4E201 - The Unsung Chronicles of Tamriel

¡Hola! Mi nombre es Moqueue. Encantada.
Aquí es el anexo de [ Bienvenido al escondite de Euphemia ].

4E201

27
2016  11:43:57

◆Chapter: 1-7 哨戒任務

薄く霧がかかっているなか、浜辺の小屋の扉が開く。
イェアメリスとブラッキーは夜が明ける前に起きだしてきて、軽い朝食を済ませていた。


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早起きの理由は、農場のクモ退治・・・イェアメリスが顔役エドウィンに頼まれた仕事のためだ。
夜行性のクモの動きがいちばん鈍くなる時間、明け方を狙って駆除してしまおうと、いうのだ。


アガルド農場に向かう道で、装備を点検しながらブラッキーが口を開いた。


「クモ退治っていうけど、どんなヤツなんだろう? フロストバイトみたいなのかな?」


「イリアック・スパイダーって言うんだけど、同じぐらいの大きさね」


イェアメリスは、両手をめいいっぱい広げて、クモのサイズを表現しようと試みる。
ハイロック西岸~ハンマーフェル一帯に生息しているこのクモはフロストバイト・スパイダーの亜種で、小動物、まれに人間を襲うことでも知られている。

体重も60kg以上あり、個体によっては100㎏を越えて子牛ほどもある。
前腕で薙がれると、大人でも大けがは免れない。毒液を吹きかけてくるところも一緒だ。


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「ねえちゃん、薬は大丈夫? 毒、触れたら麻痺したり、腫れたり痒くなったりするよね」


「任せて。クモに合わせて調合したから、効くわよ、麻痺に」
彼女は腰の物入れから薬を取り出すと、1本ブラッキーに渡した。


「先に飲んでおけば、毒を浴びても腫れたり麻痺して倒れることはないわ。痒くなるのは・・・まあ、それはガマンして」


「うぇっ、苦っ・・・」


「それも・・・ガマン」


彼女はブラッキーに笑いかけると、物入れを閉じて農場の扉に向き直った。
扉をたたくと、男が顔をのぞかせた。農場主のアガルドだ。


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「おお、すまんね、朝早くから。入ってくれ」


招かれた家は、イェアメリスの小屋と大差ないが、居心地はよさそうだ。


「こっちこそ、こんな早朝にごめんなさい。朝のほうがクモの動きが鈍いって聞いたから」


「なんか食べるかい?」


「いいえ、大丈夫よ。食べてきたの」


アガルドは簡単に状況を説明すると、階段の影を指差した。
地下室の入り口蓋を押さえるように、物が積み上げてある。


数日前、地下室に物を取りに行ったとき、通路の奥が、ちょっとした空洞に繋がっていることが分かった。覗き込んでみると、クモの巣があちこちに張っており、這いずる音が聞こえる。一人で対処するのは危険だと感じて、顔役のつてを辿って駆除を依頼した、ということらしい。


「なんだか悪いな、娘っ子みたいなのに頼んじまって。もっとごっつい、ほら、狩人みたいなのが駆除に来ると思ってたんだよ。これじゃぁまるで、俺ら大の男共がサボってるみたいに見えちまう」


「男の人たちは難破船の問題で忙しいでしょ。それに・・・いつも小麦とか分けてもらってるし。困ったときはお互い様。気にしないで。で、どこなの?」
決まりが悪そうにするアガルドに、イェアメリスは笑いかけた。


「ここだ。・・・まってくれ、今開ける」


積み上げたものをどかして入り口蓋を開けると、地下室に下りるはしごが現れた。


「メリス、それに嬢ちゃんも怪我しないでくれよ。女房に叱られちまう」


「あはは、大丈夫だよ、おっちゃん。ねえちゃんの薬もあるから」


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下りてみると埃っぽい地下室には、いくつかの木箱が無造作に積まれていた。足元はでこぼこしていてあまりよろしくない。灯したランタンを傾いた樽の上に置くと、2人はあたりを見回した。確かに壁に穴が開いている。
人ひとりぐらいは優にくぐれる大きさだ。


ブラッキーは小手を外すと、指先をなめて、穴にかざして見せた。


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「風の流れは特になさそうだね。・・・とにかく、行ってみよ」


恐る恐る穴を覗き込む姉を見て、小手を戻すと、少女は腰に下げた獲物を引きぬいた。
地下室や洞窟といった狭い場所で振り回すのに適している、小ぶりの手斧だ。


「ところでねえちゃん、武器は何を持ってきたの、その短剣だけ?」


イェアメリスは、肩をすくめると打ち明けた。
「実を言うとね、あたし狩り以外では戦ったことなんてないのよ」


「魔法は?」


「いつも使うのは灯火、あとは・・・一応、火炎の魔法は知ってるわ」


「育ちがいいんだね。ま、ボクに任せといて」


「うぇ~・・・やっぱり、クモ、いるのよね? この先に居るのかな?」
イェアメリスも倣って短剣を抜く。「ホント、あんたが居て助かったわ。」


「ねえちゃん、クモ苦手?」


「手足いっぱいあるのって、無理じゃない?」


「じゃあ、なんで受けたのさ?」


「だって、おじさんの言うこと断れないし・・・」


ブラッキーは振り向くと、彼女に先頭の場所を譲って一歩下がった。
「せっかくなんで、予行練習してからいこっ」


穴の先を指差す。


「クモの駆除だったら、最後に巣や卵を焼き払わなきゃならないと思うから、火炎の魔法は丁度いいよね。試しに、穴の向こうに撃ってみてよ」

そう言って促す。


「え、ええ。じゃあ、」


うなづくとイェアメリスは左手を胸の前に掲げ、手のひらに生まれた小さな火種をささげ持つように立った。ブラッキーが興味深げに覗き込む。


「あれ?なんか違わない? ボクの見たことのある火炎の魔法と・・・」


火種が手のひら大になったとき、彼女はそれを穴の奥に向けて放った。


小さな火球は闇に呑みこまれるように直進し…


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ドウッ・・・、向こうの壁面に衝突したかと思った時、閃光が広がった。


ボシュゥゥゥ・・・、ものすごい火柱が立ち上る。


「あれ・・・え?・・・ねえちゃん?!・・・それ・・・」


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穴を伝って熱波が吹き戻してくる。ブラッキーの顔は炎に照らされて明るく輝いたが、逆に顔色は青ざめた。
奥の火柱の勢いは衰えず、炎が穴を伝ってこちらまで広がってきたのだ。


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「やばい、ねえちゃん逃げっ・・・!!」


ゴウン!


ブラッキーが叫ぶのと同時に、2人は吹っ飛ばされた。
身体をしたたかに打ちつけながら、文字通り尻に火がついたように、2人はあわてて落とし蓋から一階に転がり出た。


地下室への蓋を閉めると、ブラッキーは煤で汚れた顔をぬぐってイェアメリスを見る。
イェアメリスのほうも、全身埃まみれで、床に座り込んた。


「ちょっと、ねえちゃん! あれのどこが火炎の魔法なのさ!」


「え? え? だってあれ、あたしが知っている火炎・・・」


「あんなでたらめな火炎なんかないよ! ・・・もうちょっとで黒こげになるところだったじゃないか」


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蓋の下では、まだゴウゴウという音が鳴りやまない。
アガルトが埃まみれの2人を、心配そうにのぞき込んだ。


「ずいぶん早いようだが、もう終わったのか? 地下はどうだった?」


「う・・・、うん。大丈夫だよおっちゃん。いま炎で焼き払っている最中だから。もうちょっと待って」
ブラッキーは取り繕うと、アガルドの質問をごまかした。


「大丈夫だろうな? 地下室はいいが、家が燃えるのはごめんだぞ」


「だ・・・大丈夫よ、おじさん」


自信なさげにイェアメリスも返したが、地下の音は止んだようだ。ブラッキーは蓋をあけると、中を覗き込んだ。
「消えたみたいだね・・・そろそろ大丈夫・・・かな? 降りてみよ」


地下室の荷物は爆風で散乱していた。
通路の少し先、空洞と繋がるあたりまでくると、クモの死骸が一匹転がっていた。


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「さっきのに巻き込まれたヤツだ。僕らと違って逃げられなかったんだね。お手柄」


「もう。わざとじゃないのよ」


イェアメリスはイリアック・スパイダーの死骸に近づくと、腰の短剣で喉の部分を裂いて、毒袋を取り出した。錬金の材料にするためだ。


「うわっ、ねえちゃん。手際いいね。なんかすごい。・・・本物の錬金術師みたいだ」


「だ~か~ら。あたしその本物の錬金術師なの」


「まだ先にいるかもしれないから、気をつけて」
無視してブラッキーは穴の奥を覗き込んだ。


「ねえちゃんは・・・ボクの後ろについて援護を・・・やっぱいらないや」


「え? じゃあ、あたしはどうしたら」


「とりあえず、魔法禁止。ランタンで照らしながらついてきて」


2人はあたりを見回しながら、再度ゆっくりと進みはじめた。


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空洞はそれほど深くはなく、すぐに奥に行きついた。
途中、ブラッキーはもう2匹のクモを退治していた。


「これで終わりかな? もう居なさそうだね」


よくある不意打ちを警戒して、天井まで一通りぐるっと見回したブラッキーは、少し肩の力を抜いた。


「外とか、別の洞窟に繋がる穴もなさそうね・・・」


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「行き止まりだ・・・あ、でも見て。卵がある!」


空洞には、所々壁面に卵が産み付けられていた。


「これを始末してしまわなければ、また発生するわよね・・・」


「火炎の魔法の出番なんだけどなぁ・・・またああなっちゃうと。う~ん」
ブラッキーは微妙な顔になった。
「ボクは魔法はからっきしだからなぁ・・・。松明か、燃える薬を持って来ればよかったね」
胡散臭そうにイェアメリスを見る。


「何見てるのよ」


「ねえちゃん、足はそこそこ速いみたいだし」


「どういう意味?」


「・・・いや、ね。もう一度炎と追い駆けっこが必要かなと思って」
肩をすくめると、ブラッキーは、手斧をしまった。
もう一度、あの呪文で焼き払えと言うことらしい。


「さ、ねえちゃん。やっちゃって!」




・・・




無事に(?)クモ退治を終えた2人は、ちょうど日の昇る頃、小屋に戻ってきていた。


「なんかもう・・・一日冒険した後みたいになっちゃったね」
ブラッキーは脛まで湧き水に浸かりながら、装備を解くと脇に放った。
彼女たちはこれからアスヴァレンと合流して、海岸線を哨戒することになっていたが、その前にあまりに汚れてしまったため、小屋の前の湧き水で汚れを落とすことにした。


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「マラキャスにかけて、軽く死にかけたけど、ねえちゃんの実力もだいたい分かったから、収穫収穫」


「ごめんなさい。役に立たなくて」


「逃げ足は悪くなかったよ」


「それ、褒めてるように聞こえないわ」
少ししょげたそぶりを見せて、イェアメリスも自ら調合したせっけんで体をこすった。


東の水平線上に光のリングが現れると、まぶしい日の出が彼女を照らす。
人間としては成熟に至った身体・・・ブレトンとアルトマー、どちらの血の力が発現するかまだ定かではないが、彼女は力に満ち溢れていて美しかった。


「そんなことないよ。炎は役に立ったじゃん。もしかして、練習してないだけで薬よりもすごいんじゃない?」
ブラッキーはぶるっと身体を震わせて水を弾き飛ばした。


「そうだといいんだけどね」


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彼女は足で水をかき回しながら、母を思い出す。
母は錬金術師だが、ギルドで教育をする立場の優れた魔術師でもあった。日々のフィールドワークと簡単な狩りで生活してきたイェアメリスはしかし、魔法を使う機会はほとんどなかったため、必要最小限しか教わっていない。未知数かもしれないが、とりあえず素人であるのは間違いなかった。


(そうね・・・久しぶりだし、途中にお墓寄っていこうかしら)


しばらく行っていなかったので、そんな思いが頭をよぎっていた。
ブラッキーのほうは一足先に上がって、装備のほこりを払うと、出発の準備に入っていた。


「あ、スジャンマのあんちゃん!」


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ブラッキーの叫び声で、水に浸かって物思いに入っていた彼女は、いきなり現実に引き戻された。


「メリスは居るか・・・って、なんだそれは。まるで酒飲みのろくでなしでも呼ぶような・・・」


「じゃあ、なんて呼べばいいのさ。錬金術師? 兄さん? おっちゃん? おっさん?」


「好きに呼べばいい・・・、おっさん以外」


苦笑しながらアスヴァレンが答え、視線を動かした先にイェアメリスは居た。


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「えっ・・・?きゃっ」


急に現れた男を見て、次いで自分がなにも着ていないことを思い出したイェアメリスは、湧き水の中に座り込んでしまう。縮こまって身体を隠しながら背を向ける。顔が赤くなるのが自分でもよく分かった。


「ちょっ!・・・いつからいたのよあなた」


ダンマーは日の出に照らされる、闇の中で浮き上がったイェアメリスの白い背中を見た。
「そろそろ待ち合わせの時間だが?」


「さっきからいたでしょ?」


「今来た」


「見たでしょ?」


「見てない」


「ウソ、今見てるじゃない!」


アスヴァレンは苦笑すると、くるりと180度後ろを向いた。
「少し早く来すぎた、というわけだな?」


「いいから! そのまま・・・ちょっとあっち向いといて! こっち見ちゃだめだからね!」
そういうとイェアメリスは、慌てて小屋に駆け込んでいった。


扉を後ろ手に閉めると、彼女は柱を背にしてへたり込んだ。


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(みられちゃった、みられちゃった・・・)


動悸が落ち着くまで動けなかった。
テーブルのわきに居た”ぷぅ”は寄ってくると、不思議そうに彼女を眺めるのだった。




・・・




しばらくして、小屋の扉が開くと、待ちくたびれた2人の前に、イェアメリスは姿を現した。
小屋の前の浜辺に、待ち合わせ通りの3人が合流。ようやく、哨戒任務の開始だ。


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「キルクモア・メイデン号へようこそ!」


イェアメリスは先ほどの恥ずかしさを打ち消すように、やや上ずった声で言うと、小船の前に立ち胸を張った。


アスヴァレンは、頼りない小船を見て、軽くため息をついた。


「豪華な客船・・・か」


「なによ、ご不満?」


元は海岸に打ち捨てられていたボートを修理したものだ。
おそらくは大型船に搭載されている脱出艇か何かだったのだろう。
正直、立派ではなかった・・・というか、むしろ、みすぼらしい。


「ねえちゃん。いつからそんな立派な名前になったの? この船」


「さっきよ」


「一生懸命考えてたんでしょ。小屋で・・・出てくるの遅かったもんね」
ブラッキーは意地悪そうに言うと、アスヴァレンに笑いかけた。


「どう? スジャンマのあんちゃん。おねえちゃんの身体、綺麗だよね~」


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イェアメリスは再び、耳まで赤くなった。


「俺は見ていない」


「800セプティムでもう一回どう?」


「要らん」


「ちょっと! なに人の身体で商売してるのよ! ・・・って、800?」


「あ! 今ねえちゃん、ちょっと心揺らいだ?」


「あたしの一か月の稼ぎと同じじゃない。見るだけで800とかって、・・・ダメダメ!なに言わせるの!」


「収入2倍になるよ?」
ブラッキーがイェアメリスを突っついた。


800セプティムの稼ぎは、実は市民の中では顔役と鍛冶職人に次いで、大きいものであった。


どの時代も手に職・・・何かを作り出す仕事は尊敬を集めている。大工や鍛冶、錬金術師は地方では重宝がられていた。特に錬金術師は魔術師ほど得体が知れないわけでもなく、市民が生活に必要なものを作り出したり、治療を与えてくれるので、待遇がいい。


イェアメリスは頭をぶんぶん振って、薄い服をまとって酒場で踊っている自分のイメージを追い出すと、小舟を押しはじめた。苦労しながら小船を砂浜の上から海面まで押していきながら、勝手なことを言っている少女たちに怒鳴った。


「ほら、あんたたちも手伝いなさい!」


「ふむ・・・うるさい船頭にあたって、道中いろいろ詮索されるのは面倒だと思ったんだが・・・失敗だったか・・・?」


「ほら、ぶつぶつ言ってないであんたも手伝いなさい。男でしょ」


「そうだな・・・町に戻る方が面倒だ」

アスヴァレンは腕をまくると、小船のへさきをつかんで押し、引いているイェアメリスを手伝い始めた。

ノルドの血が入っているためか、かなり力のありそうな逞しい腕だ。


「ねえちゃん、これ3人乗っても大丈夫かな」


「もう、ブラッキー。あなたまで不安そうなこと言わないの。さあ、乗った乗った」
そういってイェアメリスは2人を追い立てると、船を浜から押し出した。


「ふむ・・・少なくとも、沈むことはなさそうだな」

アスヴァレンは中を確認して回った後、海面に浮かんだ小船の上で自分のポジションを探っているようだった。


「大丈夫よ。ちゃんと補修はしたんだから。よっ・・・と」


「うわっ、そんな揺らさないで!」
最後に飛び乗ったイェアメリスにブラッキーは抗議すると、船底にへたりこんだ。


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「ボク、あんまり船が好きじゃなくなったよ。昨日、難破船に行ったとき・・・んばっ」


「しーっ!」イェアメリスは妹の口をふさぐと、もう一人の乗船者の方を窺った。


アスヴァレンは体が大きいため、後ろの中心に立ってバランスをとっていた。
どうやら2人の会話は聞こえていなかったようで、落ち着いて海原を眺めている。


「あれは秘密でしょ」声をひそめて念押しする。ブラッキーがこくこくと頷いたのを見て手を離した。


秋の空は高く、空気は澄んでいた。
出発点であるイェアメリスの小屋は、島の東端に位置する。

ここからはもちろん見えないが、150リーグ先のハイロック本土まで見渡せると錯覚しそうなくらい、いい天気だった。


小舟は、まず北に進路をとった。

まだ太陽の位置は低く、真横から島の森に光が投げかけられる格好だ。
海側から哨戒するにはちょうどいい。


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「あまり覚えていないが、沖に何かあるのは、確か港の北の方だったか?」


「そのもうちょっと先ね」イェアメリスは、空中に地図を描くような身振りで説明を始めた。


「まず最初に港。あなたがこの島にやってきたときについた港よ。そしてそのまま海岸線に沿って北に進むと、浅瀬の連なるところに出て、その先に北の監視塔があるわ。」


アスヴァレンは船尾に立って、櫂を操りながら聞いていた。


「北の塔が島の端っこだから、そこから左に曲がって西に向かうことになるの。そこに、いくつか島や岩礁があったはずよ。ここからだと、左回りで島の全周の3分の1ぐらいを行くことになるわね」


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「地図を入手しておくのだったな」


「ああ・・・そうね。あとで小屋に帰ったら、あたしのを見せてあげるわ」


3人を乗せた小舟は、滑るように海を進んでいく。
今のところ、怪しいものは見当たらなかった。
程なく、キルクモアの玄関口、唯一の港が見えてきた。


港を挟むように、2つの塔が立っている。
左側の一つは町からすぐ出たところで、守備兵たちが監視に使っているものだ。2つ目は港の反対側の岬に立っている。


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「向こうの・・・右側の塔は?」
アスヴァレンは、目の前を横に流れていく景色を眺めていたが、ふとイェアメリスをみた。


「あの塔は棄てられているの」


「誰も使っていないのか」


「ええ、あたしが母と一緒にこの島に移り住んだときも、すでに廃墟だったわ。町に近い手前の塔だけで十分だったんでしょうね。今は誰も寄り付かないわ。守備兵もいないし」


廃墟になったほうの塔を過ぎて少し進むと、彼女の説明の通り、浅瀬が連なる海岸に出た。


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浅瀬といっても地面の起伏が豊富で、海水の溜まりが泡沫のように連なる、不思議な浜だった。
浜の近くは浅すぎて、船で進むにはかなり海の方に入ってからでないと、底を擦ってしまう。


アスヴァレンは一旦、浅瀬を迂回して小船を進めようとしたが、イェアメリスは待ってと、それをとどめた。


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「ちょっとだけ上陸していい? 寄りたいところがあるの。うまくいけば、何か情報を手に入れられるかもしれないわ」


特に急ぐ仕事ではないので、3人は一旦上陸することにした。
サンドクラブが通りかかるのを脇によけて、イェアメリスが内陸の丘の方に2人を先導していく。


「ここで右の方に進めば、すぐにモック村につくわ。あたしがよく来るのはここら辺までね」
そういって、彼女は丘を登り始めた。


「あ、その花かご、揺らさないでついてきてね」


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2人は後を追った。丘はそれほど急ではないが、上りなので先が見えない。


「ねえちゃん、どこに行くの? え?」


少ししてブラッキーが行き先を訪ねようとしたとき、イェアメリスがもう目的地に着いたことを合図した。


「あ、もう到着?」


3人は、キルクモアとモック村のちょうど間ぐらい、2つ居住地を隔てる丘の中腹に来ていた。
緑の草に囲まれて、朝の風が気持ちいい。まだ朝と言っても早い時間だ。下方の、モック村やキルクモアの町のある辺りでは、かまどの煙と思われるものがいく筋か立ち昇っているのが見える。


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そんな草っ原の一角に、石柱が立ち並んでおり、その中心に墓石が一つ建ててあった。


「アルトマーのイリアン 3E113~4E196」


墓石にはそう、刻まれている。


イェアメリスは、アスヴァレンに持たせていた花かごから、丁寧に編んだ花環取り出して、墓にかけた。


しばし目を閉じる。


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彼女の母が亡くなってから5年が過ぎていた。

体調が悪いのはこの島に来た頃から薄々感づいていたが、それでも5年間、幸せな時間を共に過ごしてこれた。


(おかあさん・・・わたし、一応ちゃんと自立しているのよ。それに、変な妹と先生ができちゃったの。不思議でしょ)


心の中で近況を報告すると、優しい風が頬をなでたような気がした。

少し離れたところで、アスヴァレンとブラッキーが、彼女を待っている。


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「ありがと。済んだわ」

祈りが済むと、イェアメリスは2人に向き直って微笑んだ。


「さて・・・いつもならこの辺りに居ると思うのだけど」
彼女は誰かを探すようにきょろきょろと見まわしている。


近くで様子を窺っていたアスヴァレンは、気になるものを見つけて声を上げた。


「あれは・・・?」


近くにテントが設置されている。小さな火も熾されており、始末されていない。
上陸者たちが使ったものかも知れない。


「あ、そこは大丈夫よ」イェアメリスは軽く目を走らせると請け合った。「イゼリックさんのキャンプだわ」

彼女は肩をすくめると、アスヴァレンの方に向き直った。


「お墓に寄るついでに、そのテントの持ち主に会いたかったのだけど・・・」


「・・・知り合いか?」


「ええ、小さな島だからね。ほとんどみんな顔見知りなのよ」

キルクモアでは、町に住まわずに森を住処にしている者たちも少数いた。彼女が知っている限りでは、狩人が数人と、変わり者のドルイドである導師イゼリックが野外に暮らしている。
ここはイゼリックが何ものか、自然の崇拝対象物に対して祈りをささげるのによく使っている、お決まりの野営地の一つだった。


「残念・・・今日は居ないみたいね。丘を降りてるのかしら・・・? 森で起きていることだったら何でも知ってるから、ならず者たちのことを聞けると思ったのだけど・・・」


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ブラッキーの方は、静かだと思ったら、放置されているたき火の脇にしゃがみこんで、炙った木の実を見つけて口に放り込んでいた。


「うん。これはいけるな・・・で、その導師ってのは、賢女みたいなもの?」


「賢女? オークの村の? 似たようなものかしら。イゼリックさんはお爺さんだけどね。」
イェアメリスは肯定すると、ブラッキーから木の実を取り上げた。「これは食べ過ぎると、舌がしびれるわよ」


「上陸したならず者たちに、まさかやられてるってことはないよね?」


「ブラッキー。物騒なこと言わないで」
そういって彼女は、慌てて振り向いたが、テントの確認はアスヴァレンが既に済ませていた。


「ここに関しては大丈夫だろう。荒らされた形跡がないし、たき火も新しい。夜明けまでここに居たようだな」


「もうちょっと早く来ればよかったかな? クモ退治に手こずっちゃったしね」
ブラッキーはそう言うと、イェアメリスを見て笑った。


「そういえばお前たち頼まれていたな。もう済んだのか?」


「うん。それがね・・・」


丘を下りながら、ブラッキーは面白おかしく、アガルド農場の地下室での出来事をアスヴァレンに語ったのだった。



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・・・




「そういえば、アスヴァレンのにいさんは、魔法詳しい?」
小船を停めた浜まで下りてくると、ブラッキーがだしぬけに言った。


「うむ? どうかしたか?」


「ボクは魔法からっきしなんで、判断しようがないんだ・・・」
ブラッキーは、イェアメリスの方を指さした。


「どういう意味よ?」
イェアメリスは自分に矛先が向いたのを見て、いやな予感がした。


「大抵のことは大抵の者よりも分かっているつもりだが。・・・で?」

「ちょっとメリスねえちゃんの魔法見てやってくれない? さっき話したやつもそうなんだけど。魔法の分からないボクでも、確認しておかないとまずい気がする、ということだけは分かるんだ・・・なんか凄いのか、凄くないのか分からないけど、とにかく凄いんだよ」


「支離滅裂だな」
アスヴァレンは苦笑すると、彼女に向き直った。


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「見てやろう・・・で、何の呪文が使えるんだ? やってみろ」


「じゃあまず。灯火の呪文・・・」
気が進まない様子で、目の前に浮遊する光の球を呼び出す。


「普通だな。・・・特に問題はないと思うが?」


「本番はここからだよ。次、次」
ブラッキーはアスヴァレンの前で指を振った。


「メリス姉ちゃん、狙うのはあっちね」

ブラッキーは浜辺の外れにある、流木を指し示した。


「あれだけ離れていれば大丈夫だね。アスヴァレンの兄さんも、念のため離れたほうがいいよ。」


「大げさだな」


「まあ、見たらわかるよ、ボクの言うこと聞いておいてよかったって」

ブラッキーはかなり遠めの的を指定した。

あそこなら大丈夫かしら? と、イェアメリスは、手のひらが汗ばむのを感じた。
呪文の詠唱に入る。


手の上に生まれた小さな火種を放つ。
しばらく飛んで火の玉は、流木に命中した。


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ドウン!


腹の底から響く音を立てて、そこで火球は巨大な火柱に変わった。


「うおっ‼!」


かなり離れていても、熱波が3人を打ちつける。
アスヴァレンが思わず声を上げtしまうほどの熱だと光だ。
火柱が消えるのを、イエアメリスは我がことながら茫然と、ブラッキーは面白そうに、それぞれ眺めた。


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「むぅ・・・これが火炎の呪文、だと・・・」
平静を装っているが、アスヴァレンも明らかに興味を引かれているようだ。


「ね、大したもんでしょ?」

驚いて飛び退ったアスヴァレンを支えて、なぜかブラッキーが自慢げだ。


「すごい威力だよね」


「アズラにかけて・・・、他には?」


「まだやらなきゃならないの?」


「ねえちゃん。せっかくだから、全部見てもらったら?」


「全部って言っても、あと知ってるのこれだけよ。シールドスペル」


「見せてみろ」


「はいはい・・・分かったわ。」
完全に見世物の状態に観念したように、彼女は別の呪文を唱えはじめた。


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ブゥン・・・


鈍い振動音とともに、掲げた手の前に透明な魔法の障壁が現れた。
アスヴァレンはそれを見ると、眉をしかめて言った。


「おい、アズラにかけて、それのどこがシールドスペルだ?」


「しっかり出てるじゃない。・・・これ、結構疲れるのよ?」


「それは刀剣には全く効果がない。そんなもの構えても、斬られたら終わりだ・・・」
アスヴァレンは馬鹿にしたが、その口調に含まれた感情はどちらかというと驚きだった。


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「え~、そんなぁ・・・」
イェアメリスは肩を落とした。


しかしアスヴァレンは、内心驚きながら、非常に興味を掻きたてられていた。彼女の呪文からはものすごいマジカが感じられる。とても20台半ばの小娘が扱うものとは思えなかった。
単純な火炎の呪文というが、火炎の呪文で普通火柱などは立たない。威力だけでいったら達人級だ。
シールドスペルだと言って展開した防御幕は、驚いたことに、より上級の呪文であるスペルカウンター・・・魔法反射だった。
そもそもこの呪文はギルドで学習できる体系などには含まれていない。習得している魔術師もほとんどいない。心当たりといえば、モロウィンドで彼が名を連ねる大家の高僧ぐらいのものだった。


「・・・、お前その魔法をどこで身に着けた?」


「ソルスセイムよ?」


「・・・」アスヴァレンは軽く首を振った「質問を変えよう。誰に習った?」


「灯火と火炎は母さんよ。それからシールドスペルは爺やに」


「爺や?」


「ええ、ネロスおじいさん」


「何?!」感情の起伏に乏しいアスヴァレンも、さすがにこの時は声を上げて驚いてしまった。


「アズラにかけて、マスター・ネロスだと!」


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ネロスはモロウィンドを支配するかつての五大家の一つ、テルヴァンニ家稀代の魔術師だった。


世間一般には、大家の宮廷魔術師のように思われていたが、彼は人と交わることを好まず、どのギルドにも属さず、ソルスセイムのテル・ミスリンに自らの研究塔を建て、独自の研究を続けているという。


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あらゆる魔術の分野に精通しているため、弟子入りを希望する者は後を絶たない。ただし、研究至上で、常識をというものをほとんど解さないため、性格についていけなくなり、長続きした弟子はほとんどいないという。


他にも眠らないとか、ダンマー伝説の英雄ネレヴァリンと親交があるとか、禁忌である黒の書を所有しているとか、常人とは一線を画した様々な噂に彩られている人物だった。


「おじいさんのこと知っているの?」


「当たり前だ。モロウインドで知らぬものはいない」


アスヴァレンはノルドの派生であるスコールの一族としてこの世に生を受けた。ただし、ダンマーとの混血として。・・・もう忘れてしまったが、たぶん、第3紀の早いころだ。母親はテルヴァンニ家の出身だった。


生まれながら魔術の才能に恵まれていたが、スコールの部族社会になじめなかった彼は、母方のテルヴァンニ家に迎え入れられ、その末席に名を連ねることになった。
彼は若いころ、評議員の候補として、一時的にバレンジア女王の宮廷に上がることもあったが、結局、政治よりも錬金術に興味が向かい、魔術・錬金の分野で学者としてその才能を発揮するようになっていったのだった。


第3紀最後の年・・・今から200年前、オブリビオンの動乱が起きた。モロウィンドも例外ではなく、他の地域と同様デイドラ大公メエルーンズ・ディゴンの軍勢の侵攻を受けた。


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そんな中、ネロスはテル・フィルを治めるマスター・ウィザードであるディバイス・フィルと手を組み、テルヴァンニ家の若いウィザードたちの中から、見どころのある連中を集めた。
錬金術を研究していたアスヴァレンも、ネロスの目にとまり、その一員に加えられていた。


「マスター・ネロス・・・忘れるわけもない」
彼はひとりごちて、思い出し笑いを浮かべた。


祖国の防衛・・・結果としてはそうなった。
門から戻ると、彼らは英雄としてヘルセス王、バレンジア女王から称えられた。・・・それを見て内情を知るアスヴァレンは苦笑したものだった。


ネロスとディバイスに率いられたダンマーのウィザードたちは、門をくぐってデッドランドに乗り込み、嬉々としてドレモラを狩りまくったのだ。・・・デイドラの心臓・・・そう、錬金魔術の素材のために。
真偽のほどは定かではないが、余りの被害の大きさに、ディゴン卿も見過ごせなくなって、モロウィンド方面のゲート開通を減らしたという。それが結果として祖国を守る結果となった。


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デイドラが不死不滅の存在でなければ、乱獲のために種族絶滅していたところだ。それほど苛烈な狩りであったという噂・・・そのうわさが真実であることを、参加した彼は知っていた。


以降、ネロスとのつながりは無くなったものの、その時の記憶は厭世家で達観主義のアスヴァレンの人生の中でも、色鮮やかな出来事の一つとして記憶されていたのだった。


そのネロスを、まさかの「爺」と呼ばわりする娘が、目の前にいる。
彼の基準で言ったら、僅か二十数年しか生きていない小娘だ。
さすがに驚きを禁じ得なかった。


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「母さんは、ネロスおじいさんの助手だったの」


アスヴァレンは、記憶を手繰った。ネロスは僅かだが助手を取っている。覚えている範囲では、たしかイルダリとか言うダンマーの女弟子が居たはずだ、あと、タルヴァスとか言う若造も居たか・・・。


「お前はダンマーの血を引いているようには見えないが、イルダリの娘なのか?」


「イルダリ? 女魔術師の? ・・・知っているけど、その人じゃないわ。さっきのお墓に眠ってるの。母さんの名前はイリアンと言うの。アルトマーよ」


彼女はいま下ってきた丘を見上げるように、指し示した。


生まれ故郷から900リーグも離れたこの島の、こんな浜辺を探索中に家族の話が出るとは、想像もしていなかった。大きなキノコの塔での団欒の思い出。今でも小屋でお茶を飲むときによみがえる記憶を、彼女は反芻した。


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「懐かしいわ。あたし、よくおじいちゃんに、カニスの根のお茶を淹れてあげたのよ。午後の決まった時間によく母さんと、おじいちゃんと、タルヴァスさんと、セロおじさんでテーブルを囲んだものだわ」


「セロとも知り合いなのか?」


「え? おじさんのこと知ってるの? あたしの育ての親よ」


「驚いたな・・・」


モロウインドの要人の名前が次々と出てくる。
アスヴァレンはあっけにとられて、素直な感想しか口にすることができなかった。


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おいてけぼりにされたブラッキーが、アスヴァレンにたずねる。


「なんかよく話が飲み込めないんだけど・・・、要するに、ねえちゃんの家族はすごい人たち、ってこと?」


「・・・うむ。偉大な魔術師マスター・ネロス、傭兵テルドリン・セロ、この2人はダンマーの世界ではかなりの有名人だ」


「ねえちゃん、すごい人だったんだね!」
興味をそそられたというように、ブラッキーも乗り出した。


「しかし不思議なこともあるものだ。偶然立ち寄ったブレトンの島で、ここまで故郷に縁の深い話を聞こうとは・・・」

「それに・・・まさかこの島で、スジャンマ飲めるとは思っていなかったでしょ?」
イェアメリスが笑いかける。
「あれ、セロおじさんの忘れ物なのよ。同じ船で来たのに、気がつかなかったの?」


「そうなのか?」


「おおかた、あんた周りなんか気にせず、本ばっかり読んでたんでしょ?」


「・・・」


その通りだった。


「それで、彼はどうしたのだ? 酒場では見かけなかったが・・・」
イェアメリスはため息をついた。


「あきれた・・・何回か酒場にも顔出したわよ。まったく意識してなかったのね。今は同じ船で次の港に向かってるわ」


「そうか、惜しいことをした・・・彼なら、俺のまだ行ったことのない土地のこともいろいろ知っていただろうに。いつか話を聞いてみたいと思っていた」


「・・・なんかあんた、おじいさんそっくりだわ。テルヴァンニの男って、興味があるものにしか意識払わないでしょ? もうちょっと世界を見たほうがいいわ」
恐れ知らずの25歳の娘は、齢200を超える錬金魔術師に説教してみせた。


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「ということは、知らずして、俺はモロウィンド最強の傭兵と酒を分け合っていたわけだ。光栄なことに」


アスヴァレンは苦笑した。確かに、船旅の間の記憶は殆どない。ずっと本を読んだり、研究を反芻していたような気がする。セロの件のように、見落としてきた機会が他にも無かったとはいえない。


「お前のいうとおりかも知れんな・・・まあ、研究以外では、スジャンマと本があれば、十分だというのを否定はすまい」


「へぇ・・・、あなたにしては、ずいぶんと素直じゃない? もっと突っかかられると思っていたわ」


「何故だ? そんな必要はない。・・・研究者は事実に基づいて判断するものだろう?」
アスヴァレンは苦笑すると、その赤い目を彼女に向けた。


「俺をどう見ているんだ」


彼自身最近は、あえて人と関わってこなかったのもあるが、ここまでいろいろと感情をぶつけてくる相手は久しぶりだ。最初のころに感じていた煩わしさが、少しだけましになったことを彼は認めていた。


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「しかし驚いたな、あのネロス翁に「孫」がいたとは・・・彼も人の子ということか」
上から目線の小娘を観察する。
「うむ・・・まったくしっくり来ない」


「そんなこと言っても、本当なんだから仕方ないじゃない。研究者は事実に基づいて判断するんじゃなかったの、せんせ?」


「違う。マスター・ネロスではない。お前だ、お前。しっくりこないのは」


「え? え? 何?」
急に矛先が変わった。


「まったく・・・あの2人を師に持って、一体なにをどう間違えたら、そんな風になるのか理解できん・・・」


「・・・え・・・あ・・・何ですって?」
イェアメリスはつばを飲み込んだ。


「剣も魔法も扱えない、錬金術も・・・まあ、あれは数年ごときでは、この程度にしかならぬか・・・」
半ば独り言のように、彼はつぶやいた。


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(むぐっ・・・全否定・・・)


彼女は裁きを受けるもののように頭をたれたが、やがて取り直して


「あ・・・あたしはほとんど魔術の勉強をしていないのよ。5歳でこの島に着たんだから!」


半ば言い訳をするように、言い放った。
「それに、母が助手だったからといって、あたしの先生というわけじゃないもの」
イェアメリスはもじもじした。


「今の先生は誰でしたっけね? あたしが不甲斐ないのはその人のせいじゃない?」


「ひどい言いがかりだな。魔術は教えてないはずだが・・・」


「メリスねえちゃん、口達者だから・・・」

ブラッキーが言うと、アスヴァレンも同意とばかりに苦笑した。
「まあ、またスジャンマ持ってきたら、呪文の一つぐらいは見てやろう」


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「ちょっとあんたたち! 今日の目的を忘れているんじゃなくって? 島への上陸者、周辺に潜んでいるものがいないかを探すのが、あたしたちの任務よ?」


彼女は少しむくれると、話は終わりとばかりに、小船に向かってすたすた歩き出した。


「さっ、もう行くわよ。ほら、ブラッキーも来ないと置いてくわよ」


「あっ・・・なんかボク、八つ当たりされてる感じ? まってよ~」


3人は、再び船に戻って哨戒を続けることにした。

続いて船に乗り込むイェアメリスを観察するように、アスヴァレンはしばし彼女を注視していた。


(あの規格外のマジか・・・マスター・ネロスの元に居たというのであれば・・・、いや、それだけで・・・?)


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しばらくすると、切り立った崖が現れ始め、その先に北の塔が姿を見せた。
北の塔には領主の部下であるエルヤー隊長の部隊が駐屯している。


小船をしばし泊めると、身軽に乗り移ってきた隊長と情報交換する。
短時間のやり取りのあと、今のところこの辺りに上陸者はいないことが確認された。


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イェアメリスが、櫂を操りながら声を上げる。

「どうする? これで島の東側は全部見たけど、もう少し進んでみる?」


「ねえちゃん、まだボクら小島にもたどり着いてないよ」

ブラッキーは手ぶらであることを強調するようにぶらぶら振って見せた。


「・・・そうね、素材も獲ってないし、何か収穫が欲しいわね」


アスヴァレンももちろん同意だったので、塔を回り込んで、北の海岸線をもう少し西に行ってみることにした。


「ちょっと、ブラッキー、寝ちゃだめよ」

少し風が出ていた。西進する小船の上で、白い波頭を眺めながらブラッキーは、変化の乏しい移動にまどろみかけていた。
「海岸線を警戒するのが仕事でしょ、はい、次あんたの番」


「はーい・・・」


大きく伸びをすると、船首に立ち手をかざす。

少し進んだのち、少女はまぶしい光の向こうに、小さな島を発見した。


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「あ、ねえちゃん、見えてきたよ。あれが言ってた島?」


島の北側、モック村の先の海岸沖に、その島はあった。
島というより陸地の一部、丘のてっぺんが本島から孤立したといった感じの小島は、緑に覆われている。


「あれ? なんかウサギの姿が見えたような気がするんだけど・・・」
ブラッキーは上陸に備えて、船にブレーキをかけ始めた。


「気のせいじゃない? 島から離れているわよ。海は渡れないでしょ?」


アスヴァレンは別の生き物たちを見つけていた。


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「ほぅ・・・こんな暖かいところにもホーカーが住んでいるんだな」


小島は細長い形をしており、ホーカーの生息地になっていた。陸地に見えるだけで10頭はいるようだ。


ブラッキーは、ホーカーたちを刺激しないように、小島の外れに船をつけた。


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「哨戒任務とは関係ないけど、ちょっと寄り道してみましょ」


イェアメリスも、この島の存在は知っていたが、上陸するのは初めてだ。
小船があると活動範囲が広がる。これからもいろいろ行こうと考えていると、アスヴァレンが女性たちを手招きしている。


呼ばれて行ってみると、そこは石柱が立ち並んでいる草地だった。
明らかに人工物。キルクモアにも古代の遺跡は幾つかある。本格的な建造物ではなく、ブレトン移住前の、どちらかと言ったら土着の自然信仰のための祭壇や祠といったものだ。


島のあちこちでよく見かけるのが、数本の石柱を円形に配置した祭壇・・・の囲い、のような形。
先ほど母の墓があったところに立っていた石柱とよく似ている。


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本島から切り離されたこの小島にも、その石柱があった。かつては陸続きだったのかもしれない。


アスヴァレンは石柱をなでたりして観察を始めた。
ブラッキーは、石柱の周りの地面を突っついたりしている。


(まるで子供みたい。それか・・・学者と助手のようね・・・)


イェアメリスは微笑みながら、少し離れたところでその様子を見守った。
そろそろ日は中天に差し掛かる。


「調べなくても、この石柱の意味はもう分かってるわよ」
イェアメリスは2人に声をかけると、空を見上げた。
日光が降り注ぐ石柱が影を投げかけている。日時計になっているのだ。


「じゃあ、ねえちゃんはこれ知ってた?」


ブラッキーが自慢げに手招きしている。


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少女は石柱の間の土を少しどけたみたいで、その隙間から、蓋の取っ手らしきものが姿をあらわしていた。


「なにかしら、これ・・・」


「落し蓋ようだな」


「大丈夫? 誰か昔の人のお墓とか・・・?」


「周りの日時計と関係ある?」

ブラッキーは蓋の上の土草を払いのけながら、アスヴァレンを見た。


「いや、それはないだろう」

蓋は、それほどダメージを受けておらず、比較的最近に作られたものであることが伺われた。


「そういう類の遺跡ではなさそうだが、わざわざ日時計の場所に作ったいうことは、場所に意味があるのかも知れぬな」
ブラッキーに目配せすると、少女は頷いて蓋を引っ張った。


「入ってみるか」


「気をつけてね・・・」


3人は身をひねるようにして狭い入り口から地下に降りて行った。




・・・




てっきり洞窟か何かに繋がっているという想像は、あっさりと裏切られた。

石柱の下の空洞は・・・驚いたことに、しっかりとした部屋であった。


カビ臭いにおいに3人はしばらく顔をしかめたが、慣れてくるとそれほどでもない。

数人は収納できる、イェアメリスの小屋と同じぐらいの広さだった。


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壁の燭台に火を移し、明かりを確保すると、彼らは部屋をよく観察した。


家具や人の住んでいた痕跡は何もない。もぬけの殻の部屋、といったほうがしっくり来るかもしれない。

しかし、明らかに異常だった。・・・奥の壁の表面に光の渦が瞬いている。


光の渦は周囲の空間を歪ませている。

ブーン、という低い音が部屋には充満していた。


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「これ、何かしら・・・?」


空間のゆがみに近づいて観察する彼女を、アスヴァレンはたしなめた。


「何が起こるか分からん。不用意に近づくな」


アスヴァレンが注意した矢先、手を伸ばしかけイェアメリスは叫んだ。


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「きゃっ!」


彼女はバランスを崩し・・・、吸い込まれてしまった!


「おいっ‼!」


「ねえちゃん‼!」


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取り残された2人は、彼女の消えた先を呆然と見ることしかできなかった・・・。



(つづく・・・)




※使用mod


・キルクモアの地図 ・・・前に紹介したHaafstadにワールドマップがありませんでした(前バージョンまで)。

 また、今後のシーンでいろいろ使いそうなので、tfcで飛び回って海岸線を自分で描いて作りました。

 最新版のHaafstadにはワールドマップが追加されたそうです。

 アガルドのクモ退治は、modに含まれているクエストの中の一つです。


・The Elder Scrolls IV - Oblibvion ・・・オブリビオン・クライシスの画像用に使用しました。


・Melt in the Mouth - Sweets Resources ・・・Elzaさんの可愛くてきれいなお菓子modです。またまた使わせていただきました^^
・teacup ・・・織さん作の紅茶の食器セット。Elzaさんのお菓子ととてもよく合います^^

・Unslaad ・・・クエスト職人Vicnさんの新作。今回は服を使わせていただきました。


・Portal - Dynamically Placed Teleportation ・・・謎の部屋のポータルはこのmodで作りました。

 応用範囲が広く、攻撃/防御に、移動/輸送に、トラップ/避難に、アイディアしだいで大化けします^^
・Sailable Ships of Skyrim ・・・今回大活躍の小船です。乗せてしまえばフォロワーも一緒に船旅できます。
・Colorful Magic ・・・魔法/装備/中ボス追加の有名なmodです。今回のイェアメリスの呪文はここに含まれるものを使っています。
・Flower Power ・・・花冠を追加。本来はアクセサリ装備なのですが、捨てたとき(地面に置いたとき)の

 グラフィックがしっかりしていて、オブジェクトとして扱えます。お墓の花をこれで表現しました。


・Bathing in Skyrim ・・・汚れ/清潔と入浴のハードコアmod。いろいろ試しましたが汚れのテクスチャが一番しっくりきたこれを愛用してます。

 顔も身体も装備も(!)、しっかり汚れるので冒険している雰囲気が出ます。今回のクモ退治の煤汚れと、入浴シーンはこのmodで実現しています。


・Shard of Oblivion WIP ・・・オブリビオンの世界のスクショはこれを利用しました。非常に雰囲気あるmodです^^
・Solstheim Landscape Overhaul ・・・ソルスセイムの景観は、このmodで整えた上で、微調整しています。灰がすごく灰になります(?)^^;


・jbNPC ・・・NPCのコール、NPCへのリコール、MAPマーカー登録などを行えるmodです。

 非常に安定していて、RPで必要になる町の人などを道すがら登録しておき、必要なときに呼び出して出演させるのに重宝しています。



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2 Comments

magmel  

読み進めていたら突然のサービスカット、ちょっと驚いてしまいましたw
イェアメリスさん、視聴者に大サービスですね(*ノノ)

それにしても、彼女の爺やがネロスだったなんて!
その気になれば偉大な魔術師にもなれそうな予感が…。

この終わり方、いいですね~。次回が非常に気になります。
次の更新も楽しみに待ってます(*・ω・)ノ

2016/12/03 (Sat) 22:25 | EDIT | REPLY |   

もきゅ  

温泉回ですねw

magmelさま、コメントありがとうございます(*´ω`*)

汚れmod試してたら ← こっちが本命ですよ、ですよw
お風呂機能も付いていたので、話の間に挟んで、なんかマンガによく出てくる温泉回みたいになっちゃいましたww

ネロスとセロが好きなキャラなので、奴ら子育ては絶対できなさそうだけどw、何らかの形で出してやろうとこねくり回しました。また先で出番ありますv-21

2016/12/04 (Sun) 18:25 | EDIT | REPLY |   

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