は、狩人メグワルドが、モック村の丘の近くを歩いていた時だった。


丘の脇には岩の裂け目があって、内部が洞窟になっていることは昔から知られていた。奥は地下の水たまりや洞窟植物の群生がある。何よりも特筆すべきは、この洞窟の中には島の守護者の眷族と目される樹木の巨人、トレントがいることだった。


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トレントは周りの自然を守護する存在で、スプリガンとは違って好戦的ではなく、人間とは共存している。尤も、その姿を見られるのは限られた者だけで、存在はほとんど知られていない。


100年に一度、特殊な木の実を生み出すため、錬金術師から見たら垂涎の的だった。
イェアメリスも何度か足を踏み入れたことがあったが、残念ながらトレントの実を手にしたことはない。
噂によれば、イゼリックは過去にこの実を手にして、食したおかげで超自然の存在達と言葉を交わせるようになったという。


「一見、・・・何もないように見えて、この島は神秘の宝庫だな」
暖炉の火に照らされながら、アスヴァレンは感心したようにつぶやいた。


そのトレントが、裂け目から出て森に歩いて行くのを、彼は見たというのだ。
トレントは普通住処から動こうとしない。
それが移動するというのは、住処に何か異変があったという徴しだった。


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更にその入り口付近で今日、不幸な街道商人が命を落としているのを女狩人のフィアが発見した。何者かに襲われたようだ。それは先ほど、イェアメリスたちが見つけた商人の死体だった。


商人が襲われた現場から程遠くないところに裂け目の洞窟はあった、狩人メグワルドは何か手掛かりが無いかと周辺を探索していて、洞窟の入口の異変に気が付いたのだった。
普段は訪れる者もなく静かな入口に、どう見ても一人や二人では済まない人数が出入りしたような足跡がついていたというのだ。


何か嫌なものを感じて、近くのキャンプで妻と話していた時に、森から戻ってきたイゼリックが通りかかって、その後さらにイェアメリスたちが合流したというわけだ。


「・・・ということは、その裂け目の先の洞窟に、ならず者たちが潜んでいるかもしれないんだね」


「ああ、可能性は高いな」
メグワルドはブラッキーの予測に同意し、水筒から一口飲んだ。


「でもあんた。普通に考えてあたしら狩人の目に留まらないまま、この島に半月も隠れ続けるなんて、できゃぁしないよ。本当にそんな連中、上陸してるのかい?」


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妻のフィアは不満そうだ。
たしかに、今の時点で上陸者の証拠をつかんだものは誰もいない。


「あたしの小屋の前には、その船が今でもあるわ」

今まで何もなかった、それだけに、今回の街道商人の殺害は無視できないきっかけのように思える。


「この島に一番詳しいイゼリックさんにさえ姿を掴ませない・・・ということは、相当慎重なのか、手練れの魔術師が混ざっているかもしれないわね・・・」
イェアメリスは見えない圧迫感を感じて、組んだ腕に力を入れた。


「イゼリックさんも嫌な兆候を感じているというし、あの商人を発見したのはフィア、お前じゃないか。・・・あの殺され方を見ただろう? 島の者じゃない・・・調べてみる必要がある」
メグワルドは上陸者がいると確信しているようだ。


「・・・まあ、気に入らないけど、賛成だね。あたしゃ自分の目で見た物しか信じないから、ここで目をそむけたら嘘つきになっちまう」


フィアはしぶしぶ同意した。


「でも足跡はひとりじゃない。そんな連中とはち合わせたらどうするのさ? ・・・あたしたちゃ狩人とはいっても、人を狩るようにはできちゃいないよ。」


「そうだな、俺らの本分は待ち伏せだ。・・・だが、この件は放っては置けないだろ」


2人のやり取りを見ていたイェアメリスは、椅子に座る錬金術師に顔を近づけた。
「なんか、あなたと気が合いそうじゃない、あの人」耳元で囁く。


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「事実の認識は何よりも大事だぞ」
脇を小突かれて、アスヴァレンは苦笑しながらささやき返した。


「しかし・・・あの老人にはいろいろ聞きたいことがあったんだが・・・」


「そんな雰囲気ではなくなってきちゃったわね・・・」
イェアメリスも小声で同意すると、火急の問題に意識を戻した。


ブラッキーが口を開いた。
「おじさん。ならず者は全部生きてたとしたら10人以上は上陸していることになるよ」


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「タロスにかけて、そんなにいるのか!」


「うん。ボク同じ船に囚われていたから」
ブラッキーは、今までのいきさつを簡単に説明し、すると、姉の方を向いた。


「あなた、まさか探りに行くつもりじゃないでしょうね・・・?」


「さすがにボクも、そんな人数いるかもしれないところには突っ込めないよ」


「あなたが常識的な考えを持ってるのが分かって、安心したわ」


ブラッキーは少し不満そうに鼻を鳴らした。
「ねえちゃん、ボクを戦闘狂かなにかと勘違いしてない? オークは不要な戦闘は避けるんだよ」


「ごめんごめん。まずは、町に・・・エドウィンさんに知らせるのが先決だと思うわ」
狩人の夫婦も、イゼリックも賛成した。


「アスヴァレン、あなたはどう思う?」


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「俺は部外者だ」
ダンマーはそっけなく、突っ返してきた。


「なによ、冷たい。一応、あなたの意見も聞いてあげようと思ったのに」


「なぜ俺に聞く?」


「いや、だって、一番の年長者じゃない。これでも信頼してるのよ?」


「そこのご老人のほうが年長かもしれんぞ」


「ワシはインペリアルじゃから、お前さんよりは若造じゃよ」
暖炉にかけた鍋を掻きまわしながら、2人のやり取りを聞いていたイゼリックが、面白そうに答えた。


「なんだ、俺を年寄りにしたいのか? ・・・まあいい、うかつに入るのは危険だ、というのには同意見だな。見張りを残して町に知らせに行ったほうが、俺もいいと思う」




・・・




そんな訳で日が傾き始めるころ、6人はイゼリックの家を出て再び雨の中、行動を開始した。
カイラをはじめとした村の住人たちは、珍しくイゼリックが家から人が出てきたのを目撃して驚き、さらにその組み合わせがおおよそ見当もつかないようなちぐはぐな6人であることを知って再度驚いた。


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「なんか、じろじろ見られてるわね」
女狩人のフィアは、好奇の目で見送られて、同じく居心地悪そうにしている夫を見た。


彼らは、村人の視線を避けるように、そそくさと街道に戻った。
万が一にも街道商人の殺害者たちと鉢合わせしてしまわないように、いったん本街道に戻って、キルクモアの町へ戻る途中から、丘の上に入ることにしていた。行きに通るはずだった道にもう一度戻るのだった。霧雨の中、太陽の位置だけはかろうじてわかる。そろそろ午後4時。急いだほうがいい。


少しのち、彼らはモック村のすぐ隣、裂け目の入口のある丘をぐるっと回って、街道分岐の行き先表示が見えるところまで戻ってきた。もう少し進むと、遠くにキルクモアの町の門が見え始めるはずだ。


少し奥の方には、先ほどの商人の殺害現場がある。
狩人たちはそちらの方を向いた。


「俺たちは、また外で見張りを続けるよ。町が嫌いな訳じゃないが、人が多いところは落ち着かないんでな。どう考えても、知らせるのはお前さんたちの方が適任だ」


「ええ、わかったわ。あなたたちも気をつけて・・・あら? 誰かいるわ」
言いかけて、彼女は顔にかかる小雨をぬぐうと、狩人たちの先に目を凝らした。


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倒れている商人の前にかがむ人影が見えるような気がする。
別れの挨拶を飲み込んでイェアメリスがそのことを皆に告げると、彼らは一様に緊張した。
が、人影の姿が鮮明になっていくにつれ、すぐに緊張は解けた。


かがんでいる男は衛兵の装備をしていたのだ。こちらの大人数を見て、向こうも驚いたようだ。
衛兵はキルクモアの守衛の一人、ウラナックだった。


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ウラナックは慌てて立ち上がると、イェアメリスに声をかけてきた。


「やあ、メリス。この不思議な一行は何だね。イゼリック老もいるなんて珍しいじゃないか」


「あら、ウラナックさん。あなたも、こんなところで珍しいわね」
ウラナックはキルクモアの門衛の一人。基本的に町を離れることはないはずだった。


「お前たちが海を調べているのと同じように、我々は内地の確認を手分けしてやってるのさ、エドウィンから聞いてなかったか?」


「門衛さんまで駆り出されているのは初耳だわ」


「お前さんたちはどうしてここに?」
少し詰問するような口調だ。あまりに不釣り合いな一団だったので、それも仕方あるまい。


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イェアメリスは雨に濡れた髪をかき上げると、ウラナックを見た。
「あたしたちも先ほどこの人が殺されているのを見て、上陸したならず者の仕業じゃないかと話し合っていたところなの」


彼女は今日あったことと、今こうしてここにいる理由をかいつまんでウラナックに説明した。
アスヴァレンは何か気になるのか、衛兵を観察しようと試みたが、兜の奥に隠れて目を合わせようとしない彼の表情を読み取ることはできなかった。


「で、町に知らせに行こうともしたんだけど、メグワルドさんたち少し見張りを続けるって・・・あれ? ウラナックさん、聞いてる?」


ウラナックは、心ここにあらずといった感じだ。


「あ、・・・ああ。聞いてるさ。で、町に行く途中なんだな」


ウラナックはそわそわしていた。そして、メリスの話が終わると、提案してきた。
「俺はもうすぐ町に戻らにゃならん。お前たちがこのあたりの哨戒・・・見張りを引き継いでくれるのなら、商人の事は俺から顔役に報告しておこう」


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「いいの?」


「かまわんさ。どうせ門衛交代の時間だ」


そういうと、ウラナックはそそくさと踵を返し、会話は終わりだ、とばかりに、いま彼女たちが進んできた街道を、町の方に向かって歩きはじめた。


あっけにとられたイェアメリスがきょとんとしている間に、すぐに、衛兵の姿は見えなくなった。


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「あ、慌ただしいわね・・・」


「なんか、慌ててる感じだったね」
ブラッキーは衛兵が消えた先を見送ってから、仲間を振り返った。


「さて・・・ボクら、急いで町に戻る理由がなくなっちゃった」


「嬢ちゃん、じゃあ俺らと一緒に見張るか?」
別れようとしていたメグワルドから声が飛んでくる。ブラッキーはその誘いにすぐ飛びついた。


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「行く行く!」


「ブラッキー!」


イェアメリスは非難がましく妹を見て、それから錬金術師を振り返った。
アスヴァレンは、ポン、と彼女の肩に手を置いた。その目は、「言い出したら聞かないだろう」と語っている。そして思い出したように付け加えた。


「俺はかまわんが、お前、雨に濡れるぞ。また担いで帰るような羽目には・・・」


「だ、・・・大丈夫よ。もうあなたに迷惑はかけないわ。あれは疲れてただけ」
イェアメリスは憤慨してみせたが半分以上は、肩に置かれた手が意識されて仕方ないのをごまかすための演技だった。


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そんな様子を知ってか知らいでか、ブラッキーは無頓着に2人を促した。


「じゃ、行こ」


イェアメリスはアスヴァレンから逃れるように肩の手を外すと、ブラッキーの横に並んだ。
その目に倒れた商人を認めて、上気していた頬が、一気に冷めるのを感じた。


「なんかこのままというのも、忍びないわね」


イェアメリスは商人の死体を見下ろしながら、ため息をついた。今日2度目だ。
この時代。身寄りのないものが埋葬されることは珍しい。疫病源など、衛生に問題があると判断されない限り、打ち捨てられておくのが当たり前だった。


「俺が埋葬しておこう。お前たちは先に行くといい」
アスヴァレンはわずかに残された商人の荷物を一瞥すると、彼女たちに行くよう促した。残されているのあまりは価値のないもの・・・鋤やシャベル、樽といったものだった。

「自分を埋葬するのに必要なものは、最低残っているというわけか。皮肉だな・・・」


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イェアメリスはアスヴァレンを習って辺りを見回した。
「あたしも手伝うわ」


「いや、いい。行ってくれ。すぐに追いつく」


彼女は何か言い返そうとしたが、一つ息を吐き出すと、無言で狩人たちの方に加わった。


「ここからは、少し慎重に行ったほうがいいね。あたいが先導するよ」
フィアの提案にイゼリックもうなづき、ブラッキー、イェアメリス、しんがりをメグワルドが務めて、5人は丘を登っていった。


アスヴァレンは、小さくなってゆくイェアメリスたちの姿を、しばらく見送っていた。やがてその姿が見えなくなると、シャベルを脇の地面に突き立てた。
しかし穴を掘るわけではなく、シャベルから手を離してしまう。


代わりに握ったのはアトモーラのくさび・・・冷気をまとった彼の剣だった。


辺りをもう一度見回して誰もいないのを確認すると、彼はおもむろに剣を商人の死体に突き刺した。
パキパキという音を立てて、死体があっという間に凍り付く。
そのまましばらく保持していると、氷の彫像が出来上がった。


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彼はしゃがみこみ、氷の表面に指を這わせて、ちょっとの間、硬さか何かを確認する仕草をした。そして立ち上がった彼は突き刺した剣を、ひねるように動かし、凍り付いた商人の死体をえぐるような仕草をした。
パシッ・・・軽い音がして、氷にひびが入る。パシパシパシ・・・続けると、ひびが拡大して、しまいには氷漬けの商人の死体は細かい破片となって砕け散った。


氷の破片は霧雨に混じり、すぐに跡形もなく消えてしまった。


アスヴァレンはそれを見届けると、スコップを引き抜き、おざなりに土を掘って、今の今まで商人が倒れていたところに、小さな盛り土を作った。そしてその傍にスコップを再度突き刺し、軽く息を吐いた。
黒檀と見まがうその端正な顔には、何の表情も浮かんではいなかった。


そして丘を見上げると彼は、仲間に合流するために歩き始めた。




・・・




坂を上る間、メグワルドはブラッキーにくぎを刺していた。


「何か起きるか期待しているかもしれんから言っとくが、つまらんかもしれんぞ。雨に濡れて長時間待った挙句、何も見つからない・・・俺ら狩人はそういうことに慣れているが、だからと言って、しゃべり散らかしたり音を立てることはダメだ。それでも大丈夫か?」


「安心して、おっちゃん。オークは狩人でもあるから、そういうメリハリはちゃんとつけられるよ。むしろメリスねえちゃんの方を心配してあげて」


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「なによ、失礼ね。あたしだって森で狩りや採取するんですからね」


「あんたたち、もう少し頭下げといたほうがいいわ」フィアが少し先で身振りで示した。「もうすぐ日の入りの時間だから、影が目立つし、金属物は反射するわよ」


フィアに叱られて、慌ててイェアメリスは頭を引っ込める。
5人は一列になって、丘を登っていった。
しばらくすると、アスヴァレンが追いついてきた。


「その・・・埋葬は済んだの?」


「ああ・・・」


「で、どういう状況だ? 見張り場所は決まったか?」


メグワルドは丘の端の方、岩棚になっているあたりを指差した。
「ここは見通しが悪い。・・・見張るにしても、もう少し場所を考えたほうが良い」


「裂け目の上から見張ったらどうかしら?」


「俺もちょうどそれを考えていた」


裂け目・・・洞窟の入口は丘の根元に口を開いており、上の方が死角になっていた。
狩人が提案したのは、裂け目のちょうど斜め上に当たる岩の上だった。


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「長期戦になるかもしれん。ぞろぞろと全員で見張るのは大変だし、こちらが見つかる可能性も高くなる。俺とフィアが見張る」


「ボクもこっちね」


ブラッキーは、装備が濡れるのも厭わず、2人の狩人に並んで、岩棚の上に腹ばいになった。


「何か見つけたら知らせるから、あんたたちはそっちの目立たないところでおとなしくしていてくれ」


イェアメリス、アスヴァレン、導師イゼリックの3人は、少し離れたところで腰を下ろすと一息ついた。

「ここなら、少し話しても大丈夫そうだな」


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辺りを見渡すと、アスヴァレンは隠しの中から、光る鉱石を取り出した。
秘密の地下室の中から持ってきた1つだ。


自分よりも年下の老人の座る地面に鉱石を置くと、彼は口を開いた。


「ご老人・・・この石について、何か知らないだろうか?」


「手に取っても?」


「もちろん」
彼はうなづくと、イゼリックが鉱石を調べることを促した。


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「マジカの流れを感じるのだが、どのようなものか分からなくてな」


「イゼリックさん、超自然の存在を感じられるって言ったでしょ? この石から何か感じられないかしら?」
イェアメリスものぞき込む。


「ふむ・・・人工物ではないな。この石は自然の産物じゃ。もう調べたかも知れぬが、命を持った者の類ではない。それに・・・キナレスにかけて、確かに、マジカが循環しておる」
イゼリックは手の上で鉱石をひっくり返したり、撫でたりしてみた。


「ワシの目にはメリスやお前さんの身体から漏れ出すマジカも同じように映って見えるぞ」


「マジカと言えば、ご老人、メリスの魔法を見たことがあるか?」


イゼリックは石を観察しながら、目線は外さずに答える。
「いや、最近は見たことはないが・・・近年稀にみる、ものすごい量のマジカを持っておる子供だったのを覚えておる。母のイリアンも大した魔術師じゃったが、この子はその量を軽く凌いでいるのじゃ・・・お前さん、自分がものすごいマジカを溢れさせているの、気づいておったか?」


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イェアメリスは首を振った。
「この前、初めて気づかされて、途方に暮れているところよ。・・・あたし、魔法なんてほとんど無縁で暮らしてきたから・・・」


「・・・おお、すごいなこの石は! ・・・周りの空間に存在するマジカが凝縮して、この石を中心に循環しておる。人間一人が保有するのと同じくらいのマジカが、循環しているぞ」


「手に持っても何も感じないわ」


「お前さんたちには感じられぬじゃろうな。・・・ワシの視力は、トレントの実で変わってしまっておるから、。マジカが直接見えるのじゃ」


「そんなに凄い量なのか? ・・・うまく力を取り出せたら素晴らしいだろうな」


「取り出すというのは少し違う。周囲にあるマジカを引き寄せて、集める役割をしておるようじゃ。・・・お前さんたち、ワシも含めて魔法を使うときは自らの生命エネルギーをマジカとして使用するじゃろ。・・・この石はマジカが湧き出してくるものではなく、ワシらの技術、魔術ではかなわぬ、空間に散ってしまったマジカを集める磁石のような役割をしているようじゃ」


「エントロピーを下げる高度な力を持つ石・・・デイドラやエイドラ由来のものか・・・わからぬな。なぜこんなものが島に・・・」


今度はイゼリックが質問した。
「一体、こんなものをどこで見つけたのだね?」


アスヴァレンはイェアメリスを見た。話してしまってよいものか、測りかねているのだ。
彼女は目線を合わせると、うなづいた。


「地下室だ・・・この島には、何か秘密があるらしい」
そういって彼が取り出したのは、島の地図。アスヴァレンによって、幾つかの印が書き加えられている。今まで発見した、謎の装置がある、3カ所の地下室の場所だ。


Hexagram2


イゼリックはその地図を食い入るように見つめた。「古代の日時計の建っている場所じゃ。しかしどうして日時計の場所を記録しておるのじゃ?」


アスヴァレンは元々研究の秘密を独り占めするような質ではなく、イェアメリスの方も好奇心への答えを見つける方が大事と感じていた。黒の導師イゼリックを、探索の仲間に引き入れておいた方がよさそうだと、2人はそれぞれ心の中で結論を出した。
2人のマンマーは、それぞれの答えを持って、黙って顔を見合わせる。
互いの表情に同じ答えを読み取ると、錬金術師は老人に打ち明けた。


「日時計の場所に、地下室が隠されているのだ。地図にあるように、もう3つ見つけた」


「なんと! そのようなものがキルクモアにあるとは! なぜワシは今まで気づかなかったのじゃ」
イゼリックは、力いっぱい自分の髭をしごいた。


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「お前さんたちには見えないものだが、ワシには島を満たすマジカの空気が見えると言ったじゃろ。その希薄なマジカの大気にも流れがあるのじゃ・・・風・・・とでも言ったら想像しやすいかの?」


「そのマジカの緩やかな流れは、いくつかの古代の日時計に吸い寄せられているんじゃよ。ほら、お前さんが今そこに記した場所じゃ。まさかそこに地下室が隠されておったと! キナレスにかけて・・・なんとわしは愚か者なのじゃ! 日時計そのものの効果かと思い込んでおったわ!」


興奮して声の大きくなってきたイゼリックを見かねて、見張っているメグワルドが、もう少し声を下げろ、と遠くから身振りで示した。


「それで・・・、それで地下室には何が?!」


「機械というか装置・・・? らしきものがしつらえられていた」
アスヴァレンはメモを手繰り、自ら描いた装置のスケッチを見せた。


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食いつくようにそれを凝視するイゼリックに、2人は数日前の地下室発見の出来事を説明するのだった。

イゼリックは、手にした鉱石をアスヴァレンに返そうと差し出したが、アスヴァレンは不要だ、と身振りで示して言った。。


「まだいくつもあるもので構わん。ご老人も一つ持っていてくれ」


そして付け加える。


「・・・それがないと装置の部屋に入れない・・・言うまでもないが、装置に触れないように気をつけてくれ、あと、何か分かったら共有してほしい」


「もちろんじゃ」


「俺は地下室が他にもあると思っている。先ほど言ったように、日時計の作られた時期と、中の地下室、装置の年代が大きく違うので関わりは分からん。個人的には関連はないと思っている。それにメリスの母の墓のある日時計や、今まさに俺たちが腰をおろしているこの日時計には、地下室がない」


「とはいえ・・・今のところの手掛かりは日時計の石柱だけだから、それを探すのが順当だと思っている。ご老人、他の日時計の位置は分かるか?」


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「うむ。島中を歩き回るのがワシの仕事じゃからな。ここに記されている以外に、何カ所か。ほれ、書き込んでやろう・・・」
そういうと、イゼリックはアスヴァレンの地図に、何カ所か追加の印を書き込んだ。


「これが終わったら、行ってみるか・・・」


「あ、そろそろ交代の時間ね」
向こうの岩場でブラッキーが手を振っているのを認め、彼ら3人は一旦話を中断して、見張り組に合流した。


「動きはありそうか?」


「あんちゃん、今のところないみたいだよ」

ブラッキーは動かずに口だけで返事をした。

メグワルドとフィアも同じだ。


「そのまま変化が無いようだったら、俺たちは一旦戻って奥で食事の準備に入るから、しばらく見張りを頼む」


居ると仮定はしているが、まだ誰もその目に見てはいない脅威。楽観的な者であったら笑い飛ばして居るところかもしれない。しかしこれまで見つけた兆候を集めて考えると、すべて繋がりそうで、彼らはこの丘を離れることができなかった。




・・・




「本当に、あの裂け目に・・・居るのかし・・・」
イェアメリスは言いかけた言葉を飲み込んだ。


あれから1時間以上、こうして息を潜めていた。動きらしい動きはない。
空は真っ赤で、もうそろそろ日が落ちるはずだ、遠くにはキルクモアの町の光が見え始めていた。
この見張りの持ち場では、先ほどのように会話をするというわけにもいかない。彼らは一様に予感めいたものに縛られたかのように、誰も動かなかった。
彼女にもその緊張感が重くのしかかっていたのだった。


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雨がいつの間にか止んでいた。風が出てきて、雲が急速に退いてゆく。星の瞬きが少し顔をのぞかせたとき、イェアメリスは眼下に光が灯るのを見つけた。


「バカッ、明かりをつけるなと言っただろう!」
押し殺した、誰かをしかりつける声が聞こえたと思うと、明かりはすぐに消えた。


「今の見た?!」
彼女は小声で呼びかけると、横にいるアスヴァレンの方を向いた。


しかし、それっきり物音はしなくなってしまった。


先程のは何かの見間違いかと、彼らがいい加減じれてきた頃、次の動きがあった。


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裂け目から人影が出てきたのだった。


「おい、出口は大丈夫か?」


「ああ、誰も居ねぇ」


「ゴームの間抜け野郎がカンテラなんか灯けやがるから、誰かに見られてるかもしれねぇ、用心しろ」


人影は4人、岩の裂け目から離れようとせず、しばらく辺りを丹念に調べていた。


ブラッキーと狩人たちも寄ってきた。監視者たちは彼らの頭上の岩陰で、息を潜めて見守った。


そんな中、人影の一人が裂け目に向かって合図をすると、最初は控えめに、次いでわらわらと男たちが現れた。夜目を凝らしてみると、装備はバラバラで、船乗りのようにも山賊のようにも見える。


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「5、6、7・・・うわ、これは大勢いやがるな」
メグワルドは穴から出て来る人数を数えながら悪態をついた。


「あいつら、どうするつもりなんだろ?」
ブラッキーのほうは興味津々だ。


「もう少し様子を見てみよう」


いままで憶測であった島への上陸者・・・・ならず者の存在がとうとう証明されることになったのだ。


「息が詰まるとはいえ、いい隠れ家だったんだがなぁ」


「仕方あるめぇ、レディンの野郎がへまして、商人殺ったあと、そのままにしとくから。あれじゃあここだってすぐに見つかっちまう」


別の男が口を開く
「それにいつまでもこの穴倉にいるわけにはいかねぇからな・・・もうおさらばだ」


「あいつはどうすんだ?」


「もう用はねえよ。ほっときゃ死ぬだろ」


「さぁ、今日は月がない。決行にはいい夜かもしれん。行くぞ」


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イェアメリスは青くなって、口に手を当てた。
「まさか、町を襲うつもり?!」


普段の暮しのすぐ裏側に、こんな危険が潜んでいることを、彼女はその目で見るまで信じられなかった。母の墓にも近いこの場所は彼女たちもよく通る場所だ。・・・もしかしたら自分やブラッキーも奴らの目に留まっていたのかもしれない。下手すると、先ほどの商人のように殺されていたかも・・・そう考えると、酸っぱいものが喉の奥にこみあげてくるのを感じた。


「落ち着け。どうも様子が違うぞ」
アスヴァレンは彼女を制すると、眼下を見るように促した。


「でも」


「見てみろ、奴らのいで立ちを」

彼らが見守る中、裂け目の前に散らばっていた男たちは、やがて一丸となって草むらの中を進み始めた。
中には樽を抱えた男や、重そうな袋を担いだものもいる。ならず者たちでなければ、キャラバンの移動と見間違えたかもしれない。


「こ奴らのせいで、守護霊たちが騒いでおったのじゃな」
黙っていたイゼリックが口を開いた。


「なんか荷物をたくさん抱えて、引っ越しするみたいだね。あいつら移動し始めたよ」
ブラッキーの言う通り、略奪に向かうにしては荷物を持ちすぎている。見ているうちに、ならず者の一団はかなり遠くに行ってしまった。


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「根城を変えるのかもしれんな」
もう向こうからは見えないだろう、と緊張を解いたメグワルドが立ち上がった。


「ねえ、ならず者が居るってことは分かったけど、あたい達はどうするんだい? まさか、このままこうしているわけじゃないだろうね」フィアは隣に立っているイェアメリスをみて、顎をしゃくった。


「え? あ、あたし? あいつらがどこに行くつもりなのか、突き止めなきゃ」


「それから?」
フィアはうなづくと、彼女に先を促した。


「この裂け目がどうなっているか、確認したほうがいいかしら。何か手掛かりが得られるかもしれないし」


「他は?」


「え、う~ん・・・」


「ほぼ合格ね。町娘にしてはなかなかいい判断してるじゃない。・・・あと、この入口周辺を見張る役も居たほうがいいね。さっきの会話から可能性は低いと思うけど。中を調べている間に、奴らが戻ってこないとも限らないから。後ろから襲われたらたまらんだろ?」


「あっ、そ、そっか」


「では、俺が奴らをつけよう。ご老人、同道いただけるか?」
珍しく、アスヴァレンが先陣を切った。


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「・・・ワシを選ぶに、人数合わせという以外に何か理由がありそうじゃの」


「まあな・・・」

アスヴァレンはつづけた。


「俺はいくつか研究をしている。先程の件だけでなく、ご老人はこの島の知識の宝庫と見た。・・・まだご幾つかたずねたいことがある」


ブラッキーは、追跡者としての緊張感のないアスヴァレンを見て、姉の真似をして天を仰いで見せた。
「ねえちゃん・・・アスヴァレンの兄さん、研究者状態に入っちゃったんじゃない?」


「ああなると無理よ。ちゃんと追跡してくれるといいのだけど・・・」


イゼリックは髭を引っ張ると、ダンマーを品定めするように見た。
「ふむ・・・まるで追跡がついでのような物言いじゃな」
アスヴァレンは薄く笑った。


「ふむ・・・よいぞ。わし程島の地理に明るい者はおらぬじゃろう。気取られないように移動するのはお手の物じゃ。おぬし、スクールは何だ? 追跡の心得はあるか?」


「幻惑と変性を200年ほど」


「・・・申し分ない。では行こうか。ご老人ご老人言うが、ワシについてこれるかの?」
そういうと、イゼリックは丘から一気に地面に飛び降りた。驚くべきことに、着地の音が全くしない。野に暮らす導師というのは、伊達ではないらしい。


「ほう・・・大したものだ」
アスヴァレンはイェアメリスとブラッキーに軽くうなづくと、自らも身をひるがえしてイゼリックに続いた。


「あ、行っちゃった・・・」
2人が行ってしまうと、ブラッキーが口を開いた。


「じゃあ、もう役目は決まったようなもんだね」


そう言って、ブラッキーは丘から下り始めた。

残りのメンバーも、監視をやめて先ほどならず者たちが居た場所に降りてきた。


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ブラッキーの目は好奇心に輝いていた。こういう非常事態が好きなのだ。
イェアメリスはあきれたように妹を見た。


「どういうことよ?」


「ボクら、洞窟専門でしょ?」


「いつからそうなったのよ」


「う~ん、最近かな」


「あら、あなたさっき中に入るのは危険って言ったじゃない」


「だから、ボクが一緒に行くんでしょ?」
ブラッキーは腰に吊るした手斧を軽くたたくと、2人の狩人を見た。メグワルドはうなづくと、同意の印にブラッキーの肩に手を置いた。


「では、俺とフィアはここを見張ろう。地形をよく知っているから、奴らが戻ってきてもすぐに対処できる」


「ほとんど全員? かどうかわからないけど、出て行っちゃったからね。狩人さん、つまらない役でごめんね」


「気にするな。俺らはただの狩人で、荒事は苦手だからな。得意そうなお前たちに任せるよ」


「大丈夫かしら・・・あたしも荒事なんて得意じゃないわ」


「大丈夫大丈夫。それに・・・ねえちゃんの一番の得意技、灯火の呪文の出番を作ってあげないとね」


「あ~・・・なんか棘々・・・。シチューの肉減らすわよ」


「え~、そんなに肉ばっかり食べてると、ねえちゃん今より胸大きくなっちゃうよ? せっかくボクが食べてバランスとってあげているのに」


「何よそれ。わけわかんないわ」


「いいから、行こ行こ」


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どんなときもペースを崩さない妹・・・どうしたらあんなふうになれるのかしら? そんなことを思いながら、彼女も後を追うのだった。


それぞれならず者の問題に対処すべく、こうして即席の仲間は3つに分かれたのだった。




・・・




ならず者たちは海岸に向かっていた。先日、アスヴァレンたちが沿岸哨戒をしたときに立ち寄った浜辺だ。イゼリックはマジカの濃度を視覚としてみることができるため、ダンマーであるアスヴァレン以上に夜目が効くと言える。2人は相手から気取られる心配のない、かなりの距離を置いて追跡をしていた。


「俺にもその視力が備わっていると有難いのだがな。トレントの実を食せば得られる力なのか?」


「・・・いや、それはお勧めせんな。確かに超常のものを見る力は得られるが、それだけではない。副作用がある」


「副作用?」


「意識が別の存在と連結される・・・とでも言えばいいのじゃろうか?」
イゼリックは軽く手を上げるとアスヴァレンを制した。
ならず者たちは南に曲がって、海岸沿いに進み始めた。


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「今のわしはワシの意思だけで動くわけではなく、何かその、言い表されない超常の集団の意識の一部として動いているのじゃ。」


アスヴァレンは驚いたように老人を見た。
「それは・・・意識を乗っ取られるということか?」


「少し違う。集団自我のようなもの・・・うまく言い表せぬが・・・お前さんはアルゴニアンとヒストの関係を知っているか?」


「多少・・・学問としての範囲だが・・・」


ヒストとはブラックマーシュに存在するタムリエル原生の意識を持つ樹木のことで、外界では聖なる樹木、もしくはその樹液を指すものとして伝わっている。アルゴニアンとつながりが深く、成人したアルゴニアンはヒストの樹液を舐め、そこではじめて性別が決まり、ヒストの声を聞き、超自然の存在のネットワークに参加する、などと伝承されている。


「その理解で、大体合っておるよ」
イゼリックは肯定し、自らの身体に起きた変化を説明した。


「性別決定などは無いが、トレントの実を食べたワシは、ヒスト・ネットワークとよく似た、自然の存在の端末として、接続された感じをはっきりと受けておるのじゃ・・・
・・・それが今のところワシ自身の生活を崩壊させるほどの悪影響を及ぼしておるわけではない。・・・まあ、たまにワシ自身の言葉でないことを口走ったり、幻視したりすることもあるから、町に入っての生活はしないようにしておるがの。他から見たら、狂人にしか見えぬのでな」


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「ふむ、力には代償が必要か・・・」


「ま、そんなとこじゃ」


2人の追跡者は、つかず離れずの距離を保って、ならず者たちを追っていくのだった。




・・・




「わぁ、広いね!」


「ちょっとブラッキー! 大きな声出さないで。誰かに聞かれたらどうするのよ。ここは響くわ」
慌てたイェアメリスは、押し殺した声で妹を叱った。


裂け目の奥は、思ったよりも広い。
・・・広いというより、地下洞窟と言った方がよい光景が、彼らの前に広がっていた。
側面の岩から浸み出した地下水が、小さな流れとなって水たまりに注いでいる。天井にはところどころ小さな裂け目があって星空がのぞいている。


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洞窟は西の方に繋がっている。


彼女は灯火の呪文を唱えると、辺りに生えている樹木を見た。
地上の森ほどではないが、洞窟には普通に木も生えており、地面も土に覆われていた。


「ねえちゃん、いくら広い空洞だからって、今日は火炎禁止だからね」


「分かってるわよ。それに、ここは森の守護霊の住処よ。火は使えないわ」


そういって彼女はあたりをもっとよく見ようと、光を奥に飛ばした。


「禁止じゃない奴らも、居たみたいだね」
ブラッキーは光に照らされた光景を見て、そうつぶやいた。


「ひどい・・・」


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大きな水たまりの縁で、イェアメリスは口を覆った。
森の守護霊であるトレントの一体が、殺されて横たわっていた。枝のあちこちが焼け焦げている。
近くにはならず者らしき死体も2体転がっている。ここで戦闘になったが、多勢に無勢だったのだろう。地上に逃れた1体は無事だが、洞窟の中の一体は悲惨な末路をたどる運命にあったようだ。


「さっき出ていった連中だけでも15人はいたから、こいつらも合わせると、かなりの人数が上陸してたんだね」


「ここにもまだいるかもしれないわ。気をつけて進みましょ」


ならずのものの死体を踏み越え、彼女たちは少し細めの通路に入った。
途中、クモに襲われかけたが、ブラッキーは軽くいなして進み続ける。
かなり進んだ先で、通路に地面に丸い置き石があるのに気が付いた。


「これって、普通罠なんかに使われている石よね?」


「踏んだら槍とか岩とか降ってくるやつ? でもそれらしい仕掛けは周りには見当たらないね。ちょっと離れてて、試してみるから・・・」


「ブラッキー、危ないわよ?! やめときなさいよ」


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「大丈夫・・・ほら」


少女がつま先で置き石を試すと、石壁が降りてきて、正面の通路をふさいでしまった。


「罠じゃないよ。通路を開く仕掛けだね。誰かが開けた後みたいだったけど」
ブラッキーは今度は自分の足で置き石を踏んで、通路の石壁が上がっていくのを確認した。


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「行ってみよ」


2人が出たのは、岩肌こそこれまでと変わらないが、雰囲気の違う通路だった。
左右は開けて、人工の渡し板や均された地面が見て取れる。


「あれっ? ねえちゃん、この感じって」


「ええ・・・」


2人が立っているのは、坑道の接続点のようだった。


「あ、あっちに扉があるよ!」


2人は渡し板を越えて、少し先にある扉にたどり着いた。しかし、扉は押しても引いてもびくともしない。向こう側に何か邪魔するものがあるようだ。


「ねえブラッキー、この扉、どこかで見おぼえない?」
イェアメリスは何かを忘れているような気がして、扉を再び見た。


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「どこかで見たのよね・・・あ、そうよ!」
イェアメリスはうなづいた。


「ファイズ鉱山!」


彼女たちが居たのは、鉱山の、落盤でふさがれた扉の先だった。




・・・




「・・・ってことはさ、夜中の誰もいないときに、ならず者たちがあの岩落としたってことかな?」


「そうね・・・きっと、こちら側を隠れ家に使うためにわざと塞いだんじゃないかしら」


「さっきの隠し扉が、鉱山に繋がってるの分かったし、見つかっちゃうもんね」


上陸したならず者たちは、当面の隠れ場所として、裂け目の洞窟を選んだのだった。彼女たちの推察通り、坑夫たちの活動するトンネルと接続しているのを図らずとも見つけてしまい、隠れるために落盤を演出したのだった。


「苦労して秘密基地作ったのに、放棄しちゃうんだね。意外とあいつらも苦労してるんだな」


「最初っから、難破したから助けてくれって、来ればいいのに」


ブラッキーは冗談じゃないという顔をした。
「ばっ・・・ねえちゃん。どんだけお人好しなのさ。あいつら奴隷商人だよ?! 町なんか入れたらそのうち、とんでもない問題引き起こすよ。毎日盗みがおきたり、街路に死体が転がってる島なんて嫌だろ?」


「え、ええ。そんなのは絶対いや!」


「あいつらは魔物と同じだよ」


イェアメリスは、扉の隙間から反対側を覗き込もうと努力していたが、やがてあきらめて妹のところに戻ってきた。


「もうちょっと調べて見ましょ」

ランタンに入れたろうそくを確認すると、ブラッキーのあとについて歩き始める。


坑道はすぐに自然の洞窟に切り替わり、足元が再び水たまりに覆われてきた。
2人はくるぶしまで水に漬かり、洞窟の奥の広い空洞に出た。
何の動物か分からない、朽ちた大きな骨が半分埋もれている。空洞の反対側の天井には裂け目があり、星明りが差し込んでいた。


「こんなところにもあるのね!」


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空洞の中央には見慣れた日時計、ひときわ大きな石柱群が水面から突き出していた。


「でもここには地下室はないみたいだね、落し蓋が見つからないよ」


一通り水面下を調べて徒労に終わったブラッキーは、小手についた水を払いながら姉に向き直った。
イェアメリスは、その間、空洞の周囲を調べていた。


棄てられた装備、たき火の後など、大勢の人間がここにいた痕跡がある。
難破船が座礁したあの嵐の夜、上陸したならず者たちは、夜陰に乗じて島の森を進み、この洞窟を発見して侵入したのだ。
散乱する荷物を見ながら、彼女はここ数日の出来事を思い出していた。
彼女たちを含む、町の皆が捜索している間、彼らはこの洞窟に息を潜めていたというわけだ。紙一重で無事に終わったものの、一番最初に難破船に乗り込んだ自分の行いが、どれだけ危険なものだったのか、軽率な行いだったのかを、改めて思い知らされるのだった。


(でもそうなると、彼らはここを出てどうしようというの・・・?)


やはり町が危ないような気がする。


「ブラッキー、やっぱりここより町の方が・・・」


「まって、ねえちゃん。何か物音がする」


ブラッキーは口に指をあてて、油断なく辺りを見回している。
慌てて彼女も使ったことのない剣を抜いた。


「ウウウ・・・」


獣? ・・・唸り声がかすかに聞こえる。
声のした方に二人は振り向いた。
空洞の縁、左手に登れる岩棚がある。その奥から聞こえてくるようだ。


2人は慎重に、唸り声のする方向に近づいて行った。


「ウウ・・・ブ・・・ブラッキー?」


明らかに獣ではない、言葉が聞こえた。


「え? 今あなたのこと呼ばなかった?!」


2人は声のする先にたどり着いた。そこには、オークが一人、繋がれて苦しげなうめき声をあげていた。
片足が明らかにおかしな方向を向いている。骨折しているのだ。


「兄貴! 生きてたんだな!」
ブラッキーはオークに駆け寄ると、姉の方を振り向いた。


「ねえちゃん、兄貴が生きてたよ!」


イェアメリスはびっくりして、妹の方を見た。
本で見たり、話に聞いたことはあったが、生のオークを見るのは初めてだったのだ。
恐る恐る、そして興味深げにオークを見た。
どうしても目が、下あごから突き出した巨大な犬歯に行ってしまう。


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「ブラッキー・・・生きて、いたのだな。この娘は?」


「ひゃっ・・・」


思わぬバリトンの声に、びっくりした音が喉から出てしまい、イェアメリスは恥ずかしくなった。


「兄貴。メリス・・・ボクのねえちゃんになった人だよ!」


「ねえちゃん、これが『重き槌』カグダン・・・兄貴さ!」


ブラッキーは力任せに枷を叩き壊すと、自慢げに紹介した
「・・・ちょっと・・・足折れちゃってるみたいだけど、ホントは強いんだよ」


「と、とりあえず、ここから出ましょ・・・だ、誰か来るといけないから」


「ねえちゃん、本物のオーク見るの初めて? 大丈夫だよ、襲われたりしないって。・・・ちょっと汚れてて臭いけど、あとで洗えば気にならなくなるよ」


イェアメリスは、恐る恐るオークに近づいて、ブラッキーと両側から支えた。
ズシリ、と思い体重がのしかかり一瞬よろめいたが大丈夫、これぐらいなら入口まで戻れそうだ・・・


「カグダン兄貴がボクの兄さんで、メリスがねえちゃんってことは・・・」ブラッキーは諦めていた兄との再会に、喜びを隠せないようだ。「ボクら3人、固く結ばれた兄弟姉妹って訳だね」


(なんだか、大変なことになってきたわね・・・)


イェアメリスは、平和な世界の裏側を垣間見てしまったように感じていた。


2人は、手負いのオークを支えながら、洞窟の入口へ向かって歩き始めるのだった。



(つづく・・・)



※使用mod


・キルクモアの地図 ・・・自作です。TES5edit使って、ドロップ時に配置できるようにしました。


・アスヴァレンのノート ・・・これも自作です。CKではなく、TES5editとTesVtranslatorでちゃちゃっと作りました。
 実はまだスケッチしか内容がありませんw


・Photoshop ・・・今回のシーンは雨天や夜間、洞窟内など、暗いところが多かったため、静止画として見れるように輝度調整した画像が多いです。



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